加えて、たくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!
陽菜乃と……あ、いや、ヒナと茅野に飛ばされる圧から逃げるようにして片岡に合流し、具体的な指示を受ける。
別に今のところは人手不足感はないけど、顧客満足度で勝負する為にも呼ばれたら直ぐに注文を取りに行けるように何人かは客席の近くに置いておきたいから、家庭科室から料理を配膳しやすい位置にひたすら移動させる任務を仰せつかった。
そんなマイスターメグの指令に恭しく傅きながら、承知したことを伝え、時に料理を運び、時に調理班のヘルプに入り、時に給仕側にまわったりしつつ慌ただしく動く。
慌ただしいと言っても、別に店が別に忙しいわけではない。ふとした瞬間に手がついてないこと、やれそうなことが目につき、思わず気になって、片付けようと動き続けた結果、勝手に慌ただしくなってるだけなのだ。
「忙しそうだな、乃咲」
「イトナ?おま、山の下にいたはずだろ!?」
「本校舎の連中への偵察結果を報告しに来たついでに腹が減ったから飯を食ってる。お前もそろそろ休憩に入れ」
ちゅるちゅるとどんぐりつけ麺を啜る姿を見ると、いや、それってサボりでは……?とツッコむ毒気が削がれる。
けど、確かにそろそろ腹が減ってくる時間だ。片岡さんと悠馬に連絡を取って決められてたローテで休憩を取るべきだろう。
「もしもしもしもし!」
『モウロ将軍好きだな、お前……』
『どったの?』
「そろそろ良い時間だし、ローテで休憩取らん?って話がしたかったんだけど、どうですかね、姐御!」
『いいんじゃない?磯貝くんは?』
『異議なし。2組づつ休憩にしよう』
『こちら送迎班、今んところ仕事らしいことしてねぇし、俺らは最後で良いわ。つか、イトナはさっさと戻ってこいや!』
『これから休憩に入るとなると、忙しくなるだろうし、あちこちの穴埋めできる奴から休憩とった方が良くね?』
『確かに。んじゃ、1組目は乃咲くんと陽菜乃ね』
「俺はまだまだ元気だけど……」
『話聞いてた?これから馬車馬もびっくりなくらいハードになるから、先に休憩とってって話だよ?』
「陽菜乃さぁ〜ん。なんか岡野の言い方が冷たい上にさりげなくブラック環境に身を投じること確定しちゃったんですけど」
『………ヒナ』
「ほぇ?」
『ヒナって呼ぶって、さっき言ったもん……』
「いや、それはそうだけど……流石に無線でいきなりやるのは恥ずかしいんだよ。もっと段階を踏んでから……」
『むぅ……』
「……あ〜、もう、わかった。わかったよ。ごめんてばヒナ」
『えへ、わかってくれれば良いよ。名前呼びも良いけど、愛称もいいよね!なんか特別って感じする〜』
「そういうもんかね?」
『そういうもんだも〜ん。圭ちゃんは?逆にこう呼んで欲しいとかあったりするのかな?』
「俺は別に……。まぁ、でも名前呼びも、あだ名も確かに嬉しくはあるな。俺はどこまでいっても『乃咲さんのお子さん』だったから。下の名前で呼んでくれる人は本当にいなかったし」
『じゃ、これからは定期的に色んな呼び方してみようかな?』
「あんまり突拍子のないのは勘弁な」
『どうしよっかなぁ〜』
「……まったく……」
『……まったく……っじゃねぇよっ!!!こっちのセリフだバカ!おめぇらなにを長々と通信越しでイチャついてやがんだ!鬱陶しいからさっさと電源落として休憩行ってこいや!!!』
前原からすごい勢いでキレツッコミが入る。
通信の奥からは奴に同調する声が複数。
「………はい、ごめんなさい」
『反省します…………』
俺と陽菜……ヒナは、謝りつつそそくさと抜け出した。
特に俺は教室から出る時に塩を撒かれる徹底ぶりである。
「んで、こうして学園祭を回るわけだが」
