暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!

——追記——
すみません。ご指摘をいただきました。
どうやら私立の教師は各都道府県の運営する公立校で働く公務員という扱いではなく、個人の運営する企業で働く一般労働者と扱いは同じな為、ストライキは認められるみたいです。お恥ずかしい限りです……。

本編に一部、


150話 理事長の時間

 

「いやー。昨日のカラオケ盛り上がったよなぁ」

 

「だねー。まさかA組とカラオケとかゲームセンターに行くことになるなんて思わなかったよ」

 

 今日も今日とで別に約束したわけでもないメンツが自然と集まり、昨日のことに着いて楽しそうに話していた。

 そんな中、ふと矢田さんがこっちを見て話題を振ってくる。

 

「そう言えば乃咲くんって結構歌上手いよね」

 

「あ、それ俺も思った」

 

 木村も彼女の言葉に同意する。それに対して答えたのは何故か苦笑しいてる悠馬と前原だった。

 

「圭一、もともと声は優しいからスローテンポな曲は本当に上手かったんだけどさ。チョイスする曲の殆どがなんつーか、色々と特徴的なものばっかりでな。でも夏休み明けからやたら感情込めて歌うもんだから迫力が着いたっていうか」

 

「それな。仲良くなる前から磯貝がよく乃咲も誘ってたからカラオケ自体は一緒に行ったことは何度かあったんだけどさ。あの頃は声に感情が乗ってない棒読みっていうか、念仏みたいな歌い方だったのに……。感情乗って迫力のある歌い方できるようになって……その癖、歌うのが最近の流行りとかじゃなくてインターネット老人みたいな曲ばっかりなんだよなぁ」

 

「……あー。そう言えば、浅野と磯貝に曲変えられてたな」

 

「確かに。なんか歌詞全部英語だったけど、なんの曲?」

 

「俺の好きなゲームの曲。もともとPVの曲だったんだけどな、そのシリーズらしからぬ雰囲気と曲調がカッコいいから人気が出たんだ。まぁ、フロムなんだけどさ」

 

「んでも、圭一が歌える中では一番盛り上がりそうな曲だったから浅野にパレードを止めてもらって急遽そっちを流したと」

 

「流石に失敬だぞ。俺だって別にフロムと変わり種とガンダム以外の曲も歌える」

 

「例えば?」

 

「バラライカ、ライオン、恋は渾沌のしもべなり、恋愛サーキュレーション、くるみ⭐︎ぽんちお」

 

「どんな選曲だ!!?」

 

「うわー。なんか、なんでそれ選んだのか分かる自分がイヤ」

 

「片岡もこっち側か……」

 

「違うから!!」

 

「流石にそんなん流したら空気凍るわ……。しかも絶対替え歌の方歌うだろ、お前。具体的に言えば漢らしく……」

 

「普段何聞いてんのか気になるな……」

 

「カスタマイZの『COOLEST』とT.M.Revolutionの『The party must go on』の順で連続再生して聞いてみ?満足感凄いぞ。ガチ編集で繋げても曲が変わったことに気付かないんじゃね?ってレベルで取り合わせがいい」

 

「こういうところあるからなぁ、乃咲。音楽に拘ってんのか、拘ってないのか分かんねぇ」

 

 しばらく昨日のことに着いてワイガヤしながら歩いていると、T字路に差し掛かる。この時間だと割と同じ学校の生徒が合流してくる印象のあるそこへ視線を向けていると、見慣れた銀髪と坊主頭の2人が目に入る。

 

「あっ、おーい、菅谷〜岡島〜!おはよーさーん!」

 

「おっ。よーっす!」

 

 ひらひらと手を振る前原とこっちに気付く2人。

 菅谷はというと俺を見るなり、思い出した様にカバンの中に手を突っ込んで空き缶くらいの大きさの瓶を取り出した。

 

「おはよ、乃咲。ほら、例のブツだ」

 

「おはようさん。悪いな、ありがたく使わせてもらう。コイツがないと決め手にかけるんでな。分け前はしっかり渡す」

 

 意味深な会話をしながら対先生粉末の入った瓶を受け取る。

 こんだけあれば充分だ。暗殺のための仕込みもあらかた済ませてある。暗殺の為の小道具の作製や装備への細工。これまでの暗殺で使った技術や知識の総決算。

 

「あやしいやり取りしてる風だけど、それ、対先生パウダー?」

 

「あ、この前言ってたやつか?」

 

「そう。前原たちも手伝ってくれてたんだろ?」

 

「へへへっ、まあな。お前が使うんなら成功率は高いし、準備手伝えば分け前もらえそうじゃん?それに、その粉末自体は俺たちに取っても使い勝手良さそうだしよ」

 

「……んで、それを今、受け取ったってことは?」

 

 岡野がこっちを見ながら問いかけて来る。 

 期待している返事なんて分かりきってるさ。

 

「学園祭もテストも終わった。まだ多少のイベントは残ってるが、それでも残りの学校生活は暗殺に集中できる。景気付けに1発やってやろうと思ってな。まぁ要するに、今日、仕掛ける」

