暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


142話 期末の時間

 

「僕らは努力の全てを注ぎ込みました。これまで敗北を何度か経験しましたが、今回の勝利に満足しています」

 

「ほぅ、その割には随分と接戦だったじゃないか」

 

 机の上で手を組む父が薄ら笑いを浮かべて言う。

 口元を軽く緩ませているだけの笑み。その笑い方が一切の本心ではなく、ただ笑っているというポーズを取っているだけということは……もはやこの学校の生徒の中では周知の事実だろう。

 

「それだけE組の戦略が優れていたと言うことです。こうして口にして認めるのは悔しいですが、圧倒的な差をつけて勝つことはほぼ不可能だったと思います」

 

「そうだね。どこで作ったツテなのかはあくまで想像するしか出来ないがE組の店を紹介した有名グルメブロガー。彼の発信力を使った集客というのは過程と結果がどうあれ、広告としてはこれ以上ないほどに優れていた」

 

 その一見フォローのように見える言葉に蓮たちは一瞬だけ安堵したかのように息を吐いたが、彼の次の言葉で吐いた息をヒュッと嫌な音を立てて飲み込むことになってしまった。

 

「だが、もしもその人脈がキミの敗北が起因でE組にもたらされたものだったとしても……同じことを言えるかな?」

 

「………どういう意味でしょうか」

 

「言葉通りの意味さ。想像してみたまえ。法田ユウジ……彼らを紹介したブロガーは芸能界の大物の子供だ。そんな親に甘やかされた金にものを言わせて食べ歩く食通。そんな彼がなぜ、あれだけアクセスが悪いE組の山をわざわざ訪れたのか」

 

 父はつらつらと言う語った。僕らが圧勝することができなかった理由をただ淡々と。

 

「たまたま目に入った?その可能性は否定しないさ。だが、良いものを食べて育った者がたかが中学の学園祭のブログを見たくらいでわざわざやってくるだろうか?親に甘やかされたお坊っちゃんが、わざわざ1キロ以上は続く山道を登って?」

 

「答えは否だ。そう言い切れるのは彼のブログに答えが書いてあるからだ。記事によれば……あの山に友達がいるらしい。それなら納得できるだろう。しかし、不思議な縁だと思わないかい?あの山で芸能人の子供なんて相手と知り合う可能性があるとしたら、芸能人並みにテレビに引っ張りだこたった父親を持つ乃咲くんくらいなものだが……彼はそう言う交友関係を持っていないのは新一くんからの話で知っている。ならば、誰が彼との縁を繋いだのか、そもそも何処でそんな縁を結んだのか」

 

 姿勢を崩すことなく、しかし目付き鋭く僕を見る。

 瞳の奥を覗き込むようにまっすぐ、射抜くように。

 

「普久間島さ」

 

「………普久間島?」

 

 荒木が思わず聞き返すように口を開く。しまったと言わんばかりに慌てて口を噤んだが、父さんは頷いた。

 

「あの島はそういう子供が集まりやすいよくないホテルがあるからね。実際、E組の滞在期間中に法田ユウジが宿泊してることも簡単に調べることができた。あの島の豊富なレジャー施設か、ビーチか何かで知り合っても不思議ではない」

 

 そこまで調べるか。自分の父親ながら敗因の分析の為にそこまでやる姿勢は恐れ入る。

 確かにその執念とでも言うべき姿勢は僕にはないものだ。しかし、父さんのそれは強者への執念というより、もはやE組への執着と言い換えるべき領域にある気がする。

 

「過去のキミが皆を無事に導いていたのなら……ここまでの接戦にはならなかった。たった一度の敗北がキミたちをここまで追い詰めたという自覚はあるかな?」

 

 確かに正論だ。僕らが勝ち続けていれば、こんな僅差での勝利にはならなかったことだろう。そういう意味で父の言葉に間違いはない。それは否定できない事実だ。

 だが、それはそれとして言っておかなければならない事実もある。だから僕は口を再び開く。

 

