暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

169 / 224
UA670500件、お気に入り3860件!
加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!

追記
すみません、またやらかしてました。
うちの浅野がカルピスサワー飲んじゃってました……。
ただしくはカルピスソーダです。
申し訳ありません……。



149話 強者の時間

 

「うぃーひっく……」

 

「おい、学秀……。カルピスソーダで酔うなよ」

 

「うるせぇ〜!呑まなきゃやってられるかぁ!」

 

 A組とE組のゲーセン&カラオケ対決のあと。椚ヶ丘としては異例とも言える両クラスの和解によってそれぞれ好きな面子で普通にカラオケすることになったのだが、学秀の悪酔いが酷かった。アルコールなんて誰1人と頼んでいない……つーか、頼めないのに、謎に1人だけカルピスソーダでベロンベロンである。

 

「まぁまぁ、大目に見てやってくれないか、乃咲くん」

 

「榊原ぁ……。こいつ、お前らんところのリーダーだろ。引き取ってくれ。さっきから肩組むわ、必要以上にポテトをシャカシャカするわで鬱陶しい……!」

 

「そんなこと言わずに。理事長先生に正面切って宣戦布告して本人なりに緊張していたんだろうさ」

 

「理事長に宣戦布告……?なんでまた」

 

 耳元でうぃー!とか言ってくる学秀に誰が持ってきたのか分からないマラカスを渡して榊原の話に耳を傾ける。

 

「今回、理事長が僕らの指揮を執っていたのは知っているだろう?テスト返却後、今回負けてしまったが、高校では絶対に誰にも負けないと彼が決意表明したところで先生が来てね。『命を賭けた勝負でも同じことが言えるのか』とか『それを言うならあなたはE組の担任に負けたことを自覚するべきだ』と口論になってね。最終的に『気に食わないならE組に落とせ。僕は僕の思うやり方で強者を目指す』とばっさりだ」

 

「が、学秀もなかなか言うな……」

 

 そこでふと、疑問に思った。教室で学秀が決意表明してるところに理事長が乗り込んできて、アイツが理事長にばっさり言い放ったところまで見てた。んで、時系列的にはその直後であろう、俺と学秀の罵倒合戦の場にも榊原を始めとした5英傑やA組のメンバーがいた。

 

「なぁ、榊原?話聞く限りだとずっと学秀に追従して動いてるみたいに聞こえるんだけどさ、お前ら、理事長に宣戦布告した学秀に着いてきて現在に至ってないか?」

 

「そうだが?」

 

「いやいや、そうだが?じゃないでしょ。つーことはなに?このカラオケ館にいるA組全員理事長に反旗を翻したと?」

 

「正確に言えば、この場にいないA組メンバーも全員だね。お気に召さないのであれば、どうぞE組に落としてくださいと全員で伝えて来たとも。僕らのリーダーが覚悟を見せたのだから、我々も続かなくてはね」

 

「なかなかファンキーなことしてんな……」

 

 正直に言って驚いた。学秀とゲーセンで対決してる時に始まったA組vsE組は正直また面倒なことにならないかと思ってビビって見てたが、思いの外にみんなイキイキしてたし、なんなら俺も楽しんでいた。

 彼らからはE組を見下すような気配が完全に消えている。だからこそ、こうしてAとEのメンバーごちゃ混ぜでカラオケしてるわけだけどさ。まさかそんなことが裏で起きていたとは。

 

「……正直に言えば、今回は負けれてよかったと思ってる。悔しいのは本心だが、前に浅野くんが言ったように、あの理事長のやり方では……いずれみんな潰れてしまう」

 

「そりゃあな。理事長の俺らに対する悪意とか憎悪とか掻き立てるやり方じゃ、長続きしないだろ。よっぽど腹に据えかねることでもなければ……1日中怒ることだってしんどいだろ。感情燃やすのって疲れるんだぜ?」

 

「まるで経験したかの様な口ぶりだね」

 