 

 俺の言葉に1人を除いてみんながニヤリと笑う。 

 だが、ただ1人。ヒナだけが複雑そうに俺を見ていた。

 

 これまでみんなの様子を腕組みしながらウンウン頷いて見守っていたのに、ふと、俺の前に立ちはだかった。

 

「………本当にやるの?」

 

 彼女のその問いかけの意味を俺は知っている。

 仲間の中では彼女にしか話していない俺の迷い。その相談を唯一した相手だったから、そんな問いが来る。

 

 俺は覚悟を決めて言う。

 

「やる。殺せんせーにも今日仕掛けることは朝イチで伝えた」

 

「答えは出たの?」

 

 それでも俺の前に来て、下から瞳を覗き込む様に問いかけて来るヒナ。本当にそれでいいの?と目で語り掛けてくる彼女から俺も目を逸らすことなく、言い放つ。

 

「………俺なりのを出したよ」

 

 もちろん、殺したいか殺したくないかで言えば前者だ。

 納得してるか、理解しているかで言えば後者だ。

 

 俺の目指す強者は"責任を果たす者"だ。

 

 じいちゃんやばあちゃん、トメさん、A組の連中、故郷で再会した懐かしい人たち、綾香ちゃんを筆頭としたわかばパークの後輩たち。もし、殺せんせーが地球と共に死んでしまうのなら、彼らは選べない。殺す殺さない、納得と理解、そんな選択肢すら与えられない。死んだことにすら気付かないだろう。

 

 対して俺は選べる立場にいる。殺すか殺さないか、納得か理解か。何が起きたのか正確に把握し、今後の結末を予期できる立場にいる。そして、その結末を選ぶ力が俺にはある。

 

 なら、俺がやる。それが事件の中心にいて、結末を選べる立場にいる俺が果たすべき責任だろう。

 例え納得していなくても、やらなきゃいけない理不尽な状況なんていくらでもある。今回はたまたまそんな状況の中でも特段ヘビーなものが来てしまっただけのことなんだ。

 

 そして、そんな納得してない状況でも自分に選択肢が与えられているのなら……自分を無理矢理にでも納得させて行動する。それが責任を果たすということなのだと思う。

 

「………そっか。分かった。なら私は圭ちゃんの隣にいるだけだよ。答えは出せなかったけど、それくらいはね」

 

 彼女は頷くと俺の隣に戻った。

 

「……ま、まずは学校に行こうぜ?あんまり公道で暗殺暗殺言ってたら、この前の浅野みたいなことになりかねないしよ」

 

「そうね、早くいきましょう」

 

 俺とヒナの空気から何かを察したのだろうか。みんなが空気を変えるようにそう言って再び歩き出した。

 ほんと、みんなには気を使われてばかりだ。こればっかりはずっと変わらない俺の悪癖だよな。

 

 隣にいたヒナからいつもの如く手が伸びる。

 手の甲を擦り付けるように、あるいは軽く突くように触れ合わせるように伸ばされた手を握る。

 

 手つきは慣れたが、それでもこの感触には慣れない。他人の温もりを感じるという行為自体に慣れていないからか、あるいはヒナが相手だからか、両方か。好きだと伝えてくれるこの体温を損なわない為にも、俺は殺せんせーを殺さないといけない。

 

 それが俺が果たすべき責任と恩返しだ。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 歩き慣れた山道を噛み締めながら歩く。

 教室に近づくにつれて思わず強張る自分の雰囲気を自覚しながら仲間たちの談笑をBGMにただ教室を目指す。

 道中、何度もゾーンに入って考え込みそうになる思考を繋いだ右手から伝わる柔らかくて温かな感触が引き戻す。

 

 そうして山を登り切った頃。俺たちの校舎の正門とでも言うべき場所には人だかりが出来ていた。

 野次馬ではない。全員、E組の生徒だ。何故だか仲間たちは誰1人と教室に入ることなく、校舎の昇降口に身体を向けていた。

 

「……なんかあったのか?」

 

『乃咲さん……。すこし、不味いかもしれません』

 

 スマホから律の声がする。深刻そうな顔をする液晶の中の少女は連日俺のスマホの中で台パンを繰り返してるお転婆ちゃんとは思えないほど、しゅんとした顔をしていた。

 

『殺せんせーが…………解雇されるそうです』

 

「………殺せんせー、シルク工場にでも就職するのか?」

 

『それは蚕』

 

「思いがけず運命の人と出会った」

 

『それは邂逅』

 

「従業員に対して厳重注意をする懲戒処分」

 

『戒告……って、なんで微妙に響きは遠くなってるのに意味は近くなっていくんですか……』

 

 いや、だって急に解雇されるとか言われても……。

 んでもまぁ、まずは目で見るのが先だろう。みんなの横を回り込むように昇降口が見える位置へ陣取る。

 そこには面白いくらいに動揺してる殺せんせーが無数のプラカードを高速で作りながら不当解雇を訴えていた。

 

「なんじゃこりゃ……」

 

