暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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今年もよろしくお願いします!!

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今日も投下しますので、最後までお付き合いください……!


185話 遭遇の時間 2時間目

 

「………随分と、気配をぼかすのが上手くなったね。前に会ってからそんなに時間は経ってないのに。見違えたよ」

 

「………………そうかね」

 

「間違いないね。目の前にいるのに気配が定まらない。顔を見せず、貌を見せる技術。感情も読み取りずらい。その部分だけを評価すると、水処理施設で戦った時の僕と精度はそう変わらないだろう。僕の気配を察知した瞬間にそれを使う警戒心も見事だ」

 

 驚いた。思った以上に饒舌だし、謎に俺のことを褒めてくれる。もしかすると、まだ、俺を仲間に引き込もうとしてるのか?

 

「それはない。もう……諦めた。キミは僕にはならないし、僕はキミにはなれない。持っていたものが……きっと違うからね」

 

 目の前の大男に、その大柄な体とは対照的な弱音の色が見えた。彼の言葉は決して弱音ではないだろう。事実を言ってるだけ。それでも、口調から伝わってくるのは寂しさと悲しさと諦めだ。それが、何故だか理解できた。

 俺には彼の顔が見えない。物理的にも隠されているし、その気配は敵として相対した時と変わらずぼやけてる。なのに、感情だけは伝わってくる。

 

 もしかしたら、そういう技術もあるのかもしれない。というか、あるのだと確信している。でも、コイツがそれを使ってるとは思えなかった。

 俺はコイツに危険な目に遭わされそうになった。仲間も危なかった。下手すれば誰か死んでいたかもしれない。そういう意味では二代目死神は俺にとっては敵だった。そんな男に対して警戒心を抱くのは当然だし、伝わってくる感情を鵜呑みにするほどお人好しではない。

 

 それでも、何故か伝わってきた感情が本物だと思った。

 

「………たった1年足らずでよくそこまで練り上げたものだよ」

 

 再び褒められる。フードの奥から値踏みするような視線を感じつつも、ほんの少しだけ、違和感を抱いた。

 別におかしくはない。俺は自分で言うのもなんだが、コイツには気に入られてるのだろう。執着もされてるのだろう。加えて、この一年での俺の成長は確かにめざましいものだろう。ゾーンの応用と烏間先生に褒められたいと言う承認欲求でがむしゃらに努力し、殺せんせーやビッチ先生に後押しされ、仲間に支えられて。彼らと出会わず生きていたのなら、俺はここまでの成長はしなかった。絶対にと断言する。

 

 もちろん、コイツとの出会いも大きい。

 彼との戦闘で俺は1段階上に登った。それは瞬間的に俺が1番の伸びを見せた瞬間だったし、死神の技術を教わるきっかけになったのも、目の前の男だ。

 

 でも、この違和感はなんだろう?

 褒められるに足る成長はした自負はある。仲間たちからも実力を認めて貰ってるし、褒められている。俺をずっと見てくれていた奴らからのそれは心地よかった。

 けれど、思い返せば……二代目はどうしてこんなにも俺を褒めるのだろう。近くにいて成長を見続けてくれた訳ではない。直接顔を合わせて対面したのも両手で数えられる程度の回数だ。

 まして、うちのクラスのみんなの様に俺が主席から落ちぶれて、また這い上がる様を見ていた訳ではない。

 

 乃咲圭一という人間を知らない割に、褒めすぎている。

 

 俺は自身のことを承認欲求が強いと思っている。

 だから、褒められる分には嬉しい。そこは、父さんに対して拗らせていたころとは大して変わってない。

 

 それでも、感じてしまうこの違和感の正体はなんだ?

 

 心から褒めてくれてるのは分かるのに。なんなんだ?

