楽しんでもらえれば幸いです。
——追記——
誤字報告ありがとうございます!
どうやらルビで・・を入れたところが……みたいになっていた様です。誤記修正、ありがとうございます!
そんな歪な関係が始まったのは数日前。あれから何人かが暗殺と称した正面攻撃を試みたが、誰一人として、この超生物にダメージを負わせた者はいない。
俺も何度か挑んでみたが、やはり手も足も出なかった。マッハ20とか言っているけど、コイツはそんなスピードを出していない。
単純に、俺たちでは実力不足と言うことなんだろう。分かってはいたが、多少悔しい部分はある。
つーか、このタコ。本当に殺せるんだろうか? 朝のホームルームの点呼時にクラス全員で一斉射撃して弾幕張っても全て避けられるし、原始的な方向だが、男子で組み着いて拘束を試みたが失敗。
その他にもクラスメイト達があの手この手を試してみてるらしいが、手応えすらないらしい。
現に今も……。
「中村さん。暗殺は勉強の妨げにならない時にと言った筈です! 罰として後ろで立って受講しなさい!」
「あはは……すいませーん。そんなに顔を真っ赤にして怒らなくても」
怒る先生と悪びれもしない様子で教室の後ろ側に移動する中村。超生物は彼女の撃った弾丸を焦りすら見せずにチョークで掴んで止めた。
とんでもない早業だ。冗談もお世辞も抜きにアレを殺せるビジョンが浮かんで来ない。
それでも、暗殺に積極的な面々は諦めることなく机の中にナイフを忍ばせ、いつでも打てる様にハンドガンのグリップを握り、ライフルを手の伸ばせる位置に立てかけて、チャンスを虎視眈々と窺っている。
正直、彼らのその熱意には頭が下がる思いだ。
周囲の涙ぐましい努力に他人事みたいな感想を抱いているとチャイムが鳴る。
「おっと、昼休みになりましたね。先生、ちょっと中国行って麻婆豆腐食べて来ます。もし暗殺希望者がいれば、携帯で呼んでください」
ちょっとコンビニ行ってくる感覚で中国に行くと宣言すると超生物は俺たちのやった小テストを抱えて窓から目にも止まらない速度で飛び立った。
「えっと、マッハ20だから……麻婆豆腐の本場、四川省まで10分くらい?」
「確かにあんなのミサイルでも落とせないわ」
「しかも音速飛行中にテストの採点までしてるんだぜ? この前、イラスト付きで褒められた。タコ二重丸ってさ」
「それと何気にアイツ、教えるの上手くない?」
「あ、それ分かる〜。私、放課後に暗殺行った時に数学教わってさ。次のテスト良かったもん」
なにやら先生の超生物ぶりに呆れてる様子。
「ま、でもさぁ。政府公認の暗殺者とか言っても……所詮、俺たちは『エンドのE組』だもん」
「頑張っても仕方ないけど」
楽しげに話していたクラスメイト達が途端に暗い表情を浮かべる。自虐気味に言い放たれた『エンドのE組』という単語は俺たちへの蔑称だ。
ここE組は椚ヶ丘中学校の問題児が集められる特別強化学級である。成績不振や素行不良を主な原因としてそれらを矯正する為に設けられた隔離教室。
我々の学舎は外から見ると名門校であり、名だたる高校へ生徒を送り出し続けている屈指の進学校。E組はそんな名門校の闇。
働きアリの法則を知っているだろうか? 全体の2割が働き者、6割が普通、残る2割が怠け者とかいうアレだ。この学校のヒエラルキーはそれが基になっており、成績が良い順でA〜Eとクラス分けされている。A組は働き者、E組は怠け者といった具合に。
怠け者のE組は学校内ではエグイ差別を受ける。校舎は本校舎から約1km離れた山の上にある旧校舎、全校集会は他のクラスよりも早く来て整列しないとペナルティーがあり、そこで配布されるべきプリントは貰えないし、教師陣もそれを良しとしてる。
