加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下させてします……。
6月1日に二代目ルートの続きも投下しますので、そちらの方にも遊びに来て貰えると嬉しいです……。
「にわかには信じられん……。あの教室の生徒が我々ですら手を焼く超生物を単独で殺しかけただと?シロの玩具や本物の殺し屋達ですら歯牙にも掛けないモンスターがたかが中学生3年生の少年にそこまで追い詰められたと?」
「……彼らには誰よりも奴に接近できるアドバンテージがあります。その上で奴に不利なフィールドを作り上げ、ひたすらに弱点を突き続けた。教室という狭い空間で機動力を奪い、攻撃の中に複数の意味を持たせるという戦術は実際見事なものでした」
「しかしだね、烏間くん。信じ難い気持ちのほうが理解できる。椚ヶ丘中学校3-Eは我々にとって最終作戦まで奴を繋ぎ止めておく為の鎖に過ぎなかった。まして、その鎖がモンスターを本気で殺しにかかるなどと………。信じられるわけがない」
「たしか、乃咲博士のご子息が1人で立案から決行までしたとか。親子揃って……いや、シロ、柳沢小太郎も含めるのなら、一族揃ってと言うべきか。とんだ化け物揃いだ」
「たしか息子の方には母体から受け継がれた触手のベースとなった研究の影響が出ているのだったか。制御不能な触手なんぞより、そちらの研究を進めた方が良いのでは?それこそ、その研究成果とやらは母体から継承させる以外に手段はないのかね。それができれば確実に奴を殺せるだろう」
「嘘か本当か知り得ないが、それは出来ないと博士が言っていたな。惜しいことだ。それができれば、確実に地球を救えるというのに。やはり、最終作戦が鍵になるか」
俺の報告を受けて上層部が好き勝手に口を開く。
議論されているのは乃咲くんが今回仕掛けた暗殺についてだった。普久間島での暗殺以上に可能性を見せた今回の単独作戦。それは防衛省どころか日本という国のトップの組織に様々な視点や意味で一石を投じるほどの成果だった。
「……いや、可能性が見えたと喜んでもいられないだろう」
「何が言いたいのです?」
「あのモンスターを単独で殺す。例え有利な条件が揃っていたのだとしても、作戦立案から実行まで行い、圧倒する人間がいる。私には超生物なんぞより、その乃咲圭一という少年の方がよっぽど化け物染みていると思うのだが」
それは俺が最も恐れいていた言葉だった。
自分にとっては教え子の1人。立場上、様々なことを彼らに伏せていることを承知しながらも慕ってくれている生徒達は可愛いし、彼はその中でも一際熱心に俺の教えを身につけてくれている。熱心で、実力があって、可愛げがある。
しかし、そんなことは周りから見れば知ったことではないのだろう。俺とて、第三者の視点に立てば同じことを考えたのかもしれない。教室内である程度加減はしているとは言え、軍隊や最新兵器ですら殺せないモンスターを彼は単独で追い詰めた。
「これがまだ身体能力だけの単純なバカなら制御しようがあるだろう。だが、あの高度な知能を持つ超生物ですら打つ手を失くす作戦を立てて実行する程の思考力があるとなれば、ある意味でモンスターより危険だ。仮に気が触れてその超人的な力を人間に向けたらどうなる……?」
「確かにな………」
「いや、そうは言っても子供ですよ?なにもそこまで危険視することはないのでは?もしも本当にその少年があなた方の想像する危険因子なのであれば、直接対峙した防衛省の鷹岡氏や先日の事件で拘束された死神は今頃死んでいると思うのですが」
「"まだ"子供とも言える。幸い、烏間くんに懐いているという話だし、今のところは心配ないと思うが、何かあって我々に不信感を向けたのなら、その少年の牙が今度は超生物ではなく、我々に向くかもしれない。その時はもはや対処のしようがないぞ」
