暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えて、たくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


178話 女子会の時間

 

「おぉ……ここが乃咲くんの家……」

 

「なんか新鮮〜」

 

「そらそうだ。俺だって新鮮だわ。こんだけ大量の女子が家にいる光景とか後にも先にもないだろ」

 

「そんな大量の女子に怯えて磯貝くんを召喚したのね」

 

「あはは……まぁ、なんだ。圭一は殺す側の意見、俺は助けたい側の意見を持ってるから。圭一1人だとどうしても殺す方面に行っちゃうだろ?あくまで話し合い。あくまで腹を割って話すだけの場だからさ。反対意見の奴がいてバランスとった方がいい場面もあると思ってさ」

 

 パジャマ姿の女子軍団をヒナの背中に隠れて眺めながら、言葉を交わし、悠馬が俺のフォローをするように言葉を続ける。

 実際、女子ばかりの空間に放り込まれて俺の胃が保つか心配だったのもあるが、悠馬の言ってることも間違いではない。俺なりにさっきの男子会は反省するべき点が多かったと思っている。俺もつい感情的になっていた。

 

「……なんというか、渚くんじゃないんですね」

 

「あー……うん。ちょっと気まずくて」

 

 奥田さんからおずおずと指摘が入る。

 これには俺も苦笑した。

 

 まえ、雪村のお見舞いに行った時。俺が殺すという意見を、殺せんせーの過去を知った上で始めてみんなに宣言した時。確かに彼女もあの場にいた。殺すよりも助けたい側にやっていた渚を見ているはずだ。なら、当然の疑問か。

 

「気まずいって何があったの?」

 

「ちょっと口論になったと言うか。キツく言いすぎたというか。割と感情的に話してしまったと言うか」

 

「実際には圭一というより、カルマと渚だった気がするけどな。でも、確かに圭一の言葉選びも容赦なかったな」

 

「あの渚が口論………?」

 

 俺たちの説明に片岡が訝しむような反応を見せる。

 彼女だけじゃなく、全員が意外そうな顔をしていた。

 

「ちょっとしたすれ違いというか、俺の目には話し合いで捉えてる意味の齟齬があったように見えたな。かく言う俺も考え込んでたり、聞き入ってたりで止めに入るタイミングを何回も見失ってたんだけど。そこまで深刻な話でもないよ」

 

「そう?」

 

「少なくとも、俺はそう思ってる。話し合いの方向性を間違えたって言うのかな。本来の目的は腹を割って話すこと。自分はこうしたい、私はああしたいって、あくまで自分の意見を話すだけでよかったんだけどさ。結論を急いだって言うのかな。ちょっと表現が難しい」

 

「そうだなぁ………。冷静になって振り返るとそうかも」

 

「……本音を話すだけの場だったはずが、話し合いって部分に気を取られてそれぞれ別の解釈をした結果、本筋がズレた?」

 

「そんなとこ。流石だな片岡」

 

 言い淀む俺と悠馬に代わって片岡が簡潔にまとめる。

 なるほど、確かにそうかもしれない。簡単に言うとそうなるのかな。思わず感心していると悠馬は素直に片岡を褒め、彼女も満更でもなさそうにはにかむ。

 

 なんだか、片岡も分かりやすい奴だな。

 

 まぁ、人のこと言えないかもだけど。

 

「まぁまぁ、圭ちゃんと渚くんの間に何があったのかは私が後で根掘り葉掘りしておくからさ、今は本音をぶちまけよ?男子2人に女子のドロドロした部分をたっぷりと見せちゃお!」

 

「悠馬、恋人が怖い」

 

「そこは可愛いって言っておけ」

 

 ヒナの背中から離れ、悠馬の後ろに隠れようとするが、愛しの陽菜乃はと言えば、逃がさないと言わんばかりに俺の袖を引いて引き留めると、ラディッツを道連れにする悟空の如く、俺を羽交締めにした。

 背中に当たるヒナの感触を感じながら、もう抵抗するのを諦めてぐでぇ〜っと座って女子連中を呆れさせる。

 

「アンタら、普段そんなことしてんの?」

 

「まぁね〜、この人、こっちから近づくとすぐ逃げちゃうから。捕まえたらしばらく抱きしめておくの。そうすると大人しくなるんだ〜。その癖、たまにちょっと離れてると自分から甘えに来るんだよ?」

 

「猫か」

 

「乃咲くんは猫って言うより犬じゃない?」

 

「チワワ?」

 

「違うでしょ。でも、ドーベルマンって感じでもないよね」

 

「シベリアンハスキーとかでいいんじゃない?

