暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


174話 冬休みの時間

 

 みんなが学校に来てくれた。

 その理由は様々なものだった。ある者は覚悟を決めたい、ある者は殺せんせーやみんなと一緒にいたい、またある者は自分の気持ちを知りたい。そんな無数の想いがあって俺たちは再集結した。

 

 唯一、雪村はまだ入院中なのでいないが、それでも元気だったら今この場にいただろう。

 それに、この場にいないなら後で会いに行けばいいだけの話だ。彼女もかなり気にしてたしな。

 

「みんな、きっと色々と思うところがあって学校に来たんだと思う。殺したい奴、殺したくない奴、まだ決められてない奴」

 

「でもさ、今はその辺は無しにしよう。まずはみんなで冬休みを全力で満喫する!俺たちの結論を出すのは冬休み明けってことにしないか?遊びながら、楽しみながら、殺しながら。考えよう、これからのことを」

 

 悠馬のそんな号令に待ったをかける奴はいなかった。みんなが頷いていた。気持ちは同じなんだろう。

 俺たちの冬休みはそんな感じで再スタートした。他の学級の奴らに比べるとスタートダッシュで遅れた感はあるが、それでも夏休みと違って後悔は少ない休みになるだろう。

 

 俺たちの集結を聞きつけた烏間先生やビッチ先生も合流してくれた。2人にこれからのことを話すと、重く頷いて同じことを言われた。『後悔がない様に考えなさい』と。

 ビッチ先生は人を殺す重みを知っている者として、俺たちが考え抜くことを勧め、背中を押してくれた。

 烏間先生も立場上は俺たちにそんなことあまり言えたものではないはずなのに、考え抜くことを認めてくれた。

 

 もしも、みんなとの最終的な話し合いで殺せんせーを殺したくないと結論がまとまったのなら、俺たちは烏間先生を裏切ることになる。ここまで信頼して、行動の自由を認めてくれた彼を。

 俺が殺しを選んだ結構な数ある理由の一つがそれだった。俺が立ち直るきっかけになったのは、烏間先生だ。この人に認められたいと思ったことから本当の意味で俺の中学3年生としての生活は始まった。

 認めて貰いたくて努力した、褒めて貰いたくて練習した。そして、彼はそれに嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。

 殺せんせーが俺を導いてくれた人なら、烏間先生は俺に一歩目を歩かせてくれた人だと言えるだろう。

 

 そんな彼との始まりは、やはり暗殺。

 ならば、それを完遂することこそ、烏間先生からの信頼への返礼であり、俺が通したい筋のようなもので、恩返しだ。

 

 ……でも、今は一旦はそんなことは忘れよう。

 みんなと過ごす時間を悔いのないものにするために、全力で冬休みを楽しむんだ。それに集中する。

 

 さて、そんなこんなでいざ、みんなと遊ぼう!と意気込んでいた矢先のことであった。

 

「あ、すまん。でも俺ちょっと用事が……」

 

「私もお母さんの実家で………」

 

「その日は店番頼まれててなぁ……」

 

「あ、ごめん圭ちゃん。私もちょっと予定が……」

 

「わぁ……あ……」

 

 ものの見事に周りの連中全員、予定が入っていた。

 思わずちいかわ化してしまった俺を誰が責められるだろうか。いや、責められるわけがない。

 俺はぼっちの寂しさを噛み締めながら、学校に来ていた。

 

「どうなってるんですか殺せんせー!!いくら俺でも寂し死にしますよ!?そりゃみんなにも予定はあるだろうけどさぁ……!ぼっちですよ、また、また!ぼっちですのよ!!?」

 

「乃咲くんも相当な寂しがり屋ですねぇ……」

 

 俺は自分と殺せんせー以外には誰もいない教室にそれでもやってきて、殺せんせーの前でそんなことを喚き散らかしたあと、不貞腐れながら殺せんせーがその辺の廃品をリペアして使える様にした暖房の前で横になっていた。