「キミの意見はどうだ、烏間くん」
視線が一斉にこちらへ向く。
正直な話、荒唐無稽も良いところだ。俺の知る限り、よっぽどのことがなければ他者に牙を剥くことはしないだろう。
なら、俺の責務はそんな状況を作らないこと。自分の力と向き合い、可能なら人の為に使いたいと言ったあの少年が大人たちの思惑で望まない方向に力を使わざるを得ない状態に陥らないように。全力を尽くす。
「私としては、その心配は皆無かと。かつては不良として喧嘩に明け暮れていたと聞いていますが、現状あの教室の中では誰よりも自分の力と責任に付いて自覚しているのは彼です。進路すら自分の力を活かせて、尚且つ誰かの為になる道を探そうとしているくらいですので。あの少年の力が善良な人間に向けられることはありえません」
「随分と買っているようだね」
「教え子ですので。そして、彼に技術を教えた者として皆さんの懸念するようなことがないよう、全力を尽くします」
「それは結構。では————」
「しかし、我々としても彼の力がこちらに向かないよう、最大限配慮するべきであると愚行いたします。報酬を用意しているとは言え、彼らはまだ中学生。3/4は大人とは言え、本来なら守られるべき立場であり、いま暗殺の訓練や知識の習得に割いている時間も本来なら生徒たちの情緒を育てる為に使われるべきもの。であるなら、それが任務だから、その力が危険だからと誠意ない対応をすることは避けるべきです」
「……随分と子供好きになったもんだな、烏間くん」
「子供が嫌いで今の職場には要られません。なにより、夏休みが始まる前、鷹岡が派遣された時に生徒の1人が言いました。俺たちが暗殺なんてしてるのは大人が自分のケツすら自分で拭けなかったからだ、と。事実、その通りです。だからこそ、我々は依頼してる立場なのですから、子供だからと下に見るのは避けるべきです。それこそ彼らがボイコットして教室から去った場合、超生物はあの教室に残る意味を失ってしまう」
「キミの言いたいことも分かる。だが、それが乃咲圭一という少年の危険性にどう結びつくと言うのかね?」
「彼は義理堅い性格をしています。我々が誠意を見せれば見せた分だけ応えてくれるでしょう。彼の信頼を勝ち取ることができるかどうか。それが今後のカギになると考えます」
「つまり、我々の誠意が伝われば乃咲少年は協力をしてくれるし、逆に誠意ない対応をすれば相応報復があると言うのかね」
「そこまでは。しかし、乃咲くんのみならず、あの教室の子供たちは我々によって暗殺に巻き込まれ、我々の弛んだところから暴走した鷹岡に命の危機に瀕する羽目になり、挙げ句、死神の作戦で死に掛けました。仮に私が彼らの立場なら、いい加減に我慢が出来なくなる頃合いかと」
「我慢が出来ないから報復する、それは結局のところ危険であると認めてるのではないかな?」
「質問に質問で返すご無礼をお許し頂きたいのですが、逆にあなた方が彼らの立場の時、何も言わず、何も感じず、仕方のないことだとぐっと堪えられるとでも?」
「するべきだろう。そも、そのたらればに意味があるのかね」
「であれば、彼が危険かもしれないという話にも意味はない様に思いますが、如何でしょうか」
「………」
「もとはと言えば、反物質の実験においてそのたらればを欠いたことが事件の発端であるはずです。その収集に巻き込まれた子供達に対してだけ自分たちの都合の悪いたらればを適用するのが、責任ある大人の態度であると?」
「…………どうしろと言うのかね」
