加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!
「やぁ、見えているかな。そろそろ薬の影響も無くなってきて視界も鮮明になってきた頃だろう」
「………」
「まぁ、答える必要はない。私はキミに一方的に話しかけているだけだ。
「…………共通」
「おや、初めて声を聞いたが……本当にあの化け物とそっくりだ。驚いたなぁ。容姿も声も同じ奴が自分がかつていた椅子に座っている。それは一体どんな気分だ?」
「何を言っている?」
「
「………」
「彼は今、どうしていると思う?キミに、いや、お前に裏切られたあの男は今、どこで何をしているか知っているかい?」
「……やめろ」
「お前によく似たあの小僧が、あの忌々しいガキどもが憎たらしい笑顔と共に殺せんせーと呼ぶあのモンスター。お前ならここまでの材料があれば分かるんじゃないのか。奴の正体など、私の……俺の共通の恩師というワードで既に」
「国の資料を見たよ。お前は乃咲圭一を仲間に勧誘した様だが、それは何故だ?同じ顔だからか?同じ声だからか?理解者だとでも思ったか?お前と言う"
「黙れ……」
「気にする必要はない。隠す必要もない。兄弟はそういうものだ。互いに相手が持っていて自分が持っていないものを羨み、妬むものだ。兄は弟が持つ物が羨ましい。弟は比較対象にされる兄が疎ましい。お前らは正しく兄弟だよ」
「何が言いたい」
「問いただすつもりはないか。奴らの身体に。"お前と俺で何が違った?"と。我々にはその権利がある。奴らに全てを奪われた我々にこそ、その権利があるはずだ」
「………分からない。彼はアンタの兄の子供だ。直接何かをしたわけでもないだろう」
「あの男とあの女の子供っ、それだけ充分な理由だとも。あの超生物も同じだ。俺の片目も、俺が先に目をつけていた女もっ!奴が奪ったのだからっ!」
「………………」
「全部終わったらあの男だ。能力に差はなかった、なのに先に生まれて、先に知り合ったというだけの理由で……!俺とアイツで何が違ったっ!?なぜ、アイツの横に立つのが俺じゃなかったっ!?生まれ育った家は同じなのにっ!出会った順番が逆だったというだけの理由でっ!なぜこうも違う!?」
「……………………その疑問なら理解できるよ」
「……そうだろう。防衛省の狗が回収した、あの施設の監視カメラの映像など全て目を通した。そこでお前は俺の理解者たると確信した。だから、こうして声を掛けている。取引だ。お前をここから出してやるし、あの化け物どもと同等以上の力をくれてやる。だから、俺に協力しろ。共に復讐しようじゃないか。自分の居場所を奪った、憎たらしい相手にさ」
殺せんせーの一声で学園祭の方針が決まったあと。俺たちは準備で大忙しだった。メニューの開発、材料の調達、食べられるキノコや山菜の調達と目利きなどの習得。
みんながみんな各々でやれることを思い思いにこなし続ける中、俺は肉体的な疲労とは別方向で疲れていた。
「ねぇ最高司令官!メニューもっとあったほうが良いと思うんだけど、なんか良い案とかないかなぁ?」
「ん……。折角自然薯なんて高級なトロロ芋があるんだし、麺類はつけ麺だけじゃなくて、トロロ蕎麦みたいなのも作って良いんじゃないか?トロロとつけ汁を足して傘増しできるから、これも材料費節約できるし、メニューも増やせるだろ?」
「なるほど……ありがとう!」
「なぁ、最高司令官!他にはないか?目玉が麺類だけってのものさ?折角、山菜とか魚介もあるんだし、サイドメニューで天ぷらがあるならさ、こう、白飯も欲しくならねぇかな?」
「確かになぁ……。なら、某伝説系の番組でやってたちびっこのヒーローの真似するか。どんぐり麺に加工する前の生地をチネってさ、ジェネリック白米を作るとかやってみる?」
「げっ……マジで言ってる?そら、小さい頃は喜んで見てたし、少しやってみたいなぁ〜とか思ってたけど、実際やるとなぁ……。それに流石にそんな時間ないだろ」