そんな扱いを受けたくないからこの学校の生徒の大半は努力する。あんな風になりたくない。あんな扱いは嫌だと。そして、なまじそんな努力をしているからこそ、E組に落ちた奴は成績をキープしてる奴らに馬鹿にされる。怠けたからだと。
そして、落ちた者の大半は自己肯定感が薄れてゆく。努力したのに駄目だった、あんなに頑張ったのに出来なかった、と。努力し足掻いたのに周りの連中に劣ると評価された事実やE組に来てしまった劣等感、情け無さが心を脆弱にして、本校舎の連中から受ける差別を迎合することになる。
一応、救済処置もあるのが彼ら劣等感を引き立てるのだろう。学年で50位以内に入り、尚且つ元々所属していたクラスの担任が復帰を許可した場合、E組から抜け出せるシステムがある。
この差別を受ける者達からすれば垂らされた蜘蛛の糸そのものだが、それすら掴めない事実が更に彼らの劣等感を強くするのだろう。
中には成績優秀だが、素行不良でE組に落とされた者もいる。しかし、そんな奴も元のクラスに戻れてないところを見るに、順位が足らないのか、そもそも50位以内に入っても元のクラスの担任が復帰を許す気がないかのどちらかだ。
落ちたら最後、戻って来れない。設備も劣悪で真夏の登校は苦行そのもの。校内での待遇も下の下、教師生徒問わず差別と嘲笑を受け続ける生き地獄。それが椚ヶ丘中学校3年E組だ。
彼らが自分を卑下するのも無理はない。
ちなみに俺は素行不良と成績不振のダブルパンチを食らってE組に来た、正真正銘の不良品である。
「おい、暗殺の計画進めようぜ? 渚くぅーん」
なにやら気色の悪い猫撫で声が聞こえたので視線を向けると、クラスのマスコット兼抱いても良いと思える男子ランキング1位の潮田渚きゅんがジャイアン系男子に絡まれていた。
暗殺の計画と言っているくらいだから共謀して何か企んでるんだろうけど、ジャイアン改め寺坂と取り巻きの吉田、村松のニヤけズラを見るに彼ら3人が首謀なんだろう。渚は大人しくて絡みやすいから巻き込まれたってところか。
ドンマイ、渚。
教室から連れ出される渚を合掌して見送りつつ俺はコンビニのサンドイッチをパクついた。
「お題にそって短歌を作ってみましょう。ラスト七文字を『触手なりけり』で締めてください」
また微妙に面倒な課題が来たもんだ。触手なりけりってなんぞ? この人俺たちに何を求めてるの?
「例文はこうです。『花さそふ、嵐の庭の、雪ならで、はえゆくものは、触手なりけり』……書けた人は先生の所に持って来なさい。文法の正しさと触手を美しく表現できたかをチェックします。できた者から今日は帰ってよし!」
「鮮やかに映え、力強く生えてゆく生命とは、庭の桜を散らす花吹雪などではなく、触手だったのだなぁ……って、どんな状況?」
磯貝に同意。どんな状況だよ。庭から触手が生えてるとかホラーだわ。つか触手に美しさを感じるのは一部のマニアックな性癖の持ち主だけでは?
「先生しつもーん!」
「……ん? どうかしましたか、茅野さん」
「今更だけどさぁ、先生の名前なんて言うの? 名前分からないと他の先生と区別するのに不便だよ」
「名前ですか……。改めて名乗るような名前はありませんねぇ。なんなら皆さんでつけてください。でも、今は課題に集中ですよ」
「はぁーい」
ただでさえ短歌どころか俳句すら作ったことないのに、ニッチすぎる要求のせいで難易度爆上がりしてるんだが。帰す気あるのか、このタコ。
どんな風に作るのが正解なのか分からねぇ……!
