暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


153話 圭一の時間 Ⅳ

 

 言葉を失っている間にも彼女は語る。

 俺の考え方を正論だと認めつつ、目標との乖離を。

 

「正論だと思うよ?可能性が一番ある人がやるって当たり前だよね。でもさ、圭ちゃんはそれで良いの?言ってたよね、先生やみんなに強くしてもらったって。なら強くなったの圭ちゃんだけじゃないって知ってるでしょ?」

 

「みんなも殺せんせーを殺す為に頑張って強くなったの。いろんなプランを考えて、みんなと協力してって一緒に動いて。努力してるのは圭ちゃんも知ってるよね。だってクラスで初めての合同暗殺を最初にやったのはキミなんだから」

 

「……そうだな、知ってるつもりだ」

 

「その上で圭ちゃんがやったこと振り返って見て。俺が一番可能性があるから、俺は殺すか殺さないか選べるから、だから俺が殺すんだって……みんなじゃできないから俺がやるって聞こえるよ?それってみんなの意思を"見て"ないよね」

 

 ほんと、今日の彼女は容赦がないな。

 まさかここまで言われるなんて想定外だ。少し泣きそう。そんなつもりはなかったんだけど、実際、周りにはそう見えるんだろうな。ヒナがここまで言うってことはきっと。

 

 そうじゃなきゃ、ここまで言わないだろう。

 

 もちろんショックではある。でも、俺の為を思って言ってくれてるのは伝わってくる。不謹慎かもしれないけど、ヒナはこんなにも温かいのだから。

 

 だって最初に言っていた。俺の行動は正しいのだと。その上で、俺が話した"見る"ことができる人になりたいという目標を引っ張って言葉を尽くしてくれているのだから。

 

「結構キツイこと言ってるよね。でも、やっぱり私が言わないとって……うんん、違うね。私が言いたいって思ったんだ」

 

「好きだからってやつ……?」

 

「そういうこと。そりゃ、私だって嫌われたくないけどさ、でもここでキミを全肯定したらまた何処かで同じことするでしょ?だったら今は厳しいことを言うのが私が圭ちゃんにしてあげられることなんじゃないかなって」

 

「……厳しい子を好きになってしまったな……」

 

「ふぇっ……………んっ、んっ!」

 

 ヒナが急に咳払いした。何かあったんだろうか。

 ぎゅむっと彼女から回されている手にチカラが入った。ますます俺は彼女の身体に沈み、柔らかさと熱さが伝わってくる。

 

「あー、あのね。圭ちゃん」

 

「はい」

 

「私が何が言いたかったのかって言うとね、もう少しだけ色んな言葉を緩くしても良いんじゃないかなってこと」

 

「………どういうこと?」

 

 俺がやったことと目標として話したことの矛盾を突いて理詰めしてきたかと思えば、今度は妙にフワッとしたことを言いだした。言葉を緩くってどういうことなんだろう。

 

「圭ちゃんはさ、相手を"見て"あげたいんでしょ?殺せんせーや烏間先生がそうしてくれたみたいに」

 

「……うん」

 

「だったらさ、俺が一番強いんだから俺がやるしかないって決めつけるんじゃなくて、俺はこうするべきだと思うけど周りはどうなんだろうって口に出す前に見渡して欲しいな」

 

「なんで口に出す前……?」

 

「口に出すのは実行する時、なんでしょ?」

 

「………まいったな………」

 

 それを言われると弱い。確かに相手を見ること、そして口に出したからには実行すると言うのは俺の中で明確になっている人生の目標というか、モットーみたいなものだ。

 

 ……そっか。彼女も見てくれていたんだな。

 

「責任を果たす者。それが圭ちゃんの思う強者なんだよね」

 

「そう思ってるよ」

 

 ヨシヨシ、と撫で続けるヒナは穏やかな声音で緩やかにまるで子供を寝かしつけるように話し続けた。

 

「言葉を緩くして欲しいのはそこかな。私が思う、圭ちゃんの良さを殺そうとしてる部分。結果を優先して過程を"見て"ない感じがしちゃうの。もう少しだけ、言葉を変えよう?」

 

「言葉を緩くって……どんな風に」

 

「うーん。そうだねぇ。"責任を果たそうとする(・・・・・・・)者"とかの方が圭ちゃんらしいと思うかな〜?」

 

 責任を果たす者ではなく、責任を果たそうとする者。

 果たすという結果ではなく、果たそうとするという過程や考え方。なるほど、確かに言葉を緩くするとそうなるのかな。

 

