暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!

あと、あとがきの方は小説本編に関係ない話題になってますので、スルーしてもらって大丈夫です。どうしても誰かに聞いて欲しかった心の叫びなんです……。アップデートが告知されて地底人大量発生の危惧を受けてる例のゲームの話なんですが……。




168話 これからの時間 3時間目

 

 どうやらヒナたちの話は終わったらしい。

 思ったよりも長かったので病院から一度出て、その辺のコンビニでプリンと名前の作り物を一通り買い漁っていると同じく雪村の見舞いの為にプリンを求めてやって来た悠馬たちとばったり遭遇し、一緒に移動することにした。

 

「んで、そんな大量にプリンを買ってたのか」

 

「あぁ。雪村って言ったらプリンだろ」

 

「甘いものは基本的に好きって言ってたっけ?」

 

「触手を持っていると甘い物が食べたくなるんだ。もともと好きだったのかもしれないが、食の好みも変わったかもな」

 

「そう聞くとすげぇ深刻になるな、おい……」

 

 イトナからの触手持ちの特徴を苦々しく聞きながら、雪村の病室に向かう。一応ヒナもあるし、さっき出て来たばっかりで、その上戻って来て良いと連絡があった訳だが、一応ノックをするのは常識兼礼儀だろう。異性であるなら尚更。

 

 中から返事が返って来たのを確認してから扉を開ける。

 

「おかえり、圭ちゃん」

 

「ごめんね、出てって貰っちゃって」

 

「気にすんな」

 

「みんなもお見舞いに来てくれてありがとう」

 

 雪村から笑顔を向けられてみんなも安心した様だ。

 かく言う俺も改めてホッとしている。彼女が無事なのは分かっているが、仲間たちがいる中で笑ってくれるとしっかり連れ戻せた、戻って来てくれたんだなぁって実感する。

 

「思った以上に顔色良くて安心した。はい、これお見舞いね。みんな来たがってたんだけど、あんまり大人数なのも迷惑だろうしって事でみんなで出し合って買って来たんだ。えっと……プリン、変わらず好き?」

 

「うん、大好き!」

 

 片岡が渡したプリンを愛おしそうに抱く。

 茅野だった頃と変わってないんだな。甘い物好きはやっぱり素だったんだろう。まぁ、あれで演技だったら怖いが。

 

「んで、こっちが俺からの追加分な」

 

「追加分………………って!?滅茶苦茶入ってる!?」

 

 片岡の渡した袋に加えて俺が買い込んできた各コンビニの名物プリンたちの入った袋を渡す。

 驚きつつ、嬉しそうな顔をする雪村の横でヒナがシラ〜っと何処となく冷たい目を向けて来ていた。

 

「圭ちゃん……。いくらなんでもこんなに買ってくる?」

 

「………だってプリンで雪村が喜んでくれると思ったんだもん」

 

「だもん、じゃありません。優しいのは良いけど、お小遣いだって限りがあるんだからちゃんと考えて使わないとダメだよ?」

 

「お小遣いなら別に……。誕生日、お正月にトメさんから手渡され、クリスマスの枕元には真っ赤な靴下に入ったお小遣い。そんなこんなで手を付けてない金なんて一杯あるし……あはは」

 

「「「重っ………」」」

 

「うわぁ〜!めちゃくちゃいっぱいあるー!」

 

「リアクションの方向が違うぞ茅野!?」

 

「そうだろうそうだろう。普通のプリン、カスタードプリン、チョコレートプリン、プリングルス、プリンアラモードに贅沢プリンパフェ。コンビニスイーツも侮れないよな」

 

「いや、プリングルスはプリンじゃねぇよ!!?」

 

「甘い物を食べるとしょっぱい物が欲しくなるアレの対策と名前を掛けた洒落っぽいのが小賢しいわね……」

 

 ツッコミや指摘を受けながら笑ってみる。

 うん、やっぱりE組は他のクラスにはない、こういう緩さと賑やかさが武器であり、魅力だよな。俺は深刻に考え続けるより、こっちの雰囲気のみんなの方が好きだ。

 

