暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……。



167話 これからの時間 2時間目

 

「と、言うわけで持ってきました手作りプリン」

 

「わぁ〜!」

 

「あ、ありがとう。乃咲、倉橋さん………」

 

 さっそくプリンを作ってお見舞いに来た。

 ちょっとおかしなテンションになってる俺とヒナを見て雪村は困ったようなリアクションというか、リアクションに困ったような反応を複雑そうな顔で見せていた。

 

「なんか2人ともテンション高いね……?」

 

「ふっ、実は失敗に失敗を重ねた末に漸く完成したからな、そのプリン。苦節何作品目だろうか……」

 

「さぁ……?失敗する度に舌が壊れるんじゃないかってレベルで甘くなりすぎたり、デロデロした苦い何かになったり………。とてもじゃないけど食べられるレベルのものにはならなかったからねぇ……。お見舞いの品にするには尚更……」

 

「く、苦労して作ってくれたんだね……」

 

「頑張ったよ!圭ちゃんも失敗する度にびっくりするくらい口が上手くなっていったんだから!」

 

「腕じゃなくて口が上手くなったんだ!?」

 

「それはもう芥川賞的な何かが取れるんじゃないかと自負するレベルでな。人ってピンチになると頭の回転早くなるよな」

 

「最初失敗した時は『不味い、食えない。勿体無いけど捨てるか』とか言ってたのに最後に失敗した時は『美味さ控えめだな。三角コーナーに盛り付けるか』とか言うようになってたし」

 

「言い回しが独特過ぎない!!?」

 

「いや、自分1人で作ったならまだしも、ヒナと作ったからな。あんまり酷いこと言うこと段々気が引けてきてさ。だって考えてみれば字面的に恋人と作ったお菓子を不味いから捨てるって状況に変わらないわけで」

 

「悪様に解釈し過ぎじゃない?」

 

 苦笑する雪村。ベットに備え付けられた折り畳みテーブルの上にプリンを置いて『はぁ〜』と息を吐く。

 そうして息を吐き切った後で今度は息を吸い直し、俺たちの方に向き直ると彼女は徐に口は開きながら頭を下げようとした。

 

「ちょっと待った」

 

 呼び動作の段階からそれを察することが出来たので、手を伸ばし、額の真ん中に指を突き立ててそれを制止する。

 

「なにをしようとしてるのか分からないではないけど、お前が謝ることじゃないだろ」

 

「…………でも」

 

「正直、何に謝ろうとしてるのかは分からない。お前が謝りそうな案件が多過ぎるから。触手を隠し持ってたことか、俺たちに秘密にしてたことか、最終的に戦闘になったことか、戦闘中のアレな言動か、それとも殺せんせーの秘密だったことについてなのか。俺が雪村でも、当事者なら謝りたいだろうし」

 

「なら…………」

 

「でも、謝ることじゃない。お前の秘密の所為でみんなが危険な目にあった訳じゃないし、殺せんせーのことはいずれ知らなきゃいけなかったことだ。みんなが心配したのは好きでやったこと。精々、お前が謝るべきなのはそこだけだ。んで、少なくとも俺とヒナはそこを謝って欲しい訳じゃない……よな、ヒナ?」

 

 雪村が気にしてそうな部分はあんまり問題ではない。そこに関しては本当に彼女は悪くないと思う。だから、自分の言葉で伝えて、恋人に確認を兼ねて同意を求めると、ヒナは頷いてくれた。

 

「うん。カエデちゃんが本当に申し訳ないとか思ってるなら、早く元気になること。それが第一かな」

 

「…………うん。それが一番なら、そうする。ありがとう」

 

 雪村もここは納得してくれたみたいだ。

 でも、きっと、俺たち以外が見舞いに来たら、彼女のことだし同じように謝ろうとするだろう。根っこが真面目だしな。

 

 でも仲間たちも俺やヒナと同じことを言うだろう。言葉は違えど似たような意味の言葉を投げてくれるに違いない。

 

 だから、少しフォローを入れようと軽く口を開くだけのつもりだった。少なくとも俺はそのつもりで声を出したのだが。

 

「んま、それになにより、秘密とかでお前が謝るなら俺なんてみんなに向かって土下座しても足らないレベルだしな。俺の親父に色々と拗らせた叔父が地球滅亡させるような物を作って、その上でお前の姉貴の婚約者で、挙句にモラハラとパワハラのオンパレード。いや、ほんと、申し訳ない………」

 

 軽くフォローするつもりで口を開いたのに、言葉を紡ぐうちに本格的に謝罪が必要なのは俺たちの方なんじゃね?と思い至ってしまって、今度は俺の方が頭を下げる側に回ってしまった。

 

「いやいや!!それこそ乃咲が気にすることじゃないでしょ……?乃咲自体、叔父さんがいることも、それがあの人だったことも最近まで知らなかったんでしょ?それに2人は似ても似つかないし、乃咲が柳沢を本気で嫌ってるの見て何となく分かるし。だから乃咲こそ謝らないでよ。何も悪くないんだから!」

 

「いや、それこそ謝るべきだ。諸悪の根源は反省の色なんて全くないし、殺せんせーに責任転嫁してる始末だ。何と言い繕っても、あのクソ野郎が俺の身内であることに変わりはないし。雪村と違って明確な被害者が目の前にいるんだ。人身事故を起こして被害者と加害者両方いない場合、被害者の遺族に謝罪するのは加害者の身内だ。この場合、加害者はのうのうと生きてやがるが、反省の色がない。なら、誠意を見せるのは俺じゃないと」

