加えてたくさんの評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!
夜が明けた。いっぱい遊んで、いっぱいイチャイチャして、彼の考えをベットで聞いた。いつの間にか寝落ちして朝日が昇る時間になった時、外は一面雪景色で。圭ちゃんはそんな外の光景には目もくれず、私の頬をぷにぷにして遊んでいた。
昨日は正直、危なかった。色々と我慢ができなくなりそうだった。それでも辛うじて我慢して迎えた朝。こっちの気も知らないで頬をつつき、唇を指先でぷるんぷるんと弄んでくる圭ちゃんの鳩尾に頭突きをしてシャワーを借りる。
これ、ビッチ先生が教えてくれたキスをしてたら絶対にやばかったよ。圭ちゃんの大きくなってたし、私も興奮してた。
シャワーを浴びながら1人で反省会。
一応、私も彼もまだ、自分たちは中学生で"そういう行為"はまだ早いと共通で認識してるし、だから一緒に寝てるのにいわゆる、本番というか、最後まではシてないわけで。
でも、こんなことを繰り返してると絶対に我慢できなくなる日が来る。私か、あるいは圭ちゃんか。
こっちから手を出したら彼はどんな反応をするだろう?普段は受け身な彼に色々と迫る妄想をしたことがない訳じゃない。
逆に圭ちゃんから手を出してくるとしたら、どんな風にされるだろう?一緒に寝ても手を出してこないし、私が寝てる間にエロいイタズラもしてこないくらいには鋼の理性を持ってる彼が、まだ早いとお互いに思ってるにも関わらず手を出してくるなんて、状況がいまいち想像できない。息を荒げながら襲ってくるのか、それでもなけなしの理性を動員して可能な限り優しくしてくれるのか、あるいは謝りながらおっかなびっくり手を伸ばしてくるのか。彼の場合はどのパターンで来るかな?
正直に言えば、手を出されることに対して恐いと思う気持ちはある。でも、それ以上に強引に来て欲しいと思う部分もある。
圭ちゃんが頼りない訳ではない。本人は『肝心な時しか役に立たない』とか『肝心な時ですら役に立つか怪しい』みたいなことを言ってるけど、みんなそんなことは思ってないだろうし、なにより、その肝心な時って奴が多いこのE組でその瞬間に頼りになるのはこれ以上ない強みだと思う。
でも、主体性があるとは言い難い部分もある。基本的には受け身の姿勢で、クラスで磯貝くんたちと話してる時も自分から遊びに誘ってる場面は見たことがない。圭ちゃんは誘う側ではなく、誘われる側にいることが多い。
そんな圭ちゃんだけど、たまに自分からグイグイ行くことがある。そう言う時は大体何かしらの事件や周囲の繊細な事情に巻き込まれてるんだけど、そんな時こそ自分から動く姿は否応なしにギャップ萌え的な物を感じさせてくる。これが計算の上でやってることなら、彼は相当な策士だ。少なくとも、あかりちゃんは彼のそんな部分に落ちたんだから。
私も見てて、もっと積極的に動けばいいのに。と思うことがない訳じゃない。時々、周りの会話に混ざりたくてうずうずしてる姿も見るし、妙なところでコミュ症を発揮してることを知ってる。まぁ、だから主体性があんまりないのかもしれないけど。
でも、だからこそ、圭ちゃんが自分からグイグイと求めて来た時、私はどうなってしまうんだろう?と唆られるんだ。
今ですら、圭ちゃんの方からハグを求めて来たり、辛かったとかしんどかったって時に抱き付いて来た時は頭が茹だってしまいそうになるのに。そのまま一生ものの体験をしたら私はどうなっちゃうんだろう……?
