暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!
10年………。えぇ…………?


165話 因縁の時間

 

 銃声が響き、反射的に顔を上げると俺の足元から僅か数センチ先に地面を抉った跡が生々しく刻まれていた。

 この分だと第二射もあるかもしれない。そう判断してゾーンに入り、可能な限り早く周囲の状況の把握に努めた。殺せんせーもいるから仲間に怪我はないだろう。聞こえた銃声も一つだけ。同時に射撃でもしないかぎり、そしてよっぽどの連携が取れている訳でもなければ、撃たれたのは俺の足元だけのはず。

 

「…………シロっ!!」

 

 顔を上げるまでもなく、そんな声が鼓膜を叩いた。

 イトナの驚いたような、それでいて咎め、責めるような声。

 

 彼の視線の先を追うとそこには2つの影があった。片方は色々と因縁がある所為で忘れられなくなってしまったいけ好かない白装束の胡散臭い男。

 だが、もう1人は初見だ。発砲したのはシロではなかった。シロとは対照的に全身真っ黒。しかも奇妙なことに上着に備え付けられているフードを被り、前のファスナーはフードまで繋がっていて、顔を隠す様に顔部分のファスナーも閉じている。

 

 明らかにモデルガンでもエアガンでもない。本物のライフルを抱えた、全身黒ずくめの着こなしのおかしい不審者。

 

 紛うことなき通報案件だが、もう撃つつもりはないのか、少なくとも今のところは銃口をこちらに向けていない。それを示すみたいに抱えていたライフルをマガジンを抜き、手動で排莢し、それを地面に捨てた。

 

「なぜ当てなかった?」

 

「……………………」

 

「まぁ、いい」

 

 シロが黒ずくめの男を叱責するが、反応がないのを見て鼻を鳴らし、吐き捨てる様に妥協して俺らを見た。

 

「久しぶりだねぇ、E組の諸君。観察はしてたけど、元気だったかな?イトナ、圭一、そしてあかり」

 

「馴々しく、名前で呼ばないで……っ」

 

「そんな冷たいことを言うなよ、たった1人の兄妹じゃないか」

 

「誰がアンタなんかとっ……!お姉ちゃんのこと、都合のいい奴隷か何かとしか見てなかったくせにっ!!」

 

 雪村が体に残った力を振り絞る様に、けれど弱々しく、そして何より忌々しそうに睨みつけながら言った。

 けれど、その言葉というか、2人のやり取りに違和感があった。たった1人の兄弟?お姉ちゃんのこと、奴隷としてしか見ていなかった?なんだ、いきなり何の話だ!?

 

「そう言うなよ。義理とは言え、家族だろう?」

 

「ふざけないでっ!!結局、お姉ちゃんと結婚してない癖に!」

 

「結婚………ッッッ!!!!?」

 

 思わず素で驚いてしまった。

 え、結婚?雪村先生とシロもとい、柳沢が!?

 

「ど、どう言うことだ!!?」

 

 混乱していたのは俺だけではなかった。

 岡島も驚愕の声をあげ、それを見て愉快そうにシロは笑い声を上げながら、予想斜め上の真実を伝えた。

 

「私とあぐりは婚約していたんだ。驚いただろう?」

 

「こ、婚約っ!?」

 

 誰の口から出たのか。しかし、その思わず出た単語は少なくとも俺たちの驚きをこれ以上ないほどに代弁していた。

 

 しかし、それと同時に納得した。

 

 なんで学校の先生をやってた雪村先生が街外れの研究所の爆発事故なんかに巻き込まれたのか、そこの非検体というか、モルモット扱いされていたであろう、世界最高の殺し屋である、元死神の殺せんせーと面識があったのか。

 

 おそらく、婚約者だからと言う理由で手伝わせていたのか。

 

「しかし、姉妹揃って使えないな。姉は鈍臭く、モルモットに尻尾を振った。妹は命を賭けた復讐を気取って呆気なく失敗。今日まで温存していた触手まで使っていたのに。もう少し良いところを見られると思ったんだがね」

 

「——————————あ?」

 

 なんだ、コイツ?

 

 姉妹揃って使えない?雪村先生を奴隷の様に使っておいて、ただ1人の兄妹だと言っておきながら雪村の触手に気付いていながら、何もケアしてこなかった癖に?

