それはそうとUAが700、お気に入りが30件を突破しておりました!
皆様、ご愛読ありがとうございます!
——追記——
脱字報告ありがとうございます!
「乃咲〜、ちょっと殺せんせー殺しに行こうと思うんだけどさ、お前も付き合えよ」
「な、うまい棒買ってやるから」
「……別に構わんぞ」
ちょっと殺しに行くとか言うとんでもないパワーワードにも慣れ始めた今日この頃、磯貝と前原に誘われて3時のおやつにしようと校舎裏でかき氷を作っていた我らが担任の元へ向かった。
「あ、乃咲もやるの?」
「へぇ〜、珍しぃ」
殺せんせー手前の林には他のクラスメイトが息を殺して潜んでいた。
磯貝、前原、渚、杉野、菅谷、木村、岡島、茅野、片岡、岡野、矢田、倉橋。この暗殺教室でも特に暗殺に積極的なメンツが揃っていた。
「コイツ、身体能力はめちゃめちゃ高いからさ。居てくれた方が成功率高いだろうから連れて来た」
「前原がうまい棒買ってくれるって言うから」
「うまい棒で買収されんのかよ!?」
「美味いだろ、チーズと明太子」
「まあ、確かに」
会話、事務的な会話。俺たちの間に友情なんてものはない。あるのは暗殺仲間として一応のコミュニケーションを交わそうと言う意志だけ。
相手を理解しようだなんて気概は一切ない。ただ必要だから言葉を交わしているだけだ。
自分に言い聞かせながら話が脱線する前に本題に移る。
「ターゲットは?」
「殺せんせーならあそこ。北極の氷でかき氷だとさ」
「コンビニ感覚で北極行くなよ、あのタコ……」
「そもそも、北極の氷って食えるのか? 北極由来の細菌だとか、氷漬けになってる未知のウイルスとか居そう」
「まあ雑談はここまでにして……行くぞ。100億は皆んなで山分けだ!」
「おう!」
磯貝の音頭に頷いた面々が茂みから飛び出したので、俺も彼らに続いて飛び出す。
そういえば俺、作戦とか聞かされてないんだけど。どんな風に動けばいいの?
「殺せんせー! 俺らにもかき氷食わせてよー!」
「殺せんせー!」
「あははははは!」
マジか、そう行くか。めちゃくちゃ人懐っこそうな声と表情でナイフ片手に突撃する面々にドン引き。
流石に怖い。懐いてるフリして懐に入ったらナイフズドンとかやっぱり世の中で一番恐ろしいのは幽霊とかUMAでもなく生きてる人間なんだろう。
「おぉ! 生徒達がようやく心を開いてくれた……! あんなにも笑顔で……こんなにも殺気立って!?」
哀れ、殺せんせー。嬉しそうな声色が一変し、半ば悲鳴の様な物に変わると同時に逃げ出した。
正面だけでなく、数名が殺せんせーの背後に回り込んでいたので、彼の逃げる先は上空だとあたりを付けてナイフを投げてみる。
「どひゃぁっ!? ちょっと乃咲くん、人に物投げたら危ないでしょう!? 親からどんな教育受けてるんですかぁ!?」
「生憎と親から教育を受けた覚えなんてないもんでね!」
案の定、躱されたのでエアガンを構える。
殺せんせーの動きをまだ追おうとするが、流石に音速を出せるモンスターは見切れない。
「ヌルフフフ、甘い、甘いですよ、乃咲くん。投擲までは良かったのですが、銃を構えてから撃つまでに迷いが多すぎる」
背後からした声と手の中にある違和感。手の中に目を向けるとそこにはエアガンの姿はなく、代わりに春先に校舎の花壇に植えたチューリップが握らされていた。
「皆さんも。笑顔が不自然すぎます。ここは、こんなに危ない先生ナイフは置いておいて、まずは花でも愛でて良い笑顔を学んで下さい」
殺せんせーの触手から落とされる、白いハンカチに包まれた皆んなの対先生ナイフ。
「はい、乃咲くん」
「あ、ども」
手渡される俺のエアガン。これは落としたりすると破損してしまうかもしれないという殺せんせーの配慮なんだろうか?