「実際、経験してるからな。怒りか恐怖か焦りかの違いはあるけど。1年の頃は学秀に負けて順位が落ちて父さんに見限られるのが怖くて、それを原動力に勉強してた。夏休み明けは結果を出し続けないといけないという焦りで動いてた。もちろん、それでに溜まってた疲労もあるんだろうけど、今にして思えば……感情を原動力にしてたからあんなに疲れたんだろうな。現に、前回も今回も1位は取ったけどそこまで疲れてない。その理由は単に、気持ちに余裕が出来たからだと思う」

 

「気持ちに余裕……か。なるほどね。確かにそうか」

 

 A組連中の前だからといつも通りに背伸びして持って来たブラックコーヒーを啜る。うん、苦し。

 そのままズルズルと音を立てて飲んでるフリをして本当にチビチビ飲んでいると一通り騒いで満足したのか、学秀がどっから持ってきたのか分からないタンバリンを手渡してきた。

 

「……俺にどうしろと」

 

「知らん」

 

「話題の投げ方が雑すぎるだろ!?」

 

 俺からのツッコミなど相変わらずどこ吹く風。学秀はどかっと俺の隣に座ったと思ったらカルピスを一気飲みする。

 

「なにやら面白そうな話が聞こえたが。感情を原動力にする勉強は良くないって話か?」

 

「似た様なもん。正確に言えば……そうだな、感情を燃やし続けるようなって言うべきか」

 

「負ける恐怖との戦いか……」

 

 学秀がポツリとそんなことを呟いた。

 そう言えば、いつだったかそんなことを理事長だかコイツが言っていた様な気がする。

 ふと、そこで気になった。理事長がそこまで強者に拘る理由。直接、一から十まで聞いたことはなかった。だけど、もしかすると学秀なら知ってるかも。俺を理事長の目指す強者のモデルケースと言ったコイツなら。

 

「なぉ、学秀?聞いていいことなのか分からないし、答えられないならそれでいいんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「理事長ってなんであそこまで強者に拘るんだ?もともと、生徒それぞれの"良さ"を尊重する人だったと聞いてるけど」

 

「………………それか」

 

 俺の質問に学秀は苦々しく頬を掻いた。近くにいた榊原も興味深そうに学秀の顔を覗き込む。

 

「負けない様に努力するとか、チャンスが何度も回ってくるとは限らないんだから、次はないってつもりで取り組む姿勢はなにも間違ってないと思う。でもなんて言うか、理事長のはそれだけじゃない気がするんだよ。練習は本番の様に、本番は練習の様にって言うけどさ。なんて言うか、今のあの人はそうじゃなくて、悪い意味で常在戦場みたいな感じがする」

 

 俺からの簡単な感想を伝えると、学秀は一回だけ天井を仰ぎ見たあとでポツポツと語り出した。

 

「圭一の印象は正しい。理事長……父さんにとって、教育とは自分の手の届かない場所に戦士を送り込む為の教導なんだ」

 

「………物騒な例えだな」

 

「事実だ。現にあの人は…………昔、教え子を亡くしている」

 

 学秀の口から出てきたのは、思いもしない言葉だった。

 俺と榊原は思わず目を丸くする。教え子の死、それが今の理事長の教育の根幹にあるのだろうか。

 

「僕らが生まれる前。今の椚ヶ丘学園の前身である椚ヶ丘学習塾の一期生として父さんは3人の生徒を受け持ったんだが…………そのうちの1人がな。不幸に遭ったんだ」

 

「椚ヶ丘学習塾の一期生……確か、森さんと永井さんか」

 

 何気なく学園祭の時に遊びにきてくれた先輩たちの顔を思い浮かべて名前を口に出すと、今度は学秀が目を見開いた。

 

「驚いたな、知ってるのか?」

 

「この前、学園祭で遊びに来たんだ。そこで昔の浅野先生についてちょっと話してくれてさ」

 