「うん?うん、そうだね。早く行こ?」
ヒナに半ば引きずられるようにして連れて来られた高等部。そこは人でごった返していると言っても過言じゃなかった。
俺らの中等部の方も、本校舎側は凄い賑わいだった。なにせ、学秀がメインでやってるライブイベントはとんでもなく盛況で、他の店が客引きで必死になっているレベルだったから。
けど、こうして足を伸ばして高校の方をみるとレベルの高さに驚かされる。確かにこれは企業から注目されて然るべきだ。
しかし、考えてみると当然なのかもしれない。彼らは少なからず中学生の頃から俺らと同じくレベルの高い高校生たちと同じ生簀の中で毎年競争させられていたのだから、ノウハウなんかも溜まっているだろう。
しかし、問題は人の多さである。
「……やべぇ、足が震え出した」
「なんで!?」
「もともとコミュ障なんだよ!!こんな大人数の中に飛び込めって……?止せ、自殺行為だ……!俺は今年もトイレにこもってネット小説を読み漁るのがどうせお似合いなんだ……」
「あーはいはい、ほらさっさと行くよ〜。せっかくここまで来たんだから。なんか美味しい店あるかな〜」
「ヒナの俺に対する扱いが段々雑になっていく!」
ズルズルと引きずられながら潜る高校の正門。
順当にいけば、俺はこの高校に入学することになるのだろう。競合は多いが、今の俺なら特待生枠も充分狙える。
しかし、父さんの持ってきた、海外の高校という選択肢も魅力的だと思う。特にやりたいことがあるわけじゃないけど、もしも、この星に未来があるのなら、選ぶ価値はあるだろう。
高校、どうしようかなぁ。
「あっ、圭ちゃん見てみて!お化け屋敷だって!」
「定番どころだな……」
「行ってみない?」
「俺は良いけど……ヒナってお化け屋敷大丈夫だったか?肝試しの時は行ったことないって言ってたけど、流石に殺せんせーのとはレベルが違うと思うぞ?ツイスターゲームとかポッキーゲームとかじゃなくてガチの奴。それも椚ヶ丘高校のならプロ顔負けだと思うけど……ほんとに大丈夫?」
「うっ……で、でも、圭ちゃんがいるし!」
はっはーん。さてはお化け屋敷あるあるをやるつもりですな?わぁー!って出てきた時にきゃーこわーい!って。
ぬっふふふ、良いだろう。その思惑を思いもよらない方法でぶち壊してしんぜようじゃあないかぁ。
「ヒナ、悪いが俺は怖がりだぞ」
「えっ?」
「びっくり系は駄目だ。思いもよらない所から出て来て予想ができなくて泣いてしまう」
「夏休みの時と言ってることが真逆!?」
俺から飛び出した弱気な言葉にガチ反応してるヒナを引っ張ってお化け屋敷の列に並んで涼しい顔を作る。
「あの、ちょっと!?言ってることとやってることが逆だよ!?なんでそんな爽やかな微笑みで列に並ぶの!?」
「大丈夫、陽菜乃に怖い思いはさせないよ(キリっ」
「っ!?」
「………どう?何点?」
「……クソボケばーか」
「ひっどい。俺なりに頑張ったのに」
「…………71点」
「合格点は?」
「………………70点」
「うぇーい」
「……今のは悔しいなぁ……!!ほんっと、なんで圭ちゃんこんなクソボケなんだろ……!!」
「今はの結構意図的にやったぞ?」
「だからクソボケなんでしょ!?」
「違うて。なんか鈍感だとかクソボケだとか堅物2号だとか言われてるけど、俺はそこまで鈍くないってば。最近は悩んでウジウジしてるところばっかり見せてるから、たまには違う顔を見て欲しいって思ったんだよ。好きでいてもらう為にもな」
「………やっぱりクソボケだよ」
「なぜ!?」
「そういうところ」
「どういうところ……?」
「もういいって……ほら、どんどん列も進んでるし、ちゃんと進も?あと、頼りにしてるからね?」
「頼りにされるのは困るが、大丈夫だ。ヒナに怖い思いはさせない。いや、そんな思いをする暇は与えないさ」
