暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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投稿遅れて申し訳ありません。

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加えてたくさんの感想、高評価ありがとうございます!

いつもの時間には間に合いませんでしたが、投稿させていただきます!
最後までお付き合いください……!


140話 学園祭の時間 3時間目

 

 拝啓、天国にいるお母さん。

 お元気でしょうか。僕は今、尊厳の危機に立たされています。守るべきものなどなく、触れるもの皆傷つけたとでもいいたげな不良時代を超えた僕ですが、本当に守りたかったものを今ならば答えられます。答えを出すのに14年掛かってしまいましたが。

 それは、性別です。僕は男なのです。イチモツは腹ではなく、股についております。なので、スカートを穿いたり、出どころ不明の銀髪ウィッグなど付けてキャピキャピするべきではないのです。可愛い物が好きな男子を否定はしませんが、それが僕が守るべきたった一つの一線であったと痛感しております。

 お母さん。性別の垣根を超えてしまった僕ですが、もしもそちらで会えたのなら。息子として抱きしめてくれますか?

 まだまだそちらに行くつもりはありませんが、もしも、何かしらの手違いで早めの親子の初対面をする日が来るのなら、どうか息子として接してください。決して息娘(むすこ)ではないのだと。あなたの口から聞かせて下さい。

 

「……何を書いてるの、圭ちゃん」

 

「もしもの時の……遺書?」

 

「ふんっ!」

 

「ちょっ!?」

 

 俺が書き上げると同時、後ろから見ていたヒナがそれを掻っ攫い、一通り目を通したあと、真っ二つに引き裂いた。

 

「縁起でもないこと言わないの。あと、学園祭の最中に何柄にもなく墨をすって本格的な書道してるわけ?しかも墨汁使ってないのに凄い墨真っ黒だし。よくこんな上手にすれたね!?」

 

「コツはあんまりチカラを入れないことだな。すずりを擦るってより、ほんと撫でるくらいの力加減で……」

 

「しかもやたらと達筆だし……。さっきの手紙よくA4くらいで収めてるよね……。小筆とは言えよくやるよ」

 

「まぁ、書道三段だからな」

 

「初めて聞いたけど!?」

 

「いま生えたんだから仕方ないだろう!?」

 

「生えたって何!?」

 

「にょきって」

 

「生えるってそういうことなの!?」

 

 ぎゃいぎゃいとツッコミを連投するヒナを尻目に、頬を叩いて大筆を持ち、さらさらと2文字書いて彼女に見せる。

 

「……けいこ?」

 

圭子(たまこ)だ。女装している間はそう呼んでくれたまへ」

 

「えと、それ……重要?」

 

「乃咲圭一に女装趣味があるって思われたくないの!!椚ヶ丘の乃咲くんと言ったらとんでもない不良で通っちゃってるのよ!!私は嫌よ!!銀の死神が女装してるぜ〜?とか言われんの!!」

 

「なにその無駄に綺麗な裏声!!?しかも口調まで女の子に寄せる必要あった!?」

 

「やるからには全力を尽くすのが私の流儀でしてよ!」

 

「しかも微妙にお嬢様入ってるよ!?」

 

「さて、参りますわよ、クラハシエル。この山を椚ヶ丘の大奥にして差し上げますわ!」

 

「クラハシエル!?っていうか、大奥にするっていってハーレムに加わる側になる男の人初めて見たよ!?」

 

 ウィッグの銀髪をやたらと無駄に靡かせて、ヒナの半歩前を歩いて俺は感情を押し殺し、校舎を出た。

 スカートばっちり、ヘッドドレスも完璧。今の俺は乃咲圭一ではなく、乃咲圭子。圭一くんの遠い親戚である。

 

「あっ、陽菜乃………と………?」

 

 片岡が出て来た俺たちに視線を向けると、困惑したように俺に視線を向け、つま先から頭まで値踏みするように見て来た。

 

「何かしら。何か私の顔についてますの?」

 

「え、いや……えと、どちら様で……?」

 

「乃咲圭子ですわ」

 

「………?」

 

「圭子ですわ」

 

「…………………?」

 

(タマ)ちゃんとお呼びになってくださいまし」

 

「…………………………の、乃咲くん!?」

 

