今後も妄想垂れ流して行きますのでお付き合いください。
ちなみに、タイトルのⅠはローマ数字の1です。
今後、圭一が考えてることが物語の核心に近づいたり、心境に変化のある話にローマ数字を付けますので、次話がタイトルが『圭一の時間Ⅱ』となるわけではないので、胸に留めておいてくだされ……。
それでは本編の方をどうぞ。
朝、旧校舎に続く山道を、道行く野良猫と戯れながら辿って通学するのが俺の日課である。
しかし、どうしたことだろう。日課には無い出来事が降って沸いた。学校に着くとタコ型超破壊生物……もとい、殺せんせーがトロピカルジュースと英字新聞を片手に通勤してきた所に出会したのだ。
なんかもう、何処から突っ込めばいいのか分からない。通勤途中にコンビニ感覚でハワイに行くなよ、とでも言えばいいのだろうが、言うのも面倒なのでツッコミは控えることにしよう。
朝から無駄な体力を使うのは燃費に響く。昼休みまでに無駄なカロリーを消費して空腹に耐えるひもじい思いをするのは勘弁だ。
「おはようございます、乃咲くん」
「おはよう、殺せんせー」
「…………」
「…………」
本来なら生徒からするべきなんだろうが、先に挨拶されたので素直に挨拶を返す。
が、会話はそこで終わった。ある意味当然である。まだ生徒との距離感を掴み切れず、趣味とかを把握しているわけでもないのでそもそも話のネタが思い浮かばない殺せんせーと、そもそも別に話すこともないので口を開く気もない俺。会話にならないのは当然だ。
「…………」
「…………じゃ、俺はこれで」
数秒の気不味い沈黙が流れ、なんとなく空気が鬱陶しくなった俺はその場を去ることにした。
手短に言葉を切って踵を返すと右腕に黄色い触手が絡み付いて来た。
「乃咲くん、乃咲くん! トロピカルジュースなんていかがですか!? 先生とモーニングティーと洒落込もうじゃありませんか!」
「お構いなく。自分はお茶会で飲むのは綾鷹と決めてるんで」
「え!? 最近の子はお茶会なんてするんです!?」
「しません。ボッチなので」
「そんな寂しいカミングアウトしないで! あ、そうだ! これからは先生とお茶会しましょう!?」
「そんなボッチが体育の準備体操でペア組む相手が居ないから、先生とペア組むみたいなノリで茶会しても嬉しくないです。つか、お茶会自体興味ないんで」
「例え方が妙に具体的……!? もしや経験談です!?」
ツッコミが激し過ぎて、もはや五月蝿いレベルだな、殺せんせー。個人的には生徒とのコミュニケーションを第一に考えるその姿勢に対しては素直に感心するが、必要以上の関与を嫌がる奴もいることを教えた方が良いだろうか? 寺坂とかその筆頭だろう。
「偶には英字新聞なんて読んでみるのはどうです? 案外面白い発見があるかもしれませんよ?」
「どうせアンタが
「ギクっ! よもや乃咲くんも英字新聞を愛読して?」
「いや、月が爆発したとか世界を揺るがす大事件だろ。『あ、月壊れてる。ま、いいや、興味ないし』みたいな奴は居ないだろ、普通」
「それは確かに」
駄目だ、会話を切ろうとしても相槌返されて何故か会話が続いてしまう。これはある種の才能だろ。
会話をぶった切って逃げようにも、ここまで食い下がられた感じを見るに走って逃げても追ってくるだろうし、マッハ20から逃げ切れる訳がない。
「……ヌルフフフ」
「……はぁ……。分かった、付き合うからその『ようやく観念しましたね』みたいな顔をやめてくれ」
「わかりました。いやー、生徒と朝から触れ合うプチ目標が遂に達成できましたよ」
「マッハ20の怪物が抱くにしては随分とちっぽけな夢だこと」
「大事な生徒との触れ合いにマッハ20だとかは関係ないですよ」
良く言うよ、来年には地球を爆破するんだろ? 俺たちごと地球を消し去ろうとしてる奴が生徒が大事だとかよくもまあ、抜かしたもんだ。
「そんなに俺たちが大事なら地球爆破とかやめてくれない? 俺たちも死んじゃうんだけど」
「おやおや、もしや乃咲くんは先生を殺す自信がないのですか?」
「アンタを殺せれば心配ないんだろうけど、それ以前に殺す殺さない関係なく、生徒が大切とか言ってる割に俺たちには殺害予告してるじゃん? 来年には地球爆破しますって殺害予告兼余命宣告だろ。生徒を大事にとか言ってるのに言動が矛盾してる」
なんとなく、これまでクラスの誰も彼に投げかけなかった質問をあえて聞く。この人の言動は矛盾してる。矛盾してるけど星の滅亡という事態の大きさに目を取られ過ぎて殆どの奴らがそこを気にしてない。
