暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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今回も投下しますのでお付き合いください……!


160話 演劇の時間 2時間目

 

「いいですか、乃咲くん。まずはキミに奥義を伝えます」

 

 殺せんせーから死神の技を教わり始めた初日のこと。彼は唐突にそう言い放った。なんの脈絡もなく、息を吸って吐くような滑らかさで、まるで簡単なことのように。

 

「いきなりですね………」

 

「その自覚はありますが、それでもまず先に伝えるべきだと思いまして。今後、必要になる場面が来るかも知れません。それに、奥義というのあくまで仮称です。でも、キミの場合はそういう雰囲気の方がやる気が出るでしょう?」

 

 死神の奥義。そう聞くと凄く仰々しくて凶々しいモノに思えてくるのは何故だろう?確かに実際に人の命を奪った技である可能性もある以上、そういう印象は間違いではないのかも知れないが。それでも重々しさと中二心を擽る響きだ。

 

 っと、いけない。こんな浮ついた気持ちはよくないな。

 

「よくご存知で……。んでも、実際、いきなり奥義なんて凄そうなものを伝えられて俺に覚えられますかね?」

 

「普通は無理です。あの子の……二代目の技。指先から小さな弾丸を発射して繊維や筋肉の間を縫って心臓の動脈に亀裂を入れる技術を実際に受けて生き残ったロヴロさんは"死神の鎌"と呼称しているらしいですが、系統というか、難易度で言えばアレに匹敵する技術です。原理はアレより単純なんですがね」

 

「……"普通は"って枕詞が付くってことは、俺なら出来る根拠みたいなのがあるってことで良いんですか?」

 

「えぇ。二代目や渚くんなら数年単位で修練すれば出来るかも知れませんが、ことこの技に関してはキミの方に才能の軍配があがります。それに、技に必要な技術も既に持っていますからね」

 

 その奥義って奴の習得に関しては俺の方が二代目や渚より才能で優れてる?殺せんせーの勿体ぶった言い方に理解が追いついていない。その上、習得するのに既に必要な技術を俺が持っていると言うのだから尚更だ。

 

「キミに分かりやすく言うのなら……スキルツリー的にはクラップスタナーの最終形態と言えば良いでしょうか?」

 

「そう言われるとなんとなく分かる気がするかも」

 

 クラップスタナーの最終形態。

 そう言われてみると、確かに理解は出来る。既に俺でも使うことが出来て、気を失わせることのみならず、意識を落ち着かせる派生技のようなものまで使える。それなら習得に必要な技は揃ってはと言われても納得も出来る。

 

 だが、それでも恐ろしい話だ。

 クラップスタナーですら、本来なら人間観察の極地のような技術だと思う。相手の意識の波長を読んで、外部から干渉して意識を飛ばしたり、応用して落ち着かせたり。その時点で一般人からしてみれば既に神業の領域と言えるだろう。

 

 それの更に最終発展型と言うのだから想像が出来ない。

 一体、どんな技になるのだろうか。

 

「乃咲くん。人間が最も隙を見せる瞬間がいつか分かりますか?油断した瞬間とかではなく、無防備になった瞬間でもない。ただ、何に対しても為す術がなく、起こる事象を黙って受け入れるしかない瞬間とはいつだと思いますか?」

 

「寝てる時とかじゃないですか?」

 

「いえ。私が思うに人間が最も隙を見せるのは——」

 

 殺せんせーの解答に俺は戦慄した。

 クラップスタナーと系統が同じ技術ということは、つまり、先生の教えてくれる"奥義"も必ず殺す為の技という意味での必殺技。それなのに先生の解答はこの技自体を否定するような、そんな矛盾した技であり、そんなことが人間に可能なのか、と思わず首を傾げてしまうような事象でもあった。

 

 確かにその瞬間なら、人間はなす術がないだろうと思わず納得し、そして同時にそれが出来るならこの技は要らないじゃんとツッコミを入れたくなるような、そんな技術。

 

 果たしてそれを俺が身に付けるのことが出来るのか?そんな半信半疑の中で俺は先生からの指導を受けるのだった。

 

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「ジーク・ジオン!!」

 

「「「ジーク・ジオン!!」」」

 

「うわっ、ついに何の前触れもなくジオンコールし始めた」

 

「あれでしょ、演劇発表会当日だからいつもの乃咲の暴走」

 

「「「あー」」」

 

 とうとう迎えた演劇発表会当日。茅野やらビッチ先生から厳しい演技指導を受けたが、それを何とか乗り切り、俺たち男子は全力を尽くす為にジオンコールしていたのだが、女子がなんか凄く気になることを言った。

 

「あの、女子の皆さん?いつもの暴走って何?乃咲くんに対するイメージどうなってるのか聞いても良いかな?」

 

「「「死神ファザコン女誑しクソやろう2号」」」

 

「ジオンコール関係ない回答が返ってきたけど!?」

 