「………それで……えっと、雪村さん?」

 

「いつも通り、茅野でいいよ、渚。みんなに呼ばれ続けるうちに気に入っちゃったからさ、この名前」

 

「……そっか、分かったよ、茅野」

 

「良かった。そう言ってもらえると助かるよ。正直、どっちの名前で呼ぶべきか考えちゃったもん」

 

「あー。だからプリン渡す時に『えっと』なんてらしくない吃り方してたのかよ、片岡」

 

「いや、普通は迷うでしょ」

 

「………………うん、まぁ、そうか。確かに」

 

 言われて見ると確かにそうだ。俺は茅野カエデを殺した。死神の奥義って奴を確かに使って復讐者として彼女を。

 だから、今の俺には彼女を昔のように茅野と呼ぶ資格はないだろう。そんな気持ちが雪村あぐりをなんて呼ぶのか?という議題に対して考えの4割を占めていた。

 

「お前らしいと言うか、なんて言うか……。んで?残りの6割はどんなこと思ってたんだよ?」

 

「そんな複雑なことは考えてないけどさ。名前を呼ぶことは存在を認めること。茅野カエデが自分を指す言葉だってのは雪村も認識してるし、今はそう呼ばれることを望んでるんだろうけど。でも、まぁ、1人くらいは本名で呼んでやないとなって」

 

「そうかなぁ……。いや、理屈はわからなくはないけど」

 

「……みんなで茅野って呼んだら、誰も雪村って呼ばなくなる。それって雪村あかりが"見て"貰えないのと同じだ。うちらにそんな意図はないし、本人もそこまで気にしないかも知れない。もしかしたら考えすぎなのかも知れない。でも、自分が気になるからそうする……だよね、圭ちゃん?」

 

「乃咲……」

 

 ヒナがモノの見事に俺の考えを見抜いていた。

 確かに雪村と対峙する前に似たような思考に思い至ったことを話したけどさ。なんでそこまで分かっちゃうのかなぁ。

 

「………ありがとう、乃咲」

 

「改めてそう言われると照れくさいから止めれ……」

 

「あ、照れてる。止めてじゃなくて、止めれって言った」

 

「ヒナ?俺のこと弄ってて楽しい?」

 

「え?最高に楽しいに決まってるじゃん」

 

「強かになった………いや、もともとか………?」

 

 俺の横で腰を曲げ、下から覗き込むようにこっちの顔を見上げてニコニコしながら脇腹をプスプスしてくるヒナとベットの上から手を伸ばしてちょこんと俺の袖を握ってくる雪村。

 え、なに、なんなのこの状況。ヒナちゃんなんか性格変わってない?プスプスが何気にツボに刺さっていたいよ?雪村もどうした?あれか、感情発散させたのは良いけどちょっと寂しくやっちゃったのか?

 

 首を傾げると見舞いに聞いてた仲間たちからジトーっとした目を向けられた。意味が分からん。今のもクソボケだったか?

 

「乃咲のことは置いといて。退院はいつになりそう?」

 

「あ、それは2週間後だってさ。殺せんせーからは全治2週間で済んだのが奇跡だって言われたけど……」

 

「実際、その通りだろう。同じく触手を持っていた俺だから分かる。アレは神経に根付くし、首に埋め込むから下手をしたら脊椎を損傷するリスクすらあった。アレだけの侵食でむしろ寝込むだけで済んだのは奇跡としか言いようがない」

 

「うぅ……その節はご迷惑をお掛けしました」

 

 ベットの上で小さくなった雪村。 

 そんな彼女に苦笑しながら渚がフォローを入れる。

 

「気にしないでよ。大変だったんだから。茅野も」

 

「うんん。そこだけじゃなくてさ。殺せんせーの過去のこと。私は知りたいことを全部知れたけど、みんなに取っては……」

 

「違うよ。茅野は悪くない。いずれにせよ、僕らも知らなきゃいけなかったんだ。考えなきゃいけない部分だよ」

 

