暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想、評価ありがとうございます!

今回も投下させていただきますのでお付き合いください……!


159話 演劇の時間 

 

 さて、期末も終わり、いよいよ冬休みが近づいて来た。

 俺としては大切で必要な時間であったとは言え、それでもやっぱりこのメンバーで過ごせる最後の夏休みを勿体無い使い方をしてしまったと思っていた。なので、今度こそ悔いのない長期休みを〜と思うのだが。やっぱり教室の空気は重かった。

 

 みんなは気にしなくていいと言ってくれているし、俺もそこまで深く自分の所為だと思うつもりはない。でもやっぱり、こんな感じの雰囲気になった理由に絡んでいる以上、責任を感じるな、というのも酷な話なわけで……。

 なにか、頭にヒナの顔を乗せながら腕を組んでこの空気を変える方法はないだろうかと頭を悩ませていた。

 

「圭一。また小難しい顔してるぞ」

 

「分かってはいるんだけどなぁ……」

 

 そんなことを考えていると、やっぱり俺の表情も険しくなるもので。学級委員の仕事をしていた悠馬がチラリとこっちを見て苦笑しながら突いてくる。

 もはや、俺が小難しい顔をしている=何かしらの厄介ごとがある。という認識なっているのか、全員の視線がこっちに向いた。なんか申し訳ない上に少し悲しくなるな、この扱い。

 

「俺のこの顔はもうデフォルトなのかもな」

 

「と、彼氏が言ってるけど?」

 

「そこまで重く受け止める必要ないと思うよ?この人、割といつもこんな感じだし。悩み事に答えを出したと思ったら、また別のところから悩み事持ってくるの。少し困った部分だけど、でも圭ちゃんの良いところでもあるし、今はこのままにしておいてあげて欲しいかな。みんなの前で小難しい顔してる段階ならまだそこまで深刻なことでもないだろうし」

 

 俺の後ろから首の辺りに抱きつくように回ってくるヒナの手。これが俗に言うアスナロ抱きって奴なんだろうか?などと思いながら、俺はヒナの手を握るように自分の手を重ねる。

 そんな俺たちの様子をクラスメイトたちは呆れたような目で眺めて、各々好き勝手に言い始める。

 

「乃咲の奴、いつの間にか倉橋とくっ付いたよな」

 

「あぁ……。その上、あんな堅物感満載だったのに倉橋に抱き付かれても平然としてる。段階すっ飛ばしすぎじゃないか?」

 

「それがさ、あの2人。正式に付き合うまで恋人(仮)なんてやりながら手とか繋いでたりしてたからさ?付き合う前に割としっかり段階は踏んでるっぽいのよね。乃咲も最初は手を繋ぐの恥ずかしがってたらしいし」

 

「あー。確かに『コイツ、これで告白保留してるのか』とか思うくらい倉橋に甘えてるところあったし。付き合い出して急に距離感近くなったっていうより、それくらいの下地はあったのに乃咲が歪ませてた部分が付き合ったことで解消されたから急にイチャ付きだしたように見えるだけか」

 

「陽菜乃もねぇ。ちょいちょいブレーキ壊れ気味というか、『この子、まだ正式に付き合ってないわよね』って心配になるくらいにグイグイ行くことあったもんね。だから乃咲くんなりに適性な距離感を保とうとしてた感あったよね」

 

「うーん。どっちもどっちかぁ……?いや、乃咲が悩んでたことも分かるから、俺たちとしても乃咲が悪いって切り捨てたくないけどなぁ。まぁ、ちゃんとくっ付いてよかったじゃん」

 

「そうだな。クラスメイトの中からカップルが出たって確かにここ最近では一番明るいニュースだったしな」

 

 なんだかんだ、俺のヒナの進展はクラスで明るい話題だったようで少しだが、空気が和らいだような気がする。

 

「明るいニュースなぁ……。他にはないよなぁ……」

 

「そうね……。近々演劇発表会があるけど……まぁ、これもいつも通りE組にはかなり不利な条件付いてるし。ずっと楽しめるのは本校舎の連中だろうしなぁ……」

 

「俺らも楽しめない訳ではないんだけどな。いざみんなでやり始めたら楽しいだろうし。でもなぁ……。やっぱり条件見ると萎える気持ちはあるよなぁ」

 

