加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!
「E組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺す」
「E組潰すE組潰すE組潰すE組潰すE組潰すE組潰す」
「ぺぺぺ ぺぺぺ ぺぺぺぺ ペペ」
迎えた決戦当日。俺たちは異様な雰囲気を出すA組が廊下の窓に顔を貼り付けながらこちらを凝視する中でその雰囲気に半ば引きながら俺たちの試験会場に向かっていた。
B組、C組、D組の連中も何だか殺気立っている。A組程ではないが、彼らとしてもこれ以上エンドに負けたくないのだろう。
「なぁ、1人だけ復活の呪文じゃなかったか」
「学秀なりにマインドコントロールを解いてやろうとしたらしいんだが……流石に大魔王の洗脳は解けなかったらしい。あれだこれだと試してるうちに殺すとか潰すとか物騒なことは言わなくなったが、復活の呪文しか言えなくなったとか」
「それ悪化してるんじゃ……?」
「まあ、いざとなったらクラップスタナー使えば洗脳は解ける。そん時は渚の出番だな」
「なんで僕!?」
「理性ない獣の巣窟に放り込まれる渚……絵になるだろ」
「うわっ、久しぶりに出たよ。乃咲の異常性癖……。触手が云々最近言ってなかったと思ったらこれだ」
「ね。でも、渚くんにセクハラしてる時の圭ちゃんって烏間先生と人類辞めた戦闘訓練してる時の当社比2倍は楽しそうにしてるし、これで良いんじゃない?」
「お前ら、俺のことなんだと思ってんだよ……」
「それは僕のセリフだよ!?みんな止めてよ!?」
A組の前を通り過ぎ、俺たちの試験会場に辿り着く。
みんなに一言断って気合い入れるために一番乗りは俺に譲って貰って、頬を叩き、教室の扉を開けたその時。
「おはようございます。E組の皆さん。今回も事情は律さんから聞いてるダス」
「ひゃぁん!?」
扉を開けた先には見知らぬ人物がいた。いや、格好は見たことがある。そしてよくよく見れば知ってる人物だ。
「り、律役のひと……」
「お久しぶりダス、乃咲さん」
お、俺の名前を知ってるのか、この人。
女子への言葉ではないと思うが、誰もいないと思ってた教室の中……それも扉のすぐ前に結構ガタイのいい人がいて思わず乙女な部分が出てしまったではないか。
というか、自分でいうのも何だが俺が気配に気付かないってどんなレベルの隠密だ。最近では迷彩服で擬態してる烏間先生のことも見つけられるようになってきたのに。思いがけない強者と出会ってしまった。
「皆さんもお久しぶりダス。話は聞いてるダス。全員で50位以内が目標だとか。本物の律さんはこう分析していたダス。『その目標を達成するには、私たちのような成績下位組の頑張りにかかっている』と。大事なのは私達の行動ダス。微力ながらお手伝いさせていただきダス」
うーん。良い人っぽいよな、この律役の人。初めて見た時、『そこは3次元の女が居ていい場所じゃねぇ!』とか思ってごめんなさい。このテスト会場に置いてそこはアンタの席だよ、一緒に頑張ろうな、律っぽいひと。
「うん、私たちも頑張ろう!」
こう言う時、ヒナはいい清涼剤になる。別にどんよりしてたわけじゃないが、彼女の明るい雰囲気と快活な物言いは場を爽やかにしてくれる。この一年でいろんな力を身に付けたがムードメーカーとしての存在感ではやっぱり勝てないな。
まぁ、もともと勝負してるわけでもないけどさ。
席に着き、必要な筆記用具を用意する。
特にシャーペンは念入りに2本だ。シャー芯は3本づつ入れてあるが、万一、芯が中折れしてジャムった時のためにな。なんなら、スペアのスペアまで考えてあと2本くらいは用意しておきたいが、流石に悪目立ちしそうなので止める。
「ねぇねぇ、圭ちゃん」
「ん?どったの」