 ちなみに、毎年の恒例である学秀からの遊びの誘いも今日に限って入っていなかったどころか、アイツにも予定が入っていたらしい。なので、今日の俺は純然たるぼっちだ。おポッチャマにぼっち要素が混ざっておボッチャマである。

 

「にゅぅ………では、死神訓練特別編と行きますか」

 

「しにがみくんれんとくべつへん……?」

 

 思わず全部ひらがなっぽくオウム返ししてしまった。

 なんですの?そのココロオドルネーミングは。

 

「まぁまぁ、善は急げです!もっとも、教える内容が殺しについてなので善なのな否かは微妙ですが」

 

 殺せんせーがいつもの笑みを浮かべながら俺の手を引いて外に出る。何が始まるのかとちょっとワクワクしていると、いつの間にか、俺は殺せんせーの服の中に格納されていた。

 

「それでは某国弾丸ツアーといきましょう!」

 

「……っべ、早まったか、俺」

 

 某国弾丸ツアーという文字の並びと先生の服の中に押し込まれたこの状況から察するに、俺はこれからテイクオフするのか。そういえば、昔、テイクアウトをテイクオフとか言ってるネット民がいたなぁ……。

 

「行きますよぉ、乃咲くん!『鳥になってこい、幸運を祈る』」

 

「それは降下する人に向けたぁぁぁぁぁっっっ!!!!?」

 

 俺のツッコミは風切り音の中に消えた。

 バビュン!と凄まじい勢いで飛び出した殺せんせー。その胸元から流れる様に過ぎていく街を見下ろした。

 

『おや、以前にカルマくんたちを乗せた時より速くないですか、殺せんせー』

 

「律?」

 

『お邪魔してます♪』

 

 相変わらず俺のスマホに不法侵入している律。そんな可愛く言ってもダメだからな。気が付けば画面の中でポテチやらネットサーフィンしやがって。

 もしかして二代目にハッキングされた時の影響がまだ消えていないのではないだろうか。他のみんなに各自のモバイル律はどんな感じかと聞いてみても、俺のスマホに入ってるヤツみたいなことはしてないらしいし。ちゃっかりしてるわ、コイツ。

 

「ヌルフフフフ、実は今、マッハ20で動いています。どうですか、乃咲くん。ゾーンに入った時、街は止まって見えますか?」

 

 言われてゾーンに入る。

 徐々に、徐々に集中の深度を上げていき、思いの外にあっさりと世界は止まって見える様になった。

 

「ですね、割と」

 

 ちょっと拍子抜けした。思えば中々ない経験だ。普段の殺せんせーはマッハ20で動かないし、俺の殺せんせーの動きを見切れる発言もあくまで理論上は、って域を出なかったから。

 思いの外、まだまだ集中の限界まで余裕がある。俺は一体、どのくらいまでなら止まって見えるんだろう。

 

「となると、身体能力的には私以上のスペックがあるのでしょう。周りに被害が出ない場所と状況なら、キミは間違いなく最強ですね。爆弾の類も爆発したことを確認してからでも余裕で避けられるレベルです」

 

「本当に周りに配慮する必要がない状況なら、ですけどね。そんな状況が発生するとは思えないし、考えたくないなぁ。二重の意味で。何事も平和が一番ですから」

 

「それはその通りですね。でも、せっかくの機会だったので自分のスペックの高さを改めて実感してほしかったのです。今のキミには、アーマード・コアに登場する様々な機体をも凌駕する機動力がある。そう思うとなんだかロマンを感じませんか?」

 

「まぁ、もちろん。そう言われるとそうだけど……。なんか、夢も潰れた気分。ゲームやってても『コイツら俺より遅いんだよなぁ』とか、烏間先生に勧められた通りに自衛隊に入って、罷り間違って空自になって戦闘機に乗れたりしても『俺、生身の方が強いんだよなぁ』とか思ってしまいそうで」

 

「にゅやぁっ!?まさかのネガティブな方向に!?」

 