 何処からか取り出されたチラシには、演劇発表会の日程と予算関係が書かれていた。中身を読み込むと、E組は昼休憩中に公演しなければならないらしく、その上に予算はかなり低いし、小道具やセットもこの校舎から本校舎の体育館に運ばなくてはならない。なんというか、いつも通りって感じだ。

 

「A組とは和解したけど、やっぱりこの辺は変わんねぇよなぁ。理事長も徹底してやがるし」

 

「まぁな。でも俺もクラス委員会で一応文句も言っておいたんだけどな、椚ヶ丘生の在り方みたいなの説かれた後で浅野にこう返されたよ。『どうせキミたちだ。なんとかするだろ』ってさ」

 

「アイツも言うじゃんか」

 

「ま、そう言うことなら一丁期待に応えてやりますかね。アイツも一応は暗殺の仲間な訳だしな」

 

 徐々に活気つき始めるクラスメイトたち。

 暗殺に関する話題ではやっぱり少しだけ空気が重い。でも、普通の学校生活に関する話題なら以前よりも明るくなったように思う。これは良い傾向だろう。

 

「ふっ……」

 

「あ、乃咲が不敵に笑った」

 

「そういうことなら俺が一肌脱ぐしかあるまいて」

 

「急に何のキャラに入ったんだ、こいつ……?」

 

「準備期間が少なく、予算も低い。そんな状況でそれなりの完成度を求めるのなら、やっぱり慣れ親しんだ物語の方がいいだろう。ただし、完全に原点と同じだと芸がないから多色のオリジナル要素を散りばめる」

 

「ふむふむ……確かに現実的ではあるよな」

 

「そして、その上で必要なのは、俺たちも楽しむことだ」

 

「そうね。せっかくなら楽しいのがいいわね」

 

「そうだろう?ここで俺が提案するのは——ずばり、TRPGだ」

 

「ふむふむ……ん?なんだって?」

 

「予定調和な結末ではつまらない。だから、ダイスに全てを賭けよう。結末はダイスの神のみぞ知る……」

 

「おいおい……誰がコイツ止めろ。また妙な方向に暴走し始めてんぞ。倉橋、コイツお前の彼氏だろ、なんとかしろ」

 

「きゃー!圭ちゃんすごーい!」

 

「駄目だ。バカと乃咲に付ける薬と付き合い立てホヤホヤのバカップルを止める手段はねぇよ。普段そんなことねぇのに妙なところで全肯定彼女してやがる」

 

「昼休みまでにシナリオ書き上げとくから、プレイヤー4人決めてキャラ作っとけよ〜!」

 

「昼まで!?」

 

「アイツ、机の中からデルトラクエスト抜き取って教室から飛び出して行っちまったぞ」

 

「なんに使うんだよ、デルトラクエスト」

 

「前に浅野くんが参考書と間違えて渡した奴を返しに行ってくるんだってさ」

 

浅野(アイツ)の持ち物かよ!!?」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 そして迎えた昼休み。私たちは緊張の面持ちで圭一の机の周りに集まっていた。私の彼氏は授業中に何をしていたのか、片手には5cmは厚みがありそうな冊子を持っていた。

 

「まったく、僕だって忙しいんだぞ」

 

 などと言いながら圭ちゃんの持つ冊子をソワソワしながら見ているのは浅野くんだ。どうやら、誰が伝えたらしい。

 

「まぁそう言うなって。たっぷり4時間使って執筆した。俺の自信作だ。我ながら自分の才能が怖いぜ……」

 

「いや、真面目に授業受けろよ……」

 

「受けてたぞ?忘れてないか?俺は並列思考できるんだぜ?授業を聞きながら左手で板書して、TRPGのシナリオ考えながら右手で書き出すくらい訳ないって」

 

「こいつ、本当にとんでもないスペックになったよな。少なくとも今ので4つ思考使ってるんだけど」

 

 圭ちゃんはときどき、さらっととんでもないことをする。

 この前、わかばパークに遊びに行った時なんか『最近、プログラミングとかにも手を出してるんだけどさ、2進数って人間の手で当て嵌めて考えたら片手で31、両手で1023まで数えられるよな』とか言って綾香ちゃんにドン引きされていた。

 

 なんか、そういう変な方向でさらっととんでもないことをするもんだから、暗殺とかで本気になった時の瞬間移動とか見慣れてきてる所為もあってインパクトが薄れて来ているのが本当に怖い。よく女子向けの雑誌でハイスペック彼氏なんて表現されるけど、そんなちゃちな次元じゃない気がする。

