暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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今回も投下します!最後までお付き合いください……!


183話 ニュアンスの時間

 

「圭ちゃん、そういえば聞いてる?渚くんたちが殺せんせーを助けるための方法を色々と調べてるらしいよ?」

 

「………まぁ、知ってる」

 

 冬休み、みんなで一緒に過ごしたいから学校に来てくれ。そんな俺の我儘をクラスの奴らは律儀に聞いてくれた。

 実際には、彼らも気持ちは同じなのだろう。男子会と女子会から、俺たちのクラスは殺せんせーを助けたい派と殺したい派で大体2分された。でも、みんなは学校に来ている。

 ある者は、他の奴らの意見を聞く為に、ある者は説得を、ある者はそれはそれとしてみんなと遊ぶ為。

 

 渚も同じだった。でも、俺やカルマとはみんなと同じタイミングでの雑談はするけど、殺せんせーをどうする云々は振ってこない。だが、避けられてると言う訳でもない。

 その微妙な距離感の正体をなんとなく探ってみたら、悠馬や片岡たちと一緒に俺やカルマを納得させられる、殺せんせーを助けるための手段を探す方法を模索しているらしかった。

 

「細かいことを言うと、より正確にいえば……殺せんせーを助ける方法を知る為の方法だな」

 

「………何する気かな?」

 

「そこまでは調べてない。でも、冬休み明けには話してくれるつもりらしい。それまで俺たちは待ってるさ」

 

「………それでいいの?」

 

 ヒナが俺の顔を覗き込んでくる。

 この問いかけの意味はなんだろう。俺は何もしないのか?動かなくて良いのか?という問いかけなのか、彼らに混ざらなくていいのか?という問いかけなのか。

 

「俺の思考は自分で言うのなんだけど、分かってるなら改善しろって思うかもだけど、凝り固まってるから。今の俺が混ざっても、空気を悪くするだけだ」

 

「……また卑屈になってる」

 

「………俺だって殺せんせーを助けたくない訳じゃない」

 

「分かってるよ」

 

 よしよしと撫でてくるヒナ。周囲からの『またやってるよ』という視線も最近では慣れっこ。気恥ずかしさはまだあるものの、何度か同衾して、胸に顔を埋めた相手な上に恋人だ。今ではすっかり心地良さの方が勝つ。

 

「でも、考えれば考えるほどに出来ない理屈ばかり出てくる。やれる可能性を見つけても、出来ない理由や理屈にばかり目が向く。こんな状態じゃ、建設的な話はできないって自分でも分かってる。だから、話には混ざらない」

 

「まぁ、そういうタイミングってあるよね」

 

 彼女はこうして理解を示してくれる。

 けど、分かってはいる。俺の直さなきゃいけない部分なんだって。俺の悪いところなんだってのは。

 

 でも、悪い部分だと分かってるからこそ、あんまり人に見せたくないのも事実。可能性があるならと考える一方で、それが本当に現実的なのかを追求し続ける思考がとまらない。

 自分でも視野が狭くなってるのは自覚してる。どうすればできるのか、やれるのか、それを追い求めるよりも、届かない場合のことばかり考えてしまう。

 

「圭ちゃんは結構思い切りが足らないことあるよね」

 

「………思い切りか。そうかもな……」

 

 悪い可能性ならいくらでも想像できる。俺が思うに、思い切りの良さとは"やってみないと分からない"と言い切って動ける姿勢のことなのだと思う。

 俺だって、そう言う姿勢や考え方がない訳じゃない。問題なのは、そのやってみないとという部分にどれだけの成功率を感じてるかってところなんだろう。 

 

 人によっては1%でもやる価値はあると言うだろう。

 別にそれを否定はしない。1%ってのはソシャゲとかで最高レアが出る確率と大体同じだ。何も考えずに引いたらポロッと出ちまった、とかあり得なくない確率だ。

 それでも俺にとってのやってみないと分からないってのは最低限、五分五分の状態だと思っている。成功率は半々、あとは天秤がどう傾くか次第。あるいは、あと一足でこちらに傾けることができる状態を指す。

 

 昔、オンラインゲームをやってたことがある。武器を強化するのに成功と失敗の概念があって、失敗すると強化値が下がってしまう仕様だった。100%でなら確実に成功するけど、75%とかだったら失敗する印象の方が強かった。

 だから、基本的にはアイテムを使ったり、強化成功率が上がる期間にプレイヤーたちは確率を極力100%に近付ける。俺もそうだった。100%に出来るならアイテムは惜しまなかったし、出来ないのなら、可能な限り確率は上げた。

 

