今年も当作と私をよろしくお願いいたします!
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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も書き終えましたので投下します。
ぜひ最後までお付き合いください……!
「えへ〜。圭ちゃん、最近は自分から手繋いでくれる様になったよね。ちょっと前まで手を突かないと繋いでくれる気配すら見せてくれなかったのにさ。どういう心境の変化?」
「陽菜乃には支えて貰いっぱなしだからな。こんくらいしか返せる方法が思いつかないんだ、まだね」
「え〜?もっと簡単に返せる方法あるよ?圭ちゃんが私限定で使える返済プランなんだけど、契約する?」
「なんでこの前から地味に契約で縛ろうとしてくんの。この前は2年縛りとか携帯みたいなこと言い出して今回は借金取り?」
「ふっふっふ、こうしている間にも圭ちゃんの借金は溜まってるのさ!年1返済で75分割で支払えるプランあるけど?」
「75年かけて返済しろと……。払い切る前にワンチャン死んでるだろそれ……。そうなる前に完済す————いでぇ!?」
陽菜乃からの無茶なプランにいつもの軽口を返そうとしたら、突如として陽菜乃がいない方の脇腹から激痛が走る。
完全に気を抜いてたので不意打ちだった。無防備だった脇腹に鋭く突き刺さる細い何かが2本。
「おはよ、乃咲、倉橋さん」
「カエデちゃん、おっはー!」
マロに不意打ちを仕掛けよった下手人は平胸盛であったでおじゃるか。まこと、油断も隙もなきことよ。
いや、まぁ、冗談はさておき。もはや殺せんせーより超生物してる俺に不意打ちでダメージを与えるとは……。さては茅野も超人の部類だなぁ?とかとりとめもなく考えてみたり。
「おはよう、茅野」
「うん、おはよ、クソボケ乃咲」
「初手から辛辣過ぎないか?」
「流石に倉橋さんが可哀想だもん。告白保留されてる上にプロポーズ紛いのセリフまで言ってアピールしてるのに」
「ちょっ!?説明しないでよっ、恥ずかしいじゃん!」
「乃咲ってほんと鈍いんだから……。ここぞって時にしかパーフェクトコミュニケーションできない呪いでも掛かってる?」
「いやいや。俺ってばコミュ症ぞ?そんなパーフェクトコミュニケーションとれるなら今頃モッテモテだったっしょ」
「モテてるよ、私から」
「……ちなみに気になってる女子もいるよ、少なくとも1人」
「ほぇ〜。元不良でファザコンでワーカーホリック気味な上に強化人間おポッチャマ系男子がねぇ。陽菜乃はともかく、その気になってるって子も相当な物好きな様で」
「フンッ!!」
「いでぇぇ!!?」
「今のは圭ちゃんが悪い」
茅野から痛烈な一撃が来た。流石に失言だったか……。
茅野がこんな一撃をくれるレベルで怒るんだから、その気になってくれてる子ってのは彼女と親しいとかだろう。
つか、それってもしかしてE組のメンバー?あれ、俺ってばモテ期きた?やぁーんどうしよ〜!
「まったく……イチャイチャしながら登校してるのを後ろから見せつけられる側の気持ちも考えて欲しいよね」
「声くらいかけてくれていいのに」
「告白した子が告白保留してる奴にアピールしてる現場に割って入れるのは相当なメンタル強者かただのKYだよ」
「久々に聞いたな、KY」
「シャラップ!もう……。通学路、それも自分の前でイチャつかれると困るんだよ?さっきも言った通りに声も掛けずらいし、かと言って無言で抜かしていくのも気まずいし、別の道使うのも負けた気分になるし……。なにより、まだ付き合ってないんだよね、この2人って複雑な気分になるし。割って入りたくなるし、色々としんどいよ」
「……そんなしんどくなる?」
「っ、聞こえてたの!?」
「まぁ、強化人間ですので」
茅野の意識の波長が突然乱れた。
これは……照れてる?いや、恥ずかしがってる?なぜ?