 酷すぎないか?いや、死神ファザコンは否定しない。女誑しでクソやろうなのもこの際、認めても良い。

 結果はどうあれ、俺はヒナを誑し、告白を保留し、付き合う前に同衾中し、付き合った翌日にはR18展開になりかけた。これは流石に言い訳が出来ないので素直に認める。

 

 だけど、認めるのと改めて女子ほぼ全員から言われるのは訳が違う。泣いちゃうぞ、俺。

 

「まぁまぁ、乃咲。安心しろ、お前が悪い」

 

「何がだよ!?初代に言われたくないわ!」

 

「ふっ……。ちげぇよ、俺はみんなに夢を与えてるのさ」

 

「おい、誰かこの勘違いナルシストを止めろ。普段そんなキャラじゃない癖に唐突にナルシストになったぞ前原が。つか、俺なんかより、今の発言の方がよっぽどクソ野郎だろ!?」

 

「はいはい、そんなことより早く本校舎行くよ〜。遅れたらまた面倒なことになっちゃうから」

 

「ひ、ヒナっ、離せっ、俺の話を聞けぇぇぇぇ!!」

 

 俺の後ろからニョキっと現れたヒナに首根っこを掴まれて、何処からそんな力が出ているのか、そのままズルズルと引き摺られて、教室から無理やり連れ出されてしまう、

 

「すっげぇ。倉橋の奴も乃咲の扱いをかなり分かってきたよなぁ。動きに躊躇いと容赦がねぇ」

 

「だが、確かに話が長くなる前に中断させるのが一番だ」

 

「あいつ、悪い奴じゃねぇんだけど一回反応すると話の切りどころを見失うタイプだもんなぁ。LINEとかで何処で会話を終わらせたら良いのか、終わってるのか分からなくて相手からのメッセが送られてこなくなるまで会話してそう」

 

「聞こえてるからなぁ〜!?的確に気にしてること言いやがって!!泣くぞ!?余は泣いてしまうぞ!?それはもうワンワンと!!お前らが軽く引くくらい泣いちゃうからなぁ〜!!!」

 

「圭ちゃん、うるさい」

 

「ひぇっ……ごめんなしゃい」

 

「…………俺たちも行くか」

 

「あぁ。正直、倉橋が怖い………」

 

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「さぁーて。次はE組か」

 

「ま、メシでも食いながら鼻で笑って見ようぜ」

 

「演目は……桃太郎?」

 

「これまた意外なチョイスだな。でも、今年のE組は色々とすげぇし、普通に面白いの見えるかもよ」

 

「いやいや、あの短い練習期間でそんな完成度の高い奴できる訳ねぇだろ。いくらE組でも流石にな」

 

 そんな言葉が体育館を占める中で劇は静かに始まった。消える照明と開くステージ。スポットライトの音だけが体育館に響き渡ると同時。静かで淡々とした声がスピーカーから響く。

   

『むかし、むかし。あるところに生活の苦しいおじいさんとおばあさんが一つのボロ小屋に住んでいました』

 

『水と茶碗1膳分しかない食事。そんな食卓の横に普段はない異物がありました。そう。桃です』

 

 照らされたステージには3つの影があった。

 2人の男女の影と一つの桃。明かりはわずかに桃に当てられたスポットライトの者が強く、その演出が物語の中心は、このうすらでかい桃であることを物語っていた。

 

「電波エコーで測定しました。この中で胎児が育っているようなの……」

 

 活気も生力もない声がそんなことを語る。2人の視線は桃に向き、そして、男の方は観客席へ狂気の笑みを向けた。

 

『おじいさんの目の色が変わりました。瞬時にこの桃の価値に気が付いたからです。切り分けて食卓に出せよ、などと内心毒づいていた思考は何処へやら。声高らかに笑います』

 

「こりゃすげぇ!!とんでもない珍品だ!!マスコミが飛びつかないはずがねぇ。生まれるまでは見物料で、生まれた後は見せ物にすりゃあ、桃から生まれた人間ってことで人買いが来んだろ、売り払えば俺は一生、大金持ちだぁ!!!」

 

 狂喜乱舞するおじいさん。その狂った思想に向けておばあさんから一枚の紙がそっと差し出される。

 

『離婚届です』

 

『おばあさんは迷っていました。ですが、子供の人権を無視するおじいさんの非道な言葉や"俺たち"ではなく、"俺"というまるでおばあさんのことを勘定に入れていない発言。今、別れる決心が着いたのです』

 

「ほ、本気なのか……」

 

「………見ればわかるでしょう」

 

『言葉少なに意思を見せるおばあさん。30年の結婚生活で2人の間に生まれた溝はまるで洗濯に行った川の様。2人の空間の息苦しさはまるで山の芝を燃やして出たCO2の様。その空気におじいさんはもう引き返せないことを悟りました』

 

「……この桃は俺のもんだ」

 

『この期に及んで飛び出るのはそんな言葉。桃とそこに宿った命を金としか見ておらず、執着し、縋り付くのは30年を共にしたおばあさんではなく、金になりそうな桃でした』

 