「確かにおっしゃる通りです。しかし、何度も言うようにE組の戦略は優れていました。正直な話し、今年のE組は通年の先輩方と比べると何かが違う。そんなE組が相手だからこそ、鎬を削る戦いが出来ています。実際のところ僕自身、自分の成長を感じています。僕だけでなく、みんなそれは感じているはずだ」

 

「なるほど、一理ある。だが、キミは誰よりも知っているだろう。私が求める強者としての姿は泥臭い鎬の削り合いをするまでもなく勝つ者だ。完勝する術はいくらでもあったはずだよ。相手は飲食店なのだから、悪い噂を立てることは簡単だし、食中毒は致命的だ。キミは害する努力を怠った」

 

「そうでしょうか。お言葉ですが理事長先生の教育は矛盾しています。僕らと対等以上に渡り合うまでに力をつけたE組の存在は本校舎の生徒に危機感を持たせている。5%の怠け者と95%の働き者がいる集団。5%を徹底的に差別することで95%に優越感を持たせ、あんな風になりたくないと努力させる。それが先生の教育方針だったと思いますが」

 

「そうだね。それで、その何処が矛盾しているのかな?」

 

「いえ。実際その構図は変わっていません。E組はE組だし僕らはA組だ。しかし、下から怠け者たちが突き上げてくることで、働き者たちは焦り出している。あなたが体育祭の時に僕に語った"負けるかもしれない恐怖"と戦えている状況です。怠け者が頑張り始めて、働き者が負けないように努力する。学校全体のレベルで言えば確実に上がるでしょう。それこそ、卒業したらその辺の学校の生徒に負けない強者と言えるレベルまで。それの何がご不満なのか、納得のいく説明を頂きたいです」

 

 僕は息を吐き、言葉を続ける。

 

「戦わずして勝つ。その姿勢は否定しません。けれど、戦ってもいないのに自分が強者だとなぜ言えるのでしょうか。僕は圭一やE組の連中と関わって強さにも方向性があることを知りました。戦わずして勝てるのは確かに強さの一つの答えでしょうが、それでは"敗北から学ぶ"ことも出来やしない。自分の土俵での強さしか知らない。それを井の中の蛙というのでは?」

 

 蓮たちからは言い過ぎだぞ、と半ば驚くような怯えるような視線を向けられるが、構わず言いたいことを言い切った。

 父さんはというとテーブルの上で腕を組み、口元にはやはり薄ら笑いを浮かべていたが、その目の奥は見えない。

 

「……確かにその通りだ。口が回るようになったね、浅野くん。弱い相手に勝っても強者にはなれない。言いたいことは理解しよう。だがね、それは私の望んだ強い者ではない」

 

「ではなんだというのです。強敵やてし……仲間との縁に恵まれてこそ僕は強くなれた。周りがいるから自分の力を理解できるし、上がいるからソイツを目指して力を磨ける。これが僕の結論であり、それはあなたの教える道とは違う」

 

「お前、いま手下って言いかけただろ……」

 

 瀬尾からのツッコミが入る。

 そんな声を無視して父さんはにっこりと微笑んだ。

 

「なるほどキミの考えは分かった。では浅野くん。3分だけ席を外してくれないか、友達の4人と話がしたい」

 

 明らかに何かを企んでいる笑みで退出を促される。

 

「なに、ちょっとした雑談だよ。彼らの考えを聞きたくてね」

 

 口元を緩め、目を細めるそれは確かに笑っているように見える。だが、それは本来の意味での笑顔だろう。

 笑うと言うのは本来牙を見せつける威嚇行為だ。はたしてこの大魔王の笑みの下に隠された牙は何を狙っているのか。

 

「出ていろ、浅野くん。いいよ3分くらい」

 

 蓮はそういうと僕の前に立ち、残る3人もそうした。

 父さんは何かを企んでいる。だが、それが何を狙ってのことなのか分からず、しかし残ることも許されず、後ろ髪を引かれながらしぶしぶ理事長室を後にした。

 