「それってどういう……?」
俺はニヒルに笑い、極々自然に腕に絡んでいたヒナを軽く撫でる。そうさ、俺にはゾーンがある。だから、集中していれば何処から何が来るのかなんて手に取るように判るし、対処もできる。
今回はそんな俺特有のやり方でお化けのそれとは斜め上の衝撃をお届けして怖がらせないようにしよう。
「次の方〜」
「は〜い」
俺たちの番が来た。
軽く説明を受けてからいざ教室へ。
中は思った以上に暗く、本当に最低限の明かりしかない。
結構本格的だ。しかも、後ろから何かついて来てる。もしかすると、こういう人が俺たちの進捗を伝えて後続を案内してるのかもな。足音はないし、息遣いもない。凄いな。
「思った以上に本格的だな」
「うぅ………」
ピトっとくっ付くヒナ。腕にある幸せな感触を無心で受け止めながら、俺たちは進んだ。
そして少し進んだ時、進路に人の気配があった。正確に言えば通行してる道の右の布の奥。恐らくはそこから手が出てくるってタイプのギミックなのだろう。
一歩、二歩、三歩……。通路の壁から手が飛び出してくるとほぼ同時、俺は全力で黄色い声を上げた。
「きゃー!こわぁーい!」
「えぇっ……!!!?」
「うおっ!?」
壁から生える手よりも先に俺の悲鳴に驚きの声を上げたヒナが面食らった顔でこちらに視線を向ける。
生えてる手が所在なさげにぷらぷらと垂れていて、哀愁を誘う。哀れ、驚かれない脅かし要素ほどシュールなものはないのである。しかも俺の声に驚いてたよね、手の人。
「ちょっ!?け、圭ちゃん!?」
「ふっ……お化け屋敷で悲鳴を上げながら抱き付く芸が女子の専売特許だと思っているなら大間違いだぜっ」
「か、かっこわりぃ……!?」
さっきまでのお返しとばかりにヒナの手にしがみ付きながら高らかに言い放つと手の人から素のリアクションが来た。
しかし、俺の奇行に驚いたヒナも流石にその声は聞き逃さなかったらしく、手が生えてる方に視線を向けた。
「あっ……ごめんなさい」
「え、い、いや……こちらこそ……?」
お化けと人間の気不味い邂逅である。
なんとも言えない雰囲気になりながら、ぎくしゃくと一礼して俺たちはそのエリアを通過する。
その後も俺の奇声を伴った奇行は続いた。お化け役の人の気配を感知したら、遭遇すると同時に黄色い声を上げて、ヒナとお化けの人に逆にリアクションを取らせ続ける。
「いやぁぁぁん!のっぺらぼう!」
「ひゃぁぁぁん!日本人形!?」
「んあぁぁぁん!この天井から吊るしてるコンニャクは偽物だ。食べられないよ」
「ふえぇぇぇぇ……くしょい!!」
「幽霊が怖いなら服を脱いで全裸になって、お尻をバンバン叩きながら白目を剥き、びっくりするほどユートピア!とハイトーンで叫びながら段差を乗り降りしてると除霊できるぞ」
「やっぱり嘘だったんじゃないですか……中に誰もいませんよ……」
「なぁ……。寄生獣の話しなんだけど、右手だからミギーなら、左手だったらヒギィーとかになるのかなぁ……?」
ありとあらゆる仕掛けに対して先手を打った。
その結果、ヒナはただの一度も悲鳴を上げることなくお化け屋敷を完走することができたのだった。
まぁ、俺が奇行に走る度に変な息をしていたが。特に腕に絡みに行った時とか、腕を引っ張り寄せた時とか。
しかし、その彼女と言えば……。
「あー。ほんとに恥ずかしかった……」
「どうした?」
「どうした?じゃないよっ!?もぅ……お化け屋敷でさりげなくスキンシップを〜とか思ってたのにさ?圭ちゃんってば私よりも先に悲鳴を上げるし、それもちょうどお化けが脅かしに来てるタイミングであっちより少し早くやるから驚きが圭ちゃんに全部吸われちゃったよ」
「ふっ……言っただろう?怖い思いはさせないぜって」