「ペン、一本交換しない?」
「いいよ、ほら」
あとは精神統一でもしてようかと思った矢先にヒナが話しかけてきた。何かと思えばペンを交換しようと言い出したので、特に拒む理由もないし、素直に差し出す。
しかし、それが意外だったのか、俺が差し出してるペンを受け取ることなく彼女はキョトンとしていた。
「あ、ありがとう。えへへ……なんかちょっと意外かも。圭ちゃんのことだからてっきり、何で?とか困惑するのが最初かと思ってたから。まさかこんなあっさり……」
「願掛けみたいなもんだろ。外国の戦争映画で兵士がドッグタグ交換するようなもんだ。それに……まぁ、気合いも入るだろ。ヒナのペンで不甲斐ない点数は取れないさ」
「っ……。圭ちゃんってほんと、そう言うところだよ」
ちょっと何とも言えないリアクションをしながら、彼女は俺のペンを受け取り、代わりに持ってきていたペンを手のひらに載せてきた。芯が折れないことで有名なあのシャーペンだ。白と桃色の女の子らしいさを感じる色合いのそれを丁寧に受け取った。
うっかり後ろの消しゴム使わないようにしないと。
「………」
「…………ん?茅野?」
「うん?どうかした?」
「いや、こっち見てたから。もしかして茅野もやりたいのか、この謎の儀式というか願掛け」
「……………………いいの?倉橋さんは」
「いいよ?みんなの力が圭ちゃんにっ!ってやろ?」
「えっと…………倉橋さんが乃咲が喜びそうな言い回ししてるから……フロムのセリフ?」
「違うんだよなぁ。んでも、茅野がそう言う部分を理解しようとしてくれたことがおじさんは嬉しいよ。よし、そんな君にはフロムのなんたるかを教えてあげよう。まずはぽかぽかアイルー村から始めるといい。可愛い猫たちのほのぼのストーリーだよ。アイルー村が終わったらBloodborneをやろう。大丈夫ほんのちょっと過激なサファリパークみたいなゲームさ。やってることはモンハンと大体変わらないよ。ゲームを始めたばかりのプレイヤーに気付くと駆け寄ってくれるワンちゃん、まるで歓迎するみたいにプレイヤーを待ち構えているキャンプファイヤー。そこを越えた先にはワンちゃんが2匹も待っててくれるんだぞ。しかもゲームを頑張って進めればいずれ、ちぃかわ、プリキュア、貞子とも会えるんだ。その貞子が彼氏持ちで————」
「うわっ、びっくりした……」
「あーあーあーあー。テスト前なのに乃咲の変なスイッチ入っちゃったよわ。どぉーするぅ?」
「つか、そんなゲームなのか、Bloodborne」
「……………まぁ、嘘は言ってないかなぁ」
「倉橋さん、なんで目を逸らすの?」
「だって、ものは言いようというか、なんというか……」
「つか倉橋もやってんのか」
「共通の話題持ちたかったから……若気の至り?」
「……女子ウケもするのか、ちょっとやってみるかな」
「お、岡島もやるのか。ブラボはいいぞ、何せ初期で貰える武器が最強格だ。鉈を振れればクリアできるとはよく言ったものだ。けど俺はやっぱりルド剣派だなぁ。あととっつきとピザカッター。人間がパイルバンカーを装備できるゲームなんてそうそうないぞ。ピザカッターも中毒性あるんだわ!あとは日本語音声の声優さんがめちゃくちゃ豪華なんだよ。しかもここだけの話、ざーさんが声を当ててるキャラがだいぶぶっ飛んでてな。いつもクチュクチュと妄想を掻き立てる水音を立ててる上に会う度におねだりしてくるんだ。けど聖女なんだよ!ざーさんのあんなキャラを見れるのは間違いなくブラボだけだぜ。付け加えるなら、いろんなニーズに応えられる性癖のデパートでもある。迷子で故郷を思って泣いてる神秘的な娘、リボンを巻いた手で巨大な豚のケツアナをぶち抜く女の子だったり、ランランラーンってダウナー系の声で歌う美女の人形が素体の敵とかさ!」