 

「………難しいよな、証拠を残さない為に、持ち込まない為に、その辺にある物を武器にするの」

 

「……え?」

 

 疑問が浮かぶ中、俺は自然と言葉を紡いでいた。

 自分自身、無意識のうちに会話を続けることを選んでいた。

 

「殺せんせーが言ってたんだよ。証拠を残さない為には証拠だとわからないもの、思えないものを使うのが効率がいいって。その辺の葉っぱとか、紙とかでも殺せる様になるべきだって」

 

「…………そんなことを言ってたのかい?」

 

「暗殺者が暗殺者だと思われない為のコツは丸腰であること。だから、周辺環境を利用して殺せる様にする必要がある。無論、丸腰で潜入するなら、最悪の事態に備えて素手で殺すことも視野に入れるべきだが、取れる選択肢は多いに越したことはない」

 

「……それもそうか。実際、紙っていうのは直ぐに破れてしまう印象に足を引っ張られがちだけど、あれでかなり鋭い。聞いたことはないかい?物質にはそこを突くと壊れてしまう点があるみたいな話し」

 

「漫画とかだとあるあるの設定だな」

 

「あそこまであからさまな物はそうそうない。ある意味では生物の心臓、細胞の核がそれにあたるだろうけれど、それとは少し違う。けど、似た様なことは現実でもある。例えば、物体を切りやすい角度、とかね。具体的に言うと、野菜とかを繊維に沿って切るとか。そんなのなら覚えがあるだろ?」

 

「あー。あるな」

 

「理屈で言うとそれと同じさ。普段はなんともない紙で指を切ってしまうのは、そういう切りやすい角度と紙の鋭い部分が重なって起きることなんだよ」

 

「……かなりの奇跡的な条件な気がするけど……その割に、割と紙で指を切るの珍しくないような………」

 

「人間が紙に触れる頻度を考えてみなよ。試行回数じたいは積み重なってるだろ?無意識のうちに繰り返した回数のうち、当たりをわかりやすいタイミングで引いてるだけさ」

 

「そう言われるとわかる様な……分からぬ様な……」

 

「あとは使い方。ただ押し当てるだけじゃ切れないさ。切り方にも種類があるんだからね。勢いに任せて切断することを"叩き切る"と言うし、刃を押し付けて引きながら切ることを"引き切る"と言う。紙は、引き切るのに向いてる」

 

「切り方か………そういえばあんまり意識したことないかな」

 

「先日、キミは刀を持っていた。それなら、絶対に意識した方がいい。斬撃の威力が天と地のレベルで変わるだろう」

 

「………かなり難しそうだな。腕で斬撃に勢いを付けて、腰で体重を乗せることで威力を付ける。それをしっかり相手に届ける為に、握り手に力を入れる。太刀筋がバレない様に、斬撃が届くその瞬間にのみ最も強く。でも……これだと、引き切るってのは、どこでやればいいんだ?」

 

「やり方はいくらでもある。けど、僕的にはそもそもの振り方から工夫することをおおすすめするよ。腕と刀が一本の真っ直ぐな棒の様に見える振り方ではなく、しっかり角度を付けること。角度が浅いと、刃が通り抜ける距離が短くなるし、角度が深ければ、刃が通り抜ける距離が長くなる。正面から見たら真っ直ぐに見えても、上や横から見たら、弧を描く様に。だから……そうだね、どこでやるかって質問に答えるなら、脚で、と答えるかな。ちゃんと踏み込むこと。踏み込んで、腰を落として。武器は身体に引き付けて、あとはキミがいったやり方で振り抜く。そうすれば、自然と深い斬撃になるさ」

 

「なるほど……。今度から意識してみるよ」

 

「少し話はそれたけど、紙を使って切るって場合は今言った引き切ることを意識するのがコツだね。これで皮膚は簡単に切れるし、筋肉ってのは繊維の塊だから、方向性がある。それをなぞってやれば、肉も切れる。正確に言えば、肉を掻き分けるってイメージが近いかもだけど。そこまでやれば、動脈を切ることくらいできる様になってるさ」