自分を殺すかもしれない武器を相手に返すかね、普通。俺だったら返さないし、そもそもエアガンだからって素手では持たない。これに対先生物質とか塗られてたらどうするんだか。
だなんて思っていると磯貝と双璧を成す、我らのクラス委員の片岡が手に持っていたチューリップの正体に気付いたらしい。
「……ん? ちょっと殺せんせー! これ、花壇に植えて、クラスの皆んなで育ててたチューリップじゃないですか!?」
「にゅゃぁ!? そ、そうなんですかぁ!?」
ブチ切れる片岡と狼狽する殺せんせー。そんな彼に追い打ちをかける様に女子達が嘘泣きを始めた。
「酷い……、殺せんせー。皆んなで大切に育ててやっと咲いたのに……!」
矢田の渾身の泣き真似。俺がこんな嘘泣きされたら多分メンタルボロボロになるし、その場で土下座しちゃうかもしれない。
うん、女子は信用できないと俺は今、新たに学んだ。なんだかんだ、本気で泣いてるのか、嘘泣きなのかは判断に困るところである。
「すいません!? い、いま新しい球根を…………買って来ましたぁ!」
しかし、流石の殺せんせー。ナイスフォローというか、自分で掘った穴を自分で埋めてるだけと言うか、矢田たちの嘘泣きを見ると同時に謝罪しながら新しい球根を触手いっぱいに買って来た。
けれどここで最も驚くべきなのはマッハで球根を仕入れて来た殺せんせーではなく、殺せんせーの対応をしたであろう花屋の店員である。殺せんせーが消えて戻って来るまで3秒と経ってない。
つい数秒前、この日本の何処かでとんでもない神業的接客をしたであろう花屋の店員に俺は内心で生まれて初めて心からの賞賛を送った。
「マッハで植えちゃダメだかんね!」
「承知しましたぁっ!」
「ほら! もっと一個一個労って!」
「かしこまりましたぁっ!」
「……なぁ、アイツ。地球壊すモンスターなんだよな」
「あぁ。その割にチューリップ植えてるけど」
片岡と岡野が殺せんせーを叱りつけながらチューリップの球根を植えさせ、そんな景色に磯貝と前原が呆れるように呟き、寺坂と村松に吉田と狭間のグループは舌打ちしながら去って行く。
俺もここにいても別に何が出来るわけでもないだろうと思い、寺坂たちに倣ってこの場を離れようとするが、ふと、熱心にメモを取っている渚に気付いた。
なんとなく気になったので彼の元に行くと、途中で俺と同じことが気になったらしい茅野と杉野も合流した。
「渚、なにメモってるの?」
「あ、茅野と乃咲。うん。殺せんせーの弱点をメモってたんだ。いつか、暗殺の役に立つと思って」
そう言いながらメモ帳を差し出して来たので受け取り、3人で覗き込む。
「えっと、身長は背伸びしたら3mくらい。特技は超音速巡航……」
「弱点①、カッコつけるとボロが出る」
「……ねえ、渚。このメモ役に立つのかな」
「………………たぶん」
渚の自信なさげな声が哀愁を誘った。
椚ヶ丘中学校3-Eは恐らくは史上かつてない程に活気で溢れていた。
「おい、早くしないとボーナスタイム終わっちまうぞ!?」
「はーいはい、わあってるよ。茅野、持ってやるから半分こっちによこせ」
「うん、ごめん、お願い!」
俺は先頭を走る岡島とその少し後ろで持ち辛そうに長めの棒を抱えている茅野と並走しながら旧校舎を目指していた。
実は殺せんせーがチューリップを勝手に刈ってしまったお詫びにハンディキャップ暗殺大会なるイベントが開かれているからである。
「急げ!」
ひたすらに急ぐ岡島。その後ろを走っていると普段、俺らや殺せんせーしか使わない筈の旧校舎正門から黒スーツを来た屈強な漢が歩いて来た。言わずもがな、烏間さんである。
「あ、烏間さん。こんにちは」
「お久しぶりです」
「ああ、2人とも。こんにちは」
この堂々とした佇まい。かっこいいよなぁ。こんな大人になりたいもんだが……無理か、地球滅亡なんて馬鹿げたイベントが一年以内にあるわけだし。
「明日から俺も教師として君達を手伝うことになった。これからよろしく頼む」
「マジスか。よろしくお願いします」
「そっか、じゃあこれからは烏間先生だ!」
おお、防衛省所属の人が直々に教師をやってくれるとかとんでもないレアケースに当たったな。
「時にどうだ? 奴の暗殺については。姿が見えないが……」
「あー……それがさ、殺せんせー、クラスの花壇を荒らしちゃって。そのお詫びとしてね……」
