暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えて、たくさんの高評価、感想ありがとうございます!

はい、この度は投稿が大幅にずれてしまい、申し訳ありません……!
色んなトラブルが重なり、スマホを会社に忘れてしまっていました……!
皆様も体調には気をつけてお過ごしください……!

以下、本編になります!


172話 圭一の時間 Ⅴ

 

「うぅ……まさか、君たちが来てくれるだなんて思いもしませんでしたよ。先生、てきっきり、このまま校舎で孤独死するのだとばかり……。サンタさんの服とか色々と準備していたのが無駄にならずに済みそうです」

 

「ちょっと前なら、『なら来ない方が正解だったか』なんて言えたのに、今となっては反応しずらいな」

 

「だね………」

 

「にゅやぁっ!?ごめんなさい!!」

 

 今となっては反応しずらい殺せんせーの死ネタにヒナと揃って苦い反応を示すと、彼も不謹慎だと思ったのか慌てて訂正に入る。実際、それだけ寂しがっていたのだと思えば生徒冥利に尽きるのかもしれないが。

 さて、目の前に現れた殺せんせーを見る。数日会ってなかっただけなのに随分と久しぶりな気がするし、その姿を視界に収めると安心する。やはり、俺はこの人が好きなんだろう。

 

 不思議なものだ。本人を前にしたらもっと動揺するかと思ったのに、今の自分はびっくりするほど冷静だ。

 ヒナがいてくれるからなのか、それだけ自分の知らない間に覚悟が決まっていたのかは分からない。もしかすると両方かも。

 

 でも、冷静ではあるけど体は動かない。殺せんせーに対して初手で何をしようとしたんだっけ。言葉を伝えたかったのか、何かして遊びたかったのか。考えていた様な、考えていなかった様な。行動が詰まってしまう。言葉が喉に詰まり、体を動かす命令が神経で止まる。

 

 どうしたもんかと考えだそうとしたその時、横からヒナが口を開いた。何でもないみたいに、まるで緊張してないみたいに極々当たり前の言葉を彼に向かって投げていた。

 

「おはよう、殺せんせー」

 

「えぇ。おはようございます、倉橋さん」

 

 おはよう。たった4文字。今朝、隣の彼女と真っ先に交わした言葉だった。朝、初めて会った相手と交わす挨拶。

 本当に当たり前で、そんな当たり前のことがすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。これじゃ、育ちがいいとか言えないよな。挨拶なんて礼儀の中の初歩の初歩だろ。

 

「ほら、圭ちゃん。殺せんせーに言うことない?」

 

 ヒナに背中を押された。何でだろう、これまで何度も彼女には背中を押してもらってるはずなのに、妙な新鮮さがあった。

 

「おはようございます、殺せんせー」

 

「………はい、おはようございます。乃咲くん」

 

 いつも通りの挨拶だった。それでも、今なら分かる。この"いつも通り"もあと数えるほどしか出来ない。

 何もせずに終わるか、殺せんせーを殺して終わらせるか、殺せんせーを助けて終わらせないか。俺たちに選べる選択肢は3つ。そして俺は殺すことを選んだ。このいつも通りを終わらせることを選んだ。覚悟は決めた。

 

 でも、やっぱりこうして声を聞くと揺らぎそうになる。このいつも通りを続けたい。叶うのなら、卒業してもみていて欲しい。困ったら相談に乗って欲しい、悩んだら示して欲しい、いろんなことを教えて欲しい。

 そんな風に考える自分からは目を背けられない。でも、それと同時にそれではいけないと思う自分だっている。

 

 いつも通りを終わらせることが卒業するということ。〇〇して欲しいと欲しがり続けるのは子供のすること。

 殺せんせーを殺すというのは、俺たちにとってある種の儀式になるだろう。これからは自分の足で歩いていく。新しい"いつも通り"を作り上げ、欲しがり続けるのではなく、時に自分から与える側になる。自分の足で彼から学んだ技術と知識で歩き続けるのだと言う一人立ちへの決意表明だ。

 

 だから俺は殺す。

 

 この一年で学んだことを彼の命に刻む。普久間島で悠馬が言っていた、良いなと思ったら追いかけて、そうでなければ追い越して。それが大人になるってことなんだろうって言葉。

 殺せんせーは今でも追いかけ続けたい背中だとは思う。ダメなところもきっとたくさんあるけど、それは別に欠点ではないのだと思える様になった。

 