「いでっ!!?」
首を傾げると、脇腹を抓られた。
視線を向けると、今度は陽菜乃に攻撃されていた。
「陽菜乃さん?痛いのですけど……」
「ばーか」
解せぬ!俺ってば全国一の浅野学秀くんと同点の椚ヶ丘学園主席ですよ?それも全教科満点とかのテストがテストの体を成していない実力測定ではなく、かなりの接戦を繰り広げてる。
俺を馬鹿呼ばわりできるのは学秀以上の成績がある奴だけだ!……とか言ってもいい事はなさそうだから言わないけど。
横から脇腹を刺され、反対から脇腹を抓られながら歩く両手に花な通学路。誰か変わってくれ。
女子2人のペースに合わせて歩き、学校の敷地に入ると本校舎の連中やE組の仲間たちからも奇異の目で見られる。
ふんだ。こちとら不良時代のあれこれのお陰でこんな視線痛くも痒くもないもんね。脇腹は痛いけど。
あちこちから聞こえる金槌の音とワイワイガヤガヤという声で賑わう校舎を横目に俺たちは歩みを進める。
しかしながら、そろそろ学園祭だというのは分かるが、始業前だと言うのにご苦労なこった。
「……あれ、なんかすごい活気付いてる?」
そんな喧騒に気を引かれたらしい茅野が視線を向けた。
そう言えば、彼女は今回が初参加か。となるとこの光景は珍しいものなのかもしれないな。
「もう直ぐ学園祭だろ。うちのはかなり大々的にやるから本校舎の陽キャ共は気合い入ってんだよ。何処ぞのパリピ生徒会長とかな。アイツのはしゃぎ具合はダンチだ」
「あー、確かにね」
「……何やったの、浅野くん」
「友達のアイドル呼んでライブやったり、1人でモザイクアート作ったり、『ちょり〜っす、俺がガンダムだ!』とか言いながら黒いノートに一心不乱に何かを書き込んだり、逆回転する電子レンジにバナナを突っ込んでゲル状にして高笑いしたり」
「なにそれ怖い」
「でも、なんだかんだ楽しい行事だよね」
「「そうなの?」」
「何で圭ちゃんまで首傾げてるの!?」
「いや……。去年とか普通に周りから避けられてたのと俺が周りを避けてたのが相まって居場所がなくてさ。あんまり人が来ないトイレの個室に籠ってネット小説読んでたわ。終わるまで」
「うぅっ……圭ちゃん……。今年はずっと一緒だからね!」
「乃咲っ、辛いことがあったら私に言ってね、味方だから!」
「やめろっ!その哀れみの目を俺に向けるんじゃないっ!」
女子2人からの生暖かい視線を外そうを踠く。
だって仕方ないじゃないか。ちょうど人間不信真っ只中だったし、学秀は俺を無理やり引っ張って人混みに入ろうとするし、カルマは不良からカツアゲしてるし。
友達いない、クラスでも浮いてるって奴がイキイキするにはハードルが高いイベントだよな。
「んまぁ、俺の話は置いておくとして。うちの学園祭は結構盛り上がる。中高合同でガチの商売合戦をするからな。それも周りの企業が見に来るくらいハイレベルなの。椚ヶ丘の学園祭でトップを取りましたって就職でアピールできるくらいだし、実際、高3が優勝した時は面接で『あぁ!3-Aで喫茶店やってた子だよね、あの接客は我々も顔負けだったよ。あの熱意をここでも活かしてね、採用!』って決まったことがあるらしい」
「すごっ!?そんなに!?」
「そ。それにクラスの運とかもあるだろうけど、1回トップ取っただけでそんなアピールができるんだ。上手く立ち回って中高の6年間トップを取りました!とか出来たら周辺企業の採用試験で落とされる事はないだろうな」
「うちの高校、国内有数の名門でネームバリュー凄いし、全体の経営権もってる理事長が勉強する姿勢を何より大事にする人だから高校とかだと資格取得の支援とかもしてくれるから書類選考で落ちることも滅多にないしね。学園祭でトップを取れれば、就職にめちゃくちゃ有利なんだよ」
「ほぇ〜。そりゃみんな真剣になるかぁ」
茅野が感心した様子で本校舎の生徒を眺めた。
しかし、今回は俺も真剣にやらざるを得ない。何せ、渚の母ちゃんに学校での渚を見てくださいとか啖呵切ったわけだし。ここで俺が手を抜くのは筋が通らないってもんだろ。