「果たす、だとやり切ってゴールしたってイメージの方が強くなるじゃん。そらやり切ってゴールした人なら強者なんだと思うよ。そう言う人を認めるのは至極真っ当で当たり前だよ。でも、やり切れなきゃ弱者なの?やれませんでしたって結果が重要で、その道中は一切評価しないの?」

 

「……それは違う。例えやり切れなくても、やろうとしたこと、その為に努力したことは評価されるべきだ」

 

「うん。だから、私のキミに対するイメージ的に果たそうとするって形の方が"見る"ことを目標にしてて、圭ちゃんの良いところでもある部分にピッタリな気がする」

 

 いつの間にか、彼女の心臓はゆっくりと落ち着くペースに変わって行き、俺の心臓も落ち着き始めた。

 同じ布団で、こんなにもピッタリとくっ付いて、時計の秒針の音すら聞こえないこの部屋でヒナの言葉だけが落ちる。

 

「相手が何を思ってるのか、頑張ってないか、頑張ろうとしてないか。それが果たそうとするってことで。それをしっかり見てあげること。その方がきっと合ってると思うよ」

 

「そうかな……?」

 

「うん。だからね、もしも圭ちゃんが自分が強くて、だからこそ人一倍に果たすべき責任が大きくて重いって思うなら、果たそうとする人を見極めて、手を貸してあげてよ。キミはそういう人のこと好きでしょ?」

 

「…………そうだけどさ。俺にできるかな」

 

「自覚あるか分からないけど圭ちゃんはやってたよ。死神に。あの時、怖い人、可哀想な人ってみんなが思う中で圭ちゃんだけが『コイツは選んだ。選んだ道で強くなった。それを認めることが"見る"ってことだ』って言ってたんだよ?殺せんせーですらそんなこと言えなかったのに。だから、圭ちゃんなら出来るよ」

 

 彼女の言葉は最初こそ、俺にとって理解し難いというより、何を求められているのかが分からなかったが、ようやく分かってきた気がする。

 

「俺は考えすぎてたのかな」

 

「というより、思い詰めすぎなんじゃない?一番最初の合同暗殺で圭ちゃんが出来てた、自分では足らないところを仲間に埋めて貰うってことが出来なくなったのって圭ちゃんが強くなり過ぎたからなんだと思うの。出来ることが増えて、やらなきゃいけないことが見えて、責任について考える様になってさ。守る為にチカラを使うって誓って、いつの間にか一番強いからって理由で自分を守ることをやめてたんだよ」

 

「…………なんか、ヒナが大人っぽい」

 

「オトナな女に指導受けてますから!」

 

「ビッチ先生かぁ……」

 

「弱ってる男なんてベットに連れ込んで慰めてやればイチコロよ!って背中を押されると言うか半ば叩き出される感じで今日も送り出されたかなぁ……。鈍くて素直じゃない乃咲も悪いけど、アンタも良い加減に男の1人くらい落としてみなさいなって」

 

「何してくれてんの、あの人」

 

「あはは……でもまぁ、圭ちゃんを心配してのことだと思うよ。アンタがやらないなら私がやるけど?とか言われたら私としても引き下がれないって。ビッチ先生は暗殺を止めただけあって特に心配してたんだから」

 

「……まぁ、なんだかんだあの人も子供好きだよな」

 

「だね。でも厳しいところもあるよ。私が圭ちゃんの側にいるって言ったらあっさり引いたけど、『私の代わりに行くなら、アイツに必要だと思う言葉はヒナノが考えなさい。じゃなきゃ意味ないから』って言われちゃったし」

 

「……大切な相手に甘い様で厳しいのは師弟共通か」

 

「どうだろうね?」

 

 ぎゅむっと更に頭を抱かれる。なんだかんだ、彼女の胸に顔を埋める形で抱き合って結構な時間がたったと思うのに、暑苦しいとは感じない。体温が、匂いが、柔らかさが心地よかった。

 

 あぁ、心地良いとも。きっとこの温かさが小さい頃が俺が欲しくて堪らなかったものなんだから。

 

 嫌なこと、ショックなこと、悲しかったこと、辛かったこと。そんなことがあっても物心ついた頃からふと目が覚めると自分の体温しかない布団で1人きり。自分の体温で温かくなってるはずなのに、なんだか、妙に寒い気がするあの感触とは違う。

 

 陽菜乃の言葉は確かに厳しいと思った。でも、優しくもあった。俺をみてくれて、心配してくれて、支えようとしてくれるのが伝わってきた。それがとても温かく感じた。

 

「…………責任を果たそうとする……か」

 