 渚の言葉に全員俯いた。

 俺は彼の言葉が間違ってないと思う。殺せんせーの過去は知らなきゃいけなかったし、考えなきゃいけなかった。それを知ってるつもりだったから、俺なりに考えて、考えて、考え続けて結論を出して、そこまでの辛さを知っていたから、責任って言葉に置き換えて全部終わらせるつもりだったのだから。

 

「クラスのみんなが全力で目を背けて来たんです……。少しでも長く、この楽しい時間を続けるために」

 

「冬休みが始まって数日経ったけど、今日まで誰も暗殺を仕掛けてない。みんな考えてるんだよ。これからどうやって暗殺教室(この教室)に向き合って行くのかって」

 

「……うん」

 

 病室に訪れた沈黙。みんな考えているのだろう。殺せんせーを殺すか、殺さないか。いずれにせよ、遅くても冬休みが明けるまでには答えは出さなきゃいけない。

 

「みんなは……答え、出せそう?」

 

「僕は……冬休み明けだけど、ちょっと考えてることがあるんだ。その時にでも話すよ」

 

「私は……今は無理かも」

 

「俺もだなぁ……。難しすぎんよ、この問題」

 

 渚以外は顔を顰めた。唯一、何かしらの考えを持ってるらしい渚も迷いは抱えてるのか歯切れが悪い。

 まぁ、そうだろう。この病室の中でそれに対する答えを持っているのは俺くらいだろうさ。考え始めた時期も、使った時間も違うんだから。パッと答えを出せる問題でもないし。

 

「……乃咲クンは?」

 

 そこでカルマが俺に水を向けて来た。

 視線が全てこっちに向くのを感じながら答える。

 

「俺は………殺したい」

 

「……どうして?乃咲も殺せんせーのこと尊敬してるのに」

 

「殺せんせーがそれを望んでるからだ。確かに尊敬してる。得難い人だと思う。んで、その人が望んでる。死ぬならせめて俺たちの手でって。育ててくれたんだ。この暗殺を絆って言ってくれてた。暗殺教室だぞ?なら、最後の課題は暗殺だろ。それができないで卒業できるかって俺は思う」

 

 そう言い残して俺は雪村のベットに背を向けて病室の出口に歩き出した。渚は何か言いたそうだが、たぶん、彼自身も言語化出来ていないのだろう。結局、何も言わなかった。

 

「でも、だからって殺したくないって言う奴を否定もしないよ。そいつはそいつなりの思いがあるんだろうし。ヒナ、悪いけど先帰るわ。なんとなく、その辺ぶらぶらして帰る」

 

「うん、分かった。後で家に行くね」

 

「雪村、お大事にな」

 

「うん、また来てね」

 

 ヒラヒラと手を振って病室を出る。

 スタスタと歩いて病院の敷地を出て、どこの窓からも見えない位置に出ると同時に壮絶なため息を吐いた。

 

「はぁ〜〜〜、しんど………」

 

 塀に手をついてそんなことをぼやきつつ、後ろから近づいてくる気配に神経を向ける。

 病院から着いて来ていた。だから、もしかすると俺の後を追って来てた仲間のうちの誰かである可能性もある。だが、それと同時、烏間先生が言っていた"群狼"とかいう奴らかも知れないと警戒姿勢を取った。

 

 話によると、俺たちを監視する任務に就いてるとか。

 何事もないならそれでいいんだけど。

 

 そう思いつつ、角から出て来た人物を見て安心した。

 

「声、ちょっと聞こえてたよ。そんなにしんどいならあんな言い方しなきゃ良いのに。不器用だねぇ、乃咲クン」

 

「なんだカルマか」

 

「倉橋さんじゃなくて悪かったね」

 

 ケラケラと笑いながら病院で買っていたらしい紙パックのジュースを投げ渡してくる。

 

「久々に遊ぼうよ。この後、暇でしょ?」

 

「構わんぞ。お前の奢りならな」

 

「ジュース奢ったからチャラっしょ」

 