「それにね〜。普段、テスト以外でA組と競う機会がない、テストでもあんまり勝ち目がないって考えてる本校舎の生徒にとって、A組に下剋上できる数少ないチャンスでもあるから」
「倉橋さん、乃咲の卑屈さ移ってない!?」
「そうだよ、陽菜乃。本校舎のみんなだって頑張ってるんだから、そんな言い方めっ!喧嘩になっちゃよ」
「あれ、乃咲と倉橋さんの特性入れ替わってる!?」
「私はもともとこんなだし〜」
「俺もだよ?茅野ってば変なこと言うんだから。俺たちが頑張ってるように、本校舎のみんなも頑張ってるんだよ!」
「………乃咲が言うと嫌味っぽい」
「なんでや!?」
「ふふっ……。確かにね」
陽菜乃風の光属性を演じてみたが、やっぱり俺には合わないのか。それともシンプルに俺の人望がないのか。
両方だな、きっと。E組メンバー以外に対する人望は皆無って、いま嫌味っぽいって言った奴も同意した奴もE組じゃん。もともも人望がないと言うことでファイナルアンサーか。
「なぁなぁ、今回もE組なんかすんのかな?」
雑談しながら歩いていると、俺たちに対する話題が耳に届いた。いつものE組を馬鹿にする感じの声音ではないことに珍しさを感じながら、何となく耳を傾けてみる。
「今年のアイツら妙に爆発力持ってるじゃん。今度は売り上げでA組に勝ったりして」
「確かに今年のE組は一味違う感じがするのは認めるけどさ。流石に今回ばかりは無理じゃないか?」
「なんでよ?磯貝と片岡って何でE組いんのってレベルで優秀だし、神崎さんとか矢田とか倉橋とか可愛い子もいるし、奇抜なことやらせたら一番な菅谷とか力仕事得意そうな寺坂もいるじゃん。癪だけどさ乃咲と赤羽もいるし、ワンチャンあるだろ?」
「だって考えてみろよ。アイツらだけあの山の上で店出さなきゃいけないんだぜ?俺たちみたいに隣の店から流れてくるとかも期待できないし、第一、あそこまで行く客なんていないだろ」
「あ……確かにな。言われてみりゃそうか」
「そういうこと。それに浅野くんもいるんだぜ、
「それに中間テストボロ負けだったじゃん。……乃咲と赤羽には俺も負けたけど。でも、やっぱり地力はそんなもんだって」
「いやいや、わっかんねーぞ?」
今年の恒例行事みたいになってきたA組vsE組。
意外とE組がいい結果を出すと予想している奴らがいることに驚きつつも、俺はうちのクラスでやれることを頭の中で考え、A組というか、渚母というか、全校生徒をギャフンと言わせるための作戦を練り始めるのだった。
「と、言うわけで。今年のA組に死角はない!体育祭、テストなどなど色々と本校舎の生徒はE組に負けがちだったが、今回こそ完膚なきまでに叩きのめしてやるっ!いいか圭一、勝つのは僕だっ!売り上げ1位を掻っ攫って『計画通り』と呟いてやる!」
「はいはい……。分かった分かった。情報提供どーも。お帰りはあちらになりますんで」
「ふはは、あなたがどんな策を彼らに授けようとも僕は負けないっ!最後に立っているのは僕らA組だっ!さようなら、殺せん——おぼふ」
顔をドアに挟んで言葉を紡ぎきれてない学秀を尻目に目を離してため息を吐く。わざんざこんな山を登ってきてまで我らが生徒会長は宣戦布告しにきたのだ。『スポンサー契約して飲み物、食べ物は俺ら使い放題なんで負けねぇわ!』とわざわざ。
「ほんっと、祭りごとになるとコミカルになるんだから……。もうちょい落ち着きを覚えてほしいよな」
「祭りってかお前が絡んでる時というか、お前と絡んでる時っていうか。まぁ、いいか。似たようなもんか」
「浅野と乃咲のじゃれあいは一旦放置するとしてよ、どーする?このままだと夏の期末と似たような展開になりそうじゃね?ならないにしても……何もせずに負けるの嫌だな」
杉野の呟きに殺せんせーが振り返る。窓の外を見て、学秀の後ろ姿でも見送ってるのかなぁ、と思っていたら、振り返った彼の口やら目やら鼻には棒突き団子が無数に刺さっていた。