茅野は校舎の脇に一本だけ植えられている椚を指差した。正確にいえば椚の木の結構太い枝にロープで巻かれて吊るされた殺せんせーを。
「ハンディキャップ暗殺大会を開催してるの」
茅野の苦笑が向けられる先ではロープで吊るされてるとは思えない程に過敏かつ力強く動き回るミノムシ……もとい、殺せんせーが元気よく教え子達を煽っていた。
煽られてる方もなんだかんだ楽しそうにエアガンを撃ったり、長棒の先にナイフを括り付けた簡易的な槍で突いたりと、攻撃を仕掛けている。
「これはもはや暗殺と呼べるのか……!」
拳を握り締めてプルプルと震えている烏間先生の言葉に心の底から同意する。
暗殺の定義がこの教室では歪みつつあるし。
「どう? 渚」
「う、うん……完全にナメられてる」
殺せんせーのしましま模様の顔を見て呟く渚。
しかし、俺はここでさっき何気なく見た渚の弱点メモの存在を思い出した。
「渚、たしか殺せんせーはカッコつけるとボロが出るんだったよな」
「うん……」
メモを見ながら頷く渚から視線を外し、殺せんせーを見る。なにかボロが出る前兆のようなものは無いかと注意深く彼の周りを見ると、木の枝に亀裂が入り始めているのに気が付いた。
「ヌルフフフフ、無駄ですねぇ。E組の諸君。このハンデを物ともしないスピードの差! 君たちが私を殺すなど夢のまた——」
全部言い合える前に枝がミシミシ言い出した。
そろそろ枝が限界を迎えたのだと察した俺は何となく、ダメもとでハンドガンを構え、落下軌道を読み、1発だけ撃ってみる。
「あっ……」
撃つよりもほんの少しだけ早く枝が折れた。
枝が折れると同時に放たれた弾丸は風に煽られて軌道を変えることなく真っ直ぐに飛んで行き…………。
「……にゃぁ!?」
殺せんせーの触手の一本に命中。パンっ! と触手の弾ける音が俺たちの耳に入るのは彼がボトっと地面に落下するのとほぼ同時だった。
「嘘……」
「殺せんせーにダメージを与えられた?」
クラスメイトたちの視線がこっちに向く。
殺せんせーは殺せんせーで分かりやすく冷や汗をかいて何とかこの場から逃げようと踠いているのが俺から見えたので少し悩んだ後、呆気に取られる皆んなの尻を叩くように殺せんせーを指差して叫ぶ。
「今だ殺れぇぇ!」
「け、圭一に続けぇぇぇ!」
磯貝が俺の声にハッとすると、皆に指示を出して地面に落ちた黄色いタコ相手に攻撃を加え出した。
「にゅやぁっ!? しまったぁっ!!?」
「死ねゴラぁぁぁ!」
「ひぃぃぃぃっ! お助けぇぇ!!」
少し先でぎゃーぎゃーと騒ぎ出した皆んなを遠巻きに眺めながらポカンとしてる渚の肩を叩く。
「弱点メモ、役に立つかもな」
「う、うん! 見つけたらどんどん書いてこう!」
こうして殺せんせーの弱点メモは日々追加されて行くことが決まり、今日、この瞬間、新たに弱点メモ②『テンパるのが意外と早い』が追記された。
「と、まあ。暗殺はこんな感じです。烏間先生」
もはや暗殺と呼べるのか分からない作戦と、定期的にやらかす殺せんせーのドジ。俺たちの穴だらけの作戦に殺せんせーが勝手にドジ踏んで勝手にピンチになったりするのが現状だと烏間先生に伝える。
「……思った以上に望みはあるのかもしれんな。まさか最低限の訓練しか受けていないと言うのに奴の触手を破壊するとは……」
「あ、それ。私も思った。殺せんせーの触手が壊れたのって来たばっかりの頃に対先生BB弾の効果を証明する時以来じゃない?」
「うん。殺せんせーが明確にダメージを受けたのは今回が初めて」
「もしかして俺ってば結構凄い事した?」
どさくさに紛れたらたまたま殺せんせーの触手を破壊出来ただけなのに、烏間先生たちに持ち上げられたので少し調子に乗ってみる。
「あぁ。どんな特殊部隊でも奴に指一本触れることすら叶わなかったことを考えると、今のはとんでもない快挙と言える」
まじか。烏間先生が真顔で肯定して来るもんだからもっと調子に乗っちゃうぞ、俺。
まあ、確かに、今やったことを文章化するなら『地球破壊を企む、最高速度マッハ20を誇るタコ型超生物の触手をただの中学生が破壊した』となる。
字面だけ見るとなんだか本当に凄いことをしている気分になるものだ。
「これまで奴の触手一本すら破壊出来た者はいない。希望は見えて来た」
……なんだろう、烏間先生の言葉が引っかかる。
触手の一本すら破壊した者はいないって、どういう意味なんだろう?
