暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


143話 期末の時間 2時間目

 

「さて皆さん。今回の目標はクラス全員が50位以内に入ることとします。一番最初のテストのリベンジといきましょう。あの頃は先生が焦りすぎていました……が、今回は違う。皆さんも充分すぎる実力を持ちましたし、私も油断はしません」

 

 殺せんせーは申し訳なさそうな顔をした後でニヤリと笑い、黒板に50位以内独占計画と書き出し、A組とE組が50位以内を独占する為の割合を書き出し、その為の計画内容というか勉強プランを並べた。

 

「しかし、これまでの方針を変えることもしません。皆さんの長所を伸ばすことで自分の強みを理解し誰とでも何とでも戦える人材になって貰いたい。そのスタンスは継続します。今日までその為に色々なことを伝えてきました。戦い方、戦う為の準備の仕方をね。そろそろ次のステップに進みましょう」

 

「強みを活かす次のステップ?」

 

「より正確に言えば、自分の強みを活かす為の次のステップとでもいいますか。これからは伸ばした強みを活かす為の視野の広さを養う為の訓練です。優れた能力は優れた使い方をしてこそ大きな威力を発揮するものですからね」

 

 仲間たちの頭の上に浮かぶ疑問符。

 まぁ、それもそうだろう。殺せんせーの言いたいことは理解できるが……それが勉強に活かせるものか?

 

 そんなことを思っていると、彼の言葉は続く。

 

「そこでです。このテスト期間はいつも通りに私が集中的に教える時間と共に、キミたちの得意科目を教え合いなさい。人に教えるには3倍理解してないといけないと言いますが、これは実際その通りです。教える側は教える内容の理解をより深め、教わる側は仲間が普段どんな風に考えて勉強をしているのか吸収することで視野を広げるのです」

 

「仲間が普段何を考えて勉強してるのか……か」

 

 そう言われてみると凄く新鮮な視点だと思う。

 作戦を考える時や指示を出す時に自分以外の思考をトレースすることはあるけど、勉強する時にしたことはないな。

 

 確かに気になる部分はある。悠馬とか前々回のテストでは貧困に喘ぐ国の情勢に親近感が湧いたとかで調べてると殺せんせーに目を付けられて現地まで連れて行かれたと言う。そのおかげもあって社会のテストではかなり良い所まで行ったという。

 それに岡島とかどんな思考回路で勉強してるのか興味がある。頭の中がエロで埋め尽くされてるが勉強が出来ないわけじゃない。あそこまで煩悩まみれだと勉強に支障がでそうなもんだが、椚ヶ丘で見ればアイツも上位レベルだし。保健体育以外で何を思って勉強してるのか気になる。

 

 興味の持ち方とか、考え方にはそれぞれの趣味趣向が出るところだろう。それこそ俺の考えもしなかったことを思いもしなかった視点で見てたりすることだろう。

 

 なるほど……。となると、今回の殺せんせーの目的は……。

 

「仲間の考え方というか、強みや良さを理解して自分に吸収することで視野を広げるってところですか」

 

「ヌルフフフフ。相変わらず察しがいいですねぇ。乃咲くん」

 

 殺せんせーは触手を揺らしながら頷いた。

 顔に朱色の二重丸を浮かべて口を開く。

 

「いま乃咲くんが言ったように、お互いの強みを理解し、取り入れることで新しい価値観や考え方ができるようになり、そうすることで視野を広げることに繋がります。案外それが自分のやり方以上に自分にあった考え方とで会えるかも知れませんよ?」

 

「……確かに面白そうかも」

 

「だな!ちょっとやってみようぜ!」

 

 このテスト期間の俺たちの方針は決まった。

 基本的に午前は殺せんせーからの分身個別テスト対策。午後は俺たち生徒の得意科目を教え合う時間になった。

 まぁ、いつも通りテスト期間は暗殺も訓練も基本的には中止。なので俺も基本的には軽く朝のフリーランニングとナイフやマチェットの素振りくらいに留めておく。

 