 ものすごいスピードで紡がれていく『不当解雇を許すな!』『労働者よ立ち上がれ!』『浅野學峯は腹を切って地球の業火で死ぬべきである。だって横暴だもの』などなどそれに並ぶような情けない文言。思わず声が漏れると2人がこちらに気付く。

 

「やぁ、乃咲くん。おはよう、そして名実共に1位おめでとう。どうだい、進学先は決まったかな?よければ本校舎の生徒の待遇と同様に入試無しで高等部に入るつまりはないかない?あぁ、もちろん、赤羽くんも。今回のテストで主席だったことは素直に驚嘆に値するからね」

 

「乃咲くん!おはようございます、そして助けてください!!今こそストライキを起こすのです!!タコにも人権を!!動物愛護団体に駆け込んで私の保護を申請してください!!」

 

「…………ちょっと待ってくれ。朝っぱらから情報量が多い。えと……まず理事長先生、その話はありがたいですがお断りさせて頂きます。そんで殺せんせー、人権求めて動物愛護団体に駆け込むのは普通に矛盾してるだろ。あと、教員はストライキを法律で禁じられてる筈では?つーか、殺せんせーは労働組合とか入ってんの?1人でやってもただの異議申し立てだし、俺はそもそも労働者じゃないからストライキする権利はないぜ?」

 

「にゅやぁっ!?主席が知識で殴ってきます!!」

 

「さ、さすが乃咲……。的確なツッコミだ」

 

「なんで理事長より言葉数少なかった殺せんせーへのツッコミの方が指摘内容分厚いのよ……」

 

「しかし、詰めが甘いです。椚ヶ丘は私立の学校であり、都道府県の各自治体が運営する公立校ではない為、扱いとしては一般企業の労働者と同じ。つまりは労働組合を結成し、ストライキを起こすことが可能です。今度の公民で取り上げますので正しい知識を身につけましょう」

 

「そうなのか。ごめん、そこは知らなかった。………んでも、そもそも住所不定な殺せんせーって正式な従業員なん?月に1回、人里離れた雪原でグータラしてるあの家、流石に住所には書けないだろ」

 

「にゅやぁっ!?なんでそれを!!!?」

 

「前に仲良くなった鞭使いの殺し屋のおっちゃんが仲良くなった別の殺し屋が殺せんせーの弱点と交換で教えてくれた」

 

「なんて人脈を開発してるんですか!!?」

 

 とりあえず突っ込むべき部分を叩きながら、烏間先生に視線を向けると相変わらず眉間にシワを寄せて頭を抱えていた。

 烏間先生……本当に苦労が絶えない人だな。俺がこの人だったらいつか絶対にハゲる自信あるわ、ストレスで。

 

「さて、生徒たちも一通り揃ったようですし……。本題に入りましょうか。殺せんせー。あなたに選択肢を与えます」

 

「せ、選択肢?」

 

 どうやらE組の仲間たちがいつの間にか揃っていたらしい。

 理事長がぐるりと俺たちを見回したあと、ニコリと笑ってそう告げながら懐から一枚のA4用紙を取り出す。その用紙の一番上に書いてあったのは目立つ太字と大きな文字で『解雇通知』と書かれていた。

 

「と、とうとう伝家の宝刀を抜いた……」

 

 いつの間にやら隣にいた茅野がボソッと呟く。

 

「はわわわわわわわわっ……!!」

 

「そんでこれが面白いほど効くんだよ、うちのタコ……!!」

 

「超生物がデモに訴えるのはどうなの!?」

 

 再び動揺し始めた殺せんせーに突き刺さる無数のツッコミ。

 しかし、そんな中でも一切動じない理事長が口を開く。

 

「早合点なさらぬよう。これはあくまであなたを釣る為のエサに過ぎません。殺せんせー。今回、私が来たのはあなたを暗殺する為です。私の教育に不要となったのでね」

 

「にゅやぁっ!?」

 

 ヒラヒラと見せつける解雇通知。しかし、どうやらエサというのは嘘ではないようで、決定が下された日付を記入するであろう欄にはまだ何も書かれていない。本当に決まったことを伝えに来たのなら、そこには日付が入っている筈だろう。

 

「……つか、宛名は地球破壊生物でいいのか?」

 

「圭ちゃん、そこは一旦置いておこう」

 

 ヒナの言葉に頷きながら、経緯を見守る。

 にしても、本当に急展開だな。これまで俺たちの妨害をすることはあっても、こんな強行手段は取らなかったのに。

 

 あ、いや……。そうか、昨日学秀が言ってたな。理事長が何をしてくるか分からないから気を付けろって。

 

「端的に言いましょう。あなたの手腕は認めます。E組の実績も大したものです。しかし、やり過ぎた。生徒一人一人の成長は喜ぶべきことではありますが、私の教育にはE組という弱者役は必要であり、もはや弱者と言えなくなったE組は必要ない」

 

「つまり、E組が必要なくなる以上、担任も必要ないと」

 

「そういうことです。E組の生徒であるキミたちには2つ選択肢を与えよう。1つは本校舎に復帰すること。全員、その条件は満たしている訳だしね。2つ目に来年開校予定の新校舎の性能テストに付き合ってもらうこと。私の教育理論の完成系とも言える牢獄のような校舎でね」

