加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますので、最後までお付き合いください……!
かなり、話がもつれてきましたねぇ……!
「わ、私は助けたいです!」
弱気に聞こえる字面で、それでいて言葉に反して勇ましいく、勢いよく、ビシッ!と挙手したのは奥田さんだった。
女子って髪を解くと印象変わるよなぁ、なんて思ってるとヒナに手の甲をつねられた。マジで心を読まれてる?
心の中に浮かんだ感想をその辺に投げ捨てて、奥田さんに向き合った。いつもの様子で話すと怖がらせるかもしれないから、出来るだけ、朗らかに笑う。参考思い浮かべる表情として脳裏を過ぎるのは、2代目の笑った顔だった。
「うん、それでいいと思うよ」
微笑みかけながら同意する。
普段なら、こんな何気ない同意でも肩をバクリと跳ねさせそうだと思っていたが、奥田さんは案外、冷静だった。
俺を怖がる様子はない。なんか、意外だ。声と言葉は弱気なのに、意外と正面から見つめてくる。失礼かもしれないが、奥田さんに対するイメージはある種の小動物みたいなところがあった。
おどおどしてて、話しかけると怯えられて。おっかなびっくり会話をするような、そんなイメージがあった。
「よくありません……!私も乃咲くんに協力して欲しいです……!」
これは意外だ。さらに意外だ。俺の中で奥田さんに対する評価をかなり修正しなきゃいけないらしい。
正直、あんな話をして、自分がどうしたいかを話せばいいと言ったばかりなのに、それでも俺に協力を求めるか。
別に悪いとは言わない。『私は助けたい。だから、みんなと協力したい』っての自分の意見や意思の発信だ。
だが、問題はそこに中身があるかどうかだ。漠然と助けたいと主張するだけならいい。それは本人の心持ちの問題だからだ。でも、そこに周りを巻き込むとなれば話は別だ。
「奥田さん。別に怒ってるわけじゃないってのはまず断っておくけど。私は助けたいって言うなら俺は肯定するし、頷く。でも、周りを巻き込んだ主張をするなら、相応の考えは持ってるって思っていいのかな?」
「乃咲くん以上に、とはいいませんけど、でも、方法はあると思うんです!」
「なら、中身を聞いてもいいかな。確かに俺は渚に言ったからね。奥田さんや竹林みたいな専門知識を持ってる奴が助けたいって言うなら周りを巻き込む意見を全否定はしないって。でも、それは俺が納得できる内容を提示してくれた場合の話だ。渚にそうした以上、ただ『助けたいから』って理由じゃ俺は頷かないよ。それでも避ければ聞かせて欲しい。どんな方法がある?」
怒ってない、と言いながら自分の目が少しキツくなるのが分かった。でも勘弁して欲しい。俺だって考えなしで殺すって選択をしてる訳じゃない。俺なりに助ける方法を考えて、出来ない理由を考察して、いろんな道筋を立てて、それでも助けられないと思ったからだ。
そこに助ける方法はあるかも、と言われたら期待するだろう。それに俺を巻き込もうと言うのだから、納得できる理由を提示して欲しいと思うのは自然な流れのはずだ。
「具体的、と言うには考えはまとまっていません。でも、それでも解決案を考えるなら、私は薬だと思います」
「…………なるほど。確かに殺せんせーは生き物だしね。先生の体質と寿命に外部から干渉するならそれが最適解か……」
「はいっ、実際に私や竹林くんで何度か殺せんせーへの毒を考えて試したことがありました。顔の形が変わったり、色が変わったりで効いてるのか、効いてないのかは分かりませんでしたが……言えることがあります」
「それは?」
「先生は薬物関係に対しての耐性があるわけではないことです。確かに殺せませんでした。そういう意味で効果はなかったと言えます。でも、試す度に先生の身体は変化がありました。色が変わるのも、頭の形が変わるのも充分、薬の効果だと思うんです!」