「ヌルフフフフ、それはもちろん勝ちに行きます」
「かっこよくねぇからな!その振り返り方!」
「つか、痛々しいからやめて欲しいんだけど」
俺たちからのツッコミなど、どこ吹く風。
殺せんせーはいつもの調子で俺たちに道を示した。
「今までもA組をライバルに勝負することで、キミたちはより成長することができました。この対決、勉強と暗殺以外のひとつの集大成になりそうですねぇ。楽しみです」
「……集大成?」
「その通り。キミたちがここでやってきたことが正しければ、必ず勝機が見えてくるはずです」
俺たちがこの1年で勉強以外と暗殺以外で学んだこと。
思えば、俺たちが何かに足を取られる時ってのは何かと事前準備が足らなかった場面が多かったっけ。
一番初めの失敗は最初の中間テストだろう。テスト範囲をズラすという理事長の妨害で俺たちは苦渋を舐めた。
俺たちの準備不足ではないが、事前準備の入念さでは夏の鷹岡は凄まじかった。こちらのプランを把握し、殺し屋、ホテル、毒まで手配していた。あれが本当の毒だったのなら、俺たちは鷹岡の事前準備の入念さによって殺されていた可能性すらある。
松方さんの時もそう。事前に言われていたことを守ればそもそも発生しなかったし、飛ぶ前に足元を確認しておけば防げなくもなかった。言い訳しようもない。
死神もそう。あんな大掛かりな施設を準備して、俺たちや殺せんせーの力を可能な限り削ぎに来ていた。
そう思うと、事前準備で自分の力をいかに発揮し、相手の力をいかに削ぐのか。それが戦略の面では目立つな。
ここから導き出される結論は————。
「害する努力を忘れず、俺たちの得意を押し付ける」
「お、惜しい……!前半を、前半を削ってくれれば実に先生好みの考え方でしたっ!いや、一概に間違いとも言えませんがっ!」
「頭理事長かよ。なんだ、害する努力って」
「いや、頭理事長は一周回って褒め言葉じゃ?」
「頭が回るキレ者って意味でならな。策謀を巡らすって意味では普通に罵倒の部類だと思うけど」
「お前ら失礼すぎないか……。確かに俺が悪かったけどさ、そんな理事長を悪し様に言う必要ないじゃんか……」
「普段から魔王扱いしてる奴が何言ってんの……」
方々からのツッコミを受け止めつつ、それでも俺は割と真剣に考えていた。流石に害する努力なんてのは7割冗談だが、害するとまだは行かなくても他のクラス、それも高校生徒たちも含めて何の店を何を出すのか知る必要はあるだろう。
「でも、そうでもしなきゃ勝てなくないか?乃咲とか理事長じゃねぇけどよ、俺らこんな山ん中にいるんだぜ?」
「まぁ、それもそうよね。それに、学園祭の単価はクラス関係なしに単価の上限が決められてる。店系は300円、イベント系は600円。そんな売値で儲けを出せる範囲ってなると、やれることは限られるし、それっぽっちの売値で儲けを出しつつ、こんな山の中にわざわざ客を呼ぶ方法って相当しんどいわよ」
「実際、妨害は冗談にしても俺は吉田と狭間さんの言う通りだと思う。一番のネックはこの地形だ。地形のせいでそもそも客を呼ぶのが難しいし、狭間さんの言う通り、単価の上限が決まってる以上はやれることが限られてる。限られてるってことは他の店と食い合いになる可能性が高いし、被ってもある程度は客の好みでなんとかなる本校舎と違って、俺たちは地形問題で距離的な問題で『こっちの方が好きかも』とかなっても『でも遠いしなぁ』で真っ先に切り捨てられちまうだろうな。そういう意味でコンセプトが被りやすい店系は厳しいだろうし」
「うーん……。確かに乃咲の言ってることも分かるけど」
「コンセプト被りがあったら消去法的に距離的な問題で除外されやすい店系は厳しい。かと言って、長距離移動して金払ってまで参加したくなるようなイベントって言われると難しくね?それこそA組の浅野たちがライバルだし」
「浅野くんたち、ライブやるって言ってたもんね」