 

「い、嫌だよ!俺らはこの校舎で卒業してぇ!!」

 

 杉野が理事長の言葉に反発する。そこに関してはみんなも同意見の様で、ある者は声に出し、またある者は頷いて同調を示し、理不尽な決定に不満を見せる。

 

「そうだろうね、そういう反対意見も出るだろう。そこで話題は最初に戻ります。殺せんせー、解雇(クビ)が嫌なら私とギャンブルをしてもらいます。単純な話し、あなたが教育者として私より優れていることを証明してください。日頃から強者になれ、強者に従えと教えているのですから、勝者の言うことなら聞きましょう」

 

「私が勝てば今のE組は存続し、私のクビは守られると?」

 

「そうなりますね。教師という自分の立場とこの教室を守りたければ受けてください。まぁ、ここまで言ってなんですけれど、拒否権の有無は……言うまでもありませんね?」

 

「……実に上手い誘導です。この立場で断れる者はいないでしょう。分かりました、ギャンブルとやら。お受けします」

 

 半ば冷や汗をかきながら、殺せんせーは頷くと、申し訳なさそうに俺の方へ視線を向けてきた。

 

「と言う訳です。乃咲くん、すみませんがキミの暗殺はもう少し待ってください」

 

「ほう?今日は彼が暗殺を仕掛ける日でしたか。暗殺を仕掛けることをターゲットが把握しているのは果たして暗殺と呼べるのか?という疑問はさておき、興味はあります。どうです?先に彼に付き合ってあげては。これが生徒と触れ合う最後の機会かもしれませんよ?」

 

「いえ。あなたの言うギャンブルに勝てば良いだけのこと。彼との約束はしっかり守ります」

 

「…………そうですか。それでは教室へ行きましょう」

 

 その言葉に頷くと殺せんせーはヌルヌル音を立てながら校舎の中に入っていく。俺たちもその背中に続こうとするが、殺せんせーの後ろを歩く理事長が振り返り、それを制した。

 

「君たちは外で待っていなさい。大丈夫、教室の窓から覗けば何が起きるのかは分かるさ」

 

 そういうと振り返ることなく歩き出した理事長。

 思わず烏間先生を見るが、彼は頷くと教室の窓の方へと歩き出したので、従って俺たちの教室の窓際へと向かう。

 

「なんだこれ……」

 

 その窓から見えたのは異様な光景だった。

 教室内の机は5つを除いて全て後ろ側へと集められ、5つの残っている机はまるでステージでも作るみたいに半円を描いている。そしてその上に意味深に乗っている問題集。それもたまたまやったことがあるが、アレはかなり難しい奴だ。

 

「ギャンブル会場だよ。まぁ、もっとも。キミたちの感性や言い方に倣うのなら……暗殺現場ってところかな」

 

「……暗殺?」

 

 異様な教室の光景に立ち尽くす殺せんせーの後ろから現れた理事長が淡々と口を動かして告げる。

 

「殺せんせー。私はあなたをもう不要と言いました。しかし、それは解雇するという意味ではない。今日はね、殺しに来たんですよ。あなたを。私の教育の障害になる者を消しに来ました」

 

「……さっき、乃咲くんの暗殺を優先する様提案したのは」

 

「言ったでしょう?生徒と触れ合う最後の機会だと」

 

「ねぇ、ナチュラルに俺が暗殺失敗するって思われてない?いま、すんごい流れる様に俺軽んじられなかった?」

 

「ははは、そんなことはないさ。純粋に興味があるのは本当だよ。この教室で行われていることは知っているが、実態までは見ていないからね。うちの学校の主席であるキミがどんな殺しをするのか興味があるのも本当だとも」

 

 うーん。なんか納得できるような、できないような。

 

 ヒナが横からどうどうと宥めてくる。

 

「しかし、私の方を先に受けると言ったのは殺せんせーですので。約束は守ってもらいますよ。今日まで防衛省から得た金とあなたを殺した賞金で私の教育理論を全国にばら撒く。もう2度と私の目の届かぬ場所で私の生徒だけが不利益を被らないように」

 

 皆がキョトンとしたが、昨日のこともあって理事長が何を言いたいのか分かった。池田先輩のような悲劇を繰り返さない為なんだろう。それは想像できてしまう。

 だが、俺には理事長か暴走している様に見えてしまうのは何故なんだろう。今の彼は本当に世界征服を企む魔王の様だ。

 

「さぁ、始めましょう」

 

 理事長はそう言うと机の中から5つの円柱状の何かを取り出す。黒く輝く細長い円柱状のそれには操作レバーの様なものがついている様に見える。

 いや、何かと言ってはいるが、その正体は知っている。ただ、頭が理解を拒んでいる。だってそれは映画やゲームの中でしか見たことがないもの。俺たちですら実物は使ったことがない。

 

「手榴弾……!?」

 

「そう。ここに5つの手榴弾があります。うち4つは対先生弾と火薬を込めた殺せんせー用のもの。そして最後の一つが対人用。本物の手榴弾です。どれも臭いや形では区別が付かず、ピンを抜いてレバーが起きた瞬間に爆発する様に作らせました」

 

 説明しながらピンを抜く理事長。みんなが思わず身構える。そりゃそうだ、説明が本当なら理事長にすら区別できてるか怪しい。あのままもしも手を滑らせたりしたら理事長が死ぬ。

 

 しかし、"作らせた"って誰にだ?平然と本物の手榴弾も持ってるし。確かに1学期の寺坂の例もあるから、サバゲー用の手榴弾とかを改造した線もある。しかし、本人が本物って言ってるし。まさか理事長、軍事企業とかともパイプがあるのか?