 

「それ、褒められてる?ハスキーって動物系の動画だと結構アホそうな行動ばっかしてるイメージあるんだけど?」

 

「うちもそう言う印象の方が強いけど……。でも、確かにそっくりじゃない?黙ってればカッコいいし、実は頭も良くて賢くて、黙ってればクールそうだけど実は優しいのに、いざ動き出すと何処となく滲み出る残念感と色合いがさ」

 

「酷くない?黙ってればって2回出てきたよね?そんなに俺の言動は残念ですか!?E組の乃咲くんって結構知的じゃない?実力行使すれば最強なところを話し合いで解決しようとするくらいには知性的で理性的じゃない?」

 

「そうだぞ、流石にシベリアンハスキーに謝れ」

 

「悠馬くん?俺に謝って欲しいんだけど?」

 

「………………………………すまん、圭一」

 

「なんの謝罪!?」

 

「……………」

 

「おい!?なんとか言えよ!?」

 

「…………………」

 

「よしよし、圭ちゃん。大丈夫だよ〜」

 

「くぅ〜ん、くぅ〜ん」

 

「私がこれから躾けていくからねぇ〜?」

 

「!!!??」

 

 大天使クラハシエルの降臨かと思ったら、まさかの上げて落とされた。酷い。俺が何をしたって言うんだ。

 俺ってばそんなに犬っぽい?犬か猫で言ったら猫、SかMで言ったらS、受けか攻めかで言えば誘い受けが俺だろう!?

 

「ごほん、えー、それじゃあ……話がそれたけど、そろそろ本題に行こう。このままだと永遠に脱線し続けそうだしね。乃咲くん、司会は頼んでいい?フォローは私と磯貝くんでするから」

 

「……もともと、そのつもりだしな。構わないよ」

 

 片岡から主導権を渡されると同時、女子たちの視線もこちらに向いた。仲間とは言え、こんだけ大量の女子に見られると緊張するが……よし。ここは感情と身体を切り離して進めよう。

 

「先に認識しておいて欲しい。これは、誰が正しい、誰が間違ってるという問題じゃない。思ったことを口に出す場だ。自分は殺したいか、助けたいか。それを自分に素直になって言うだけでいい。ぶっちゃけ、その為だけの場所だ」

 

「もちろん、それだけでも難しいことだ。だからこそ、極力、意見を出した奴を否定しないでやってくれ。男子はそれで空気が悪くなった部分がある。『それはちがう』じゃなくて『そんなこともあるか』って気持ちで聞いて欲しいんだ」

 

「人の話を聞くうちに意見も求めたくなる時もあるだろう。その時は声を出してくれて構わない。だが、それで返ってきた答えが自分の持ってる意見と逆であっても否定はするな。この場は相談する場でも、議論する場でもない。素直に、自分の気持ちを吐露する場だってのを念頭に置いてくれ」

 

 頭の中でどの口が、と思いながら告げる。

 渚が居たら、流石にどの口が言ってるのかと苦言を呈されるかも知れない。だが、渚との口論染みたやり取りを反省するのであればこそ、どの口案件であっても先にこの場を定義しておくべきだと思った。

 

 みんなに同意を求めるように視線を向け、全員が頷いたのを確認し、本格的な司会進行を始める。

 

「じゃあ、始めよう。とは言っても、そんなに堅苦しくなくていい。近所迷惑にならない程度にワイガヤしよう」

 

「お前の進行もだいぶ堅苦しいけどな。でも、こういう場だと固くなるのお前らしいよ。まずは……そうだな、今年一年を振り返ろうぜ。殺せんせーやみんなとの思い出とかさ」

 

 親友からのナイスフォローが飛んだ。

 これに続くとしよう。

 

「この一年は本当に濃厚だった。きっと共通の思い出もあれば、みんながみんな自分しか知らない経験だってしたかも知れない。殺せんせーやみんなや、暗殺の思い出。それを振り返ると……多分、迷いは余計強くなるかもしれない。でも、自分の中に浮かんだ『本当にいいの?』って疑問の前に浮かんだ言葉がきっと、お前らの本音なんだと思う」

 

「殺せんせーは俺に言った。先生を殺すことは、先生を嫌っているって意味と同義ではないって。この教室では、殺すことも、助けたいって思うことも、どっちも正解なんだ。だから、罪悪感とは感じなくていいんだ」