「なるほど、それで昔の父さんの教育方針なんて知ってるわけか。合点がいった。でも、他には何も聞いてないのか?」

 

「特には……。でも、あの2人は懐かしそうな顔はしてるけど、でも、それ以上に複雑そうな雰囲気の方が強かったな」

 

「………それも当然だろうな。彼らにとっては亡くなったのは大勢いる後輩の1人ではなく、3人きりの同期の1人なんだから」

 

「…………そうか」

 

 自分の立場に置き換えて考える。俺の後輩枠と言えば綾香ちゃんだ。確かにあの子が死んでしまったら俺も相当なショックを受けるだろうが、それでもE組の仲間の誰かが亡くなってしまったのなら……そっちの方がショックは大きいかもしれない。人の生き死にをそうやって測るべきではないんだろうけど。

 

「一期生の3人が塾を卒業して3年。僕らが生まれた頃の話だ。森さん、永井さんの同期の池田という先輩が亡くなった……正確に言えば殺された。酷いイジメを受けてたらしい。彼は追い詰められて自殺してしまったそうだ」

 

「…………」

 

 また想像してない言葉が出てきた。

 亡くなったと聞いてイメージしていたのは交通事故だった。しかし、イジメられた末に自殺したと言うのは考えてなかった。

 

「僕も人伝に聞いた話だから詳しいことは知らない。あの人はそれこそ語りたがらないからな。でも、池田先輩は……初めこそ少し問題児の様な気質はあったが、塾に通いながら周りを気遣える"良い子"になっていったらしい。近所でも評判で、当時は大きな事件になったとか」

 

「…………いざとなったら周りを蹴落としてでも自分が生き残る力か。そう言われると……確かに納得できる」

 

「それは?」

 

「前に理事長の思う強者について質問した時に言ってた言葉だ」

 

 学秀の口から語られた言葉はこれまでの理事長の言動を俺に納得させるには充分な内容だった。

 しかし、それだけで全てが納得できる訳ではないだろう。榊原が気まずそうに首を傾げた。

 

「しかし、それだとE組制度は理事長の過去と真逆ではないか?A組としてE組を見下してきた僕が言えた義理ではないが、E組の環境はそれこそ自殺者が出ても不思議ではないだろう。それに、理事長のそれは……イジメられるより、イジメる側になれと言ってるようなものじゃないか」

 

 榊原の言い分はもっともだった。

 しかし、全てを理解した訳じゃないが……そこに理事長なりの願いがあると思えば多少なりとも頷ける部分もある。

 

「極論だけど……俺も立場を選べるとしてイジメる側とイジメられる側のどちらかを選べって言われたら前者を選ぶ。理事長の言う強者って、それを自由に選べる奴のことなんじゃないのか」

 

「だとしてもだ。率先してイジメが発生する環境を作るのは矛盾してないか。E組差別は校則に盛り込まれてるし、保護者だって納得して子供を入れる。だからこそある程度は許容される。しかし、いくらなんでも……」

 

「言いたいことは分かるけどな……。でも、そこまで踏まえると理事長の方針も理解できる。勝者がいれば敗者がいるのは当然だ。幼稚園の運動会でもないんだからみんな一番!なんて絶対にありえない。その敗者を集めたのがE組ってだけの話だ」

 

「それは————」

 

「理事長がやりたいのは弱い者イジメじゃなくて、弱い者になりたくないって思わせる刷り込みなんだろ。イジメてる側はイジメながら思うはずだ、あんな風になりたくない。イジメられる側は思うはずだ、こんな思いしたくない」

 

「E組の上手いところは、そう思って努力すればイジメる側に回れるところだ。もともと成績不振や素行不良でドロップアウトした奴でも50位以内に入れば基本は認められる。それはイジメる側という強者に屈せず努力して彼らを上回った証明。つまり、理事長の求めるイジメられる側になるより、イジメる側に回るって選択ができた証拠だからだ」