 もちろん、ゲームと現実は違う。でも、可能性ってのはあるだけで問題だし、失敗する可能性が1%と成功する可能性が1%と言う状態でどっちを重く見ろ、と言われたら今の俺は前者を取る。その1%があるだけで確実という言葉が使えなくなるからだ。

 

 そして、個人の感覚的な問題として、成功の確率1%と失敗の確率1%だったら同じ1%でも後者の方が当たりやすい気がする。確率は悪い方に収束してると思いたくなるほどに。

 

「………多分、そう言うことなんだよな」

 

「ん?」

 

「俺があの日、渚にイラッとした理由。アイツも俺にカチンと来ただろうけど、俺もイラっとした。助けたいって気持ちだけじゃどうにもならないだろ、何か具体的な意見はないのか。そんな風に思ったのは、思い切りの違いなのかなって」

 

「思い切りの違いかぁ……」

 

「渚は1%でも可能性があるなら諦めたくないって思ったのかも知れない。でも、俺は失敗する可能性が高いならおいそれと動くべきじゃないって思った。実際、アイツがどう考えてるのかは分からない。でも、そういう部分もあるんだと思う」

 

「…………命、掛かってるもんね」

 

「…………………」

 

 ヒナが言った。命が掛かっていると。

 

「圭ちゃんの考え方は変わったよね。1学期に比べたら、いろんな部分が。今の可能性がどうこうの話もそう。昔、律を説得した時はみんなで100%に近づければいいって言ってたのに、今は違う。確実性を求めてる」

 

「その理由は……掛かってるのが殺せんせーだけの命じゃなくて、圭ちゃん自身や私やみんなや、家族やそれ以外の人たちの命も掛かってるからでしょ?流石にさ、殺せんせーを殺す殺さないで悩んでるところを散々見て来たから……なんとなく、分かるよ。そうなった理由も」

 

「そもそも失敗したら地球そのものが危ない。方法が見つからないだけならいい、でも、殺せんせーを殺さないことで地球が滅亡するって可能性があること自体が問題だから」

 

「殺せんせーを助ける方法がない訳じゃない。圭ちゃんが言った通り、3つのパターンがある。でも、どれも不確実だし、宇宙に行くって言うのは、行くのもそうだけど、帰ってくるのも命懸け。確実とは言えない。施設を探すのも、仮に見つけたとしても、そんなに大事な研究をしてるなら……潜入中に見つかったら、最悪、そのまま銃殺されるかも知れない。そんな可能性がないとは言えない」

 

「圭ちゃんの言う、失敗って、単に殺せんせーを助ける方法が見つからないとか、殺せんせーを助けられないとかじゃなくて、最悪、みんなが死ぬかも知れないってことでしょ?」

 

 彼女は俺の目を覗き込んで言った。

 本当に、心を見透かされてるような気分になる。

 

「だからね、私は思い切りが足りないとか言ったけど、それを悪いことだとは思わないよ。だって、当然だもん。うちのクラスで誰よりも死ぬかも知れない思いをして来たのは圭ちゃんだもん」

 

「普久間島では銃撃された。過労でってのは一旦ノーカンにするとして、みんなのために死神を相手に時間稼ぎしてまけた。イトナくんやカエデ……あかりちゃんを助ける為に触手とも何度も戦った。どれも失敗したら、死ぬかも知れない場面だったもんね。圭ちゃんだけじゃなくて、みんなが死ぬかもって場面もあったんだから、慎重になるのは当然だよ」

 

 言い切った彼女に思わず言葉を返す。

 心の底からしみじみ思ったこと。

 

「ヒナには勝てないなぁ……」

 

「彼女ですので」

 

「彼氏だけど、そこまでお前の心情を読み解ける自信ないわ……。本当に俺には勿体無いと思っちまったぞ」

 

「そこはほら、読み解けるようになってもろて」

 

「もろてとか言うな……んでも、そうだよなぁ」

 

 実際、彼女がしてくれてるのだから、俺も同じくらいは出来るようになりたい。してもらうだけなら、俺が彼氏である必要がない。支えてもらっている分、俺も支えられるようにならないと。

 

「それにさ、今の時点でも圭ちゃんはこれまでと同じ役目は果たしてると思うんだ。方法を考えて、懸念点を挙げて、みんなに伝えて。実際、渚くんたちがそもそもの考え方とか候補とかを一から洗い出さずに済んでるのだって、圭ちゃんが考えた内容があるからこそだし。少なくとも私はそう思うよ」

 

「そうかな……。考えられる可能性を順当に挙げれば……誰でも思い付く内容だろ?」

 