多分、拒めない。
それも、ただなし崩し的に拒めないのではなく、むしろ私の方も盛り上がってしまうかもしれない。
だって、お互いにまだ早い、まだするべきじゃない。そんな風に思ってるのに、理性が強くて、けれど普段は主体性の弱い圭ちゃんが本能に負けて自分から私を求めてくる状況。そんなの、拒むべきだって分かってても、こっちの理性が持たないよ。
でも、でも、それはそれとして主体性のないことをいいことに、私から迫って圭ちゃんがどんな反応をするのか見たいって気持ちもある。襲いながら、それでいて自分の懐に仕舞い込むように優しく、ゆっくりと甘やかす。
うん、いいシチュエーションだよね。抱き締めたり、抱き締められるのが好きな圭ちゃんだ。本人は気付いてないかもだけど、抱き締められてる時になんとか覗き込んだ彼の顔は本当に幸せそうに蕩けていた。きっと、そんな風に迫れば、もっと愛しいと思える所を見れるかもしれない。
けど、それも捨てがたいけど、無理やり迫った時の反応も見てみたい。これこそ、本当に良くないことなんだろうけど、きっと心底唆る反応をするに違いない。少なくとも私にとっては。
頭の中でもんもんとそんな妄想ばかりが膨らむ。
あぁ、これ、私だけこんなに盛り上がってたらどうしよう。それは少し嫌だし、恥ずかしいし、ムカつく。
圭ちゃんも同じことを考えてないかなぁ。
私だけこんなこと考えてるの不公平だよ。それに、彼も彼だ。隣に彼女が寝てるんだよ?そりゃあ、初めて色々されるなら起きてる時の方がいいよ?でも、ちょっとくらい手を出そうとか悪戯しようとか思わないかなぁ……。
流石にいくら好きだろうと、よっぽどじゃなきゃ恋人だろうと少しも期待してない相手と同じ布団に入るわけがないじゃん。
確かにほっぺをつつかれて、唇をプルプルさせられてたけどさ。もっとあるじゃん。どうせなら寝てるところにキスとかさぁ。もっとこう、いろいろとあるでしょ。
圭ちゃんはアレだよね。持ち前の鈍感さと理性の強さを発揮して、女子なりにワンナイトOKのサインを出して同じ部屋で泊まっても手を出してこないから"いい人"で終わるタイプだよね。魅力も感じるし、そう言う関係になってもいいと思ったけど、何も起きなくて『なんか違うのかなぁー』で終わっちゃうヤツ。
正直、現代の恋愛観では致命的じゃない?
昔ながらの『告白→付き合う→ベットイン』だってきっとあるだろうけど、『ベットイン→付き合う』みたいな展開もなくはない現代社会では、いい人で終わる相手が沢山出て来そう。
まぁ、私がいるからそうはならないけどさ。
「…………もう出よ」
短く呟いてお風呂場から出る。
この時期、湯船に浸からないと少し寒いけど、このジワーっと身体が冷めてくる感覚は嫌いじゃない。最新流行りのサウナとか、整ったあとの外気浴ってこんな感じなのかなぁ………。
なんて思いながら手早く体を拭いて服を着る。嫌いではないけど、あんまりやってるとお腹が冷えちゃうし。
それに、流石に彼氏の家ではそんなことは出来ない。心の準備とか諸々足らないと思う。
「シャワーでましたぁ」
「うぃー」
リビングに顔を出すと、気の抜けた返事が返ってくる。
ソファーに座ってテレビでも見てるのかな?と思ったけど、そこにはいない。気配を探ると、そう言えばビチビチと油の跳ねる音が聞こえてるので視線をキッチンに向けると圭ちゃんはそっちに立っていた。側から見てもかなりの手際の良さで食器を出して、味噌汁作って、と準備を進めていた。