 相変わらず軽薄な笑い方をする。これで実際は相手をしっかり値踏みして評価しながら接してるんだから怖いよなぁ。

 ストローを刺し、行儀悪いと理解しつつもカルマと並んで住み慣れた街を練り歩く。特に行く先も決めずにぶらぶらと。

 不良やってた頃から俺たちは変わってない。あったらなんとなく適当に歩いて、互いに気になった店に入って、相手について行って時間を潰して。そして最後にゲーセンに行って締める。

 

「乃咲クンさ、殺せんせーのこと、いつから気付いてたん?」

 

「お前の停学復帰前から」

 

「ありゃ、そんな前からだったのね」

 

 取り留めもなく始まった会話。

 なんでもないことのように聞かれたことに、こちらもなんでもないことのように返事をする。

 

「おかしいと思ったんだよ。殺せんせーが話してる時、乃咲クンってば驚いてる様子がないんだもん。こりゃあまた情報1人で抱えてたんだろうなぁーとか持ってたけどビンゴだったのね」

 

「殺せんせーが次の3月に死ぬこと、その時に地球と死ぬ可能性もあるし、1人で死ぬかも知れないって部分はあの人が赴任して来て直ぐに問いただしたらあっさり答えてくれた」

 

「まじか」

 

「んで、殺せんせーが"初代死神"ってのは2代目の事件の辺りからなんとなく予感はしてた。しっかり打ち明けられたのは俺が1人で仕掛けた最後の暗殺の後だ」

 

「情報抱え過ぎでしょ……。倉橋さんは知ってんの?」

 

「結論は話してなかったな、どちらも。寿命については殺せんせー本人と秘密にするって約束してたし、死神の件はヒントは出してた。当時はまだ確信してなかったってのもあるけど」

 

「なんつーか、ほんと色々抱えてたんだねぇ」

 

 2人してTSUTAYAのカードコーナーに並ぶ。

 トレーの中に入ってる無数のカードから適当にレアそうな物を引っ張りだして並べながら雑談感覚で話を進めた。

 こういうトレーの中には割とこんなカードが投げ売りされてていいのだろうかと疑問に思うような物が眠ってる。

 カードの四隅が折れてたり、萎れてたりで価値が低くなったからこんなところに入れられてるんだろうなぁ〜とか思いつつ、カルマがエグゾディアを引っ張り出して来たので他の4パーツを探し出す。全パーツが揃った時、カルマが5枚を例の形に並べたので、こんなこともあろうかとキープしていた激流葬を良い感じの場所に置いて、2人でケラケラと笑う。

 

「そんで?乃咲クンは殺せんせーを殺す。それでいいの?」

 

「良くはないな」

 

「……言ってること、違くない?」

 

「ぶっちゃけ、殺したいけど死んで欲しくないってのが素直なところだ。殺すしかないなら殺す。殺さなくていいなら死んで欲しくない。殺せんせーを殺すことが成長した証を見せるってこだと思う反面、生きてこれからの成長を見てて欲しいっても思う」

 

 遊ぶだけ遊んでそのままと言うのもアレなのでエグゾディアと激流葬はしっかり買い取った。やっぱり投げ売りされてたのか、ワンコインで買えてしまった。

 

「んじゃ、どうしてあんな風に殺す表明しちゃたの?まだ考える時間なんてあるじゃん。せめて冬休みまで考えて、じゃなくてもみんなの様子を伺っておくことも出来たんじゃない?」

 

「殺せんせーに生きて欲しい、死んで欲しいってのは抜きにしてさ。仮にお前が殺したい側だとして、冬休み明け、俺が殺せんせーを殺したくない。暗殺なんて止めよう!とか言ったとしてさ。納得できるか、カルマ?」

 

「………まぁ、納得はしないだろうね」

 

「だろ?自意識過剰でもなんでもなく、E組で可能性が最も高いのは俺だろう。実際、殺す手前まで行ってるし、たぶん、殺そうと思えばいつでも殺せる。そんな俺が殺したくないとか言い出したら、殺したい側の連中は理解はしても納得はしない」