「こういう意味だとは思わなかったけどね!!?」
うーん、ヒナがキレッキレである。
どうやら悪ノリしすぎたらしい。どれ、次は普通に驚かされ待ちになるか。下手に迎え撃ちに行かずに。
「ごめんて。じゃあ普通に楽しみに行く?他にもお化け屋敷あるっぽいし。今度は終始無言で手を握ってるからさ」
「それはそれで勘弁して欲しいけどね……。でもあんなテンションでお化け屋敷を回るのも勘弁かなぁ。圭ちゃんがあからさまな棺の前でお久しゅうございます、我が王ってやり出した時は本気で他人のふりしようかと思ったよ……」
「いや、さっき寺坂組と一緒に来た時にイトナがエジプト展で俺がこんなことをやったとか言い出したの聞いた時に面白そうだなぁって思ってさ、つい悪ノリしてしまった」
「圭ちゃんのねらー精神なんなの……?」
ヒナの深々としたため息が溢れる。
うん、そろそろフォローに入るか。
「ごめんて。ほら、あっちにもお化け屋敷あるみたいだし、そっち行こ?今度は何のリアクションも取らずに不動の姿勢を貫き通すからさ。むしろお化けと一緒にヒナを驚かしに……」
「圭ちゃんが脅かしにくると洒落にならないくらい怖くなりそうだから勘弁して……。ちなみにどんな脅かし方するの?」
「意識の波長をしっかり読んで、波が高くなった瞬間に気絶しない程度にクラップスタナーの要領で————」
「却下!!なに洗練された技術を無駄なことに使おうとしてるのさ!?ビッチ先生にやられたから分かるけど、あれビビるとかそんな生温いもんじゃないよね!?耐性のない子にやったら大変なことになっちゃうよ!女の子にやっちゃダメ!」
「むぅ……。難しいもんだな……。お化け屋敷を最大限楽しめる方法だと思ったんだけど」
「楽しむどころかトラウマだよ……」
そう言うもんか。気を付けよう。
ヒナにトラウマを刻みつけたい訳じゃないしな。
「ところで圭ちゃん」
「はいよ?」
「その態勢しんどくない?」
言われて自分の出立ちをみると、確かにしんどいことになっていた。なにせ、中腰になって俺よりも身長が低いヒナの腕にしがみ付いてるのだから。しんどいし歩きずらい。
「あ、嫌って訳じゃないよ?でも、圭ちゃんからこんなスキンシップとってくるのって珍しいなって」
「………当ててんのよ」
「どこを!?」
「よく後ろ暗ことを隠してるヤツとかに腹に一物抱えたヤツって言い方するじゃんか?」
「急に話変わったね……?まぁ、確かに言うけど」
「俺さ、それを言われたらこう返すって決めてるんだ。本当に、本当に心底くだらないことなんだけどさ」
「なんて返すの?」
「イチモツなら股に付いてるぞって」
「本当にくだらない!!?」
「当ててんのよ?」
「だからなにを!?言っとくけど当てられてないからね!?その話し方だとアレを当ててるみたいになるよ!?」
「……うそ、そんなに分からない……?」
「………………えっ、まさかほんとに?」
「いや、嘘だけど」
「圭ちゃん!!!」
「ごめんてば」
ヒナから離れ、いつもの距離感になる。
それでも、一番最初に比べたらかなり近いけどな。
「こういうくだらない時間を大事にしたいなってさ。悩んで、うじうじしてばかりなのも勿体無いし。これが最初で………あ、いや。ごめん、言い直す。お前と中学3年生でこうやって学園祭を過ごすのは最初で最後だからさ」
これは紛れもない本心だった。
もしかしたら来年度には地球がないかもしれない。仮に残ったとしても、俺は日本にいないかもしれない。
それになにより、どんな選択をするにしても……この時間を大事にしたいと思っている。
「んじゃ、もっと楽しも?」
さっきまでのお返しと言わんばかりにまた腕を取られる。実際に自分でやってて歩きづらかったけど、ヒナはそんなことないんだろうか?身長的な問題なのかな?