「ヒナ〜、朝ごパンと朝ごはんどっちがいい?」
「えっと、じゃあご飯で」
「うぃ〜。目玉焼きは半熟派?しっかり焼く?」
「半熟派かなぁ〜」
「うぃ〜〜」
すごい。そう言えば料理してるところなんて調理実習以外だとこの前のプリン作り以来だけど、手際が本当に良い。
ときどき、ベーコンの油が跳ねてビックっとしてるけど、それ以外では特に手持ち無沙汰感もなく、どんどん朝食が出来上がっていく。流れるような動作で次々に。
そう言えば、料理上手な人はマルチタスクが得意って話をなんかの番組だか雑誌だか動画で見たことがあった。
圭ちゃんの場合、複数の仕事を進めるって意味のマルチタスクではなく、ガチの並列思考が使える上に時間の流れを遅く感じるくらいの集中力がある。そういう意味だと、すごく手際が良く見えるのもある意味では当然なのかも。
「圭ちゃん、なんか手伝えることある?」
「スマイル100円プリーズ」
「ニコッ」
「Fooooo!」
うーん。スマイル100円とか、もうやってる場所はないよね。はてさてどうしようかな。
「あ、じゃあ米をよそっておいて〜」
「うぃ〜、やっとくね〜」
「ぅうぃ〜」
圭ちゃんの真似をして返事をすると、癖の強い言い方になって返って来た。炊飯器の横に重なってたお茶碗に米を盛る。
これまで何度かこの家でご飯を作ったし、圭ちゃんのご飯もよそった。だから大体好みの量は掴めてるけど、念のためにこんな感じでおk?と確認を取ってから自分のよそう。
「はいよぉっ、朝飯お待ちぃ!」
ちょっとテンション高めにベーコンと目玉焼き、レタスの乗った皿をテーブルの上並べ出したので、配膳を手伝う。
うん、こうして配膳しながらお皿の中を見てると圭ちゃんって実は結構料理上手なのかも知れないな〜なんて感じてしまう。
「んじゃ、いただきまーす」
「いただきます」
朝食に手を付ける。なんて言うか、ありふれた朝食って印象のメニューだけど圭ちゃんが作ったからなのか、凄く美味しく感じるのはなんでなんだろう。
実際、美味しい。目玉焼きとかびっくりするくらい黄身がトロトロだし、ベーコンなんかカリカリしてるというか、パリパリしてるというか、その癖焦げてる感じはない。お味噌汁もしょっぱくなく、かと言って味が薄いわけでもない。
「うん、美味しいよ!圭ちゃん」
「ありがとう、作った甲斐があった」
美味しいと伝えると、彼は嬉しそうに笑った。
この教室が始まった頃に比べると彼の笑みも分かりやすくなった気がする。口の端だけ上げて笑うと言うよりニヤけるみたいな印象が昔は強かったのに、今は微笑んでいるのだとわかる。
「脳内で海原雄山ごっこしてたけど、どうやらうちなる雄山に従ってみて良かったよ」
「うちなる雄山!!!?」
「あぁ……。ベーコンをひっくり返す時、『いいのか士郎、ひっくり返すタイミングは今で良いんだな?胡椒を振るタイミングは今で良いんだな?』って聞いてくんの。んで、雄山が何も言わないタイミングでやると上手くいく」
「便利だね!!?」
「あぁ……。でも、俺の封印されし左手に眠る、シロウヤマオカの気配が強くなるんだ………」
「右手じゃなくて左手なんだ………」
「気にする部分はそこじゃないだろ……」
うーん、でも今度やってみようかな。
あれ、でも待ってよ?彼のことを言ってることを間に受けると、実は海原雄山ごっことか言いながら、料理が上手くて詳しいキャラクターの思考をトレースして実際にご飯を美味しく作るって実はとんでもない技術を使ってるんじゃ?