「ガンダムやACが実現されても、俺の方が速い。戦闘機に乗れたとしても俺の方が速い。なんなら、戦闘機を足場に八艘飛びとかできそう……。バトルフィールドの戦闘機から空中で外に出て、敵機をロケランで撃ち落とす〜みたいな神プレイがマジの最適解になりそうだなぁ……ははは……。機動兵器よりも速い歩兵というロマンはあるのに夢が壊れた………」

 

『あー、先生が乃咲さんの夢を壊しました。いーけないんだ、いけないんだー、ひーなさんに言ってやろ〜』

 

「えぇぇぇ!!?まさかの生徒の夢を壊してしまったぁぁ!!?しかもなんか普段とキャラが違くありませんか、律さん??」

 

 律からの小学生のような言動に殺せんせーが驚きつつも、あっという間に海を越え、俺たちは日本を抜け出し、どこか分からない国のあまり賑わってるとは思えない街へと密入国した。

 さりげなくこれって犯罪なのではないだろうか。いや、今更なんだろうけどさ。ビッチ先生から刀を貰ったり、冬休み前の射撃訓練はエアガンと実弾の中間くらいの威力がある銃になっていたし。装備と技術は余裕で人を殺せるものが揃ってる。

 

「さて、ここは何処のなんという国でしょうか!」

 

「……さぁ……?飛んできた方角的に中東ってのは分かるけど……。流石に地図で見るのと移動するのでは違うな……。さっぱりですわ。何処です、ここ?」

 

「ナイショです。プライパシーに関わりますので」

 

「じゃあなんで聞いたんすか……」

 

 律に聞こうかと思ったが、プライバシーが云々言ってるからやめておいた。んで、実際になんでこんなところに?

 殺せんせーは俺を懐に入れたままでヌルヌルと進み、最終的にちょっと広めの家の前に立つとインターホンを鳴らした。

 

『はーいぃぃぃぃぃぃ!!!?』

 

 なんとなく、気怠そうに対応しようとしたのが伺える声音が突如として驚愕の色に染まって絶叫に変わった。

 どうやら、インターホンは切れていないらしく、なんとなく聞き覚えがある気がする声が滅茶苦茶慌てていた。

 

 少し立つとドタドタと複数の足音が駆け寄ってきてドアを蹴破らんばかりの勢いで開け放つと3人が力一杯ツッコミを入れた。

 

「「「なに平然と遊びに来てやがんだ、超生物!!?」」」

 

 そこにいたのは殺し屋界のズッコケ3人組こと、ガストロ、スモッグ、グリップ。普久間島で出会った殺し屋たちだった。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「なるほどな……そっちの坊主に経験を積ませたいと………って納得できるかぁ!!」

 

 スモッグが冷静に話を聞いてる様に見せかけて全力で突っ込んだ。気持ちは分かるさ、俺も同じだから。

 死神訓練特別編とか言うから、何をするのかと思えばまさかの実弾での射撃練習。その為の道具と場所を貸して欲しいと殺せんせーが言い出したのである。

 

 腕組みしながら考え込む姿勢のガストロと、話を聞いてツッコミを入れたスモッグ、誠実そうに見えていつもの三日月の口の殺せんせーを尻目に、俺はグリップと腕相撲をしていた。

 平常時だと腕力は互角。ゾーンに入って身体のスペックを引き出せば瞬殺ってところか。

 

「ヌルフフフフ、どうでしょう。ここの彼に射撃訓練を付けていただけるのであれば、私は今日一日、日本に帰るまでの間、この建物から出ません。普段、この子達がやっているのとほとんど同じ条件での暗殺チャンスの提供。それが見返りです」

 

「くっそ……!んで地味に喉から手が出るくらい欲しいチャンスなのが余計に腹立つ……!しかも、自分が殺されない前提で条件出してるのが分かるのが更にムカつくぜ……!」

 

「だが悪い提案じゃねぇ。俺たち殺し屋にとっちゃあ、とんでもねぇプラチナチケットだ。俺は構わねぇぜ」

 