「いえ。乃咲ちゃんと」

 

「いやいやいや!?何やってんの!?」

 

「私が改造しちゃったんだ……。ごめん、メグちゃん」

 

「か、かかか、改造!?乃咲くんからとったの!?」

 

「何の話!?」

 

「圭一の一はどこに行っちゃったの!?」

 

「いや、そこにまだあるよ!?」

 

「まだってなによ!?」

 

「ふむ……。タマはあるけど棒がなくなったと」

 

「圭ちゃん!?変なこと言ってないで説明してよ!?」

 

「片岡。俺だよ。乃咲圭一だ。故あって…………ヒナに女の子のかっこうにされた」

 

「ヒナに女の子にされた!?」

 

「大事なところを小声にしないでよ!!」

 

「クラハシエル、大声をあげてはしたないですわよ」

 

「誰のせいかな!?」

 

「俺の所為と言いたいなら、間違いなく、俺に女装をさせているお前の所為だと俺は断言する」

 

「なんなのこの人……!?なんかいつもの1.6倍くらい人の話を聞いてくれない……」

 

「割と倍率高くて草。俺はそんな真面目に人の話を聞いてない………ですわよ」

 

「その取ってつけたような感じになるならやめればいいのに。別にいいんじゃない?俺俺系女子でも」

 

「そんなわけにはいきませんわ。乃咲家の淑女たるもの、立てば最強、座れば無敵、あるく姿はボラタイルくらいの気概でいなければいけないのですわ!」

 

「可愛さの欠片もないね……」

 

「っていうか、なによボラタイルって」

 

「ゾンビゲーに出てくる強めのゾンビ」

 

「淑女要素どこ行ったのよ!?」

 

「ゾンビウィルスに感染すれば、男女問わずゾンビになってしまうのです……。ある意味、ゾンビは第三の性別と言えるでしょう。であるなら、男女の垣根をなくすなら、人類をまずはゾンビ化することでいろんな境目を曖昧にすればいいのですわ!」

 

「古今東西、あらゆるゾンビゲーの黒幕ですら言ったこと無さそうなセリフ出て来た!?」

 

 もはや口から勝手に出てくる適当な単語を止める気にもなれず、2人を適当に煙に巻きながら仕事に入る。

 

「ゔぁぁぁぁ……いらっしゃいませぇぇぇ〜」

 

「入らなくていい!入らなくていいから!ゾンビになりきらないで!!その見た目でそれやるのかなり絵面がアレだから!」

 

「は〜い♪」

 

「淑女モードは!?」

 

「の、乃咲……だよね?どうしたの……?」

 

「クラハシエルに女の子にされちゃった♪」

 

「……うわぁ」

 

「やめて!カエデちゃん、こっちをそんな目で見ないで!」

 

「だって……。2人で学園祭回った後にこれだよ……?十中八九、倉橋さんがなんかやったようにみえるじゃん?」

 

「まじほんそれ〜。お化け屋敷行ったんだけどぉ、ヒナったら悲鳴上げなかったんだよぉ〜?ちょー頼もしいんですけどー!」

 

「はぁ……。もう、乃咲くん。突っ込まないから真面目にやって。そろそろ怒るわよ」

 

「くぴ〜?」

 

「乃咲くん?」

 

「はい、ごめんなさい」

 

「あ、それはそれとして写真撮らせてね、圭ちゃん」

 

「あ、じゃあ私も。乃咲、動いちゃダメだよ?」

 

「はっ!?いや、事務所通して貰えると……」

 

「乃咲くん?」

 

「はい、ごめんなさい」

 

 

 怒った片岡は怖い。今日、俺の古事記に追加された。

 しかしまぁ、片岡の言う通りなので。おふざけもこの辺りで留めておいて、俺は特に声を作ることもなく堂々と接客に入った。

 

 さて、どうしたものかと歩きながら客の位置やみんなの配置を頭の中で照らし合わせてどう動くのが効率的かを考える。

 

 しかし、それも束の間。俺がいざ、その辺の適当な客にビッチ先生流の奥義を使おうとしたところで席に着いていた予想外のお客さんに呼び止められ、そそくさと彼の元に歩み寄る。

 

「注文、いいだろうか」

 