圭ちゃんって、時々、こんな感じでしれっととんでもないことするよね。普段の生活ではそんな場面はあんまりないのに、ふとした瞬間に周りの人間を嘲笑うみたいなスペックの高さを披露するというか。
実際には彼本人は嘲笑う意図もなければ、そんなこともしてないんだけど。本当にしれっとしてると言うか。
「……ヒナ?」
なんとなくじーっと彼を見てると、私の手が止まってしまっていた。首を傾げる彼に対して返事の代わりに微笑み返してご飯を食べる手をまた動かし始める。
ただ、それでもなんとなく、やっぱり私の目は彼の動きを無意識に追ってしまっていた。
彼、やっぱり育ちがいいと言うべきか。お箸の持ち方は綺麗だし、めちゃくちゃ自然に三角食いしてるし、テーブルに手を付かないし、当然くちゃくちゃしないし、そう言えば食事中に圭ちゃんから話しかけられたことって、『美味しいよ』とか『ここ美味いな』とかそんくらいだった気がする。
「…………食事中に言葉が少ないかは気まずい?」
「そんなことはないよ?でも確かに口数少ないかなって」
「そうか……。ごめん、気を付ける」
「いやいや、謝ることじゃないって!そういう教育方針のお家とか珍しくないだろうし。家ごとで違う部分じゃない?」
「そっか。なら良かった。実は小学生の頃とか基本的に黙々と食べてたからさ。『乃咲って普段は面白いヤツなのにメシ食ってるとつまんねぇーよなぁ』とか言われたことあるからさ」
「あはは……子供ってそういう部分では容赦ないもんね。私は別にいいと思うけど。話したいことがあればこっちから振るし、それに対して無視されてるわけでもないから。なんとなく、圭ちゃんってやっぱり育ちの良さみたいなのが出てることあるよなぁって思ってただけ。圭ちゃんとの無言は気まずくないよ?」
「……そっか、ありがとう。トメさんにも伝えとく」
うん。こうして改めて考えると、やっぱり圭ちゃんって結構マナーとかしっかり守るタイプだ。
食べてる時も色々と静か。それは黙食してるとか、くちゃくちゃしてないとかだけじゃなくて、お茶碗やお椀の上げ下げとか、お箸を置く時とか。特に意識してる訳でもなさそうなのに凄く静かだ。所作が自然で綺麗なのかな。
こんな人がヤンキーやってたの……?
「圭ちゃんって食べてる時の音も静かだよね。まさか麺類とかもそんな感じで食べてるのかな?」
「いや、それこそまさかだろ。ラーメン、蕎麦、うどんは音を立てて啜ってなんぼだと思ってるぞ」
「へぇ〜、そう言えば圭ちゃんとその辺を食べに行ったことないよね。どんぐりつけ麺の時は……あ、そう言えば啜ってたね。ズルズルズルって感じじゃなくて、ズゾゾゾゾ!って感じで」
「ちなみに、行儀悪いのは分かってるけど、パスタとかスパゲッティとかも1人の時に限って啜って食べてるぞ」
「え、それは意外かも。なんで?」
「あの辺の麺類ってさ、フォークでちょっとだけ掬って巻き付けて食べるじゃん?」
「だね」
「あれが面倒くさい………」
「えぇ……」
「チマチマチビチビとなんか食べてる気がしない。麺類は啜ってなんぼだろうって価値観と合わさって、そんなにチマチマ食ってたいならマカロニでも食ってろって思ってます、はい。だから俺はスパゲッティとパスタは箸で食べたい派」
「おおぅ……。圭ちゃんも中々言うね……。そういう暗黙の了解っていうか、マナーみたいなのはずっと守ってそうだったから、やっぱり意外だよ……」
「俺も美食家って訳じゃないからな。自分が満足する食べ方で食うのが一番だろ。あ、でも流石に外ではやらないから安心してくれ。極力ヒナの前でもやる気はないから」
いや、正直に言えば言いたいことは分からないではない。
例えば専門店とか雰囲気のあるお店で出されたヤツなら、できるだけ場に合わせて上品に食べたいと思うけど、それはそれとして確かに誰も見てないならオシャレに食べる必要もないんじゃない?と思う場面もある。