「俺も構わぬ。これはまたとない機会であることは確実で、ガストロの言う通り、他の同業者たちからしたら望んでも絶対に得られないチャンスだぬ」

 

「分かっちゃいるがなぁ……。その殺し屋が望んでも得られない状況で俺たちの10倍近い人数で暗殺を仕掛けて失敗してるのが現実だ。それでも挑戦できる機会があるのはかなりのアドバンテージではあるが……」

 

「ならやろうぜ。やらねぇことには可能性はゼロと同じだ。やれば可能性自体は生まれんだろ」

 

 話が受け入れる方向に向かって進んでいる。

 そうか。確かにあの教室の環境は世界中の殺し屋達にとっては垂涎のロケーションだろう。

 なにせ、機動力が自慢のターゲットが四方八方を壁と天井で囲われた場所にいて、尚且つ子供に被害を出さないために手加減しているのだから。状況で言えば最も殺しやすい。

 

 と、ここで殺せんせーが情報をひとつまみ入れた。

 

「ちなみに、こちらの彼ですが、単独で私の暗殺に成功しかけています。私が生きているので失敗は失敗だと言う声があっても仕方ないことですが、乃咲くん1人に私は四肢を切り落とされ、床に押し付けられたあと、心臓まで数センチという所まで追い詰められました。過去最大級の危機でしたよ」

 

 そのセリフと共に視線が俺に向いた。

 いや、うん。たぶん、人数的に俺1人でヤレるからプロが3人いれば可能性は充分にあると言いたいのだろうが。

 流石に俺を引き合いに出すのはアレじゃないだろうか。自分で言うのもなんだが、俺は確実にイレギュラー側だ。

 

 ……イレギュラー、ね。AC好きなら心惹かれる単語だろう。最初はイトナみたいな触手を持った人間に対して俺が内心で勝手に呼んでいただけだったが、いつの間にか俺がそのカテゴリーに含まれる様になってしまった。

 

 嬉しいやら、悲しいやら。

 

「……しゃーない、ここまで煽られたらやるしかねぇわな」

 

「それでこそプロの殺し屋です。まぁ、そう簡単に殺されるつもりはありませんがねぇ」

 

「ぬかせ、こちとらテメェを殺す為の研究は怠ってねぇよ。鷹岡からの依頼はおじゃんになったが、幸いにも日本政府からテメェの暗殺に関する依頼を持ちかけられた。この前、ドングリ麺を食いに行ったのだって敵城視察の一環よ」

 

「ヌルフフフフ、それでは早速始めましょう」

 

 おお、殺せんせーとプロの殺し屋のガチ攻防か。それはそれで見てみたいもんだ。プロの手札と生徒相手の手加減を取っ払った殺せんせー。後者は殺しはしないだろうけど、巡航ミサイルにすら手入れで報復する人が一体、どんな返しの一手を見せるのか。

 

「おい、そこの銀髪。なにボサッとしてんだ。テメェはこっちだ。チャカぶっ放してぇんだろ?」

 

「あ、はいっ」

 

 思わず見入っていると、ガストロがちょいちょいと手招きしてくる。そう言えば俺の射撃訓練が目的だったのだ。

 彼の背中に続いて歩き、地下への階段を下り、しばらく進むと、そこには所々くたびれてはいるが、徹底した管理で錆ひとつない、3レーン分の射撃スペースがあった。

 

「ほら、好きなの取りな………っても、流石にしんどいだろ。まずは実弾ってのがどんなもんか慣れろ……そうだな、これでいいだろ。南の島でテメェの仲間が俺の部下から掠め取って撃ってたリボルバーだ」

 

 渡されたのは小さなリボルバー。銃にはあんまり詳しくないから、ゲームとかだと威力は控えめだが、序盤で手に入りやすい系の奴って程度の認識しかない。もっと勉強しよう。

 

「一応聞くが、実弾の経験は?」

 