 

「乃咲くんの言うことも確かに理解できる。しかし、それはE組としては納得できるものなのか?」

 

「……まぁ、全てを完全に納得はできないだろう。でも、理不尽だとは思わない。そういう意味では納得してる。これまで散々イジメって単語を使ったけど、E組に行われてるのは差別だ。この明確な違いを定義すること難しいけど……あの理事長が単にイジメを許容するだけのルールを作るとは思えない。俺が思うに、理事長が作ったのは差別される側が多少なりとも納得できるルールなんじゃないか」

 

「それはどんな……」

 

「単純な話、E組以外には大義名分があるからだ。少なくとも、この学校内でのイジメと差別の定義はそこだろう。考えてみろ、お前らがE組を差別してきた理由はなんだ?」

 

「………成績も悪いし、素行不良の生徒が多い」

 

「そうだ。E組はそう言う生徒が集められる。それが理由だ。んじゃ、榊原。お前は個人が何となく気に食わないからってE組を差別したか?お前らからの差別に反発した奴が気に食わないじゃなくて、シンプルにE組とか関係なく個人的にソイツが気に食わないからって理由でさ」

 

「つまり、圭一は差別されてるのはあくまでもE組というブランドで、名前を持つ一個人には直接的な害意は薄い。個人に対して不特定多数で加害するのはイジメ。団体に対して不特定多数で加害するのは差別と言いたいんだな?」

 

 また長くなりそうになったところで学秀が噛み砕いてくれた。俺はそれに頷きながら口を開いた。

 

「そういうこと。これが個人に対してならいざ知らず、団体に対してだからこそダメージは最小限で済む。同じ境遇の仲間がいるというのが嫌でも分かるからな。個人に対してなら『どうして俺だけこんな目に』と思うだろうけど、これが団体になることで主語が大きくなり『どうして俺たちが』って複数形になる。自分だけじゃないってのはそれだけで案外心強いもんだからな」

 

「乃咲くんの言葉には実感が籠ってるように感じるね」

 

「実際、この学年で一番最初にE組行きが確定したのは俺だからな。ヒソヒソされたり、あからさまに避けられる様になって……まぁ、教師を殴った事実は俺が悪いけど、やっぱり『何で?』とは思ったわな。素行が悪くて成績が良くないのは俺だけじゃないだろってさ。だから……まぁ、寺坂には悪いが、アイツが俺の次にE組行きが確定した時は正直言って肩が軽くなった」

 

「………まぁ、そう言うことなら僕は何も言えないね」

 

「今更気を遣ってもらう必要はないけどな。それにやっぱりE組に来るのはそう言う何かしらで後ろめたいことがある奴ばかりだから、何の意味もなく気に食わないからってだけの理不尽なイジメじゃなくて、自分にも心当たりがあるからある種の理解がある差別って形に落ち着くんだ。今にして思えばな」

 

 理事長の上手いところだろう。3年E組という制度自体はかなり完成度が高く計算し尽くされてると言える。

 

 弱者になりたくないと思わせる教育をする上では絶対に見せしめは必要だ。その見せしめにする理由として成績不振や素行不良を理由にすることで彼らにはそう言う扱いをされるだけの理由があると納得させる。

 それを入学時に入学生本人や保護者の前で説明することで差別への抵抗感をなくし、ルールとして定着させる。差別自体を仕組みに組み込んでいるのだ。

 

 入学時に説明されているし、何より子供の成績や生活態度が悪いからだとある種のペナルティと親も認識しているから親も基本的には学校側。加えてE組には50位以内に入れば抜け出せる救済措置がある。それを掴み取れてない負目と成績と生活態度が悪いのが悪いという親からの正論。

 そしてなにより、E組自体は3年生にしか存在しないが、自分たちも3年生になるまで先代や先々代のE組を少なからず笑い者にしてきたのだから、文句言えない立場という倫理観。

 