 

 俺の言葉に頷いた片岡が続く。

 力強く、凛とした態度で。

 

「2人のやり方に私は賛成かな。思い出を振り返って自分に素直になるってもあるけど、振り返ったからこそ、整理できるモノだってあると思う。この際、白状しましょ、あの時、どう思ってた〜とか」

 

「は〜い!私も賛成〜!」

 

「うちもそれでオッケー」

 

「わ、私も!」

 

 次々に声があがり、否定的な意見はない。

 一応、無理して本音を隠してる奴がいないか見る為に意識の波長を読んでいるが、特にそんな様子はなかった。

 

「それじゃあ……殺せんせーの赴任の時から」

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 女子たちの話を聞きながら、うっかり寝ないように相槌を打ち、話を振られたら答えてを繰り返す。

 背中にヒナの体温を感じてる上に昨晩は徹夜だったから非常に眠たい。いかんな、緊張が緩んでる。

 ガチガチになる必要はないが、それでもある程度は緊張感を持たないと〜なんて思いながら、それでもヒナの体温と感触は安心するもので。欠伸を噛み殺しながら会話に混ざる。

 

「なるほどねぇ〜、みんな、思った以上に見えない所で色んなことしてたんだね。意外な面子で繋がりがあったりびっくり」

 

「ね。それに奥田さんが意外とアクティブだったのも聞いてて驚いちゃった。カルマくんとそんなことしてたんだ?」

 

「カルマくん、思った以上に色んなことを見てるんです。私がアレを作れるようになった〜って話すと、楽しそうに笑って。じゃあこれは〜?って話を続けてくれて。結構、イタズラとかろくでもないことに使ってますけど、でも、私が作ったものを活かそうとしてくれてるのが嬉しくて………」

 

「あ〜、確かにアイツ、そういうところあるよね」

 

「あるね〜。何回か暗殺でカルマくんが指揮する班で動いたことあるけど、かなりやりやすかったなぁ〜」

 

「指揮と言えば……寺坂も地味に指揮するの慣れてきたよね。基本的には寺坂組の男子と狭間さんがメンバーだけどさ。なんか頼り甲斐みたいなの見てて感じるようになったかも〜」

 

「ガキ大将感はまだあるけど、1学期の傍若無人な感じはなくなったよね〜。修学旅行の時はだいぶアレな感じだったけどさ、こうして改めて男子を見ると結構優良物件多くなったよね〜」

 

「うちら女子組もあの頃に比べてスペック高くなったしね〜。うちの男連中とどうこうってのはあんまし想像できないけど、いざ高校に行ったらちょっとガッカリしそうで怖いよね?」

 

「それは分かるかも。うちの男子って妙な所で能力が特化してるって言うかさ。バカなことしてる時は本当にバカなのに、能力を発揮できる場面だと凄い頼りになるからね。ちょっとうちらが男に求めるハードルって高くなってるかも」

 

「烏間先生を筆頭にした男連中に男性観を壊されてるような部分あるよね」

 

 さて、こんな感じの会話が続いているのである。 

 そりゃあ眠たくもなるだろう。もう俺や悠馬がいることを忘れてないだろうか、コイツら。もしくは俺たちを男として見てないのでは?と思えるくらいに赤裸々だ。

 

「流石に居心地悪いな、悠馬よ」

 

「絶賛女子にひっつかれてる奴が何言ってんだ?」

 

 親友からの呆れるような目線が痛い。

 

「でもさ、うちらの中で1番男性観を壊されたのって……」

 

 悠馬が相手してくれなくなったのでヒナの頬をムニムニしてると女子からも何やら意味深な視線が向けられた。

 

「いや、俺は別に男性観は壊されてないっていうか、男にとっての男性観ってなんだ……?ある意味、理想の背中っていうか、なりたい人物像って意味では烏間先生に壊されたかも知れないが……。流石にホモ堕ちはしてないぞ」

 

「鈍感」

 

「ウスラトンカチ」

 

「唐変木」

 

「死神ファザコン」

 

「うん、お前らが俺に何かしら不満があるのだけは伝わった」

 

 酷い言われ様である。

 

「なんていうか、ねぇ?」

 

「うん。乃咲くんは悪くないんだけどね。ちょっと可哀想かな。だって、今後、どんなに見た目がいい人と会っても、性格がいい人と仲良くなっても、男の基準がこの人になるんでしょ?」