「ないです。エアガンと実弾の中間くらいの奴ならありますが、こいつを撃ったことがある2人からはやっぱり感覚が全然違うってのは聞いたことがあります」

 

「そうか、ひとまずは構えてみろ」

 

 受け取った銃をレーンの先の標的に向かって構える。銃のグリップを握った手を反対側から握り込む様に。銃を突き出した方の手とは反対側の足を前に出し、正面から見て身体の半身だけ見える様に。後ろ足でバネの様に体を支える。

 

「構えとしては問題ねぇ。それはウィーバースタンスってんだ。半身を逸らしていることで被弾しにくいが、射撃角が少し狭まる。ゲームのキャラがよくやってる構えだな。移動中も構えを継続出来るから、施設に潜入して制圧するような部隊で好んで使われる」

 

「もう一つあるんですよね?」

 

「あぁ、アイソセレススタンスな。こっちは正面に向かってどっしりと構える。体を逸らさない分、ウィーバーに比べて射撃角が広いが、代わりに被弾面積が大きくなる。まぁ、こっちが今の射撃では主流だな」

 

 ガストロが説明しながら俺の周りをクルクルと回り、舐める様に観察して言葉を続けた。

 

「握り方も悪くねぇ。素人はよくマガジンの底に手を添えがちだからな。あれは良くねぇ。暴発でもしたら手が吹っ飛ぶ」

 

「……なら、マガジンがグリップに入ってない銃。例えばこのリボルバーとかならそう言う持ち方もありなんですか?」

 

「ありってか、基本的にはリボルバー向けだろ。ティーカップってな。ウィーバーで構えんならこっちが適してる……が、今回は覚えなくていい。この後はお前らが銃って言われて想像するようなタイプの奴しか使わねぇ」

 

「了解です」

 

「よし、んじゃあ撃ち方を説明するから良く見てやがれ」

 

 ガストロは自分が持っていたリボルバーを見せながら、簡単に部品の名前を説明したあと、撃つまでの流れを教えてくれた。一通り話したあと、彼は徐にレーンの先の的に向かって構えると躊躇いなく引き金を引いた。

 ズキューン!!という銃声と金属製の的が立てる甲高い金属音が響く。ゾーンに入って弾丸の行方を追っていたが、彼の一射は見事に標的の真ん中を撃ち抜いていた。

 

「真ん中に命中……凄いっすね」

 

「…………てめぇ、やっぱり見えてやがんな?」

 

「えっ?」

 

 素直に感想を伝えると、銃を下ろしたガストロが驚愕と納得の混ざった複雑な表情で俺を見ていた。

 

「なんで俺がわざわざ、てめぇの指導なんてしてると思う?」

 

「殺せんせーを至近距離で殺すチャンスが欲しいからでは?」

 

「それもある。だが、一番はテメェが来たからだ。普久間島の時からずっと気になってた」

 

「………ごめんなさい、俺はノンケです。彼女もいるんで、そういうのはちょっと遠慮したいなぁって」

 

「そう言う意味じゃねぇ、ぶっ殺すぞ」

 

 無論、知っている。だが流石はおじさんぬの仲間と言うべきか期待通りの反応をしてくれて面白い。

 善意で教えてくれてる人に失礼かもしれないが、それでもひたすらにかしこまるよりはやりやすいだろう。こういうタイプの人種は。生意気言いつつ、負けん気が強い方が好ましいはずだ。

 

「あの日、俺の目を引いたのは3人。部下の銃をぶっ放してくれた2人とテメェだ。前者2人は射手として申し分ねぇ。あの状況で撃てる胆力、外さねぇ実力、どこを撃つのか選ぶ技量。全部が飛び抜けてやがった」

 

 凄いな、千葉と速水さん。ガチの殺し屋が手放しで褒めてるぞ。実際にあの2人は俺たちの中でも特に職人感があるというか、援護を任せた時の頼もしさで言えばトップだな。

 ガストロの評価に納得して頷いていると、彼は『だが』と内容を切り替えて俺への評価に移った。

 

