暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


138話 学園祭の時間

 

 晴れ渡る晴天の下、元気な声が響く。

 

「しゃおらぁぁぁ!すっぞおらぁぁぁあ!」

 

「よくわかんねぇけど気合い出してくぞ!」

 

「おうよ!やれることはやった!勝ちに行くぞ!」

 

「よしっ!アレやっとくよ!」

 

「ジーク・ジオン!」

 

「ジーク・ジオン!」

 

「ジーク・ジオン!」

 

「ジーク・ジオン!」

 

「何これ怖っ」

 

「てめぇが始めたことだろうがよ!!?」

 

 クラスメイトたちがいつの間にかジオニストになってて思わず出てしまった感想に寺坂からツッコミが入る。

 いや、確かに俺が始めたことではあるけどさ。躊躇いなくジークジオンするとは思わないじゃん。それも今回に関しては俺は一切煽動してないぞ。みんな自主的にやってたし。

 

「にゅぅ……どうしてこうなったのでしょうか」

 

「うーん。記憶が正しければアンタが俺を洗脳した所為です」

 

「にゅやぁっ!?」

 

 殺せんせーのそんなつもりはなかったんです!という言い訳を右から左に受け流しつつ、俺は腕捲りした。

 ついに迎えた学園祭当日。旧校舎の中にあった机やら椅子やらを徹底的に磨き、傷付いてるものは天板を張り替えて準備した客席はまだ空いているが、ここを人で埋めるつもりで頑張ろう。

 

「よーし、じゃあ最後にフォーメーションの確認するよ!みんな聞いてね、まずは男子!」

 

「「「「おうよ!」」」」

 

「機動力が高い人は山で食材調達!馬力がある寺坂組を筆頭にした力自慢は足腰悪い人達のタクシー役!あとは接客諸々の補助を数人!渚とか磯貝くんとか!村松くんは調理班で主力だからね!」

 

「了解!!」

 

「次に女子!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「基本的に接客と調理!ひなたは機動力を活かして食材調達、陽菜乃は魚介の調達!桃花はビッチ流交渉術を活かして客引きね!あとは男女関係なく人手が足らなそうなら直ぐに言うこと!」

 

「うん!」

 

「任せとけって!」

 

 みんなに指示を飛ばす片岡を眺めていると安心する。

 なんだろう。悠馬の指揮が下手とか言う訳じゃ無いけど、こう言う時の片岡って頼り甲斐があるよな。

 悠馬はみんなの意見を取りまとめるリーダー。片岡はみんなの舵取りをするリーダーって感じがする。

 

「最後に乃咲くん!」

 

「…………ん?……えっ!?俺!?」

 

 ほのぼのとそんなことを考えていると、ふと名指しされた。どうやら俺は男子という括りに入ってなかったらしい。

 予想外の事態に驚き、一瞬、乃咲くんを探してキョロキョロするが、そう言えば俺しか乃咲はいないと思い至る。

 

「客引き以外全部!臨機応変に!」

 

「…………?」

 

「………」

 

「……」

 

「……………え、それ、マジで言ってる?」

 

「もちろん」

 

「山んなか駆け回って食材集めて、足腰悪い人のアッシーになって、客入りによってはメッシーになり、接客もしろと?」

 

「もちろん」

 

「………横暴だっ!!」

 

 一瞬何を言われてるのか分からなくて理解するのに時間がかかってしまったので、頭を整理して抗議する。

 だっておかしいだろ、ブラック過ぎるだろう、流石にさ!!いくら俺が高速移動できるんだとしても、みんなより速く動けるだけで、使ってる体力は据え置きなんだぞ!?