『あっ、それなら私がやりますよ?一定の寸法に加工すれば良いんですよね、私の中で型を作るとか、マジックハンドでちぎり続けるなりしていけば問題なくやれるはずです!』
「おぉう……。律がやる気で何より……」
『今回、私は計算とかでしかお役に立てそうにありませんからね。出来ることは積極的にやりたいです!なので乃咲さん、私に出来ることがあればなんでも言ってくださいね!』
「なら、ウェイトレス部隊のスマホに入ってるモバイル律で客からの注文を音声入力と補正で確実に取ろう。どの程度に忙しくなるか分からないけど、ミスが無いに越したことはない。それから、折角だしホームページ作れるか?うちの学園祭では別にそう言う広告は禁止されてないし、ツイッターとかで呟いて少しでも集客率を上げよう」
『お任せください!』
「んで、律が作ったチネリ米だけど、提供する時は普通の米みたいに炊いたら絶対にくっ付くし、もはやチネッた意味がなくなるだろうから、茹でて火を通すか、いっそ炒めよう。イメージ的にきりたんぽを米粒サイズにした感じかな。あくまで白米の代用だから、白米風って表示は忘れずにな」
「あ〜、確かにそう言う表示は大事かもな。それに米っぽいのがあるなら他にも色々メニュー作れるかも。自然薯のトロロ掛けご飯風みたいな?サイドメニューもあるし、稼げるかも」
「あ、でも出す前に試食は絶対しろよ?俺も思い付きで話してるだけだからさ、売り物にならない味ならNGな。それから、原材料がどんぐり麺と同じだから、在庫を考えつつ、メイン商品のどんぐり麺の提供量を落とさないくらいにな」
右から左から、上から下から最高司令官という呼び名と共にいろんな相談事が駆け込んで来る。
なんか、本当に最高司令官的なポジションに収まってしまった気がする。この一年でこう言う役に就くこと増えたよなぁ。
などとしみじみ考えるのも今年何度目か。
頼られてるようで悪い気はしないと以前から思っていたが、俺自身、学秀や悠馬の様なリーダー役は得意では無いけど、自分なりに考えた方法で目標を達成するのに周りに向けて声を上げること自体は好きなのかも知れない。
「はい、圭ちゃんお疲れさま〜」
「ありがとう、陽菜乃」
一通り飛んで来る相談事を捌き終えると、陽菜乃がわざわざ自販機で買ってきてくれたらしい缶ジュースをくれた。
お礼を言いつつ、代金を渡そうとすると受け取り拒否され、今度一緒に出かけるときに飲み物を奢ることを約束した。
「いや、大人気だね。フィクサー乃咲」
「また新しい称号がついたのか……」
「岡ちんとか数人が勝手に言ってるだけだけどね。ラジコン覗きの時もアイツ凄かったんだって!ってメグちゃんにすごい熱弁して怒られてたよ」
「アイツ馬鹿じゃねぇの……」
「あはは……」
今の『あはは』は何言ってんのコイツって意じゃねぇよな……。あの時は楽しかったとはいえ、半ば巻き込まれた訳だから、多少はお目溢しして欲しいところだけど。
「にしてもメニューもだいぶ出たね」
「この山で手に入る材料で主力メニューを作って、そのメニューから派生させたものを作れば共通の材料で手札を増やせるし、材料費も少なく済む。それに、砂糖は料理のさしすせそとか言われるレベルで必須だからな。他の料理とも共用で使えるし、いざとなったらデザートにも回せる」
「このべっこう飴とかカルメ焼き?」
「そ。作り方も簡単だし、材料も高くない。シンプルだから味のばらつきも少ない。それに加えて学校の理科の実験では王道だろ?学校でやってる飲食店で出す、授業で作ったことのあるお菓子。なんとなく懐かしさで財布が緩くなりそうだろ?」
「……圭ちゃん、実は商才あるんじゃない?」
「そうかね」
まぁ、言われて悪い気はしないけど。
でも。そうか。能力を活かして生きるって意味なら、何もこの人外レベルの身体能力だけじゃなく、陽菜乃が褒めくれた商才とかを伸ばしていく道もあるのかもな。
将来を考えた上で人の役に立つ、人の為に力を使うなら、烏間先生が勧めてくれた自衛隊という道が一番いいんだろうけど。俺の能力を最大で活かす道となると何があるんだろう。殺し屋以外でそう言う道はあるのだろうか?