「………」
なるほど。確かに一理ある。
暗殺という観点では、殺せなかった薬に効果があったとは言えない。でも、暗殺だとかそういう色眼鏡を抜きにして考えれば、顔の形が変わったり、色が変わるというのは充分、効果があると言えるだろう。
何気なく、奥田さんが殺せんせーに良いように言いくるめられて薬を作った時のことを思い出す。
相手を騙す国語力も必要だと教えていたあの時、確か、殺せんせーは自分の細胞を活性化させる薬だと言っていた。
「……確かに、可能性はある」
「で、ですよね!?」
奥田さんが強く反応した。
身を乗り出さんばかりの勢いで。
確かに可能性という意味ではある。俺が考えていた内容に比べれば具体性もある。でも、いくつか懸念点があった。
結局のところ、俺が最終的にぶち当たった問題と似たような問題点にやはり、目は向いてしまう。
「殺せんせーの奥の手である、液状化は奥田さんが殺せんせーに言われた通りに作った薬の影響を受けた姿だ。殺せんせーの細胞を活性化させる薬だと先生本人も言っていた。殺せんせーの寿命を伸ばすという意味では正当な方向性だと思うし、毒を元に薬を作るように、細胞を無力化させるという意味でも、あの時作った薬はヒントになるかもしれない」
「そうですよね……!」
「でも、あれを元にどうやって殺せんせーを助けられるって証明するんだ?」
「それは………」
「ここから先、この話題を続けたいなら、一応確認しておくけど。奥田さんは決意表明がしたかった?それとも、俺に意見を求めたかった?前者ならここで止めるよ。今更かもしれないけど、俺も否定したいわけじゃない。ただ聞きたいだけだ。それが結果として相手の理論の穴を突いて否定しているように見えるだろうけど。私は殺せんせーを助けたい!って決意表明をしたいだけならここで止めた方がお互いの為だよ」
決意表明か相談と議論か。
話し出す前にここを決めた方がいいだろう。
その方が、奥田さんも自分の意見を否定されたとは思わないだろうし、俺も話し合いの空気を悪くする必要がない。
とはいえ、たぶん、俺の目的は後者なんだろうな。この女子だらけの空間で彼女らを敵に回すような言い回しをあんまりしたくない。悠馬も居てくれるとは言え、性別によるアウェイはやっぱり怖い。だから、線引きする。
ここから先は決意表明ではなくなるぞ、と。
俺としても意見を求められたら引けなくなるぞ、と。
「………っ、乃咲くんの意見が聞きたいです」
「本当にいいの?キツイ言い方になるよ?」
「か、覚悟の上ですっ!殺せんせーを助けたいって気持ちは変わりません……!乃咲くんにどんな言われ方をされても、私は諦めません……!!」
驚いた。それと同時に少し尊敬した。
彼女は俺の予想よりも強い人だった。おどおどしてて、前線には出てこない。裏方でみんなのアシストをしてる印象が強かった。そんな奥田さんが俺に向かってはっきりと意見と決意表明を両立させた。それが心底意外だった。
自分で言うのもなんだが、俺って割と怖がられるタイプだと思う。実際、何度も化け物じみたチカラを見せてるし。
彼女はそういう奴を怖がる性格の人物筆頭、みたいなイメージがあった。まさか今日1日で奥田さんに対する印象がこんなにも変わるとは思いもしなかった。
「他のみんなは?ここから先、はっきり言うと助けたいって思ってる奴らにとっては面白くない話になるぞ?なんなら、助けたいって言いづらくなるかも知れない。それでも聞きたい奴はいるか?聞きたくないなら場所を変えるけど」
「……ここで聞きたくないって言う人はいないよ。仮に雰囲気が悪くなって、助けたいって言いづらい雰囲気になったとしても、絶対に圭ちゃんの所為にはしないし、させないから。私はここで話して欲しいかな。みんなは?」
ヒナの問いかけに女子が全員頷いた。