「ヌルフフフフ!さぁて!決まったところで記念すべきトップバッターは乃咲くんで行きましょう!」

 

「………………なんて?」

 

 さて、そんなこんなで迎える午後。かなり実りの多そうな時間を期待出来そうな楽しみと同時に一つ、憂鬱があった。

 

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「なんでトップバッターが俺なんだよ……」

 

「主席だからだろ」

 

「カルマもいるだろ」

 

「アイツ次席だし」

 

「理不尽な……」

 

 昼飯を食いながら俺はため息を吐く。各々好きな面子で山から出ない範囲で好きな場所で食べる方式だった昼飯も最近ではみんな教室で食べるようになった。しかしそんな中で少し騒がしい空間でも俺の呟きは割と大きく響いたらしい。

 

 前原からのぶっきらぼうな返答に再度ため息。

 

 得意科目を教えるとは言うが、ぶっちゃけ俺の得意科目ってなんだろう?テストの結果だけ見れば俺の点差は全部90点半ば以上。飛び抜けて得意と言える科目はないように思う。

 

「困るんだよなぁ……。なんだろ、新しい集団で自己紹介する時ってトップバッターの内容次第でその後の流れが決まるじゃん?テンプレがないのが困るって言うか、その後の流れが決まるのも責任重大だし……」

 

「いや、うちらとしてもトップバッターの内容によっては気後れしそうだからあんまりハードル上げないで欲しいとも思うんだけどなぁ……。ままならないな、そういうの」

 

「うーん……。殺せんせーのやらせたいことってただの勉強会じゃないんだよね……。その上でテンプレートがないのは確かに一番最初の人だと困るよね……。どうしよ?」

 

「いいんじゃない?どうせ乃咲だし。上手くやるでしょ」

 

「他人事だと思って適当言いよって……!」

 

 当の殺せんせーもこの教室にいる。いつもの様に甘いお菓子をもしゃもしゃと食べながら俺からの恨めしい視線に笑っていた。『さぁ、思う存分悩んでください』と言外に言ってる。

 

 次席のカルマはと言えば『乃咲クンがテンプレ作ってくれるから楽だよねぇ〜』とケラケラ笑ってるし。

 E組ではカルマに続く順位の竹林、悠馬、片岡は一緒に首を捻ってくれてるが……それでも答えは出せず、中村さんはどこ吹く風と言いたげにニヤニヤしてるし。

 

 ほんと、良い性格してるわ。カルマと中村さん。

 

「考え方を伝えるとか価値観や視野を広げるとか言いたいことは分かるんだけど、実際にそれをやるのって難しいよなぁ……」

 

「これもあれか、教えるには3倍理解って奴か……」

 

 そう。言ってしまえばこれもみんなに教える行為の一つだろう。テンプレのないトップバッターの俺は思い上がりでなければ2つ役割があると言って良いだろう。

 一つはもともとの得意科目を教えるって役割。

 そしてみんなに教え方を教える役割とでも言うべきか。

 

 教えるには3倍理解の理論から考えるなら、みんなに殺せんせーの思っている内容で勉強を教えるには俺がみんなの3倍は殺せんせーの言ってることと考えてることを理解してなきゃいけないわけだが。

 

「悠馬とかヒナとか奥田さん、渚みたいに明確に強みな教科があればそれを深掘り出来るんだろうけど……」

 

「あー。なまじ大体のことは出来ちゃうから何を教えたら良いのか分からないのか……」

 

「贅沢な悩みな気がするけど……でも、確かに乃咲と言えば数学!とかそう言う教科のイメージないかも」

 

「ってなると、ここはやっぱり考え方とかそう言う方向にシフトした方がいいんじゃない?開けば答えてくれるのは俺らもありがたいけど、そもそも何を聞けば良いのか分からないんじゃ質問しようがないしな」

 

 うーむ、と大体の仲間たちが腕を組んで俯きながら弁当をパクつく中でスッとヒナが手を上げた。隣で食ってるんだからそのまま声掛けてくれればいいのにと思いつつ、何も言わず俺を見てくるので、先生の真似をする。