「夫婦の共有財産だ。どう別けるかは、世帯主の俺が決める!」

 

『狂気に満ちた瞳のおじいさんに訣別の意を込めて、おばあさんは家の外に待機させていた2人を呼び寄せた』

 

「ん、な、なんじゃ、お前らは!!」

 

『弁護士です』

 

「奥様の代理人を務めます。以後の話は我々を通すようお願いします。これは警告です。無視されるのであれば法的措置に訴える用意がありますのでどうか冷静に」

 

「桃の件ですが……婚姻関係はとうの昔に破綻しており、財産分与の基準日はもう過ぎたと考えられます。モラハラの慰謝料を含むと桃一つでは到底たりませんよ」

 

 もくもくとステージに流し込まれる煙と川の演出でサァーっと流されてくる小さなビーズ。2人はその川に分断されていた。

 川によって離れ離れになった夫婦といえば、織姫と彦星の話が有名だろう。だが、この2人には彼らのような愛などない。

 

『おばあさんへの30年に渡る暴言や暴力。生活費もずいぶん前から入れておらず、密かにおばあさんがつけていた日記やボイスレコーダーによる記録。証拠は全て揃っており、おじいさんに裁判で勝ち目はありません』

 

「ちっ……。だが結局、最後にものを言うのは暴力だ!!やろうども、やっちまえ!!」

 

「イーッ!」

 

「イーッ!」

 

「はーい、こんなところで何をしてるのかなぁ。ちょっと署まで来てもらえる?最近は物騒だからねぇ」

 

『暴力に頼り、雇った村のチンピラたちは警察に連れて行かれました。もはや、この段階でおじいさんになす術などなく、この場は渋々大人しく引き下がることにしたおじいさんを尻目に、おばあさんは桃を新居に持って帰りました』

 

「あぁ、やっと解放されたんですね」

 

『一言と共に溢れた笑みは数年ぶりのもの。まるで命が洗濯されたような晴れやかな気持ち。おばあさんの新しい人生は桃と共に今、始まったのです』

 

 スポットライトが消え、少しの沈黙のあとなんの脈絡もなく再び点灯しステージの左側を照らす。

 そこには、動物の格好をした男3人がぐちゃぐちゃと汚らしく音を立てながら何かを咀嚼する姿があった。

 

『犬、サル、キジです。どうやら全てを失ったおじいさんは動物たちに人を襲わせる訓練をしているようです。畜生共は団子(エサ)を貰って無邪気に従っているだけです。邪悪なのは財産欲に溺れたおじいさんだけ』

 

「マンマァ〜!見てみて、先生に褒められたよ〜!」

 

『鬼ヶ島とは人の心に宿るもの。おじいさんとおばあさんが離婚して7年が経った頃。おばあさんの心に眠っていた鬼がその顔をのっそりと上げ始めました。桃から生まれた子供には太郎と名付け、可能な限り愛を注いだつもりでした』

 

 左側のスポットライトが消えると、今度は右側が照らされる。

 そこにいたのは銀髪の眩しい短パン小僧のような装いの少年とおばあさんの2人だけだった。

 

 太郎の手渡す恐らくはテストの結果が書かれているであろうプリントをおばあさんは受け取ると一瞥し、一言、言い放つ。

 

「コラッ、一位じゃないじゃないっ!」

 

「ふえっ……」

 

『桃から生まれた子供は確かに可愛かった。しかし、子供を育てるために必要な環境は、30年に渡り抑圧されていたおばあさんにとっては耐え難いものでした。周りには自分よりも歳若く、お洒落で綺麗な母親ばかり。自分だってあのくらいの歳の時は同じようにしたかった。そんな周囲と自分を比較して悲観する嫉妬心は、いつしか子供に向きました』

 

「浅野さんのところの子は今回も満点でしょ!!なんであなたは満点じゃないの!!あとたった2点だったのに!!」

 

『自分より綺麗でお洒落で、そして優しそうな旦那さんがいる周りの家庭。自分には得られなかったもの。そして、今から手を伸ばしても決して届きはしないもの。周りにとっても熟年離婚した子連れのおばあさんはかなり目立つ存在でした』

 

『そんな好奇の視線は好きになれず、けれど自分が見返そうとしても周りの家庭に勝てる要素は見つけることができない。そんなおばあさんにとって、唯一周りに勝てる、誇れるものは子供の成績だけでした。太郎は勤勉で優秀な子でしたが、もはや、その優秀さ故に高望みされ、おばあさんの自尊心を満たす存在としてしか扱われなくなっていたのです』

 

『子供の成績が気に食わなければヒステリックになり、頬を打つその姿はかつてあれほど嫌悪したおじいさんと似ていること。それにおばあさんが気付く日は来るのでしょうか』

 

「なんで……?僕は……僕だって頑張ったのに……」

 