「ロヴロさん……?随分と久しぶりですね」

 

 控えめな声と割と控えめに挙げられた手を目印に歩いていくと、ビッチ流の元になった人というか、殺し屋の中ではビッチ先生の次に見慣れた人物がそこに居た。

 殺し屋ロヴロ。随分と久しぶりに見た。最後に会ったのはクラップスタナーを伝授された時だったか。

 

「……乃咲か。やはり似ているな、奴に」

 

 彼は芝居がかった動きで顎に手を当てると、俺をまじまじと見てそう呟いた。そう言えば、烏間先生の話によると死神にやられたんだっけ?よく生きていたな。

 それはそれとして、女装した姿を奴に似ていると評されるのは……俺的にも死神的にも微妙じゃないか?

 

「聞いたぞ。死神とやり合ったらしいな」

 

「一方的にやられただけっすよ。俺の反撃なんて掠りもしなかったんですから」

 

「反撃できるだけでも大金星だ。どれだけの殺し屋と標的がなす術なく奴に殺されたことか……。奴だけは次元が違うと思っていたが……やはり、抜きん出たものを感じるな」

 

 腕を組んでしみじみ呟くと、彼は再度俺を値踏みするように全身を視界に収めると、再度顎に手を当てる。

 

「どうだ?本当に殺し屋を目指してみるのは。以前あった時に比べて、今のキミは完成度とでも言うのだろうか。ちょっとした動作や雰囲気からしてケタが違う」

 

「そうですかね……?」

 

 烏間先生と訓練していても良く褒められる。強くなったとか、油断できなくなったとか。殺せんせーも然りだ。

 しかし、正直に言えばあまり実感はない。烏間先生に善戦できるようになったが、それでも本気の彼にはまだ技術では勝てないだろうし、なにより死神に負けたことは記憶に新しい。

 周りからしたら充分強い部類なのだろうし、俺自身、みんなより暴力って意味でなら強い自覚はあるけれど、ここ一番で負けてしまった上、結局のところゾーンが使えるからだろ?と自分で思わないわけではないからか、烏間先生にナイフを初めて当てた時程の成長の実感はない。

 

「ここに来るまでの動作一つとっても、キミの歩き方には無駄がなかったし、音を立てることもなかった。加えて、目の配り方が普通ではない。無意識なのだろうが、全体を俯瞰して現る位置情報を頭の中に叩き込もうとしてるように見えた」

 

 すっげ。一目でそこまでわかるもんなのか。

 いや、後半以外は本当に無意識だったけど。

 

「返答を急ぐ必要はない。なんとなく、興味を持った時でいい。ここに連絡してくれれば……いつでも相談に乗ろう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 彼から番号とアドレスの書かれた紙を受け取り、制服のポケットにしまう。あとで登録しておこう。

 

「さて、注文だが……。どんぐりつけ麺を頼もうか」

 

「かしこましたした。少々お待ちください」

 

 注文をとり、一礼して下がる。

 手早く注文を伝えて、また戻ってくると、これまた懐かしい姿の3人組がノシノシと山の方から歩いて来た。

 

「おう坊主、その格好にあってんな」

 

「ガストロ……さん」

 

「"さん"はいらねぇ。所詮コードネームだしな。なんかおもしれぇことやってるって聞いたから来てやったぜ」

 

 相変わらずチュパチュパと銃をしゃぶってる姿には狂気を感じるが、まぁ、これがこの人の個性ってことで。

 ひとまずはこの3人を開いてる席に案内する。道中、銃を持ってる姿を見てギョッとする一般客にどうフォローするかと考えたが、遠くの方からズボンを履いた中村がカンペを出して来たので、お笑い芸人のマイルド柳生さんのお弟子さんで、これはモデルガンですと軽く説明しておいた。

 

「俺ぁ、やっぱつけ麺だなぁ」

 

「俺もそれで。時に坊主、その後の体調はどうだい」

 

「おかげさまでなんとか。あのあと一回ぶっ倒れましたけど、今は元気にやってますよ」

 

「そうかい。お前らに渡した薬はシンプルに栄養剤だ。まだ残ってんなら疲れた時にでも飲みな」

 

「ありがとうございます、スモッグ」

 