 それからちょうど3分経った頃。締め切られていた理事長室の扉が開いた。中の会話は何も聞こえなかったが、一体なにを話していたのか。問いかけようと身体を扉の方に向けると、さっきまで……それもたかが3分前とは明らかに様子が違う4人がぶつぶつと呟きながら姿を現した。

 

「E組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺す……」

 

「蓮!?瀬尾、荒木、小山!?」

 

 理事長室から出てきた4人はぶつぶつと濁った目で繰り返しながらフラフラと覚束ない足取りで去っていく。

 

「何を!?」

 

「なに。ちょっと憎悪を煽ってあげただけだよ。キミの言う『縁』なんてもの二言三言囁くだけで崩壊する。私の教える『強さ』とはそんな脆弱ないものではない」

 

 彼は僕を見た。いま出て行った4人よりも更にイカレた雰囲気で、目力で下から目を覗き込むように。

 

「浅野くん。キミの考えはよくわかった。だが、それは強くなる為の手段や道筋であって、圧勝できない理由にはならない。圧勝できないのは何故か?大層な理由は要らない。シンプルにキミが弱いからだ。私が一番長く教えた生徒(息子)であるキミに求めることは、強者になることではなく、強者であることなんだよ」

 

「————」

 

 言葉を失うというのはこう言うことなんだろう。

 E組の正体を暴いた時に初めて殺せんせーと出会った際と同等以上の衝撃だ。息子なりにその姿勢を理解していたつもりだが、まさかここまでだとは思っていなかった。

 

「もはや周りを圧倒し完璧に勝つことすらできないキミの強さなど誰も信じないよ。ここで言う信じるとは、信用や信頼ではなく、信仰とでも言うべきカリスマ性だ。圧倒的強者であるからこそ、周りは心酔し、付き従い、進んで自ら足場になる」

 

「それは……否定しないけど……だが……!」

 

「なら、キミは今回は見ていなさい。期末テストは私が執り仕切る。私とキミの視点の違いで最たるものは立ち位置さ。リーダーとしてのあり方がキミの語る強さの方向、ボスとしてのあり方が私の求める強さだ。端的に言えばね」

 

 父さんはそう言いながら、机の引き出しを開けて妙に年季の入った一冊の出席簿を取り出すと立ち上がった。

 

「怒り、憎悪、嫌悪。なんでもいいから凡ゆるものを糧に足場に自分だけでも生き残れるだけの強さを持つこと。それが一般生徒に私が求める強者としてのあり方で、周囲をそんな強者に変え、支配し、生き残らせること。それが私がキミに求める強者としてのあり方だ。見ていたまえ。どんなによく学び、正しく成長したとしても……強くなければ何の意味も価値も無くなってしまうことを私が一から教えてあげよう」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 学校内で俺たちを見る目が変わった。

 それもそうだろう。学園祭の最終成績で言えばE組はA組に負けた。だが、それでも高校勢を抑えて総合2位だったのだから。中学高校の6学年に各学年で4学級以上が参加して総合2位と言えばかなりの偉業だ。負けたのは悔しいけど。

 

 負けたのは悔しいけど!

 

「あ、乃咲。この前はありがとう」

 

「……何の話?」

 

「ほら、母さんのこと」

 

「あぁ……。気にしなくていいよ、俺のエゴだもん」

 

 飲み物を買いに本校舎の自販機に足を運ぶと、途中で渚に捕まり何事かと思えば律儀にお礼を言われてしまった。

 確かに渚のため〜とか思わなかったわけじゃないが、何度も言うように8割は俺のエゴを通した結果だ。だから、改めてお礼を言われるようなことではないだろう。

 

「お陰で母さんと話せたよ。成人までは一緒にいて欲しい、そっから先は好きに生きればいいからさ。せっかくアンタの親になれたんだからもう少し心配させて欲しいって。言ってくれたんだ、あの母さんが。凄く嬉しかったよ」

 

「……そっか。それならよかった。でも、別に俺がいなくてもお前らなら何とかなったと思うぞ」

 

「そんなことはわからないけど……でも、本当に嬉しかったんだ。母さんがそう言ってくれるようになったことも、乃咲が色々心配してくれたことも。わざわざ女装までしてくれてさ」