『幼い太郎の心に芽生えるのは奇しくもかつてのおばあさんと同じ抑圧の心。人知れず育ち、太郎の心を内側から食い破る負の感情。自らを醜い魔物に変えてしまうそれを律しきれなくなった時、人は何よりも恐ろしい鬼になるのでしょう』

 

「頑張ったのに……なんで?一位にしか意味ないの?一位じゃなきゃ褒めて貰えないの?認めて貰えないの……?じゃあ、ママ(この人)は僕を叩けるだけの何を頑張ったの?この人に何が出来るの?」

 

『心はゴム。押さえつけるとその分反発するもの。太郎もいつか抑制を失った時、鬼になってしまうのでしょうか』

 

「…………全部、全部……大っ嫌いだ」

 

 太郎の残したそんなセリフと共にスポットライトは消え、カーテンが閉まって行く。終幕を意味するブザーが響く。

 静寂が支配する体育館。カーテンの奥でE組たちが使った小道具関係の片付けをする音が聞こえるようになった頃、観客たちはポツリポツリと体調不良を訴え始めるのであった。

 

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「コラッ、一位じゃないじゃない……コラッ、一位じゃないじゃない……ふふふ……」

 

「母ちゃんが俺を叩いた、俺を叩いたんだよぉぉぉぉ!!」

 

「お、おい。神崎が珍しく闇堕ちしてるぞ。乃咲もなんか潮みたいなこと言って発狂してるし。つか、うしおととらも読んでるんだな、アイツ。ほんと色々と手広い奴」

 

 主に俺と神崎さんの纏う空気のせいで物凄くどんよりしてる教室の中、狭間さんが得意気に、そして不敵に言う。

 

「言葉はね、爪痕残してナンボなのよ」

 

「身内に爪痕残してどーすんだよ!!?」

 

 すかさず寺坂のツッコミが入る。

 そんな中、ヒナがおずおずと質問した。

 

「あの、綺羅々ちゃん?圭ちゃんっておじいさんの声の役だよね?なんで最後に太郎役になっちゃったの?」

 

「思わず筆が乗ってしまって。いざ書き上がったら『あ、これは乃咲に言わせるしかないな』って出来だったのよ」

 

「あはは……母さん、打たないでよ……。俺だって頑張ったんだ……1位じゃないのはそんなに悪いことかい、俺ってそんなに悪い子だったのかな……あはは………。はぁぁぁぁ………」

 

「おい、なんかみたことない落ち込み方してんぞ」

 

「狭間の奴、乃咲になんか恨みでもあんのか」

 

 いや、もちろんこの展開自体は知ってたさ。何度も練習してるんだから。でもさ?流石に演技とは言えショックはあるよな。

 

「それじゃあ神崎は?」

 

「乃咲と倉橋が声を当ててるのが楽しそうに見えたのか、声を出す役とかもちょっとやってみたくなったかも、なんて言ってるのが聞こえたから。ちなみに神崎さんのセリフは乃咲監修ね」

 

「え、じゃあなに?乃咲(アイツ)、自分で考えたセリフを言われてショック受けてるってこと?」

 

「バカじゃないの?」

 

「手の込んだ自傷行為だな、おい」

 

「圭ちゃん、圭ちゃん」

 

「んぬ?」

 

「バカじゃないの?」

 

「バカじゃないもん……学年主席だもん……」

 

「ほんと、この学校の学年主席って狂ってる奴しかいないのか。乃咲といい浅野といい」

 

「狂ってるからこの学校で主席になれるんじゃない?」

 

「ねぇ、俺も今は一応主席なんだけど……俺も狂ってる扱い?」

 

「カルマは狂ってるのとは別ベクトルでやべー奴だよな」

 

「…………俺もイロモノ枠だったんだ……」

 

 何やら落ち込んでいるカルマ。

 俺は親友として奴の肩をポンと叩き、励ます。

 

「ようこそ、こちら側へ」

 

「くっそ……!!」

 

 俺の言葉に何故かますます沈んだカルマを半笑いで眺めながら俺は気分を切り替えてグッと背伸びした。

 まぁ、狭間さんには色々とメンタルを抉られたが、別に不快だったわけでも嫌だった訳でもない。普通に楽しかった。

 

「乃咲が神崎さんをママって呼んでた……」

 

「茅野さん?それは演技だからね?」

 

「でも、役者って演技を続けてると役から抜け出せないことも珍しくないし。結構迫真の演技だったし……」

 

 何やら茅野がぶつぶつと言い始めた。

 それに共鳴するようにヒナも口を開く。

 

「そう言えば圭ちゃんって前に男が女に求めるのは母性というか、理想の女性は母親なんじゃないかとか言ってたっけ。お母さんが恋しいのは分かるけど、もしかして………!!?」

 

 ヒナさん?もしかして?じゃないけど?

 え、なに?ヒナァは俺の母になってくれたかも知れない女性だ!とか本当にやる未来が来るのか、これ……!?