 でも、それでも今が殺せんせーを追い越す時なんじゃないのか?一回、殺せんせーから離れて、別の道を歩いて、また別の誰かの背中を追い掛ける。そしてふと、振り返った時、殺せんせーの姿は違って見えるはずだ。

 追いかけ続けることが越えることには繋がらない。視点を変え、やり方を変え、相手を越える(殺す)。それが椚ヶ丘中学校3年E組、暗殺教室のやり方のはずだ。その術を殺せんせーからこの1年で教わって来たのだから。

 いつか、振り返った時に殺せんせーの姿が小さく見える様に頑張る。そうでなくても、また違った見方ができる様に。それが自分たちにできる、彼への恩返しだと俺は思うから。

 

「せっかく、雪が積もったんです。雪合戦でもしましょう!」

 

「お、いいねぇ〜」

 

「殺せんせー、水はダメなのに雪はいいんすか?」

 

「…………気合いと粘液で何とかします!」

 

「根性論かよ!!?」

 

 でも、それは口には出さない。俺の言葉を聞いてるかもしれないヒナや律に俺の出した結論の影響を受けて欲しくない。

 これまでたくさん相談に乗ってもらったし、昨日の夜もちょっとだけ話したから今更かもしれないけれど、でも、俺の考えはあくまでも俺個人の考えでしかないのだから、2人にも自分の結論を持って欲しい。後悔しない為にも。

 

 だから、感情論は触りの部分しか話さなかった。殺せんせーを殺すという結論と理屈だけを伝えた。

 理屈を抜きにして、とか言ってもやっぱり完全には切り離せないものだしな。理屈抜きに感情論だけで動くのが正解な場合もあれば、無責任だと非難されるべき場合もある。

 

 今回の案件は、その中間だ。だから、責任を果たそうとする者が強者であるという俺なりの目指したい理想が出来た今、感情で考え、理屈で判断したこの選択が正解だと信じてる。

 

 それでも、どこか自分を納得させようとしている感じを自分自身ですら覚えてしまうのは難しい部分だな。

 

 思考停止はしない。どれだけ難しくても向き合い続ける。

 だから、今は思考を回しながら楽しもう。いつもより人数は少ないけど、目の前に殺せんせーとヒナがいるのだから。

 

「さて、せっかくなのです、5対5でいきましょう」

 

「何が"せっかくなのです"?ここには俺たち三人しかいませんが。あと7人は何処に?」

 

「ヌルフフフフ、先生の分身で代用します!」

 

 不敵に笑うといつもの様に高速移動で分身した殺せんせー。分身といっても残像なので、マッチポンプというか、俺とヒナの対面する残像以外は自分vs自分とかいう構図になるけどいいのか?それはそれで楽しそうだけど茶番感が……。

 

「いやぁ、実は誰も来てくれないので寂しくて1人でどうすれば楽しめるかと試行錯誤してるうちに『あ、自分が増えればいいじゃない』と真理の扉を開けてしまいまして。やってみたら案外楽しかったんですよ、これが」

 

「よぉーし、急にやる気出て来たぞぉ〜!」

 

「そだね、いっちょやりますか!」

 

「おや、急に乗り気になりましたねぇ」

 

 いや、だってまさか恩師にそんな孤独を極めた様な遊びを楽しんで欲しくないというか。

 別に悪いこととは言わないけど……なんだろ。カードゲームのデッキは二つあるけど遊ぶ相手がいないから2つのデッキを戦わせて1人で対戦する〜みたいなこと良い歳した大人にやって欲しくないというか。

 まだ砂数えゲームとか、1人ジェンガとか、1人黒髭危機一髪とか、雨避けゲームとかの方が健全な気がする。

 

「「「「「私たち5人を倒してご覧なさい!!」」」」」

 

「ガチで増えたぞ……」

 

「あははは……。しかもこっちの分身からは同じセリフが聞こえてこないって言うね。相変わらず器用だなぁ」

 

 うーむ。本当に器用なことをする。多分、今の俺なら同じ様な理屈の分身は出来るだろうけど、同じ様に喋れるかは正直にいって厳しいだろう。

 いや、でも流石に雪だらけの足場では分身とかも厳しいな。足を雪に取られるし、それでも無理矢理やってしまうと風圧で雪がなくなってしまう。

 

「乃咲くん、隙ありです!!」

 