「うん!圭ちゃんって必要なことなら頑張って覚えて身に付けるからできることも多いし何でも屋さんとか似合いそうだよね」
「何でも屋……?あっ、ゴホン。……興味ないね」
「わざわざ言い直さなくて良いのに……。っていうか、圭ちゃんはクラウドよりセフィロス系なんじゃ……?」
「属性的にはそっちだわな」
青天の霹靂というか、何でも屋という考えもしなかった選択肢に呆気に取られてネタをぶっこむのが遅れた。
「うーん、でも、何でも屋って呼び方も捻りがないよね。ほら、うちらって殺し屋な訳だし……優れた殺し屋は
「そうだなぁ……。なんでも屋は考えたことなかった。なるほど………なんでも屋……いや、よろず屋か……」
「
「不破さん?ひょこっと顔出してボソッと呟いてどこ行くの?」
窓の外からひょこっと顔を出して言いたいことだけ言って去って行く不破さんの背中にツッコミを入れて見送る。
しかし、確かに考えもしなかった選択肢だけど、自分の能力を活かすのならアリな候補だろう。
割と色んな奴が俺に多才だとか秀才だとか言ってくれる。俺自身、必要なら技能と知識を身につけたいと考えて行動できる部類の人間だ。仮に苦手な分野でもゾーンがあるから知識や技術のなさを思考速度と精密性で補えるし。
「1人でやれることを悶々と考えるより、やれることを片っ端からやる方が建設的かもな……」
「また悶々としてたの?」
「進路と暗殺についてね。でも、前者の方は陽菜乃のおかげでなんか光が見えた気がする。将来はよろず屋かな」
「将来を決めるのはまだ早い気がするけど……うん、圭ちゃんならきっと上手くやれると思う。そっかそっか、個人事業主になっちゃうかぁ。よろず屋 圭ちゃんだね」
「そのネーミングは流石にアレだけどな」
色々と怒られそうな名前に苦笑しつつ、その都度やれることを全力でこなす日常を想像し、そんな未来も楽しそうだと思う。
けど、そんな未来を迎える為にも避けて通れない選択をしなければならない。いや、選ぶための覚悟を決まると言うべきか。
正直、まだ覚悟なんて全然出来てないけど……。でも、覚悟して選んだ先の未来にそう言う景色があると少しだけ元気と希望と頑張らないとと言う責任感と義務感が湧いてくる。
「うん、陽菜乃のおかげで気分転換になったし、そのまま外の空気吸って来るよ。山菜でも取って来るかな」
山の幸で店をやると決めた後、簡単にではあるが、殺せんせーから食べられる山菜やキノコについてレクチャーを受けた。どう言うところに生えていて、どんな特徴なのか、似たような外見で毒を持ってる奴もいるから注意するべしとか。
「そう?役に立てなら嬉しいな。じゃあ私は作業に戻るね」
「ほいほーい」
クラスは現在、3分割している。
山から材料を調達する班、調達した材料で試作メニューや前作りする調理班、そして、三村と岡島や菅谷を中心にした各種写真やチラシなど作る広報班だ。基本的に誰が誰やるとか決まっておらず、各々が得意な分野で活躍中である。
こう言うのは分担作る方が効率的だったりするが、鮨詰めになっても良いことはないので、やりたいことやりつつ、行き詰まったら気分転換で別の作業をやって、手が欲しいと思ったら適任者に声をかけるやり方の方が俺たちに合ってる。
これで何処かが手薄だとか、もっと人寄越せとかいう話がこないのだから自然とバランス良く分かれてるんだなぁとか、極自然にチームワークで動いてるんだよなぁと感心する。
一応、片岡と監督役で校舎にいるビッチ先生に声を掛けつつ、陽菜乃から貰ったジュースを飲み干して教室を出る。