 

「………そうか。もうその段階までいって動脈に傷つけられれば、血流の勢いで勝手に血管の傷は広がっていく」

 

「そう言うこと。僕の"死神の鎌"と原理は同じだ。慣れれば、その辺の葉っぱでも同じことができるだろう。人間に傷を付けられるものなら、なんでも武器に出来てしまう」

 

「………すごいな。なんか、一気にコツが掴めた気がする。理屈が分かれば、あとは練習するだけだ。ありがとう」

 

「……………………ありがとう、か」

 

 殺せんせーからの課題。そんなの出来やんかい!?という無茶なものだと思ってみたが、こうして理屈を聞けば不可能なことではない様な気がする。無論、練習をしても、他人で試すことはしないけど。まぁ、精々野菜とか肉で我慢するさ。

 かなり参考になったので、つい、口からお礼の言葉が出た。すると、2代目が面食らったような声音で呟いた。

 

「キミは変わらないね。危ない目に遭わされたのに、以前よりもますます危険な力を携えた相手が目の前に立ってるのに。キミは素直に接してくる。偏見や区別の様な物を一切感じさせない態度で。敵対したこともある僕に」

 

「…………俺は偏見もあるし、区別もするし、相手によっては差別もすると思うぞ。嫌いな相手なら容赦もしない。実際、柳沢は無理だな。生理的に受け付けない。アンタが俺にとってそういう対象じゃないから、普通に接してるだけだ」

 

「それ自体が普通じゃないと思うんだけどな……」

 

「それに俺自身が他のどんな生き物よりも危険生物みたいなもんだし。身体能力だけで勝負したら人類最強だぞ?だから、比較的に他人への危機感が弱いのかもな。心にゆとりがあるわけではないけど、いざとなれば、俺の方が強い。そんな考え方のおかげで余裕があるのかも」

 

「……………」

 

 俺の返答に死神が口を閉ざした。

 急に黙ったことに少し不安になるけれど、心配は杞憂だったのか、それとも彼なりに考えを整理していたのか。2代目はポツポツと雪を踏み締める音に飲まれてしまいそうな声で言葉を紡ぐ。

 

「………"先生"は他人を信頼しない人だった」

 

「……はい?」

 

「"僕"は他人に見られない人間だった」

 

「………………」

 

「"キミ"は他人を置き去りにできる人間だ」

 

「…………………置き去り、か」

 

 その言葉が引っかかった。不愉快だったわけじゃない、決して嬉しい評価でもない。けれど、何故だか的確だと思った。

 

「ここでいう置き去りっていうのは、他人を蔑ろにするとか、言葉通りの意味じゃない。強すぎるから、強くなれすぎるから、今まで一緒に歩んだ人や仲間よりも歩くのが早い。だから、仲間たちよりも先の景色が見えてしまう。キミが見た景色を仲間たちが見る頃には、キミは次の景色を見ていることだろう」

 

「……………」

 

 まさに、今の教室の中での俺の立場だと思った。

 的確さに思わず言葉を失った。蔑ろにしない様に出来てるかは自信ないけど、でも、心の中で思っていたことではある。

 

「心あたりがあるって顔してる。まぁ、実際にそうなんだろう。歩くのが早い、それは自分で思っている以上にね。だから、振り返った時、仲間が遠くに見える。呼び掛けても言葉の意図は中々伝わらない。仲間がキミを見た時、キミは遠すぎて言葉の局所的な部分しか伝わらない。だから誤解を招く」

 

「キミにとっては当たり前に考えられること。でも、それを考えられるのは、キミがそこに辿り着くまでに考え抜いたことだから。だからキミにとっては考えられて当たり前のこと。そして、キミの認識では仲間たちは自分の"ちょっと後ろ"を歩いている程度の認識でしかないから、"ちょっと"考えれば分かる程度のこと感覚で話してしまう。自分の歩幅と周りの歩幅の差を正しく認識してないから、置き去りしたことに気付かない」