「強制はしないよ?あくまで私の感想っていうか、意見だから。圭ちゃんが考えてそれでもやり遂げることが強者だって言うなら、それも圭ちゃんにとっての正解なんだと思う。早速無責任かもしれないけど……知ってて欲しかったんだ。私たちから見た、圭ちゃんの良さをさ」

 

「……そうか……。うん、分かった。もう少し考えてみるよ、俺にとっての強者は何か、強者になって何がしたいのか、俺の思う強者に対して何をしてやりたいのか」

 

「……うん。たくさん考えて、悩んだら話してよ。圭ちゃんがして欲しかったら……またこうするからさ」

 

「その度に添い寝されてたんじゃ俺の心臓が保たないよ」

 

「そこはお互い様でしょ?」

 

 俺は考えを焦りすぎていたのかもしれない。

 無論、殺せんせーを殺すべきという考えが根底から覆った訳ではない。いくらヒナが相手でも少し話したくらいで変わるほど簡単な覚悟ではなかった。 

 

 でも、俺が余計な気を回してしまっていたこともきっと事実なんだ。彼女の言う通り、俺は周りを気遣ってるつもりで見ていなかった。E組の仲間たちだって殺せんせーを殺す為に今日まで暗殺を続けてきたんだ。

 だったら、彼を殺すというのがどう言うことなのか、自分は殺したいのか、殺すべきなのかを考えるのも責任なんだろう。俺だけではなく、仲間たちも背負うべき業とでも言うべきもの。

 

「………なんだか、気持ち悪いな」

 

「………もしかして、抱きしめられるの嫌?」

 

「違う。なんならずっとこうしてたいくらいではある。でも、そうじゃなくてさ、やっぱ、自分の考え方つーか、その辺がさ、ナチュラルに上から目線になってる」

 

 きっと、こう言う部分が俺の傲慢な部分なんだろう。

 

「みんなが好きだし、陽菜乃のことが好きだ。でも、仲間だ大切だと言いながら『みんなも考えるべき責任だ』とか『背負うべき業だ』とかさ。傲慢な物言いがやめられない」

 

「そこは仕方ないんじゃない?圭ちゃんの一番傲慢な所は、『みんなの為に俺がやるしかない』みたいに考えちゃうところだったわけだし。まずはその1人で背負い込んだものをみんなに分配することを考えること!いきなり考え方を変えるなんて無理なんだからさ、『みんなが背負うべき』を『みんなで背負う』って考えられる様に一緒に頑張ろうよ、圭ちゃん」

 

「ほんと、ヒナは頼りになるな………」

 

 なんかこうしていると本当に彼女が年上で俺が年下みたいな気分になってしまうのだから不思議だ。

 『ヒナァは俺の母になってくれたかもしれない女性だ!』とかやろうかな。いや、やめよう。それだとポジション的にヒナ死んじゃうし……。つか、その場合は俺は誰にそのセリフを言ってるんだろうか。逆襲のノザキってか。

 いや、アムロになりたいぞ、俺は。色合い的にもそっちだろう。あ、いや、死神だし、渾名的にはユウ・カジマの方が最も近いか?あのダセェ色のジェガンは嫌だなぁ。

 

「そう?圭ちゃんの方が頼りになると思うよ?」

 

「そうだろうか。割と肝心な時しか役に立たない男ランキングではトップランカーだと思ってるけど……。つか、普久間島ではぶっ倒れて、死神には負けて〜で肝心な時にも役に立たない男にもなりつつあるような……あははは」

 

「本当にめんどくさい性格だね!?なんでその自己肯定感の低さで、あんな割と傲慢なもの言いができるのかな!?」

 

「まぁ、カタログスペックは人類最強だからね。実は対先生水溶液を使わなくても、ナイフを振った風圧で飛ぶ斬撃くらいなら簡単に再現できるって話する?なんなら武器を使わないステゴロが実は理論上は最強戦法なんだけど」

 

「うん、ほんと無法な強さしてるよね!?そうだよね、殺せんせーより早いんだもんね、ガンダムとかACとかネクストとか戦闘機とか問題にならない早さだもんね、瞬間移動できるし、そりゃあ傲慢になるよね!?」

 

 納得した様な、してない様な微妙な顔をする。

 

「はぁ……。そうじゃなくてね。ここまで散々辛辣なこと言っておいてなんだけど、やっぱりなんだかんだでみんなの為に動いてる時の圭ちゃんには助けられっぱなしなんだよねってこと。割と危機的状況になりがちな私たちを何度も助ける為に動いてるから圭ちゃんの私たちの為にって考え方を傲慢って言い切る資格は本当はないのかもねって」

 

「………ここで力がある奴の当然の責任って思っちゃいけないってことだよな、俺の課題は」

 