「別に気にしないでいいのに。あ、でも麺類の食べ方で許せないヤツはあるかも」
「ほほぅ?例えば?」
「啜ってる麺を途中で噛み切って汁とかスープに落とすヤツ」
「……あー。それは俺もあんまり好きじゃないな。熱いのは分かるからさ、噛み切るな、とは言わないけど汁とかにぽちゃぽちゃ落とすんじゃなくて、箸でしっかり持てばいいのに〜とは」
「あんまりその辺を気にする人はいないかもだけどね」
その後も独断と偏見による食べ方の好みの話が続く。ちなみに、圭ちゃんは会話と食事を両立させてることに慣れてないみたいで、私の方が先に食べ終わってしまった。
「食べてるところ見られてるのも恥ずかしいし、先に着替えて来いよ。ヒナが着替え終わる頃には俺も食べ終わるだろうし。食器も水に浸けててくれれば良いから」
「え、でもご馳走になったし、片付けくらいは……」
「いいの。なんだかんだ言ってお客様だしな。早く着替えないと途中だろうと関係なく扉開けに行っちゃうんだからな」
「…………私はいいよ?」
「よくねぇよ、とっとと着替えてこい!」
「自分から言い出した癖に……。はーい、お言葉に甘えまーす。ご馳走様でした〜」
言われた通りに食器を水に浸けてて、圭ちゃんの部屋に向かう。私の着替えはあの部屋にバックごと置いて来ちゃったし。
階段を上がり、圭ちゃんの部屋の扉を開けて中に入って、扉を閉める。どうやら私がシャワーを浴びてる間にベットも片付けた様で、家庭用の冬のモコモコしたシーツはありえない程にピシッと伸びていて、掛け布団の類は1ミリのズレもなく几帳面に4つ折りされていた。
自分の部屋でベットメイクしてるの、あの人?
なにこれ凄い、なんて感想を抱きながら、部屋の隅の方に寄せていた着替えを取り出す。昨日、カルマくんが中継してくれていた圭ちゃんの考えを語った電話。それを聞いていたので今日、彼が学校に行くことは知っていたから、制服一式をしっかり持って来ていた。
さて、着替えちゃおうか。
寝巻きに手を掛けて、持ち上げ、襟口から頭を抜いて上着を完全に脱ぎ去った時、ふと思った。
私、圭ちゃんの部屋で脱いじゃってる。本人がいないとは言え、下着姿になっちゃってるよ、と。
脱いで、冷めていた部屋の空気が肌を撫でた瞬間に今更ながら、そんなことを考えてしまった。
そう言えば、私、何処で着替えるとか言ってなかったよね。圭ちゃんがご飯食べ終わって片付けした後、どんな行動を取るかによっては、本当に着替えてる途中で出会す可能性もあるんじゃないの、これ。見られちゃんじゃないの、これ!?
出かける予定がある人ご飯を食べ終わって片付けた後に取る行動は多分、大雑把に分けると3つ。トイレにいくか、歯を磨いて顔を洗うか、着替えるか。
圭ちゃんはパジャマ姿だったし、今考えた3パターンのどれかを取る可能性は極めて高い。それに、私の方が早く食べ終わったけど、圭ちゃんももうちょっとで食べ終わるところだったし、急がないと本当に鉢合わせるかも。
しかし、そうは思ってもふと意識してしまうと中々恥ずかしいものがある。お風呂場とか洗面所とかで脱ぐのも"彼氏の家"という属性があったから確かに恥ずかしかった。でも、そこは服を抜く場所であるという一種の当たり前があるからか、割とすんなりクリアした。この前に比べれば。
でも、"彼氏の部屋"はそうはいかない。無論、圭ちゃんはこの家に泊まってる時はこの部屋で着替えてるんだろうけど、ここで脱ぐのは私にとって"当たり前"ではない訳で。言ってしまえば彼だけの完全プライベートな空間で脱ぐという行為に恥ずかしさと背徳的なものを感じてしまう。