「あぁ。アイツ、やたらと顔が広いからアイドルとかミュージシャンとか友情出演してくれるんだ。だから、同じ土俵で戦うのはかなり厳しいってか、現実的じゃない」
「キミたちの考えは間違いではありません。浅野くんは手強い。飲食物はスポンサーが無料で出してくれるし、イベント形式で尚且つライブならば会食スタイルで行けば人では清掃、ライブ運営、飲食物の補充だけで済む。儲けは大きいでしょう。この手のお祭りで大事なのは雰囲気とお得感ですからね」
「お得感?」
「えぇ。経験あるでしょう?お祭りの屋台に行ってみたら割高だった、とか。確かにその場の雰囲気でお財布が緩くなりがちですが、似たような店があるのならば、より安くてお得感のある方を取るでしょう?」
「確かに。私もそうするなぁ」
「なにも祭りに限った話ではありません。『この値段で、このクオリティ!?』といういい意味での驚きは印象に残り、リピーターを作り、そこから口伝で伝わり、お客が増えるのは先人たちが証明してます。経営はそこが要です」
「うーん。でも、俺たちが格安で高クオリティで提供できるものなんてあるか?奥田の怪しい薬も、竹林の爆弾も、イトナのガジェットも安くはないだろ。勝つ為に俺たちのポケットマネー使うのは違うだろうし」
「うふふ、なら、私がオトナの魅力を存分に……」
「乃咲、亀甲縛り」
「へい、仰せのままに」
岡野からの指示をコンマ数秒で完遂。
かなり緩くしたので苦しくもないはずだ。
「すっげぇ早業……」
「それに指一本と私に触れなかったわね、アンタ……」
「食い逃げ、万引きしたらこうなりますって対処の例はこんな感じで良いとして……。問題は目玉商品よね」
「岡野はもう少し突っ込もうよ……」
亀甲縛りにしたビッチ先生を教卓の上に置き、俺たちの出し物で目玉になりそうなものをみんなで考える。
「うーん。一回、私たちの目玉商品とかじゃなくて、お店の目玉商品とか代表的な売り物とか考えてみようか」
「そうだな。それがいい。速水は何か思い付くか?」
「私?そうだね……やっぱりそう言うのでパッと思い付くのはその地域で有名なお菓子とかだよね」
「仙台のずんだ餅、名古屋の小倉トーストみたいな?」
「そんなとこ」
「あっ、あとは特産品とか?青森のりんご、愛媛のみかんとか」
「確かにな。その路線で行くか?」
「でも俺らの特産品=椚ヶ丘の特産品とかじゃん。外からは珍しいだろうけど、客層はこの辺の住人だろうし、珍しいって感じないからあんまり意味なさそうじゃないか?」
「うーん。伝統の味!とかそんな感じで迫れば評価はして貰えそうだけど、そんなお菓子とか私は知らないなぁ」
「良くも悪くも都内だからな。色んな物が入ってるし、そういう地域限定の強みみたいなのは多くないよな」
「そうなるとかなりムズくない?」
俺たちは腕を組んで唸り始める。
唸って首を捻り、俯き、天井を眺めた。
「ふっ、アンタたち。ここにこんなに良い女がいるのよ?もっと方法なんていくらでもあるでしょう?」
「えぇ〜?でもビッチ先生で稼ぐって言ったら、そのイヤらしい身体を使って稼いでこい。とか言えば良いんスか?」
「圭ちゃんサイテー」
「冗談やて」
「ツーン」
陽菜乃がご機嫌斜めだ。
まぁ、俺も流石に今の発言はどうかと思った。
「……言ってみたくないと言えば嘘になるけど」
「乃咲サイテー」
「流石に本気で言わんて」
「フーン」
茅野がそっぽ向いてしまった。
流石に本気で言うつもりはないけどさ。
「ん〜。ビッチ先生に協力して貰うとしても客引きだよね」
「現実的に考えたらな。でも、効率は良くないよなぁ」
「んじゃ、女子も追加する?うちの女子って他のクラスに比べると顔面偏差値高いし。需要はあるぞ」
「…………」
「ぁ……。もう、圭ちゃん?」
「…………」
「…………乃咲、無言で倉橋さんの袖掴んでるね」
「なんでそこまでするのに付き合わないんだか」
「まだ付き合ってないからこそだろ」
うっせぇやい。
そして茅野はどうして無言で俺の脇腹を捻る?