「それには答え難いけど、でも、なんだかんだでもう11月。私らは守られっぱなしじゃダメだし、圭ちゃんも抱えっぱなしはダメな時期に来たってことじゃないかな」

 

 難しい話だと思う。俺は一方的にみんなを守ってきた訳じゃない。みんなに支えられてきた。それが最も顕著だったのは夏休み明けのことだろう。だから俺もみんなを何かしらの形で守りたかった。みんなに支えて貰ったから、何かしらの形でお礼を返したかったのかもしれない。

 でもヒナからしたら俺が1人で抱えて、守ろうと暴走して迷走してメンタル崩して〜を繰り返して見えるのだろう。

 

「どこからが傲慢で、どこまでが違うのかって難しいね。1人でなんでもやろうとする人も傲慢だし、それを傲慢だと思って指摘するのもきっと傲慢なんだと思うし」

 

「……だからきっと7つの大罪なんて言われ方するんだな。どんな風に動いても頭の何処かでチラつくから」

 

「なるほどねぇ〜」

 

 今度は納得したのか、彼女が頷く。

 ひとまずはニュアンスが伝わってくれたみたいで安心した。

 

「……ありがとう。ヒナがこうして話し聞いて抱きしめてくれたお陰で楽になった。少し、肩の荷が降りた気がする」

 

「そっか。よかったよ。みんなの為に色々とありがとう。圭ちゃんから見たら頼りないかもだけどさ、これからも私たちを頼ってよ。私は圭ちゃんの味方だから、一緒に背負いたいから」

 

「……うん」

 

「よし、じゃあこれで堅苦しい話は終わりかな」

 

 ヒナの顔が安堵に染まる。

 まぁ、あれだけ真剣な話をしていたのだから空気が弛緩すれば安堵もするだろう。俺も安心してる。

 

 しかし、自分の体温と彼女からパジャマ越しに伝わってくる体温でそろそろ温かいが暑いに変わってきたな。

 

「……ねぇ、悪いけどちょっと離れていいか?」

 

「えっ?」

 

「少し暑くなってきた」

 

「………もぅ」

 

 ヒナが渋々と言った様子を隠すことなく手を緩める。

 こちらも手を緩めて、彼女から少しだけ離れる。

 

「あ、顔が涼しい……」

 

「そんなに暑かった?」

 

「嫌な暑さではないけどな、少しだけ息苦しかった。鼻で息をするとヒナの匂いが伝わってくるし、かと言ってあの状況で口で呼吸してたらハァハァいって変態みたいだし」

 

「………や、やっぱり変な臭いとかしてた?」

 

「いや、そんなんじゃない。良い匂いだった。良い匂いだから離れないとまずいと言うか、なんというか」

 

「…………ぁ、圭ちゃんのえっち」

 

「ん!?」

 

「………圭ちゃんのえっち」

 

「2回も言わんでいいわ。俺の様な紳士とデリカシーの塊みたいな男を捕まえてエッチとは何をおっしゃるか」

 

「……おっぱいに顔埋めてた」

 

「不可抗力」

 

「……ぎゅーって何回か自分から顔押し付けてた」

 

「………不可抗力」

 

「……………匂い嗅いでた癖に」

 

「………………不可抗力」

 

「散々貧乳を弄ってた癖に」

 

「……誰の胸なのかが大切なのである」

 

「……つまり、私のならいいんだね」

 

「………………………………………っす」

 

「……………………………………………………触る……?」

 

「触らん!」

 

「散々顔埋めてた癖になんでそこはキッパリなの!?」

 

「見くびるな!いくら性欲が脳の7割を占めてる年頃でも、まだ告白の答えを返してない子にそんなことできるかぁ!」

 

「さっきまで顔埋めて匂い嗅いでたじゃん!!今更すぎるでしょう!?せっかく勇気だしたのに今更日和らないでよ!?」

 

「日和ってねぇし!?しかも不可抗力だろう!?こればかりは誠意の問題じゃい!!」

 

「あちょっ、離れようとしないでよ!?」

 

 さっきまでの思い詰めた空気は何処へやら。距離を取ろうと彼女の肩に手を置いてベットから落とさない程度に距離を取ろうとする俺と、半ばヤケクソ気味に俺の肩を掴んで自分を引き寄せようとするヒナ。

 少しの間、ベットの中で距離を取ろうとする側と距離を詰めようとする側で小競り合いが続く。

 

「くっ付いて寝るのはいい!そこは俺も嬉しい!でも流石に俺も耐えられないから、せめて胸云々は忘れて!」

 

「なにさ!さっき私のこと好きって言った癖に!!」

 