さて、何から集めようかなぁとか思いつつ校舎を出ると、みんなが集めてきたどんぐりなど山のように鎮座していた。
「ここまで大量のどんぐりを見ると流石に壮観だな」
「あら、烏間先生。出張は早めに終わったんですか?」
声を掛けられた方を見ると烏間先生がいた。
ちょっと前から出張に行ってたのにどうしたんだろ。
しかも彼の手にはいつも通勤時に持ってる鞄だけでなく、辛うじて1mはいかないくらいの横幅のアタッシュケースがある。
なんだろう、これ。律の拡張パックとか、暗殺で使うための道具だろうか?にしては厳重すぎる気がするが。
アタッシュケースに目を奪われながら質問すると、それまた烏間先生の苦労人気質の一端に触れることになった。
「あぁ。俺がわざわざ顔を出す内容ではないらしい。早く戻って子供のお守りをしていろと吐き捨てられてしまった」
「それはまた随分な言い草で……」
防衛省がアレなのか、それともその上がアレなのか。
子供のお守りが云々言うのなら、まずは
まぁ、その情けない大人のお陰で殺せんせーや烏間先生、ビッチ先生と出会えたのだから要らんことは言わないが。
「学園祭の準備中だと聞いてる。具体的には何をやるんだ?」
「山の幸を使った飲食店です。どんぐりでつけ麺作ったり、殺せんせーの作ったプールに棲みついてた魚介を使ったサイドメニューとかで客を呼び込む作戦です」
「ほぅ……」
「あとは山菜とかキノコとか。カルマが奥の方からマツタケ持って来たりして大騒ぎになったりもしましたね」
「そうか、楽しそうで何よりだ。山菜やキノコの判定は俺も出来る。声を掛けてくれれば手伝うぞ」
「ありがとうございます。それも自衛隊仕込みです?」
「戦地で食糧を確保するのなら必須の知識だからな。常にレーションが手元にある訳ではないし、飲み水の確保から食える動植物に関する知識は叩き込まれる」
「ほぇ……。厳しそうですね……。でも、何となくそう言うの憧れます。サバイバル知識みたいな奴」
「ふむ……。なら、今度の休みにでも一緒にハイキングでもどうだ?会議やら出張やらもなし、興味があるなら」
「いいですか?なら是非に。でもハイキングってどこへ?」
「富士山とかどうだ?比較的登りやすいし、有名なだけ合って達成感もあるし、景色もいい」
「富士山っすか!行ったことないんで楽しみです!」
「(ほぅ、富士山がハイキングコースであるという認識は否定しないのか。冗談で言ってみたが、扱き甲斐がありそうだ。この前の暗殺でも感じたが、やはり極まって来ているな)」
「(え、これ突っ込むべき?それとも笑って流すべき?富士山がハイキングコースとかガチで言ってんの、この人?なに扱き甲斐がありそうとか考えてそうな爽やかな笑みで笑ってんの、怖いんだけど。それはそれとして楽しみではあるけどさ)」
「「…………」」
「あははははは」
「はははははは」
「怖っ、あの空間怖っ!?」
「あぁ……。側から見たら仲の良い教師と生徒なのに、事情を知ってる側から見たら人類最強候補同士が牽制し合って笑ってるようにしか見えない……」
いや、富士山をハイキングコース呼ばわりしてるのを目の前で目の当たりにした俺が一番怖がってるよ。
流石に色んな逸話がある第一空挺団出身である。鷹岡とか同僚って話だし、アレも第一空挺団出身と考えると、化け物揃いの部隊の中でも烏間先生が一際化け物なのかもしれない。
このままだと色々と不安になりそうなので話題を変えるか。