 

「ブラック過ぎますよ姐御!!」

 

「………うん、正直申し訳ないと思ってる」

 

「俺の動きなんて瞬間移動してるように見えても、実際は猛スピードで動いてるだけなんですよ!?不思議パワーでワープしてるわけじゃないんですのよ!?」

 

「でも、できる、できないで言えば?」

 

「やれますけど」

 

「うん、決定!」

 

「ひ、陽菜乃ぉぉぉぉ……」

 

「都合のいい時だけ頼って来ても知らないもーん」

 

「わァ……ァ……」

 

「泣いてもダメだよ、ほら、頑張ろ」

 

「その代わり昼休みとか多めに取っていいからさ」

 

「ね、メグちゃんもこう言ってるしさ。高校の方に行けばE組とか関係なく楽しめるだろうし、そこで奢ってあげるから」

 

「わかりました……頑張ります」

 

 ブラック企業化した学園祭で唯一の花である。

 というか、これってナチュラルにデートなのでは?

 

「よし、乃咲も気を取り直したし、やるよみんな!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 返事した俺たちはひとまず持ち場に就いた。

 調達班は超体育着に着替え、それ以外のメンバーはエプロン姿だ。何気にこう言う時のエプロン姿が似合ってるのってぐっと来るところあるよな。ついでに言えば、女子限定で頭にメイドチックなカチューシャ付きである。

 なんとなく陽菜乃に視線を向けるが、残念ながら彼女はあまり色気のない超体育着組である。

 

 ……残念ながら、ね。

 

 我ながら都合のいい頭に苦笑したくなる。

 ほんと、自分でも自分の考えがわからないや。

 

「うーん。乃咲くんの初期ポジは寺坂組と一緒に足腰悪い人の送迎で。こっちはしばらくは人手が足らないとかはないだろうし、そっちのサポートお願いね」

 

「へいっ、了解しゃしたぜ!姐御!」

 

「………今回は甘んじてその呼び方を受けるわ」

 

 最後に片岡さんを揶揄って山を降る。

 突風を起こさない程度にゾーンに入って移動して、適当な場所で普通の速度域まで落として村松以外の寺坂組に合流する。

 

「よぉ、こっちはどうだ?」

 

「うおゎぁっ!?びっくりさせんな乃咲……!」

 

「悪い悪い、癖になってんだ、音殺して動くの」

 

「気配もそうだがそっちじゃなくて、早すぎんだよ!?片岡から連絡きて10秒経ってねぇぞ!?」

 

「いいじゃん、速く来てくれる分にはさ。そんじゃ、乃咲くんも合流したことだし、本格的に人を集めて来まーす!」

 

 寺坂組からツッコミを受けているところ、特に気にも止めていない矢田さんが手をパンと叩き、顧客確保に走り去った。

 

「……すげぇな、アイツ。ツッコミの一つも入れずに切り替えて客引きに飛んで行きやがった」

 

「いや、矢田に限った話じゃねぇだろ。肝っ玉座りすぎてんだよ、うちの女子連中……」

 

「言えてる……」

 

「あぁ。特に陽菜乃と矢田さんはビッチ先生の奇想天外な話しばっかり聞いてるから、ある程度のことに耐性あるのかもな」

 

「んまぁ、言われてみれば……現役の殺し屋の話を聞いてれば並大抵のことには驚かねぇわな」

 

「いや、限度があんだろ」

 

「月が蒸発、地球滅亡、マッハ20の巨大ダコ、触手生やしたクラスメイト、自衛隊の精鋭上がりと殺し屋の教師、世界最高の殺し屋、死神ファザコン。普通に生きてたら縁がない連中ばっかりだしよ、無理もねぇんじゃね?」

 

「ちょっとまて、俺はそのイロモノと同類なのか!?」

 

「なんならイロモノ筆頭だろうが」

 

「ふぇぇぇ……寺坂くんが酷いこと言ったぁ……」

 

「寺坂が乃咲を泣かした」

 

「先生にちくったるべ」

 

「てめぇら俺をおちょくって楽しいか!?」

 

「「「楽しいに決まってんじゃん」」」

 

「もうヤだ、コイツら……」

 

 思えば、寺坂たちとも随分と仲良くなったよなぁ。

 E組がこのメンバーになった頃と比べると雲泥の差だ。寺坂には面と向かって嫌いだと言われたことがあったっけ。たしか、一番最初の合同暗殺で彼らの手を借りようとして交渉した時だ。

 