「………は?」

 

「わっぎゅぅ!?」

 

「んぐぇぇ……!?」

 

 しかし、そんな攻防は長く続かなかった。

 彼女から飛び出したまさかの一言が頭に引っかかってチカラが抜けた瞬間、反発する力を失ったヒナの身体が勢いよく引き寄せられ、俺の胸板(鳩尾とも言う)に頭が突っ込んできた。

 

「わっ!?圭ちゃんが潰れたカエルみたいな声に!?」

 

「あ、ぁあ……大丈夫。そんなことより致命傷になりそうなものが……。ヒナさんや……。俺、好きなんて言ってた?」

 

「…………言ってたよ?」

 

「…………いやいや、言ってないよ」

 

「言ったよ!!」

 

「言ってないって!口には出してない!」

 

「それ、思ってはいるってことだよね……?っていうか、絶対に言った!この耳で聞いたもん!」

 

「言ってない!!」

 

「言った!」

 

「言ってないー!」

 

「言ったよ!!」

 

「言ってないっての!」

 

「言ってないよ!」

 

「言ったって!……ぁ」

 

「ほら、言ったんじゃん」

 

「騙し打ちだ!?裁判長!証拠の提出を要求します!」

 

 布団の中で抱き合いながら何をやっているのだろうと自分の中の冷静な部分が冷ややかに問いかけてくる。

 そんな中、暗い部屋の中でピコンと光がついた。視線を向けるとそこにあるのは充電中の俺のスマホ。

 

「なんの光!?」

 

 なんだ、みんなからのLINEだろうかと思って一瞬言い合いを止めると、聞き覚えのある声が淡々と告げた。

 

『録音メッセージ、再生します。『厳しい子を好きになってしまったな』以上、再生を終了します』

 

「律さん!?つか、本当に言ってた!?」

 

「律ナイス!」

 

『乃咲さん、いい加減に腹を括ってください。お二人の進展してる様で進展しない関係に一体どれだけの人がヤキモキしてると思っているんですか。倉橋さんが同じ布団に入ってるんです。それをキッパリ拒んでない時点で既に考えるまでもないでしょう。というか、告白の返事を先延ばしにした女子にここまでさせておいて誤魔化すのはそれこそ無責任では?』

 

「ぐぬっ………口ばかり巧くなりおって小娘が……」

 

「小娘て……」

 

『それに何も抱けぇ!とは言ってません。口走ったとは言え、本音は既に伝わっているんです。倉橋さんからしたら、これ以上ヤキモキする状況はありません。ここまで倉橋さんにお膳立てして貰って情けなくないんですか!男女のそう言うことは男からアプローチするべきと古事記にも書いてますよ!』

 

「その古事記構文で本当に書いてることを言うのは反則じゃない?なんか無駄にレスバ強くなってるぞ、律」

 

『毎晩毎晩、乃咲さんに泣かされてますから!』

 

「圭ちゃん………。私のことはスルーしてた癖に、二次元の女の子は鳴かせてたんだ……」

 

「漢字が違う気がするけど!?泣かせるだよね!?」

 

「どっちにしろ最低だよ……」

 

「しりとりの話だぞ!?つか、律は泣くより先に台パンして通話ぶつ切りするじゃんか!?」

 

『よよよ……。乃咲さんが言い掛かりしてきます……』

 

「圭ちゃんサイテー」

 

「なんなのこの状況、いつまでも応えなかった俺が悪かったけど、なんで抱きついて離れてくれない女子に蔑まれて、二次元女子に泣き脅しされてるの?そこまで俺って罪人?」

 

「『告白保留、匂わせ、たまに本音出てる、無茶する、告白保留相手と現在進行形で同衾中』」

 

「うん、クズだな」

 

 事実陳列罪とかないだろうか。いや、それでもやっぱり一番罪が重いのは俺だと思うけどさ。

 

「……………………はぁ。潮時かな」

 

 そうさ、わかってるさ。普久間島の時、彼女はイタズラのつもりだったのだろうけど、それでも俺は嬉しかったのだろう。同じ布団に誰かが居てくれることが。小さい頃から感じていた、目が覚めると自分しかいない寂しさをあの瞬間は感じなかった。

 

 さっきまで抱き合っていて、そりゃあ異性に対するドキドキはあったのだろう。心臓がはち切れんばかりに鳴っていたし、仮に聴診器を当てて心音を聞かれていたら、あまりの鼓動に鼓膜を破裂させていたかもしれない。

 