 

「……………」

 

 いや、駄目だ。落ち着け。いまここでブチギレて何になる?俺の取り柄は一歩引いた視点で考えられることのはずだ。

 だから色んなことを言い当てることが出来た。察することができた。透徹した思考で局面を見ることが出来たから。

 

 それに、俺も人のこと言えた義理ではないだろう。

 色んなことに気付いていながら、みんなに言えているのは一握り。ある意味でコイツと俺は同じだ。知っていながら何もしていないと言う点において、俺は柳沢と何も変わらない。

 

————でも、それがキレない理由にはならないよな。

 

 コイツよりはマシだ。触手を放置すればどうなるかを知っておきながら、雪村が姉を失ったと知っていながら、イトナのことを唆してほっぽり出すような奴よりはマシだ。

 

 自分勝手、自己正当化大いに結構。

 このクソ野郎は間違いなく、俺の敵だ。

 

 そんな敵愾心というか、敵対心が表に出てしまったのだろう。奴の傍にいた大男が動いた。

 革ジャンみたいなお世辞にも動きやす様には見えない格好とは思えない程に俊敏な動きで俺に迫る。

 

「殺せんせーっ、雪村頼む!」

 

「っ、乃咲くんいけません!!」

 

 彼女を先生に向かって突き飛ばし、地面を蹴り、立ち上がる勢いで固めた拳を正面に向かって放つ。

 

「………」

 

 だが、避けられた。大男は軽く身を捻り、伸びた俺の右手の肘に向かって外側から流れるような動作で手を添えた。

 

「っ!!?」

 

 こいつ、只者じゃない。伸び切った肘に曲がらない方から衝撃を加えられたらどうなるか考えるまでもない。このままでは関節を破壊されるだろう。咄嗟にゾーンに入り肘を畳んで添えられた手の指先に向かって肘鉄を繰り出そうと試みた。

 

「…………」

 

 けれど、そこで予想外が起きた。

  

 ゾーンに入って繰り出された肘鉄。指先に向かって放たれたそれは骨を砕き、関節を破壊する嫌な感覚と共に奴の手を破壊するはずだったのに、奴の手が俺と同等の速度で動いた(・・・・・・・・・・・)

 

 動いた手は、そのまま俺の二の腕まで伸びて今度はしっかりと掴まれる。何故だかめちゃくちゃ柔らかく。

 

 ありえない。俺と同等の速さで動くなんて、どんな化け物だ。

 

 比較対象がおかしいと思うが、俺は殺せんせーよりも早く動ける。瞬間的な速度で言えば間違いなく俺の方が上だ。

 そんな俺と同等の人間?それはつまり、超生物よりも優れた身体能力を持つ超人ってことだぞ。そんな奴いるのか?!

 

 だか、同時に妙だと感じた。

 俺を掴んだ指が妙に柔らかい。掴んでるというか、挟んでると言うか、包み込んでるというか。二の腕の硬さに合わせて指が変形しているような、そんな妙な違和感があった。

 なんだ、これ、どうなってる。明らかに人間の指じゃない。なんだ、この違和感は。けど、このまま大人しくも出来ない。

 

 掴んだ手でそのまま圧壊させられることはないだろうが、さっきのスピード的に引きちぎられることはあり得る。

 ならば、こちらから手を打たない理由はない。掴まれているということは、逆に掴み返せる距離にいると言うこと。相手以上に早く動けば俺なら掴めるはずだ。極限まで意識を集中させる。

 

 スローモーションの様だった世界が止まる。モノクロだった世界から影すら失われて白い世界に黒い線だけが他者との境界線として描かれる異様な世界へと踏み込み、男の腕を掴む。

 この世界でなら、俺の方が速い。それでも、こちらの動きに合わせて奴が少しだけ反応を示したのが恐ろしい。

 

 奴の腕を掴んだ今、頭の中に選択肢が浮かぶ。

 俺はコイツをどうするべきなのか。

 

 コイツは状況証拠からしたら敵だ。柳沢と共に現れ、こちらに発砲し、俺が敵意を抱いた瞬間に襲ってきた。

 しかし、完全に敵として判断していいかは分からない。少なくとも、この大男はさっきの銃撃で俺か、俺たちのうちの誰かを殺せた。でも、それをすることなく、俺にだけ向かってきた。

 

 さっきの柳沢の反応からして、本当は当てるはずだったのではないか?だとしたら、敵ではあるが、殺意は持ってないのか?