 

「それはできるだけ引っ張り出さないで欲しい思い出だけどな……。でも、俺も楽しかったし」

 

「お礼って言っちゃなんだけど、ジュースくらい奢るよ」

 

「…………なら、お言葉に甘えようかな」

 

 何はともあれ、俺の行動を嬉しかったと言ってくれる奴がいる。なら、これ以上は否定せずに素直に受け取るとするか。

 小銭を入れた渚に勧められるがまま、なっちゃんのボタンを押す。炭酸じゃないんだ?と聞かれたが、俺は生憎と炭酸が得意じゃない。舌が痛くなるんだよなぁ。あと、トメさんが骨が溶けるからやめなさいって。

 

「そう言えばもう直ぐまたテストあるね」

 

「だな。俺らと本校舎の連中が同じ土俵で戦える最後の機会だ。しっかり勝って終わりたいよなぁ」

 

「乃咲はどう?自信ある?」

 

「やってみないとってところ。殺せんせーにアレコレ詰め込まれてるからさ。なんだかんだ、高校の範囲は終わりそうだけど……。このままだとテスト期間中に下手したら大学の範囲までぶち込まれそうだから戦々恐々としてる。そっちは?英語とか得意科目だったよな?」

 

「うーん、まぁ、競合が多いからね。なんとも……。リスニングとかちょっとやばいかも。ビッチ先生がいるからだいぶ出来るようになったけど、日本語だって人によってはイントネーション違うから、実際の問題で聞き取れるかは微妙かな」

 

「んじゃあ、今度別の外人さんと話してみるか?最近……というか、ほら、お前の母ちゃんがうちの教室に放火しようとした時にいた殺し屋いただろ?あの人と連絡交換してるからさ、ちょっと話してみろよ」

 

「あー、あの時の……そっか、乃咲いたんだもんね。ていうか、ちゃっかり人脈広げてるし……」

 

「色々と便利だぞ、参考になる話も聞けるしな」

 

「へ〜。なら話してみたいなぁ……。あ、そうだ。今度うちで勉強会でもしない?母さんがその辺と許してくれたんだ」

 

「だいぶ緩くなったな」

 

「乃咲とも話したがってたよ?」

 

「後ろから『セーラームーン』とか呼んだらあの振り返り方やってくれっかな?」

 

「ノリノリでやると思うよ?本当に大好きだからね、あの作品。っていうか、乃咲もそう言うの見るの?」

 

「たまたま見ただけだけどな。渚は……やっぱり見せられたのか。あの母ちゃんに」

 

「あはは……まぁ、お陰様で太陽系の星には詳しくなれたかな」

 

 苦笑しながら話す渚に大変そうだなぁとか思いつつ、なっちゃんをゴクゴク。うん、なっちゃんのオレンジとQooの白ブドウは最強だよな。マック行くとドリンクは爽健美茶かQooだし。

 

「E組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺す」

 

「うぉっ!?」

 

 そろそろ山に戻ろうかと思い始めた頃、ふと何やら物騒な呟きを虚ろな目とふらふらした足取りで繰り返す集団をみた。

 何事かとよく見てみると、学秀を除く五英傑がなにやらトランス状態になってあり、学秀がそれを何とか押し戻そうと苦心しているようで、その異様な光景に面食らう。

 

「学秀く〜ん?なんか大変そうじゃのぉ」

 

「け、圭一!?いや、今はまずい!コイツら父さんに煽られてE組に対して敵対心剥き出しなんだ!近づくな!流石にこの流れでお前に潰されるのは蓮たちがあまりに不憫すぎる!」

 

「4人もいるのに心配されるのが五英傑なあたり、やっぱりおかしいよね……。というか、理事長先生今度は何したの!?」

 

「あれじゃね、球技大会の時に進藤にやってたマインドコントロール。ほら洗脳するみたいに耳元でねっとりと甲斐甲斐しく自己肯定感を高めて応援する嬉しくないASMRやってたじゃん」