 でも、同じだけ安心していた。同じ布団に誰かが居てくれること、初めての殺人を前に精神的に追い詰められていた俺に向き合って、世話を焼いてくれて、ただ甘やかすだけじゃなくて、俺のダメだった所をしっかり叱ってくれた。

 まだ付き合ってもいない、友人としての付き合いも長くはない。それでも好きだからと厳しい言葉を投げることが俺にできるだろうか。異性に向ける好意を抱いた相手に、それも好意を伝えた相手にそんな言葉を掛けてやれるだろうか。

 

 きっと出来ないだろう。だって嫌われたくないもん。好きな相手に嫌われたくないから甘い言葉を掛ける。それは誰にでも出来るだろうけど、相手の為とはいえ、嫌われるかもしれないのに厳しい言葉を投げるのはきっと勇気がいるだろう。

 

 彼女はなんだかんだ、俺に厳しめだ。

 甘やかしてくれるし、支えてくれるけど、俺が間違えた時や間違えてしまいそうになると泣きながら叱ってくれる。

 

 そこには申し訳なさもある。

 だが、そういう人だから、俺も彼女が良いのだろう。

 

 いつだったか、言ったっけ。俺には陽菜乃じゃなきゃダメだと言える部分がまだないのだと。だから考えていた。俺は恋愛的にヒナが好きなのかどうかを。

 そして最近、いや、本当はもっと前から答えが出ていたのかもしれない。だが、今になってもっと強く確信した。

 

 俺は倉橋陽菜乃がいい。他じゃダメだ。きっと彼女以上に想ってくれる人は今後現れないだろう。だから手放しちゃいけないし、手放したくない。

 そして俺も返したい。彼女がしてくれたように、俺もヒナを支えたい。そうじゃなくても守りたい。守れる様になりたい。何ができるか分からないけど、倉橋陽菜乃の隣が俺の居場所なのだと胸を張って言える様になりたい。

 

 ……いや、これも傲慢な言い方なのかな。

 

 きっと、彼女に何かをしてあげたい。ではなく、彼女と何がしたいのかを考えて行くべきなんだろうな。

 

「………あー、ごほん。ヒナ」

 

「……うん………」

 

「伝えたいことがあるから、一旦離れてくれるかい」

 

 俺の言葉に彼女は頷き、少し離れる。

 礼儀だろうと想って身体を起こして佇まいを簡単に直す。それでも、彼女に抱きしめられている間にばさついた髪は完全には直らない。けど、今から直しに行くような雰囲気でもない。

 

 こちらに釣られる様に身体を起こしてこちらを見るヒナもやっぱり髪やパジャマも少し乱れてる。

 

 なんとなく、締まらないなと思いつつ、言葉を選ぶ。

 

 さて、なんて伝えよう。何を言えば良いだろう。きっといつもの癖で説教臭い言葉選びをするのは絶対にNGだ。そんなんで喜ぶ人はいないだろうし、逆に待たせてた側の俺が説教されるべき側であろうことは間違いないだろう。

 

 いや、いい。下手に言葉を尽くしても1人で空回りして終わりな気がする。よし、シンプルに行こう。

 

「……色々と順番がおかしくなって申し訳ない。遅くなったけど、こんな俺で良ければ付き合ってください」

 

「……だめ」

 

「…………ふ、フラれた………!??」

 

 え、あれ、待たせ過ぎましたか。まさかのだめ出しに思わず頭が真っ白になった。いや、ある意味納得ではあるが。

 

「"こんな"って自分を卑下する言い方を辞めて、そしてもっと短くして……もう一度、お願いします」

 

 まさかのやり直しを要求された。

 でも、陽菜乃の表情を見たら文句も言えなくなった。嬉しそうな、それでいて不安そうな、明確な言葉を待ってるのが伝わってくる表情にもう一度覚悟を決めて深呼吸の後に伝える。

 

「俺と付き合ってください」

 

「………………やだ」

 

「……………………………………」

 

 またフラれたんですけど。え、なに、冷められた?それとも言葉を省き過ぎだ?今度は何が足らなかった……?