「彼らに一任しろとは言いません。私の意見としてもあの超生物は殺すべきだと考えます。しかし、これ以上、生徒たちを危険に晒す方法で利用することは止めて頂きたい。もしもあなた方が懸念する危険性を乃咲くんが孕んでいるのであれば、それこそが彼を刺激しない最善策です」
「……はぁ、もういい。下がってくれて結構だ。現場の指揮は引き続きキミに一任する。精々、可愛い生徒たちとの平和ボケした考え方で足元を掬われないよう気を付けたまえ」
「ご忠告痛み入ります。それでは失礼します」
一礼し、扉を開けて外に出てため息を吐く。
『……烏間の意見はどうあれ、生徒1人で奴を追い詰めることが出来ると実証された。それならば、彼らよりも経験値のある本物の軍人を試しに投入してみるのはどうだろうか』
『軍人……なるほど。報告によれば、乃咲少年の仕掛けた作戦は暗殺というより正面戦闘に近い。彼の使った戦術を用いれば殺すことも夢ではないかもしれませんな』
『なにより……件の少年の監視ができる。烏間くんでは務まるまい。仕事熱心で暗殺作戦には協力的だが、生徒のことになると潔癖が過ぎる。つい先日……最強の傭兵部隊と名高い群狼のリーダーとコンタクトが取れた。いざとなればクレイグ・ホウジョウをあの教室に潜り込ませるべきやもな』
耳をそばだて、中の会話を聞き扉から離れる。
クレイグ・ホウジョウ。実際に会ったことはないが、ロヴロから聞いたことがある。殺し屋とは違う。だが、裏社会において技の頂点に立つ者が"死神"なら、武の頂点に立つのが"神兵"と呼ばれるクレイグ・ホウジョウであると。
暗殺も佳境に入った。奴の死が目前に迫ったあの瞬間、マラソンで例えるならゴールが見えたと言っても過言じゃないだろう。無論、見えたところで駆け抜けられるかは別問題ではあるが。
歩き出し、しばらくして屋外に出ると部下たちが待っていた。
「烏間さん」
「鶴田、すまなかった。虚偽の報告をさせてしまった」
「いえ。自分は一度、生徒たちを危険に晒した身です。例え上からの命令であっても、やはり烏間さんを通すべきでした。そんな失態をしているんです。生徒たちを守る為ならなんでもします。それが自分の責任です」
「………責任、か」
鶴田は堀部くんの事件の時、シロの指示に従って動いていた。それが俺の更に上の上司の命令である以上、拒否は出来ない。だが、それでも俺を通すことは出来ただろうと叱ったことがある。
彼はあの一件からかとあるごとに報告を欠かさなくなった。そして、相談された。3年E組の動向を注視して報告せよと俺を通り抜けた指示を受けていることを。
そんな命令が彼に飛ぶのは、単に上の連中が複数の視点から報告を欲しがっているのか、あるいは俺が信頼されていないのか。だか、鶴田は包み隠さずに報告してきた。
それが自分の責任なのだと、そう語る彼の目に嘘や偽りの色はなかった。だから信頼した。その上で虚偽の報告をさせていた。上司としては失格だろう。しかし、E組の生徒たちを直に見ている部下たちは協力を惜しまなかった。
「乃咲くんの戦果を
「事実、あの子の作戦はかなり独創的で尚且つ仮に実行したところで成果を出せるのは本人くらい難易度が高い。現場を見ていない者からしたら、少し身体能力が高いだけの生徒がそれなりの作戦を立てて追い詰めた様にしか聞こえない。それを烏間さんと鶴田さんから同じ報告を受けているのだから、現場を知らない上層部は疑うこともできない、と」
「現場に降りて来れば一目で分かることではあるが……彼らがそんなことをするとは思えん。それに加えて万が一にも降りてこない様に同期の何人かに根回ししている。実態は掴ませないさ」
鶴田と鵜飼の言葉に頷きながら歩く。
生徒たちを守るにはこれが一番確実だ。