 

「はい、倉橋さん。なんでしょう?」

 

「うん。あのね、圭ちゃんが教えたい内容が決まらないなら一つリクエストしたいなって」

 

「リクエスト?」

 

「そうそう。みんなさ、圭ちゃんのノート見たことある?」

 

「乃咲のノートって言うと……アレか。左のページにびっしり練習とか要点とかひたすら書き出して右のページに改めて整理した図解と解説書いてるってあの……」

 

「うん……。あのぱっと見では呪いの文章でも書いてるのかってくらいびっしりした左ページを書いてるとは別人じゃない?って思わず思いたくなるくらいに対照的なあの怪文書みたいに見えるノートなんだけど……」

 

「ヒナちゃん?これ泣いて良い?俺のノートさりげなく怪文書呼ばわりされてない?」

 

「大丈夫。そう見えるってだけだよ?圭ちゃんがそれだけ頑張って作ったノートだって私は知ってるもん。きっと世の中の怪文書もきっとそうやって出来たんだよね……」

 

「お?そんなこと言ったら泣くぞ?俺が泣くぞ?泣くぞ?すぐ泣くぞ?絶対泣くぞ?ほぉ〜ら泣くぞ!?」

 

「あはは、大好きだよ圭ちゃん?」

 

「………………………っす」

 

「………うわぁ、なにコイツら……」

 

「本当にな……。つか、あの一連のセリフで他人煽らず自分に適応する奴もそうそういないよな……」

 

 本当に彼女はそう言った好意を隠しもしなくなった。

 いや、たびたび恋愛相談をしてる前原や悠馬からは『別に倉橋は隠してなかったぞ』と言われてしまうのだが。それでもこうダイレクトに人前で言ってくることはなかったと思う。

 

 まぁ、だから。ここまで『みんなに何を教えれば良いのか?』とか『殺せんせーの意図が云々』とか『3倍理解がどうの』と言ってきたのは要するに……。

 

 ……失敗したくないのである。好きだと言ってくれた子の前でカッコ悪い所を見せたくないと思うのは自然なことだろう?

 そら勿論、今日まで散々カッコ悪い所を見せたさ。烏間先生に挑んで無様に負けたり、みんなを煽った挙句に50位に入れなかったり、体調不良で鷹岡の所に言ってボロボロになって帰ってきたり、ファザコン晒してみっともなく怒鳴り散らしたり、死神にボロ負けしたり、告白の返事を保留にしたりとか。

 

 列挙に暇がないくらいにカッコ悪い所を散々見せてきたからこそ、たまにはビシッと決めてカッコ付けたいところだ。

 この前なんて女装までしたしな。しかもキャラ崩壊気味なテンションで。あれ自体は必要だからやったことなのだから今は後悔はしてないけど、あのテンションをキャラ崩壊だと思われていないのであれば、それはそれで俺に対する印象どうなってるのか気になる所である。

 

「ま、私が圭ちゃんに教えて欲しいのは……あのノートを作る時に何を考えてるのかってことかな?」

 

「確かにあんな勉強の仕方してる時の心情は気になるけど……」

 

「違うよ杉野くん。そうじゃなくて、アレが圭ちゃんの勉強方法ならさ?あんなやり方をする意図を理解できれば学年主席の勉強方法と理屈が理解できるってことでしょ?それって凄く参考になるんじゃないかなって」

 

「……なるほど。倉橋の言う通りかも?」

 

 みんなヒナの言い分に納得したのか俺に視線を向けた。

 当の俺はと言えばなんとなく涼しい顔を作りながら腕を組み、そんなことで良いのか?と拍子抜けしたようで、同時にニヒルさを醸し出す表情を浮かべつつ、さりげなく上がりまくってる気がするハードルに怯えていた。

 

「ね、圭ちゃん。それでいいかな?」

 