「だが、テメェは前者2人とは違う意味で異質だ。あん時、俺が撃った弾を避けやがった。間違いなく必中のコースだったにも拘わらずだ。弾丸なんて見て避けられるもんじゃねぇ。となると、あん時のお前はあの土壇場で俺の声、視線、手の動き、銃の向き、指の動きの全部から俺の銃撃が何処を通過するのか予測して躱した。そうとしか考えらんねぇ」

 

「………」

 

 なんとも、違うとは言いづらい雰囲気だ。

 実際、俺がやったのはそんなハイレベルなことではなく、見て避けられるもんじゃねぇ弾丸を見て避けた。思えばあの時がゾーンを自在に使えるようになった瞬間だったか。

 まぁ、今ならゾーンに入ればガストロの推理と同じことは余裕で出来るだろう。勘違いではあるが、嘘ではないし、ここはあえて否定はしないでおくとしようか。

 

「あん時、お前は避ける側だった。だが、もしも射撃する側なら?瞬時に複数の情報を五感から取得して処理を行う。それも撃たれる寸前に射手の動きから弾丸を回避できる程の瞬発力で、だ。そんなチカラがあれば、動かねぇ的の狙った位置にドンピシャ当てられるだけの腕がある奴なら……例え動く標的であっても絶対に外さねぇ」

 

 ギロリとガストロが鋭く俺を見た。

 標的を狙う猛禽類というより、獲物を品定めする蛇の様に。

 

「射手としてリスペクトするなら、あのガキ2人だ。だが、射手としてロマンを感じるのはテメェだ。俺らスナイパーが喉から手が出るほど欲しい能力を持ってやがる。その上、発射された弾を肉眼で追い掛けて何処に命中したか把握できる動体視力もあると来た。垂涎と嫉妬必須の欲張りセットだ。別にセンコウの真似をするつもりはねぇけど、そんな奴が銃を学びたいと自分のところに来たらよぉ、試してみたくなるだろ」

 

 その評価は俺にとってかなり意外なものだった。

 俺と一緒に作戦を立てたり、暗殺を実行した仲間や先生たちが真っ先に評価してくるのは近接戦闘能力か、指揮関係だ。

 もちろん、射撃能力も評価してもらってはいるが、それでもどちらかと言えばオマケ感がある。狙った的は外さないし、実際にガストロが褒めちぎった2人と同程度の評価は貰っている。

 

 それでも、やっぱり近距離戦で殺せんせーを殺せるというインパクトが強すぎるんだ。俺ですら自覚がある。『乃咲?近距離での暗殺だったら最強じゃね?マジで殺せんせーを殺せるし、相手に張り付きながら作戦指揮もできる。仮に引き剥がせたとしても、射撃だってできるしな』とか、ちょっと甘いかもだが、自分を客観的に評価してもこんな感じだ。

 

 俺を評価する上で、射撃能力は一番最初に挙げられる項目ではない。俺のことを知ってれば知ってるほどに3番目くらいか、死角を潰すオマケみたいな扱いになる。

 

 だから、ガストロからの評価は嬉しかった。

 俺とて射撃訓練を適当に流していたわけじゃない。むしろ最初は風に煽られたりで弾が真っ直ぐに飛ばす、的を外しまくってたから必死に練習をしていたまである。

 

「さぁ、そろそろ撃ってみな。世界最高難度の暗殺を最前線で繰り広げてる奴のお手並みって奴を見せてくれ」

 

「……言われるまでもないっ!」

 

 それをお望みなら下手に丁寧に出る必要はない。少なくとも世界最高のハニートラップ暗殺者から一人前だと認められた殺し屋として、同業者の期待と品定めをする目に全力で応えて見せる。

 傲慢に、強気に、勝ち気に。なにより、俺は死神にとって2番目の弟子なのだから。先生を越えるためにも、全力で。

 