 俺に追従する速度と反応、即座に関節を壊しにくる技量。野放しにしていい相手ではない。だが、ここで容赦のない攻撃をして完全に敵対することは避けた方がいいんじゃないのか?

 

 思考を巡らせる。その手、相当に柔らかい。男のゴタゴタした手とか、女の柔らかい手とかそう言う領域の話ではない。弾力は確かにあるが、お世辞にも人間の手を掴んでる感覚にはならない。ブヨブヨしてるのではなく、プニプニしてる。掴んだ時、この中に骨があると確信できる硬さはなく、どちらかと言えばコリコリしてると言うべき感触。

 

 まるで、タコかなんかの触手でも触ってるみたいだ。

 

 手を放し、奴と同じレベルのスピードに落として腕を振り払い、距離を取る。一回のバックステップで3mほど下がると、あちらも同じ様に距離を取った。

 

「お前、普通の人間じゃないな?」

 

「………………」

 

 こちらの問いかけに黙りを決め込んだらしい。

 あるいは、口でも縫い合わされているのだろうか?

 

 返事と言わんばかりに明らかな格闘態勢を取った。

 すっと烏間先生の様な格闘戦のプロが取るのに似た構え。

 

 誘われてる。柳沢に視線を向けるが、アイツは動く様子を見せず、殺せんせーはみんなを守る態勢に入り、烏間先生とビッチ先生は銃を柳沢に向けて牽制していた。

 

 先生たちと目が合う。

 

 ビッチ先生からは『やるしかないわよ』というアイコンタクトを、烏間先生からは『自分の安全を優先しろ』というハンドサインを貰い、殺せんせーもいざと言うときはこっちに触手を伸ばせる様に2本ほど触手をフリーにしていた。

 

 そうだ。どっちにしろ、やるしかない。言葉を投げても反応がない以上、みんなと俺の安全確保の為にも制圧する。

 この大男が何者かは分からない。だが、分からないなりに俺が勝てば強い男だったと評価することは出来るだろう。

 

 こちらも構えを取る。

 

 いま、手元には装備らしい装備はない。刀は2本とも地面に転がっているし、今頼りになるのは自分の腕だけだ。

 

 自分の理性と感情を切り離す。

 殺せんせーを殺すと決めた時と同じ様に。

 最悪、相手に後遺症を負わせることになったとしても、あるいは最悪の事態になったとしても、倒すべきだ。

 

「……………!」

 

 男が向かってくる。ゾーンに入ってなければ見切ることも対応することも難しいであろう速度で。

 正中線を抉る様な、鋭い拳での突き。疾風のような、なんて表現が似合うほどに素早いそれを身体の軸を逸らして躱す。

 

 伸び切った肘、身体は前傾姿勢。さっきの意趣返しには丁度いい。やるしかないのであれば、迷いはしない。

 さっきやられたように奴の肘を曲がらない方へと押し込む様に掌底を叩き込んだ。少なくとも、数ヶ月は治らない怪我を負わせること、その感触と後味の悪さを覚悟の上で。

 

 実際、俺の掌底はしっかり奴の肘を捉えた。

 とても人間の動きから発せられたとは思えない風切り音と共に打ち出された掌は男の肘をありもしない方向へと歪ませた。

 でも、おかしかった。妙だった。だって、明らかに骨折どころの騒ぎではない曲がり方をしたのに、衝撃を加えたのに、骨を砕いたような手応えが一切なかった。

 

 そりゃあ、俺だって骨を砕く感触なんて知らない。流石にそこまで相手を追い詰めたことはない。でも、それでも、今の感触はありえない。掌底が当たった瞬間、バチン!と肉の弾けるような音は聞こえた。だが、俺の手に伝わってきたのは、グニャリというゼリーかこんにゃくでも叩いたような感触だった。

 