 

「………あー」

 

「納得するのかそれで!?」

 

 珍しくギャーギャー騒いでる学秀とあの被害にあった五英傑が流石に不憫だと思ったので、4人の波長を見た。

 流石に感情を揺さぶってマインドコントロールしてるだけあって、波長の波は大きく激しい。

 

「これなら何とか出来るな」

 

 徐に4人に近づき、彼らが俺を睨みつけるのと全く同じタイミングで手のひら同士を打ち鳴らす。

 銃声にも迫るレベルの破裂音は彼らの波長を正面から揺さぶり、落ち着かせ、荒々しく昂っていた憎悪や嫌悪が緩やかに落ち着いていくのをゾーンに入ってしっかり見届ける。

 

「ぐっ……ぅ……。なんか……気持ち悪い……」

 

「ほんとだ……俺、なんでこんなE組を恨んでんだろ」

 

「あの理事長……、洗脳みたいなことできるのは知ってたけど……まさか、ここまでやるとは……」

 

「いや……ほんとに。浅野くんはよくあんな怖い人に正面から毅然と言い合えるね……。僕らのリーダーは流石だよ」

 

 多少具合悪そうにしている。そら、昂ってる感情を外から無理矢理押さえつけたんだから、行き場をなくしたソレが自分の中で渦巻く気持ち悪さは残るだろう。でも、今回は大目に見て欲しいもんだ。一応は親切心で助けたのだから。

 

「圭一?今のは一体……」

 

「猫騙しだよ、ちょっと激しめの。俺らはそろそろ山に戻るからそいつらのこと頼むな」

 

「……あぁ。すまない。ありがとう」

 

 人差し指を立てて内緒のジェスチャーを取りつつ、手を振りながら俺たちは彼らに背を向けて歩き出した。

 つか、理事長は一体どうしたんだろう?もともと生徒にそう言う洗脳染みた教育をするのに躊躇いのない人だったが……まさか五英傑にまで手を出すとは思わなかった。最近は俺とカルマが居るせいでその立場も揺らぎかけているが、それでも3年生で言えば指折りの実力者なのは確かだろうに。

 

「乃咲って器用なことするよね。クラップスタナーをめちゃくちゃ応用するじゃん。過呼吸になってる人を落ち着かせたり、洗脳を解いたり、素直に気絶させたりさ」

 

「精度出すにはゾーンありきだけどな。そう言う意味だとゾーン無しでやれちゃうお前の方がすごいと思うけど」

 

「そうかな?実感ないけど……でも乃咲みたいな使い方はまだ出来ないよ。他にどんな使い方あるかな」

 

「ん……そうだなぁ。渚って気配消すの上手いし、波長を読んで相手の意識が鈍くなってる瞬間を見極めれば……色んな部分で不意打ち出来ると思うぞ?例えば超反応しずらい攻撃とか、気付かれないように移動するとかさ。逆に波長を読んで攻撃を捌いたりとか。ガチの暗殺者ならマジで羨ましい能力だよな」

 

「でも乃咲の超スピードの方が良くない?絶対にその方が便利だし、やれることだって多いじゃん」

 

「否定はしないけどな。でも結局スピードでどうにかしてるってだけだし。だから、単純な技術で色々できるお前とか烏間先生の方が凄いと思うけどな」

 

 そこも悔しいところだ。悔しいと言うか、悲しいというか。そら努力で技術も身につけてるさ。でも、根底は自分のスペックなら色々と出来て当たり前なんじゃないか?もっとやれることがあるんじゃないか?と一概に親から貰ったチカラありきな気がして素直に喜び辛いのだ。

 

 なんだろ、この褒められても自分が凄いわけじゃないしなーって微妙な気持ちになる感じは。

 なんだろう。そのうち箇条書きマジックにかこつけてふざけて『天地魔闘!』とかやってみようと思ってたけど、俺ってあの方よりもミスト様の方が近いのかもしれない。

 

「スピードてどうにかしてるって言っても、技術自体は乃咲が頑張ったから使えるし、常に考えてるから色んな応用ができるんでしょ?謙遜なのか自虐なのかわからないことあるけどさ、僕は乃咲のそう言う情熱がある部分すごいと思うな」

 

「……な…渚…」

 

 今度はミストバーンごっこでもしてみるか。フェニックスウイングくらいなら俺の身体能力で再現できそうだし。カルマあたりからイタズラが飛んできたら『彼の健闘は尊敬に値するものだったよ、この私にフェニックスウイングまでも使わせたのだからな……』とかやってみるか?