 ヒナから向けられる期待の眼差しが痛い。

 しかし、ここまで来たら嫌とは言えない空気だし、何より下手に勉強を教えるよりは楽な気がするのも事実。

 しかし、それはそれとしてハードルを上げるのは勘弁して欲しいと内心で必死に叫びながら俺は表情と声を作る。

 出来るだけ自信満々に、任せておけ!と宣言するみたいに、そんくらい余裕だぜと態度と言葉と表情で示す。

 

「分かった。任せてくれ、俺が勉強中に考えてることをしっかり伝えさせて貰うからよ!」

 

「めちゃくちゃ自信なそうだけど大丈夫か!?」

 

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 あの後、圭ちゃんはトイレに駆け込んで昼休みの終わりまで帰って来なかった。気になって前ちんに様子を聞いてみたら、お腹を壊して個室に篭ってるとかでもなく、虚な瞳のままトイレの窓から空を見上げて黄昏てたとか。

 そして昼休みの終わりを告げるチャイムがなると、彼はギコギコとブリキのおもちゃのような足取りで教室に戻ってきた。

 

「け、圭ちゃん……?大丈夫?」

 

「大丈夫なりよ?えー、んじゃあ。これから授業を始めます」

 

「大丈夫じゃなさそうだよ!?」

 

 口では大丈夫と言いつつ、言葉はふにゃふにゃだし、授業を始めると言った割に彼の手には教材は一切見当たらない。

 いくら普段なにを思って勉強してるか伝えると言っても、それで本当に大丈夫なんだろうか?と心配になる。

 

「えー、皆さん。この問題を解いて下さい」

 

 そんな本調子じゃなさそうな声音で彼が黒板に書き出したのは1+2×3と流石にバカにされてると解釈されてもおかしくなさそうな余りに簡単な計算式だった。

 圭ちゃんのことだからそんなことはないんだろうけど、本当にどうしちゃったんだろう?

 

「えと……7だろ?」

 

「どうして?」

 

「え……?」

 

「別に9でもよくない?その方が数字も大きくて強そうじゃん。AC的にも」

 

「そら……お前……掛け算を最初にするからだろ」

 

「なんで?」

 

 本当にどうしちゃったの圭ちゃん……!?

 彼の問いかけに戸惑いながら答えたオカチンがまさかの質問に狼狽し、助けを求めるようにみんなを見た。

 けれど圭ちゃんはそんな様子にも構うことなく言葉を投げ続けた。口調とは裏腹に理詰めするように。

 

「どうして掛け算から先にするのか。それを聞きたいんだ。納得できる理屈を付けて教えてくれ」

 

「そりゃあ、そう習ったからで……」

 

「そう。実際は大体の人がその答えで納得すると思う。でも、実際はそう教えるだけの理屈があるんだ」

 

「うわっびっくりした!?急に戻るな!?」

 

「まぁ、良いから。一旦、先生に教わったから以外の理屈で答えて見てくれよ」

 

「だからってそっちに戻るなよ!?いつも通りでいいから!」

 

 オカチンと杉野くんからの怒涛のツッコミ。さすがに圭ちゃんも緊張がほぐれたのか、頷くといつもの調子で私たちに問い掛けてくる。『それで、どうしてだと思う?』と。

 その問いかけに首を傾げながら考えた。算数や数学で掛け算や割り算を最初に計算する理由はなんでなのか。

 こうして改めて聞かれると、『そう言うふうに習ったから』以外に理由らしい理由は思い当たらない。

 

 みんなも似たような反応で。一部の成績が良かったり、要領のいい子たちは分かってるのかも知れないけど、その場であえて口を開く人は誰もいない。

 知ってる、知らない問わず誰も何も言わない。そんな沈黙が教室に訪れた時、圭ちゃんは徐に×3の部分に丸をした。

 

「俺が思うに、×〇〇ってのはその表記の仕方だけだと数字として破綻してるからなんだと思う」

 

「破綻してる?」

 

「そう。例えばA×Bって『AがBコあるぞ』とか『AをB回足し算するぞ』って意味だろ?」

 

「そうだよな……?」

 