「圭ちゃん、危な〜い!」

 

 思わず考え込んでいると、頭に赤い鉢巻を巻いた殺せんせーから雪玉が飛んでくる。普通に一般人でも避けられる程度の速度だし、マジで遊びの玉だ。

 こっちとしても遊びのレベルで返すのが妥当だろうが、相手は殺せんせーだ。あまりチカラの面で遠慮する必要はないだろう。たまには思いっきり暴れてみるのも悪くない。

 

 そう決めた俺は全力で殺せんせーの玉を避けた。雪を吹き飛ばさない程度に、それでいて残像が残る程度のスピードで。

 残った俺の残像を殺せんせーの雪玉が通過する。その直後、殺せんせーの焦った叫びがこだました。

 

「いやぁぁぁぁ!!?私の投げた雪玉が生徒の土手っ腹を貫いてしまったぁぁぁぁぁ!!?」

 

「ちょぉぉぉい!!?被弾した圭ちゃんがホログラムか何かみたいに消えたぁぁぁぁ!!?」

 

「ふっ……残像だ」

 

「「いやぁぁぁぁぁ!!?なんか出たぁぁぁぁ!!?」」

 

「なんかって酷くないか!!!?殺せんせーだって似た様なことしてる癖に!!」

 

「普通、人間は残像残すレベルのスピードは出せませんよー!!なんでそんな軽々とやれるんですか!?」

 

 叫ぶ恋人と殺せんせー。先生に至っては驚きのあまり分身するのやめちゃってるし。

 流石に殺せんせーに驚かれる筋合いはないので力一杯反論しておくとこれまたごもっともなツッコミが来た。

 

「うるせぇ、くらいやがれ、乃咲ビーム!」

 

「にゅやぁっ!!?バビュンっていった!?なんですか今のエゲツない風切り音は!!自然の雪で作った雪玉が出して良い音じゃありませんでしたよ今の!?」

 

「殺せんせーが残像で分身するならこっちはレーザービームで対抗じゃい!いきますよ、ボス!」

 

「ほぇ、ボス……ボス………って私!?」

 

「ヒナ以外に該当者はこの場にいないだろう。さぁ、ご命令を!主君の命とあらば、このノザ三郎めがあやつの首を……」

 

「怖いよ!?っていうか、三郎付けるのノザの部分でいいの?普通、圭の部分につけるじゃないのかな!?」

 

「さぁ、ボス。ご命令を!」

 

「えぇっと……やっておしまい!」

 

「へへぇ!」

 

 ヒナ黄門様からお言葉を賜ったので、それを合図に殺せんせーに襲い掛かる。もっとも、近くにヒナがいる状態で超スピードを出すのは危ないのでそれ以降は控えておいたが。

 殺せんせーから投擲される猛スピードのふんわり柔らかい雪玉を高速移動、音速投擲しない程度に正面から雪玉を投げて撃ち落とし続ける。

 

「ぼ、ボスっ!あのタコ、執拗に俺ばかり狙って来やがるであります!」

 

「ニュルフフフ……。いくら生徒は平等とはいえ、能力差と性差は平等に在らず。遊びの中でも教育や指導をねじ込めるのなら強行するのが教師という生き物!さぁ、秘められた反射速度を極限まで引き出しましょう!」

 

「忘れてたっ、殺せんせーって教育に関しては容赦ないんだった!こと体育においては自分基準に色々と押し付けてくる人なのすっかり忘れてたよっ!」

 

「そういえばそんな時期あったなぁ……!反復横跳びしながらあやとりさせられたことあったっけか……!」

 

「その通り!!さぁ、雪を投げたら次の球を投げる合間にあや取りを挟みましょう」

 

 殺せんせーは無茶振りしながら、無駄に雪合戦の部隊を自分で作っていた。球を作って投手に供給する役2人、投手2人、あやとり1人。それをやりながらこっちでも雪玉を反対側の自分の残像に投げてるんだからゾーンに入らないと目で動きを追い切れない。どんだけ器用なことしてるんだ、この人!?