 

「……俺たちは殺したいのに手が届かない。乃咲が協力してくれれば確実に殺せる。なのに、なんでアイツは殺したくないとか言い出すんだ?俺たちの中で最も可能性があるのに、俺たちでは出来ないことを1人でできる癖にって。思うだろうねぇ」

 

「速い話がそう言うことだ。殺せんせーを殺さないで済むならそれが一番だ。でも、確実性はない。実証も確証もない。そもそも可能性すらあるか分からない。一方、殺すことはできると言う実証も確証もある。そんで、他でもない殺せんせーが暗殺こそが俺たちの絆だと言ってる以上、あるかもわからない可能性を探して時間を浪費することを、殺したい側の連中は絶対に納得しない。全力で挑んで完璧に殺し切ることが恩返しだと思っている、信じているからだ。違うか?」

 

「うん、違わない」

 

「なら、可能性が最も高い俺が初めから殺す側だと表明しておく。そうすれば、少なくとも殺したい側の連中は納得するだろ。少なくとも俺が殺したくないとか言うよりは」

 

「だとしても、ホントにそれで良いわけ?」

 

「まぁ、殺したい側だけじゃなくて、殺したくない側も少なからず納得するだろう。もともと、地球を救う為に殺せんせーを殺すってのがこの教室の根幹だ。実際、その為に仕掛けたのが前回の俺の単独暗殺だしな。確実に地球を救う為に殺すって俺の選択はアイツらも否定できないだろう」

 

「違うよ、そうじゃなくて。それって乃咲クン、また"責任"を背負ってるんじゃないの?責任で選ぼうとしてない?」

 

 カルマからの質問は鋭い物だった。流石にE組の中では一番付き合いが長いと言うべきか、的を射ていた。

 実際、そう言う側面がないわけじゃない。ある種の強者としての責任であることは間違いない。それは否定しない。

 

「今回は別に俺1人が背負うわけじゃない。殺すべきだから殺すって訳でもじゃない。可能性があるなら賭けたいけど、実際に出来るか分からない。だったら全力で向き合い続けていたい。無為に時間を使うよりも、今までみたいに。だから殺したい」

 

「…………」

 

「みんなの為にって気持ちがカケラもないって言えば嘘になる。でも、きっと殺せんせーを殺したいって言う奴はいると思う。それだけで前回の単独暗殺の時よりよっぽど心強いし、俺ならそいつらの旗頭になれる。人情的に殺せんせーを殺したくないってのは正当な主張だし、倫理的にもそれが正解だ。でも、この教室では殺せんせーを殺したいってのも正解なんだ」

 

「………うん、そだね」

 

「だから、殺したいって思ってる奴らが口篭らないで良い環境をまずは作る。冬休み中はそう言う方針で動くつもりだ。悩んでる奴らが少しでも答えを出しやすいように、後悔しない為にな」

 

「…………そんで、責任は背負ってるの?」

 

「みんなが選ぶ。みんなが自分の選択に責任を持つ。俺1人で背負わない為にみんなより"ちょっと"強い俺が先に動く。それだけの話だ。別に手伝ってくれても良いんだぜ、カルマ」

 

 俺の言葉にカルマはキョトンとして、呆れたような半笑いになり、困ったように頭を掻き、肩を落として口を開いた。

 

「根がいい子ちゃんよね、乃咲クン」

 

「超絶不良児だぞ?みんなが悩んでる時に結論を出して先走るわけだし、んでも、1人で赤信号を渡るのが怖いからお前を誘ってる訳だしな。みんなの悩みなんて知るか、俺は話を聞けー!するんだし。いい子ちゃんな訳がないわな」

 

「んで?そのいい子ちャンな訳がないクンは、何の為に突っ走って、先走るわけ?」

 

「俺や竹林みたいに悩んで考えて気が付けば夏休みが終わりました〜みたいな思いをして欲しくないだけ。殺すにせよ、殺さないにせよ、殺せんせー、俺たち、烏間先生とビッチ先生がいる中学3年の冬休みは2度と来ない訳だしな。後になってもっと遊んでおけば良かった〜とか後悔しないように、かね」