そう言ってもらえるとありがたい。いずれにせよ、いつかは通る道だろう。知るのが後になるか、先になるか。
「なら、言わせてもらう」
これなら、俺としても安心して意見を伝えられる。
「奥田さんや竹林なら殺せんせーを助ける薬を作れるかもしれない。その可能性は否定しない。だけど、助けられるって証明はどうやる?本当に薬に効果があるのか。それはどうやって確認する?それが1番の問題だ」
「理論上、これで無力化できるはず!なんて誰も信じてはくれない。論より証拠、医学も科学もそうやって発展してきた。重要なのは殺せんせーが地球ごと死ぬかもしれないって可能性を取っ払うこと。でも、殺せんせーを無力化しました〜って証明できるタイミングは暗殺期限しかない。失敗したら地球滅亡、成功しても超生物健在。そんな一か八かには賭けられない」
彼女は俺から目を逸らさず、頷いた。
「それは私も考えていました……。薬が効いたかどうか。それは被験体を用いた臨床実験以外にありません。そう言う意味で、1番の課題は証明です。続いて、理論をタイムリミット内に思いつけるのか。それが問題だと思ってます」
「そうだな、異論はない。ヒントは手元にあるかもしれない。でも、それが本当にヒントになるかも手探りだ。仮に思いついたとして、研究だったり、実際に試薬を作るにも、専門の設備が必要かもしれない。殺せんせーを救える証明以前に、助けるための薬を作れるのか。そこも重要だ」
「間違いないと思います……。そして、そう言った実験をするなら被験体が必要です。直す対象である、殺せんせーに以外に……マウスなどで反応を見るべきだと……ですが、今回私がやろうとしてる実験に必要なのは……」
「イトナや雪村が持っていた、爆発しない触手ではなく、殺せんせーと同じく爆発する可能性がある触手を持ってる実験対象だな。そんなもん、手に入る訳がないし、よしんば手に入ったとして、使うわけにはいかない。下手したら月と同じ轍を踏むことになる。そう言った意味でも、薬を作ること自体は不可能だとは言わないが、殺せんせーを絶対に無力化できる証明ができない以上、俺たちが暗殺を辞めたとしても、殺せんせーを救う結末になるとは思えない。それがキミの考えに対する俺の意見だ」
俺からの回答を受けた彼女が飲み込み、腹落ちさせるように俺と目を合わせ、顔を伏せ、頷いた。
「乃咲くんの言う通りだと思います。ただ爆発するだけなら影響を緩和する方法ならいくらでもあります。例えば深海や水中での実験。周りに被害が及びにくく、水で威力が緩和される環境での実験は現実にあります。でも、私達に深海に行ける能力はなく、仮に行けたとしても、月の爆発は触手の中の反物質造が暴走して、周りの物質を反物質に変換させたことが原因だと殺せんせーは言っていました。なら、仮に失敗したら……」
「この星の7割は海で出来てる。水が全て反物質になったとしたら……月以上の被害になるだろう。地球が三日月状になるってレベルで形を保つならマシな方。下手したら、地球が木っ端微塵になるぞ。だから、そもそも実験自体が現実的じゃない」
殺せんせーを助ける為の、あるいは無力化する為の研究。それは、"地球上で"行うことはできない。できたとしても、机上論以上のことは何も言えないのだ。
「だから、より確実に殺せんせーを助ける方法を考えるには、どこかの機関で研究されていて、いつか、どこかで受け渡されているであろう資料をタイミングを特定して強奪するしかない。だが、それもさっき俺が言った理由でかなり厳しい。なんなら、厳しいって言い方が生ぬるいと感じる程だ」
「…………なるほど。確かに……」
俺の言葉に奥田さんは3度頷いた。
他のメンツに顔を向けると、彼女らも難しそうな顔をしていた。眉間に皺がより、頭を抱えている。
けれど、丸メガネの奥に見える瞳から光は消えない。