 

 そうだ。こればっかりは譲れないだろう。

 最初こそ、驚愕するだけだった。この数日、雪村を心配してみたり、殺せんせーの暗殺について考えたり、みんなはどうするのかに思いを馳せたりと。言い訳にしかならないだろうが、そう言うことに気を取られた結果、大事なことを考えそびれていた。

 

 雪村に止められる中、頭を下げる。

 

「圭ちゃん、ちょっと待った!」

 

 だが、今度は俺が制止された。頭を下げ始めたと同時にヒナが俺の正面に立った。かなり強引に割って入るように。その所為でゴチンとヒナのおでこに頭突きする羽目になってしまった。

 

「あぅ!?」

 

「ちょ、ヒナ!!?」

 

「倉橋さん!?」

 

 漫画か何かなら当たった部分からプシューと煙を上げてそうなリアクションをしておでこを抑えるヒナ。

 流石に俺もそこまで勢いを付けて頭を下げた訳ではないので軽くぶつかった程度だが、結構ゴチンと言った。

 

「大丈夫かヒナぁ!?」

 

「だ、大丈夫。ちょっと頭が割れただけ」

 

「致命傷だよ!?」

 

 あんまり大丈夫じゃなさそうなことを言いながら、おでこを摩りつつ、ヒナは雪村と俺の間に立つポジションを保っていた。少し涙目になりながらおでこをクシクシすること数秒。ようやく痛みが落ち着いて来たのか、俺を見て真っ直ぐに言ってきた。

 

「私も圭ちゃんが謝ることじゃないと思う」

 

「いや、でもさ」

 

「だって柳沢は生きてるじゃん。それに仮にだよ?本当に親族が謝らなきゃいけないなら、甥の圭ちゃんじゃなくて、柳沢の方のお祖父さんたちが頭を下げるべきじゃないの?」

 

「私も気持ちとしては倉橋さんと同じかな。むしろ乃咲に謝られちゃったら、ますますあの人を許せなくなるよ。それに謝って欲しい訳でもないしね。真実は分かった、姉ちゃんがどんな気持ちで殺せんせーにE組のみんなを託したのかも分かった」

 

 雪村は静かに言葉を続けた。

 

「それに、誰が謝ったとしてもお姉ちゃんは帰って来ない。だから、せめて知りたかっただけなんだ。お姉ちゃんがどうして死んだのか、何を思って死んだのか、周りはお姉ちゃんをどう思っていたのか。しっかり周りの人達に好かれてたのか、大切に思ってた人たちに大事にしてもらってたのかって」

 

 彼女は俺と目を合わせた。

 自分が雪村あぐりの妹だと名乗った時とは違う。優しい目だった。俺が殺した茅野カエデの時と似た目だった。

 

 やっぱり、全てが演技だった訳ではないのだろう。

 茅野カエデはただの配役であって、そこにいたのは雪村あかりというラベルを外しただけの彼女本人だったのかもな。

 

「でも、乃咲のおかげで杞憂だって分かった。だってさ、自分の言動を振り返って謝りたいからって街の中を探そうとしてさ、死んじゃったって打ち明けたとき、何時間も掛けてお墓の掃除もしてくれて。あの後、何度もお姉ちゃんのお墓の前で会ったし、会わなかっただけで何度もお墓に顔出してくれてるよね」

 

「この前、雪村先生のお墓に顔出してたってのは聞いてたけど、圭ちゃん、そんなことしてたの?」

 

「うん。お墓に行くとね、管理してくれてるお坊さんが『あの銀髪の子はまだ来てないよ』とか『彼、足繁く通ってるけど何かあったのかい?』って声を掛けてくれるの。入れ違いになったのか、私が行った時には新しいお花とお線香が上がったりしててさ。今まで私が行かなきゃお坊さんくらいしかお世話してくれなかったのにさ。嬉しかったんだ」

 

 思い出でも語るみたいにポツポツと彼女が言う。

 

「お姉ちゃんが死んだことを悲しんでるのは私だけじゃない。大事に思ってるのは私だけじゃないって。乃咲がお世話してくれた跡を見て……そうだね、救われてたって言うのかな?これは」

 

「流石にそれは大袈裟じゃないか?俺は特別なことは何もしてないだろ。雪村先生に迷惑掛けてたし……世話にもなったんだから。事実を知ってれば誰でもそうするだろ」

 

「違うよ、そうじゃないんだよ。言ってたでしょ、お姉ちゃんから乃咲の話も聞いてたって。妹の私と同い年だからかな。お姉ちゃんと話してる時、よく話に出てくる"ヤンキー"。来年、私の生徒になる子だってさ。ずっと気に掛けてたの知ってた」

 

「…………」

 

「前にさ、言ったでしょ?最初は乃咲のこと、あんまり好きじゃなかったって。お姉ちゃんに心配掛けてたヤンキーはコイツかって思ったってね。でもさ、そのヤンキーが言ってくれたんだよ、笑い方とか笑ってる時の雰囲気がお姉ちゃんに似てるって。自他共に髪の色くらいしか似てないって思ってたのに。当時はお姉ちゃんとの関係とかカケラも明かしてなかったのに。そんなこと言ってくれた人、いなかったんだよ?」