生徒たちの暗殺の経過を報告しなければ、彼らに対する支援は打ち切られるし、仮に今回の乃咲くんの様に単独で上手くやり過ぎても出る杭として打たれかねない。だから、結果は偽らず、過程を少しだけ偽る。一部を少し低く見積り、反対に一部を少し盛ることで実際にありそうな塩梅に調整する。
「まぁ、あの光景を見たら連中もひっくり返るでしょうね」
「そうでしょう。我々も現実味がないと感じてるんですから」
乃咲くんが見せた暗殺。もはや、暗殺というより正面切った真っ向勝負。暗殺は戦闘にならない為の手段であり、彼の作戦はそう言う意味では正面戦闘と言っても差し支えなかった。
今日まで見つかった超生物の弱点をひたすらに突き、我々に実力に耐えられるだけの装備を準備させつつ、自身は市販で手に入る道具を改造し、有効打を与える為の武器を作り、対先生弾を加工し、奴の機動力をひたすらに削ぎ落とす。
あの壮絶な光景を俺は忘れないだろう。
生徒たちは俺と死神の戦闘を人類最強決定戦などと言っていたが、俺からしたら乃咲くんと彼らが殺せんせーと慕う彼の暗殺の方がよっぽど最強決定戦の名が相応しいと思った。
以前、思ったことがある。今後、何かしらの事件が起こったときに俺は彼らを守れるのだろうかと。
今はその疑問は少しだけ形を変えつつある。今後、何かしらの事件が起こったとき、俺は彼らを守る側にいられるのだろうか。彼らに手を差し伸べる側であり続けられるのだろうか、と。
生徒たちは充分強くなった。何処へ出しても恥ずかしくないと贔屓目なしに言える。中でも今回の件の中心人物である乃咲くんは間違いなく別格だ。
暗殺技術や戦闘技能はどれもクラスの中でトップ。加えて優れた思考・考察力で組み立てられる作戦は聞かされたときにハッとさせられるし、素直に舌を巻く。そこに加えて瞬間移動染みた速度の移動や攻撃ができるのは反則レベルだ。
俺からしたら人となりを知っている彼が意味もなくその力を他人に向けることは荒唐無稽な話だ。
しかし、その人となりを知らない者からすれば充分に恐怖と警戒の対象になってしまうことは理解できる。その点で言えば、上層部の連中の意見だって頭ごなしに否定できるものではない。
だが、俺が配慮しなければならないのはそこではないだろう。万が一にも彼を筆頭とした生徒に守られる側に回ることはあってはならないことは大前提として、一番心配しなければならないのは、そんな優れた、あるいは強大な力であっても、自分の心までもを守ることは出来ないと言う点だ。
「……生徒たちは大丈夫でしょうか?」
「…………信じるしかないだろう」
「鶴田さん、そうは言いますが今日の乃咲くんの顔を見ましたか?これまでの暗殺とは名ばかりの楽しそうな雰囲気は微塵もない。ただただ悲壮で悲痛な殺し屋の顔を。他の生徒たちだって、彼を見てから……」
「………分かってはいる。しかし、それでも信じるしか我々には出来ることはない。彼らが何を考えて何を選ぶのか。それを見守るのが我々の役目だろう。地球の未来は大切だ。だが、未来の地球を担うのは彼らだ。生徒たちの決断で地球が残るのなら、せめて矢面に立つことができる大人である自分たちくらいは彼らを見守ってやるべきだ」
「……………変わりましたね、鶴田さん。冷たい人だと思っていたわけではありませんが、そんなことを言うのは意外でした」
「2度と烏間さんの殺人拳骨は喰らいたくないし、なにより、子供達を危険に晒す方がよっぽど怖い」
部下の思わぬ成長を素直に喜びたいが、だが、同時に複雑だ。結局のところ、鶴田の言う通りだ。
俺たちは見守るしかできない。外敵が彼らに害を及ぼすのなら、可能な限り払い除けたい。それでも、最終的に選ぶのは生徒たちだ。殺すか、殺さないかという極論を。
そして忘れてはならない。自分たちはそんな子供たちに殺しを依頼している側なのだと言うことを。