 

「まぁいいじゃん。そんなことより始めようぜ。プレイヤーはヒナ、竹林、木村、学秀でいいんだよな?」

 

 私たちに確認する声に頷いて返す。

 圭ちゃんはそれをしっかり見届けてから同じように頷いた。

 

「んじゃ、まず前提になる設定の再確認な。探索者の感性は基本的に現代人であること。ただし、別に思想とかは自由でいい。いろんな分野の専門的な知識はステータスとスキルに相談して持ってることにして貰って構わないけど、現代日本の最低限の一般常識は持ち合わせてることにしてくれってことだな」

 

「うん。大丈夫」

 

「同じく」

 

「よし。その上でみんなのキャラを再確認な」

 

「私は学生かな。というか、キャラクターとかどう作れば良いのか分からないから、基本的に現実の私が出来ることが出来るようにステータスとか割り振ったよ」

 

「僕は医者だ。INTとDEXとCONを高めにしてある。技能は医者っぽいものを中心に取ったのでサポートなら出来るはずだ」

 

「俺は警察官だ。多分、戦闘担当になるかな。乃咲も戦闘になる可能性はあるから最低限の戦闘技能は取っておけって言ってたし。まかしてくれ」

 

「僕は探偵だ。竹林が回復面、僕はアイディア出しや便利技能でのサポートがメインの動きになるだろう」

 

「よし。まぁ、大体キャラの方向性はみんな把握したな?んで、持ち物も持ち込めるけど、ヒナはトラップ作製ツール。竹林は医療キット。木村は銃。学秀は虫眼鏡と」

 

「虫眼鏡て……」

 

 浅野くんが持ち込もうとしている道具にみんな脱力したような表情を浮かべているが、圭ちゃんと本人は私達の想像を斜め上に向かった真剣な顔をしていた。

 

「いや、俺も流石に出禁にしようかと思ったんだけどなぁ」

 

「僕が探偵と言ったら虫眼鏡だろう?と必死に説得した」

 

「そんな重要アイテムかソレ!?」

 

「かなりのチートアイテムだと思うが……。俺も学秀以外が持ち込んだなら、そこまで止めるつもりもなかったけど、コイツに持たせると無法なことをやりまくるだろうから」

 

「虫眼鏡がチートアイテムってどの世界線の話だよ……」

 

「たけど、結構バランスのいいパーティーになったよな。医者と警察官と探偵だろ?それに加えて倉橋は現実の自分と同じことが出来るようにって言ってたけど、それってトラップ使いの暗殺者ってことだし……。かなり良いよな?」

 

「そこに関しては俺も感心してる。見事に役割別れたよなって。んまぁ、これで一通りプレイヤー同士の情報は出たし、早速始めるか。題して【変わり者のミ=ゴ太郎】」

 

「ミ=ゴ太郎!!?」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「んで、どうだった?俺の傑作」

 

「「「なんか、どっと疲れた……」」」

 

「そうか?TRPGなんてあんなもんだろう。最後に空を見上げると世界の真実に気付き、トゥルーエンドに行くのは予想外だったな。やたらと天気を伝えてくるなぁ〜と思ったらうっかり空を見上げない為の動線だったとは」

 

「いや、そうは言っても全滅ENDだぞ?」

 

「話のベースは桃太郎。そして桃太郎という物語的にはしっかりハッピーエンド。なのに探索者には初めから希望がなかったって酷くない?物語はハッピーエンドなのに、探索者的にはバットエンドで、それがトゥルーエンドとか」

 

「ちなみに圭ちゃん……?このシナリオって最後で世界の真実に気付かなかった場合はどうなるの?」

 

「探索者たちは世界の真実に気付くことなく、自分たちが終わったと気付くことなく全滅だな。シナリオ的には生存したけど、生還は出来ないって言えばいいのか」

 

「つまり、マルチバットエンドならぬマルチデットエンドってことか。流石にこれは……」

 

「僕は楽しめたけどな。今にして思うと色々伏線が多かった。まさか序盤というか冒頭で理不尽な2回のSANチェックさせられたところがあんな重要な情報だなんてな。ミ=ゴが出てこないと思ったら……実は最初から進行役として干渉していたとは……」

 

「あぁ。俺たち、初めから脳管だったなんて……」

 

「つか、なんだよキビダゴンって。キビダンゴだろ」

 