 

 確かに言った。んで、俺がそこに気付いたから、雪村は自分と雪村先生の関係を断言はしなかったが、部分的に明かしてくたのだと、彼女自身が教えてくれた。

 

「私とお姉ちゃんが似てるって言ってくれた。外見じゃなくて、雰囲気とかで。元気一杯すぎる言動が苦手だったとか言ってた癖にマメにお墓に来てお世話してくれて。私のことも気に掛けてくれた。寄り添ってくれて、助けてくれた。ここまでされてさ、お姉ちゃんが大事にされてなかったとか思える筈がないじゃん」

 

「そうか」

 

「うん、そうだよ。だからね、ありがとう。乃咲」

 

 雪村が笑った。申し訳なさそうな笑みでも、苦笑でもなく、かと言って満面の笑顔という訳でもない。

 でもやっぱり、こういう笑い方が雪村先生に似ていると思った。いや、雪村先生の様に"似合ってる"と言うべきか。

 

 んまぁ、でも、口に出す必要もないだろう。

 少なくとも、雪村を取り巻く環境は改善へ向かう筈だ。ここから先はそれこそ雪村の肉親がケアするべき部分だ。

 

 ここらが一線の引き時なのかもな。

 

「んじゃあ、良かったよ。なんて言えば良いのか分からないけど。そうだな、お疲れ様……って言っておくわ」

 

「うん、ありがと。倉橋さんもありがとね」

 

 視線がヒナに向いた。

 どれ、ここから先は女子に任せますかね。いつまでも寝巻きの女の子を見続けるのも申し訳ないしな。

 

「うんん、良いんだよ。私は結局のところは全部圭ちゃん任せだったしね。最終的にカエデちゃんが無事に帰って来てくれて良かったし、圭ちゃんの気持ちもしっかり伝わってたみたいで安心したかな。私の目から見ても思い詰めてたしさ」

 

 ヒナも温かく笑っているし、うん。ここは恋人に任せて売店に行って3人分のジュースでも買ってくるかな。

 

「本当に良かったよ。圭ちゃんの気持ちが通じてて。カエデちゃんのこと、嫌いになりたくなかったから。正直かなり妬いちゃいそう……っていうか、妬いてたからね」

 

 ん、あれ……。なんか空気の方向がおかしな方向に……?

 

「私の圭ちゃんがあそこまで身体を張って、心を尽くしてるのに通じてませーんとか言われてたら……ね?」

 

「ね?じゃないよ、ヒナ。怖いんだけど………」

 

 ヒナは俺に向かって微笑んだ。

 これが漫画とかなら、顔はしっかり笑顔なのに、目元の部分まで影が掛かってるような、含みのある笑顔と言うのか。

 

 俺に顔を向けて微笑んだ後、雪村ににじり寄る。手をワキワキさせながら、獲物を刈り取る猛獣のような、猛禽類のような雰囲気を醸し出してゆっくりゆっくりと這う様に。

 

「律、再生」

 

『あ、あの、倉橋さん、本当に……?』

 

「り、つ?」

 

『ひゃいっ!!』

 

 スマホにいるモバイル律にも例の笑顔を向けた。これにはたまらず律も悲鳴をあげ、何やらヒナの要求した音源を再生した。

 

『乃咲ってば触手プレイ好きだったもんね、一緒にシよっ!ほら、見てよっ、私のこんなにトロトロだよっ』

 

「ほわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?」

 

 何かと思えばこの前の戦闘中に雪村が口走っていた妄言というか、戯言というか。熱に浮かされた悪夢の中の寝言とでと言うべきか。んでもまぁ、黒歴史入り間違いなしの発言だった。

 

「あはは………」

 

「………………怖っ」

 

「圭ちゃん?」

 

「わァ……ァ……」

 

 怖い、超絶可愛いゆるふわ系の俺の恋人が特定の分野になると怖すぎる件!みたいなことになってしまった。

 

『はぁっ!!?私と渚、どっちがいいのよっ!!』

 

「あぅっっっ!!!?」

 

『答えてよ乃咲ッッ、声を聞かせてッッ!なんか言ってよ!私に、私の為に何か言って……ッ!』

 

「ひにゃぁっっ!!!!?」

 

『私の欲しい言葉をちょうだいッッッ!乃咲の言葉がッッ、乃咲のことが欲しいの……ッッ!』

 

「やめっ………やめて倉橋さん………!!?」

 

『アンタが私をイかせてくれるんでしょっ!!?』

 

「許して……許してつかぁさい……………!」

 

「あはは……」

 

 だから怖いよヒナ。

 怖くて思わず閉口している俺は悪くないだろう。

 

「別にカエデちゃんに意地悪したい気持ちがないわけじゃないんだけどね」

 

「……………意地悪したいってことじゃないの、それ」

 

「圭ちゃんはシャラップ。まぁ、実際そうなんだけどさ。私もここまで踏み込んだ直接的なことは今まで話したことなかったのに……!とか思わなくはないんだよ?でもさ、私、E組のこと考えてさ、ふと思ったんだよ」

 

「何を?」

 