俺の言葉に納得はしつつも、まだ何かを確信している。こちらの手の内を見えてもいないのに見透かしてるというか、俺の手札にまだ切ってないカードがあると見抜いてるような、そんな光だ。駆け引きというより、詰将棋。
「確かに納得しました。それだけの前提条件があるのであれば、乃咲くんやカルマくんが諦める方向に向くのも理解します。ですが……乃咲くん。まだ、私たちや、渚くん達に言ってない情報があるのでは?」
この頃には気弱そうな女子、なんて印象は消え去っていた。
馬鹿正直に『毒です!飲んでください!』とか『得意な方を伸ばせば苦手を無理して克服する必要はない』とか言っていたのが嘘のよう。そんな姿、見る影もなかった。
「なんでそう思う?」
「あなたの話ぶりは……何か、確信めいたものがありました。というか、絶対に無理だと確信してるように聞こえます」
「……………………へぇ」
驚いた。今回は別にそういうつもりはなかったが、今後は何があるか分からないし、気を付けないとな。言動にも。
『へぇ』なんて気の抜けた反応と同時に自分の口元が歪むのが分かった。思わず綻ぶような、そんな感触。俺の思考を当ててくれたことが嬉しいのか、楽しいのか。それとも見透かされてるようで不快なのか、それに対する怒りなのか。分からない。
だが、決して見下していたわけではないけど、俺の思考を読んでくるなんて一切考慮していなかった相手に追い詰められているかのような、この状況。頭の真ん中から後頭部にかけて、電流がパチパチと走るような未知の感覚が走った。
言ってることが変わる様で申し訳ないが。俺は正直なところ、こんなことを思っていたのだ。
この場は本音を言い合う場だ。自分はこうしたいって意見を主張する為の場所。腹を割って本音を話し合う機会。
それも当然必要だ。答えを出せてない奴らの手助けが出来たら。彼らが俺や渚のように既に答えを出してる奴らの言葉を聞いて何か見つけることができればいい。それだって紛れもない本心だ。だから、場所まで提供した。
でも、後ろ指を刺されても仕方ないと思うけど。俺はそれが少しだけ退屈だと思っていた。
だって、傲慢な言い方をするが、そこは、俺がとっくに通過した場所だ。殺せんせーを単独で殺しかけた暗殺。あれを仕掛けるまでに散々考えた。殺したいか、殺したくないか、殺すべきか、そうでないのか。
俺にとって、この場は復習する時間だった。自分はこう考えていた、似たようなことを俺も考えていた。そんな風に。
だからこそ、渚の意見にも否定的になってしまったのかもしれない。『そんなことは俺もとっくに考えた』、『渚が頼りにしてくれるのは嬉しい。だが、頼られても俺には助ける手段が分からない。不可能だと確信している。だから、頼られたところで俺にはどうにもできない』とそんな風に考えていたから。
だからこそ、嬉しいのかも知れない。ただ、頼りたいとかではなく、諦めるには諦めるなりの道筋があったのだと話せるかも知れない、この機会が。俺が不可能だと確信するに至った理由を話せるタイミングが訪れたことが。
甘えたことを言えば、自分から言い出すのではなく、俺なりにも考えがあるんだと気付いた上で思いもしなかった相手に水をむけてもらえたことが嬉しいと感じているのかも知れない。
「渚くんが、乃咲くんらしくないって言った理由が分かる気がします。確かに今聞いた話では現実味はなく、実現は難しいでしょうけど、乃咲くんが本気なら、いつも見たいに『ジーク・ジオン!』って号令して助けるために動いたんじゃないかなって」
「それをしないってことは……理由があるんですよね?」
ここまで言われたら、流石に話さないわけにはいかないか。自分の中にある、殺せんせーを助ける為のヒントがある場所という問いに対する答え。上げて落とすみたいになるから言わないつもりだったけど。