 

「ピンを抜き、問題集の適当なページに挟む。手榴弾のレバーが上がらないように慎重に。これを各教科の問題集に行います。私とあなたの対決内容は単純明快。この手榴弾を挟んだページを開き、レバーが上がり爆発する前にページ右上の一番上の問題を解いてください。この際、解き終わるまで動いていけません。動いたら……最後まで言わなくても分かって頂けますね?」

 

 とんでもない内容の勝負だ。数学とかなら問題によっては暗算でいける可能性がある。理科も同じだが……文章問題が来たらやばい。最悪問題文を読んでる途中で爆発するぞ。

 

「順番はあなたが先に4冊解き、私が最後の1冊を解きます。もし、あなたがこのギャンブルで私を殺すかギブアップさせることが出来たのなら、E組の存続とこの解雇通知をシュレッダーにかけることを約束しましょう」

 

 殺せんせーは理事長の言葉に冷や汗をかいている。

 そりゃそうだ。殺せんせーは直ぐにテンパるし、1学期の時の知恵の輪の件を見ればページ開いて瞬発的に問題を解くと言うのは苦手分野なのは想像に難く無い。

 それを踏まえて考えると、単純計算でも殺せんせーが勝てる確率は20%。裏を返せば殺せる確率は80%もある。

 

「さて、どうしますか。殺せんせー」

 

「受ける訳ねぇだろ、こんなの。圧倒的に不公平だろーが。そのタコが勝てる確率は20%程度で、オメーは危なくなったらギブして無傷。そんな条件の賭けに誰が乗んだよ」

 

「寺坂くん。社会に出たらこんな理不尽の連続だよ。強者と弱者の間では特にね。だから私は……キミたちにも強者側になれと教えて来た。そしてキミたちは数々の理不尽を跳ね除けて強者になった。この学校の仕組みを壊されたことは遺憾ではあるが、認めているのは事実だ」

 

 俺たちを褒めつつ、理事長はゆっくりと顔を殺せんせーに向ける。吟味するような、ある種のいやらしい視線を向けた。

 

「そして、そんな理不尽を跳ね除けた生徒の師だ。この程度の状況で根を上げるわけがない。そうですよね、殺せんせー」

 

「……」

 

「これはあなたの教職に対する本気度合いの試験でもあります。解けるであろう問題から離れない。教えるものとして、自らが理解できていない問題を教えるわけにはいかない。情熱がある教師ならば逃げ出すことはないでしょう。もちろん、私があなたなら……迷わずやりますがね」

 

 覗き込むように視界に入って顔を見上げる。

 理事長のあれ、めちゃくちゃ怖いんだよなぁ。俺も入院してる時にやられた時は正直やばかった。下手したら看護師さんたちに対して一生消えない恥を見られるかも知れなかった。

 

 にしても、理事長エグいことするな。

 

「……も、もちろんやります」

 

 理事長はこの学校の支配者で、この学校の教室の一つで教鞭を執る以上は殺せんせーと言えど彼には逆らえない。これまでのA組vsE組の様な生徒同士の争いならまだしも、こうして直に乗り込んできた上にクビまでちらつかされたら言うことを聞くしかないだろう。例えそれが圧倒的に自分が不利な賭けであっても。

 

 俺たちには、5つの机の前に置かれた椅子に座る殺せんせーが死刑執行を待つ囚人に見えてしまった。

 

「開いた瞬間に解いて閉じれば爆発はしない。あなたのスピードなら簡単かも知れませんね」

 

「……もちろんです」

 

 理事長の挑発に重々しく頷きながら殺せんせーが意を決した様に問題集を捲る。最初に選んだのは数学だったらしい。

 運が良ければフラッシュ暗算で事なきを得られるかも知れないこの賭けでは当たり教科だが、ゾーンに入って時間経過が緩やかになった俺の視界に入って来たのは案の定、テンパって頭を抱える殺せんせーだった。

 

 やっぱり、殺せんせーはこう言う突然に問題を振られる攻められ方に弱い。慌てる殺せんせーの手元で手榴弾は無慈悲にも爆発し、中に封入されて後対先生弾がいつぞやの寺坂お手製のモノとは比べ物にならない威力で飛散する。

 

 開いてる窓から勢い良く飛んでくる流れ弾を1発残らず叩き落とす。みんなに当たると危ないし、怪我するだろうから。

 