殺しは1+1より簡単なこと。イリーナのそんな言葉が脳裏を過ぎる。殺しを依頼する側として殺すってことがどう言うことなのかを考えろ、と彼女は言った。
あれから俺なりに考え続けている。殺すってのは、死ぬってのはどう言うことなのかを永遠と。
死ぬって言うのは、極論かつ単純に言えば居なくなると言うこと。殺すってのは、相手を居なくならせること。
その両者の違いは、主観だが、誰かがいなくなったという結果に対して自分が過程で手を下したかどうかだろう。
カルネアデスの板とは少し違う例え。これもイリーナが言っていた。自分を含めて2人までなら沈まない板に手を伸ばす2人。1人は自分の親しい相手、もう1人は見ず知らずの相手。自分が手を伸ばせば片方は助けられる状況で、選ばれなかった方は死ぬという状況でどちらを選ぶのか。
言い方を変えれば、どちらを生かし、どちらを殺すのか。
俺の信念や行動理念は置いておいて、一般的な考え方をするのなら、間違いなく前者の親しい相手を選ぶだろう。
それは間違ったことではない。責められるべきことではない。むろん、選ばれなかった側からしたらそうではないだろう。選ばれなかった側が遺した人々からしたら納得できないだろう。だが、それでも間違った選択ではない。
だが、これが70億と親しい相手なら?そうなってしまうと事情は変わる。本質はどちらを選ぶのかであると同時に天秤なのだ。親しい相手とそうでない相手、自分にとってどっちの方が価値ある存在か。
命は平等であり、公平であるべき。だが、だからこそ、2:1なら多い方が優先されるべき。だから、70億を選ぶべき。
民主主義とはこう言うことだ。一人一人の意見に価値があるから、より多い意見の方が優先される。これを命に置き換えた場合の話が今の状況と言えるだろう。
しかし、民主主義と言えば聞こえはいいが、かなり悪様な言い方をすれば、つまるところは集団圧力だ。70億の方が価値があるのだから、親しい相手よりこちらを取れ、と。
同時にそれは一般的な意見だ。今、選ぶ側に立たされている生徒たちにだってそう言う認識は絶対にあるだろう。
もしも超生物が地球を破壊しない未来があるのなら、その可能性がゼロではないのなら殺すか殺さないか。
まだ決定的なことは彼らは知らない。俺ですら情報が足りていない。だが、仮に殺すしかないという現状から殺さなくてかも知れないと言う可能性と選択肢を示されたとき、どちらを取るのか。俺たち大人は子供たちにどんな考えで殺しを依頼するのか。覚悟を決めろ、とイリーナは言いたいのだろう。
死ぬのは居なくなること。殺すのは相手が居なくなった理由が自分にあるということ。
仮に生徒たちが殺すことを選んだのだとしても彼らの脳裏には常に先生と呼んだ男が死んだという事実が残り続けるだろう。
自分の選択で救われた地球と70億の命の中で、この1年で当たり前に近くにいて、共に過ごした相手だけがいない。そして、そんな選択をしたのが自分なのだと背負い続けるだろう。
「………それが責任、ということか」
ふと、弟子の顔が瞼の裏に浮かぶ。
この一年で恐らくは最も多くを教えた生徒が言っていた。責任を果たすという言葉の意味。
恐らく、乃咲くんは俺が今考えていたことを1人で背負い、仲間たちに考えさせない様にしていたのだろう。それがいち早く様々なことに気付き、最も実力と可能性がある、選べる側に立ってしまった自分の責任だと。
本当に?本当にそれは責任なのか?
彼に非はない。ただ巻き込まれた、知ってしまった、事件を解決するだけの力を持ってしまった、先に起こることに気付いてしまった。大人の不始末に巻き込まれてしまった中学生が本当に背負うべき責任なのか?背負わせていいのか?