「で、単純に考えてこれでAを抜いて×Bだけにすると『Bコあるぞ』とか『B回足し算するぞ』って意味になるけど、これって言語的にも破綻してるよな?Bコあるぞ、B回足し算するって何がBコB回分あるんだよ?ってなるだろ?」

 

「言語的に破綻って……いや、そうかもだけど」

 

「だろ?だから、その破綻を無くすために先に解決してやらなきゃいけないんだ。何が何コあるって形にさ。イメージ的に掛け算とか割り算ってのは数字じゃなくて文字に近いんだって言えばいいかな?基本的に数式の答えは数値とか数字じゃなきゃいけないから、文字があっちゃいけない。だから今回の例題の場合だと先に×3ってのは何が3コあるのかを定義して数字にしてあげなきゃいけない。数式ってのはそれ自体が問題文として解釈できるから、問題文として成立させる為に文を整理するんだよ」

 

「あれって理屈的にはそういうことだったのか?」

 

「そう言うことだと思ってるぞ。ほら、こんな簡単な計算でも途中計算も書かされた記憶ないか?1+2×3=1+6=7って感じでさ。あれって『1コに加えて2コの塊が3つあります。つまりは1コと6コです。なので合計は7コです』って感じで×3はどこに掛かってるのかって解釈を説明してるんだよ。だから途中計算書かないと正解は貰えなかっただろ?実はアレって証明問題って名前じゃないだけでしっかり証明を求められてんだわ」

 

 なるほど証明問題か。確かにそれなら途中式を書かなきゃ満点貰えないよね。思えば深く考えたことはなかったけど、そう言う理由なら納得できる気がする。

 

「んじゃ、さっき俺は別に9でも良くない?って言っただろ?1+2×3の解を9にする為にはどうすればいい?」

 

「1+2にカッコつければ良いんだろ?」

 

「なんで?」

 

「カッコの部分を先に計算しなきゃいけなくなるから」

 

「なんで(1+2)×3って形になった途端にカッコがある部分を先に計算しなきゃ行かなくなるんだ?さっきの俺が話させてもらった理屈だと×3から計算するべきだろ?」

 

「……カッコの中にある式を3でかけてるから?」

 

「そうだ。カッコってのは『最初に計算する』って意味じゃなくて『この中の式は1つの塊として考える』ってことなんだと思う。だから先に(1+2)を計算しないと3をかける対象がないってことで破綻するんだ。だから(1+2)×3=3×3=9になる。まぁ、細かいツッコミは一旦飲み込んで欲しい」

 

 圭ちゃんはそこまで言うとチョークを置いた。

 チョークを置き、教卓越しに私たちと向き合うように立って教室中を見渡すように視線を向けて話し出した。

 

「俺の説明が正しいかはさておき、今話した内容は俺が習った時に思い、復習してて感じたことだ。『どうして掛け算からやらなきゃいけないんだろう?』『どうしてカッコの中の式を優先するんだろう?』そんな風に気になって、納得出来なかったから自分なりに納得できるまで考えていた内容を今、話させてもらった」

 

 納得出来ないから自分なりに納得できるまで考える。それは言葉だけなら珍しくないと思う。

 でも、実際にできる人はどれくらいのいるんだろう?疑問を持って、納得できないからできるまで考えて、その上で他人に話せるまで理解を深める。

 それはきっと簡単ではないことで。だからこそ、圭ちゃんのノートの中身があんな感じなことになんとなく納得できた。

 

「今回のこの場で俺が伝えたかったのは、理解してるか?ってことじゃなくて納得してるか?ってこと。方程式だとか、公式だとか。あの辺だってそうだ。最後にその式を使うのは自分の意思なんだから。この式を使えば解けると理解し、だからそれを使うんだと自分を納得させる。要するに腹落ちすることが大切だって俺は言いたい。単に勉強に対してだけというより、何かを思い、考える。思考を回す上での一つの目標として」

 

 圭ちゃんはもう一度私たちを見た。

 