 にしても、理事長はやっぱり化け物だ。間近で手榴弾が爆発したと言うのに彼は表情を変えないどころか瞬き一つしなかった。ただ、自分の成果にしか興味がないみたいに無数のBB弾を受けて身体を削られる殺せんせーを眺めていた。

 

 そして殺せんせーの状態は酷かった。

 対先生手榴弾をまともに喰らい、顔面は両サイドから深々と抉られ、全身の触手は虫食いになり、果ては見慣れた黒いポッチの様な左目の上に風穴が空いていた。

 

「……とてもじゃないが、あと3発も耐えられるダメージじゃねぇな。下手したら次ので死にかねないぞ」

 

「うん……。大丈夫だよね、殺せんせー。こんなあっさり殺されたりしないよね……?」

 

 心配そうな声を出すヒナの頭に手を置きながら、俺の冷静な部分は殺せんせーのダメージを観察していた。

 どうやら、殺せんせーは頭に対先生弾を1発受けたくらいでは死なないらしい。少なくとも、目の上に風穴空ける程度で仕留めきれないようだ。やはり、単独で狙うなら心臓か……。

 

「……乃咲………?」

 

「ん?どうした、茅野」

 

「………いや、少し雰囲気が…………」

 

「……………まぁ、少し物騒なことを考えたな。すまん、雰囲気に出てると思わなかった」

 

 一言謝るが、茅野は怪訝そうな顔をしている。

 そんなに俺の雰囲気はおかしかったのかと周りに視線を向けるが、近くにいた仲間たちは『そんなことないけど?』と言いたげに肩を持ち上げながら首を傾げてみせた。

 

 まぁ、そうだよな……。表に出したつもりはないし。もしかすると普段から何かしらの演技をしてる茅野だから気付く部分があるのかも知れないな。

 あんまり物騒なことは考えない様にしたいもんだ。それが雰囲気に出て怖がられてしまうのは少し悲しい。

 

「まずは1ヒット。あと3回耐えればあなたの勝ちです。さ、回復する前にさっさと続きを解いてください」

 

 教室から聞こえてくる冷やかな声と解雇通知を揺らすピラピラという音が鼓膜を叩き、俺たちの意識を引き戻す。

 そうだ。今の俺たちはあくまで外野に過ぎない。いまは……理事長の暗殺の結果をしっかり見届けよう。

 

 殺せんせーは冷や汗をかきながら次の問題集を捲る。

 しかし、その直後の結果は俺たちの想像する結末とは掛け離れたものだった。ヒュンヒュンと風が吹いた時思えば、問題集は閉じられ、表紙には解答が書かれた付箋が貼られていた。

 

「はい、開いて、解いて、閉じました」

 

「……意外ですね。あなたの思考なら読んでいたつもりでした。てっきり、慌ててふためいて爆発するものと」

 

「ヌルフフフフ、実はこの問題集シリーズですが何処にどの問題があるのか把握しています。数学だけ難関でした。しばらく生徒に貸していて忘れていまして……」

 

「私が持って来た問題集なのに、まさか、たまたま覚えていたとは」

 

「たまたま?それこそまさかです。日本全国の問題集全て憶えましたよ。教師になるんだからそれくらいは勉強しなくては。もっとも、他にも貸してる問題集はあるので、あなたの準備がそこまで念入りだったのなら、私は殺られていたことでしょう。そういう意味でたまたまと言う言葉を全て否定はできませんがねぇ」

 

 彼は口を動かしながら手を動かす。

 問題集を次々に解いていった。俺たちの心配など杞憂であると安心させる様に危なげなくスラスラと。

 

「あなたの言う通り、解けるまで動いてはいけないだなんて問題は情熱がある教師ならばクリアできます。あなたなら私をわかってくれていると思いましたが……。どうやら教え子の敗北で心を乱したようですね。普段のあなたなら、こんな安易な暗殺で自分の首を絞めることはなかった」

 

 殺せんせーは4冊目を解くと理事長に振り返る。

 

「さあ、5冊目……。あなたの番です」

 

 淡々と、冷酷にも見える声音で語りかける。

 

「負けたら死ぬ勝負……どうですか。敗北が確定し、自分の目の前に"死"がある気分は。死の直前に垣間見る走馬灯。その完璧な脳裏に何が映っているのでしょうか?」

 

 悪意なく、殺意なく、殺気なく。冷淡に聞き慣れた声が自分の顔見知りに死を突き付けている。見慣れた筈の殺せんせーの三日月の口がまるで命を刈り取る死神の様に見えた。

 

「どうしますか、最後の1冊。開きますか?爆弾入りの問題集。いくらあなたが優れていても喰らえば致命傷です。まして、最初の一発以外爆発させなかったのだから、最後に残ったそれが私用のものなのか、対人用の物なのかは誰にも分かりません」

 

 殺せんせーからの最後通告。

 彼の勝ちを悟った吉田が煽る様に言う。

 

「アンタが持ち出した賭けだぜ、死にたくなきゃ潔く負けを認めちまえよ」

 