 

「乃咲、俺のことをパパと呼んでみてくれないか」

 

「杉野?いっぺん死ぬか?」

 

「いいじゃんか別に!!今お前にパパ呼びされれば夫婦気分を味わえるだろう!?減るもんじゃないし、一回だけ、先っちょだけでいいから!!」

 

「パパの先っちょって何!?あれか、パって呼べばいいのか!?本当に落ち着け杉野、それに今の神崎さん闇堕ちしてるけどいいのか!?」

 

「俺は一向に構わん!」

 

「ふふふ……一位じゃないじゃない……ふふふふ……」

 

「神崎さんが堕ちるなら、俺も一緒に堕ちてやる!!」

 

「かっこいい言い方してるけど毒親が増えるだけじゃねぇか!!一緒に堕ちねぇで止めてやれよ!!?」

 

 神崎さんは闇堕ち、杉野は暴走。なんとも珍しい状況だ。

 つか、神崎さんは引きずりすぎだろ、何があった。

 

「乃咲くん」

 

「あ、はい」

 

「コラッ、1位じゃないじゃない」

 

 やべぇ、神崎さんのことがわからねぇ。

 つか、このまま放置してると神崎さんが素面に戻った時にすっごい自己嫌悪しちゃいそうだし、一旦意識飛ばすか?

 

「みんなに相談」

 

「はいよ?」

 

「どったのー?」

 

「神崎さん気絶させていいかな」

 

「いや、流石に……。女子だし、普段はすごい常識人だし」

 

「うーん……。でもこのままだと神崎さん自身が自分の振る舞いを思い出して後悔しそうじゃない?それなら今のうちに意識を飛ばしてあげた方が親切かも………」

 

「つーか、どんだけ威力あったんだ。毒親のセリフ」

 

 よっぽど言ったセリフがショックだったらしい。

 まぁ、これに関しては俺にも責任がある。狭間さんから過去言われて一番心を抉られた言葉は?とかいう質問を受けて馬鹿正直に答えてしまった俺が悪い。

 俺の場合は親じゃなくて教師に言われたのだが。まさか毒親のセリフに変えて神崎さんに傷を残すとは。やるな、狭間さん。

 

「……って、そうじゃねぇ」

 

 やるな、じゃない。やってくれたな。の方が正しい。

 あれ、でも元を返せばこのセリフで心を抉られなければ狭間さんに教えることもなかったんだし、俺じゃなくてこれを言ってくれやがったあのクソ野郎が悪いんじゃね?

 

「ふふふ……まさか私が言う側になるなんて……」

 

 けど、実際に被害を出したのは俺なわけで。まぁ、なんだ。ここは俺が動いて解決するべきか。

 俺は神崎さんの波長を眺めて、波がもっとも落ち着くタイミングを見計らい、はっきりとした声で語りかける。

 

「————神崎さん」

 

「は、はいっ!?」

 

 声を掛けると彼女は一瞬、ビクリと肩を震わせるが、それでどうやら正気を取り戻したようで、波長は安定する。

 これで目的は達成したが、これではいささかアフターケアというには弱いので自分の中から言葉を引っ張り出す。

 

「急に何言ってんのって思うかもだけどさ。キミの家庭がどんなものなのかは分からない。でも、神崎さんは実際に子供ができた時、そんな言葉を言うような人にはならないよ。自分が言われて嫌だったことも、自分が頑張った結果だったことも知ってるんだから。決して神崎さんの親を悪くいう訳じゃないけど、キミは毒親とは程遠い、良いお母さんになれると思う」

 

「の、乃咲くん………そう、思う?」

 

「あぁ。俺はそう思う————と、杉野が言っている」

 

「ここで俺に振るのかよ!!!?」

 

 良い感じの言葉を紡ぎ、杉野にキラーパス。

 神崎さんからの視線が向くとてんやわんやする杉野だが、それでも言葉を必死に探して繋げて、なんとか会話を成立させながら神崎さんへ励ましの言葉をぶつけ続けていた。

 

 殺せんせーから教わった死神の気配遮断技術を使って俺は杉野と神崎さんからひっそりと離れる。

 

 杉野は俺のことを見失ってしまったようで、最終的に俺からのフォローを諦めたのか、外野のことは視界に入らなくなっていた。周りも周りで2人をそっとしておくみたいに散り始める。

 

「ヌルフフフ、少し振り方が雑だったのでは?」

 

「まぁ、こんなもんでいいでしょ。もともと弱る必要なんてない棚ぼた的な展開だしな。少し雑なくらいがちょうど良い。それに案外、弱ってる時に優しくされるとコロッと堕ちるもんだしな。あとは見守るだけだ」

 

「経験者は語るって奴ですね?」

 

「経験するような状況を作ったのは誰ですかねぇ」

 

「にゅっ……!鋭い返しをするようになりましたね」

 

「まぁ、なりたてとは言え、師匠相手ですからね。言いたいことを言えない遠慮感満載の師弟関係がお望みならそうしますが?」

 

「いいえ。そのままでいてください」

 