 どうやら俺の作ったシナリオは学秀以外には受けなかったらしい。乃咲先生の次回作にご期待くださいってところか。

 

「ってか、登場人物の声は乃咲でナレーターは狭間だったよな。まさかのBGMつきだったし。こっちは三村か?俺的には狭間が協力してるのが一番意外なんだけど」

 

「……なんて言うか、コイツの書いてるシナリオの救いの無さが私の琴線に触れたのよ。だって、クトゥルフ神話TRPGって無力な人間が必死に足掻いてなんとか難を逃れるのが醍醐味の物語なのに、乃咲の書いてるシナリオはそれを性格悪く否定してるのよ?なんとなく間近で見届けたくなった。それだけよ」

 

「そうそう。俺としても演出が面白かったからつい。だってさ。桃太郎的にはハッピーエンドでも、探索者たち的には目の前の問題が一つ片付いたたけで現代に帰る手掛かりとか一切見つかってないし、かと思えばトゥルーエンドで『実はお前ら全員ミ=ゴが所持する脳管の一つに過ぎなくて、もともと帰る場所もなければ身体もない。生かされてるだけの存在でした』ってオチと一緒に電源落とされるんだぜ?」

 

「鬼とか言う神話生物的存在に抗って必死に頑張ったけど、もともと今の自分たちは神話生物の眺めてる画面の中の存在に過ぎず、娯楽感覚で手のひらで踊らされてるだけの存在でした〜って。報われない終わり方が最高にクトゥルフしてると思わない?この上、もともと最後の締めのセリフで『本当に、本当にありがとうございました』とか書いてあったのよ?」

 

「鬱のなんたるかを知ってる構成だったな……」

 

「まだ帰る手段は見つかっていない。でも、みんなで力を合わせて鬼を退治できた。どんな困難も仲間と一緒に立ち向かえば解決できるかもしれない。だから、今すぐは無理でも、いつか帰れる時が来る!って不確かでも希望は見えた!みたいな正規のエンディングの後にトゥルーエンドを知ったら、このシナリオが本当にゲーム機とかでプレイできるゲームの場合、僕でもしばらく体調崩す自信あるぞ」

 

「ほんと、良くこんな性格悪いシナリオ書けたわね。4時間で」

 

「えっへん」

 

 一通りプレイヤーと協力してくれた2人からの批評も終わった所でそれとなく殺せんせーに水を向ける。

 

「殺せんせー、どうでした?」

 

「救いは……救いはないのですか……?」

 

 真顔でもなく、いつかの微妙な顔でもなく、ただそれでもリアルSAN値が削られていることのわかる表情の彼。俺は殺せんせーの肩をポンと叩いて言い放つ。

 

「救いを求めてこうかもしれない、あぁかもしれないと想像し、救われるENDを夢想するのも創作活動の楽しみです。だから、先生の思い描く救いの結末を考えてもいいんですよ」

 

「乃咲くん……!」

 

「んでも、結局のところあなたの妄想で原作が変わることはないので、その救いも殺せんせーの中で考えた自己満足でしかないことはお忘れ無く。どう足掻いても彼らはシャットダウンされて終わる。それが本当の結末です」

 

「にゅ、にゅやぁぁぁぁぁぁんんん!!」

 

「聞いたことないタイプの殺せんせーの泣き声だ」

 

「つか、乃咲が信じられないくらいエゴイズムに満ちた事言ってるけど大丈夫か?二次創作で言っていいセリフじゃないだろ」

 

「あ〜それね。なんか今の殺せんせーと乃咲のやり取りってこの話を書いてる人のポリシーらしいよ。最近悟ったんだって」

 

「お前らが言ってるのも大概二次創作で言っていいセリフじゃないけどな、千葉と不破よぉ」

 

「それに対して反応してツッコミ入れてるアンタも大概よ、前原。っていうか、いい加減話を進めなさいよ」

 

 なにやらよく分からない会話をしていた仲間達を尻目に殺せんせーは気を取り直したようで口を開く。

 

「そうですね。まぁ、チャレンジ精神は面白いと思いますが万人受けはしないでしょうねぇ。加えてTRPG……テーブルトーク、ロール、プレイング、ゲーム。ロールプレイなので演劇という本題から逸れてはいませんが、不確定要素が多すぎてぐだぐだになってしまう可能性がある。そう言う意味ではやはり、普通の劇をやるのが一番でしょうか」

 

「それが一番無難だよな」

 