 

「………んじゃ、仕方ないねぇ。いいよ、俺の気持ちもどちらかと言えば殺す側。そういう意味で乃咲クンの考えは理解と納得の両取りだ。協力するよ。何をすればいいの?」

 

「………そうだな、俺が声を掛けたら学校に来てくれ。ひとまずそれだけでいい。こんな風に偉そうに色々言ってる手前でアレだけどさ、もう一度だけ自分の気持ちを確かめてみる。明日1日だけ待ってくれ。覚悟が出来たら明後日にでも学校集合って連絡するから。お前も最後にもう一度考えておけよ」

 

 いつもの流れで俺たちはゲームセンターにいた。シューティングゲームで競って、UFOキャッチャーで良くわからないルンバみたいなのとかゲットしたり、メダルゲームで競争しながらスロットで荒稼ぎしたり、エアホッケーで人智を超えた戦いを繰り広げて会話が終わる頃に決着がつく。結果的に言えば俺のパーフェクトゲームだったけど楽しかった。

 

「くっそ……強すぎでしょ」

 

「止まって見えるからな」

 

「ってことはずっと舐めプしてたわけ?」

 

「んや、視界だけゾーンに入った状態で身体の動きは普通の速さだと動きにどのくらい違和感が出るのかってのを検証しながら一生懸命に頑張りました!」

 

「検証しながらやってる時点で舐めプじゃね……?」

 

 自販機でいちごオレを買い、苦笑するカルマに投げ渡す。

 

「いいの?」

 

「もらっとけ」

 

「んじゃ遠慮なく」

 

 綾鷹は……うん、自販機だと高いな……。

 んでも、口は綾鷹の気分だし、仕方ない。

 

「……乃咲クンさぁ、随分と強くなったよねぇ」

 

「んまぁ、色々あったし。強化人間だったし」

 

 グビグビと音を立てながら飲む綾鷹は美味い。

 

「去年の今頃とか、エアホッケーやったら絶対に俺の勝ちだったじゃん。他のシューティングゲームとかもさ」

 

「せやな」

 

「あっちのパンチングマシーンとか、今やったらどうなる?」

 

「ぶっ壊れたなぁ……。夏休み明け、故郷で療養中にヤンキーに絡まれたんだけどさ。流れでパンチングマシーンやることになって、ぶっ壊してしまったことがあった」

 

「何やってんのお前……。つか、前から思ってたけどさ、乃咲クンって滅茶苦茶絡まれやすいよね。ヤンキーとか輩に」

 

「今年も絡まれまくってるしなぁ。修学旅行、夏休み、療養中、学園祭。あとは死神とかな」

 

「ガチ殺し屋に絡まれてて草」

 

「ホント、どうなってんだろ」

 

「俺と初めて話した時も絡まれてたっけ。他校の不良にボコボコにされててさ、半泣きになって地べたに転がってんの」

 

「アレは怖かったなぁ……」

 

 懐かしい。言われてみるとそんなこともあった。

 滅茶苦茶怖かったっけか。

 

「あん時さ、どうして反撃しなかったの?」

 

「できるか。本気で怖かったんだから」

 

「でもさ、次に会ったときは殴り返してたじゃん。しかも3対1で返り討ちにして。喧嘩したことない奴ができる?そんなこと。少なくとも完全に戦意がない奴にできることじゃないし、ボコボコにされてる時も実は我慢してたんじゃない?」

 

「…………まぁ、怖いとか思ってた反面、イラついてたのも確かだな。でも、根幹に暴力はダメだって理性があった。まぁ、次に絡まれた時にはあっさりその理性も崩壊、殴り返してみたら滅茶苦茶弱いじゃんコイツらってなって、こんな奴らにいいようにやられてたのかって更に頭に来てさ」

 