そういえば以前に考えた事がある。対先生用のナイフやBB弾はどうやって開発したのだろう? と。
殺せんせーに有効だと判断されたからこれらの物資が支給された訳だが、そもそもどうやって、何をもって有効であるとしたのか。
彼の細胞を殺せるか実験したのか? その細胞は殺せんせーから提供された? いや、実験段階で殺せんせー本人を使って確認した可能性もあるが、可能性は低いだろうし……。
「……ふむ」
殺せんせー達がドタバタしてる少し横、切り離されてピクリとも動かなくなった触手を見ると、それはどんどん収縮してゆき、最後には蒸発したかのように跡形もなく消えてしまった。
つまり、殺せんせーから切り離された、あるいは死んでしまった細胞は形を保てないのだろう。
仮に殺せんせーから細胞の提供があったとしても、初見の化け物の細胞を対抗兵器の完成と実験が出来るまで保存してられるものか?
俺は難しい、もしくは出来ないと思うのだが……。
いかんせん、確認の手段がない。烏間先生に聞いてみるのも手だが、これも国家機密だったり、あるいは知ってはいけない類の情報だったりした時、後が怖い。
殺せんせーも答えてくれるかはわからない。
うん、今回の想像は胸の内にしまっておこう。
とりあえず今のところは、殺せんせーの触手を暗殺の中で破壊した者は俺が初。そんな解釈に留めておいた方が精神衛生上は良さそうだ。
「ええぃ! 少年ジャァァァンプゥゥゥ!」
「あ、逃げた!?」
「くそっ! あと少しだったのに!」
縄と触手が絡まって脱出に手こずっていた殺せんせーは何とか難を脱したようで、いつの間にか再生した触手を揺らしながら、ヤケクソ気味に校舎の上で叫んでいた。
「ここまでは来れないでしょう!? 君達とは基本性能が違うんですよっ! バーカ、バーカ! ヌールフフフフフ!」
「煽り方大人気がねぇ!」
うん。前原の言う通り、大人気ないな。
屋根の上でひとしきり俺たちを煽り倒して満足したのか息をぜーハーゼーハー言いながら整える大人気ない大人は呼吸も落ち着くと額に流れる汗を拭いながら言い捨てた。
「ふぅ……。明日出す宿題の量を2倍、乃咲くんは3倍にします」
「器が小せぇ!!!!」
「つか、私怨入ってるし」
「それではまた明日っ!」
「あ、逃げた」
最後まで大人気ない大人は尻尾を巻いて逃げてしまった。流石に空中、それもマッハ20で逃げる奴を追う手段も攻撃する術もないので、ハンディキャップ暗殺大会は幕を閉じた。
「逃げられたけど、これまでで一番手応えあったよな!?」
「あぁ! この調子ならいつか絶対に殺すチャンス来るぜ!!」
「やーん、殺せたら100億円何に使おー!」
結果的に失敗したけど、皆んな、手応えを感じられたらしく、それぞれが今後の作戦や成功した時に叶えたい夢なんかを語っている。
そんな彼らを遠巻きに見ていた烏間先生がなにか複雑そうな顔をしていた。
「どうかしましたか」
「……いや、この校舎の生徒達は活き活きしてるな、と思っただけだ。さっきまで本校舎の理事長の所に赴任の挨拶に行っていたのだが、道中ですれ違う生徒達はどうにも必死が過ぎている印象が強かった」
「んー、まあ、本校舎の連中とかこのE組内でも一部の連中を除けば
「一部の、というと。この教室の方が居心地がいいと思う者も中にはいるのか?」
「努力しても無駄とか悟ってる奴はここの方が居心地いいでしょう。大体の奴は挫折してる訳ですからね。例えば、差別受けるのは嫌だけど、結果を出す必要がないのが楽って奴。寺坂なんかは居心地の良さを感じてたんじゃないですか」