 再びバックステップで距離を取る。

 大男はありえない方向に曲がったはずの腕を一瞥すると、何事もなかった可能ようにその腕を動かしてみせた。肩を回し、指をワキワキさせ、そして肘を正常に動かす様を俺に見せつける。

 

「…………まさか……?」

 

 その様子を見て一つの可能性が脳裏を過ぎる。

 ここまでの手応えの無さ、奴の腕を掴んだ時の感触。関節を破壊した筈なのに何事もなかったかのように動かす仕草。まるで、人の形をした軟体動物の様だ(・・・・・・・・・・・・)

 

 その瞬間、再び男が動き出す。足を大きく上げ、俺を頭から薙ぎ倒すかの様な殺人的な速度のハイキックが繰り出される。

 常人が喰らったら即死するのではないかと言う速度のそれを正面から同じくハイキックで迎撃する。ただし、ただ迎え打つので痛み分けになる。だから、再度、奴の関節を破壊しに行く。今回狙うのは奴の足首だ。

 

 繰り出された互いの蹴り。大男の蹴りが俺にダメージを与えるよりも先に狙い通りにその足首を蹴り抜く。脛と足の甲の丁度真ん中を容赦なく粉砕し、相手の蹴りを打ち落とす。

 脚の狙いが逸れた際で少し態勢を崩した隙を見逃すことなく、ハイキックの勢いを殺さず、軸足を入れ替えて、横回転する様にそのまま回し蹴りを大男の右腕ごと砕く様に脇腹に向かって放つと、これ以上ないほどクリーンヒットした。

 

 錐揉み回転しながら吹き飛び、それでも奴は何事もなかったかのように着地した。蹴り砕いた筈の足首はしっかりと身体を支え、右腕や脇腹を庇うどころか痛がる素振りすら見せずに立っていた。俺の打撃など、まるで効いていないように。

 

 やはり、絶対におかしい。夏休みの時、思わず殺せんせーを蹴り倒してしまった時。言われた。人に使ってはいけない。大怪我ではすまなくなるだろうから、と。

 殺せんせーの反応速度すらぶち抜く蹴りをまともに喰らって倒れるどころかピンピンしてる奴が真っ当に人間である筈がない。あ、いや、そんな蹴りを放てる俺も大概人間じゃないだろうというツッコミはあるかもだが。

 

 人間であれば今ので即死、とまではいかなくても間違いなく数ヶ月単位でベットの上から動けなくなるだろう。

 それになにより、今の蹴った時の感触は似ていた。数ヶ月前、殺せんせーを蹴り倒してしまった時のあの感触に。

 

 速い話が人間を蹴った感触ではなかった。

 

 だから、いま、確信した。

 目の前の相手は、殺せんせーと同じタイプだ。

 

「…………触手を全身に移植したか」

 

「ほぅ、正解だ。同じルーツから派生したもの同士、何か感じるものでもあったか?この化け物め」

 

 俺の言葉を拾った柳沢が得意気に笑う。最後に一言、余計な罵倒を接続して、忌々しそうな声音で。

 

「触手を全身にって……!?」

 

「一言で言えば超生物と言うことだッ!」

 

 奥田さんの不安と驚きの混ざった声に烏間先生が分かりやすく短く答えると、怒りを込めた視線を向けた。

 

「どういうことだッ!この期に及んで超生物を増やすなどと!!挙句、生徒たちに差し向けるとはッッ!!」

 

「そうかっかするなよ。私はそこの超生物2体を相手に新しい暗殺プランの調整をしているだけさ。殺さなければならないターゲットと、そのターゲットを単騎で追い詰めた殺し屋。データを取るのにこれ以上ない仮想敵だろう?」

 

「ふざけるなっ!!ターゲットはともかく、乃咲くんは生徒だ!!!子供を仮想敵にし超生物のデータを取るなど許される筈がない!!それに加えて政府はそんな報告を受けていないし、暗殺の要項には生徒に危害を加えた場合、賞金は支払われないと記述されている。これは明確な契約違反だ!」

 

「契約?違うね、我々にとって賞金なんて二の次。一言で言えば……どうでも良いのさ。ただ、そこのタコを殺せればそれで良い。ついでにあの男とあの女の最高傑作である、そのガキを痛ぶれれば尚良い。それ以外は些事だ」