「おう、坊主ら。聞きてぇんだけどよ、とんぐりつけ麺ってのは、この山で食えんのか」

 

 しみじみと考えて頷いていると、ぶっきらぼうな声がくる。

 野太い声で、如何にも柄が悪そうな喋り方を裏切らない、明らかに堅気ではない風貌の男たちがいた。

 

「えぇ。この上で食べられますよ。ここで注文されていきますか?とれたて新鮮が食べられますよ?」

 

「向こうの可愛い嬢ちゃんにして来たよ。んじゃあな、坊主ら。精々頑張んな、色んな意味でよ」

 

 ガラの悪そうな男たちはそういうと山を登って行った。

 俺たちは去って行った背中を見送りつつ、溢す。

 

「……あれって殺し屋だよな」

 

「九分九厘そうだろうな」

 

「通して大丈夫だったかな」

 

「いざとなったら殺せんせーがいるし大丈夫だろ。緊急事態は律から連絡がくる算段の筈だし」

 

「………つーかよ、連中の文脈的に矢田が誘導してんだよな。アイツ、よくあんなガチ殺し屋に物怖じせずにやれんな」

 

「確かにな」

 

「俺は矢田が一番怖ぇよ」

 

「俺もだ」

 

「一応、律から連絡くるようになってるし、殺せんせーも控えてるが……用心に越したことはねぇだろ。誰か1人は矢田を視界に入れるようにすっぞ。訓練受けてっけど、死神の時みたいなこともあるしな。俺らも油断はできねぇ」

 

 寺坂がそんなことを言い出した。

 

 本当にいいクラスになったよな。殺せんせーを殺すって大きな目的のために団結して、問題児たちも良い方向に成長して、互いに尊重し合えるいい関係を築いてる。

 

「ア?おいおい、見た顔がいるじゃねぇか」

 

 感慨深く思っていると、再びガラの悪そうな声が聞こえた。

 矢田さん、もう少しお客を選んで貰えないだろうか。なんかさっきからコワモテのお兄さんたちばっかりだよ。

 

「よぉ……。久しぶりじゃねぇか、乃咲」

 

 顔を上げて声の下方をみると、そこには数名の男がいた。

 見るからに歳上だ。どこのものかわからないが学ランも着てるし、多分、どっかの高校生だろう。

 

 しかしだ、俺にはちょっと引っかかるところがあった。

 いや、引っかかるところがなくて引っかかってるっていうか、いかにも俺の知り合いです、みたいな顔してるが覚えがない。

 

「えと……どちら様で?」

 

 首を傾げながら問いかけると目の横に縦に傷の走った顔をした男がピクリと眉を動かし、明らかに不機嫌になる。

 

「けっ、エリート様は道端であった木端のことなんて覚えてねぇってか?」

 

「エリートどうこう関係なく、道端であった見知らぬ誰かを覚え続けてる方がどうかしてると思いません?申し訳ありませんけど、一方的に自分のことを知ってるだけなのでは……?自業自得で大変恐縮なのですが、少しばかりやんちゃしてた時期がある所為で、良くない人達に名前が知られてるみたいでして」

 

「…………って、ナチュラルに俺らを良くない人認定してんじゃねぇか!舐めてんのかクソガキ!?」

 

「あらま!?意外と頭の回転が速いようで!?」

 

「バカにしてんのか!?もっと分からないように気を遣った言い方とかできねぇのかよ!?」

 

「えぇ……?」

 

「おら!なんか言ってみろや!?」

 

「・・ー・ ーーー ーーー ・ー・・」

 

「………なんて?」

 

「左右対称で芸術点高いシンプルな罵倒でしょう?」

 

「やっぱバカにしてんじゃねぇか!」

 

 だめだ、このまま漫才してても埒があかない。

 しかし、それはそれとして面白いぞ、この男。

 

「あーはいはい!そこまでそこまで!お兄さんたち、あんまりうちの男子イジメないで上げて!」

 

「イジメてなんかいねぇけど!?」

 

「ソーリー、アイムノット、ジャパニーズ。日本語ムズカシィ」

 