事実、ここの校舎の方が居心地が良いと思う奴はいる。寺坂以外にも。
E組にいる大体の奴がここに来ると同時に挫折してるし、立ち直れてない奴は多い。
そして、そんな挫折してる連中は周りからのプレッシャーが大きかったりする。重過ぎる期待に応えられずにE組に落ちて来たのだから挫折は当然だ。
けれど、心のどこかで思っているだろう。『自分はE組なんだから、他人に劣ってしかたない』と。
そうでなければ『だって俺はエンドのE組だし』なんてセリフが出て来るはずがないのだ。この隔離校舎から一刻も早く脱出したいなら、自嘲してる暇なんてないのだから。
エンドだなんだと言いながら、なんだかんだで殆どの奴が笑っているのが、E組から抜け出すのを諦めている証拠と言える。
「キミは……」
「乃咲です。乃咲圭一」
そう言えば烏間先生に直接名乗った事がなかったのでこの場を借りて名乗っておく。
すると顎に手を当てながら、なにかピンと来たのかゆっくりと口を開いた。
「乃咲というと、あの乃咲新一博士の?」
「ええ、息子です」
「そうか、キミが」
「なんかありそうな反応ですね。俺って防衛省にマークでもされてるんですか?」
「いや、そんなことはない。ただ、暗殺を依頼する前にここ3年E組の生徒本人と周辺人物について調べていた。その中にキミの親御さんとして遺伝子工学の権威としても特に名高い乃咲博士の名前があったので印象深かったんだ」
その印象深いってのは、あの傑物の息子がこんな落ちこぼれなのか、と落胆したって意味ですか? と口から出かけた言葉を飲み込む。
烏間先生はそこまで言ってはいない。言ってはいないけど、つい突っかかってしまいそうになる。俺にとって父はそう言う存在だったから。
昔から事あるごとに優秀な父と比較される。
『あの乃咲先生のご子息ならこれくらいはできて当たり前』『お父さんみたいに立派な人になろうねぇ〜』『あの優秀な父親と違ってお前は——』などなど散々言われて来たから。
俺にとって父は目の上のたんこぶでしかない。
その父も優劣に関わらず俺に無関心だし。
「キミはどうなんだ? 隔離校舎は」
「居心地いいですよ。ここにいる奴は誰にも見られない。ただ等しく劣等生としてしか扱われない。必要以上の期待を受けることもないし、居心地が良かった。厳密に言えば、居心地が良いと言うより、楽ってのがニュアンスとしては近いかも」
「……そうか」
烏間先生はまたもや複雑そうな顔を見せる。
地球の危機を前にしてもモチベーションが低い生徒がいるのが心配なんだろう。
暗殺を依頼して来たのは国、世界の首脳達だが、直接話を持って来たのは彼だ。
俺たちにとっては依頼者も同然。そう思うとやる気のない奴がいるのは好ましくないのは納得できた。
「ただまあ、暗殺の方はそれなりに頑張ってみるつもりですよ。100億円あれば適当に生きていけるしね」
「あぁ。そうしてくれ。明日から体育は俺の受け持ちになる。君たちには期待している」
烏間先生が体育を見てくれるのは嬉しいけど、やっぱり今一つやる気というか興味が出ない。仮に力をつけたとしても、誰が俺を認めてくれるのだろうか?何かを殺す力。この一年しか使う機会がないだろう言わば使い捨ての能力なんて伸ばして何になるのだろう?ただまあ、暗殺の授業という単語には多少の興味をそそられるが。
それでも、挫折した奴の関心を焚きつけるのは難しい。
そんなことを思いながら、俺とは対照的にもしも殺せたら〜と嬉々として暗殺を語る皆んなを遠巻きに眺めて密かにため息を吐いた。