「そこ、圭ちゃんの悪いところ。褒められてるんだから素直に受け取るべし!その誰でも思い付く内容をいち早く考えられるのが圭ちゃんの強みじゃない?それに、そういう言い方は嫌味っぽいよ?現に誰も考えてなかった訳だしね」

 

「…………」

 

「圭ちゃんって結構、"上から目線な物言いになるけど"みたいな予防線を言葉の最初に持ってくることあるけどさ、それ自体が上から目線に聞こえることあるよ?意見や考えをぶつけ合おうって場面で言葉に気をつけるのはいいことだけど、変な所で遠慮し過ぎ。その癖、言う時は本当に容赦ないんだから」

 

「………………」

 

「変な前置きとか、遠慮とかなくていいじゃん。その結果、上から目線に聞こえる内容だったとしても、それって圭ちゃんが思ってる素直な気持ちってことでしょ?こう言ったらああ思われるかもとか考えて予防線張って、その結果、渚くんに『殺せんせーのこと、助けたくないの?』って言われるんじゃ、損してるだけだって。少なくとも、それでちょっと嫌な気持ちにはなってるんでしょ?さっきも言ってたもんね?殺せんせーを助けなくない訳じゃないって。気にしてなきゃ言わないよね?」

 

「………うん」

 

「圭ちゃんの悪いところは気を遣って言葉を足してるのに、肝心な部分が遠慮で言葉足らずになってる。その癖して言いたい部分の言葉尻は強いところ」

 

「………………ごめんなさい」

 

「『俺だって殺せんせーを助ける為にこんなことを考えてた。でも、助ける為にはこんな障害があって、正直に言うと突破難しいと思ってる。お前らはどう思う?』って言い方をすれば良かった………って言うのは流石に分かってるよね?」

 

「はい……」

 

「親しき仲にも礼儀ありって言うけど、親しいからこそ遠慮しすぎるのもある意味では失礼だからね?圭ちゃんの遠慮の仕方はキミにその気がなくても、俺はお前らを頼りませんって言ってるように聞こえちゃうんだから」

 

「…………はい」

 

 自分の肩幅がどんどん狭まっていくのが分かる。

 ヒナにズバズバ言われて、自分の悪いところを実感させられる。彼女は俺を甘やかしてくれるし、支えてくれる。俺の考えに理解を示してくれるし、否定はほとんどされない。でも、こうして悪いところを指摘してもらえるのはやっぱり傷付くには傷付くけど、でも、それ以上にありがたい。

 こうやって叱ってくれる人だから好きなんだが。つくづく思う。今の自分は彼女に相応しいのだろうか?と。

 

 身体能力や各種技能において、俺は自他共に認めるハイスペックになった。母さんから受け継いだ強化人間パワーと、烏間先生から教わった戦闘技能、ビッチ先生から教わった暗殺技能、二代目から見て学び、殺せんせーから伝授されている死神の技術。

 間違いなく、スペックだけなら人間でも最上位であると言えるかも知れない。でも、スペックが高ければ良い女に釣り合うのか?と言われるとそれは違うだろう。

 

 そんなもので世の中全て罷り通るのであれば、世の中にラブロマンスなんて存在しない。『おかしい……!!スペックでは圧倒してる筈なのに……!』とかそんなこと言う側になりたくはない。ポテンシャルもスペックもなくて良い、俺だから良いんだと言ってもらえる部分を伸ばすべきだろう。

 

 彼女は以前、俺に告白する時に言ってくれた。

 目標の為になりふり構わずに頑張るところ、有言実行なところがいいと思った、と。今の俺は、それが出来ているのか?

 ヒナは俺の考えに理解して示してくれてる。カルマだけでなく、殺せんせーを殺したいと思ってる奴らも俺の考えに頷き、そうでない奴らだって理屈として間違ってないと言ってくれてる。俺の言葉は正論で、間違っていない。

 

 でも、それでいいのか?

 

 渚に一方的ににNOを突き付けて、みんなに出来ない理由を捲し立てて、自分の力が必要なら可能性を見せてみろと言い放つ。なりふり構わず目標のために頑張ってると言えるのか?