 

 なんなんだ、この柳沢の父さんへの憎悪。しかも母さんのことも相当嫌ってる様に見える。

 俺の両親2人が何かしたのか?前、父さんと進路について話した時、話の流れで彼の幼少期について少し聞いた。

 

 両親、つまり俺から見た父方の祖父母はかなりの毒親だった。父さんを必要以上に厳しく躾けて教育し、自分の思い通りにならないと切り捨てるや否や、弟の柳沢を甘やかし、父さんの時とは違う方針で育てたとか。

 それ自体は乃咲の方の祖父母にも聞いて確認した。そんな環境において、父さんにとって母さんは初めて現れた対等に話せる相手であったことも今は知っている。

 

 俺の目線で言えば、コイツの憎しみは逆恨みというか、筋違いだ。父さんが貰えなかったものを貰った癖に何が不満なのか。

 というか、なんでその流れで母さんまで憎しみの対象として飛び火するのか理解に苦しむな。

 

「っと……!?」

 

 思考を回していると、大男がこっちも忘れるなと言わんばかりに拳を上から叩きつけてきた。

 それを半歩下がって回避して、お返しとばかりに顔面目掛けて拳を打つと、まるで予想していたみたいに避けられた。

 

 俺の攻撃を避け、様子を見る様に佇む男。

 その立ち姿は不気味で、そして、その纏う空気は異様だった。奴の周りだけ空気が歪んでいる様な、気配が一定ではない。まるで感情が掴めない。怒ってるとも泣いてるとも笑ってるとも感じ取れる独特な雰囲気。

 

 自らの気配を暈すその技術、俺には見覚えがあった。

 

「………まさか、お前。二代目(・・・)か?」

 

「————へぇ。顔も隠して声も出してなかったのに、やっぱりキミは気付いてくれるんだね。圭一。いや、三代目って呼べばいいのかな。E組の子供たちとは違う。殺せんせーではなく、死神の弟子。僕の本当の意味での弟弟子くん?」

 

 俺の問い掛けに嬉しそうに笑うと奴は顔の部分までしまっていたファスナーを開け、見慣れた様で見慣れない顔を出した。

 その髪も、骨格も見慣れてる。目と鼻の位置も口の形も、俺と同じ。違うのは、皮があるかないか。

 

「嘘だろっ!?なんで死神がここにいるんだよ!!?」

 

「ちょっとした利害の一致さ。お互いに利用しているだけだよ。僕自体はキミらに危害を加えるつもりはない」

 

 短く、本当に興味なさそうにそう言うと、二代目は殺せんせーに顔を向けた。皮が無い所為で読み取りづらい表情が、それでも怒ってる様にも、悲しそうにも、恨んでる様にも見えた。

 

「どうも、"先生"。久しぶりですね」

 

「………はい。お久しぶりです」

 

「僕のことは見てくれなかった癖に、圭一は良く育ってますね。同じ速度だと僕ですら一方的にやられてしまう。さぞ、お気に入りでしょうね。理解と納得をするまで食い下がってくる教え子。ただ従順なだけだった僕よりも教え甲斐がありますか?」

 

「違います。彼が伸びたのは努力をしたから。そして私が彼の力を伸ばしてあげられる様になったのだとしたら、それは、私に人を"見る"ことを教えてくれた人がいたからです。今更、何を言っても言い訳にしかならないことは分かっています。でも、キミが不甲斐なかった訳では決して無い。全て、教える私が未熟だったのです。人としても教育者としても。私は、初めての生徒であるキミを、"見て"いなかった。"見えていなかった"のです」

 

「なにをどう言い繕っても何も変わらない。僕は、アンタに見て欲しかった。今更、どんな言葉を投げられても、僕にはあの時しかなかった。圭一に何も思うところがない訳じゃ無い。でも、正直、その子のことは恨んで無い。だから、あの日に圭一に投げた言葉をアンタに投げる。僕と彼で何が違っていたんですか?」

 

「私に対しての希望、です。私はキミの意見に耳を傾けず、自分だけが正しいと、最適解だと信じていた。それがキミを追い込んだ、私の元を離れるという選択をさせてしまった。この男は自分のことを何も見てくれない、評価してくれない、と期待を奪ってしまった。それこそが、教師としての私の罪であり、キミと乃咲くんの違いを生んでしまった根本的な過ちです」