「俺は"さん"いらねえって言ってねぇけど……まぁ、ここは良しとするわ。お前らのことだ。さんをつけるならおじさん呼びで〜とかやりだしそうだしよ」

 

「よくご存知で……。して、おじさんぬはどうします?」

 

「ぬ………。なぜ俺はコードネームで呼ばぬ?」

 

「しっくりくるので……」

 

「このガキ、さてはさっきから一応は敬語使ってるくせして大して俺らを敬ってねぇな?」

 

 別にそう言うわけでもないのだが。

 まぁ、確かに態度は改めるべきか。一応は客だし。

 

「まぁ、別に構わぬ。俺も2人と同じものにするぬ」

 

「かしこまりました。少しお待ちください」

 

 一礼して踵を返し、注文を届ける為に歩き出す。

 が、そこでふと、後ろから視線を感じたので振り返った。

 

「なにか?」

 

「……お前は、普久間島で出会った時に比べて格段に強くなったようだぬ。あの烏間とかいう教師と比べても遜色ない気配がするぬ。あの日みた生徒も確かにレベルは上がっているようだが、お前は別格ぬ。一体、何があったぬ?」

 

「……それ、似たようなこと言われんの今日で2回目っす。そんなになんか違いますかね?」

 

「あぁ、違うね。グリップが感じてることは俺らも感じてる。俺らの知ってるお前が毒でやられて弱ってる姿だったから、そう感じるだけなのかは知らねぇけどな。ちなみにその1回目ってのはここにいるか?どこのどいつだい?」

 

「あそこのおじさまです」

 

 殺し屋でごった返しているので、気兼ねなくロヴロさんを指し示すと、彼は彼でこちらを見ていたらしく目が合う。

 ロヴロさんの姿を視界に収めた3人が感心したように声を出し、俺に向かって笑いながら言った。

 

「あの人が言うなら勘違いじゃねぇな」

 

「あぁ。あの人ほどこっちの業界の人間を見て来た奴はいねぇ。よかったな坊主、お前相当だぜ」

 

「うぬ。その調子で精進するぬ。お前たちがあのモンスターを殺したと耳にする日を楽しみにしているぬ」

 

 彼らはそういうと立ち上がり、ロヴロさんと同じ席に座りに行ってしまった。

 勝手な席の移動は〜とか別に小言を言う必要はないか。まとまってくれた方が客入りの効率は良くなるし。

 

 それにしても、俺はそんなに変わったのかな。

 本当に自覚はないので思わず首を傾げてしまう。

 

 けどまぁ、下手に否定せずに喜んでおこう。強そうだとか、成長したとか言われて嫌がる奴はそうそういないだろうし。

 

 それを機にパタパタと忙しなく動き回り、茅野からスカートの中身見えちゃうよと注意を受けたりと色々ありながら仕事を続ける。ぶっちゃけ殺し屋だけで席が埋まりつつあるが、それでも学秀たちにはまだ勝てないんだろうなぁとしみじみ思う。

 

 この山の良さみたいなのをどうやって伝えるのか。その辺の戦略を考えた方が良さそうだよな。

 

 間違いなく客入りでは本校舎の方が上だ。椚ヶ丘というブランドあるけど、学秀自身の異様に広い人脈も相まって集客力では完敗だ。俺たちの中に実は有名インフルエンサーがいました、とかいう展開でもない限り、勝つことはできないだろう。

 ホームページも作りはしたが、それでもやっぱり物珍しさはあっても、わざわざ山を登ってまで食べに来たいかと言われると首を傾げてしまう程度の情報なのは俺たちだって理解してる。

 

 ふむ。お菓子屋とかは新しく開店する時に試食できるサンプルを街中で配って宣伝とかするらしいが、今からでも小さいモンブランでも作って配ってくるか?いや、流石に時間がないか。

 

 かと言って俺だけで考えてもアレだし、今日を乗り切ったら、みんなで作戦会議でもするか?

 

 考えながら接客を続ける。もしも今日、渚が女装している時に母ちゃんが来てもそういう趣ですとフォローできるようにしている女装だが、そもそもあの人、今日来るのだろうか?