 

「基本的に年相応な部分もあるけど、基本的に相手のことを見ようとして誠実な態度を取るし、本当に心配になったら自分の身も顧みないで動ける。その上に日本でもトップのレベルで勉強もできて運動も得意。付け加えて殺せんせーすら単独で殺せる戦闘力もち。そんで顔も悪くないし、実家も太くて、外国の血が入ったクォーター。実は周囲との軋轢で挫折したことでグレた最強のヤンキーだった過去持ち。あと、声も良い」

 

「こうしてみると、ありえんくらいハイスペックよね、コイツ。要素だけ抜き出したら、夢小説か何かに出てきそうよね」

 

「ま、ハーメルン二次創作のオリ主だしね」

 

「何言ってるの、不破ちゃん……」

 

「ヒナ、ヒナ。滅茶苦茶褒められてる?」

 

「そだねー。少しは自分が属性過多なの自覚して自重しようね〜?これ以上、女の子を引っ掛けて来たら泣くからね〜?本当に困ってる子を助けるのは例外だけどさ」

 

 女子たちがため息を吐いた。

 悠馬も悠馬で呆れたような目を向けてくる。

 

 いや、自分で言うのもなんだが、俺も自分は悪くない顔をしてると思う。だが、可愛いと言われて『そんなことないですよぉ〜』みたいなことを分かっててやるのもアレだが、『でしょ?私可愛いんですよ』みたいに調子に乗るのも嫌じゃん。

 そう言う意味だと結構良い塩梅で生きてると思うのよ、私!俺イケメン!何しても許される!とかじゃなくて、自分そこそこ!だから褒められたら素直に受け取るけど調子に乗らないように自主規制!を心がけている。

 

 もっとも、かっこいいとか言われたことの方が少ないけどネ!だから、いらない心がけなのかも知れないが!

 

「ヒナちゃん、高校行ったら大変かもね。乃咲くんの表面だけ見て寄ってくる子、絶対に何人かいるよ」

 

「うちらは一応、乃咲くんが頑張ってる所を何度も見てるから、そういう勘違いはしないけど……………うん」

 

 矢田さんが口を止めた。言葉を最後まで言い切ったのか、あるいは言えなかったのか。途中で言い淀むようにして、言葉を選び、飲み込むように、何かに頷いて口を止めてしまった。

 正直、女子たちから割と高評価だったようで嬉しい反面くすぐったかったので、誉め殺しみたいな流れが止まったのは少し寂しい反面、助かったと安堵する。でも、矢田さんの纏う空気は場の流れを変えた。脱線しがちだった話題を戻したのだ。

 

「ごめん……。なんて言えば良いのかな……?私、ヒナちゃんと一緒にいることが多かったからさ、なんとなく、ヒナちゃんが乃咲くんを見てるタイミングは知ってたし、そう言う時は大抵、私も一緒に眺めてたんだけどさ。なんとなく、思っちゃった」

 

「………なにを?」

 

「…………人のことをしっかり見るようになった、努力するようになった乃咲くんがさ、殺せんせーの過去を知って、何も思わないはずないよねって。それなのに誰よりも先に殺すことを選んで、渚くんと口喧嘩みたいなことにもなったっていうのが……やっぱり気になっちゃった」

 

 触れたり、触れなかったり。付かず離れずで、進行していた本題に躊躇いながらも彼女は踏み込んだ。

 視線が再び俺に集まった。口には出てないが、目が語っている。何があったのかを知りたいのだと。

 

「陽菜乃、離してくれ」

 

「……うん」

 

 流石に佇まいを直す。これはだらけた姿勢で話すことではないだろう。取り繕うのは今更かも知れない。でも、気分の問題だ。さっきまでの緩んだ空気を殺して本気になる。

 

「まずは、ここから話すことは俺の主観での考え方だ。だから、参考に出来るならそれでいいし、私は私って思うならそれでもいい。あくまで他人の意見だってことは忘れずに聞いて欲しい。俺の意見でお前らが考えを変える必要はない」

 

「さて、どこから話そうか……。いや、うん。そうだな。結論から言うと、俺の殺したい、殺すべきって主張は変わらない」

 

「でも、先生が嫌いとか、死んで欲しいわけじゃない。渚の時は流石に言葉足らずが過ぎたので、この場を借りて補足させて貰うと……俺だって、殺せんせーに生きてて欲しい。だから、助ける方法を考えなかった訳じゃない」