 反省はしてる、もっと言い方はあったと後悔もしてる。それでもやっぱり、俺はあの時、渚に言った言葉を否定できない。

 

 〇〇したい、〇〇がやりたい。そんな気持ちだけで解決できるほど、簡単な問題じゃない。もちろん、渚がそんな楽観視してるとは言わない。でも、それでも気持ちというのは動機であって、道筋じゃない。気持ちじゃ問題は解決できない。

 それで解決するなら、俺はもっと違う人生を歩んだと思う。認められたい、褒められたい。そう思って努力した。でも、必要なのは思うこと、努力することだけでなく、父さんに気持ちを伝えることだった。目的は思うだけじゃ果たせないし、本質を捉えてないのに努力しても、それは違う方向に進んでる可能性がある。問題解決に必要なのは、現状と手段をはっきりさせること。

 

 だから、俺は撤回しない。目標を思うだけでは手が届かない夢想だし、手段を見つけないことには理想にすらならない。実現するには現実を受け止め、手段を模索するしかない。それが、ある種の俺の人生の教訓だからだ。

 

 もっとも、あの場は言うべき場だったのか?と言う点は猛省するべきだと思うが。

 

 けれど、あの場でいうのは俺の役目や責任だった気もする。だって、少なくとも俺はあの時点で教訓や必要なことは頭にあった。ならば、それをみんなに認識してもらうのは、間違いなく俺の仕事だったし、責任だったと思う。

 

 それでも、少しだけ思う。責任とはなんなのか。

 

 俺にとっての強者とは、責任を果たそうとする者。

 果たせずとも、果たす姿勢を見せるのであれば……俺は好感を抱くし、手伝うし、尊敬するだろう。

 ならば、俺たちの責任とは何だろう?殺せんせーを助けることか、殺すことなのか。あるいは、方法はあるけど無理ゲーだと諦めて、自分の思う最善を目指すことなのか。

 

 暗殺教室の生徒として、殺せんせーや烏間先生やビッチ先生から暗殺について教わった者として。俺たちをプロだと言ってくれる人たちに対して俺たちが示すべき責任は、間違いなく、教わったことを全て活かして超生物の暗殺という依頼を達成すること。

 

 なら、俺たち個人の責任はどうだ?今日まで出会い、関わって来た人たちや仲間たち。殺すにせよ、殺さないにせよ。どんな形であれ、必ず最後までやり遂げること。縁を無駄にせず、絆を無為に終わらせない為に。

 

 ……それじゃあ、俺の責任はなんだ?

 もちろん、今挙げた2つだって、俺が負うべき責任だろう。でも、きっとそれだけではないのだと思う。

 

 俺はこのクラスのリーダーではない。あくまで生徒の中での指揮官的な立ち位置であり、言ってしまえば参謀のようなもの。そして、突出した能力を買われてワンマンアーミーというポジションを任された。それが、クラスの中での俺の立ち位置だ。

 

 では、暗殺教室の生徒ではなく、乃咲圭一個人としての俺は?

 

 乃咲新一の息子、触手を生み出した柳沢誇太郎の甥、そして、触手が生まれるきっかけとなった研究の影響を受けた存在。

 全て、俺の家系から始まった。母さんを救いたかっただけの研究が姿を変え、形を変え、今、地球を滅ぼそうとしている。

 だが、きっとそれがなければ今の自分はいないだろう。みんなだって殺せんせーや雪村先生がいたから今の自分がいる。でも、俺はそれ以上にこの事件そのものに因縁がある。

 

 この事件を形作る主な要因は反物質を生成する細胞、触手であり、それはある意味では俺のルーツ、乃咲圭一の突飛なチカラの根源的なものと繋がっている。

 俺は、殺せんせーを殺せるチカラがある。だから、殺せんせーを殺すのが俺の責任だとかつて言ったことがある。

 でも、こうして考えると、この事件を解決することこそが俺の責任なのかもしれないと思ってしまう。チカラの有無という意味でも、本質的に同じ起源であると言う意味でも、身内のケツを拭くという意味でも。

 

 流石に柳沢のやらかしや、父さんの研究が悪用されたことを自分の責任だとか言うつもりはない。流石にそこまで傲慢じゃない。でも、身内のやらかしで被害が出るかも知れないのを止めるという意味では責任はきっとある。

 

 …………殺せんせーだってある意味では被害者なのかも知れない。個人的には生きてて欲しいし、これからも見守ってて欲しい。これまでの生き方を悔いてるし、だからこそ、雪村先生を助けられなかったこと、二代目としっかり向き合わなかったことを後悔しているし、そんな後悔と反省があるから、今の俺たちがいる。それは揺らぐことない事実。

 けれど、それでも、破壊の力を求め、柳沢の実験を言葉巧みにコントロールしたこと。これまで千人以上の人間を殺して来たことは変わらない。非情な言い方かも知れないけど、その結果、次の3月には死ぬという未来があるのは……はっきり言ってしまうと、それは彼の自業自得だ。

 

 殺せんせーは助かる道を探そうと思えばいくらでもやり用はあるのかも知れない。何せ、彼自体が絶好の研究対象であり、柳沢の超理論を分析し、コントロールしていた実績がある。その気になれば、自分を研究して助かる方法を作れるだろう。