 吉田をギロりと睨む浅野先生。そのあまりの迫力に吉田は怯んでしまったらしく、ひぃっと声を上げていた。

 煽って睨まれたら悲鳴を上げるとは情けない……とは言うまい。俺もあんな勢いで睨まれたら怖い。何せ、負けが確定したこの状況でもあの人の底は見えない。死ぬかも知れないのに、それでもなお、何を考えてるのかわからない。

 

 俺は窓から離れて校舎に向かう。

 

「圭一?」

 

「勝負は着いた。次は俺だからな。準備してくる」

 

 菅谷から貰った瓶を片手に更衣室代わりにしている部屋に入る。俺のロッカーには超体育着と烏間先生に注文していた装備、そしてテスト明けに暗殺すると決めた日からコツコツと準備していた小道具が入っていた。

 

 特に躊躇いもなく手に取って手早く着替える。

 準備して来た小道具をホルスターやらポケットに入れ、烏間先生に特注していた対先生合金のロングナイフ2本と愛用しているエアガン2つ。2つ準備していた薄い鈍色の水筒に菅谷が作ってくれた対先生粉末を入れる。

 

 ワイヤーは袖に仕込まれてる。投擲用のナイフもある。手に持つ獲物もしっかり装備した。手抜かりはない。

 

 チャプチャプと対先生粉末を入れた水筒2つを揺らす。ガンダム好きにはミーシャの水筒と言えば通じるだろうか。いつかこれに飲み物を入れて飲んでみたかったが、まさか、暗殺に使う為に買うことになるとはな。

 

 苦笑しながら、キャップに細工してあるそれを飲み口を下にして腕に装備する。これが今回の切り札だからな。

 

 俺は今日まで準備したあらゆる装備を身に付けた。さしずめ、フルアーマー乃咲と言ったところか。

 いい響きだ。フルアーマーと聞くと最終決戦感があってロマンがある。まぁ、事実として俺に取っては最終決戦だけどさ。

 

 廊下を歩いていると、地面が揺れる様な爆音が教室から聞こえて来た。どうやら、理事長が最後の問題集を開いたらしい。

 でも、実際あんまり心配はしていない。殺せんせーのことだ。みすみす見殺しにはしないだろう。

 あれだけ凄まじい爆発音があったと言うのに、悲鳴の一つも聞こえてこないのがその証拠だ。

 

 教室の前に辿り着き、中を見ると案の定無事な理事長と脱皮して彼を守ったらしく初撃のダメージで顔が洋梨の様な形になった殺せんせーがいた。

 

「おや、乃咲くん。準備は出来ましたか?」

 

「えぇ。いつでもやれます」

 

 教室に入ると、理事長が尻餅をついたままだったので手を貸そうと伸ばすが、それはそれ手で制され、彼は1人で立った。

 

「理事長先生。私とあなたは似た物同士です。お互いに意地っ張りで教育バカで自分の命を使ってでも理想の教育を貫く。だから脱皮はあなたの為に残しておきました。私が勝てば、あなたは迷いなく自爆を選ぶでしょうから」

 

「……私を見捨てれば、脱皮は緊急手段として使えた。これから乃咲くんとの暗殺もあって手札は温存しておくに越したことはなかっただろうに。なぜ……」

 

「言ったでしょう。私とあなたは似た物同士だと。テストの間に実はあなたのかつての教え子たちに聞いてまわっていました。あなたの教師像やおこったことも。私の求めた教育の理想は……かつてのあなたとそっくりでした」

 

「えっ……そうなの……?」

 

 殺せんせーの言葉に事情を知らない仲間から動揺が走る。

 しかし、彼は構わず言葉を続けた。

 

「私も生徒たちが自分の命が掛かっている状況に瀕したのなら、自分を第一に考え、その他は二の次にして欲しいと思います。しかし、進んで他人の命を奪えとは教えません。そんなことを教える者は教師ではない。実はつい最近、生徒たちの作戦でかなり追い詰められました。さっきの私用の手榴弾以上の威力で。だから、一発では死なない確信があった。だから、あなたを助けました。命の危機に瀕してはいない。だから、そんな時なら周りへ手を差し伸べられる子であって欲しい。そんな願いを抱いるのだから生徒の手本になる行動をするべきでしょう?」

 

「生徒の手本………」

 

「理事長。あなたはどうですか。いざとなったら他人を蹴落としてでも生き残る。それを実践しようとする意思はありましたか?言い逃れる術はいくらでもあった。なのにそれをしなかった。あなたが自爆することは知っていましたし、理解もしていましたが、教え子の前で自分の教えを放棄すること。それだけは納得できません。それこそ情熱のある教師ならそう言うでしょう」

 

「……なかなか言ってくれますね」

 

「ヌルフフフフ。勝者の権利って奴です。……しかし、私は恵まれていた。私があなたに比べて恵まれていたのは、このE組があったことです。纏まった人数が居るから同じ境遇を共有し、溜め込まずに相談でき、校内差別に対抗できる。そして理事長。そんな環境を作ったのはあなたです。私はそんな恵まれたE組だからこそ、生徒たちの長所を存分に伸ばすことができた」