そんなことを考えつくと、ふと彼の持つアタッシュケースに再び意識が向いた。烏間先生は部下を顎で使うタイプではないが、俺が予想した通りの中身なら、わざわざ俺たちがいる時間に運び込まず、帰って誰もいなくなった後でセッティングを部下に任せるくらいはしても良さそうなのに。
「……これか?」
俺の視線がアタッシュケースに向いていることに気付いたのか、少しバツが悪そうにしながら軽く持ち上げる。
「すみません、ジロジロと。気になってしまって」
「構わない。というか、俺がこんなものを持っていたら流石に気になるだろう。これは新装備だ。キミのな」
「……あっ、もしかしてお願いしてた奴ですか?」
「……あぁ」
とうとう完成したのか。超体育着を受領してからお願いしていた装備。殺せんせーを殺し切るための武装がなかったから、歯痒さから色々と無茶な要望をしてしまったが、そうか。ついに。
「……だが、正直、俺としては渡すべきか迷っている」
「……えっ?」
彼はアタッシュケースを下げると、みんなを見た。
山の中からどんぐりの入った袋や自然薯、山菜を両手に一杯もって出てくる奴ら、外で調理前の下準備してる奴ら、教室の窓から見える広報班の活動。みんな笑っていた。
「こうして学園祭の準備をして笑っているキミたちが本来あるべき姿なんだろう。そんな中、こんな無粋なモノを持ち込んで殺しの依頼をする。それが大人として俺がやるべきことなのかと」
「………そうですか」
きっと、俺たちの知らないところで色んな話が出ているのだろう。もしかすると、俺たちごと殺せんせーを殺すみたいな非人道的な作戦も出ているのかもしれないし、地球の未来のためならそれも仕方ないという声だってきっとあるだろう。
もしかしたら、死神の暗殺を妨害したことを叱責されてもいるかもしれない。地球を救うチャンスを棒に振ったと。
それでも地球の未来より俺たちの方が大事だと言ってくれたこの人のことだ。そんな意見や声に逆らって俺たちを守ろうとしてくれてるし、以前、鷹岡の時に俺たちに約束してくれた"当たり前の生活を守る"ってが引っかかってるのだろう。
本来の中学生としてあるべき姿を出している俺たちに、殺しの為の道具を持ち込んで手渡すべきではないと。
烏間先生は誠実で真面目な人だ。俺たちに暗殺やその為の訓練をしてくれているが、本音を言うなら子供にそう言うことをやらせたいとは思っていないだろう。
彼は良く俺たちに対してプロ同士として接していると言っていた。依頼をした側と、受けた側。報酬が発生するのだから正しいことだと思う。でも、それはそれとして彼の中にはあるのだ。大人としての線引きが。俺たちはまだ子供だという一線が。
「……正直、俺も迷ってます。"ソレ"を受け取るべきか、そもそも殺せんせーを殺すべきなのか。殺したいのか、死んで欲しいのか。俺たちがこの1年で目を逸らしていた根本的な部分について、この前の撹乱作戦の後からずっと」
「……そうか。イリーナから聞いている。かく言う俺もアイツに問われたことがある。殺すって本当にどういうことなのか分かってるのか?と。それに対する答えはまだ出ていない」
「烏間先生、答えずらい質問ですけど良いですか。答えられない内容だったら返答はなくていいので」
「……あぁ」
「今年度の最後に地球が壊れずに済む方法って国は見つけられていないんでしょうか?」
「……………"まだ"見つかっていない」
「………そうですか。ありがとうございます」
俺の質問に烏間先生は答えてくれた。
一応、国も探してはいるのだろう。恐らく、殺せんせーを殺すよりも彼の最期に地球を巻き込まないで済む方法を探した方が手っ取り早いからだ。