「ほらぁ!うちの乃咲くん、クォーターで日本語があんまり流暢じゃないんですから!」

 

「イェス、アイム、クォーター。ジャパニーズとどっかの国が3:1のワリアイで〜す」

 

「……いや!日本人成分の方が多いじゃねぇか!?さっきまで流暢に煽り散らしてた癖に何言ってんだ!?」

 

「あー、なんだ。兄さんら。ここらにした方がいいぜ。コイツ、あんまり刺激するとヒエラティックテキストの暗唱始めるからよ。こんなところでそんな不審者と絡みたくねぇだろ?」

 

「アイツ、この前のエジプト展で泣いてたな。棺の前で……。『お久しゅうございます、我が王……っ!』って」

 

「ちょっと待て!?乃咲……アイツ、あの見た目でエジプト系なのか!?あの髪で、あの肌色で!?つか、あの口調はマリクとかじゃなくてペガサスだろ!?設定どうなってんだ!?」

 

「いや、確かに別にエジプト系ではないけど」

 

「じゃあなんだったんだよ、今のくだりは!?」

 

 俺たちの小ボケに対して律儀にツッコミまくるリュウキくんはぜぇーぜぇーと肩で息をしながらガッカリと項垂れた。

 

「もういいわ……。この上だよな、案内ご苦労さん……」

 

 ふらふらと覚束ない足取りで歩く姿は頼りない。

 まるで疲れてるみたいに見える姿を見せられると少し心配になってくるよな。俺はそんなことを思いながら見送った。

 

「大丈夫かな、あの人ら」

 

「いや、お前が主な原因だろ」

 

「何を他人事みたいに」

 

「乃咲くん、悪ノリしすぎだよ?」

 

「てめぇら乃咲も含めて全員グルだろうがよ!?つか、流れ作ってたの乃咲と矢田じゃねぇか!?何やってんだてめぇら!?」

 

 寺坂がキレながらツッコミ。しかしだ、俺らの悪ふざけを止めもせずに眺めてたことに変わりねぇよな、寺坂さんよぉ。

 まぁ、今のところ色んな方面に対して実害は出てないから別に良いんだろうけどさ。

 

「そんなことより寺坂。次の客が来たぞ。馬力と体力が本体のお前にとうとう仕事が出来そうだ」

 

「イトナって寺坂には火力たけぇよな」

 

 俺らと戯れながらスマホを弄っていたイトナが徐に本校舎からこっちに続く道を指差した。

 なんだか、思った以上に客が来るなぁ〜と姿勢を正し、次の客を迎える準備をする。今のところ、何かしらで縁がある人しかいないが、はてさて、次はどんな珍客がくるのやら……。

 

 自作したドローンで他の店の情報収集をしてるイトナのスマホを覗き込みながら、次に来るであろう客が目に入った。

 

「あれ、この人って松方さんたちじゃん」

 

「わかばパークのちびっ子たちもいるぞ」

 

 彼らが来るであろう方向を見ていると、実際にこっちに歩いて来ているのが見えた。

 少し遠いが、あちらからも俺たちが見えたのか、ちびっ子たちが手を振りながら元気よく走ってくるのが見える。

 

「ちびっ子っていいよなぁ……」

 

「乃咲くんもそう言うこと言うんだ?でもそうだね、元気いっぱいな所とか。こっちも見てて元気が……」

 

「俺もあんな風に誰かを見つけた時に元気よく手を振りながら笑顔で走れる幼少期を過ごしたかった……」

 

「……………重いッ!!」

 

 俺の呟きを聞いた吉田と寺坂にどつかれ、横で頷きかけていた矢田さんがガクッとずっこけた。

 

「ファザコンのお兄ちゃん、こんにちわ!!」

 

「ふごっ……」

 

「あ、相変わらずファザコン扱いされてんのな……」

 

「じゃいあんとぶたごりらと黒うどんもいる〜っ!」

 

「「んごっ……」

 

 子供達の無邪気な笑顔と共に繰り出される無慈悲極まりない悪意のないあだ名に寺坂と吉田も沈黙した。

 苦笑しながら俺たちを見る矢田さんと『はかせ』と呼ばれて満更でもなさそうなイトナはノーダメージである。

 