「ヌルフフフフ。みなさんが迷走し始めてきたので、ここらでヒントをあげましょう。キミたちが出した特産品という単語。目の付け所が非常に素晴らしいです。この椚ヶ丘中学校の3年E組ならではの強み。それを押し付けることができればキミたちは戦えることでしょう。この一年でキミたちをここまで立派に育ててくれたスポンサーがいるでしょう?」
「そうか。防衛省……!鷹岡とかの不始末で強請って資材を調達し、この山の名物たる殺せんせーで上手いこと稼ぐ……!」
「乃咲くん?『そうか』ではありませんが……?」
「なんか乃咲が荒んでねぇか?」
今こうして一緒に学園祭について盛り上がってる相手を殺すかもしれないんだからそら荒むだろ。
無理にでもテンションを上げておかないとやってられねぇわ。ほんと、どうすりゃあ良いんだか。
「皆さんを育てたのは我々教師、確かにキミたちの本当の意味でのスポンサーである防衛省は勿論のこと。しかし、キミたちがよく学び、よく遊ぶことができる空間を提供してくれたのはこの自然です。彼らをスポンサーと呼ばずなんと呼びましょうか」
「……あ、確かにな」
言われてみると確かにそうだ。
殺せんせーがどうして俺たちの担任になりたがったのかは未だに分からない部分だが、彼のそんな無茶苦茶な要望が通ったのは、この本校舎から隔離された自然の中に俺たち専用の校舎があるからだろう。
そして俺たちが暗殺の訓練に打ち込むことができたのは、間違いなくこの環境のお陰だ。自然があるから俺たちに秘匿性が生まれたし、自然を相手に訓練したから今の俺たちがいる。
なるほど、確かにこのE組の山こそが俺たちのスポンサーであり、暗殺教室成立の立役者なんだろうな。
「この山の中で材料を調達すれば、手の内ようはいくらでもある。例えば……そう、このドングリとかね」
殺せんせーは触手を窓の外に伸ばすと、落ちて転がってきていたらしいドングリを持ち上げ、俺の手に落とした。
「そら石器とか土器とかやってる時代には食べてたくらいだし、食べられるんだろうけどさ。流石にインパクトが足らなくない?いや、ある意味でインパクトは強いだろうけどさ」
「ヌルフフフ。このままでは、ね?」
彼は勢いのまま触手を動かし、その辺に落ちてたドングリを拾い集めると、バケツに水を入れ、加工を始めた。
「まずはドングリを水に漬けます。この段階で浮いたモノは捨てて、そこに沈んだモノを取り出し、渋皮を砕いて実を取り出します。それを粗めに砕いたら、皮布に入れて川の水にさらして1週間ほどアク抜きします」
「流水にさらしてればアクは勝手に流れてくし、この山の水は綺麗だもんね。確かに自然を活かしてるか」
「その後は3日ほど天日干し。完全に水気が飛んだら更に細かくひきます。粉末状になるくらいにね。これでドングリ粉の完成です。これを小麦粉代わりにしてラーメンを作りましょう!」
殺せんせーが触手を高らかに上げて、宣言する。
彼の触手には何処ぞの料理番組みたいに『出来たものはこちらです』と言わんばかりに既に完成しているドングリ粉が。
ははーん。実は学園祭で使えると思って事前に準備してた……とかじゃなくてテッシュの唐揚げばかりだと生物としての尊厳が危ぶまれるから、自前で調達してたんだなぁ?この人。
ぶっちゃけ助かるし、その知識の幅には脱帽だが、この人のそんな知識はどっから来るのかめちゃくちゃ不思議だ。
優れた殺し屋は万に通ずと言うが、どんな生き方をしていればドングリを粉末にして小麦粉代わりにしてラーメン作ろう!とかいう発想になるのだろうか。
……E組教師になってからの極貧生活故か。
俺が首を捻る間にもう1人、殺せんせー言葉に反応した男がいた。ピクリと耳が動き、聞き捨てならねぇと言わんばかりに身を乗り出したのは漢村松。ラーメン屋の倅である。
「ラーメンだと……?」
彼はそのまま殺せんせーの持ってる小皿の上のドングリ粉を指に救ってペロリと舐めると惜しそうに眉を顰めた。