 できるだけ早く来て欲しいもんだ。足が出てる部分が風に当たって寒い。女子って大変だな。

  

 なんて思っていると、また2名さまのお越しだ。

 何処か意味あり気に周りを見回しながら歩いてくる。あの目の動きは注意してるとかではなく、本当にただ眺めているだけだな。そんな挙動のお世辞にも人の目を惹きつけるタイプではない、さえない男女が2人。そんな失礼なことを考えながらカップルかなぁ?なんて邪推し、声を掛けた。

 

「いらっしゃいませ。2名様でしょうか?」

 

「あ、はい」

 

「下の方で食券はご購入されましたか?」

 

「いいえ」

 

「ですと少しお時間を頂きますが、よろしいでしょうか?」

 

「はい。大丈夫です」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 一礼しながら下がる。

 去り際と校舎に入る際にチラリと視線を向けるが、やはりあの2人組はキョロキョロとこの空間を見回していた。

 もしかして殺し屋の厳つい人たちが多いから緊張してるのか?とか思ったが、彼らの視線は客ではなく、校舎とか自然とか、机とか。そう言ったところにばかり注がれているようにみえる。

 

 挙動不審と言うほどではないが、落ち着いているとも言えない。なんとなくソワソワしているのはどうしてだ?

 なぜだか、あの2人が気になった。このE組の環境が珍しくてキョロつく人はこれまでも結構いたのに、何故だか彼らはそんなお客たちとも違うように見えてしまう。

 

「乃咲くん。これ、Eテーブルに配膳してあげて」

 

「了解〜」

 

 人間観察なんて痛いことをしているうちに原さんから配膳依頼が来たので、例の2人組のところに運搬する。

 ごゆっくりどーぞーとか言いつつ、机に置いておいたお冷が割と少なくなっていることに気付き、一度引っ込んで水の入ったウォーターポッドを持って再び戻ってくる。

 ささっと入れ替えて、また引っ込もうかと思った時。女性の方から何気なく声を掛けられた。

 

「このつけ麺。凄く美味しいですね」

 

「ありがとうございます。うちの料理自慢の渾身の逸品です」

 

「ホームページ見ましたけど、この山で採れたドングリと自然薯で作ってるんですよね?」

 

「あ、ホームページでご覧になられてお越しくださったんですね。ありがとうございます。実はここで提供させて頂いてるものは大半がこの山で採れた食材です。とは言っても砂糖とか調味料は市販品ですがね」

 

「いえ、充分すぎるくらい凄いですよ。でも少し勿体無いですね。良いものを出してるのに、アクセスの悪さで少し客足が遠のいてるように感じてしまいます」

 

「まぁ、実際にアクセスは物凄く悪いですね。夏は暑いし、冬は寒いし。側から見ても超絶不便でしょうけど……」

 

「大変じゃないですか?」

 

 問いかけて来ているのは女性だが、連れの男性の方も俺の目を覗き込むようにそんな問い掛けをしていた。

 ほんの少しだけ試すみたいな視線を受け止めつつ、俺は頷き、それでも自分なりに抱いているこの山への感想を告げる。

 

「確かに大変ですけど、自分たちは嫌いじゃありません。良いの基準は人それぞれですからね。実際、こうして過ごしていると不便さとは別の普通の校舎にはない良さがあるもんです」

 

「へぇ。例えば……?」

 

「まぁ、分かりやすいのはこの自然ですよね。さきほど説明させて頂いた通り、ここで提供している料理の大半はこの山で採ったものです。山菜も採れるし、川魚も獲れる。コンクリートジャングルでは中々目を向けることができない、そう言った部分を身近で感じられるのは本校舎にない良い部分だと思いますね」

 

「確かにそうですね」

 

「けど、やっぱり本校舎の方がよい所もあります。客入りで言えば……確実にあっちの方がアクセスしやすいので良いでしょうし。冷暖房設備もあって快適です。んでも、あっちの良さがこっちにないように、こっちの良さもあっちにはない。だから、一概にどっちの方が優れてるってこともないですかね。どっちも良い。それが自分の感想です」

 

 俺がそこまで語り合えると2人は興味深そうに頷きながらも、やはりこちらに視線を送り続けていた。

 やばい。すこし、いや、見ず知らずの人に馴れ馴れしく話しすぎただろうか。もう少し簡単に言うべきだったかも。

 そんな俺の心配を他所に、2人はふっと息を吐き、今までが決して強張った顔をしていたわけではないけれど、一際穏やかな表情を浮かべると静かに笑った。

 