彼女に頷いて、ひとまず一緒に適当な屋台に並ぶ。並んだのはたこ焼き屋だったことで、少し失敗した気分になる。
何を隠そう、俺は食べ物としてのタコは苦手だ。
「すみません、たこ焼きタコ抜き一つと普通のください」
「あれ?圭ちゃんってタコ苦手?カルマくんが復学した時、殺せんせーのたこ焼きたべてなかった?」
「いや、それがさ。俺も殺せんせーのたこ焼きが美味かったから平気で食べられると思ったんだけど、他の所で食ったら……うーん、なんかコレじゃないって感じがしてさ」
「いつもの美味しんぼごっこ?」
「いや、うちなる山岡を抜きで」
「そうなんだ……」
「ごめん。へんな注文して」
「そこは気にしてないけど……。そっかタコ苦手なんだね」
頷きながら何処からか取り出したメモ帳に書き込んだ姿を対してツッコミをなんとか我慢した。
そのメモ何につかうの?とか思ったけど、タコ焼き屋に来てタコ抜きなんて奇天烈なことしてるのは俺だし。
「すみません。流石にタコ抜きは……」
「………ですよね、変なこと言ってごめんなさい。やっぱり普通の2つください」
頼んでみたが、ダメだった。タコの材料費浮くし……とか思わなくもないが、これではただの厄介客である。
「あ、じゃあタコは私が食べるよ」
「いや……流石にそれは悪いし。タコを摘出するとタコ焼きってかなりぐちゃぐちゃになるから行儀も悪い……」
「圭ちゃんって妙な所で育ちの良さ出るよね……。普久間島のディナーでもしっかりナプキン付けてたし……。でも気にしないでいいよ?どうせ私しかいないし、圭ちゃんが嫌そうに食べてるのは私も嫌だから」
「はい……好き嫌いしてごめんなさい……」
全面的に俺が悪いので謝り、商品を渡してくれた先輩にもう一度謝り、その場を離れて適当な場所に座る。
タコ焼き……ごめんよ。これからタコを摘出させていただきます。せめてもの誠意でできるだけ形を崩さないように。
付いてきた爪楊枝を使ってたこ焼きを切り開く。
「……き、器用だね」
「そう?」
「うん……。爪楊枝をメスみたいに使って滑らかな切れ目入れる人なんてみたことないよ……」
「そも、爪楊枝をメス代わりにする変人がいなかったんだろ」
「まぁ……否定はしないけどさ」
案外、綺麗に切り開けたタコ焼きの中。その中核を成していたタコさんを一突きで持ち上げる。
さて、この後はどうしたものか。このまま彼女の容器に入れてもいいが、シンプル過ぎるのもつまらない。
————よし、決めた。
俺は彼女が持つ容器に持っていくと見せかけて、そのままタコを刺した爪楊枝をヒナの口元に運ぶ。
「はい、あーん」
「————————えっ」
差し出されたタコを見て、俺に視線を向け、しばらく目を瞬かせて、再度『えっ?』と間の抜けた声を出した。
俺の行動が理解できないと言わんばかりのその素っ頓狂な表情を見て、少し思案する。夏祭りで綿飴を半ば強制的にあーんして来た彼女のことだから、あーんが嫌って訳ではないだろう。
となると、彼女が躊躇う理由はなんだろうか……。俺はそんな風に考え、首を捻り、そして思い付く。
熱々のタコ焼きから取り出したと言うのに、ふーふーしてないではないか。なるほど。このタコ焼きというか、焼きダコは熱すぎて食べられないよと言いたい訳ですな。
「ふーっ、ふぅーっ、はい、あ〜ん」
「——————————えぇっ!?」
今度は驚愕の声を出していた。
ふむ。もしかしてあーんはハードル高かったのだろうか。女子同士とかやってそうと言うか、天真爛漫明朗快活なヒナならあんまり気にしないと思ったが失敗したのかな。
「あ、あーん……」
かと思ったら、ヒナが口を開けたので、そこめがけてそっとタコが刺さった爪楊枝ごと差し込み、彼女の唇がしっかり閉じたことを確認して引き抜く。
「どう?」
「んぐんぐ………。んん……。思ってたのと違う!!」