 2人でそろりとフェードアウトしながら教室を出る。

 流石死神由来の技術なだけあって、俺たちがいなくなったことに気付いてる者はいないようで、背後から声が掛かることもなく、そのまま裏庭まで出て来れた。

 

「んで?どうでした、劇の主役をやった感想は」

 

「新鮮でしたねぇ〜。狭間さんが先生を主役にしてわざわざ脚本を書いてくれたことが更に嬉しさを引き立ててくれます」

 

 一言も喋ってなかったけどな、と苦笑しながら話を聞く。

 

「そんなに良いもんですかね。確かに楽しかったけど、小学校の学芸会とか俺はあんまり楽しくない方だったから」

 

「ふむ。それは少し勿体無いですねぇ。感性は人それぞれなので、悪いとは言いませんが、それでも1年に1回。小学校の6年間で6回、80年の人生で6回しかない経験ですから」

 

「似たようなセリフはあっちこっちで聞きますよね。人生で夏は80回しか訪れないとか、同じ夏は来ないとか」

 

「案外、何度も同じ風景が来ることの方が珍しいですからねぇ。なにがきっかけで、ひょんなことがきっかけで日常が崩れるかは分からないものです。それは、君たちなら分かるでしょう?」

 

「実感してますからね。同じ夏はこない。そも、また夏が来るか分かるないから」

 

「ヌルフフフ、先生が地球を破壊してしまいますからねぇ」

 

「…………アンタの意思じゃなくて、寿命で死ぬ時に巻き込むかも知れないってだけだろ。俺の前でまでそんな自分の意思で壊すみたいなこと言わなくても良いと思うけど」

 

「……いえ。それでも結果的にそうなるので。先生は元殺し屋です。自分を見てもらう嬉しさ、結果が全てではないのだと。私は……あぐりから教えて貰いました。それでもね、地球の滅亡は70億の命が失われること。どんな過程があれど、それは結果で判断されるべきことです。どんな個人で大義名分があってもテロリストはテロリストですから」

 

 困った。確かに殺せんせーの言うことも一理ある。

 

 というか、意見とはしてはそれが正しい。過程を見るというのはあくまで個人の主義に過ぎない。大体は結果を見る。

 世界中の人間が過程を重視するのなら、世界は今頃偉人だらけだろう。もちろん、何かに挑戦して結果的に失敗した人も過程を評価されることがある。だが、その過程が評価されるのは、失敗するまでの過程で新しい発見や別分野では成功と言えるだけの何かを見出すことが出来た人だけだ。

 

 フェルマーの最終定理とか良い例だろう。300年以上、いろんな学者が挑戦し続けてアンドリュー・ワイルズが証明した数学の難問。これに挑戦した数学者はきっと数え切れないほどいて、1人を除いてその全員が証明できなかった。

 その数多い挫折した者や失敗した者の中で過程が実際に評価された者は数えられる程度しかいない。そして、評価された人たちに共通してるのは、定理の証明という意味では失敗だったが、解き方を解明する上では大きな進歩を齎したという点だ。

 

 つまり、俺たちは殺せんせーという教師が優れた人物であることを知っている。だが、世界的に重要なのは彼が世界を滅ぼす可能性のある存在という点だ。

 極端な例えだが、『これから核を撃とうとしてる人がいます。でも、普段は温厚な良い人なんです』と言われたところで普通は『それがなんだ?核を撃とうとしてることに変わりないだろう?』と一蹴されるのと同じだ。

 

 そして、それは俺たちも同じ。地球を救う暗殺者として国に支援されているとしても殺さなかったら『でも、殺さなかったじゃん』で終わってしまうのだ。

 

 個人にとって大切なのは過程。

 民衆にとって大切なのは結果。

 

 難しい話だ。頑張ったけど失敗しましたって、確かに失敗したのは結果だ。でも、頑張ったっての事実だ。

 殺せんせーが教育者として、人格者として優れていると世界に証明するには、地球を破壊する可能性のある超生物を俺たちの手で殺さなくてはならない。

 そうでなければ、殺せんせーは地球を壊そうとした化け物で、俺たちはその化け物に洗脳された哀れな子供としか見られなくなってしまうから。

 

 だから、殺せんせーは地球を破壊する可能性のある超生物だったという結果はそのままに、俺たちにとって最高の教師だったという過程を認めさせるには、暗殺が成功することはまず前提として、その上で俺たちが殺さなくてはならない。

 

 この前、俺は殺すことが恩返しなんだと言った。

 俺たちはこの一年でこれだけ成長したんだと見せる最期の機会が暗殺で、それを成功させることが成長の証明であり、殺せんせーから卒業するということなんだと。

 

 その考えに変わりはない。だが、俺たちが暗殺に成功し、成長したことを証明し、その過程を認めさせる。殺せんせーはただの危ない生き物ではなく、人であり、俺たちにとっての恩師なんだと。世間というか世論から名誉とか尊厳を守る上でも暗殺を成功させることは恩返しになるはずだ。

 