責任は俺が持つと口で言うのは簡単だ。
しかし、彼は背負うだろう。何故ならここで言う責任とは司法から言い渡された判決ではなく、背負うべき咎でもなく、まして追求される非でもない。言ってしまえば責任というより責任感の問題。倫理観の問題とも言えるだろう。
大勢の為に親しい人を殺す。民主主義的には正しく、大衆的には正義であり、英雄と称賛されても人殺しと蔑まれるべきことではない。まして70億に対して1人の犠牲なのだから。
けれど個人的に恩があり、嫌っているわけではなく、むしろ尊敬している相手を犠牲にした未来を彼らは生きることになる。
そのとき、手を下した者はどう思うだろう。
親しい人を犠牲にしてまで延命した世界と70億の人。当人にとって世界と人々は犠牲に見合うだけの価値があったと思えるのか、それとも価値がないと思うのか。そんな葛藤を抱き続けることになるのではないだろうか。
きっと我々が考えなければならないことは2つ。
暗殺を続けるのであれば、そして暗殺が成功したのなら生徒たちが背負うのは単なる人殺しという精神的負担ではなく、恩人を切り捨てて世界を存続させることを選択したという重過ぎる現実であること。それを彼らに背負わせるということの意味。
そして、彼らがそれでも殺すことを選んだとき、選ぶ価値があったのだと思える未来を彼らに残すことだろう。
それこそが俺たち大人の背負うべき責任のはずだ。
責任を果たす者。浅野理事長に対して乃咲くんが出した彼なりの価値観。それは子供が背負うには重すぎる考え方だ。
現に我々大人ですら、何処までが自分たちの責任で、そもそも責任とはなんなのか。そんなことすら完璧に理解しているだなんて口が裂けても言える状況にないのだから。
だが、それでも俺たちは彼らの前では堂々としなければならない。先生と慕ってくれる生徒たちの前では強くあらねばなるまい。迷いはしても惑うことはない様に。俺を目標だと言ってくれる子供がいるのだから。
よく、息子に対して父親を壁と表現する。父は息子にとって高い壁であれ、と。それはきっと高く聳えることで目指すべき目標や道標になると同時にいつか子供が目の前に来たとき、越えなければならない存在であれということ。
俺に子供はいない。だが、きっとその考え方は教師と生徒という関係にも当てはまることだろう。だから、意地でも俺たちは答えを出さなければならない。子供達が答えを出した時、安心して背中を押してやれる様に。彼らが俺たちを越えた後の後ろ姿を信頼と安心をもって見守ってやれる様に。
「……俺たちが生徒にしてやれること、か」
暗殺なんてフィクションと歴史だけの言葉。そんな価値観だった彼らに依頼を出し、殺しの訓練をして、重た過ぎる選択を迫っている俺たち大人。そんな彼らの行く末を一部始終、見守りつづけ、時に壁になり、時に背中を押すのが俺の責任で、彼らの選択や俺を越えた先に歩き出そうとする瞬間を尊重して守ってやることが大人の責任なのかも知れないな。
「烏間さん、今日はこの後どうしますか?」
「……俺はあの教室に戻る。暗殺や訓練希望の生徒がいるかは分からない。だが、もしもあれだけの光景のあとでも立ち上がる者がいた時、誰も見てやれないのでは話にならないからな」
「…………分かりました。お付き合いします。ちょうど生徒たちの為の新しいアスレチックの図面を引き終わったところです。設置しておかないとね」
「そういうことでしたら男手が必要でしょう。自分も行きますよ。生徒たちの安全な為にも試走役は必要でしょうし」
「鶴田さんで大丈夫ですか?かなりハードな奴ですよ?」
「どういう意味ですかね!?」
再び歩き出した俺の後ろを部下たちが歩く。
教え子と同僚には恵まれた。少なくとも俺はそう思う。
だから、自分が周りに恵まれたと感じているのなら、周りもそう感じることができる様に自分も振る舞うべきだ。
少なくとも、生徒たちが選んだ結果の先で振り向いた時。自分たちの周りには敵しかいなかったのだと思わない為に。
彼らが言ってくれる様に本当に俺が強いのなら、俺の強さはそういう様々な立場や力、理由、意味を問わず。弱い者を守り、手を差し伸べる為に磨いたのだから。
「乃咲……」
あぁ、頭がイタイ……。
はい、後書きです。
うーん。責任感あるかっこいい大人って表現が難しいですね。今回の烏間先生とその部下たちはそう言う姿を目指して描写を頑張りましたが……。まぁ、まだまだ研鑽が必要ということで生暖かく見守って頂けると嬉しいです……!
それでは今回はここまでということで……。
ご愛読ありがとうございます!