「いろんなことに理屈がある。俺だってそういうの全部理解して行動できてるわけじゃないし、できるとも思わない。でも『そう教わったから』で思考を止めずに『なんでそう教えるのか』を考えて見てくれ。きっとそれがテストとか勉強とかで口酸っぱく言われる『問題を"見る"』ってことなんだと思うから」

 

 問題を"見る"。その言い方が彼らしいと思ったのは、以前に聞いた彼の理想像とでも言うべき、将来の夢とは違うがそれでも彼が目指している大人のイメージが印象的だったからだろう。

 相手を"見る"ことができる人間になりたい。夏休みやその後でそう言っているのを何度か聞いた。きっとそれは圭ちゃんが『乃咲先生のお子さん』という扱いを受けてきたからなんだろう。

 烏間先生や殺せんせーがそう言う色眼鏡なしに乃咲圭一を見てくれた。それが嬉しかったから自分もそう言う風にしてあげられる大人になりたい。それが圭ちゃんの目標だもんね。

 

 理解と納得の大切さ。

 それが圭ちゃんが伝えたいことだった。

 

「さて。これが勉強中に俺が考えてる内容だ。5教科って言うか算数を例に出しただけの……ぶっちゃけ総合学習みたいな授業になっちまったけど……。これで俺からの授業を終わらせて貰う。ご清聴ありがとうございました……で良いのかな?勉強とかそれ以外でも良いから分かんないとか納得できないとかあったら言ってくれ。一緒に考えるくらいはできるから」

 

 形だけ。それこそ、そうするべきなんじゃないかって雰囲気に合わせて一礼した圭ちゃんが言った。

 確かに5教科とかテストに出るタイプの授業じゃなかった。正直に言えばイメージしてたのとは随分と違う。彼のノートをどう言う意図で書いてるのかを説明して貰って、こっちからも質問してとかそんな時間になると思ってたから。

 

 無駄な時間だとは思えなかった。わかばパークの綾香ちゃんが彼に勉強を教わってから慕うようになった理由がなんとなく分かった気がする。本人は否定するだろうけど、学校で屈指の秀才から正真正銘の最下位になり、そこからさらに自他共に認める主席になる経験をして、こんな風に自分の考え方を伝えられる圭ちゃんなら……先生とか案外向いてるんじゃないかって思った。

 

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「何つーか。色々と意外な授業だったよな」

 

「そうねぇ……。乃咲くんとカルマくんが普段何を考えて勉強してるのかって言うから少し『これをやれば劇的に変わる!』みたいなの期待しちゃってたけど、うちの主席候補の2人は……なんだかんだ努力って姿勢は共通だったね」

 

「『腹落ちするまで考えろ』って姿勢の乃咲と『手間暇惜しまずに積み重ねろ』って姿勢のカルマだもんな。そりゃあ?今年ずっと一緒にいた訳だし?2人がそう言う奴らなのは知ってたけど……本当に頑張るしかないんだなって」

 

 俺とカルマからの授業が終わった。バチボコに緊張しまくってた俺とは違ってカルマは比較的に落ち着いてたが、いつものおちょくる様な調子ではなく、真剣にボチボチ地道に継続することの大切さを伝えながらまさかの漸化式をレクチャーしていた。

 

『勉強も嫌がらせも悪戯も同じだよ。手間暇惜しんじゃダメ。その手間暇掛けた事前準備の積み重ねが成果になるんだからさ。本当に結果が欲しいなら念には念を入れないとね』

 

 正直、感動した。あのニヤけ面で飄々としていたカルマがこんな風に真剣に誰かに考えを伝える姿を見るとは。

 一番最初、不良に絡まれてボコられてる俺と出会った時ですら驚きつつもなんだかんだでニヤニヤしてたのに。

 

「さて。乃咲くんとカルマくんに第一弾目として授業をして貰いましたが、2人の考え方を聞いて、何を感じましたか?」

 

「2人の特徴っていうか、普段見てる姿ってこんなこと考えてるからなのかなって思う部分があったよ」

 

「ほぅ?例えばどのような?」

 