 

「仲間たちもそう。キミが"少し"先を歩いている様に見えるから、何処までも先を見通したかのような言い方や言葉がキミの意図通りの意味として受け取り難い。お互いに悪意や偏見はない。でも、お互いの距離を見誤っている。階段でも1段目と最上段から見える景色が違うのは当たり前のことだろう」

 

「それでも視座が高いだなんて仰々しいことでもない。確かに"先"を見据えてはいるけれど、"全体"を見てるわけじゃないからだ。それは決して周りを見てないという訳ではない。でも、周りの能力を計算に入れてなければ、解決できるかどうかを自分の能力だけで考えてる訳でもない」

 

「キミの見積もりは"単独での最大値"で考えている。適材適所、これまで出会った人物の中から、その時々で最も能力を発揮出来る者で、まずは実現出来るかをシュミレートしてる。周りを使う、周りを活かすという発想が弱くなっているから。周りには、自分だけで考えて結論を出してる様に見えてしまう」

 

「強くなりすぎた弊害。なまじワンマンアーミーとして自分の役目を考え、どう動くべきかを考察することができる上に、大抵のことはどうにか出来てしまう能力があるから、個人で動く場合の動きばかりに目が向いてしまう。圭一は、"自分の視点で先を見てる"のであって、"全体を束ねる者として先を見てる"という訳ではない。それが、今の現状じゃないのかな?」

 

「本当に大抵のことは1人で何とかできる。でも、今、キミの前にあるのは"大抵"のことではない。だから、圭一はドツボにハマっている。違うかい?」

 

 2代目がまるで俺の心を見透かすみたいに、まるで、今のE組の状態や俺の立ち位置など諸々を理解しているかの様に言い当てた。もしかすると、まだ、あの教室には彼の監視カメラが残ってたりするのか?

 

「E組の今の状況なら知っている。それに加えてキミの考え方のエミュレート、マインドコントロールの応用を組み合わせるんだ。これができれば、僅かな情報の断片と対面してる相手の人柄や能力から、当人が抱えている問題をまるで全て把握している様に見せかけることができる」

 

「……さっきから妙に考えが読まれてる訳だ」

 

「死神には必須のスキルさ。もっとも、キミのところの殺せんせーは多用してなさそうだけどね」

 

 いや、きっと使ってはいるのかもしれない。でも、その上で俺たちがどんな答えを出すのかを見守ってるのだろう。

 いずれは身につけたい技術ではある。でも、同時に難儀な技術でもある。無神経に他人に使いまくっていたら……十中八九、嫌われる様になる技術だろうな。正直、目の前にいるのが"死神"という凡ゆる技術、知識、ジャンルのトップだと理解してなければ、気味が悪いと思ったはずだ。

 

「……他人に嫌われるか」

 

「………なんだよ?」

 

「今言った通り、"先生"と僕とキミ。歴代の死神は何処か他人との距離に欠陥を抱えている。案外、そういう奴にこそ……いや、そういう奴だからこそ、死神になれるのか。とか思ったのさ」

 

「…………そう言われると傷付くな」

 

「でも事実だろ?キミだって、殺せんせーや烏間先生と出会わなければ、他人に"見て"貰うことの嬉しさを知らなかった。他人が見てくれないから、自分も見ない。そうなっていたんじゃないかい?」

 

「否定はしないよ」

 

「ね?」

 

 否定はしないけど、認めるのとムカつくな。

 実際、こいつの言う通りになりかけていたけどさ。なにはどうあれ、何をどう言い繕っても結果は結果。俺は周りの期待に応えられなかったし、周りは俺の努力を見てくれなかった。

 だから、俺も周りを見ないし、認めない。結果を出せなかった奴を認めないし、どんな努力をしていても、結果が出ないのだから意味がない。そんな風に周りを顧みない奴になりかけていた……いや、実際、不良をやってた頃はそうだった。