「そんな変な味なのか、このタコ……」
「ちがうっ!そっちじゃないのぉ!もっとこう……!圭ちゃんからのあーんはもう少し甘いものが良かったような……!嫌じゃなかったんだけど、ふーふー付きだったけど!!なんかこう、もっとこう……!!甘酸っぱいものが良かったなぁ………!!!」
「ほぇ〜。女心ってめんどくさ……」
空になったタコ焼きだったモノをグサリと刺して、そのまま口の中に放り込む。外はカリっと、中はふわっと。うん。美味い。流石に椚ヶ丘の屋台なだけはある。
「ほぇっ!!?」
「昔から思ってたんだけど、別にタコ焼きの中ってタコじゃなくて良いよな。なんで焼いた鶏肉とかじゃダメなんだろ」
「ま、マジで言ってる!?」
「お……?おぉう。それなりに……。ダメだったか?やっぱりタコ焼きはタコしか認められないよな……?」
「そっちじゃなくて!!いや、厳密には言ってないんだけど!!圭ちゃん、もしかして気付いてない……?」
「なにが?」
「……………間接キス」
赤みの差した頬と共にそう言うヒナ。
そこで言われて気がついた。
「Wow!」
「わおで済ませちゃうの!?」
「いや、確かに恥ずかしくはあるけど……。間接ディープキスしたことあるって言ったのヒナじゃんか……」
「確かに夏休みで言ったけど!!でも今とあの時は違うの!!あの時は私に主導権があったじゃん!!」
「自分がやるのは良くて他人がやるのはダメってのは理屈として通らんよ……。撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだってマーロウさんが言ってた」
「キスにその理屈使う人初めてみたよ……!しかもどっかの皇帝さんじゃないんだ、名前出すの!?」
「俺、ギアス知らんのよ……」
「ロボット好きなのに?なんか意外かも」
「ガンダム、ゾイド、アーマード・コアのロボット3大作品に関しては履修済みだ」
「いや、それ3大作品って言ってる人見たことない……」
「ガンダム、メダロット、アーマード・コア?」
「いやぁ……」
「ガンダム、マクロス、アーマード・コア」
「頑なにAC入れたがるね!?」
「身体はコジマで出来てるし、血潮はコーラル、心は捨てた」
「どこから突っ込むべき……?あと、捨てるのは心っていうか、人間性なんじゃないの?フロム民的には」
「おぉ……。やるじゃないかヒナ。あっ、あと訂正しておくけど、キスじゃなくて間接キスな」
「そこ重要なのかな……?」
「キスってのは唇の触れ合いだろ?間接キスってのは定義が幅広いからな。好きな人の使用済みの箸を舐め回すのだって定義上は立派に間接キスだろ?くそキモいけどな」
「その例えが出てくる時点でね!?」
おぉ、ヒナからツッコミの嵐が絶えない。
しかし、まぁ、話題が尽きないのは良いことだ。
「はい、そうこう言ってる間にもう一個摘出できたぞ。どうする?爪楊枝もう一本あるけどそっち使う?」
「………いい。そのままで」
「おっけい。はい、あーん」
「………………ちゃんと冷まして」
「はいはい……………」
しっかりタコを冷ましてヒナの口に運ぶ。
意外と顔を赤くしてるヒナ。ビッチ先生直伝のハニートラップは確かに彼女の武器ではあるけれど、その使い手であるヒナは場数を踏んでいないので、案外、まだまだ弱点だらけだ。
しかし、だ。こうして顔を赤くしてるヒナは可愛いと思う。ビッチ先生とかは綺麗な人だと思ったが、明確に可愛いとか女子に感じることは滅多にないので、ヒナをシンプルに可愛いと思った自分に驚く。
頭とか撫でてみていいだろうか、怒られたりしないだろうか?いや、まぁ、そもそも俺たちはまだ正式な恋人ではないし。主に俺が原因で。だから、自分のやりたいことを優先するなんて都合のいいことは出来ないよな。そういうのは、しっかり答えを出した後に取っておこう。