 

「大前提、考えて欲しい。世界各国の首脳たちが殺せんせーを殺すのは、彼の寿命と同時に地球が巻き込まれて、地球滅亡なんて展開を阻止する為だ。だから、暗殺なんて試みてるわけだ。ここまでは良いか?」

 

 問いかけると、頷かれる。

 みんなここまでは良いんだ。よし、慎重に言葉を選ぼう。相手は女子だ。こう言う場面での俺は無意識に攻撃的になりがちだ。可能な限り、穏やかに行こう。

 

「だが、結果的にあらゆる作戦は失敗に終わった。流石に彼らも思っただろう。『このままでは殺せない』って。なら、次の作戦を考えるはずだ。俺が殺せんせーを殺すことを選んだ理由の一つは明確なタイムリミットがあるから。助けようとする試みを無駄とは言わない。でも、いたずらに時間を浪費するだけの可能性がある以上、別の切り口や選択肢を取るべきだと思った」

 

「殺せんせーを殺せると確信してる俺とは真逆の発想だが、タイムリミットがあるのはあっちも同じ。なら、中学生に出来た発想が、世界各国の首脳が考えつかないとは思えない。なにより、彼らの視点では殺せんせーは殺されないように動いてる。つまり、死にたくないって印象を与えてるはずだ」

 

「タイムリミットがある、それまでに無力化する方法は殺すこと。でも、望みは薄い。なら、別の切り口からアプローチするだろう。殺せんせーを無力化する方法を探すはずだ。なにせ、殺せんせーは死にたくないって思ってるように見えるんだから。方法を見つければ、実現できれば、相手を自分の交渉テーブルに座らせることができる可能性がある。殺す以上に現実的な手段になる。なら、彼らがそういう可能性に目を向けてないとは考えにくい。そして実際に、父さんもそういう会議に呼ばれてるらしい」

 

「俺の視点では、殺せんせーを殺す以外の方法で無力化する方法が探されているのは確定してる。でも、父さんからは方法が確立されたという情報はない。加えて、殺せんせーがよろずに通じた万能の最高の殺し屋だったことは彼らにも知らされている可能性がある。万が一、妙な要素が盛り込まれてる方法だったのなら、看破されて逆襲されかねない可能性だって考えてるだろう。俺がその立場なら中途半端なものは作れないし、渡せない」

 

「もちろん、断片的な情報だけでも拾ってくることができれば、殺せんせーの知識を動員して助ける方法を探せるかも知れない。なら、それを他でもない殺せんせーがやってない理由は?」

 

「本気で殺せんせーが生き残りたいと思うなら、そういう情報も見過ごさないだろう。強奪を試みるかもしれない。なのに、それをしてない理由。それはたぶん、俺たちに幻滅されない為ってもあるだろうが、きっと、実行が現実的じゃない可能性があるからなんじゃないかって、俺は思う」

 

「研究はされている。世界各国で。なら、その研究成果の共有はどうしてるのか?ネットで転送?ありえない。2代目の技術は殺せんせーから継承されたもの。イージス艦なんて国家機密級の代物をルーツに持ってる律をハッキングする技術者。その上、殺せんせーには律を魔改造した前科がある。ハードから直接抜き取ることも出来るだろうな。そんな相手に対する交渉材料をぶっこぬかれる可能性がある電子通信ではやり取りしないだろう。"そうしなきゃ情報共有できないような、やむを得ない相手"以外とは。そんくらい厳重に扱われてる」

 

「じゃあ、どうやって情報共有してるのか?多分、手渡しだろう。スパイ映画でありがちなシチュじゃん?重要機密の入った書類を受渡する現場に潜入して強奪するっての。アレと同じことが現実で起きてるんだ」

 

「さて、それをどうやって探す?いくらマッハ20、最高の殺し屋とは言え、世界各国で行われてる機密実験の成果報告を資料受け渡しの現場をどうやって見つける?受け渡し要員だってそれに並ぶくらい重大機密だ。どこを調べればいいのか、誰を調べればいいのか。予想できるか?人類が何十億人いると思ってる?その中から最低限の人数で考えるなら、探さなきゃいけないのは2人だぞ?ざっくり35億分人に1人ってレベルの探し物だぞ?」

 