「このままだと、カエデちゃんは確実にカルマくんと利桜ちゃんの餌食になるって。このネタで延々とイジられるよ?」

 

「「あー……」」

 

 ヒナの想像してる内容がめちゃくちゃ簡単に想像出来てしまって、雪村とハモって声を漏らしてしまった。

 やる、あの2人なら絶対にやる。ベットの上で雪村が動けないのをいいことにここぞとばかりに絶対にイジり倒すだろうな。

 

「だったらそうなる前に私がイジっておこうって思って。カエデちゃんのこのやたらとエロい言い回しに私が反応すればガチっぽい雰囲気を感じ取ってイジり辛くなるでしょ?」

 

「あー。確かに……?」

 

「まぁ、ガチっぽいも何も半分くらいガチなんだけど」

 

「ほぇ?」

 

「ま、とりあえず圭ちゃんは退室!ここから先は純情少年の圭一くんにはまだ早い話しするから」

 

「わっ、ちょっ!?ヒナちゃん!!?」

 

 ぐい〜っと背中を押されて追い出されてしまった。

 ガラガラと音を立てて閉まる扉の前で立ち尽くす。

 

 このまま立ってれば強化人間パワーで聞き耳を立てられるけど……流石にそれは不粋なのかな。

 

 ここまで言われて何も察しないほど、俺も鈍感じゃない。

 

 得てして、助けた助けられたの関係はある種の恩とかそう言うのを感じやすいものだ。

 

 雪村を直接救ったのは、触手を取り除いた殺せんせーだが、そのタイミングを作るのに暴走した雪村と戦ったのは俺だし、彼女がさっき助けてくれてありがとう。と言ってくれた様に、一応は俺も雪村を助けた形になる筈だ。

 

 そう言う意味で、雪村が俺に恩のような物を感じている、感じる様になる可能性はゼロじゃない。

 そして、そう言う相手にはあんまり強気に出られなくなるものだ。全肯定マシーンになって頼み事を断れなくなる、みたいな展開だって充分にあり得る。

 

 そこに加えて俺は男で雪村は女。更に戦闘中のセックスアピールの様な発言。それこそエロ漫画の読みすぎだと指摘されそうだが、どこぞの想像上の悪代官の様に俺が雪村に迫る〜なんて展開も外からみた感じだと有り得ないとは言い切れないのかもしれない。恩を傘に着るなんて言葉もあるし。

 

 ヒナだって俺がそんなことしないって思ってくれてる筈だけど、それでも、雪村の感じ方によっては危うさを感じるのは無理もないし、雪村が俺の頼みを断り切れない全肯定マシーンになるのを防ぐ為にも、俺の恋人としての牽制するみたいな雰囲気で話そうとしてるのかもしれない。

 

 俺を追い出したのは、モノの例えでも浮気を疑う様な発言をすることになってしまうからという配慮なのかも。

 

 なら、乃咲ワゴンはクールに去るぜ。

 売店に行って何か買ってこよっと。

 

 あとはデキる恋人に任せるとしましょうや。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「……圭ちゃん、行ったみたい」

 

 陽菜乃が扉の前の気配がなくなったことを確認してそう呟くと、振り向いてベットの上で少し気不味そうにしてる自分と同い年の少女に視線を向けた。

 

「それじゃあ、少しお話ししよ。カエデちゃん……うんん、あかりちゃんって呼んだ方が良いのかな?」

 

 その問いかけに彼女は少し考える仕草をして、ほんのちょっと困ったような微笑みを浮かべて答えた。

 

「あかり、でお願いしたいかな。みんなと過ごすうちに茅野カエデって名前も気に入ったけどさ、今は"役"じゃなくて、私も本心で倉橋さんと話したいから」

 

「そっか。じゃあそうするね。あかりちゃんも私のことは下の名前で呼んでよ。お互いに……本心で話したいし、同じ相手を好きになった同士、遠慮なく接せる方がいいでしょ?」

 

「うん、じゃあそうするよ、陽菜乃ちゃん」

 

 お互いに名前で呼び合うと、陽菜乃はベットの横の椅子に座り、あかりはベットから身体を起こしたまま、それでも身体の向きと姿勢を陽菜乃と向き合うように佇まいを直した。

 

「単刀直入に聞くね。お互いに誤魔化しは無しで。あかりちゃんはいつから圭ちゃんが好きになったの?」

 

「……多分、お姉ちゃんに似てるって言われた時からだと思う。そう言われて、乃咲になら良いかなってお墓の場所を教えて。真剣に何時間もお姉ちゃんのお墓を掃除してくれる姿を見て、そのあと、話を聞いてくれて。その時にクラっと」

 

「そう言えば、急にあかりちゃんが圭ちゃんと距離感近くなったタイミングがあったっけ。そっか、あの辺りからなんだね」

 

「うん……。それ以前にもさ、時々無理して笑ってるよな、とか磨瀬榛名に似てるよなとか言われたことがあって。誰にも気付かれなかったのに、乃咲って結構人のこと見てるんだなって思ったのが気になりだしたタイミングかも……」

 

「そっか……」

 

 頷くと同時、内心は複雑だった。

 

 自分の恋人が自分以外の女子にも好かれている。それも単に顔が良ければなんでも良いみたいな子ではなく、それそこ少し前まで天才子役として活躍していた同級生。きっと自分はテレビでしか見たことないような俳優や、子役とも縁があるだろう女子が好意を抱いている。