「お前らは元気そうだな」

 

「お久しぶりです、松方さん。その後は如何ですか?」

 

「はははっ!ガキに心配されるほどやわじゃないぞ!」

 

 矢田さんが愛想良く笑いかけると、松方さんは豪快に笑い飛ばして近くにいた子の頭を撫でる。

 すると、他の子達が僕も、私も!と元気よく声を上げ始めた。俺たちが面倒を見た時も元気だと思ったが、やっぱり松方さんが好きなんだろうな。はしゃぎ方が俺たちに向けてたそれとは別ベクトルだと思う。

 

「それから……乃咲、だったな。どうやらあれからも孫娘が世話になってるようだが、本業に支障は出ていないかね?」

 

 本業というのは殺しのことか、それとも勉強のことなのか。

 まぁ、どっちにしろ答えは一つだ。

 

「えぇ。俺は問題ありません。むしろ綾香ちゃんは教えたことを何でも吸収してくれるし、分からないことは聞いてくれるので、教えてる側でも学ぶことが多くて良い経験させてもらってます」

 

「そうか……。最近はあの子も笑うことが増えた。学校に行くようになってから、ウチに顔を出すことは減って、この子たちも寂しがっているが、それでも綾香が再びやる気を出しているとが何より嬉しい。感謝している」

 

「いえいえ。こちらこそ。わかばパークの一件はご迷惑をお掛けしてしまいましたが、それでも自分のチカラをどう使いたいのかを考えることが出来ました。ありがとうございました」

 

「よいよい。お前らのところの担任の望み通り、健全に育ってるようで何よりだ。今後とも綾香のこともよろしく頼むぞ」

 

「はい、こちらこそ————」

 

「おじいちゃ〜ん!みんな!置いてくのは酷くない!?」

 

 松方さんからのありがたい言葉に頷こうとした時、パタパタと言う忙しない足音と共に現れたのは綾香ちゃんだった。

 そういえば姿が見えないと思ったら、どうやらみんなに置いて行かれていたらしい。息を切らしながら恨めしそうにしてる。

 

 なんで置いて行かれたのかは置いておくとして、雰囲気的に険悪な感じはしないし、仲が良さそうで羨ましい限りだ。

 微笑ましく見ていると、こちらに視線が向く。彼女はコホンと咳払いして話す姿勢を整えると口を開いた。

 

「こんにちは、先輩。みなさんもお久しぶりです」

 

「こんにちは。来てくれてありがとうね、綾香ちゃん」

 

「なに、乃咲くん誘ってたの?」

 

「違います!聞いてくださいよ、矢田さん!!この人、一言も言ってくれなかったんですよ!?さくらちゃんが教えてくれなかったら来れませんでしたって!!椚ヶ丘の学園祭に来れても、先輩たちのクラスには行けませんでしたよ!」

 

 唐突にキレだした綾香ちゃんの後ろでさくら姐さんがピースしてる。そして、そのさらに後ろでは例の2人が戦々恐々とした表情でまた何かを語っているのが見えた。

 

「一言くらいあってもいいじゃないですか!!というか誘ってくださいよ!?椚ヶ丘の学園祭もそうですし、先輩たちが何するかって凄く見てみたかったのに!!」

 

「……んで?なんで誘ってあげなかったの?」

 

「いや、普通に誘おうかと思ったんだけどさ。なんか後輩にたかってるみたいでカッコ悪いような気がしまして」

 

「乃咲ってたまに謎のコミュ障発揮するよな。そこまで気にすることか?それってさ。最近はそんな感じの気がないって油断してたら唐突に香ばしいことするっつーかさ?」

 

「吉田の言うことも分からないことはない。確かに乃咲はそういう所がある。何故か唐突にとんでもないコミュ障になる場面はそれなりにあるように見える。特定状況下で何かしらの補正が乗ってるとしか思えない場面はあるな」

 