 

 殺せんせーは迷いなく言った。まるでずっと考えていた様に、ずっと後悔していたことを吐き出すみたいに。

 迷いなく、淀みなく、俺とアイツの違いを罪であり、過ちだと認めた上でかつて自分の元を去った教え子と向き合った。

 

 理路整然と答えられる姿は凄いと思うし、尊敬できる。その問いに俺なりの答えをまだ見つけられていないから。

 でも、ほんの少しだけ喉に引っかかる。確かに殺せんせーの答えは彼らにとっては事実なのかもしれない。けれど、二代目が聞きたいのは、本当にその答えなんだろうか?

 

 なんだろう。言葉にできない違和感とニュアンスの違いがある様な気がする。それが確かなものだとは言えないけど。

 

「おい二代目、何をべらべらと喋っている」

 

「別に良いじゃないか。恩師との再会なんだ」

 

「そうだとも。恩師であり、そして怨敵だ」

 

 柳沢が頭の白装束を外す。

 続けて装束の中に手を入れると、喉の少し上あたりに仕込んでいたらしい機械を外し、わざとらしく投げ捨てると、次に聞いた声は俺たちの聞き覚え無いものに変わっていた。

 

「さて、挨拶はここまでにしよう。"初代"死神、殺せんせー?どちらの名でも構わないが、我々がお前を殺す。3月には呪われた命に確実な死を与えてやる。貴様にとっての死神は()だ」

 

「柳沢……ッ!」

 

「圭一。お前もいずれ潰す」

 

 初めて見た、奴の顔は片目がなかった。

 左目があるべき場所にあるのは、義眼と呼ぶにはあまりにもメカメカしい何か。もはや、目というより、センサーに近い。

 

 殺せんせーに向けたものと比べて数段忌々しそうに俺に言葉を投げつけてくる柳沢に対して俺は不思議な感情があった。

 あの顔をみて、可哀想だとは思わなかった。叔父と甥という関係なのに別に親近感も湧かなかった。ただ、俺の中にあるのは、生理的な嫌悪に似た忌避感。そう言えば以前、似た様なことを思った。イトナの時だったか。

 

「いずれ、なんて言わずに今すぐ来いよ」

 

「乃咲……?」

 

「乃咲新一、柳沢新一?どっちでもいいけど。あの人と散々比べられて出来損ない扱いされてきた者同士、決着付けようか。イトナの時も、今回の雪村の件も、お前は何もしなかった。ただ高みの見物決め込んでるだけだ。二代目が俺と戦ってる時ですら、援護もせずに突っ立ってるだけ。たまには土俵に上がったらどうだ?偉そうに俺が死神だとか言うなら、観客席でふんぞり返ってないで降りてこいよ。何様だよクソ野郎が」

 

「随分と口が回る。どうやら優秀な父の寡黙な部分は受け継がなかったらしい。分不相応に口達者とは。哀れなことだ」

 

「よく言う。父さんの出涸らしの癖に。本人には勝てなかったから、その子供を目の敵にして大人気なくマウントを取ることしかできないんだろう?無様なことだな。俺の目にはお前の方がよっぽど哀れに見えるぜ。その上、自分が負け犬だと思ってないんだからメンタルだけは見上げたもんだ。もっとも、見上げる方向は斜め上だけどな。そのまま先端側の重みで惨めに倒壊しろ」

 

 中指を立てながら罵倒し、煽り倒すと血管をピクピクと震わせながら一歩踏み出そうとしたところで二代目が片手を上げて奴の進路を塞ぐようにそれを制止して口を開いた。

 

「止せ。あの子はキミごときで勝てる相手じゃない」

 

「二代目っ、貴様まで俺をコケにする気か!!?」

 

「違う。ただの事実だ。この身体に慣れてないとは言え、僕ですら勝てない相手に少し心得がある程度の奴が勝てるわけがないだろう。再起不能にされる前に引いて調整を続けるべきだ」

 

「チィッ……!!」

 

「今は退くぞ。幸い、あっちには重症者がいる。今の"先生"も圭一も、あの子を放っておけるほど薄情ではないはずだ」

 