 まぁ、もちろんのこと、もう暴走するつもりはない。

 今はみんなの答えが出るのを待つだけだ。

 

「つか、やっぱり雪村先生と知り合いなんですね」

 

「……えぇ。見られることの大切さと嬉しさを彼女から教わりました。先生にとって……雪村先生は"先生"としての師匠なんです。私は、彼女からキミたちを託されてここに来ました」

 

「…………………まぁ、何かしらの接点はあると思ってたけど、そういう繋がりだったんですね、やっぱり。前、学園祭の時に言ってた先生の先生としての師匠の人物像は雪村先生にそっくりだと思ってたから」

 

「キミは人の言葉をよく覚えていますね。色々と1人で抱え込んでしまうのは良いところとは言い辛い部分ですが、乃咲くんのそういう部分は美徳です。しっかり話してる相手と話題に興味を持っているのだと伝わるのは安心する者です。今後もしっかり続けてください」

 

「………まぁ、はい。がんばります」

 

 殺せんせーが褒めてくれた。

 でも、俺はそんなに真面目に人の話を聞いてるわけではない。いや、聞けていた訳ではないというべきか。

 例えば雪村先生の言葉。あれだけ真剣に俺のことを心配してくれていたのに、彼女の言葉をしっかり思い出せるかと言われると答えはNOだ。いつだったかの茅野との会話で実は俺たちと同い年の妹がいるとかいう話を思い出したが、その名前までは思い出せない。絶対に名前は出てたと思うんだけど。

 

「……………聞かないのですか?」

 

「なにを?」

 

「キミなら覚えているでしょう?その人は私が浅慮だったばかりに亡くなってしまったと。それはつまり……」

 

「雪村先生は亡くなっている。それ自体は実は結構前から知ってたんです」

 

「なんですって……?」

 

「実は………知り合いに、雪村先生の親戚がいまして。たまたま知り合って、お墓の位置まで教えてもらいましたから」

 

「っ、その遺族さんとお会いできませんか?」

 

「それは本人に聞かないと分かりません。本人に聞いておくので、雪村先生の死については俺よりもまずはアイツに話してやってください」

 

「………ありがとうございます」

 

 会話の流れから割と思いもよらない展開になってきたが、それでもいい方向には進んでいるんだろうか。

 殺せんせーから雪村先生の死について聞いて、茅野が少しでも楽になれればいいんだけどな。

 

 でも、それはそれとして一つ、聞かないと。

 

「殺せんせー」

 

「はい」

 

「詳細については俺よりアイツに先に話して欲しいけど、念の為に聞いておきます。アンタが先生を殺したわけじゃないんですよね。殺意や悪意、害悪はなかったんですよね」

 

「……手を下した訳ではありません。しかし、先生が殺したも同然です。私は彼女を救えませんでした。もっと周りに興味を持っていれば、"見て"いれば、助ける為の技術くらい習得できたはずなのに。だから、私が殺したも同然なんです」

 

「浅慮ってそういうことですか………」

 

 確かにそれは悔やみきれないだろう。

 自分がもっとこうしていれば助けられたかもしれない。そんな後悔を自分を見てくれた人に対して抱くのは。

 

「意図的に殺したのでないなら、今の俺から言うことは特にありません。アイツには……話してみます。それまで待ってください。俺に話すのはその後で。前に言った通り、みんなと一緒に聞くのでもいいので」

 

「ありがとうございます、乃咲くん」

 

 殺せんせーから礼を受けて俺は教室に戻る。

 さて、茅野になんて説明したもんかな。

 

 雪村先生の遺族については心配だ。俺たちと同い年の妹という奴も他人事ではないだろう。だが、名前も思い出せない相手より、今は近くにいる茅野の方がよっぽど心配だ。

 

 彼女の抱えるものが少しでも軽くなればいいけど。

 

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 乃咲と殺せんせーがいないことに気がついた。

 最近、2人で妙にコソコソしてることが多い。倉橋さん曰く、乃咲が殺せんせーから教わりたいことがあるとかでこっそり特訓と訓練をしてるんだとか。

 

 正直、複雑な気持ちではある。

 たぶん、私は乃咲が好き。でも、乃咲はいつの間にか倉橋さんとくっ付いていた。本音を言えばかなり消化不良だ。

 羨ましいとは思う。私だって、と思わない訳じゃない。でも、倉橋さんがずっと前からアプローチしてたのを知ってるからズルいとか言えない。私からしてみれば、ズルいのは乃咲だ。

 

 私が雪村あぐりの妹だとは気付いてない。そりゃあ、名前は偽名だし、周りからも姉妹で似ていると言われたことはない。私と一つも接点がなかった奴に気付ける筈がない。唯一共通してた黒髪も変装のために染めてしまったから。

 なのに、乃咲は私とお姉ちゃんが似てると言った。顔でもなく、髪でもなく、笑ってる雰囲気がそっくりだと。

 