なんでだろう、割と真剣に取り組んでるはずなのに恥ずかしくなって来たぞ。……まあ、いいや。完成したのは事実だし。さっさとタコに見せに行こう。
案外、直ぐに帰れるかもしれない。
ささっと思い浮かんだ歌を書いて立ち上がると、渚も同時に立ち上がった。コイツももう終わったのかと見てみると、手にはナイフが握られていた。
まじか、こんな堂々と正面から行くのか。
「……おや、もう書き終わったのですか? 渚くん、乃咲くん」
「まあ、触手を美しく表現なんて言われても想像し辛いもんで、結構投げやりな感じになりましたがね。とりあえず出してみて感覚でも掴めれば、と」
「うんうん。何事もまずはやってみる姿勢は大事です。それでどちらから見ましょうか?」
「渚、お前の方が近いから先どうぞ」
「うん。ありがとう」
薄いピンク色に染まった顔で笑う先生。ひとまずは暗殺しようとしてる渚に順番を譲る。一応、隙が追撃出来る様に銃に手を伸ばしておく。
一言礼を言って先生の前まで歩み寄る彼の後ろに立ち、順番待ち兼隙窺い。
「それでは渚くん。見せてみなさい」
「……っ!」
先生の要求に応えるように繰り出されたナイフ。有無を言わさずに突き立てられたナイフは触手に掴まれて腕ごと止められた。
「……渚くん。言ったでしょう? 暗殺は勉強の妨げに————!?」
そんな結果は見え透いていたので銃を取り出し、援護しようとした刹那。予想もしていなかった渚の動きによって俺は動きを止めてしまう。
渚が、ふわりと質量を感じさせない軽やかで、滑らかな動きで殺気すら感じさせず、先生の首に手を回してゆったりと抱き着く。
あまりにもごく自然な動きに思わず目を奪われ、援護の手は止まり、何が起こったのかすら理解が追いつかない。頭の中が真っ白に染まっている。
「——!」
意を決したように鋭く息を呑んだ音が聞こえた。
誰が発生源なのかは分からない。別に特定しようだなんても考えていない。ただ、人の息遣いなんかとは比べ物にならない爆裂音が直後、激しい閃光を伴って前方から俺を襲った。
渚が何かしたのだろうか? 無策にあの超生物に抱き着いた訳ではないだろう。もしかすると、息を呑んだ何者かと共謀していたのか?
昼休みのうちに渚を連れ出した奴がいた。暗殺の計画を進めると宣っていた奴がいた。
となると、これは寺坂か村松、吉田。この3人の内の誰かが仕組んだのだろう。
そこまで考え至るものの、閃光と爆発は渚の真後ろに居た俺を飲み込んでしまった。
「渚! 乃咲!?」
爆裂は大量のBB弾を凄まじい勢いで吹き飛ばす。
渚と圭一の立っていた場所には焦げ臭さと大量の火薬による爆発で齎された白い煙が立ち込める。
「しゃぁぁぁぁ──ーっ!!!」
誰もが呆気に取られる中で状況を正しく把握し、喜び勇み、勝利の雄叫びを上げて立ち上がる男がいた。
「寺坂っ!」
「ちょっと! 渚に何持たせたのよっ!!?」
何が起こったのかは理解できずとも、この状況を作り出した人物は教室の誰もが理解した。
そして、当の本人は向けられる非難の視線をものともせずに少女の問い掛けに悪びれもしないで答えた。
「手榴弾だよ、オモチャのな。中に入れたBB弾が勢い良く弾け飛ぶように火薬を使って威力を上げたヤツ。あの距離で爆発させりゃあ避けようがねぇだろ」
「お前っ! そんなもの使ったのかよ!? 渚も圭一も巻き込まれたんだぞ!? 火傷じゃすまないだろ!!?」
「うっせぇな。そんなもんどうとでもなる。人が死ぬような威力もねぇだろうしな。渚もついでに巻き込まれた乃咲の奴の治療費くらい出してやラァ。俺の100億円からな」
非難の視線や抗議を鬱陶しそうにのらりくらりしながら寺坂が爆心地に歩み近づく。