 

「ヌルフフフフ、さぁ、雪玉50発完成です!いきますよぉ、1発でも被弾したら早休みの宿題を倍にします!」

 

「「理不尽!!!」」

 

 殺せんせーからの死刑宣告に俺たちはハモッて抗議するが、声は虚しく雪原に消え、無情にも投擲が始まった。

 

「ヒナッ、伏せるんだ!」

 

「う、うん!圭ちゃんは!?」

 

「俺、実は同じクラスに恋人がいるんすよ、戻ったらプロポーズしようと花束も買ってあったりして」

 

「私は後ろにいるけどね!?実は恋人がいる、帰ったらプロポーズ、そのための準備も終わってる。戦場で言っちゃいけない超弩級の死亡フラグを3つも並べないでよ!?」

 

「ぬわぁぁぁぁぁーーーーっ!!!?」

 

「パパスーーーーっ!!!?」

 

 悲鳴を上げながら殺せんせーが投げてくるマシンガンスノーボールを開き直って手刀で叩き落とす。

 被弾?違う、これは防御だ。ダメージになる場所に当たらなければ被弾ではない!俺の独断と偏見でそうする!

 

「ぬぉぉぉぉ!!!」

 

「うそぉ……。球技大会で見た進藤くんのストレート並みの雪玉を手刀で全部撃ち落としてる……」

 

「ヒナァァァァァァ、助けてぇ……!」

 

「と思ったら結構限界っぽい!?」

 

「ボスタスケテぇぇぇぇぇ!」

 

「ええぇいっ、こうなったら……!!」

 

「ボスケテぇぇぇぇぇ!!」

 

「マサルさん!!?」

 

「マサルって何処の男よ!!!?」

 

「圭ちゃん前っ!!?」

 

「ふげっ……!?」

 

 流石にふざけすぎたのか、殺せんせーの雪玉が顔面にめり込んだ。先生の粘液で投げた時に形が崩れない様に保護し、玉のスピードによって徐々に粘液が落ち、俺たちに当たる頃にはふわっと柔らかい部分だけが残る様に完璧に調整されていたのでちっとも痛くはないが。

 

 でも、やっぱり楽しい。まさか、学校にいて楽しいと思う様になって、先生やクラスメイトたちと過ごす時間が待ち遠しくて、俺に取ってプレッシャーを感じる場でしかなかったこの場所がこんなに好きになる日が来るとは思ってなかった。

 

 お返しとばかりにそこらに落ちてる雪を掻き集めて玉を作ろうとした時、雪の中にピンク色の球体を見つけて手が止まる。

 ふと、それを摘み上げてまじまじと見てみると以前、射撃練習した時に拾い切れなかったらしい対先生弾であった。

 

「…………」

 

 対先生弾。殺せんせーの細胞を一撃で破壊できるBB弾。俺たちが射撃で使っていた、先生に対抗する武器の一つ。

 結構、いろんなことに応用が効く便利兵器だ。潰した粉末を砂と混ぜてダメージ床を作ったり、複数の弾を鷲掴みにして投げつけてやれば、即席のショットガンにもなる。食べ物に混ぜれば、内臓を溶かすことだって出来るかも知れない。

 

 あとは……そう。雪玉に混ぜたりとか。

 流石に致命傷には至らないだろうけど、嫌がらせ程度のダメージになるはずだ。触手に当てれば破壊出来るかも。

 

 俺は思う。同時に自身に問い掛ける。

 この日々を終わらせたいのか?と。

 

 今の日々が好きだ。そして、この日々はこの弾を貰うところから始まった。殺せんせーの暗殺という任務を受けると同時に支給された弾丸。コイツを当てるのに日々、色んなことを考えて来た。あの手この手を考えて試しまくった。

 

 みんなと仲良くなって、俺自身が立ち直ったのは……この弾丸を受け取った時に始まった暗殺のおかげだ。

 

 『〇〇で始めたことは、〇〇で終わらせなければならない』みたいな言葉を聞いたことがある。俺たちの場合は、〇〇の部分に暗殺という物騒な2文字が収まるのだろう。

 『暗殺で始めたことは、暗殺で終わらせなければならない』そりゃそうだろう。仕事に対してどんな形でも結果で示すのは当たり前のこと。だから、暗殺という仕事に対して、暗殺したという結果で答えるのはある種の当然であり、成功したという成果の報告としては理想だ。

 

 それが責任だ。頼まれたことを頼まれた通りにこなすというのは、難しいことであると同時に、最低限目指すべき目標だ。

 だからこそ、みんな悩んでる。一度始めたことを途中で投げ出していいのか?でも、彼を殺すことが正しいのか?と。

 

 殺せんせーは言った。この暗殺が我々の絆だと。

 

 なら、暗殺を終わらせることは、絆を終わらせることなのか?殺せんせーや先生方や、仲間たち、迷惑を掛けてしまった人や、迷惑を掛けられた人との繋がりはそれで完全に途絶えてしまうのか?暗殺が終われば絆は無くなるのか?