「あと3ヶ月で見つけられるか?見つけたとして、研究成果なんて情報の更新が入るたびに同じだけ受け渡されるぞ?より正確な情報を得るなら、それを都度奪取しなきゃいけないし、殺せんせーを助けられる段階まで、俺たちの手で持っていかなきゃ行けないんだぞ?専門の設備とかないこの環境で」

 

 そこまで話して俺は一息ついた。

 短く息を吐いて、彼女らに言う。

 

「渚の時は、感情的になってアイツの意見を否定する形になったけどさ。俺だって考えなしに諦めた訳でも、頭ごなしに否定した訳でもない。俺なりにここまで考えた。だからこそ、殺すべきだと主張する」

 

「タイムリミットは迫ってる。そんな中で不確かなことに時間を掛けて殺せんせーやお前らとの時間を浪費するなんて俺は嫌だ。仕事の納期はあと3ヶ月、みんなでこれまでみたいに試行錯誤したいし、話し合いたい、それでも駄目なら、俺がやればいい」

 

「俺はここまで道筋を立てた。やらない理由とできない理由を考えて、最善を尽くす為に期限を考え抜いて、試行錯誤する時間を設け、それでも駄目だった場合の最終策として俺による殺せんせー殺害って結末まで考えたんだ」

 

「だから、渚の意見を否定した。アイツがしたいのは相談だ。殺せんせーを助ける為にはどうすればいいかな?って内容の。でも、俺はそれに対して現実的じゃないって結論を持っている。だから、俺がしたいのは相談じゃなくて議論だ。その上でどうするのか。どうしたいのか。だから聞いたんだ。『期限、探す当て、方法はあるのか?』って。俺と同じだけ考えたのか、それ以上考えた上で言ってるのか、それが俺を納得させてくれるものなら、むしろ積極的に協力したいくらいだ」

 

「……でも、本当ならこんな話じゃなくて、殺したいか、殺したくないかって本音を言えば良かったのに、相談と議論を求めてしまったのが、俺と渚とカルマの反省点だな」

 

 そう言って言葉を締め括る。

 女子たちと一緒に聞いていた悠馬も複雑そうな顔だ。

 

「相談と議論……。確かに、あの時のお前らのすれ違いはそうなのかもな」

 

 腕組みしながら、悠馬は呟く。

 

「渚は殺す表明をした圭一とカルマに相談したかった。もともと能力が飛び抜けて高い2人だったからこそ、頼りたかった。それ以外の方法はないのか、どんな方法があるのか考えて欲しい、力を貸して欲しい、一緒に助ける道を模索して欲しいって」

 

「ただ、圭一はその辺まで考えていた。それをあの場で言わなかったのは、圭一のミスかも知れない。でも、実際に渚の主張以上にしっかりした道筋まで考えた上で無理だと思っていた。だから、本当に助けたいなら、自分を納得させるだけの可能性を示して欲しかった。どうするべきか?って相談ではなく、こう言う方法もあるぞって議論がしたかった」

 

「カルマもきっとそうだ。挫折していた頃からの付き合いだったアイツが殺すと決意した圭一にいち早く共感したのは、お前がそこまで考えた上で言ってることを見抜いていたから。それはそれとして渚の主張が気に食わない部分もあったのかもしれないけど。でも、言ってることは正論だった」

 

「……口論になる訳だ。渚の視点では、取りつく島もなく、相談に乗ってくれずに頭ごなしに否定してくる2人。圭一たちの視点では、理想を……いや、圭一の言い方を借りるなら、道筋のない夢想を語るばかりで議論にならない渚って構図か」

 

 悠馬がまとめてくれたあと、片岡が頭を抱えた。

 

「絵に描いたようなすれ違いね……。確かに私も渚なら、『相談に乗ってよ』って思うし、乃咲くんなら『具体的な話をしろよ』ってなっちゃうな。こうして聞いた後だと」

 

「うん……。その場にいなかったし、こうして2人の主張を聞いた後だから言えるけど、どっちの気持ちも分かるよ」

 

「そうだね………」

 

 みんなも一体の理解は示してくれた。

 それ以上に、やっぱり複雑そうな顔をしているけれど。

 

「さて、みんなはどうしたい?」

 

 俺の問いかけに口を開いたのは意外な人物だった。

 

 




あとがき

さてさて。
始まった女子会。そこに放り込まれた圭一と道連れにされた磯貝!2人を交えた話し合いはどうなっていくのでしょうか……!

次回もよろしくお願いします……!

ご愛読ありがとうございます!
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