 

 くだらないことを考えながら、くだらないことを渚と話して歩き慣れた道を歩き教室に戻る。

 何を隠そう、学園祭が終わったと思えば翌日からはテスト期間。椚ヶ丘のスケジュールはハードなのだ。恐らくは今度のテストこそE組全員でA組に勝つ!という気概に満ちているだろう。

 

「やべーぞ!乃咲、渚!ビックニュース!!」

 

「お、おう……。どうした杉野?」

 

 気概に満ち溢れ、やる気満々な仲間たちが見られると思って開けたドアの奥で待っていましたと言わんばかりに飛び出してくる杉野が興奮を隠すことなく、大声で叩きつけるように叫んだ。

 

「A組の担任が……理事長になったって!!?」

 

「…………………ちょっとまて、どっちの意味だ?A組の担任が理事長にジョブチェンジしたのか?それとも理事長がA組の担任を兼任するようになったのか?」

 

「後者だ!しかもそれだけじゃねぇ!このテスト期間中、A組の勉強は全部理事長が教えるんだと!」

 

「……………そいつは…………なんとまぁ」

 

 びっくりする内容なような、そうでもないような……。もしかして五英傑がマインドコントロールされてたのと関係あるのかな?そう言うことなら納得だ。

 あれかな。いつぞや見たいにテスト範囲でも調整するのか?ありえなくはない話だ。椚ヶ丘は基本的にエスカレーター式だからなのか、教科書自体は冬の期末の範囲で終わる。冬休み明けの本校舎は高校の範囲の予習、俺らはまた別の内容をやる。

 その為、どの程度まで予習しているのか測る名目で満点阻止の問題としてとんでも無くハードな問題が出てくるというのは、椚ヶ丘の生徒であるならある程度は認識してるだろう。

 

「……絶対に去年のテストとか目じゃない難易度のテストが来るよな。それこそ椚ヶ丘史上最難関のヤツ」

 

「だろうな……」

 

 悠馬が悩まし気に呟いた内容に同意した。

 なにせ、今年は例年よりも進みが早い。

 

「いくら理事長でもそこまでしてくる?」

 

「いや……タチが悪いことに『いくら何でも』とか言える不正寸前のやり方じゃないんだ。今回は」

 

「なんで?」

 

「忘れてないか?1学期の最初のテスト。あんとき、理事長がテスト範囲をずらした……というか、広げただろ?後で習うやつを前倒しする形でさ」

 

「あったなぁ……」

 

「あんとき、テスト範囲を前倒しする形で進めたから……例年よりも勉強の進みは速い筈だ。つーことは、教科書の内容としては最後になる今回の期末の内容は薄くなるだろ?薄くなるってか、範囲としては狭くなる。だから、テストを去年までと同じ形で作るなら問題の配置の割合的にスペースができる。その分を高得点の超難問にするってのができるんじゃないかなーって」

 

「えげつねぇ!?1学期のアレが後半になって正当な理由になるとか酷すぎんだろ!?」

 

「進藤ヒカルもびっくりな一手ね……」

 

「アイツは悪手に見える一手を絶好の一手に変えるのが上手いのであって不正はしとらんけどな……」

 

「てかふりーよ……ヒカ碁」

 

「まあその辺の話は置いておくとして……。そんな訳で難問を出す為の盤面は整ってる訳だ。『今年の3年生は本当に優秀だ。その証拠に驚異的なスピードで教科書の範囲を終えてしまったのですから。なので、私自身、一教師として彼らのレベルを何処まで上げられるのか挑戦したくなり、自ら教鞭を執り……A組の担任兼授業担当者として参加させていただきました』とか言うぜ?あの理事長なら。んで、親は椚ヶ丘学園理事長の浅野學峯というブランドを信仰すると」