 

 現に、今の状況はE組の中でも意見が分かれている。きっと、俺と同じ様に殺すことを選ぶ奴もいれば、助けたいと思う奴もいる。下手をしたら、俺たちはこのまま二分されめすれ違うかもしれない。最悪の場合、遺恨は残るだろう。

 

 ても、殺せんせーはそんなことはきっと望まない。殺せんせーが俺たちに彼自身を殺すことの意味を最後まで説きたくなかったのは、そんなすれ違いを防ぐためだった。

 

 いつもの冬休み前と今の光景の違い。それは、単に仲間たちの数ではなく、今、俺や陽菜乃が投げている雪玉にこの対先生弾を仕込んでいるかどうかだ。

 雪玉に対先生弾を混ぜて、雪合戦という遊びを暗殺に変える。この前の一件がなければ、今まさに俺が考えていることを仲間たちや殺せんせーとの遊びを楽しみながら暗殺としてやっていたはずだ。楽しく笑い合いながら。

 

 殺せんせーはそんな光景守ろうとしていた。

 だから、きっと俺たちが互いにすれ違うことは望まないし、今だってきっと、冬休み前の様にみんなとワイワイして面白おかしく過ごしていたかったことだろう。

 

 では、そんな彼の思惑から外れてしまった俺たちに待っているのは悲惨な仲違いと殺せんせーを殺した罪悪感に苛まれながら生きる未来だけなのか?

 

 それはきっと違う。殺せんせーは俺たちに物事を教える時に良く"縁"という言葉を使う。色んなことは、縁に導かれているのだと。ならば、暗殺という絆を終わらせた俺たちに残るものがあるとすれば、それは縁だ。

 それが良い意味での縁なのか、悪い意味での縁になるのかは分からない。きっと、それこそ俺たち次第だ。

 

 暗殺は仕事だ。もし、100億円や烏間先生のいう、当たり前の生活意外に何か報酬があるのだとしたら。それはこの暗殺で強く結ばれた仲間たちやお世話になった人々との縁だろう。

 円と縁が報酬だとか、すこし上手いこと言った気になりたくなるが、俺はそう思う。まぁ、()(ふち)が集まって形を作るものだし、間違ってないか……?

 

 脱線したが、暗殺を終わらせることを絆を終わらせるというのなら、その後に残った縁は絆が生まれ変わったものだと言ってもいいんじゃないのか?

 もちろん、この一年で学んだ技術や知識は大切だ。だが、殺せんせーの思いを抱いて生きるのなら、何より得難いのは仲間たちや普段では絶対に知り合えなかった人たちとの縁だろう。

 

 なら、やっぱり、暗殺は終わらせるべきだ。

 

 俺たちの手で終わらせて、そこに残った縁を大事に育てて、紡いで、今以上に立派になること。それが、それこそが色んなことを諦めて、堕落していた俺たちを殺してくれた『死神』に対する最大の報酬なんだ。

 

「っいくぞ、殺せんせー!」

 

「…………えぇ、何処からでも来なさい!」

 

 俺は、拾った対先生弾を雪玉に混ぜ込んで投げつけた。

 何かを感じ取ってくれたらしい彼は、正面から堂々と受け止める姿勢を取ってくれた。たぶん、今度こそ覚悟を決めたことを悟られた。今年、何度目かの一大決意だ。

 

 俺の投げた雪玉は、避けることすらしなかった殺せんせーにあたり、混ぜていた弾丸が彼の触手を破壊する。

 

「圭ちゃん……。それでいいの?」

 

「うん。今度こそ決めた。どんな形でも、この暗殺は俺たちの手で終わらせたい。その手段として俺は殺しを選ぶ。嫌いだから、死んで欲しいからじゃない。理屈としては、そうするべきだからだ。でも、気持ちとしては殺せんせーを追いかけるんじゃなくて、追い越す為だ。それが俺の主張だ」

 

 殺せんせーを見る。分身をやめ、いつもより離れた場所にいる殺せんせーは穏やかに微笑み、満足そうに頷くその姿はほんの少し休み前よりも小さく見えた。

 

「ってことで、明日からまた殺しに来ます」

 