 本当に俺のことが嫌いなんだなぁ、と感じる視線と顔と声で舌打ちする柳沢を二代目が嗜める。

 アイツに引き際を示すと同時、俺たちに対して『今は退く。追撃して来ないならこちらからは手を出さない』と示しているのだろう。正直、口では煽っていたが、雪村のことを考えるなら、退いて貰った方がありがたい。

 

 危うく、『おーおー、迫真の舌打ちですなぁ』とかこれまで以上に舐め腐った顔で煽るところだった。

 

「……………圭一」

 

 去り際、二代目が振り返った。

 

「見違えたよ。よくこの短期間でそこまで鍛えたね」

 

「二代目……」

 

「…………"次"は負けない」

 

 彼はそう言い残すと止まる間も無く去った。

 たぶん、今回のアイツは本気じゃなかった。本当に肩慣らしというか、新しいチカラの試運転だったのかもしれない。

 

 もしも、二代目と再び戦うことになったのなら。今回みたいにはいかないだろう。もっと力を付けて強くならないといけない。柳沢という不安要素もある。もしかすると、俺の戦闘における俺の明確な強みであるスピードの上を取られる可能性だってあるかもしれない。その時、俺はどうするべきか。

 

 俺の膂力をこれ以上伸ばしてもあまり意味はないだろう。

 フロムゲーと同じだ。一つのステータスを極振りしても最大値に近づけば上がり幅はどんどん小さくなり、微々たる物になる。そろそろもっと別の部分を成長させ同時に技術(スキル)の会得に注力するべきなのかもしれない。

 

「…………行ったか」

 

「えぇ。間違いなく。2人の気配は消えました」

 

『イトナさんのドローンとリンク、周辺を上空から見ていますが、不審物、敵影などありません』

 

 殺せんせーに同意を求め、頷くのを確認し、律から空からの情報を受け取ってようやく緊張の糸が緩む。

 これで、本当の意味でようやく一安心だ。正直に言えば体力的にも精神的にもそろそろ限界だったんだ。

 

 まともに食らったら命の危険がある攻撃を捌くのも、同級生に向かって真剣を振るのも、ましてそれを当たらない紙一重を狙って振り抜くのも、言葉を選びながら家族を失った女の子を説得するのも、得体の知れない敵と戦うのも、知らねぇ情報を警戒しながら整理するのも、ひたすらに目の敵にされるのも。メンタル的に普通の中学生にはキツイ。

 

「もうやだ、疲れた………」

 

「お疲れ様でした、乃咲くん。今回も助けられてしまいました」

 

「殺せんせーもな。雪村の触手、かなり侵食してたんだろ?それの除去に体力使いまくっただろうし仕方ないって……」

 

 どかっと腰を下ろすと、殺せんせーとみんなが来た。

 殺せんせーは器用に雪村を抱えながら、俺が投げ捨てた刀と鞘を全部拾ってくれていたらしく、そのまま手渡してくる。

 

 受け取ったのはいいが、なんとなく手持ち無沙汰で両手で抱いてみるけど、なんか、物足りない。

 

「ヒナァ……」

 

「はいはい、どったの?」

 

「抱かして……」

 

「!!!?」

 

「ヒナノ、流石に抱っこさせての意だと思うわよ」

 

「「「ビッチ先生がまともなツッコミ入れてる……!!?」」」

 

「どう言う意味じゃ、クソガキども!!」

 

 ギャイギャイやってる仲間たちを尻目に、ヒナを手招き。おずおずとやってきた彼女を立ち上がってギュッとしようとしたが、俺の腰が抜けてしまったのか、ちょっと立てなさそうだったので胡座をかいて膝の上に座って貰って後ろから抱く。

 

「あぁ……。落ち着く…………」

 

「……お疲れ様、圭ちゃん」

 

 刀を脇に置き、膝の上に座った彼女の脇の下に手を入れ、お腹の辺りに手を回し、右肩に突っ伏すように顔を乗せる。

 ヒナが言葉で労いながら、頭を撫でてくれた。なんか、背後から頭を差し出してくる動物を撫でてるみたいな構図になってしまってるが、もうこの際どうでもいい。

 