「びっくりだったよねぇ。ボコボコにされてるの止めに入って助けたと思ったら、別の日にはそいつがボコボコにする側になってんだもん。『そこまでにしておいたら?』って言葉を助ける為に使ったあとで止める為に使うことになるなんて思わなかったよねぇ。思えば、乃咲クンってあの頃から敵には容赦ないよね」

 

「………………まぁ、はい。否定はしませんが」

 

 思い当たる節が多過ぎるので小さくなって返事する。

 そんな俺の横でぐでぇーと座りながらカルマが呟いた。

 

「ちょっとだけ気にしてんだ。学校一の優等生だった奴をこっち側に引き摺り込んだのは俺なんじゃね?ってさ」

 

「そうか?」

 

「乃咲クン、前に言ってたじゃん。喧嘩は俺の動きを真似てたって。殴られながら暴力は良くないって耐えてた奴が、俺の真似をしてあっさり喧嘩強くなった。他の学校の奴らに目をつけられるようになって絡まれて、喧嘩して、どんどん不良って奴になった。元のクラスの担任殴ったのだってそうやって喧嘩して拳が軽くなったのも少なからずあるんじゃない?ってさ」

 

「それは少し考えすぎだな。多分、俺は結局はE組に落ちてたさ。万が一、お前の所為で最後の引き金を引いたんだとしても、だ。俺は今が楽しい。だからカルマが気にすることはなんにもない。砂つぶ一つ分すら考える必要はないぞ」

 

 カルマの所為だとか考えたことすらしなかった。

 確かに俺が喧嘩で強くなったのは、カルマの動きを真似たからだ。でも、そっから先、売られた喧嘩を買って、一番最初に絡んできた奴らに逆襲決めて最終的に俺を見るだけで泣き叫ぶくらいになるまで追い詰めたのは俺自身の意思だ。

 

「俺はE組に落ちて良かったと思う。今だから言えることだけどさ。悠馬と前原が絡んできてくれたから、俺は浮かなかった。渚、杉野、雪村(茅野)が話しかけてくれたから話せる相手が増えた。修学旅行の時の班員と一緒に行動したから居場所に困らなかった。寺坂組が手を貸してくれるようになったから人手で困らなかったし、裏方メンバーがサポートしてくれるから心強かった。お前がいつか来ると分かってたから、E組に来るのが憂鬱じゃなかったし、父さんと和解して、立ち直って、ヒナと恋人になれた」

 

「…………」

 

「俺はこれまで自分主体で動くことは殆どなかった。大体はみんなに誘われていつの間にか指揮官ポジになってたり、俺の悪巧みを察知した連中が話を広げて要請する前に協力してくれたからだ。俺は今日までE組の仲間に支えられて来た」

 

 そうだ。俺が自分の意思で動いて周りを動かしたことが何回あったのだろう?仲間たちから水を向けられることなく、自分から提案し、周りを導いたことがあったか?

 俺の記憶が正しければ、数えられる程度しかない。作戦の立案や指揮もある意味では似たようなカテゴライズで、その回数を数えればクラスの中でもトップだろうが、悠馬や片岡、学秀みたいに周りを導くことはしてこなかった。

 

 実際、その必要を感じてはいなかった。

 なぜなら、自分は指揮官ポジであって、リーダーではない。みんなを引っ張っていくのは悠馬たちに任せていた。夏休み明けは特にそう。作戦は立てるし、大まかな道筋は指揮するけど、細かいところは各班のリーダーに任せて、俺はワンマンアーミーとして動くことが多かった。

 

 でも、ここに来て自分から動くべき時が来た。

 

 動くべき、というか、動きたいのだろう。

 

 今まで水を向けてくれていた奴らが今、悩んでる。どうするべきなのか、答えを出せずにいる。

 だったら、次は俺の番なんじゃないのか。E組の仲間たちに支えられて来たと思うのなら、次は俺が支える番だろう?