 

 それはある意味では誇らしかった。少なくとも、そういう業界で生きてきた者でも惹かれる魅力があるというある種の証明だと思う。そんな相手を選んで、選ばれて。嬉しかったし、誇らしい。自分の目に狂いはなかったということだ。

 

 だが同時にやはり複雑だった。ある種の嫉妬がそこにあることを否定はできない。陽菜乃にあってあかりに無いものがあるように、逆もまたあるのだと見せつけられているようで。

 

「陽菜乃ちゃんは?」

 

「私は1年の頃かな。A組の勉強会に参加させてもらった事があってさ。その時に教えて貰ったの。その時にお礼を言えなくてね。ずっとお礼が言いたくて見てるうちに気になって来たのが始まりかな。まぁ、結局何も言えなくて、最初にE組に落ちた圭ちゃんになんの言葉も掛けなかったんだけど……」

 

「そっか……。陽菜乃ちゃんは私の見た事ない乃咲を知ってるんだもんね。ちょっと羨ましいかな……」

 

「……どう、かな」

 

 素直に羨ましいと溢すあかりに陽菜乃は言葉を濁した。

 彼女にも思うところはあるのだ。

 

「私は……あかりちゃんが羨ましいと思うこともあるよ。大変だったのは分かるし、それどころじゃなかったのも話してくれたから知ってるし、こんなこと、言うべきじゃないのかもだけどさ。圭ちゃんが一生懸命になって助けようとしてるの近くで見てたから。悩んで、考えて、精一杯に」

 

「…………」

 

「なんて言うかさ、私は圭ちゃんのことを見てた。一年生の頃に頑張って浅野くんと並んで主席だって持ち上げられてた時も、挫折してしまった後ろ姿も、このE組になってから新しく頑張り始めて、昔は出来なかった浅野くんに勝つって目標を達成するところも。頑張ってるところを沢山見た」

 

「陽菜乃ちゃんは……乃咲の頑張ってるところが好きなの?」

 

「うん。好きになりだしたのは……烏間先生が体育の担当になった頃。放課後に1人だけ烏間先生に追加の訓練を自分からお願いして付けて貰っててさ。組み手で何度も負けてるのに何度も挑んでる所がカッコよくて見えたから」

 

「そうだったね……。うん、私も何回か見た事があるよ。だから、当時はヤンキーとか不良とか言われてたけど、根は真面目なのかなって見直したりしたっけ。懐かしいね……」

 

「懐かしい……。うん、本当にね」

 

 陽菜乃は外を見た。お世辞にも天気がいいとは言えない。もしかしたら今日の夜にでも雪が降るかもと思わせる曇天。

 すっかり冷えた。寒くなった。今の暗殺教室が始まってからの日数よりも、この教室が終わるまでの日数を数えた方が早くなってしまった。それだけの時間が経っていた。

 

「色んな事があったよね」

 

「本当に……。濃い一年だったと思うよ」

 

「色んな事件があって、その度に巻き込まれて。圭ちゃんだけが頑張った訳じゃなくて、みんなも頑張ったのは知ってるし、そう思ってるけど。でも、やっぱり彼は何かしら危ない目に遭い続けて、毎回毎回、何かを悩み続けてる。事件が終わったら新しい何かが舞い込んでくる」

 

「……………うん」

 

「あかりちゃんのこともそう。別にあかりちゃんを責めたい訳じゃないんだけどさ。どうすれば助けてあげられるのか、連れ戻せるのかって圭ちゃんはずっと悩んでたし、考えた。俺はこうだったから、俺もこうしてやりたいって。結論を出して助けてさ。本当に誇らしいんだよ?好きになった人がそうやって周りに手を差し伸べられる人だって。そんな人と恋人だって」

 

「…………」

 

「でもね、時々それが痛々しく見えるんだ」

 

「痛々しい……?」

 

 あかりの怪訝な顔に陽菜乃は頷いた。

 

「いっつも何かに悩んでる。いっつも危ない目に遭ってる。問題が解決したら次の事件が起きて。色んなこと、いろんな人を"見てる"から、私たちよりも多くのいろんなことに気が付いて。なんとかする為に、答えを出す為に終わりなく頑張ってる」

 

「圭ちゃんが色んなことに気付くのは"見てる"から。雪村先生が、殺せんせーが、烏間先生がしてくれた様に自分も誰かを見てやれる奴になりたいって。そう言って誰かを見ることを頑張ってる。ずっと意識して見落としがないか気を張ってる」

 

「前、圭ちゃんが話してくれた。私たちと圭ちゃんや殺せんせーでは速さが違いすぎて時間の流れを知覚するとズレがあるって。彼らにとって数時間でも、私たちにとっては一瞬だったりするんだって。圭ちゃんはその能力をゾーンって呼んでたけど」

 

「私たちから見たら圭ちゃんは恐ろしく頭がキレる人。頭の回転が速くて、色んなことに一瞬で気が付いて、誰かの変化や特徴に気が付く凄い人。そんな風に見えてるけど、実際は……きっと何時間も考え抜いてるんだと思う。"見る"為に」

 

 陽菜乃は視線を落とした。

 部屋の外からベットの上のあかりへ、そして座って膝の上に置いていた自分の手へ。握って、開いて。何かの感覚を確かめるみたいに。あるいは、握り慣れた手の感触を思い出す様に。