 差別を迎合する理由を2年間使って育てている。だからこそ、E組に落とされるというのは大体の生徒にとっては屈辱で絶望的な立場に落ちると言う認識になる。

 

 これが個人に対してなら、それこそ人格崩壊ものだろうが……それでも上手いのはさっき言った通り、差別される人数が1学級分はいるということ。同じ境遇を共有して辛いのは自分だけじゃないという綺麗事の様な言い分を現実にしてる部分だろう。

 

 もう一つ、俺が個人的に計算されていると思うのはA〜D組はエスカレーター式で自動的に高等部に上がるのに対して、E組が高等部に上がるには外部受験して入り直さなければならないというところ。

 これはこの学校のE組差別の象徴のような制度ではあるが、よくよく考えてみれば、中学のヒエラルキーを高校に持ち込まない為の配慮と取れなくもない。

 高等部に上がった連中はE組という自分より明確に格下だった奴らがいなくなったことで次の弱い者にならない様に……つまりは差別されないポジションを得る為に努力する。

 外部へ受験したE組たちはE組での生活を繰り返さない為に、高校でこそ強者になろうと足掻くか、そうでなければ最低限同じ目に遭わない為に身の振り方を気を付けるだろう。

 

「恐ろしい仕組みだよな、こうして考えると」

 

「………あぁ。でも、今年はそうもいかなくなった。お前たちE組の下剋上でA〜Dの大半の生徒は例年で言えばE組以下。弱者より弱い者という認識になってしまった。正直、今後父さんがどんな動きを取るか僕にも想像できない」

 

 学秀が遠い目をしてそう言った。

 E組がA組に勝った。言葉にすると簡単なことのように思うが、それは椚ヶ丘において過去に類を見ないジャイアントキリングであり、同時に理事長の作った仕組みに風穴を開けてしまったことに他ならない。

 

 浅野學峯という支配者の作った領域を殺せんせーが侵した。

 一期生の先輩たちから聞いた、当時の理事長の教育方針は今の殺せんせーの教育に似ている。もしかすると理事長が今年のE組に対してやたらと過干渉気味なのは、当時の自分のやり方で現在の自分のやりを否定されてる様に感じるからなのかな。

 

「だから圭一。具体的に何にとは言えないが気を付けろ。生徒を直接害することはないだろうけど、池田先輩の死によって変わった教育方針、続けてきた矜持、自分の教育を否定した者への憎悪の様な感情。それらで動く父さんは執念深いだろう」

 

「浅野くんもお父さん相手に容赦ないね」

 

「………僕は父のことも尊敬している。だが、今年のあの人は明らかにこれまでとは違う。ある種の憎しみに支配されてる気がする。憎しみを支配するのはいい。でも、支配されるのはあの人らしくない。おかしな方向に暴走しなきゃいいんだが」

 

 ここ最近の学秀はよく周りを気にかけている。クラスメイトのこともそうだが、今回は俺たちや理事長のことも。

 人って変わるもんなんだなぁ……。いや、俺が学秀のそういう側面に気付いてなかっただけか。なんだかんだ、俺のこともずっと気にかけてくれてたことは知ってるし。

 

「強者……か」

 

 呟く。俺はこの前、学秀にライバル宣言する上でそれを名乗った。強者とは読んで字の如く、強い者だ。では、"強さ"とは何だろうか?きっとそれを一言で表すのなら"力"だと俺は答える。

 暴力、知力、精神力、忍耐力、語彙力などなど、◯◯力という単語の数だけ強さはあるのだろう。

 

 では、理事長の語る強さとは何だろう。

 

 いざとなったら他人を生贄にしてでも自分だけは生き残る力?本当にそうなんだろうか?だったら何故、あの人はただ成績が良くなっただけの俺を強者として見た?俺とあの人の強者像は違う。それは夏休みに話した。でも、学秀の話では俺に対する評価が下がったとかそんな印象はない。

 