 

「……私、告白した時に好きって言ったもん」

 

「………言われました」

 

「…………なのに、返事が"付き合ってください"だけなの?私は圭ちゃんが私のことどう想ってるのかしっかり聞きたいな……」

 

「……………それもそうだよな……」

 

 言われてみると確かにそうだ。大切な部分を口に出していなかったことにようやく気が付いた。

 

「いくら待つとは言っても、これくらいの意地悪する権利くらいはあっても良いよね……?」

 

「仰る通りで……」

 

 彼女の言葉に苦笑して、再度深呼吸。

 よし、やるぞ。言わばこれも責任を果たそうとするということ。自分なりの目標を嘘にしない為の第一歩だ。

 

「陽菜乃」

 

「……はい」

 

「…………す……………す……………」

 

「…………………………………………」

 

「……す、すす、す………ふんっ!!」

 

「えっちょっ!??何してんの!!?」

 

 "き"が出てこない。すまでは言えるのに、きが出てこない。なんたることだ。思わず喝を入れる為に壁にそれなりのチカラで頭突きしてしまった。

 

「ごめん、"き"が出てこなかった。もう一度チャンスを……」

 

「え〜っと……その、どうしても言えないなら、別の言葉でもいいよ……?その、好きって伝わってくる言い方なら……ね。言えない度に頭突きされても怖いし……」

 

「別の言葉………」

 

 どんなのがあるだろう。好きを別の言葉に言い換える……?え、愛してるとか?いや、無理だ。やるべきなんだろうけど、俺のSAN値が保たない。好きすら言えないのに、そんなの言えるわけがない。

 

 考えろ俺。今こそ浅野学秀を倒した頭脳をフル回転させる時だ。椚ヶ丘学園主席の頭脳はこの時のためにある。

 そうだ。国語で習ったはずだ。夏目漱石がI Love youを月が綺麗ですねと訳したとかしてないとか。

 

 よし、これで行こう。彼女も同じ授業を受けてたし、学年50位以内に入ってるのだから通じるはずだ。

 

「ヒナ」

 

「……うん」

 

「つ、つ………」

 

「………つ?」

 

「————月は出ているか?」

 

 俺のクソボケぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 なんで!?なんでこれっぽっちのことが言えない?

 

 なにやってんの俺……!??クソボケってか、クソッタレじゃねぇか!!良い加減にしろよマジで……!!さっきもスマホ光っただけなのに『なんの光!?』とか言ってたし。そんなんだから語録ばかり喋る面倒なオタク扱いされるんだぞ……!!

 

「————圭ちゃんとなら、出るまでいつまでも待つよ」

 

「ヒナ……」

 

 違うんだよヒナァァァァァァ!!!

 いや、良い感じに解釈してくれて、それっぽい返事をくれたことは分かる。でも違う!!流石にガンダムXは履修してなかったか……!!普段ならクソボケって罵倒してくる所だろうに!!

 

 くっそ……!!今のがガンダムX知らない状況で俺なりに詩的表現を試みた結果出た言葉なら、ヒナァァァァァァ!じゃなくてエンダァァァァ!だったのに……!!

 

 だめだ、このままだと実はまだ告白してないけどそれっぽいこと言ったらOKされちゃったとか言うヒナに申し訳なさすぎる展開になってしまう……!それだけは阻止しないと。俺としてもヤダ!!伝えるならしっかり伝えたい……!!

 

 えぇい……覚悟を決めろ乃咲圭一。

 告白するか、さもなくば死ね。

 

「俺はヒナのことが好きだ。だから、付き合ってください」

 

「………………なぁーんだ。せっかく私なりに気を効かせたのに……なんだ、ちゃんと言えるんだ」

 

 改めてしっかりと伝えた気持ちに彼女は呆れた様な、それでいて安心した様な、嬉しそうな、顔で言った。

 

「どうせ、"月が綺麗ですね"とか言いたかったのに、緊張して語録言っちゃったんでしょ。さっき本音が漏れた時に言ってくれた好きとしっかり正面から言ってくれた付き合ってくださいって言葉で今回は勘弁してあけようと思ったのに。もぅ、私なりに頑張って答えたんだからね?」

 

「………知ってたんだ、セリフ」

 

「言ったでしょ、一緒に話せるようになりたくて色々見たって。それに、男の子が好きそうな語録知ってないと圭ちゃんが何言ってるか分からないこと多そうだしね」

 

「言い訳しようもございません……」

 

 肩身が狭くなる俺にヒナが苦笑する。

 

「ちゃんと言えたじゃねぇか、って言った方が良かった?」

 

「そのセリフを受け取る側だと俺死ぬんよ……。いや、"だめ"とか"やだ"とか言われてた時は死のうかと思ったけど」

 

「そんなに……?」

 

「……うん。あとは告白するか死ぬかの二択だった」

 

「思った以上に追い詰めてたんだね!?」

 

 ヒナの素っ頓狂な驚きが部屋に響く。

 けど、その後に訪れるのは沈黙だった。

 

「…………これで恋人……で良いのかな、俺たちは」

 

 その沈黙に耐えかねたのは俺だった。

 情けない話だ。昔から無言の時間に弱いんだよな、俺は。

 

「……だね。これで(仮)は外れたかな」

 