 

「雪村先生みたいに自然に見てあげられるタイプじゃない。意識して観察して、考えて、ようやく気付けるのが彼なんだと思う。少なくとも、私の視点の圭ちゃんはそう言う人なんだ」

 

「…………そっか」

 

「私はそれが、少しだけ痛々しく見える。圭ちゃんが私たちと同じ時間の流れで考えて、悩んでる姿を知ってる。もしかしたら、彼の視点だともっと悩んでるのかもしれない」

 

 あかりは陽菜乃の言葉を聞き、頭の中で想像を続けていた。だが、実際に自分にできない、体験できないことは想像すること自体が困難で。理解が追いつかないことに歯痒さを感じ、その感情の移り変わりは自然と俯く頭の動きが物語っていた。

 

「不器用な部分もあるし、鈍感だし、クソボケだし、面倒臭いオタクな部分もあるし、ネットスラングばっかり話すこともあるけど、圭ちゃんが頑張ってるところ、自分の責任を考えて果たそうとする姿勢は尊敬してるし、寄り添ってあげなきゃいけない人を見つけられる優しいところを好きになったよ」

 

「うん」

 

「でも、私が好きな部分がどんどん辛そうに思えてくるんだ。本人はやりたくてやってるって言うだろうし、みんなより沢山の情報を持ってること以外はそんなに気にしてなさそうだけどさ。でも、またいつか知らない間に疲れが溜まって、倒れるって事が起きそうで、それが怖いんだよ」

 

「………うん」

 

「前に圭ちゃんの好きな部分を伝えたことがあるし、告白した後、保留されてる時だけどさ、圭ちゃんなりの恋愛観も聞いた。『好きだって言ってくれた相手に好きでいて貰うための努力は必要だ』ってさ。いい考え方だなって最初は思ってた。でも、今はちょっと違う。その考え方は少し……呪いみたい」

 

「そうかな……。私は大事なことだと思うけど?」

 

「うん、そこは私も同じなんだけどさ。でも、あの人は自分の中にある考え方みたいなのを直ぐに強迫観念みたいな形に進化というか、深化させるから。自分がやらなきゃ、それが責任だ、しなきゃいけない事だ、周りを頼るのは無責任だ、とかさ。全部、今まで圭ちゃんの口から出た事がある言葉だよね」

 

「……あ」

 

 自分の記憶の中にある圭一の言動を思い出し、陽菜乃の言葉と一致していることに気が付いたあかりは口に手を当てた。溢れた声は何を意味するのか。少なくとも、驚きの色が強かった。

 

「私の思う、圭ちゃんの魅力みたいな部分なんだけどさ。私がそう言うところが好きって伝えたら……彼はきっと喜んでくれるだろうけど、また、私が好きって伝えた部分を意識して伸ばそうとすると思う。また自覚しないうちにボロボロになりながら」

 

「それが好きでいてもらう為の努力だから……?」

 

「……うん」

 

 言葉の続きを感じ取って問い掛けたあかりの言葉に陽菜乃は頷いた。困った様な、どうすれば良いか分からないと言う様な表情で。苦々しいような、それでいて少し微笑んでいる様な顔で。

 

「だから、圭ちゃんのこんな部分が好きって臆面なく言えたあかりちゃんが少しだけ羨ましいって思っちゃった」

 

「………私としては、好きな人にいつの間にか恋人が出来てて、その好きな人の恋人に『私の彼氏の何処が好き?』って聞かれてて臆面ありありなんだけどね………」

 

 苦笑しながらあかりが言った。

 けれど、少し戯けた雰囲気に陽菜乃は笑った。

 

「そりゃあ、ほら。牽制はしないと」

 

「あはは……。だよねぇ。んでも、やっぱり、それでも私は陽菜乃ちゃんが羨ましいよ。恋人、だからね」

 

「ふふふ。だからこうして一対一でお話ししてるんだよ?下手にちょっかい掛けられないように、軽はずみに『乃咲のそう言うところ好きだなぁー』とか言ってアピールできない様に、そんなことしたら圭ちゃんが潰れちゃうよ〜って」

 

「え〜、それ、私に直接伝えちゃう?」

 

「もちろん。ま、それに誰かに聞いて欲しかったからね。同じ相手を好きになった同士……というか、同志かな。あかりちゃんに聞いて欲しかったんだよ。流石に圭ちゃんに直接伝えられる程、私も肝っ玉が座ってるわけじゃないからさ。泥棒猫さんに愚痴でも聞いてもらうかなぁ〜って」

 

「陽菜乃ちゃん……せ、性格歪んできてない……?」

 

「彼氏の影響かなぁ……」

 

「の、乃咲はそんなに性格歪んでないよ!?多分……」

 

「ん〜。まぁね。圭ちゃんの性格がもっと歪んでたら相手を“見てる"からこそ、言われたくない言葉とかを見抜いて容赦なく叩き付けるくらいはしそうだし。でも、馬鹿正直ってこともないでしょ。妙なところで卑屈な部分あるし」

 

「……あ〜。確かに。なんか、強化人間パワーで俺は最強だぁ!みたいな雰囲気の時もあれば、恋愛関係では卑屈っぽいかも。昔、A組だった頃はモテてたぞ〜なんて言うけど、今もそこそこモテるって考えてなさそう」