一歩、一歩と近づく度に薄くなってゆく煙の中に見える黒焦げの物体に彼はニヤける頬を抑えることができなかった。今すぐ駆け寄って超生物の死骸を検めたくなる気持ちを押し殺しながら余裕を装って歩く。
「……なんだこれ」
しかし、そんなニヤけと心からの歓喜は煙が完全に晴れると同時に霧散した。
煙が晴れた先、落ちていたのは黒焦げの物体となにか薄く透明感のある膜のようなものに覆われた渚と圭一の2人。彼らは怪我ひとつなく膜に覆われたまま床に伏していた。
「無傷……?」
そんな馬鹿なと黒焦げの超生物の死体を持ち上げ首を傾げる。確かに人が死ぬような威力ではないが、300発にも及ぶBB弾とそれを爆散させる為に使用した火薬の量は決して人が巻き込まれれば怪我だけて済む量ではない。現に、超生物の死骸は黒焦げだ。
首を傾げると同時に寺坂は気付く。超生物の死骸は倒れてる2人を覆う膜に繋がっていたのだ。
現状に何一つと理解が追いついていない寺坂の頭の中に様々な疑問が顔を出す中で、彼の頭上から声が聞こえた。静かな、それでいて——。
「実は先生、月に一度だけ脱皮します」
尋常ではない程の怒気を孕んだ声が。
「脱いだ皮は凡ゆる衝撃に耐える強度があり、それを爆弾に被せて威力を殺しました。つまりは月イチで使える奥の手です」
「いてて、大丈夫か? 渚」
「うん……。乃咲は?」
「こっちはへーきだけど……俺たち以外は只事じゃなさそうだな」
抜け殻を重たい掛け布団のように捲ると圭一はのっそりと起き上がって、天井に張り付く超生物を見上げて苦笑を浮かべた。
渚も同様に見上げるとそこにあったのは普段の鮮やかなまでの黄色から掛け離れた黒。顔には血管らしきものが浮き上がり、目は鋭く主犯格たちを睨みつけている超生物の顔があった。
——怒っている。
誰もがもはや顔を見るまでもなく察した。
そんな空気すら歪ませそうな怒気を直に当てられた寺坂は腰を抜かした様にその場に尻餅を着き、ガタガタと震え出す。
「寺坂、吉田、村松。首謀者は君たち3人だな」
「ち、ちがっ……! 渚が勝手に」
「いや、流石にそれは通じないだろ」
怒る超生物、怯える3人、呆れ顔でそれを眺める圭一。圭一が喋り終わると同時に超生物は姿を消す。凄まじい風圧を置き去りに古びた校舎を飛び出した超生物は己の残した風圧の残る教室に舞い戻る。腕の中に無数の表札を抱えて。
うち、3枚が零れ落ちる。意図せずか、意図してか、落ちた3枚の表札に刻まれているのは奇しくも寺坂、吉田、村松。3人の苗字だった。
「政府との約束ですから先生は決して、君達
それは明らかな脅し。禍々しい程に黒く染まった顔を見た誰もが思ったことだろう。例え、地球の裏側に行ったとしても逃げきれないだろうと。
「な、なんなんだよ、テメェ! 迷惑なんだよぉ……! いきなり来て地球爆破とか暗殺しろとか! 迷惑な奴に迷惑な殺し方をして何が悪いんだよ!?」
「渚に自爆特攻させることだろが」
「さっきからうるせぇんだよ、お前もよぉ! 分かってんのか、俺たち脅されてるんだぞ、家族を盾に!?」
「……いや、だからってそもそも、渚に爆弾括り付けて特攻させるのは人としてどうなんだって話だろ。100億から治療費出すとか言っても完全に治るとは限らないし、後遺症とか残るかもしれない。このタコがキレてる理由はそこなんだからさ。それに次に同じ方法で来たらって言ってたべ? 2度と同じことをやらなきゃコイツは何もしないだろうさ」
圭一は、尻餅を着いている寺坂を見下ろしながら言いたいことを一通り言い終わると、超生物に向かって視線を投げる。何も間違ったことは言ってないよな? と確認する様な目にそれは力強く頷いた。
「乃咲くんの言ってる通りです。寺坂くん達は渚くんを、渚くんは自分自身を大事にしなかった。そんな生徒には暗殺者たる資格はありません」