殺せんせーは巡航ミサイルなんかよりも速い。殺すことは普通は至難の業だ。その上、寿命を迎えたら地球諸共爆発する可能性があるって本人が言ってたし。殺せんせーだって好き好んで死にたいわけではないだろう。
彼が短命なのが細胞の所為で、その細胞の活性化を抑制することで爆発の可能性を抑えつつ、殺せんせーの寿命を延ばせるのなら万々歳だが、きっと現実はそこまで甘くない。
だからこそ、烏間先生はあんな高性能な特殊装備を俺たちに準備することができたし、彼の手に握られている俺の無茶な要望が詰まった武器がある訳だ。
殺すことは現実的に難しいけど、方法すら分からない他の手段に頼るより可能性があるから。
あるいは、俺たちの知らないところでもっと大きな計画が動いているのかもな。本命の計画を隠す為に実際のところはデコイでしかない俺たちを手厚くサポートして生徒を使った暗殺を諦めていないというポーズを取ってる可能性だって否定できない。
なぜなら国が主導で動いている暗殺に俺たちは出会したことがない。もしかしたら、シロがそれに該当する可能性もなくはないが、それでも地球の命運を懸けたプロジェクトにあんな態々前線に出て来れる小物しか用いないのは考えずらい。
あとそれっぽいのは度々送られて来てるらしい暗殺者だが、世界各国のトップが動いていると言うのに、態々人力で殺すだけの作戦を立てるというのも違和感が拭えない。
もし、この予想が当たっているのなら。俺たち……いや、俺には悩んでる時間はないのかもしれない。
今日まで殺せんせーを殺す為に頑張って来たのに、実は俺たちの予想が付かないような奥の手があって、最後の最後には俺たちの預かり知らない場所で決着が着く。それは許せない。
きっとこの思いは俺だけではなく、みんなも同じだ。
だからこそ、イトナの登場で危機感を持ったし、俺たちの手で殺す為に厳しい訓練を続けて来たのだから。
「烏間先生。"ソレ"をください」
「……迷っているのではないのか?」
「迷ってますよ。でも、答えを出した時にチカラがないんじゃ意味がありませんから。まして、選んだ時には手遅れなんてのも嫌です。だから、覚悟というか心構えというか。色々と自分なりの準備する為にソレが欲しいんです」
殺す為の準備じゃない。覚悟を決める為の準備だ。
この人から教わった……いや、この人から見出した俺なりの矜持。自分の思うかっこいい男という像。この暗殺教室が始まって、彼に憧れた時に心に決めた。
口に出すのは実行する時だ。
いつか、もしくは数日後かもしれない。もしも殺せんせーに「殺す」と言い放つ時が来るのなら。やり切る為に。
「…………中学生にそんな覚悟をさせてしまうあたり、俺も碌な死に方はしないだろうな」
自重するように呟くとアタッシュケースが差し出される。
烏間先生の顔には普段とは違う部分にシワが出来ていた。深く刻まれたそれは、彼の迷いの深さに思えた。
「でも、これを使うかどうか最終的に決めるのは俺ですから。選ばされたんじゃなくて自分で選んだことです。先生は選ぶ為の手段をくれただけなんですから気にしないでください」
言いながら受け取ったソレは重かった。
質量的な意味ではなく、もっと別の重みがあった。
「これからも教えて下さいよ、色々と」
「……もちろんだ。俺は……俺も、キミたちの先生だ。キミたちが選んだこと、その覚悟を最後まで見守ると約束する」
「ありがとうございます、烏間先生」
彼の言葉に頷き、そのまま別れて、受け取った装備を更衣室として使ってる部屋の俺のロッカーに入れる。