 

「……あの教育関係の賞を総なめしてる理事長が自ら教える上に、やってるのは中学生のレベルを超えた難問。でも、理事長が教えてる都合上、一定数は高得点を取るだろう。その一部の生徒を見て『あんな難問でも解いてる子供がいる』という事実を認識して、自分の子供の点数の低さに『あんな問題解けるわけがない』と学校へ文句もつけられないと………」

 

「………………流石にこの学校の支配者だよな」

 

 思わず引き攣った笑いというか、苦笑を浮かべる仲間たちに心底同意せざるを得なかった。

 うちの父さんもそうだけど、理事長や学秀、殺せんせーや死神、カルマも生まれる時代が違かったらどんな立場になってたんだろうか。気になるもんだな。

 俺は……まぁ、そういう話題になると別に名前は上がらないか。もともと俺の才能と言うべき集中力は母さんに施された手術由来だし、別の時代に生まれてもそんな大それたことはできないだろう。間違いなく。

 

「ヌルフフフフ。相手にとって不足なしです!」

 

 しかし、そんな俺たちなどお構いなしに殺せんせーはいつもの笑い声で三日月の口をたたえて、交戦的に言った。

 まぁ、実際はその通りだと思う。理事長は強い。学秀も手強い。五英傑も油断できないし、A組の他の連中もE組の仲間たちも順位争いという意味では仲間であると同時にライバルだ。

 

 俺は1年の頃とは違う。勉強するのは周りに認められる為で順位が落ちる恐怖で学秀(強者)に怯えていたあの頃と違う。今の俺は挫折や惨めさを含めた最底辺を知っているし、足掻いて、学んで、競って勝つ喜びを知っている。

 弱い奴に勝っても意味はない。相手が強いなら自分がそれ以上に強くなればいい。だから、A組の担当が浅野先生に変わったとか言っても……正直、考えを冷静に整理すれば、俺たちのやるべきことは変わらないのだと思う。

 

 テストは実力を測るモノ。盤外戦術ではなく、よーいドン!で走り出した時のチカラを見る為のものだ。

 これに関しては害する努力が云々とか不粋なことは言わないでおこう。というか、もとより言うつもりもないし。

 

「さぁて。いよいよこの1年の集大成……暗殺の前に『学』の決戦です。みなさん、充分にA組と渡り合える実力を備えましたが………カルマくん、乃咲くん。前回のテストでトップ2に入ったキミたちにあえて聞きます。恐らくは椚ヶ丘史上最難関となる今回のテストですが、トップをとる心構えはありますか?」

 

「さぁねぇ。バカだから難しいことわかんないや」

 

「いつも通りやるだけっすよ。分かるまでやる。泥臭くても理解できるまで繰り返す。やっぱ、それが一番楽だわ」

 

 殺せんせーからの問い掛けに答える。

 

 最後の暗殺の前にA組との最終決戦だ。

 第二の刃を殺せんせーに見せる。もう賞金だけが目当てだった暗殺開始当初とは違うのだと、証明する。彼を殺して手に入れた、日々目減りしていく賞金に溺れていつか野垂れ死ぬかも知れないなんて絶対に思わせない。仮に賞金がなくても生きていける道を選ぶ知識と知恵を手に入れたのだと。

——殺せんせーから卒業できるのだと。彼に証明する為に。

——それが、俺たちにできる恩返しの一つだから。




あとかぎ

はい、あとがきです。

さて……学の最終決戦です。
どんなふうに落とし込めるか……。作者以上に頭のいいキャラは作れないって言いますけど……勉強関連を描写しようとするとまさにそれを感じますよねぇ……。

ガチ頭のいいキャラ作れる人は尊敬してます……。
それでも作りたくなる、頭の良い(設定)のキャラの業の深さ……。

今回もご愛読ありがとうございます!
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