 渡されたリボルバーを撃つ。反動は訓練で使ってる強化エアガンの比ではない。だが、それでも俺の膂力を覆せるほどではない。両手で支えているのだから尚更だ。発砲しても銃身がピクリとも動かない俺をみて、ガストロはドン引きしたあと、新しいおもちゃを見つけた子供の様に目を輝かせ、様々な銃を渡しては撃たせてくれた。

 撃ち方を教わり、反動の逃し方を教わり、早撃ちを教わり、跳弾の活用法を教わり、リロードの効率的なやり方を教わった。

 

 その過程で片手でガバメントを打つ様に指示されて、普段の射撃スタイルを聞かれたので二丁拳銃でやっていると答えた。そうしたら普段使用しているエアガンの種類を聞かれたので、素直に答えると彼は実物を何処からともなく取り出して渡してきた。

 

 右手にM1911、左手にファイブセブン。某ゲームの某銃の設定にロマンを感じて現実で再現するならこんな構成だろうなんて妄想から生まれた俺の厨二心を象徴する射撃スタイル。

 まさか、現実で実銃バージョンを握ることになるとは思わなかった。だが、エアガンなんかとは重さと冷たさが全然違うのに、不思議と手に馴染んだ。

 自分の膂力とガストロから教わった反動の逃し方を組み合わせて左右で射撃する。同時に撃ったり、それぞれタイミングをずらしてみたり。狙う箇所は標的のど真ん中だけ。

 それを繰り返すこと数回。金属製の標的の真ん中には一つの穴が空いた。実弾射撃でも命中精度は保てている。

 

「………こりゃ、えげつないな。乃咲テメェ、進路は決まってんのか?まだ中坊だろうけどよ、高校出ても特にやりたいことがねぇなら、俺が昔いた部隊紹介してやろうか?」

 

「俺はそこでも通じます?」

 

「十分すぎる」

 

 苦笑を通り越して呆れてるガストロが頭を掻いた。

 よかった。俺の腕はプロの目から見てもそれなりの水準に達しているらしい。自分としても、こんだけの命中精度でまだまだとか言われたらハードルの高さに絶望する。

 

「まぁ、連絡先はくれてやるからいつでも連絡してこい。んで?どーするよ、こんだけのことができる奴にこれ以上教えられることはねぇけど。この更に上となると撃ち合いだしな」

 

「それは流石に遠慮しておきます」

 

「賢明だ」

 

 実際、撃ち合いになっても負けはしないだろう。単純な射撃の腕では届かないだろうが、俺には危機的状況に陥ると自動で発動する反則技がある。

 

 俺らは銃を片づけ、散らばった空薬莢を拾い集めて殺せんせーたちが殺っているであろう上階へ戻る。

 

「……乃咲」

 

「はい?……っと」

 

 名前を呼ばれたので彼の方に向くと、なにか小さなものを投げつけられた。なにかと思って見てみると、それは銃弾だった。

 

「くれてやる。流石に実銃をプレゼントなんてのは未成年のガキにはできねぇが、そいつくらいなら隠し通せんだろ。実際に俺たちの時みてぇに銃を持った連中とバトることもあり得る。そんな時の為の隠し弾にしておけ」

 

「………卒業証書代わりってことすかね?」

 

「似た様なもんだな。もしテメェが暗殺に成功して、来年も地球が残ることになったなら、そん時は本物の銃をくれてやる。もっとも、裏社会で生きるなら、だけどな」

 

「んじゃ、そん時はファイブセブンでもくださいな。実は結構貴重なんでしょ、あの銃」

 

「貫通力ガチガチの奴は国が運営する様な部隊以外だと手に入りにくいな。ったく、妙にガメツイ奴だ。いいぜ、そん時は今日みたテメェの腕に似合うカスタムした奴をプレゼントしてやらぁ。だからまぁ、精々来年も地球が残るように頑張れや」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 背中をバシンと叩かれた。

 殺し屋なりのエールなんだろう。貰った銃弾を親指と人差し指でつまんだまま階段を上がる。

 