「乃咲ってなんか事件がある度にかなり高い精度で相手の思惑だとか、その後の展開を言い当てるじゃん。アレもなんでこんなことになってるのか、何が目的なのか、誰がやったのかって。ただ漠然と考えてるんじゃなくて、自分の中で腹落ちできる理屈に辿り着くまで繰り返し考えてるからなのかなって」

 

「カルマくんも似たような感じ。殺せんせーに嫌がらせする為に朝市まで行って新鮮なタコをわざわざ買ってきたり、嫌がらせの為の道具持ち歩いてるけど、その中身って思えば彼自身がこれはキツイって知ってなきゃ使わない奴だろうし、それの準備だって自力だよね。ゴキブリの粉末とか、わざわざゴキを見つけてすり潰してるんだろうし」

 

「その通りです。常に飄々としていてさり気なく高得点を叩き出すカルマくん、最下位から主席まで駆け抜けた乃咲くん。結果だけ見ると特別優秀に見える2人ですが、今皆さんに聞いてもらった通り、やってることは何も特別ではありません。地道に積み重ねる、納得するまで考える。それだけのことなのです」

 

 殺せんせーがそんな風に言うのを少しこそばゆく聴きながら、自分がみんなに言って聞かせた内容を思い出す。

 

「しかし、実際に聞いてみてどうでしたか?こうして実例を出しながら考え方を聞いてみると思わず感心するでしょう?言われてみればなんで考えてみなかったのか、そう言われると確かにその通りかもしれない。このテスト期間で皆さんにはこれを感じて欲しいのです。仲間の考え方で視野が広がる瞬間、それによって感じる仲間へのリスペクト。仲間の強みを自分の強みに昇華させ、高め合いながら今度こそ勝つのです!」

 

 殺せんせーが号令をかける。

 「おー!!」と元気よく続く仲間たちの声。

 

 しかし、俺は思った。みんなに向かって話しながら矛盾に気付いてしまった。どんなに理解していても、最後に選ぶのは自分。だから自分を納得させることが大切なのだと言いながら、ここ最近で考えていた内容。その酷い自己矛盾に。

 

 殺せんせーを殺さなければ来年、地球は存在しないかもしれない。だから、殺せんせーは殺さなくちゃいけない。

 

 これはきっと殺せんせーを殺す理由への理解だ。

 

 でも、その上で殺したいか、殺したくないか。そこに関しては納得の問題だと。みんなに偉そうに講釈垂れた今。ようやくその微妙な違いについて自分の中で言語化することができた。

 殺す、殺さないは、その納得の先にある意思決定なんだな。理解した気になっていて結局は理解できてなかった。

——殺さなきゃいけない理由は理解してる。

 なるほど、確かに誰かに教えることで深まる理解もあるのだと教訓になったと言えるだろう。

——殺すことが成長の証明だと理解もしてる。

 本当に難しい話だ。ケリをつけなきゃいけないことが多すぎる。問題の解決策は理解してるのに、納得が出来てない。

 もっと良い解決策はないのかと頭の中で考えようとしても、理解がそれを否定する。だって、そんなものがあるのなら、とっくに俺よりも頭のいい誰が行動に移しているだろう。各国首脳か、日本政府かのいずれかが。

——でも、やっぱり納得なんて出来るわけがなかった。

 目先の勉強に集中するべきなのは分かっている。でも、やっぱりそちらばかりが気になってしまうのは仕方ないだろう。

 思考を勉強の方向へ切り替えることに難儀する。そんな自分を納得させる為に俺は自分の中で勉強する理由を並べ続け、なんとか試験勉強に集中するべく試みるのだった。




あとがき

はい、後書きです。

今回は原作ではあまり掘り下げのなかった生徒同士で教え合わせたって所をなんとなく自分の解釈でやって見ました……。
もうちょい先の話ですが、理事長の教育と殺せんせーの教育の目指す先は同じだったってことは、こんなことやっててもおかしくはないかも?という自分の妄想回です。

もう少しテスト勉強回は続きます。
次回、まさかの人物が登場!?

今回もご愛読ありがとうございます!
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