 

 今の自分も周りにはそう見えるだろうな。

 渚の話を"中身"がないと吐き捨てたことには変わりないのだから。ここで素直に謝れればいいのだろうけど……でも、それが大人かと言えば違うだろう。

 俺の主張自体は間違いではない。言い過ぎたことに関しては謝るべきだし、タイミングを見て謝るつもりではある。けれど、主張を撤回することは出来ない。

 譲れない一線をかなぐり捨てて謝ることができるのも、大人の姿勢なのかもしれない。けど、俺は譲れない一線を捨てたくはない。だって、少なくとも俺が憧れた人たちはみんな、そう言う一線を守り通す人達だから。

 

 意固地になってる自覚はある。意地を張ることをかっこいいなんて思う時期はもう終わったつもりだ。でも、居心地の悪さに意地を捨てて、間違ってもない主張を引っ込めるダサい真似はしたくない。

 

 だから、例え許して貰えなくても、遅かったとしても。俺が渚に謝るのは主張を貫き通した時だ。

 

 ……こうやって、誰に聞かせるでもなく、自分に言い聞かせるように考えてる時点で相当ダサいけどな、俺。

 

「…………ダサいって分かってても、譲れないからって貫くならカッコ悪いとは思わないけどね、僕は」

 

「………俺の心のプライバシーを守ってくれ。頼むから、そうひょいひょいと心を読まないでくれるか」

 

「分かってしまうんだから仕方ないだろ?まるで目の前にもう1人自分がいるみたいに思えて、ついつい遠慮なく言ってしまう」

 

 さっきから無断で思考盗撮というか、思考盗聴してくる2代目に苦言を呈すると、彼は悪びれせず、けれども、どこか、心ここに在らずと言った表情で俺を頭のてっぺんからつま先まで眺めるように言った。

 

「ほんと……僕とキミで何が違ったんだろう」

 

 あの日の問いかけ。烏間先生に倒され、意識を失う寸前に俺に問いかけた内容。なんて答えたら良いのか分からない、現在も答えを持っていない問いかけ。

 その質問に答えられるようになりたくて、殺せんせーから死神の技術を学んでいる。でも、まだ答えは見つからない。

 

「………お前がそれを言った日からずっと頭の片隅で考えてたよ。俺とお前で何が違ったのかって」

 

「……何が違うんだい?」

 

「さぁ……?"先生"と出会った順番だとか、周りにいた人たちとか。そういう客観的な答えならいくらでも用意できるけど。アンタが聞きたいのは……そういう類の結果論兼ある種の極論ではないだろう?」

 

 俺の問いかけに奴は答えない。だけど、その沈黙が肯定であることだけは考えるまでもなく察することが出来た。

 正直に言えば少し困っている。まさか、こんなに早くこの問題に対する回答を求められるとは思っていなかった。

 

 さて、なんて答えるべきか。

 何度も言うが、生憎と今の俺には彼を納得させられる答えを持っていない。要領を得ない話し方しかできないから、喜ばせることも、悲しませることも、納得させることもできないだろう。

 

 ——いや、もしかすると、この考え方自体が違うのかもな。

 

 ふと思った。そりゃあ質問なんだから、目の前の相手が求めてるのは自分が納得できる回答なんだろう。相手を慮ると言う意味では、喜ばせる回答というのも間違いではない。

 

 もちろん、それが必要な場面はある。そういう場面で言葉を選ぶことを否定しない。だけど、まだ自分の中にない答えを誤魔化して耳障りの良い言葉を並べる。そう言うのを上っ面だけの言葉と言うんじゃないか?

 

 そんな誤魔化しはしないのがコイツに対する慮り方なんじゃないかなって。今、そんなふうに感じた。

 

 なら、俺はどんな風に答えるべきなんだろう?