 誰にも言われたことがない、お姉ちゃんと似てるという言葉。それを外見じゃなくて、笑い方で見出されて嬉しかった。

 だから、つい寄りかかってしまった。お姉ちゃんを昔は嫌ってたと聞いた時は正直に言えば複雑な気持ちだったけど、それでも嫌ってるなりに昔からしっかり見てて、今は感謝してるって言ってくれた時は、お姉ちゃんの気持ちが伝わったような気がして本当に安心した。

 

 この1年で雪村あかりと呼ばれたことはない。乃咲は雪村あかりを知らない。雪村先生に妹がいるという情報止まり。

 それでも、乃咲が茅野カエデの顔しか見せていない私に雪村あかりを"見て"くれた気がして本当に嬉しかったのだと思う。

 

 だから気になった。徐々に気になり出した。

 最初は良い印象はあんまりなかったのに、この一年で乃咲は確かに成長していて、良いところをたくさん見つけられるようになった。困ったところはあるし、年頃の男子全開でめんどくさいところもあるけど、それ以上に良いと思える部分がある。女の恋愛は加点方式とはよく言ったものだと感心したっけ。

 

 だから、乃咲はズルい。困ったところ以上に良いなと思える部分を見つけて、目が離せなくなって来た頃に、倉橋さんとくっ付いちゃうんだから。

 

 まぁ、それでも今の私は恋愛とかに真剣に気を振れるほどの余裕はない。触手がずっと疼いてる。頭が痛くて、体が熱くて、それなのに首は寒くて。残ってる時間があんまりないこともなんとなくわかる。だから、倉橋さんと付き合いだした時はズルいと思う以上に安心した。『諦める理由ができた』って。

 

 でもやっぱり、それでスパッと諦めることもできない。

 まして、好きになった人とお姉ちゃんの仇が一緒に行動しているんだから気にならないわけがない。

 

 殺せんせーはお姉ちゃんの仇。それが去年の3月12日に見た私の全て。だから、私は触手を使って復讐がしたい。

 先生の人となりはなんとなく分かってる。本気で私たち生徒のことを思ってくれてる。でも、あの日の光景の所為でそれが演技だとしか思えない。そう思い込みたくて仕方ない。

 

「……手を下した訳ではありません。しかし、先生が殺したも同然です。私は彼女を救えませんでした。もっと周りに興味を持っていれば、"見て"いれば、助ける為の技術くらい習得できたはずなのに。だから、私が殺したも同然なんです」

 

 だから、2人を見つけて盗み聞きしていた会話で頭が真っ白になった。殺せんせーに殺意や悪意もなかったこと。

 それなら、私のこの一年はなんだったの?なんで?なんでそんなに色んな力があるのにお姉ちゃんを助けてくれなかったの?なんで?助ける技術を習得しなかったってなんで?

 

 乃咲が私との会話のあともお姉ちゃんのことを大事に思ってくれてるのは知ってたし、嬉しかった。その上で死んだ理由を探っていたことも複雑な気持ちだけど、一言で言えば嬉しかった。しっかり興味を持ってくれてるんだと、お姉ちゃんの死に納得してないのが私だけじゃないんだって思えたから。

 

 でも、乃咲は本当は前から真相にかなり近いところにいたらしい。だって学園祭の時からある程度察してるって言ってたんだから。たった今、この耳で聞いたんだから。

 

 なんで?それならなんでお姉ちゃんの仇を取ってくれないの?そんなに強いのに、死神に立ち向かえるくらい勇気もあるのに、殺そうと思えばいつでも殺せるのに。なんで?なんで?なんで!?どうしてこの前、終わらせてくれなかったの?

 

 分かってる。乃咲がそれどころじゃなかったのも、すごく苦しんでたのも知ってる。今だって自分が知りたいのを抑えてまずは私に話すようにって殺せんせーに伝えてくれてる。私を尊重してくれてる。それは分かってるのに、頭の中がグチャグチャして止まらない。恨み節が溢れてくる。

 

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 頭が痛い頭が痛い頭が痛い頭が痛い。

 

 暴れ出しそうになる触手を抑えるのに精一杯。

 もう、私には時間がない。これ以上、我慢はできない。だから、そろそろ終わらせよう。近いうちに乃咲が殺せんせーとお姉ちゃんの話を持って来てくれるはず。その場を利用しよう。

 

 殺せんせーが死んでくれれば、この気持ち悪い感触から抜け出せる筈だから。きっと全部終わる筈だから。

 

「うっ……うぅ………!」

 

「のざ………たす………け……」

 

 それとも、終わらせてくれるかな。

 

 




あとがき

はい、ジークアクスロスに加えて5D'Sロスです。
なんなんでしょうね、あのカードゲームのアニメでしょ?ってバカにできないクソ熱い展開。YouTubeで見て、U-NEXTで全話マラソンしてしまった……。

それはそうと、茅野がいよいよって感じですね。
どうなってしまうんやろ……。
そして殺せんせーから伝える奥義とは……?

ご愛読ありがとうございます!
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