流石に考えすぎなのかもしれない。流石に頭の中がピンク色すぎるかもしれない。でもやっぱり、脱ぐこと、見られる可能性があるかもしれないってこと。この2つが否応なく私を緊張させる。頭の中がぐるぐると回る。
いっそ、洗面所に行く?あそこなら鍵もあるし、万が一、圭ちゃんと鉢合わせても見られる可能性は低い。
んでも、もし、向かってる途中で出会したら?それはそれでなんとなく気不味いと感じてしまう。
「これは仕方ないこと、これは仕方ないこと……!」
ぶつぶつと唱えながら、意を決して脱ぐ。
出来るだけ素早く、万一もない様に袖を通していく。
こんなことなら、シャワーを浴びた時にでも制服に着替えればよかった。なんて後悔も今になっては遅い。
顔から火が出そうになりながら、着替え終わると一息。
圭ちゃんの部屋には姿見とかはないので細かい調整はできないけど、ひとまず見下ろして見て、おかしい部分はない。
っていうか、なんだかんだ、圭ちゃんと遭遇しなかった。
いや、別にそれは良いんだけどね。私だって見られたい訳じゃないし。見られてもいいのと、見られたいのとは別な訳で。んでも、それはそれとしてさっきまでの緊張を返してほしいとか思うわけで。ちょっとくらい覗こうとする動きとかあっても良くない?とか思ってしまうのはなんでだろう。
いや、分かるんだよ?流石に色々と進んだ妄想流石なのは自覚あるんだよ?でもさ、やっぱり多少は妄想しちゃうじゃん。
期待と不安の混ざったピンク色な想像膨らませちゃうじゃんか!ここで魅力ないのかなとか思うのは考えすぎ?
無事に着替え終わった反面、なぜだかモヤモヤした気持ちを抱いて洗面所に向かう。
階段を降りたところで顔でも洗ってるのだろう、バシャバシャという水音が目的地から聞こえて来たので覗き込む。
想像通り、そこには顔を洗っていたのだろう。タオルで顔を拭く圭ちゃんがいた。この季節でも水で洗ってるらしく、ちょっと首筋がプルプルと震えていた。
「圭ちゃん、着替え終わったよ。朝ごはんの片付けさせてちゃってごめんね」
「んー。気にしないでクレメンス」
タオルをピンと伸ばして手拭いかけに掛け直すと、さっきまでよりかは気持ちシャキッとした表情をしていた。
完全に眠気は覚めたらしく、見慣れた表情になった彼はふと、私を見て何かに気付いたのか、目元をちょっとだけ動かすとノシノシと私の前まで歩み寄る。
「圭ちゃん?」
「動かないで」
私の目線と同じくらいの高さまで屈むと、そう言いながら圭ちゃんが徐に私の胸元に向かって手を伸ばす。
「ひゃ、ひゃいっ……」
声が裏返る。さっきまで散々ピンク色の妄想をしていたのに、いざ、圭ちゃんが何の脈絡もなく想像していた様な場所に向かって手を伸ばしてくると動揺する。
っていうか、彼も彼だ。昨日は確かにかなりアレなキスをしたけど、触ってくる様な動作はなかった。今朝もそうだ。その癖、朝ごはんを食べ終わったらこんな風に手を伸ばしてくるなんて。あれかな、デザートはお前だ!みたいなヤツかな……?
思わず強張って体が動かず、でも目を閉じるのも嫌で、思わずまつ毛の本数まで数えられそうな近距離にいる圭ちゃんの顔を見る。何か、真剣な顔のまま、私の胸元に視線を向けていた。
「っ…………」
来る。そろそろ来る。もうすぐ来る……!
そんな風に覚悟を決めるも、私の胸には未だ、何の刺激もこない。揉まれるどころか触られる感触すらない。
なに、焦らしてるの、焦らしてるんだね、圭ちゃん!!?
ちょっと恨めしく彼を見ていると、圭ちゃんは満足した様に頷いて一歩離れた。
「陽菜乃さん、タイが曲がっていてよ」
どこかのお嬢様の様な口調でそういうと、ポンと私の頭に手を置いてからググっと背伸びをしつつ、階段のほうに向かった。
「………へ……………?」
呆気に取られてポカンと立ち尽くし、彼のさった方を眺める。え、なに、何だったの。タイが曲がっていてよ?