 

「ね。私とあかりちゃん、綾香ちゃんは……まぁ、恋愛と敬愛の中間みたいに見えるけど。少なくとも3人からは矢印が向いてる訳だしね。関わってるのが30人くらいで、そのうち3人だから10人に1人の割合で好かれてるって考えるとモテる部類だよね」

 

「アイツの中じゃ、モテる=告白された回数 とかなんじゃない?あながち間違ってないけどさ」

 

「いるんだよねぇ。『〇〇くん(ちゃん)モテそうなのに』とか言われて『ないですよ、告白されたことないもん』みたいなこと言っちゃう人。好意に気付かない系ね」

 

「女子がやったらぶりっ子、男子がやったら卑屈扱いされる言動だよね。んでも、時々天然で言ってる人もいる」

 

「そう言うパターンは大概が鈍感なだけっていうね……。めんどくさい会話パターンだよ、ぶりっ子、卑屈、鈍感の3通りの印象しか伝わらない系の。なんでか謙遜してるって印象になり辛い。人類みんな歪んでるねぇ」

 

「歪んでる歪んでる、陽菜乃ちゃんからカルマくんとダークサイドに落ちた時の乃咲と同じオーラが漂って来てるよ」

 

「彼女ですから!」

 

「胸張るところ!?っていうか、性格悪くなってきてない!?諦めなきゃいけない人に対して諦めなきゃいけない相手と恋人になった人から掛ける言葉!!?」

 

「え?別に諦めなくていいよ?」

 

「……はい?」

 

「牽制はするし、圭ちゃんは私のだって見せ付けるけど、諦めるかどうかはあかりちゃんに任せるよ。万が一、圭ちゃんがあかりちゃんに靡いたら………2人とも殺して私も死ぬっ」

 

「物騒すぎる!!?」

 

「まぁ、冗談は7:3くらいだけどさ」

 

「どっち、どっちの比率が大きいの……!?」

 

「そこは想像にお任せするけどさ。んでも、とにかくあかりちゃんの好きにしなよ。まだ結婚してるわけでもないし、ビッチ先生もそう言うだろうし。私的には勘弁して欲しい気持ちはあるよ、勿論。信じてるのと心配しないのは別問題だし」

 

「…………なのに好きにして良いの?」

 

「まぁ、圭ちゃんがあかりちゃんに靡かない様に私も頑張るだけだしね。無量大数が一、浮気されたらボコボコのギタギタにするけどさ、圭ちゃんを。でも、基本的に無いことだから」

 

「……随分と信じてるね、乃咲のこと」

 

「疑ってるよ?無量大数の中の1くらいで。でも、よっぽどのすれ違いでも無い限りはないと思ってるだけ。強要された訳でもなく、強者(自分)の背負うべき責任だからって70億人の為に覚悟を決めてマッハ20の殺せんせーを殺し掛けた人だよ?それくらい責任を重んじてる人が『陽菜乃が良い』って選んでくれた言葉をひっくり返すなんて思えないから」

 

 今度は笑みを浮かべた。およそ中学生に似つかわしく無い単語も出ていると言うのに、それでも今日、一番のあかり見慣れた笑みを見せた陽菜乃に彼女は眩しそうに、悔しそうに言った。

 

「………見せてつけてくれるよね」

 

「諦めろとは言わない、その代わりに絶対に応援なんてしないし、牽制もする。私の恋人だから。いざとなったらあかりちゃんと喧嘩してでも勝ち取る。それでも良ければ好きにしていいよ。私がどうしても言いたかったのはコレだから。覚えておいて」

 

 そう締め括ると、陽菜乃はスマホを操作する。

 恐らくは圭一を呼び戻しているのだろうというのは想像に難くなく、実際に呼び出される前に、あかりは一つ聞きたかった。

 

「ねぇ、陽菜乃ちゃん。一つだけいい?」

 

「んぇ?」

 

「どうして私に諦めろって、私の彼氏にちょっかいかけるなって言わないの?普通は言いたくなるでしょ、倫理的に間違ってるのは私の方だよ……?ここに関しては私が何を言っても陽菜乃ちゃんが『私が付き合ってるから、乃咲圭一は私の彼氏だから』って言えば正論になる部分なのに」

 

 その問いかけにスマホを操作する指を止めた。

 ピタリと止まり、眉をハの字にして肩を落とし、困り顔を浮かべながら拗ねた様に唇を尖らせて答える。

 

「………私があかりちゃんなら。もしも同じ立場で同じことをされたら、うん、まぁ、好きになっちゃったと思うから」

 

「え……?」

 

「だってさ、大変だったのは分かってるけど、でもやっぱり羨ましくなっちゃうじゃん。助けてもらって、寄り添って貰って。私も圭ちゃんにそんな風にされたいとか思うじゃん。っていうか、なんで恋人の私以上にドラマチックなフラグを立てるのかなぁ、あの人!!これが漫画とかドラマだったとして、見る人が見たら『なんで倉橋さんがヒロインなんですか?』とか言われかねないヤツだよ!!?インパクトがダンチじゃん!!」

 

「わぁっ!?急に弾けた!?」

 