「ごめんなさい。あなたを笑ったわけじゃないの。でも、後輩がしっかりこの山を好きでいてくれるのが嬉しくて」

 

「そうだね。安心したよ」

 

 笑みを浮かべる2人と対照的に俺は思わず首を傾げた。彼らから出て来た言葉は俺にとって予想外だった。

 

「あの、後輩って……」

 

「私たち、ここの卒業生なの。彼は永井くんで、私は森って言います。毎年来れてるわけじゃないんだけど……。なんだか、今年のこの教室の子たちは来年の後輩たちに比べてよく笑ってるように見えたから気になって来ちゃいました」

 

「卒業生……。もしかしてE組の先輩ですか?」

 

 そんなことを問い掛けつつ、2人を観察する。

 彼らは若いが、それでもE組の卒業生というには少し歳を取っているようにも見える。普通の学校なら珍しくもないだろうが、椚ヶ丘はそんなに歴史のある学校じゃない。2人が中学生くらいの頃は学校として存在すらしてなかったはずだ。

 

 しかし、2人の話しぶり的にこの山のことを知っているように聞こえたし、彼らの言ってることが本当ならさっきまでのこの空間を眺めるような視線の動きも懐かしさ故と説明ができる。

 

「いえ。椚ヶ丘学園の前身……椚ヶ丘学習塾の出身なんです」

 

「それも一期生。浅野先生の初めての生徒らしいんだ」

 

「……あっ、そういう」

 

 結構あっさり出て来た答えに納得した。

 椚ヶ丘学園はもともと浅野理事長が開いていた私塾が発展したものだ。このE組の校舎を旧校舎と呼ぶことがあるのは、俺たちの言う本校舎が建つ以前に使われていた、かつての私塾時代の名残りだと聞いたことがある。

 

「だから、この山のことと、この学舎で学んでる後輩のことが気になってて。この山から降りてくる子たちはいつも暗い顔ばかりしていたから。でも、キミのお陰で安心しました。だって浅野先生と同じことを言うんだもん。私たちが貰った教えをしっかり後輩が継承してくれてるんだなって」

 

「うん。『"良い"の基準は人それぞれ。誰もがその"良さ"を持っている訳ではない。思いやりを持って、自分の長所も他人の長所も良く理解できる。そんな子になってね』って。僕らに言ってくれたよね。あの1年のことは忘れたことはないよ」

 

「…………理事長が、そんなことを?」

 

 正直、想像できなかった。

 俺にとっての浅野先生は、魔王というかラスボスというか。決して生徒を見てない訳ではないけれど寄り添うようなことはせず、それぞれの良さで勝負するのではなく、むしろ足らない部分を如何に埋めるのか、それを埋めるためなら他人を使い捨てででも自分が生き残る為に強くなれってスタンスの人に見えるから。

 

 でも、2人が嘘をついてるようには見えないし、嘘をつく理由もないだろう。と言うことは事実なんだろうが……。

 

 俺と理事長の思考は似ている部分がある。あの人と比較するには自分が未熟がすぎることくらい理解しているけれど。でも、先輩方の語る理事長が俺たちの知る魔王になるまでの経緯が分からない。あんな風になるまでの思考が想像することができない。

 

 仮に……いや、彼らがそう語る以上。理事長はもともとそう言う人だったんだろう。生徒の良さを伸ばして理解させて、同じように周りの良さを気付かせ、自分に足らない部分は仲間の良さで。仲間の足らない部分を自分の良さで埋め合うような……。まるで、今のE組というか殺せんせーの教育スタンスに似た理想を抱いて教師をしていた。

 なら、どうしてこの校舎をE組の……差別の対象に据えるようなことをしたんだろう。なんで、かつての理想を否定するみたいな事をしてるんだろう。強さだけを重視して弱さを切り捨てるなんて先輩たちの浅野先生とは真逆だ。まるで、かつての自分の理想を戒めてるみたいに思えてならない。

 

「……いろいろあったからね」

 