「なにやら方向性が決まったようだし、僕はこれで失礼」

 

「おう、ありがとな〜」

 

 学秀にひらひらを手を振りながら、俺たちの昼休みは終わりを告げてそのまま学活に傾れ込む。ついでにこのままなんの劇をやるのか決めてしまおうと言う殺せんせーの計らいである。

 

「んで、実際劇って言ってもなにするよ?」

 

「そこに関しては乃咲のプラン通りに桃太郎でいいんじゃない?私が脚本書いてあげるわよ」

 

「おっ、狭間が乗り気だ」

 

「乃咲に教えてあげる。何も鬱にするだけが言葉で傷を残すってことじゃないってこと。ふふふ……」

 

「ヒナぁ、この人怖いよぉ……」

 

「よーしよし、大丈夫だよ〜。圭ちゃんも大概人のこと言えないことばっかりしてるからねぇ〜」

 

「そこに関してはガチで同意だわ……」

 

「まぁ、乃咲は放っておいても問題ない危険物だから置いておくとして。主役とかどうする?桃太郎だと……やっぱり男子?」

 

「茅野で良くね?児童施設でやってた劇では子供たちにすげぇ受けてたよな?俺らも見ててすげぇって思ったし」

 

「いや、でも流石に中学生には通用しねぇべ。こんな幼児体型に感情移入できっか?まぁ、男役って意味ならハマり役かもしれねぇけどよぉ!ブキャキャキャキャ!」

 

 あ、調子に乗って茅野を煽ってた寺坂がしばかれた。

 あっぶねぇ。いつもの調子でビッチ先生のまな板ショーなんてどお?なんて言葉に茅野にピッタリだ。まな板だし、とか言ったら俺も寺坂と同じ運命を辿ったことだろう。

 

「あ、乃咲は正座ね」

 

「何故に?」

 

「どうせビッチ先生の言葉に『茅野にピッタリだ。まな板だし』とか思ってたんでしょ」

 

「いやいや、そんな滅相もない」

 

「本当にもう!なんでお姉ちゃんは"あぁ"なのに私はこうなのかなぁ……!乳の神様は不公平だよ!」

 

 そんなこと俺に言われても……。

 

「そんなこと俺に言われても、なにかな?言ってみなよ」

 

 思考が読めるのか……!?まずい……!

 

「何がまずいのかな?ん?」

 

 茅野から発せられる異様な圧力に耐えかねて走り出そうとしたその時、ガシッと頭へアイアンクローを決められた。

 

「お許しくださいませ無山さまっ!、平胸盛(たいらのむねもり)様っ!どうか、どうかお慈悲を!!申し訳ありません、申し訳ありません、申し訳あ………ひらた……ひやぁっ…!!」

 

「何やってんだよお前ら……」

 

「茅野が弄って欲しそうにこっちを見てたから」

 

「そんなことないし!」

 

「…………カエデちゃん。圭ちゃんは何も言ってなかったのに自分から胸のことネタにしてたもん」

 

「そ、それはその……」

 

「本当に圭ちゃんが思ってたんだとしても、本気で嫌がってたら自分から言わないもん。圭ちゃんのバーカ」

 

「なんでこの流れで俺が罵倒されるの?」

 

「「ドグサレ恋愛下級者のドヘタレ鈍感死神ファザコン」」

 

「流石に悪様に言い過ぎでは!?俺も泣くぞ!?」

 

 恋人と友人にここまで言われると流石の俺も傷付くのである。いや、恋愛下級者もドヘタレも鈍感も死神ファザコンも事実なんだろうけど、ドグサレは酷過ぎる。

 

「んで?結局、主演はどうする?俺としては渚くんを推すよ?」

 

「カルマくん、そのカンペ下ろそうか。流石にネタにしづらいから。色んな意味で炎上しかねないし」

 

「ま、それもそうだよね〜」

 

 暗殺を一時的に忘れた教室の雰囲気は明るい。

 みんなでワイワイガヤガヤしながら色んな意見や主役のオファーが飛ぶ中で殺せんせーがウズウズしていた。

 

「どったの、殺せんせー」

 

「先生、主役……やりたい」

 

「「「……出来るわけねぇだろ、国家機密がぁ!!!」」」

 

「にゅやぁっ!?だってやってみたいんだもん!!先生、劇の主役とかやってみたかったし、皆さんと一緒にステージに立ちたいし!!いーじゃないですか、夢くらい見ても!!」