 

 基本的に今までの俺はずっと受け身だった。自分から動かず、誘わず、声を掛けられたから参加し、そういう流れだったから自分の役目を果たすとか、そんな感じ。前に説教された時のトメさんの言葉を借りるなら、誘い受けだった。

 

 そろそろ攻め側になっても良いだろう。

 

「なにはともあれ、お前は俺のE組落ちには関係ない。仮にお前の所為なんだとしても、俺は今、幸せだ。だから感謝こそしても恨みはない。E組の連中に散々救われて来た。だから、今度は俺がみんなに返す番だ」

 

「…………はぁ。ほんと、随分変わったよね、乃咲クン」

 

 カルマが立ち上がった俺を苦笑しながら見上げる。

 話したいことは話したし、自分の方針も決めた。

 

 あとは動く。その為にもさっさと帰ろう。

 

「んじゃあな、カルマ。また明後日」

 

「ほいほい、気ぃ付けて帰んなよ。倉橋さんが泣くからね」

 

 軽口を背中に受けながら、手をひらひらを振り、ゲーセンを出る。さて、この無駄に張り切って乱獲した戦利品たちを家に持ち帰るのが早速の課題だな。

 まぁ、良いか。たまには両手一杯に荷物を持って家まで帰るって経験をしてみるのも悪くない。

 

 家までの道半ばくらいでヒナから連絡があった。

 どうやら今日は泊まっていくらしい。

 

 2人きりで自分ら以外誰もいない家で寝泊まりするのも緊張するし、いっそ修学旅行1班の面子を招集するか?

 

 数分後、全員に断られて『ドキッ、二人きりのお泊まり会!』の開催が決定してしまった。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「………だってさ。みんなはどーする?」

 

 カルマは圭一の去った方向を眺めながらスマホに語り掛ける。その画面には通話中の文字と更新され続け、1時間を超えている通話時間が刻まれていた。

 

「乃咲クンがみんなの前で自分から意見を出す時って大体、周りの為になんかしようとしてんだよねぇ。前期中間の時とかその典型。なんでか自分にヘイトが向きかねない動きばっかすんのよ。ほんトに世話が焼けるというかなんて言うか……」

 

 この一年を思い返し、懐かしそうに目を細めながら、同時に記憶の中の色んなモノ、色んな姿に苦笑しつつ、ボリボリと頭を掻いてスマホを再度持ち上げて、言葉を紡いだ。

 

「俺は色んな意味で乃咲クンに賛成。みんなも考えてみてよ。言われるまでもなく考えてんだろうけど。明日、多分、乃咲クンは学校に行く。アイツがどんな答えを出すのか気になる奴がいるなら、とりあえず行ってみるのもアリなんじゃない?」

 

 通話中終了のボタンを押し、スマホを握った手をベンチに置き、いちごオレを一気に喉へと流し込む。

 

「世話が焼ける癖に世話焼きだよね、アイツ」

 

 言ってから気付く。きっとこの場に圭一がいて、今の会話を聞かれていたのなら、自分も同じように言われたのだろうと。

 




あとがき

はい、深き夜の話を聞いて戦々恐々としてる夜渡りです。
いやぁ……マジかぁぁぁぁぁ!!!?

最近になって追跡者でなら、通常ボス全種、常夜グラ、蟲、カリゴ、リブラをソロでクリアできるようになったと思ったら、もう次の話が飛んできてしまった……。

なにあれ、聖杯ダンジョン?9kv8xiyiなの?ソロモードあるよね、マルチ専用だったりしないよね……?マルチとか怖くて出来ないよ?猛者2人に囲まれて急かされながらプレイするとか泣いちゃうよ、拙者。常夜エデレ、マリス、フルゴだってソロでどうしてもクリア出来なかったから怯えながらマルチでクリアしたのよ……?

怖い、フロムのマルチゲーはガチ勢とライト勢の差がエゲツないから怖い……。
ナイトレイン、やっぱりマルチの方が難しいっすよ。ソロに慣れてる所為でマルチのボスがやたらと硬く感じるし……。

んぁー!楽しみだけど怖いっ!!

以上、ライト層フロム民の叫びでした!
お付き合いいただきありがとうございました!

今回もご愛読ありがとうございます!
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