 そして、他人を生贄にしてでも自分が生き残る力を持つ者を強者というのなら、なぜ、学秀に対して叱責するのだろう。アイツはいろんな分野で常にトップだ。悪様に言えば、自分だけは最良の結果を出し続けている。

 俺と学秀はやってること自体は同じだ。良い点を取ったからトップに立った。それなのに俺は褒められ、アイツは叱責される。同じ結果なのに対応が変わる。それってつまり、理事長の求める強さって人によって変動するものってことなんじゃないのか?彼の思う強さと強者像は必ずしも一致する訳ではないのかもしれない。今はそれしかわからないが。

 

「なぁ、学秀。強者ってなんだ?」

 

「さぁな。辞書通りの意味なら他に勝る力や権力を持つ者って意味だが……。まぁ、色々あるだろうな。父さんには強者を目指す方法は一つじゃないと言ったが、強者というゴールは一つでも、種類は一つじゃないんだろう」

 

「んじゃあ、お前に取っては?」

 

「……父だろうな。僕に取って明確な強者とは"支配者"だ。とは言え、お前も僕の中では強者だというのは変わりない。お前は支配者とは違うが、それでも強き者のあり方の一つだと思う。逆に聞くが、圭一。お前に取って強者とはなんだ?」

 

「俺にとっての強者か……」

 

 問われてみて、そう言えば真剣に考えたことがなかったことを思い出す。以前、先生方がどんな強者なのかを考えたことはあったが、それは俺にとっての強者という括りではないだろう。

 自分の中の定義と周りに対する、そして周りからの評価。俺は先日、学秀に向かって強者を名乗ったが、それは俺の定義する強者ではなく、周りに勝って勝ち上がってきたという実績に基づいた相対的な強者という意味に近い。

 

 学秀や理事長先生のように明確な定義が自分の中にあると言えば首を傾げるし、ないというのも少し違う。

 俺に取って絶対的な強者は烏間先生だ。でも、それは彼の定義する強者と俺の中の強者像が一致するという意味ではない。彼の弱い者を助けられる様にという心情は立派だと思うし、それが烏間先生の思う強者の在り方であるのを否定しない。

 誰かの為というスタンスは否定しない。そりゃあ、自分のためだけに力を使うよりは誰かの為に使う方がいい。それは理解している。だからこそ、俺は将来について悩んでいた。

 

 しかし、それは俺が烏間先生に憧れた理由ではない。彼のそんな心情を知ったのは憧れた後のことだ。

 

「………俺にとって強者は————」

 

 思い返すのは烏間先生に憧れた瞬間。流石に無謀だと思い、失望しかけた時のこと。ナイフを持った悠馬と前原を挑発し、それで実際に2人を完封してみせた瞬間だ。あの時、俺は口に出すのは実行する瞬間だと。それが一番かっこいいと思った。

 

 その後も何度も烏間先生を尊敬した。ことあるごとに俺たちを守ろうとしてくれた。その後で、弱者を守れる様に強くなったと彼から聞いた。彼に取って俺たちは対等な仕事相手であると同時に、守るべき弱者だったのだろう。それは一重に俺たちが弱いという意味ではなく、立場の問題。大人と子供の違い。それを一言で表すとするのなら、"責任"だろうか。

 

 俺は殺せんせーのことも尊敬はしてる。

 そりゃあ、呆れることもあるし、バカだなコイツなんて思うこともあれば、情けないと感じることもある。でも、俺たちに道を示してくれる姿、道の探し方を教えてくれる姿、なりふり構わず俺たちを守ろうとする姿を尊敬している。

 それの行動の意味を彼に聞いたとするのなら、きっとこう答えるだろう。『先生なので当然です』と。

 俺が尊敬している殺せんせーの行動を一言で表すのなら、やはりこれも"責任"という言葉に落ち着くのかな。

 