 

 ——いや、なんて応えたいんだろう?

 

 "べき"というある種の義務感の様な"答え方"ではなく、自分はどうしたいのかという相手の気持ちへの"応え方"。今はそれが必要だ。というか、今はそうしたいってのが本音だろうか。

 

「正直に言うと、だ。全く分からん」

 

「殺せんせーから初めて教わる技術や知識は初見だと何を言ってるのかチンプンカンプンで、理解できないことが多い。それを解るようになる為にきっと、滅茶苦茶努力したんだと思う。だから、そうだな。アンタのことで理解できたのは……」

 

「殺せんせーに、死神に認められたかったんだなって部分だけだ。その気持ちは分かるよ。誰かに認められたくて、目の前の人に褒めて欲しくて頑張る。椚ヶ丘に来るまでも、烏間先生と出会った直後も。俺はずっとそうだったから」

 

「だから、俺もアンタと俺で何が違ったのかなんて分からない。考えれば考えるほどに、俺たちは似てるって部分だけ解像度が高くなっていく。さっき、言ってただろ?まるで目の前に自分がもう1人いるみたいだって」

 

「俺も同感だ。全くの同意見だ。だからかな、口調もかなり砕けてしまってる。慎重に言葉を選ぶべき場面だって分かってるはずなのに、"べき"より、"したい"って方を優先してしまってる」

 

「………本心としては、アンタが仲間だったら。味方だったら。気軽に頼れる人だったら良かったのにって思ってる。そうだったら、どんだけ心強かっただろうってさ。アンタからしたら、俺は自分が元々いた場所に座って、自分が貰えなかった物を掠め取った盗人に見えるかもしれないけど」

 

 そこまで話してみて、思いの外に自分の口からだいぶ卑屈な物言いが出たことに驚くが、2代目は少し苦笑する様な気配を隠すことなく、俺の言葉をやんわりと否定した。

 

「別にそんなことはないさ。そらショックではあったけど、僕の感情が向いた先はキミではなく、"先生"さ。僕とキミで何が違うのか分からない。確かに、先生に考えを改めさせる出会いがあったことは加味するべきだ。でも、それで納得できるほど、僕は大人じゃなかったんだよ」

 

「………容姿も、声も、瓜二つだからな。もしも同じ状況なら、俺も納得しないと思う」

 

「キミと初めて会った時、僕は殺せんせーの正体を知らなかった。だからあの時の言葉は、僕の理解者たり得ると思ったキミに手を払われたことへ対する疑問だった。キミなら分かってくれると思ったのに、手を取ってくれると思ったのにどうして?と」

 

「………今は違う。殺せんせーの正体を知った今。その質問はどうして僕じゃダメだったのか。そんな意味を帯びてる。そんな気がするよ、俺には。なんなら、その質問も……本当は俺じゃなくて、殺せんせーにしたいんじゃないのか?」

 

 奴は答えない。でも、またもその沈黙が肯定であることは分かった。

 なら、どうして殺せんせーに直接聞かないのか?なんて野暮ないことは聞かないさ。流石に俺でも分かる。

 

「………聞くのが怖いんだな」

 

「………当たり前だろう。これまで何度も手を伸ばしてきた。その度に手を払われた。まして、僕はその後で彼を裏切った。これで何一つ否定されず、僕の望んだ答えを得られるだなんて思えるほど、能天気にはなれない」

 

「お前は、案外、普通の人間なんだな」

 

「……え?」

 

 おもわず、そんな言葉が出た。

 敵として対峙した時は、その得体の知れないオーラに不気味さを感じてた。変装する為に顔を剥ぎ取った執念には後日話を聞いた時には普通に引いたし、怖かった。でも、コイツの動機や行動はどこまでも人間臭かった。

 

「認められたかった、だから頑張った。それでも認められなかったから癇癪を起こした。どうして自分じゃダメだったのか聞きたいけど怖くて聞けない。ありふれた、師弟関係のもつれに見える。絵に描いたような気難しい職人とその弟子って感じ」