言い切る言葉に渚は落ち込んだ様に頷く。が、その顔は直ぐに喜びの色で明るく彩られることになる。
「ですが、寺坂くん達のアイディア自体は素晴らしかった。先生は君達の暗殺を迷惑だなんて考えてません。自分と周りへの危害が無い範疇での暗殺ならいつでも大歓迎です。また新しい作戦を思いついたら試しにいらっしゃい」
顔に大きく浮かんだ朱色の丸を見せて優しく微笑む、その生物に彼らの目は奪われた。真っ直ぐに自分たちと向き合おうとするその目に。
「特に渚くん。キミの肉薄までの自然な体運びは百点です。先生は見事に隙を突かれてしまいました」
「……案外、手榴弾とか使わずに肉薄したままナイフ使った方が簡単に殺せたかもな」
「ヌルフフフ、さてどうでしょうねぇ? 先生はそう簡単に殺されてあげるつもりはないですよ。それはそうと乃咲くん。短歌の方は良くできています。短歌は俳句と違って必ずしも季語を入れる必要はありませんが、キミはしっかりと桜という季語を入れている。ただ花が咲くと表現するのでなく、咲き誇るという言い回しを使っているところ、先生は好きですねぇ。字余りしている部分も語感が良くて違和感がない。あの短い時間でよく作れましたね」
「……マジかよ」
いつの間にか持ち去られ、評価までされて、いつの間にかタコ二重丸を付けられて帰ってきた自分の短冊に呆気に取られる圭一。
「皆さん、人に笑顔で誇れる暗殺をしましょう。君達全員がそれができるだけの力を秘めた有能な
触手をうねらせながらのアドバイス。受け取り方は三者三様。キラキラとした目で見つめる渚、怯えた顔の寺坂、どうでも良さ気な圭一。
そんな彼らを見ながら暗殺対象は暗殺者に問いかける。
「先生はこの一年、皆さんとの生活をエンジョイしたら地球爆破して逃げるつもりです。無論、殺されるつもりなど微塵もない。さて、問題です、渚くん。それが嫌なら君達はどうしますか?」
「……その前に、先生を殺します」
ニヤリと口元を綻ばせて、はっきりと答えた渚に満足そうに頷くと超生物は顔に緑のしましまを浮かばせて彼に倣うようにニヤリと笑う。
「ならば
「それができれば苦労しないっつの」
ボソッと入れた圭一のツッコミにクラス全員が頷くと同時に茅野が何かを思いついたら様に恐る恐ると言った様子で手を上げた。
「あの、先生の名前なんだけどさ。殺せない先生で『殺せんせー』って言うのはどうかな?」
「殺せない先生で『殺せんせー』ですか……。うん、良いですね、気に入りました。素敵な名前をありがとうございます、茅野さん。それでは皆さん、今日から先生を呼ぶときは殺せんせーと呼んでください!」
「はい、殺せんせー質問〜」
「早速ですねぇ、どうしましたか?」
「俺、短歌終わったんだけど帰っていいかな? 終わったら帰ってよしって言ってたよね? 殺れた奴からって条件になる前に出されてた課題終わったんだし、問題ないよね?」
「ニュヤァ!? そんな冷めたこと言わずにぃもっと先生と戯れましょうよ! クラスメイトたちとも親睦を深めるチャンスですよ!」
「んじゃ帰りまーす。また明日ね、殺せんせー」
圭一は言いたいことだけ言い終えるとそそくさと帰る用意をして教室を出て行ってしまった。
「…………先生、もしかして嫌われてます?」
「気にしなくていいですよ、殺せんせー。アイツは昔からあんな感じだから」
震える触手で自分を指しながら冷や汗たっぷりな顔で訊ねる殺せんせーに、圭一と付き合いのある磯貝は苦笑を隠そうともせずに答えた。
「本当に殺せるのかな、あのタコ」
下校しながら呟く圭一の背中は校舎からどんどん遠ざかって行く。
暗殺対象と暗殺者が織りなす異様な雰囲気の教室にはきっと、明日も始業のベルが鳴るのだろう。少年は深いため息を吐いた。