「さっき、言ってましたよね。情報交換は直接の受け渡し以外だと、"そうしなきゃ情報共有できないような、やむを得ない相手"以外とは電波でのやり取りはしないはずだって。そのやむを得ない相手とは、誰ですか?」
「………参った。戦ってた訳じゃないけど降参」
両手を上に上げて立ち上がった。リビングの庭に繋がる大窓へ向かって口を動かしながら歩き出す。
「まさか奥田さんに追い詰められるとは思わなかった。だから、俺なりの敬意で答えさせて貰うと、だ。ヒントはこの1年間、ずっと俺たちの頭の上にあったものだ」
大窓の前に立ち、カーテンに手をかける。
言葉と俺が窓辺に立ったことで言いたいことを察してくれたらしい何人が目を見開きながら息を呑んだ。
「………まさか」
唖然と、俺の言葉を飲み込めていないみたいに呟く奥田さんに頷いて俺はカーテンを一気に開いた。
近くにあったリモコンで電気を消し、夜空に浮かぶ三日月を指差して彼女に向かって問いを投げ返す。
「奥田さん。なんで月はあんなことになったと思う?」
「………ぁ」
その問いかけで察しがついたらしい。
答え合わせをするように俺は大袈裟に頷いた。
「柳沢は触手の研究に細心の注意を払っていた。だから、触手の反物質造が暴走しても影響が少ないと考えられていた宇宙で殺せんせーから株分けした触手の植え付けられたマウスの経過観察をしていた」
「結果的に月は爆発したし、それ自体は柳沢にとっても誤算だったのだろうけど、大事なのはそこじゃない」
「宇宙でなら、最悪爆発しても地球には影響はない。って部分だ。んでもって、人類は既に宇宙に踏み出してる訳で。そうなると考えられる可能性は一つ」
「地球上ではできない、殺せんせーを無力化する為の薬品などの実験は宇宙で行われている。俺の思う、電波でなければやり取りが難しいやむを得ない相手ってのはそういうことだ。直接の受け渡しなんてできないし、宇宙から投下しようにも、それこそ殺せんせーに奪われかねない」
「かと言って、宇宙ステーションから地上への電波送受信なんて世界で最も強固なプロテクトがされてるだろうし、通信先を一箇所に絞れば、監視を集中できるので、いくら殺せんせーでも厳しいだろう。そも、監視してる連中がよっぽどの無能じゃなければ情報を奪い取ること自体が不可能だろう」
「じゃあ通信先の端末がある施設を特定するか?それだって無謀って言葉が生易しく感じる難易度だぞ?仮に見つけられたとして、国お抱えのスーパーハッカー的な人らが厳重に守ってるサーバーからデータを抜くなんてやっぱり至難の業だ。それでも出来る可能性を提示するなら…………施設に潜入して、直接引っこ抜くしかない。そんなこと、出来ると思うか?」
「世界最高峰の殺し屋とは言え、一個人でしかない2代目死神ですら、自分のアジトに虹彩認証なんて設備を持ってたんだぞ?恐らくは世界中から資金を突っ込まれてるであろう施設なんてそれ以上の設備がゴロゴロあるに決まってる。警備だって軍事施設並みだろう」
「………言いたくないが、俺だって考えたんだよ。助ける方法なんて数え切れない程に。殺せんせーの暗殺に失敗して、雪村の事件が発生してから、答えを出すまでに何度も」
「1人で頭を抱えたり、ヒナに甘えながら思考を柔らかくしてみたり、軽く現実逃避して現実的じゃない方法を妄想したりもした。でも、ダメだった。何にどれくらい掛かるかって時間の概算はおろか、作戦自体に勝算が見出せない」
「……分かって貰えたか?これが俺が助けることを諦めた理由の一つだ。殺せんせーを助けたいです、生きてて欲しいです、僕らはその方法を突き止めました!もう安心です、暗殺なんてする必要はありません!そんな風に言い切るには……確実な情報が必要だ。そうなると、俺の想像が正しいのであれば、これまでに話したことのいずれかを達成しなきゃいけない」
「世界の何処で誰がやってるかも分からない情報交換の場を突き止めて襲撃か、世界最高峰の警備と設備で守られた施設に潜入か、あるいは……宇宙に直接乗り込むか」