「それそれ。型月風にいうなら『コミュ障 C++』って感じだよな。普段は低ランクなのに条件が揃うと数値にブーストが掛かって高ランクに匹敵するって感じでさ」

 

「おめぇら滅茶苦茶言うじゃん」

 

「事実だろが。甘んじて受け止めろよ、死神ファザコン」

 

「うっせ、じゃいあんとぶたごりら!ジャイアンとぶたゴリラなのか、ジャイアントぶたゴリラなのかはっきりせい!」

 

「んだとゴラぁ!」

 

「・・・ ーーー ・・・ 」

 

「んでさっきからたまに出るモールス信号なんなんだよ!?」

 

「トントントンだからS、ツーツーツーだからO……。あっ、SOSですね?確かこの前教えてくれましたっけ」

 

「おめぇ一般人に何教えてんだ!?」

 

「だぁってぇ!綾香ちゃん教えたことを素直に吸収してくれて教え甲斐あるんだもん!!それになんかあった時、声が出なかった時に助けを求める手段があるに越したことないじゃん!!音で注意を引けるのなんて老若男女国籍問わず共通の認識だろ!?」

 

「説教しようとしてる時に言い訳混じりに正論ぶつけてくんな!?そう言うことが言いてぇわけじゃねぇっての!!」

 

 寺坂に両肩を掴まれてガックガックと揺らされていると、じゃいあんとぶたごりら&ファザコンのお兄ちゃんのノリと勢いだけの漫才は子供達の琴線に触れたのか、笑ってくれた。

 まぁ、子供を舐めてるわけじゃないけど、これくらいの子達ならある程度、抑揚のある大きな声でコミカルな動きしてれば割と笑ってくれるしな。こんなんで笑ってくれるなら、わざと情けない声音で激しく揺さぶられた甲斐があるってもんだ。

 

「あー、はいはい!ここまでここまで!そろそろ上に案内しよ?食材の調達もそろそろ終わるだろうしさ」

 

「……ま、確かにな。んじゃここまでにすっか。爺さん、送迎車に乗ってくか?足腰しんどいなら送ってくぜ?」

 

「ふんっ、なんども言わすな。お前たちのような小僧に心配されるほどやわじゃない。もっと別の誰かに気を遣え」

 

 寺坂の言葉に松方さんは不敵に笑う。

 その優しさに甘えたい所だが、これだけたくさんのちびっ子を連れてこの山を登るのは少しキツいだろう。

 

「んじゃ、俺が案内しますよ。一応、案内表示もありすけど子供達になんかあったら大変ですからね」

 

「……やれやれ……。気遣い上手と言うべきなのか……。そういうことなら頼むとしようかの」

 

「よし、決まりね!乃咲くんはそのまま上手伝ってあげてよ、こっちは大丈夫そうだし、ぼちぼち上にも人が増えてるだろうからさ、メグには私から伝えておくよ」

 

「わかった。こっちは頼むな」

 

「言われるまでもねぇ。ちびっ子ども!あのファザコンの後に続けぇ!アイツが隊長だ!」

 

「「「おー!!」」」

 

 寺坂の奴、子供の扱い上手くなったなぁ。初日は噛み付かれたり、竹林と一緒にズボン下ろされたり、茅野主催の寸劇ではクロロホルムでやられるモンスター役してたのに。

 

 人は成長するんだなぁ〜と頷きながら俺たちの教室に向けて歩き出す。案内表示は等間隔で置いてるし、道はある程度整備しておいたから危ないことはない。好奇心旺盛な子供達が森に入っていくことに注意してれば問題はないだろう。

 

「わぁ〜!すごーい!」

 

「だろう?でもあんまり走っちゃダメだぞ?転んだりしたら痛いし、ファザコンのお兄ちゃんも、じゃいあんとぶたごりら、さっきのお姉さんに松方さんも綾香ちゃんも悲しいからね?」

 

「はぁ〜い!」

 

 さっき矢田さんにぼやいたことは冗談だが、やっぱり小さい子はいいよなぁ。彼女の言う通り、元気の塊って感じで。

 キョロキョロと周りを周りを眺めながら歩いているのは不安だが、それでも溢れる好奇心に身を任せている姿は微笑ましくて、別に子供好きって訳でもないのについ、笑みが溢れた。