もしくは『星が滅ぶ=自分達も死ぬ』と受け入れているのか。いや、漠然と理解しても受け入れられてはいないのだろう。その証拠にクラスメイトたちが仕掛ける暗殺は何処か楽し気だ。
俺にはそれが理解出来ない。なんでコイツが政府との約束を律儀に守ること前提なのか。
仮に俺たちの誰かがコイツの怒りを買ったとして、殴り殺されたとして、政府との約束を反故にしてもこの超生物には何の痛手もない。だって、巡航ミサイルですら撃ち落とせないマッハ20の怪物だ。何があっても余裕で逃げ切れるだろう。
その気になれば俺たちを皆殺しにして世界政府からですらも逃げ切れる化け物がたかが紙切れ一枚、椚ヶ丘中学校3年E組の生徒に危害を加えない、なんて約束を本気で守ると思えるのか。
「……鋭い疑問ですね。それを私に問いかけて来たのはキミが初めてだ」
「報酬の100億円とか、地球滅亡とか、世界政府とか、国家機密だとかのスケールのデカさに隠れて気付けてないのかもね。まあ、誰かは気づいてるかもだけど。もしくは地球滅亡=死って受け入れてるのかもしれないけどさ?」
「恐らくは前者が多いでしょうね。あるいは気付いていても現実感が薄くて漠然としか考えられていないか。キミほど深く考えている者はいないかもしれない、というのが答えとしては妥当でしょうか」
「んで? 結局のところどうなのさ? アンタが本当にこの一年で俺たちに危害を加えないかどうかがまず信じられないし、一年過ぎたら地球共々皆殺しにするって宣言されてる訳だから、そもそもアンタ自体を信じられないんだけど」
「……まさか、赴任して数日で、こんな形で問いただされるとは思いもしませんでしたよ。キミは先生の予想を超えていた」
「そいつはどうも。んで? 答えは?」
別に追い詰めるつもりはなかったけれど丁度いいから問い詰める。何気なく振った話がこんな方向に発展するとは思わなかった。
思わなかったけれど、少しだけ優越感がある。俺は、今、E組の誰よりも月爆破と地球滅亡を実行しようとしてる化け物に近づけているのだから。
「ふむ……。先生としてはそれに答えるのもやぶさかではありません。ですが一つだけ約束して貰いたいことがあります。それを守れるのであればキミの質問に答えましょう。敬意を込めて、ね」
「ああ、ご安心下さい。別にアンタが侵略して来た火星人だろうが、人体実験で化け物に変えられた元人間だろうが、将棋星人だろうが、他人に公言するつもりはありません。図らずとも手に入れた他人の弱みをそう簡単に手放そうとは思いませんので」
「そうですか? ではお答えしましょう」
超生物の口から語られる。一年の地球に訪れるだろう災難、その原因となる怪物からその真意が。
「先生は来年には自然死します。その際に地球を巻き込んでしまう可能性がある、それだけの話です」
案外、あっさりとした答えだった。
「その言い方だと巻き込まない可能性もある様に聞こえますが?」
「ええ。その可能性もあります。ですが、巻き込んでしまう可能性の方が高い。だから世界政府は躍起になって先生を殺そうとするのです。対先生用BB弾はこの触手を形成する細胞を溶かし殺せる。これで先生の頭や心臓を破壊すればこの細胞の成長を停止させ、無力化することができますので」
あっさりとした答えだったが、俺は知ってはいけないことまで知ったのではないだろうか?
一年後も生きていたいという願望があるのなら、この人を殺す必要性は理解出来た。
支給されたナイフとBB弾が想像以上に重要なアイテムだってのも分かった。
それに、殺せんせーの口からは何度か細胞という言葉が出て来た。殺せんせーを殺すことで細胞を無力化できる、なんて聞くとまるで殺せんせーではなく、彼を構成する細胞が地球滅亡の原因であるかのような印象も受けた。
だが、それを理解するのと新たな疑問が産まれるのは全くの同時だった。
『殺せんせー』と茅野によって名付けられた、この超生物は何者なんだろう?
なぜ、世界政府という奴らは来年には地球が滅亡するだとかそんなことを知っているのだろう? 殺せんせーが暴露したから?
いや、そもそもなんで殺せんせーの細胞に有効な武器を開発出来た? 殺せんせーから細胞の提供でも受けたのか? いや、仮にそうだとしても開発にどれだけの時間がかかった?
暗殺依頼をして来た当時の烏間さんからの事情説明を思い出す限りでは、月を爆発させてから殺せんせーは地球爆破宣言をしたことになる。
……いや、そもそもとして、月を
殺せんせーの同種みたいなのが既に月面で発見・研究されていて、そいつが死んだ。その死と同時に細胞とか心臓やらが暴走した結果、月があんな風になったんじゃないのか?