 ビッチ先生もそうだ。

 あの人は仕事に真摯だ。仕事の為なら苦手を克服し、そのための努力だって惜しまない。プロの意地を見せる。

 これは、プロとしての"責任"とでも言うべき部分だと俺は思っているし、みんな感じてるだろう。

 

 大人としての責任の烏間先生。

 先生としての責任の殺せんせー。

 プロとしての責任のビッチ先生。

 

 もしも、憧れや尊敬する要素こそ、自分の目指す強者としての在り方を示すのなら、俺が思う強者は————。

 

「——"責任を果たす者"なのかもな」

 

「これまた小難しいテーマだな」

 

「だな。俺も自分自身、そう感じてるよ」

 

 けど、実際、口にしてみるとストンと落ちる。

 俺が殺せんせーを殺そうとしているだって言ってしまえば、殺せんせーが殺さなきゃいけない相手で、みんなで一丸となって殺そうとしている相手で、尚且つ俺自身が彼を殺せるだけの力を持っている。他の部外者な誰かに殺されるなら、この手で殺す。それが彼から教えを受けた者としての恩返しで、あと一歩手が届かないみんなに対して果たすべき責任だからだ。

 

「……なんだか、浅野くんと乃咲くんが遠くの人に思えるよ。僕にはまだ、君たちの様な明確なビジョンはない。浅野くんに着いていく者としてもしっかりビジョンを持たないといけないね」

 

「焦る必要もないだろ……大人になるまで時間はまだある」

 

「………………圭一」

 

 そうだ。きっと、これも俺が……俺たちが果たすべき責任なのだろう。来年の今頃、地球は無くなっているのかもしれない。そんなことを知る由もない人たちにとって当たり前の日々を守る。烏間先生たちが可能な限り俺たちの日常を守ろうとしてくれているように。守られる側から守る側へ。それが俺たちE組の大人への一歩なのかもしれない。

 

 俺がどんな顔をしていたのか分からないが、学秀が少し心配そうにしていた。どうやら俺の雰囲気は周りに伝わってしまった様で、A組の生徒も、彼らとの禍根をなくす様に明るく振る舞っていたヒナや前原、矢田さんたちもこっちを見てた。

 

 ちょっと空気が悪くなってしまったので、自分から払拭する様にマイクを受け取り、適当に曲を入れる。

 

「え、乃咲くん歌うの?」

 

「初めて聞くかも……」

 

 よし、A組連中の気は引けているらしい。

 ここらで一本、全力でかますか……。

 

「あー、あー。よし、乃咲圭一、感情込めて歌います。聞いてください。やばい方のパプリカこと、平沢進の『パレード』」

 

 E組と学秀がざわついた。キョトンとするA組の面々の期待に応える為、全力で歌い出そうとしたその瞬間。イントロが流れ、液晶に歌詞が表示されるとほぼ同時、学秀の手によって曲は強制的に終了させられ、代わりに悠馬が特急で入れた『Day After Day』を半ば強制的に歌うことになったとさ。

 

 学秀と来た時や、悠馬や前原たちとカラオケ来た時に毎回歌ってたので、別に良いかと言う選曲だったが、彼ら曰く、俺が歌うと世を儚んでるように聞こえるから顔見知りが多い場面では歌うなと釘を刺された……。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 なんだかんだ盛り上がった打ち上げの帰り道。

 ヒナを送ったあと、俺は電話をかけた。

 

『おう、乃咲?珍しいな、俺に電話なんて』

 

「すまんな菅谷。ちょっと頼みあってさ」

 

『頼み?』

 

「ほら、ちょっと前に対先生弾を粉末にしてくれるって言ってただろ?アレ、完成してたりするかなって」

 

『大丈夫、進めてたぞ。暇な時とかにひたすらゴリゴリしまくってたから。……んで、その話題をするってことは?』

 

 菅谷の問いかけに俺は息を吸い込んで答えた。

 

「…………明日、暗殺を仕掛ける」

 

——俺の責任を果たす為に。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。