 

「き、キミねぇ……。僕らの話を聞いてよくもまぁ、そんな簡単な表現にまとめるねぇ……。仮にも死神と呼ばれた殺し屋師弟の崩壊話しだよ?」

 

「俺だってまだ未熟だけど死神だからな?別にそんな特別視することでもないだろ。頭につくのが"3代目"か"銀の"なのかはさておき。字面だけ見ると、反抗期の息子と親みたいに見えちまうのが不思議だよな。そんな微笑ましい話ではないだろうに」

 

「っ………知った様なことを……!」

 

「そら知らねぇもん。知った様なこというしかないだろ。だから教えてくれよ、お前がどんな奴なのか、俺と何が違うのか。俺なりに分かってみるから、お前も一緒に考えてみようぜ?」

 

「ッッ!!!?」

 

「お互い片方だけじゃ答えが出なかったんだ。なら、2人で考えてみよう。お前が言ったんだぞ?俺は単独での最大値ばかり見てるって。だから、俺とお前で考えるんだ。お互いに相手と何が違うのか。単独で分からないから比較するしかないだろ?それが合理的だ」

 

「………人情を揺さぶる中に合理性を入れ込んで説得力と相手への印象や行動の動機をコントロールする。天然でやってるんだから恐れ入るよ……まったく……」

 

 死神に手を伸ばすと、彼は苦笑を浮かべたまま何処かへ消えた。だが、そのまま行方を眩ませることはないだろうとその場で立ち止まること数秒。奴は真っ赤な花を一輪だけ手に持って現れた。

 

「…………彼岸花?時期ハズレにも程があるだろ」

 

「……………温室で丁寧に育てていたからね。適温に保てば芽吹いて花を咲かせることができるさ」

 

 彼はむんずと花を押し付けてきた。

 困惑しながら受け取ると、死神は口を開く。

 

「悪いけど、一緒に考えてもらう必要はもうない。僕には答えが分かったよ。だから、これはお礼と決別。キミには恨みはない。だから、キミやその友達や家族には手出ししない。今後、会うこともないだろう。暗殺教室最後の日までは」

 

「………」

 

 受け取ると、彼は手を離した。

 花から離れた死神の"手"は完全に触手の形だった。

 

 死神は今、情報を3つ寄越してきた。

 一つ、彼は俺たちの前には姿を現さないこと。それにはきっといろんな理由があるんだろう。単純に必要がなくなったからか、あるいは……触手の調整か。

 二つ、彼が次に行動するのは3月12日であること。恐らくはその日、柳沢と共に現れるのだろう。俺たちの教室へ。

 三つ、彼が俺たちの敵になることはないだろう。殺せんせーへ攻撃はするかも知れないけど、クラスメイトたちに被害が及ぶことはないはずだ。

 

「………じゃあね、圭一。摘み取ってきたから長くは持たないと思うけど、大事にしてやって欲しい」

 

「…………………分かった。またな(・・・)兄弟子(アニキ)

 

「………さよなら」

 

 俺の言葉を聞き届けて、彼は消えた。

 残されたのは、異形の足跡と俺の手にある彼岸花だけ。

 

 決別、そう言って渡してきた彼岸花に目を向ける。

 なんとなく、気になって花言葉を調べてみる。花屋をしていただけあって、何かしらのメッセージがあるのかと思って。

 

「……悲しい思い出で」

 

 確かにそこに出てくる言葉は別れやら、悲しさやらを連想させるものが多い。だけど、決してそれだけではなかった。

 

「…………決別にしちゃ、未練たらたらだな」

 

 スマホを閉じて、この花を長持ちさせる方法を考える。

 数ある花言葉のなかの一つが別れの言葉よりも俺の中では強く印象に残ってしまっていた。

 

 

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