……まぁ、それまでに愛想を尽かされないように頑張るしかないけどな。ちょっと難しい話だ。愛想を尽かされないようにと考えると、ヒナを信じてないのかと問い掛けてくる自分がいるし、かと言って愛想を尽かされることはあり得ないなんて考えられるほど自分は図太くないし、そも、こんだけ曖昧なことしまくってるのに愛想を尽かされないとか本気で思えるのかって話なわけで。心構えとしては何が正しいのか。
ちゃんと誠実に答えを出すのが唯一の正解だよなぁ。
「ふぅ……美味しかったね!」
「だな……。次までにはしっかりタコも食えるようになっておくよ。毎回、こうやって食べて貰うわけにもな」
「……そのつど、あーんしてくれるならいいよ?」
「好き嫌いはよくないし……」
「変なところで真面目だよね、圭ちゃん。変なところっていうか、根は真面目というか」
「そうでもないぞ。嫌なことからは割と素直に逃げてたしな。タコが苦手なのもそれが理由だし。トメさん……うちの家政婦さんも、野菜の好き嫌いならまだしも、タコが食べられなくて困ることはそうないでしょうし。なんて言ってたからなぁ」
「うーん……間違ってはないと思うけど」
「甘やかされてきたんだなぁ、やっぱり」
自分が甘やかされて育って来たと伝えるのはやはり恥ずかしいものがある。しっかりしないとなぁ。
「っと、そろそろ戻ろっか」
「もうそんな時間か。あっという間だったな」
「ねー。またぶらぶらしようね」
「……しっかり、来年以降もな」
彼女とこう言う日々を続けたいのなら、俺は殺せんせーを殺さなきゃいけない。俺もみんなも好きなあの人を。
俺たちは高校から出て、繁盛しているとは言えない山道を歩いてブラック職場に戻る。
流石に殺し屋たちも少なくなっていて、俺たちがいた時よりも人は少ない。けど、それでもやっぱり堅気な人たちより、殺し屋とかのコワモテフェイスが目立つ。そんな中に、リュウキくんたちがまだ居たことが驚きだったが。
「……ん?」
そんな時、視界にふと、青髪とはためくスカートが見えた。
あれ、うちの女子に青髪の女子なんていたか?
首を動かして、その人物に目を向けると俺は驚愕した。
「ちょっ……あれ、渚!!?」
「あっ、ほんとだ。スカートにあってるね。あれですっぴんかぁ〜。世の中の女子を敵に回すよ……」
「いや、まぁ……うん……………不味いぞ」
不味い。何が不味いって、渚には言ってないが、この学園祭のどっかで潮田さん……奴の母が来る。
渚のあの容姿は間違いなく強みだが、渚とあの人は違うと言うのを改めて認識して貰うためにも、女装方面で渚の強みを発揮させてしまうのは上手い状況とは言えないだろう……!?
「なにが不味いの?」
「いや、実は————」
事情を説明すると、ヒナはため息をついた。
「またそんなことしてたんだ……。ほんと、そういうところだよ、圭ちゃん」
「だってさぁ。事情を知って放置するのってねぇ?」
「でも、まあ、そう言うことなら簡単だよ?」
「え?」
ヒナはそういうと教室の中に入っていき、少しするとスカートを持って俺の所に戻って来て、それを差し出した。
「圭ちゃんも女装、しよ?」
「……………はい?」
「今回はそう言うコンセプトです!ってやっちゃえばいいんだよ!ほら、圭ちゃんって目つきを除けば中性的だし、イケるイケる!ほら、私のスカート使って良いからさ!」
「いやいやいや!!?そうはならんやろ!?」
「そうならないなら、やればいいよね?」
「ちょっ……誰か助け————」
ヒナにグイグイと引っ張られ、空き教室に連れ込まれ、無理やり着替えさせられてしまった。
乃咲圭一、まさかの人生初の女装であった。
あとがき
はい、あとがきです。
圭ちゃんとヒナちゃんのデート回?でございました。
さて、女装することになってしまった圭ちゃんはどんな活躍をするのか!
今回もご愛読ありがとうございます!