「おや、乃咲くん。もういいのですか?」

 

「俺から教えてやれることはねぇな」

 

「それはそれは。ありがとうございます、ガストロさん」

 

「こっちも良いもん見せて貰ったぜ」

 

 殺せんせーは俺たちが階段を登り終わると余裕の表情で俺たちの方へとやって来た。会話をしながら彼の後ろを見てみると、死屍累々というか、スモッグとグリップは息を切らしてグロッキーな状態。しかもおじさんぬの爪にはマニキュアが塗られていた。

 

「……手入れしたのね」

 

「先生なりの流儀ですので。いやぁ、それにしても流石はプロの中の上澄み。一切油断できない相手でした」

 

「良く言うぜ……」

 

 本日何度目かのドン引き顔のガストロが棚から冷えピタみたいなものを取り出して2人に歩み寄る。

 

「おや、乃咲くん。その銃弾は?」

 

「ガストロ先生からのプレゼントっすね」

 

「………ふむ。そういえば夏休みの時もキミたちにばら撒いてましたね。大事にしなさい、と言いたいところですが流石に危ないので、あんまり看過できませんね……。しかし、生徒たちの思い出を取り上げるのも…………ねぇ?」

 

「まぁ、気持ちはわかりますけど」

 

 殺せんせーは腕を組んで首を捻る。

 確かに銃弾1発くらいなら隠し通せるけど、実際、暴発したりしたら危ない。殺せんせーが懸念しているのはそこだろう。

 

「なら、暴発してもあまり危なくない形に加工できませんかね。せっかく貰ったので原型は留めて欲しいですが」

 

「………よし、それなら。ちょっと借りますよ」

 

 殺せんせーに弾を預けると、猛スピードで弄りだした。凄まじい速度で触手が窓の外へ延びたり、粘液を垂らしたり。

 数秒後、殺せんせーから弾が返された。

 

「これなら危険はありません」

 

「…………何したんです?」

 

「その辺の砂を先生の粘液で固めて弾頭と入れ替えました。仮に銃に込めて撃ったとしても先生の粘液で勢いが殺された砂つぶが銃口から飛び出す程度です。もっとも、発砲音はそのままでしょうけど。殺傷能力など一ミリもない完全な空砲です」

 

「完全なお守りですね」

 

 受け取った弾丸を懐にしまう。

 お守り、か。大事にしないとな。

 

「どうでしたか?実際に実弾を撃ってみて」

 

「エアガンとかとは比べ物にならないですね。威力もそうだし、狙いやすい。簡単に人を殺せてしまう。それなのに引き金は決して重くはない」

 

「そうでしょう。もし、キミが本当に銃を握る時が来たなら、今日のことを思い出してください。自分や周りを守るために、そして、引き金を引くときにその威力と簡単さを忘れてはいけません。殺すことは簡単ですから」

 

「はい。でもね、殺せんせー。それ以上に思ったんです」

 

「なにをです?」

 

「……ほんと、周りって自分が思ってる以上に俺をみてくれてたんだなって。南の島と学祭でしか顔合わせてなかったのに」

 

「……ヌルフフフフ、どうやら、連れて来て正解でしたね」

 

 今日のことは本当に貴重な体験になった。

 殺せんせーは満足そうに俺の肩をポンと叩く。

 

 実銃の発砲、それは日本人のほとんどが経験しないものだ。もしも、本当に人に銃を向ける日が来たのなら。それはどんな時だろう。本気で殺そうと思った瞬間なのか、脅しなのか。

 

 俺は、この日受け取った"お守り"を今考えている意図とは違う意味で他人に撃つことになるなど想像していなかった。




あとがき

はい、あとがきです。

自分の中でいよいよ最終回のビジョンが鮮明になったというか、かなり近づいて来たことを感じたので、これからは偶に活動報告の所に本編であまり触れない裏設定的なものを投下していきます!

本当に偶に更新すると思いますので、気が向いたら観に来てください……!

今回もご愛読ありがとうございます!
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