今度は振り返って洗面台の鏡を見る。そこに映るのはいつも通りの私だけど、胸元がさっき私が自分で確認した時と変わっていた。自分で結んだ時よりもコンパクトに、形の整った逆三角形の結び目からビシッと伸びたネクタイ。
本当に真っ直ぐ綺麗に伸びている。気取ったお嬢様口調で『タイが曲がっていてよ』なんてことを言うだけはある。惚れ惚れするくらい綺麗に結び直されていた。
「………〜〜〜っ!!!」
うん、綺麗。綺麗だけど!!!
なによっ、また私1人だけピンクい妄想してた!?
っていうか、どんな技術よ!ネクタイ直されてるなんてちっとも気付かなかったけど?!!
首元が閉まる感覚も、緩む感覚もなかったけど!?普通気付くよ!?首元を弄られてたら流石に!!それに早業すぎるでしょ、5秒掛かってなかったよね!?
タイが曲がっていてよって、それで直すのは普通、ネクタイの歪みだよ!?そうそう結び直さないよ!!?
恥ずかしい。勘違いしてしまったこともそうだし、やっぱり私1人だけ悶々としてるのずるくない!?
顔がどんどんな熱くなってくると同時に我慢ができなくなって、とうとう人の家だと言うことも忘れて走り出す。いく先は圭ちゃんの部屋、階段を上がる音が聞こえたから、そこにいるのは間違いない!せめて、文句の一つでも……!
「圭ちゃんのクソボ————」
「きゃー!!ヒナちゃんのえっちぃ〜!!!」
扉を開けて近所迷惑にならない程度に叫ぼうとした瞬間、言葉の最後だけ言い切る前に彼から黄色い悲鳴が飛んだ。
上半身裸、下半身はグレーのボクサーパンツ。そんな心許ない姿を隠すみたいにちょっと縮こまってる。
あ、すごい、腹筋割れてる。夏に見た時よりもかなりムキムキ。何と言うか細マッチョ。
シロにトラックで引き摺られた時の傷跡、あかりちゃんを止める為の戦闘で負った火傷の後が腕に残ってるけど、それだけ頑張って来た跡なんだって思うと痛々しくも何処か愛おしさがある。それに加えて腕を曲げた時に自然と外肘から手首の間に浮き上がるあの筋、エロすぎない……?
「っって!いろいろ逆でしょ〜っっっっ!!!?」
「理不尽!!?」
「うっさい!服着て早く!!」
「口調が崩れとりますがな」
わざとらしい恥ずかしがる様なポーズを止めると、彼は若干私の方をチラチラと見ながらベットの上に雑に投げられていた白いTシャツを着て、ワイシャツに袖を通すと、ズボンを履き始める。うわっ、屈んだ時に腹筋の割れ目が深くなった。
「………あの、ヒナさん?流石に恥ずかしいんですが」
「…………あっ、ごめん、出てるね!?」
慌てて振り返って部屋を出て扉を閉める。
「え、これどうするべき?俺だけ恥ずかしい思いをするの不平等でしょってヒナに迫って良いパターン?んでも、それって男がやったら絵面的に不味くない?つか、それ自体がおかしくない?男だって恥ずかしいんだけど……」
そんな呟きが聞こえてくる。
昨日の今日だというのに、彼は平常運転に見えた。
「俺は——見極めたいんだと思う」
「明確なタイムリミットとその意味を知った今、重要なのは、殺すべきという理屈ではなく、どうしたいのかって感情だ」
「殺せんせーを殺したいか、生かしたいか。死んで欲しいか、生きてて欲しいか、生き残らせるのか、殺してあげるのか」
「気持ちとしては生きてて欲しい。でも、殺せんせーとのこれまでの生活を振り返って、彼の行動の意味を慮るなら……俺たちが殺せんせーを殺害するのは、"殺す"じゃなくて"殺してあげる"って表現になるんだと思う」
「だって、彼の行動は雪村先生への義理とこの一年で抱いた願いと、きっとある種の罪滅ぼしなんだと思うから。死神として生きた日々と見なかったことや見れなかった人に対する」