 

「先輩、子供好きなんですか?」

 

「大好きって程ではないけど、嫌いって奴の方が少ないだろ。それに男が『俺、子供好きなんすよ』って言うといらん誤解される世の中になっちまったからなぁ」

 

「それは偏見では……?私は小さな子を純粋に可愛がれる人って素敵だと思いますけど?」

 

「それは言葉尻に隠れた『ただし、イケメンに限る!』って女子語が含まれてたりしないかい?」

 

「しないですけど!?」

 

「いや、女子の〇〇な人って素敵〜!って言葉ほど信用できない評価はないだろう。少なくとも俺はそう思う。『子供好きな人っていいよね!※ただし、イケメンに限る』とか『包容力のある人がいいなぁ〜※ただし、イケメンに限る』とか『よく笑う人って素敵!※ただしイケメンに限る』みたいなさぁ……!!」

 

「なんなんですか、その女子の言葉の裏を読んでるように見せかけた被害妄想は!?まさかですけど、そんな感じでこっぴどくフラれたことでもあるんですか!?」

 

「いや?生まれてこの方、俺はフラれたことはないぞ?」

 

 なお、告白もしたことはないので当然だが。

 まぁ、見栄くらいは張っておこうか。

 

「………まぁ、実際に先輩の言う通りの意味で話してる子もいるかもですけど、別に先輩はそっちに該当はしないんじゃないですか?少なくとも私はそう思いますけど」

 

「だよなぁ……。やっぱイケメン爆発するべきだわ。なんだよ、顔面偏差値高いからって偉いのかっての……!お陰様で平均ちょい上くらいじゃ立つ瀬がないわ」

 

「……クソボケ」

 

「なんで綾香ちゃんまでそんなこと言うん……?」

 

 おかしなことは言ってないと思うんだけど。

 少なくとも俺は自分の顔に関しては平均より上くらいだとは思ってるし、カッコいいと褒められれば否定せずにちゃんとお礼だって言うぞ。自分がかっこいい、もしくは可愛いことを自覚してる癖に『そんなことないですよ〜』とか言っちゃう奴らとは違うのだ。そういう連中滅べばいいのに。

 

「もういいです……。そんなことより、アレですか?」

 

 後輩からの容赦ない切り捨てと共に徐々に姿を見せ始める、我々の青空食堂。手作り感満載なかんばんだったが、それが逆に子供達の好奇心を誘ったらしい。きゃっきゃと走り出し、あっという間に校門前まで行ってしまった。

 

「そ、我らがどんぐりつけ麺」

 

「なんか、思った以上に本格的ですね。行ったことはないですけど、野外フェスの屋台ブースみたいな」

 

「あそこまで立派じゃないけどね。テントもないし、雨が降ったら一貫の終わりってやつかな」

 

「……それってかなり致命的では?」

 

「大丈夫。天候くらいどうとでもなる」

 

「さりげなく人類が歴史上制御できない自然災害をこともなげに片付けようとしてませんか、先輩……?」

 

 殺せんせーが雨雲くらい吹き飛ばせるだろうし、いざとなったら俺の強化人間パワーで……って流石に無理か。

 んまぁ、実際のところ本当に雨が降りそうなら殺せんせーがなんとかするだろう。フラグでも何でもなくな。

 

「あっ、さくらちゃん。わかばパークのみんなも!」

 

「渚ー!来てやったぞー!」

 

 俺たちも先に行った子達に追いついた頃、これまで静かだったさくらちゃんが渚の声を聞き、勇ましく駆け出した。

 

「へ〜、付き合い続いてるんだね、渚?」

 

「うん。ときどき勉強を教えにね」

 

「ま、綾香ちゃんは誘われなかったみたいだけど?私専属のカテキョーにお願いされたら来てやるしかないよねー!」

 

「あははは、さくらちゃん?」

 

 綾香ちゃん怖っ……!?