 やべぇ。もう今日は動けないかもしれない。

 

「殺せんせー」

 

 しばらくクラハシウムを堪能していると、悠馬が殺せんせーに声をかけた。意を決したように前に出て、みんなに覚悟を問うように目配せして、向き直って声を出す。

 

「茅野の暗殺、前回の圭一の暗殺、そして殺せんせーの何がなんでも俺たちを守るって姿勢。並大抵の気持ちや覚悟じゃできないって思います。何があったのか、2人は何を知ってるのか、殺せんせーがどうしたいのか。話してくれませんか」

 

「私たちは殺せんせーのことを信じてます。どんなことでも、それが真実なら。私たちは受け入れます。今回の暗殺は、先生の過去だけじゃない。雪村先生にも繋がってて、その殺せんせーと雪村先生は2人とも3年E組、私たちの担任の先生。つまり、私たちにも繋がってると思うから」

 

 こんな時、悠馬と片岡は頼りになる。

 毅然と俺たちの考えや気持ちを言葉にして伝えてくれる。

 

 みんなが特に示し合わせた訳でもないのに殺せんせーの方に向いた。彼の言葉を待つ為に。

 

 彼は俺たちからの目線を正面から受け止めると長く息を吐いた。これから話す為に古い空気を肺から吐き出す。

 一呼吸置いて、雪村を俺とヒナの横にそっと下ろすと半歩下がって空に浮かぶ三日月を見上げて語り出した。

 

「できれば……この話は最後までしたくありませんでした。けれど、しなければいけませんね。キミたちとの信頼と絆を失いたくないですから。約束はしっかり果たします」

 

 息を吐き、見上げた月の輝きはその7割の体積を失う前と変わらない。きっと、彼が人間であった頃とも。

 

「皆さんは覚えていますか。夏休みの南の島で烏間先生がイリーナ先生を見てこう評しました。『優れた殺し屋ほどよろずに通じる』と。的を得た言葉だと思います」

 

「先生はね、学校の先生をするのはこのE組が初めてです。にも関わらずほぼ全教科を滞りなく教えることができた。それは何故だと思いますか?………とは言っても、さっき、"死神"との会話を聴いていればある程度、察しはつくでしょう」

 

「私は……2年前まで"死神"と呼ばれた殺し屋でした」

 

 さっきの二代目との会話でみんな、ある程度察してはいたのだろう。たが、それでも本人の口から聞くとやはりショックというのは最近に入って何度目になるだろうか。

 このカミングアウトを聞くのは俺にとっては2回目。でも、それでもやっぱり、普段の人となりを知っているからか、彼が殺し屋だという事実を再度認識すると脳がバグるというか、フリーズしそうになる。おかしいよな、奥義まで教わったのに。

 

「それから、もう一つ。みなさんにお話ししておきます」

 

 殺せんせーは俺を見た。いや、正確にはまず、俺と目を合わせてみんなの顔を一人一人見た。

 それが何故なのか、どう言う意図だったのか。直後に知ることになってしまった。今なら殺せんせーなりに覚悟を決めていたのだと。俺が仲間達よりも先に、今年の初めに暴いてしまった秘密を告げた。

 

「放っておいても、来年3月に先生は死にます。1人で死ぬか、地球ごと死ぬか。暗殺で変わる未来はそれだけです」

 

 誰よりも先に知っていた情報なのに、頭をハンマーで殴られたような衝撃があった。だってそれは、俺たちが殺せんせーを殺さないという選択肢を選んだとしても、先生は死ぬ運命にある、と本人から告げられたも同然なのだから。




あとがき

はい、あとがきです。

先日、FGOが10周年とか聞いてビビり散らかしました。
初ログインがマシュの加入日からして2016年の9月なので……えぇ……。当時、まだ学生だったのよ……?えぇ………?

10年経って所長が来るなんて夢にも思わないじゃないですか……。
近くにFGO始めようとしてる人とか新米マスターが現れる度に所長を推してニヤニヤする遊びの楽しさが減ってしまう………。

ちなみに型月の推しは伊織くんと七夜です。

10年…………10年か……………。
えぇ…………?

ご愛読ありがとうございます……………。
ええぇ……………?
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