「俺の答えは決まってる。俺は殺してあげたい」
「タイムリミットがもっと先なら答えは違った。数年後、十年後なら俺は殺したくないって言ったと思う。でも、もう時間がない。実質、あと3ヶ月しかないんだ。たったそれっぽっちの時間で殺せんせーを助ける策が出てくるほど、俺たちは経験を積んでない。そのごくごく僅かに存在するか分からない可能性に賭けて時間を費やしていいのかどうか」
「俺は、それを自分の中でそれに対する答えを出したい。そんな不確かな可能性に賭けて時間を浪費するよりも、殺せんせーの望み通りに最後までぶつかって、暗殺を完了させる形で卒業する。その選択で本当にいいんだって最後の確認をする」
「それらを踏まえた上で最後に理屈の話だ。殺せんせーを殺すべきかどうか。もしも、殺したいと言う奴が俺以外にいるのなら。考え抜いて殺せんせーを殺したいって思った奴らが言い出しやすい様に、みんなに向かって真っ先に表明する。暗殺を続けたいって。同じ気持ちの奴らの旗頭に俺がなる」
「仮に全部終わったあと、ふと今年の冬休みを思い出して"もっとこうしていれば良かった"って後悔しない為に、その一歩のために、俺は明日、学校に行くよ」
「………ヒナはどうする?一緒に来てくれる?」
ベットの中で彼が問いかけて来た。
どう答えるにも覚悟がいる質問だったと思う。
「……うん、いくよ」
短く頷いて答えた。
だって、彼の言葉の中に、隠し切れてない本心が出ていることに気付いてしまったから。建前の中に隠れた本音を。
私だって、殺せんせーとどう向き合うかは考えてる。それこそ、圭ちゃんが最後の暗殺を仕掛ける少し前、彼の考えや悩みをほんの少しだけ共有して貰った時から。
私自身、殺せんせーを殺したいかどうかで言えば……やっぱり、殺したくない。生きてて欲しい。
でも、それは圭ちゃんの考えていることに対立してしまう。けれども、殺せんせーのことだって諦めたくない。
だから両方とる。やりたいことと好きな人を両取りする。本当は私の考えと圭ちゃんの考えは対立しているから絶対に出来ないことだけど、それでも、建前の中に隠れた本音を見つけることが出来たから、可能性はある。
『タイムリミットがもっと先なら答えは違った。数年後、十年後なら俺は殺したくないって言ったと思う』
ねぇ、圭ちゃん。それってさ、本心では殺したくないって言ってるのと同じじゃないのかな?
だから、私も学校に行く。見守るなんて偉そうなことは言えないけど、でも、理屈よりも気持ちが大事って言いつつ、やっぱり理屈を優先しようとしてる彼が、少しでも自分の本心に素直になれるのを願って。
あとがき
はい、後書きです。
かなり苦手な分野ですね、こういう話……。
書くのが難しすぎる……。
男がされて嬉しいこと=女性も嬉しい、とか限らない様に逆もあるし、恐らくは女性には理解できない男の考えや、男性には理解できない女の考え方とかもあるだろうし、異性の視点は難しすぎます……。
んでも、次回もクラハシエルの視点です。
がんばるぞい……!
あ、深き夜実装されましたね!
お兄ちゃんのスタミナ無料アタックがなくなったのが滅茶苦茶痛すぎる……。序盤とかこんなにスタミナ足らなくなるのかとか思ってしまった。
ブラボの聖杯ダンジョンに篭る人を地底人と呼ぶ様に、深き夜に篭る人にも何か呼び名がつくんだろうか……。夜の雨が降る中で動くことを残業とか言ってくるくらいだから、夜勤とかサビ残様とか呼ばれる様になるのかなぁ……?
ご愛読ありがとうございます!