中身は見ない。俺にはまだその覚悟がない。この学園祭でそれを決める……いや、せめて、このメンバーで出来る最後の学園祭に殺しとかそう言うのを持ち込みたくなかった。
来年、地球があるかは分からない。地球があったとしても殺せんせーはいないかもしれない。烏間先生は防衛省に戻るだろうし、ビッチ先生も本業に戻るだろう。仲間たちとも進路が別れてしまう。だからこそ、選んだ後で後悔する前に全力で今を楽しみたかった。全部終わった後で後悔する日が来ることなど分かりきっているのだから。
ロッカーの扉を閉めて、再び外に出る。
昇降口の正面は賑わっていた。どうやら殺せんせーとカルマがまたレアな食材を引っ張り出して来たらしい。校舎の中で広告とか試作メニューを作っていたメンバーも外に出て、殺せんせーの持ってる食材に白目を剥いて驚いてるビッチ先生を見て爆笑しながら写真を撮っていた。
烏間先生も顔を強張らせて驚いており、仲間たちも捲し立てるみたいなビッチ先生の鬼気迫る剣幕の説明に悲鳴のような驚きの声をあげ、殺せんせーが得意げに胸を張って緑の縞々のいつものナメた顔をしていた。
そんな光景を一歩引いたところで見ていると、殺せんせーが俺に気付き、手に持った食材を揺らしながら慌ただしく飛んでくる。さっきまで得意気だったのに、見つけた瞬間のことを思い出したのか、驚愕顔になりながら。
「のざっ、乃咲くんっ!?見てください!先生、この裏山で白トリュフ見つけちゃいましたぁぁ!?」
「……………………はぁっ!!?」
「どどどどっ!?どうしましょう!?」
「えっ、いやっ!?どうするったって!?」
「すげぇ、あの乃咲が分かりやすく動揺してる」
「そう?割と顔に出してないだけで滅茶苦茶動揺してることあるよ、あの人。何か言われた後とかに長い間がある時とか」
「さ、流石だな倉橋……」
いや、動揺するなってのは無理な話だろ。
なんでそんなもんがうちの山に生息してんの!?
「ここここ、ソレをうちのクラスの目玉にしましょう!」
「おおぉ、おつけつ!流石にその食材はレアすぎる。目玉としてはインパクチョが大きいけど、提供できるだけの量が取れるとは限らにゃいし、何より300円で提供できんて!ここはオークションにかけて資金調達に回すでし!!」
「乃咲、まずはお前が落ち着け……」
「動揺しすぎて語尾変だし、呂律も回ってないのに言ってることが至極冷静すぎるだろ、人格分裂してんのか」
「いやいや!!お前らもよく考えろ!?一応三大珍味の一角だぞ、コイツ!それも白は黒より希少で値段も上!んなもん学校の文化祭の出店で出してみろ!間違いなく詐欺を疑われるかあらぬ誤解を招くに決まってんだろ!」
「ぬっ……そう言われると」
「だろ!?」
本当ならいつも通りのスカした態度で流すつもりだったのに、唐突に現れた予想外の存在に調子を崩される。
その後も、山の中を練り歩くうちに鮎などを筆頭に驚愕する食材ばかりがどんどん姿を現し、俺たちはその価値やら相場を調べつつ、絶叫とこんなん学園祭で出せるかぁ!とツッコミを入れながら準備を進めるのだった。
あとがき
はい、後書きです。
圭一の元に覚悟をする為の材料が次々に集まりつつあります。
本当は次回、このまま学園祭に入るつもりでしたが、少し予定を変えようと思います。次はとある人物の視点からスタートです……!
彼女から見て今の圭ちゃんはどんな風に見えているのか……。
今回もご愛読ありがとうございます!
p.s とうとう発売されたフリーダムウォーズのリマスター。
土日はボランティア三昧になりそうですなぁ……!