「まじか………本気で気になってきたぞ。テスト終わったら自分へのご褒美ってことで買っちゃうか」
「つか、だいぶ好みが火薬庫寄りじゃん」
「なんならソフト貸してやろうか?鑑賞用、実用用、保管用、布教用で4つは持ってるからな」
「買い過ぎだろ!?」
「………倉橋さん、ちなみに今の乃咲の発言はあってるの?」
「…………一部カルト的な妄想はあるけど大体合ってるかな」
「なんで目を逸らすの?」
「………ものは言いようだよねぇーって」
「っていうか、乃咲史上最長のセリフじゃないのか。いいのか……?主人公の最長のセリフが物語の確信に一切触れないの」
「ちょっと千葉くん!?メタセリフを作者の代わりに代弁するのは私のジョブでしょ!!?」
「ジョブではないよね、不破さん……」
「なんだ、この騒ぎは……。お前ら今更足掻いたところで何も変わらないんだからさっさと席に着け!」
いつの間にかヒートアップしてしまったらしい。おずおずと差し出してきた茅野とペンを交換してみんな席に着く。
そう言えば、いつの間にか手持ちの準備していたペン全て、ヒナと茅野に渡してしまった。手元には彼女らのペンが残ったが……あれ、なんか違くない?俺の準備なんだったの……?
昨日、唐突になんだかペンの動作不良で困るんじゃないかって不安に駆られてしっかり分解してメンテしたシャーペン。別にテスト勉強中に部屋が散らかってることが気になってる時の心理のそれだと知りながらも手を進めたわけじゃないが……。
まぁ、いいか。あの2人がそれでやる気出せるなら。
受け取ったペンを机の左上に並べる。ペンはあえてくっつけておかない。何となく、消しゴムとペンともう一本の間に等間隔の隙間を空ける。
んでも、ヒナはともかく茅野もあれでやる気出せるのか?なんつーかあんなおまじないをやりたがることが予想外だった。何の根拠もないげん担ぎを信じるタイプだったのか。
意外な一面があるもんだ。
「よし、定刻になったので試験を開始する。少しでも不審な動きをしたら即刻失格にするので注意すること」
チャイムがなった。テストをやる時の決まり文句みたいなことを言って本校舎の教師が問題と解答用紙を配布する。
さて、
俺はヒナのペンを握って開始の合図と共に用紙を開いた。
テストも終盤。国、英、社、理は全て解けた。
E組でみんなに教わったこと、先生から教わった並列思考を駆使して全ての解答欄を埋め、しっかり全部見直して間違いがないことを確認して、今日までの勉強は無駄ではなく、自信を持って全部解ったと言える解答をしたと言える。
しかし、やはりというか理科と数学は難関だ。
もちろんそれ以外の科目もやばかった。国語は半ば日本史に片足突っ込んでたし、英語は多分ビッチ先生以上にネイティブな発音だったからリスニングも際どかったし、社会の問題はマニアック過ぎた。理科も問題を見た時に思わず頭が痛くなるような問題だったが、なんとかやれた。
んで、現在進行形で受けているのが数学だが……。
「(なんだこれ………。このえげつない問題の量……!?)」
1問につき1点みたいな問題が複数とテストでありがちな教科書の公式をまるまるコピーして穴埋めにした問題もあるにはあるが、カッコA、B、C、D、Eを全部入れて1点とかマジか!?
こんな感じの問題ってカッコ1つにつき1点とかのボーナス問題になるのが相場なんだろうが……予想以上にえげつない。
シンプルに問題数が多すぎる。証明だとか文章問題意外は全部1点。その癖、ぱっと見で単純な計算問題が30問以上はある。計算すれば30点は貰えると考えられるが。あとは高得点な代わりに超ハードな問題がいくつか。ラス前に漸化式もあるし、最終問題に至っては20点も配点されてる。つーか、中学生のテストで漸化式が出る上にまだ目は通してないけど最終問題はそれ以上に配点高いとかどんなテストだ……?