「えぇ、待ってます。成長しましたね、乃咲くん」

 

  殺せんせーがハンカチで目元を拭っていた。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 俺なりの決意を固めたあと、日が暮れる。

 殺せんせーは最近行きつけの居酒屋だかに行くとかでちょっと前に別れた。俺とはヒナは2人でE組の山を降る。

 

「………あっ」

 

 山を下っている時、みんなを見つけた。山道の入り口、俺たちE組だけの通学路の手前で立つ瀬なく、やらせなさそうに。

 俺たちの姿をみたみんなが小さく声を漏らした。いつもなら、こう言う時、みんやから駆け寄ってきてくれるけど、今回は俺たちの方が近づいていく。しっかり道を踏み締めて、彼らの前へ。

 

「圭一、その……ごめん。律から聞いた」

 

「いいよ、その方が手っ取り早い」

 

 どうやら、律が俺の話をみんなに流したらしい。

 別に構わない。みんながそれで少しでも自分の考え方を補強してくれるのなら、それは願ったり叶ったりだ。

 

「みんな、聞いてくれ。俺は殺せんせーを殺したい」

 

「「「「…………」」」」

 

「でも、俺1人で殺したいわけじゃない。これは、みんなで終わらせたい。それが殺せんせーへのお礼になると思うから」

 

「じゃあ、乃咲は単独では仕掛けないの?」

 

「ガチな奴は仕掛けないよ。一人で背負ってるわけでもないし、背負うつもりもない。俺は、みんなでやりたい」

 

 みんなを見つめた。

 経験者として、んで、きっと前に言ったときも、もしかしたら律が情報を展開してくれてたかもしれないけど、念の為にもう一度だけ俺の夏休みの後悔を伝える。

 

「夏休みのこと、少しだけ後悔してる。考えていた時間は無駄ではなかったけど、でも、それよりみんなともっと色んなことを楽しみたかった。殺せんせーやお前らと楽しく過ごしたかった」

 

「どんな形でも来年を迎えれば俺たちはいつか今年一年を振り返ることになるだろう。みんなと過ごした日々や、烏間先生に扱かれた瞬間、ビッチ先生とバカやった記憶に殺せんせーから教わった色んなこと。その時にみんなが何を思うのかは分からない」

 

「でも、俺は『もっと一緒に居たかった』とか『もっと遊びたかった』なんて後悔はしたく無い。そんな後悔はもうし飽きた。だからこれは俺のわがままなんだけどさ」

 

「俺はお前らと一緒に居たい。マイナスなことを考えるようでアレだがさ、俺の望み通りに殺せんせーを殺したとしても、いつか後悔は必ずする。例え納得の果ての行為でもな。それが後悔の記憶であっても、振り返るのならお前たちと共に殺せんせーと過ごした記憶であって欲しい」

 

「……だから、みんなにも見極めて欲しい。ゆっくり考えたい時間が欲しいのも分かる。少し離れた方が見えるものがあるのも知ってる。もしかしたらいつか、『もっと考えておけば良かった』って思うかもしれない」

 

「でも、殺せんせーの顔を、一緒に過ごしたみんなの顔を思い出すことは絶対に無駄にはならないって思う。俺は明日からもここにくる。みんなにも……来て欲しい。これは、責任とかそんなのは関係ない、乃咲圭一個人としてのわがままだ」

 

 みんなの顔に明るい色はない。

 ただ、みんなはここに来てくれた。なら、きっと希望はあるはずだ。俺のわがままであること間違いない。でも、独りよがりではないのだと信じたい。俺の思いや考えが明日も彼らをここに連れてきてくれると。

 

 悠馬やみんなは一言、『考えさせて』と言って帰って行った。

 

 その背中に言葉をかけることはしない。俺にできるのは明日もここでみんなを待っていることだけだから。

 ……ああ、ほんと、この一年で随分とわがままで、傲慢で強欲な人間になったんだな、俺は。

 

 でも、優等生をやってた頃より、今の自分が好きになれた。




あとがき

はい、後書きです。

ついに圭一が自分の気持ちを決めました。
殺したいけど、1人ではなく、みんなで殺したい。他でもない、この一年で絆を深めた仲間と今後も付き合いが続く戦友として、殺せんせーが遺す"縁“を大切にするために。

さて、仲間たちはどんな気持ちで向き合うのか……!

ご愛読ありがとうございます!
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