 

「…………………」

 

「少し前に生徒に言われました。人が環境を作るのではなく、環境が人を作るのだと」

 

 殺せんせーが俺に目を向けてくる。そう言えば烏間先生が死神を倒したあとでそんなことを言ったっけ。

 

「もしかするとあなたの意見とは対立する内容かも知れません。けれど、今年、本校舎の生徒に対して下剋上を果たした強い生徒を育てた環境を維持し続けたのは他でもない理事長、あなたですよ。結局、あなたは昔思い描いた理想の教育を続けていたのです。無意識にね」

 

「結果論だ」

 

「しかし事実でもあります。この教室で殺せるは超生物(わたし)だけ。人間の命を奪えと教えるわけがない。私もあなたも理想は同じです。殺すのではなく、()かす教育。これからもお互いの理想の教育を貫きましょう。あなたが死んでしまっては私も張り合いがなくなってしまう。だから助けました。これからも殺しに来てください。好敵手にはナイフが似合う」

 

 殺せんせーは言いながら、教室の端に置いてあった対先生ナイフを持ち上げると彼に差し出し、半ば唖然とした様子の理事長はそれを受け取ると、自分の胸を見た。正確に言えば、そこにあった椚の葉のネクタイピンを。

 そう言えば、あのネクタイピンはいつも理事長がつけている印象がある。スーツや時計は下品にならない程度にはそれなりに高級そうなのに、あのピンだけ妙に古ぼけている。新品同然にピカピカではあるが、やはり、ピンの端とか劣化の形跡が見える。

 

 よほど、大事なものなんだろう。

 

「……この十年余りで大勢の強い生徒を輩出して来た。私の教育は常に正しい。ですが、あなたも今、私の教育を認めたことですし……温情をもって、このE組は存続させることとします」

 

「ヌルフフフフ、相変わらず素直に負けを認めませんねぇ。しかし、それもまた教師とはそういう生き物ですが」

 

 そうか……。少しだけ理解できた。

 理事長が主席になった俺を褒め、主席であり続けた学秀を叱責した理由。ようやく合点がいった。結局、無意識に昔の"良い"を伸ばそうとしていたからだ。俺の努力を"良い"と認めて褒めて伸ばし、学秀は周りを引っ張る能力を"良い"と認めているからこそ、もっと結果が出せたはずだと言っていたんだ。それも能力を認めていたからこそ。

 

 理事長の語る強者と強さの微妙な齟齬。過去の経験から他人を踏み付けてでも生き残る者を強者としたが、彼にとって強さとは良さのままだったのかも知れない。俺の印象だけどさ。

 

「乃咲くん。邪魔をして悪かったね」

 

「…………いえ」

 

「せっかくの機会だ。キミの暗殺も見させて貰うよ。窓の外からね。この教室の担任はもうとっくに私ではなかった」

 

 俺の肩に手を置いて理事長はそう言って出て行った。

 

「ヌルフフフフ、さぁて、お待たせしました。乃咲くん。今日は単独の暗殺なんですね?」

 

「……そうですね」

 

 理事長の暗殺が終わったということは、次は俺の番ということ。理事長は殺せんせーを認め、仲間たちや烏間先生からも安堵の息が漏れるのが聞こえる。弛緩した緊張が伝わってくる。

 

 窓の外に理事長が現れたことでまた再び緊張感が出るが、それでもさっきよりはマシだ。みんな気が楽になったということなんだろう。仲間たちからは期待、烏間先生や浅野先生からは見守る様な視線。これから俺がやることを知ってるヒナやビッチ先生からは心配の色が見える。

 

 俺はこれから、この空気をぶち壊すことになる。きっと悪い意味で。殺せんせーはそんな俺を前にいつもみたいに顔を緑の縞々にすることなく、冷静だった。

 

「……烏間先生、いつものお願いしていいですか?」

 

 烏間先生に視線を向けていうと、彼は頷いた。

 

 空気が途端に張り詰める。

 

 ホルスターから銃を抜いて両手で握り、僅かに腰を落とす。息をゆっくり吐き、ゾーンに入り、並列思考を展開する。

 

「……殺す————!」

 

 万感の思いを殺意に変えて静かに言い放った。

 




あとがき

はい、あとがきです。
来週には圭一の暗殺が始まります。圭一による暗殺教室での総決算的暗殺。前回の射撃主体の合同暗殺で殺せんせーを殺せる確信をした彼がどんな殺しをするのか、見守ってやってください……!

5月1日には予定通り、エイプリール企画の続きを投下する予定ですのでそちらの方も覚えておいて貰えれば嬉しいです……。

ちなみに、カスタマイZの『COOLEST』とT.M.Revolutionの『The party must go on』を連続再生させるって言うのは、YouTubeのあなたの為の再生リストみたいな奴で妙に耳に残る組み合わせだったのでそれ以降、定期的に聞いてます(笑)

皆さんにも連続で聞くと満足感がある曲の組み合わせみたいなのありますか?聞いてみたいので教えて貰えれば嬉しいです(笑)

今回もご愛読ありがとうございます!
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