けど、解答欄はそれに対してシンプルなA4の用紙1枚だけ。どうやら計算問題は途中式を書く必要はなく、その問いに対する解答だけ書けば良いらしい。まぁ、それでも最終問題までめちゃくちゃ道のりが長いけど。
げんなりしながら並列思考を開始。問題用紙が冊子の様な形式ではないのを良いことに机一杯に広げ、最終問題を読みながら暗算を開始する。
【1辺aの立方体が周期的に並び、各頂点と中心に原子が位置する結晶構造を体心立方格子構造という。
体心立方格子構造において原子A0に着目した時、空間内の全ての点のうち、他のどの原子よりもA0に近い点の集合が作る領域をD0とする。この時のD0の体積を求めよ】
「(あえてカルシウムとかナトリウムだとかアルカリ金属だとか言ってる部分は無視して読んだが……実際、あんまり必要ない情報だよな……。恐らく大事なのは体心立方格子って部分と求める条件だけ。確か体心立方格子って真ん中の原子の大きさは各頂点にある1/8の原子の和と同じになる奴だったか……?)」
暗算を続けながら問題文を熟読する。
この問題、パッと思いつく方法は2つだ。一つは愚直に真ん中のD0の体積を計算して求める方法。あとはその計算を少し楽にする為に補助線を使って図形を延長してやることだが……。
正直、シンプルに計算を繰り返して証明することは難しくない。でも、流石に時間が掛かる。だが、ここで引っ掛かるのは体心立方格子という単語だ。単にA0に最も近い点の領域を計算するだけの問題なら、正直要らない言葉のはずだ。
なのに、わざわざ入れている。なぜ?
要らない情報だと思ってあえて省いたカルシウムとナトリウムとか実は重要な情報なんじゃないのか……?
思わず並列思考を止める。いや、暗算を続けて計算問題の半分まで終わらせていた思考を全て最終問題に向ける。
重要そうな部分に下線を引いて、問題を読み直し、頭の中で問題が成立するか検証し、ダメそうなら下線を消して、また引いてを繰り返す。引いては消し、引いては消し。
そんな時、ペンを置いていたところに間違って消しゴムを落としてしまい、茅野のペンを落としてしまった。
自分のペンならそのまま置いておくが、流石に人から借りたペンを放置するのは気が引ける。なんなら、今も相当焦ってる。だから、おずおずと手を挙げて、監視している教師から舌打ちをプレゼントされながらも拾って貰ったペンを受け取る。
そこでなんとなく、ふと、ヒナと茅野から借りたペンが視界に入る。ヒナと茅野。大事な仲間たちと教え合った得意分野。あのやり取りの中に案外打開策があったりしないかな。
拾って貰ったペンを最初と同じ様に消しゴムとペン同士に等間隔の隙間を空けて机の左上に置く。
完全に手を止めて、思考をみんなの授業を思い返す方向にシフトする。だが、流石に何にも方向性が定まってない中で仲間たちから貰った膨大な知識を使うというのは難しい。
だから、初歩に戻る。みんなから伝わったことではなく、俺がみんなに伝えたこと。『問題を見る』ことを徹底する。
そうだ。まずは俺がみんなに言ったことを実践するべきだ。ただ問題に書いてあるから、で思考を止めず、なんでこんな問題の書き方をしているのか。それを考える。
まずは方向性を考える。そうだ。それがこの暗殺教室での初めての俺の役割だった。初めてクラスで行った合同暗殺。みんなともそんなに仲良くなくて、寺坂たちに協力して貰うために報酬の何割を寺坂組に〜とか言って交渉した。
思えば、その時から気が付けばみんなの指揮官というか参謀みたいなポジションに立つことが増えたっけか。
ここ最近では、そんな機会もめっきり減った。俺自身が指揮を取るより、自由に動くワンマンアーミー的なポジションに立つことが増えたし、いざって時に指揮を取れるやつを増やす目的で適性がありそうな奴らに任せる様になったから。