「………………ぶちゃけ、(仮)が付いてる時も恋人の自覚があったかは怪しいけどな」

 

「だよね、知ってる。私からしたらアピール期間だったけど、圭ちゃんが動くのって手を繋ぐ時くらいだったし。もっと色々してもよかったのに」

 

「…………乃咲さん家の圭一くんは硬派なんだよ」

 

「堅物の間違いでしょ?」

 

「軟派な方が良かった?」

 

「さぁ?でも、圭ちゃんは軟派でも硬派でも結局めんどうくさい人なのは変わりないんじゃない?……まぁ、その面倒臭い人のことが好きなんだけどさ」

 

「ありがたい話だよ」

 

「………圭ちゃんは?」

 

「……俺もこんなめんどうな男を好きだって言ってくれる変な人のヒナが好きだ」

 

「酷くない!?」

 

「へっ、めんどうくさいって言われ続けてたからね。こんな奴を好きになってくれる子は優しい通り越して変人でしょ」

 

「遠慮なく言ってくるね!?変人扱いはいかがなものか!」

 

「好きで一緒に居たい相手だからこそ、遠慮なく。だろ?」

 

「っ…………圭ちゃんっ!!」

 

「うおっ……!?」

 

 彼女の言葉を使って言い返すと、ヒナが名前を呼びながら飛び付く様に、絡み付く様に抱き付いてくる。

 

「これで両想い、恋人同士。なら(仮)がついてる時にやれなかったことも我慢しなくていいよね?」

 

「……そんなに我慢してることあったの?」

 

「うん。もちろん」

 

「即答!?」

 

「弱ってる圭ちゃんをぎゅーって甘やかしてみたかった、圭ちゃんの胸板に顔をグリグリ押し付けて好き好き言って甘えてみたかった、ときどきやたらとクリティカルなセリフをぶつけてくる時は食べたくなるし、カエデちゃんとプリンについて楽しそうに話してる時はヤキモキしたんだから」

 

「落ち着け!!俺なんて食べても美味しくないぞ!?ちょっ、力強っ、やめっ、押し倒さないで!なんで恋人になってもこう言う力関係は逆転しないの!?」

 

「逆転してもチキンな圭ちゃんにはこんなことできないでしょ!美味しいかどうかは周りが判断することだし、それに圭ちゃんが悪いんだからね……!!」

 

 背筋と腹筋、そして腕を支えに踏ん張っていると、彼女は徐に俺の右肩から手を離し、人差し指を立てて、踏ん張っていた腕と胴体の付け根……つまりは脇にブスッと突き刺してきた。

 

「ひゃぁ!!?」

 

 その瞬間、体に電気が走ったみたいに一瞬チカラが抜け、その先に全霊の力で押されて力負けしてしまった。

 

「よいしょっと」

  

 ヒナはそのままの体勢で器用に布団を手繰り寄せて背中から被る。ベット、俺、ヒナ、布団という謎のミルフィーユになった。

 

「大丈夫?重くない?」

 

「少し重い」

 

「…………そう言うところはノンデリだよね、圭ちゃん」

 

 少し不満気に呟いて俺の隣に降りようとするヒナの背中に手を回して動かない様に抱き止める。

 

「圭ちゃん?」

 

「でも、嫌な重さじゃない」

 

「………」

 

「俺自身かなり頑丈だから苦じゃないし、なによりヒナがいるって感じられる。体温と柔らかさが伝わってくる。安心できる好きな重さだ。だから、寝辛くなるまでこうしてたい」

 

「……………あざといなぁ、私の彼氏」

 

「米袋1.5個分の重さってところか」

 

「やっぱ降りる!!」

 

「やだ、絶対に離さない」

 

「さっきと言ってることが違う!??」

 

「立場逆転だな」

 

「こういう意味じゃないでしょ!!?」

 

 やいのやいのきゃっきゃと彼女と中身のないやり取りをしながら同じ布団で過ごす。今度こそしっかり恋人になった筈なのに、彼女の意味が恋人という意味に変わった筈なのに、俺たちの会話には色気が全くなくて。

 

 でも、ときどきインモラルな空気をお互いに感じつつ、寝落ちするまで理性と本能のせめぎ合いと取り止めのない会話を楽しみながら一夜を明かしたのだった。

 




あとがき

はい、あとがきです。

えー。はい、ようやくです。
本編153話目にしてようやくヒロインとくっ付きました。一応はハーレムものではないのに、ヒロインとくっ付くのにこんな時間かかることある……?

まあ、はい。続きはR-18で(殴
※そんなものはありませんのでご安心ください!

ご愛読ありがとうございます!
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