「どれもいろんな意味で無謀だ。いくら殺せんせーといえど、そんな設備を秘密裏に突破はできないだろうし、正面から奪って助かる気があるなら、始めからそうしてるだろう。宇宙に行くってのも、漫画やアニメのように簡単なことじゃない。どうやっていくのか、無重力訓練を受けてないのにまともに動けるのか、そもそも無事に帰って来られるのか」
ここまで言うと、奥田さんも流石に沈んでいた。
そう、助けられるかもしれない方法ならある。でも、それを実現する為の手段を用意する知識も技術も時間もない。
ゴールは見えてる、そのために必要な目標や小目標だって立てられる。でも、それを達成する為の道筋がない。
渚に言ったことを当てはめるなら、これは夢想や空想の類だ。
「もちろん、これは俺の想像でしかない。だが、俺の中では1番現実味のあるビジョンだと思ってる。だから諦めろ、とは言わない。でも、ここまでの俺の話を聞いた上で、俺の力が必要だって言ってくれるなら、納得させてくれ」
「俺の意見の穴を突くのでもいい、深掘りするのでもいい。俺に現実味があると思わせてくれ。俺の考えを否定してくれても構わないんだ、否定できるだけの材料がなるなら」
俺はみんなに振り返る。
そして言葉を紡いだ。
「これが俺の考えだ。助けられないと考えた理由と、殺すこと選んだ理由の一つ」
「殺せんせーを助けること。それが何よりの恩返しだって、言わせて欲しい。こんな方法もあるぞって助ける為に前向きな意見を出したいさ、俺だって。でも、俺の考えだとここらが限界なんだ。考え続けた結果、今取れる最善は、殺せんせーの気持ちを汲んで、俺たち自身の成長を暗殺という形で見せることだって考えるしかなかったんだ」
「殺せんせーが暗殺で紡いでくれた絆を縁に変える。助けることも、殺すことも出来なかったなんて形が1番誰も望まないはずだ。俺は、この一年を後で振り返ったとき、振り返る時、お前らにいて欲しい」
「このままバラバラになって、振り返った時に周りには誰もいなくて、振り返っても、何も出来なかったって悲しくなるような思いはゴメンだ。せめて自分たちで選んだ結末があって欲しい」
「それに、俺はこのクラスで1番強い。最終的に殺せんせーを殺すことで、先生に成長を見せることもできず、殺すことも救うことも出来ないって最悪のシナリオを回避できるチカラがあるし、そうすることが俺の責任だと思ってる」
「だから、殺せんせーを助けたいなら……俺に見せて欲しい。こんな頑固なことを言ってる奴でも、あの人を助ける為に必要だと言ってくれるなら、示してくれ。方法と、それが本気だって言う覚悟を。俺の思う不可能を可能にするだけの何かを」
俺の言葉がリビングに短く響く。
みんな目を伏せ、考え込み、歯噛みし、天井を見上げ、深々と息を吐きながら肩をガックリと落とした。
この日、この言葉に反論できた奴はいなかった。
あとがき
はい、あとがきです。
圭一がラスボスみたいになってきました……。
でも、個人的には実際、現実の会議とか話し合いの場で発生する、『同じ方向向いてる筈なのに妙に食い違う』みたいな状態って、互いに相談したいか、議論がしたいのかのすれ違いが原因だと思うんですよねぇ……。
相談は、自分の視点で良い結果を求める為に相手からアドバイスを貰うこと。いわば、受け身の姿勢。
議論は、一つの集団として足並みを揃えて良い結果を求める為に意見を出し合う為の意見を交換すること。
議論側としては、相談側に対して意見を求めてる。
でも、相談側は逆にアドバイスを貰いたい。
それがすれ違うと
「あいつ、こうしたい、ああしたいばっかりで自分の意見もってねぇじゃん」
「あの人、ちっとも一緒に考えてくれない。話し合う気ないの?」
って空気がギスギスしてしまう。
難しいですねぇ……。
ご愛読ありがとうございます!