「ちょっと厳しいんじゃねぇかな。味も香りもおもしれぇけど、粘り気がたらねぇ。麺類特有の滑らかな食感を食材で出すなら大量の"つなぎ"が必要だぜ?つなぎの定番は卵だけど……卵だって安かねぇし、その上でスープまで作るなら材料費がバカにならねぇから利益は出せねぇよ」
「その通り。素晴らしい見立てです。しかし、実はその"つなぎ"もこの山で自生しているモノで代用が出来ます。皆さん、着いてきてください」
楽しそうな笑みを浮かべながら窓の外に出た殺せんせーを追いかけて俺たちも外に出る。
ちなみに流石にそのまま放置するのは申し訳ないのでビッチ先生の拘束は解いておいた。
外に出ると殺せんせーは山の方に入って行き、ふと木に絡みついていたツルを手に取ると俺たちに見せた。
「このツルを見てください。この小さなじゃがいもの様な実を"むかご"と言うのですが、これを見つけることがポイントです。むかごのついたツルを辿り、地面を丁寧に掘り進めていくと……ありました!」
ツルを伝って、それが生えていた地面に着くとマッハではなく、やや早めにそれでいて丁寧にスコップで掘り進め、やがて現れた長くて大きな芋を獲ったどー!と持ち上げた。
「うおっ!?トロロ芋だ!?」
杉野の満点なリアクションに満足そうに頷いた後、殺せんせーは言葉を続けながら、マッハで色々と持ってきた。
「正しくは自然薯と言います。天然のモノは店で買えば数千円はする高級食材ですよ。トロロにすると香りも粘り気も栽培したものとは段違いです。つなぎとしては申し分ないでしょう?」
「おぉ……!確かにこれなら……!」
「ドングリというだけでも物珍しい上、全てこの山で自生している食材です。インパクトは強いし、麺の材料は大半がタダ!残った資金を贅沢にスープに回すことが出来ます」
「……なるほど、乗ったぁ!そう言うことなら、ラーメンもいいが、今回はつけ麺にしようぜ!この食材たちの強い野生の風味は濃い漬け汁の方が合うだろうし、スープも少なく済む分、利益率も高ぇはずだ!!」
「おぉ……村松のテンションがたけぇ」
「実際、こう言う話題では村松くん強いよね」
呟いた言葉をいつの間にか横にいた茅野が拾って頷き、その反対側にいた陽菜乃が笑いながら言う。
「そうだね。それにウチには家庭科最強の寿美鈴ちゃんもいるから。飲食店ならかなり勝ちの目あるんじゃない?」
「倉橋さんの言葉は嬉しいけど、流石につけ麺だけだと厳しいんじゃないかな。もっとメニューを充実させないと。それにいくらつけ麺でも他の具もあった方が彩りも栄養も取れるしね」
顎に手を当てて難しそうな顔をする原さん。いい母親になりたいと言う彼女らしい言葉にみんな笑みをこぼすと、そんな言葉すら待ってましたと言わんばかりに殺せんせーは笑って陽菜乃に視線を向けた。
「原さんの危惧ももっともです。そこで倉橋さん。キミの生き物知識の出番です。この山には食べられる生き物がたくさんいます。生態系を壊さない程度にそこから貰って来ましょう」
「あっ、確かに!」
「……鍛錬中とか良く色んな生き物見るけど……そんな食べられる奴多いかなぁ?ジビエとか?」
「違う違う、実はこの山、テナガエビとかヤマメとかイワナとかいるんだよ〜?塩焼きとかにすると美味しいんだ〜。圭ちゃん、後で試しに食べてみる?焼いたげるよ?」
「いいの?んじゃ頼もうかな」
「えへ〜。任せて!」
「イチャつき始めたコイツらは置いといて、確かにそれならサイドメニューも充実しそうだな」
「そうだね。魚介も控えめに獲ったとしてもサイドメニューには充分な量になる筈だ。激安で出して客寄せに使う手もあるね」
「それにこの自然は何もドングリや自然薯、魚介だけではありません。自然豊かな山であるから沢山の木々があり、そこには沢山の木の実や根本を見ればキノコもある。それだけでなく、数多くの山菜もね。中には目も眩むような高級食材が眠っていることもあります。店でフルコースを頼めば数千円はくだらない様なメニューもこの山でなら揃ってしまう」