「そりゃ弾けるよ!私の視点で考えて見てよ!?告白を2ヶ月くらい保留されて、その間も散々思わせぶりなことされて、ついにはヤッては無いけど同衾までして、次の日にようやく受け入れて貰えた〜と思ったらあかりちゃんの登場だよ!?いや、初めから居たんだけどさ!!付き合いたてホヤホヤなのにさ、あんなに真剣に他の女の子のこと考えてるの見たら妬くでしょ!?羨ましいなぁ〜とか面白く無いとか思うでしょ!?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「はぁはぁ……。謝って欲しい訳じゃないんだけどね……。んでも、浮気を疑ったりなんてしないけど、やっぱり面白くなかったの。んでもでも、やっぱり私があかりちゃんの立場なら……好きになるってのはなんとなく分かる。というか、なってなかったら怒るかも。『うちの圭ちゃんの何処が不満なんですか、あんなことして貰った癖に!』とか」

 

「…………」

 

「だから、性格悪いだろうけど。私はしっかりフラれて欲しい。うちの視点は今言った通りだよ。そして何度も言うけど私だったらあんな風にされたら好きになると思う。そんな状態であかりちゃんの立場で告白すらせずに諦めろなんて言われたらしんどいと思う。せめて当たって砕けるくらいはしたい。それに……」

 

「……それに?」

 

「圭ちゃんは、そんな思いを引き摺らせる為にあかりちゃんを助けた訳じゃ無いから。本人が気付くかは分からないよ?でも、自分のことを引き摺るより、前を向いて欲しがると思う」

 

「………なのに告白は良いの?フるのって結構勇気がいると思うよ。乃咲の性格で、私の状態を理解した上でキッパリと断るの。アイツが一番苦手な分野じゃ無い?」

 

「それはそう。でも、それこそが圭ちゃんの責任だよ。結構、天真爛漫とか天然とか言われるけどさ、私。そんなことないんだよ?嫉妬もするし、相手に気に入らない部分があれば嫌なこともしちゃうんだ」

 

「………………」

 

「だから圭ちゃんにもそうあって欲しい。私が好きって言ったら同じことを言い返して欲しいし、万が一にも私が誰かに告白されたらさ、その相手以上に態度でも言葉でも良いから好意を伝えて欲しい。きっと…………いや、逆に圭ちゃんが同じことが起きたら必ず、絶対に!私も彼に望んだことをするから」

 

「陽菜乃ちゃん、いい性格してたんだね。良い人だけどさ」

 

「え〜?付き合いたてのカップルに横恋慕してる人が言う?」

 

「あはは……違いない………」

 

 苦笑しながらあかりが頬を掻いた。

 

 圭一にも責任を取らせようとしてるのは分かる。それなのに彼をここに置いたままにしなかったのは、やっぱりこう言う会話を聞かせたくなかったと、自分への気遣いもやっぱりあるのだろう。話してくれたこともきっと本心だろうけど。

 思った以上に一筋縄ではいかないと感じた言動を見て、そう言えばビッチ先生の弟子だったことを思い出す。

 

「(強いなぁ、陽菜乃ちゃん)」

 

 横恋慕。まさにその通りだ。

 けど、他ならない横恋慕中の相手の恋人に公認でアプローチを許されてしまった。しっかりフラれて来いという言葉付きで。

 

 なら、ここは開き直ろう。図々しく行こう。

 

 なんとなく勝てないと思ってしまった。それでも全力で喰らい付いて、自然消滅ではなく、しっかりと決着させる為に。

 少なくとも、この横恋慕で迷惑を掛けてしまう相手がそれを望んでいるんだから。自分なりにやり通すんだ。

 

 胸中でそのように覚悟を決めたと同時。陽菜乃から手が伸ばされた。スッと、心に手を挿し込むように。

 

「紳士協定ならぬ、淑女協定。ここで話したことはお互いに他言しないこと。んで、定期的にこんな風に話そっか」

 

「いいの?」

 

「私も話を聞いて欲しいこととかあるしね。圭ちゃんに言えないこととか、圭ちゃんとしてみたいこととか、されてみたいこと、圭ちゃん"に"したいこと。その他を赤裸々に。はしたないこと、下品なこと、下世話なこと。なんでもござれの女子同士のエグいドロドロ空間でね」

 

「惚気る気だね?」

 

「それくらいの権利はあるでしょ?」

 

「……いい性格してるよ、やっぱり」

 

 差し伸べられた手に自分の手を重ねる。

 お互いに握り合って、陽菜乃が笑った。

 

「褒め言葉だと思っておくよ。『おかしいな、性格悪いなんて言われたことないぞ?むしろいい性格してるって褒められるくらいだ』とか言う人の彼女ですので」

 

「類友だったかぁ……」

 

「お互いに、でしょ?」

 

「………うん。違いないね」

 

 方やいい笑顔、方や苦笑の凸凹した協定。

 けれど、不思議と思ってることは同じだった。

 

 




あとがき

はい、あとがきです。

茅野(あかり)と倉橋さんの関係性とかどうしようか悩みまして……。このまま宙ぶらりんでいくか、お互いに不干渉で行くのか。かなり苦手な分野だったので色々と迷走してこの形になりました。長文になってしまって申し訳ありません。

さて、次回からいよいよ冬休みの葛藤編スタートです。
どうなるのか生暖かく見守ってください……。

今回もご愛読ありがとうございます!

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