あの頃に戻ろう。色々とあって自分なりに成長した部分はそのままに、考え方を俺が指揮をしてみんなに指示を出していた時、俺なりにみんなの適性や得意分野を考えて声を出していた頃、自分で足りない部分をみんなの力で埋めて殺せんせーを殺そうとしてた頃の合理的な部分を呼び覚ます。
「(まずは、『問題を見る』こと。『相手を見る』この教室で目標にしていたそれを、目の前の問題に向ける。みんなの力を活かす上でターゲットを知るのは、みんなのフィクサーとしては肝心だ。そこで気になるのは……やはり、なぜ、体心立方格子とか原子、結晶なんて単語が入っているんだろう?って部分だ。単純な数学の問題なら要らない部分だ)」
顎に手を当て考える。ただシンプルに俺の思考を使って問題を見るだけで気付けるのはこの程度なもんだ。可もなく不可もなく、違和感を覚える程度。だから、確信を持つ為に仲間のチカラを借りる。
「(言葉の意味を読み取るのなら、国語が得意な神崎さんと自分の得意な部分で戦う為に苦手を学んだ奥田さんだ。神崎さんは文章の中には書いた人の意図が何かしら絶対にあると言う。奥田さんは毒を盛り、相手を騙す為であっても怪しまれるような無意味なことは言わないと言うだろう)」
つまり、やはり体心立方格子構造って単語には意味がある。それじゃあ、体心立方格子って何なのって言うと、思い出されるのは竹林が教えてくれた理科の内容だ。
「(実は数学と理科は密接な繋がりがある。単に使ってる記号がアラビア数字かアルファベットかの違いさ。だから、
ここで視線が再び体心立方格子と言う言葉に向けられる。もし、これが理科なら円錐と六角推が何個で〜とかそんな計算はしない。もっと簡単に、それも一撃で止めをさせる方法がある。確か、殺せんせーに詰め込まれた高校の化学で教わった。
「(それが体心立方格子ってのは各頂点に1/8の原子が8コと中心に原子が1コあるって内容だった。1/8が8コだから、それで原子1コ分になりもともと中心にある原子と合わせて、立方体の中にある原子は2つあるってことになるんだっけ)」
ここでもう一度、問題を読む。ヒナのペンを握り、下線を引きながら今考えた内容を1つの思考で反芻し、もう一つの思考で慌てず焦らず問題を見る。
そこで一つ、気になる単語を見つけた。A0に最も近い点の集合が作る領域……領域?つまり、単純に原子の面積ではなく、原子が面している空間の面積ってことか……。
下線が引かれる。体心立方格子、原子A0、領域D0。
領域D0は、もっとも原子A0に近い点。体心立方格子にある点は、8つの頂点と真ん中の原子の中心にある1つだけ。そして原子A0に最も近いのは、やはり立方体の真ん中の原子だろう。この真ん中の原子を仮に原子D0とするなら、知りたいのはその原子D0が持つ立方体の中の領域だ。
「………ん……?」
思わず音が漏れる。首を捻ると同時に漏れたそれは、俺が問題に苦しんでいる喘ぎ声と捉えられたのか、試験官はニマニマと笑っていたが、俺の口から出たそれは、決して苦しみの音ではなかった。むしろ、意味は真逆と言えた。
「(さっきやった様に、立方体の中に原子は1/8×8+1で合計2つ。立方体の中の領域は原子D0ともう1つの同じ大きさの原子で埋まってるってこと。原子の大きさが同じなら、持ってる領域の広さも同じはずだ)」
気付いた。ようやく気付けた。これ、別に難しくないかも。
「(だってこれ、問題の中身を理解した体でめちゃくちゃ噛み砕いて言語化すると『正方形の部屋が一つあります。部屋をA0さんとD0さんで均等に分けるにはどうすれば良いですか?』ってことなんじゃないのか……?)」