そう言われてみると確かにこの山は食材の宝庫だ。
さっきまでの微妙に進まなかった話し合いが嘘みたいに一気に視界が開けた。凄いな。食べられるかどうか。その知識一つでここまで視点が変わるのか。
知識は武器になると言うが、全くもってその通りだと実感する。早い話、知識がなくても金があれば生きて行けるが、知識があれば金がなくても生きて行けるってことだ。
実際、殺せんせーの様な知識があれば山籠りだって出来るだろう。山に篭って自給自足か。いずれやってみたいな。
「この山の環境はハンデどころか最大の強みです。この食材はキミ達と同じで山の自然に隠れてしまって誰もその刃の威力に気付けていない。さぁ、殺すつもりで売りましょう。この自然で育った君たちのチカラで山の幸の数々の刃を!」
「へっ!隠し武器で仕留めに行く、か。確かに殺し屋的な店だわな!よぉし!やんべお前ら!」
「おうよ!ライブイベントvs飲食店!売り上げ対決としては異色だが、勝ちに行こうぜ!」
みんなも希望が見えて来て気分が乗って来たらしい。
口々にクリとかカキも見たことあるよ!とか、それならモンブランとかデザートに作れそうじゃない?とか話し出してる。
「よぉし!んじゃ、ここらで景気付けに1発円陣組むか!」
「え?流石に早くない?そう言うのって当日にやるでしょ」
「ばーか、こう言うのは気分が乗ってる時にやんだよ!ほら、集まった集まった!」
ムードメーカーの前原に催促されるがまま、俺たちは集まって男女関係なく肩を組んで円を作る。
いざ、肝心の火付け役も前原がやるのだろうと思って言葉を待っていると、思いもよらないキラーパスが来る。
「んじゃ、号令は乃咲な」
「えっ……!?」
「いいんじゃない?なんだかんだ、球技大会もこの前の体育祭もみんなの前でそう言う火付け役やってたの乃咲くんだし」
「いや、こう言うのって学級委員か流れで前原だろ!?」
「俺も片岡に賛成かな。ここまで来たらやっちゃえよ、圭一。なんだかんだ、みんなに発破かけたり、火付け役するのはお前が一番しっくりくるしさ。いつもそうだったろ?」
「そーそー!頼んだぜ、最高司令官?」
「あはは、いつものヤツくるかな?」
「来るでしょ、毎回やってるし」
「球技大会で殺せんせーに色々されてから学校行事の度にやってるしね。流石に予想が付くよね」
学級委員2人からの後押しにより俺がやる雰囲気に。
しかも、またとんでもない役職に就けられた気がする。流石に最高司令官ってあれだよな、イトナのラジコンの時の名残で弄られてるだけだよな、本当にやることにならないよな?
顔を上げてみんなの目をみるが、早くやれ、と言わんばかりに目を合わせられたり、頷かれたり、肩に回した手でサムズアップしていたり。ここまで来たら俺がやるしかないか。
まぁ、なんだかんだ嫌な気分ではない。こう言う時に頼られるってのは少なからず信頼されてるってことだ。
「よーし、お前ら、ぜってぇ勝つぞー!」
「「「「おーっ!!!」」」」
「ジーク・ジオンッッッッ!!!!」
「「「「「「ジーク・ジオンッッッッ!!!」」」」」」
「……にゅぅ、とうとう乃咲くんのみならず、クラス全員にまで広がってしまいましたか。やりすぎでしたね、ほんとうに」
いや、ホントだよ。つか、いいのか、ジーク・ジオン。最終的にジオンは戦争に負けた上に超小規模になって国とかそう言うレベルですらなくなるんだけど……。
いいのか、あくまでみんなで声を合わせることに意味があるんだな、うん。そう言う風に考えるとしよう。
こうして中学最後の学園祭を
あとがき
はい、あとがきです。
いよいよ始まりました、学園祭編!
渚母に半ば啖呵を切った様な形だったので、友達の為にも色々と本気でやろうとしてる圭一ですが、この文化祭で殺せんせーと過ごす仲間達を"見る"ことが後々、圭一にとある決断をさせます。
その決断がどんなものなのかはしばらく後のお話……!
今回もご愛読ありがとうございます!
次回、ちょっとした準備回を挟んで本番です!