 

 きっと、それをしないのは、死ぬことが彼なりの責任の取り方だからだ。外的要因で死ぬ運命にあるのなら、それに抗って、生きて償うことが責任の取り方としては適切なのかも知れない。でも、彼が3月に死ぬのは、自分で力を追い求めた結果と言える。

 彼の死は、他人によって決められたものではなく、自身の行動の結果定まったもの。もっと生きたい、もっと見守りたい。思う思ってくれていても、似たような気持ちを持っていたかも知れない人たちを千人近くに手に掛けた。そんな中で自分は助かると言うのはムシのいい話だ。

 

 殺せんせーの境遇を聞いただけの第三者として俺が関わるのなら、そんな風に感じてしまうことだろう。

 彼だってそれを理解しているはずだ。そうでなければ、今の教室に残る訳がない。夏休み前までの教室ならまだしも、みんなで連携すれば、殺せんせーの命に決して手が届かないわけではないし、なんなら、俺単独で殺せる。本気で命が惜しいなら、逃げるだろう。

 

 それをしないのが、殺せんせーの心情の表れだ。

 寿命を解決して生き残ろうとはせず、寿命を迎えるその瞬間まで俺たちを守り、導く教師であり続ける。それはそれとして、生徒の刃が自分の命に届いたのなら受け入れる。それが、生徒の成長の証でもあるから。そうやって死ぬことこそが、死神として生き、教え子を顧みず、自分と向き合ってくれた女性を守れなかったことへの責任の取り方なんだと俺は思う。

 

 もちろん、殺せんせーがどう考えてるのがなんて彼しか知らない。俺には慮ることしかできない。でも、それが俺から見た殺せんせーなんだ。だからこそ、口で憎まれ口を叩くことはあっても、本気で尊敬してる。

 

 それが、本当に殺せんせーの思う責任であるのなら。それを果たそうとしている彼を俺は応援したいし、望み通り、刈り取るのが生徒としての責任であり、乃咲圭一にとっての強者への敬意であり、殺せんせーへの感謝やリスペクトだ。

 

 …………そして、それは俺の信念的な話だ。

 

 信念と気持ちは違う。気持ちとしては生きてて欲しい。そして、渚にあんなことを言ったのだから、彼が仲間と熟考して持ってくるであろう作戦や案を正面から受け止め、可能性を感じたのなら、素直に協力するのもある種、焚き付けた側としての責任だと思うし、そうしたいと思うのも本心だ。

 

 殺せんせーを助けるか、殺すか。

 気持ちとしては助けたい。そして、渚を焚き付けた側として、彼の考える案や作戦に全力で協力する責任が俺にあると思うし、そうしたい。

 信念としては、殺せんせーを殺したい。彼を殺して地球滅亡という事件を解決することもまた、俺の責任であり、俺の思う強者の在り方である、責任を果たそうとする者としての殺せんせーの背中を尊敬しているからこそ、殺すべきだと思う。

 

 殺すことにも、助けることにも責任はある。

 そうしたい、という気持ちだってどちらにもある。

 

 その上で、俺は次にこう考えなきゃいけないんだろう。

 

 気持ちに従って、殺せんせーを助けるか。

 信念を貫く為に、殺せんせーを殺すのか。

 

 気持ちも信念も大事なんてことはわかってる。

 でも、やっぱりどちらかを選ばなきゃいけないという重圧は……耐え難いものがある。考えるだけで、喉が苦しくなる。やり場のない感情を叫びに乗せて、意味のない絶叫をしたくなる。頭を掻きむしり、髪を振り回して、暴れながら。

 

 渚が話を持って来た時、俺はまた選ばなきゃいけないのかな。その2択から一つだけを。

 

「……ほんと、悩みの尽きない奴だよ、俺は」

 

「ほぇ?」

 

 キョトンと首を傾げるヒナの頭をやり返すように撫でながら、俺は再び考え込んでしまう。

 悩んではいるが、今のところ、答えは出てる。俺は殺すって決めた。けど、こういう自問自答は終わることはないのだろう。それこそ、俺が生きている限り。いつか、この問いに答えを出して、これを選んでよかったと言える日が来たのなら。その時こそ、俺は成長したんだと胸を張れるかもしれない。

 

 その日は一体、いつになることやら。

 少なくとも、その日まで地球があることを祈るばかりだ。




あとがき

はい、あとがきです……。
え、もう12月……それも後半に差し掛かってるってまじ?

ご愛読ありがとうございます!

………ワァ……ぁ………。
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