問題を見ていて何となく思う。辿り着けた。今度こそ、この問題を『見る』ことが出来た気がする。
気付いてしまうと呆気ない。しかし、これで間違ってたらカッコ悪いが、とても良い問題だと思った。体心立方格子がなんなのか知らなくても数学的アプローチで解けるし、知っていれば別のアプローチで解ける。目をつける場所によって難易度が大幅に変わる。まるでIQテストみたいだ。
「(体心立方格子なので、1/8×8+1で原子が2個あると定義して、立方体の体積の求め方が縦×横×奥で辺が全部aなので、まとめるとa^3だろ。んで、立方体の中にある2つの原子とその領域の半分の体積を求めたいんだから、単純にa^3を2で割る。つまり、答えはa^3/2だな)」
ささっと時間を掛けず、けれど間違いがない様に式と答えを書く。式と答え自体は簡単なものだった。しかし、それに気付くことが難しい一問だったと思う。恐らくは円錐と六角推の集合が8つあるとして、立方体の体積からその分を引いた数字が答えですってのが、これを数学の問題として見た時のアプローチの仕方なんだろう。その方法でやろうとすれば時間が足らなかった。
自分の力と同じ領域の中のみんなの力を使ってクリアした問題。E組という枠の中で最大の手を考える様にして来たこと、殺せんせーや烏間先生に見て貰ったこと、仲間から教わったそれぞれの考え方がなければ確信できなかった気がする。
並列思考を再び別々の問題に割り振り、残った問題を消化する。ラス前の漸化式には手こずったが、カルマが教えてくれた特殊解に持っていくという解き方のお陰で難関と言える部分は全て突破できた。あとは検算などしながら自分の解答に間違いがないことを確認し、静かにペンを置く。
テスト終了5分前。最後まで目で問題と解答を照合しながら仲間たちの教えてくれたそれぞれの得意科目を振り返る。
「(いいか、エロは世界を救うんだ!男ってのは誰しもヒーローとエロには憧れるだろ!?やっぱりこの2つは男のロマンだ!エッチなお姉さんとエロいことしたいだろ!?この思いは男なら共通のはずだ!エロの元に世界は一つになれる!!ヒーローは世界を救うんだ!え?それがなんでエロが世界を救うことに繋がるのかって?ヒーローの綴り知ってるか?
やっべ、頭痛くなって来た……。
なんでよりにもよって思い返すのがこれなんだ……。
頭の中で無駄に高解像度で再生される岡島の名演説。流石にやかましい。いや、言いたいことは分かる。なんなら上手いこと言いやがってと同意すらできる。だが、それでも思い出すべきはこれじゃないし、思い出すタイミングは今じゃない……!!
「時間だ。手を止めろ。こっから先、ペンを少しでも握った奴はカンニングと見なすからな」
頭の中で思わずツッコミを入れると同時にチャイムが鳴る。
並列思考で確認は続けていたが、ラスト5分を何に使ってるだろう。俺って奴は……。
「お、おい、乃咲?大丈夫か……」
「ダメかも……」
俺は頭を抱えながら、解答用紙を前にいる菅谷に渡し、机の上に思わず突っ伏してしまうのだった。
あとがき
はい、何気に初めてテスト中の圭一の思考を描写してみました。
私のリアルでの知能が高くないので、避けていましたが、本作では多分最後だと思ったので挑戦してみたのです……!
あの最終問題の理解にかなり時間が掛かりましたが……。有識者の皆さん、間違っていたことを言ってても生温かく見守って頂きたいです……!
当時、あの問題とカルマの解答を見て、『えっ、原子が2つでも立方体には隙間があるんだからD0の体積はa^3/2にはならなくない?』とか思ったのは自分だけではないと信じたい……!
今回もご愛読ありがとうございます!