 永井先輩は悲しそうな遠い目をして、森さんは今にも泣きそうな顔をして校舎へと視線を向けた。

 何があったのか気になった。どうしたんですかと問い掛けることは簡単だった。でも、それはしちゃいけないと思ったし、やっていいのか?と自問して止めることにした。

 

 彼らに取って沢山いる後輩の1人に過ぎない俺が土足で踏み込んで良いことではないと思ったのと、彼らの姿が雪村先生が亡くなったことを教えてくれた時の茅野に重なって見えたから。

 

「また来てください。理事長も卒業生が遊びに来るのを嫌がるような人ではありませんから」

 

「……うん、その時はそうさせて貰うよ」

 

 先輩2人はゆっくりと頷いてくれた。

 いつまでもこうしている訳にもいかないので、今度は客に向ける形の礼ではなく、俺なりに先輩たちに敬意を持って一礼して自分の仕事に戻った。

 彼らはいつの間にか帰ってしまったらしくて、俺が次の客への配膳をする頃にはいなくなっていた。

 

 土足で踏み込むつもりはないけれど、でも、やっぱりいつか聴いてみたいな。理事長が昔どんな授業をしていたのか。

 

 2人が去ったであろう方向をしみじみ眺めていると、草むらの方から何処かで見覚えのある男子が出て来た。

 あれ、どっかで見たことあるぞ、あの顔。なんか良い印象はなかった気がするけど何処で見たんだっけ?とか思っていると、彼の後ろの草むらから渚がひょこっと生えて来た。

 

 スカートを履いて女装した渚とコイツ何やってんだ?と首を傾げると同時、女装した渚と見知らぬ男という組み合わせが俺の海馬を刺激し、とぼとぼと山を下っていく少年の後ろ姿を見てようやく答えが出た。

 

「あっ……。求愛ダンスのユウジくん」

 

 通りで見覚えがある訳である。

 

 1人で納得してると、渚が不思議そうに、驚いたように俺の方に走って来た。

 

「の、乃咲?なに、その格好」

 

「いや、お前が女装してたからさ。流石に1人だけ女装させるのも可哀想かなって思って。まぁ、実際はヒナに無理やり穿かされたんだけどさ」

 

「の、乃咲……」

 

 渚がじぃーんと涙ぐんだ所で質問を投げる。

 

「ところでどうしたんだよ。あんな草むらで。あれ、ユウジくんだろ?普久間島で求愛ダンスしてた」

 

「きゅ、求愛ダンス……。う、うん……。いや、実は島の宿泊者を調べて学校バレしたみたいでさ。ちょうど学園祭してたから遊びに来たって。それを聞いた中村さんにボンボンから毟り取れそうだからって悪ノリさせられちゃって……」

 

「そ、そりゃ災難だったな」

 

「僕は良いけど……。でも、ユウジくんには酷いことしちゃった。最後には僕が嘘ついてたって、男だってバレちゃって」

 

「………そうか」

 

 となると、求愛ダンスとか言ったのは悪いことをした。

 勘違いとは言え、本人は本人なりに本気だったのだろう。

 

 ……それに、恋愛方面に関してはしっかり行動に移している彼の方がよっぽど俺なんかよりも立派だろうしな。

 

「はぁ……、はぁ……!あれ、彼はもう帰っちゃった?コスプレ撮影会でもっと金取れると思ってたのに」

 

 珍しく息を切らしながら走って来たカルマは手にコスプレ道具の入った袋を持っていた。駅前の激安の殿堂くらいにしか置いてなさそうなパーティーグッズである。

 

「お前、見ないなぁと思ってたらそんなことしてたのか」

 

「あれ、乃咲クン?なにしてんの?」

 

「色々あったんだよ。おい、まて、やめろ、写真を撮るな!」

 

「まぁまぁ、いいじゃないか。倉橋さんと茅野っちに写メ送っとこ」

 

「あの2人には散々写真撮られたよ……」

 

 俺の女装の何がいいのやら……。

 渚の女装が解除されると同時、俺も辞めようとしたらヒナに今日だけ!と告白保留してることまで持ち出されてお願いされてしまったので、結局一日中女装して過ごした。

 

 しかし、女装とはあんまり関係ないが1日目の売れ行きは悪くなかったものの、A組には遠く及ばない悔しい結果となった。

 

 

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