 

「いーわよ、書いたげる。殺せんせーを主役にした脚本」

 

「マジで!?殺せんせーが桃太郎すんの!?」

 

「要はやりようよ。乃咲も言ってたでしょ、原作をまんまやるのは面白くないって。うちらの桃太郎をするのよ」

 

「お、おう、そうか……」

 

「あと、杉野。神崎さんと組んで脇を固める役。ありたいに言えばお爺さんとお婆さんやりなさい。どっちやるかは任せるわ」

 

「ま、まじ!?か、神崎さんいいの!?俺りゃもちろん嬉しいけど!」

 

「演技力なくてもよければ。声は他の人が当ててくれるんだよね?」

 

「よっしゃ!配役はどっちやる!?俺、別にこの際ならお婆さん役でもいいけど!?」

 

「うーん。普通に杉野くんがお爺さんで私がお婆さんでいいんじゃないかな?」

 

 杉野が暴走してんなぁ……。

 そして杉野ってこうしてみると好意ダダ漏れだよな。なんで神崎さん平気な顔でスルーできてるんだろ。

 気付いてて知らないフリをしてるのか、あるいはマジで気付いてないのか。気付いてないフリしてそうな強かさはありそうだけど、割とおっとり鈍感系の可能性も否定できないよな。

 

「乃咲に鈍感とか思われたくないと思うよ?神崎さんも」

 

「うんうん」

 

「茅野はさっきから俺の思考をナチュラルに読まないでくれるか?つか、ヒナも頷くなよ」

 

 つか、俺ってそこまで鈍感だろうか。

 その気になれば意識の波長を読んで相手が俺にどんな感情を向けているのか推察することは容易に出来る。どの感情がどんな波長になるかさえ把握していれば判別は難しくない。

 シロの波長と同じなら、それは俺に対して憎しみを向けてると分かるし、極論、俺に向けてヒナと同じ波長を向けているなら少なくとも好意を向けてくれてるかは判断出来てしまう。

 

 ただ、それはあまりにもプライバシーのカケラもない行為だと知ってるし、だから俺なりにやらないようにしている。

 鈍感くんを卒業するだけならいつでも出来るが、しないのは周りへの配慮の為だ。だから、そこまで悪様に言われる筋合いは無いはずだ。きっと、おそらく、多分。

 

「あ、あと乃咲と倉橋」

 

「んぇ?」

 

「ん?どったの?」

 

「乃咲がお爺さん役の声、倉橋がお婆さん役の声ね」

 

「そんな、熟年夫婦だなんて気が早いよ……!」

 

「…………乃咲」

 

「あっ、はい?」

 

「殴っていいかな?グーで」

 

「茅野さん?今度は俺、何をやりました!?」

 

「人の気も知らないで……!」

 

「ふごっ………!?」

 

 容赦ないコークスリュー・ブローが俺の鳩尾に突き刺さった。茅野の奴、いい拳を持ってるじゃないか。

 

「そ、そんなにやりたいなら茅野やるか……?」

 

「いや、倉橋さんが譲ってくれないでしょ」

 

「いやいや、お爺さん役を………」

 

「ふんっ!!」

 

「ごぶしゃぁぁ……!」

 

 理不尽である。まぁ、実際、勢いだけで威力は大したことないから全然痛くないんだけどさ。力加減上手いな、こいつ。

 

「とまぁ、おふざけはここまでにして……。私は小道具担当でもしようかな。桃太郎ならそこまで役者も多くないだろうし」

 

「ま、それでもいいんじゃない?片岡と竹林は弁護士役ね」

 

「桃太郎に弁護士!!?」

 

 なんだか物凄く不安なのは俺だけだろうか。

 そんな俺の不安は捨て置かれ、演劇発表会はあっという間に訪れてしまうのだった。

 これが冬休み前、最後の穏やかな時間であることに俺たちは誰一人として気付くことができないままに。

 




あとがき

はい、ジークアクス終わりましたね……。
毎週色んな驚きをくれてありがとう……。
閃光のハサウェイも新作PVが公開されたとかどうとか……。

それはそうとそろそろ7月に入ると言うことで、二代目ルート執筆中です。
もしかすると二代目ルートのタイトルに入れていた前編とか後編とか修正してpart1とかそういう表記にし直すかもしれません……。ご承知おきください……。

今回もご愛読ありがとうございます!

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