凄いSFチックな妄想にはなるが、この妄想もとい、仮説が正しいのなら、世界政府が地球滅亡の可能性を考えているのも、対先生用にBB弾やらナイフがすぐに開発されたのにも説明がつくのでは?
「…………」
「……どうやら、本当に先生の想像以上みたいですね。少し早まってしまいましたか」
殺せんせーと目が合う。
いつもと変わらぬ黄色い体色、しかし、口元は苦笑しているように見えた。
その笑みで俺がどこまで想像したのか、見透かされた気分になったので、念のために自分に釘を刺すつもりで口を動かす。
「いえ、約束通り誰かに話すつもりはないですし、仮に俺が考えた仮説まで話しても妄想乙で流されるかもしれません」
「そうしてください。先生が勝手に死ぬと分かって、みなさんが本気で殺りにしてくれないと先生、退屈で死んでしまいますから」
こっちの意図に気付いたらしく、戯ける殺せんせーに乗っかって会話を続ける。
朝っぱらから考えるには少々重たすぎる内容だったのでリフレッシュを兼ねて今日ばかりは殺せんせーの日課に付き合うことにした。
初めて彼を見た時、目を疑った。
似ていた、生写しと言っていい程に。
その銀色の髪の色も顔立ちも。
私が見ようとしなかったあの子に。
「これが英字新聞……。うん、読めん」
私の隣で英字新聞に目を通しては難しそうに顔を顰める教え子に横目で見ながらジュースを飲み下す。
さして難しい表現もなければ、まだ習ってない単語もそうないだろうが、彼は割と真剣に首を傾げては所々単語を口に出して読もうと挑戦し、上手く発音できずに舌を噛んだみたいに唐突に口を閉じる。
まだ生徒たちのことを完璧に把握できているわけではないが、今年度に至るまでの成績だけは一通り把握し、苦手分野を掴めた。
しかし、私が把握した中でも奇妙というか、異質な成績を修める者がいた。それが今、まさに英字新聞と格闘している乃咲圭一である。
一年の前期までは学年トップの成績を出していたが、後期に入った辺りから成績を落とし始め、最終的に学年最下位まで落ちた少年。
ふと、先ほどまでの会話が頭の中に蘇る。
気付こうと思えば誰でも気付く疑問、しようと思えば誰でも出来た問い掛け。けれど誰も疑問を持たず、誰も質問してこなかった問いを何気なく投げかけて来た、私の新たな教え子。
あの会話を思い出すとなんとなく彼のことが見えて来る。話し方や抱いた疑問を鑑みるに地頭が悪い訳ではない。むしろ、あの僅かなやり取りで見せた反応から察するに洞察力はかなり高い部類だろう。
彼に限った話ではないが、まだこのクラスの子供たちは才能の底が見えない。勉強が出来ないから頭が悪いと思われがちなのだろうが、やはり一つの分野だけでその人間の実力を推し量るのは難しい。
「ヌルフフフ」
「……どうしたんすか、1人で笑って」
「いえ別に。君たち一人一人とどう向き合い、どう育てていこうかと考えていたらつい笑いがね」
「はぁ……? まあ、そうですか」
思わず溢れてしまった笑いに少々気味悪そうに反応した乃咲くんは私の答えに興味なさそうに返事すると英字新聞に視線を戻す。
これまでのように首を捻るのではなく、発音を試みるのでもなく、食い入るように、視線で穴が空くのではないかと思えるほどの面持ちで睨み付けるように文面を見下ろす。その姿から集中して解読にあたっているのだと察することが出来た。
「読みとか意味がわからない単語があればいつでも言ってくださいね」
「…………」
掛けた言葉に対する返事はない。
「乃咲くん?」
念の為、もう一度呼びかけてみたがやはり無言。人というのは自分の名前が聞こえると無意識に反応してしまうものだ。だというのに一切の反応がないあたり、無視ではなく、単純に気付いていないのだろう。
その集中力には思わず舌を巻く。人並外れた凄まじい集中力だと思う。
「これは将来が楽しみですねぇ」
私は頷きながら、木陰にいる杉野くんと渚くんの存在を認知する。
さて、今日も一日張り切って行きますか。
始業のベルは今日も鳴った。
はい、後書きです。
何だか随分と簡単に殺せんせーが自分の秘密を暴露したみたいに見えますが、彼はこの段階でも自力で答えに辿り着いたのなら聞けば答えてくれそうだな、と私が感じたからです。
ちなみに、圭一の考え方が多少突飛な感じがありますが、まあ、中学生ならそんな考えに行きついても不思議ではないかな?と、自分のイメージを反映した結果です。
好みは分かれそうですがね……。
それでは次回にお会いしましょう。