 

「なに引き攣った笑みを浮かべてるですか。先輩の所為ですよ?素直に誘ってくれれば歳下の女の子にマウント取られずに済んだのにぃ〜!!」

 

 悔しそうにそう言う綾香ちゃん。

 少し申し訳ないことをしたのかもな。今度、そう言う機会があれば誘ってみるのもいいのかもしれない。

 

「いたい、いたいっ、どつかないでくれ、綾香ちゃん」

 

 脇腹をどすどすしてくる後輩を宥める。

 もう少し他人を誘うときは深く考えないようにした方がいいのかな。

 

「……乃咲?」

 

 自分の考えを改めようとした、その時である。

 背後から何やら言い知れない感情を込めた声が聞こえた。

 

 振り向くと、そこには茅野がいた。

 満面の笑みで、目もしっかり笑っている。しかし、それが常識的に笑顔を浮かべるような感情が起因のものではないと、手に取るように感じ取れてしまった。

 

「お客さん、さっさと席に案内しよ?」

 

「ひぇっ……」

 

 そのかつてない雰囲気に呑まれ、思わず後退り。

 ふにっ。数歩後退りしたところで何か柔らかいものが肘に触れると、そこから何が伸びるように俺の腕に絡みつく。

 

「圭ちゃん?楽しそうだね?」

 

「ひゅっ……」

 

 ギギギっと首を動かすと、俺に絡みついてきたものは女子の華奢な腕で、その持ち主は良く知る人物だった。

 俺のことを圭ちゃんと呼ぶ人間は1人しかいないのだから、その声と呼び方でそこにいる人物なんて考えるまでもなく、陽菜乃であることは間違えようがないだろう。

 

 しかし、左肘に当たる柔らかい幸せな感触を帳消しにするほど、彼女からは威圧感が漂っていた。

 顔は笑っているが、彼女は茅野と違って目が笑ってない。目を細め、笑ってるようにみえるが、その雰囲気は糸目キャラが本当に薄く開眼しているかのような迫力があった。

 

「楽しそうだね、圭ちゃん?」

 

「仕事しよ、ね、乃咲?」

 

「え、えと、これから案内しようとしてたんだよ、茅野……!つか、ひ、陽菜乃は調達班だろ、なんでここに!?」

 

「捕まえたのを持ってくるついでに少しだけ接客させて貰ってたんだ〜。ビッチ先生から教わったことを試すのには良い機会だもんね?そしたらさぁ〜?歳下の他校の女の子を乃咲くんが連れてきてるんだもんね?楽しそうに」

 

「乃咲くん呼びに戻った!?おっけい、いったん落ち着こう、陽菜ちゃん!可愛いお顔が台無しよ!?」

 

「……………………ヒナ」

 

「…………はい?」

 

「そのままヒナ呼び継続してくれるなら、今回は大目に見ます」

 

「えと……、ヒナさん?」

 

「……うん」

 

 なんで?あんなおっかないオーラ出してたとは思えないくらい一気に柔らかいいつもの光属性の陽菜乃に戻ったぞ。

 あだ名呼びってそんなに大事か?いや、俺も陽菜乃に唐突に苗字呼びされるようになったら悲しいだろうけどさ。

 

 ちなみに、そんなやりとりをしていたら茅野たちがドスの効いた雰囲気を出し始めたので何とかその場はゾーンをフル活用して色んな言葉を投げながら取り繕って丸く収めることができた。

 

 しかし、こんなやりとりもまた、波乱の学園祭の一つの幕開けにすぎなかったことを俺は知りもしなかった。

 まさか、この俺があんなことをする羽目になるなんてな。

 




あとがき

はい、あとがきです。

ついに始まった学園祭。圭ちゃんはこの祭りに何をみるのか!
クラスメイトたちの笑顔、先生の微笑み、日常になってしまった非日常への答えは、どう決着がつくのか!

それはもう少し先のお話しです……。

今回もご愛読ありがとうございます!

p.s
フリーダムウォーズ思い出補正もあってめちゃくちゃ楽しめましたわ……。刑期も満了したし、トロコンもしたし、あとは周回あるのみ!
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