暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

208 / 224
UA848000件、お気に入り4155件!
加えて、たくさんの高評価、感想ありがとうございます!

今回も投下しますので、お付き合いください!


187話 着信の時間

 

 あっという間に過ぎた聖夜。その次の夜、俺はベットに座って父さんからプレゼントとして贈られた、一枚のカードを眺めていた。予想すらしていなかった重たいプレゼントを。

 カードといっても、遊戯王のレアカードだとか、デュエル・マスターズのカードとかそんな類いのものではなかった。掌サイズの小さな額縁の中に入れられたそれは、透明な樹脂でコーティングされていて、カードとしての実用性は失われている。

 

『これは、圭の形見の一つだ』

 

『そんなもの受け取れないぞ!?』

 

『いいんだ。それ以外にも彼女の面影を見れるものは沢山ある。それに、母親の形見を息子が持つのは何も不自然なことはない。むしろ、その歳まで渡さずにいてすまなかった』

 

 父さんがそういって手渡してきたのは、大切に保管しようと試みたことが伝わってくる、とあるタロットカードの1枚だった。その絵柄の特徴からなんのカードかを推察し、口に出すのと、父さんが口を開くのは全くの同時だった。

 

『死神のカード』

 

『そう。タロットにおける13枚目のカード。別に圭自身、占いに凝っていた訳ではなかったけれど、私と彼女がお前と同じくらいの歳に路地の片隅で出会った占い師から譲られたものらしい』

 

『未来のことを占った時、願掛け代わりに持って行けと言われたらしい。以来、圭はそれを大切にしていた』

 

『あとで調べて見たが、タロットというのは少し先のことを占うのに適していても、何年も先のことを占うのには向いてないんだとか。それでも、彼女はいつか生まれる子供の事を占って貰ったのだと言っていた。なんでも、その時にびっくりするほど、死神のカードしかでなかったとか』

 

『生まれる子供について。つまり、圭一について占った時のカード。ならば、お前に渡しておきたいと思ってね』

 

『実を言うと、渡すタイミングがなかったのと、遺品と言っても何を渡せばいいのかと悩んでいた。でも、今日、倉橋さんとマフラーで直列繋ぎしていたのを見て、コレにしようと決めたよ』

 

『肌身離さずとは言わないけれど……大事にしてくれ』

 

 そんな経緯で俺の手に渡った。母の形見というのは受け取る時、複雑な気持ちだった。これまで漠然としか感じてこなかった母の存在。それを感じると共に、もう本当にいないんだと実感されられる様で寂しかったのは記憶に新しい。

 にしても、生まれる前から死神に縁があるのか。俺は。つか、その占い師が何者だよ。未来を見るのに適してないとか言いながら、死神尽くしの俺の現状を言い当ててるじゃねぇか。

 

 カードをベッド脇のサイドテーブルに置く。

 さて、そろそろ寝ようか。なんて思っていると充電していたスマホに明かりが付いた。LINEか?なんて覗いてみると、まさかの着信。相手は……カルマだった。

 

 こんな時間に珍しいと思って通話に出る。

 

「へい、こちら来々軒。申し訳ねぇですが、本日の営業は終了致しやした。また後日のご来店を楽しみにしておりやす』

 

『あれ……すんません。間違えました〜』

 

 電話が切れた。うむ、危険は去ったな。寝よう。スマホを再びテーブルに置こうとした時、再びカルマから着信。

 

「はい〜、乃咲ですけども」

 

『イタズラは俺のジョブっしょ』

 

「気付いてるか。乗って電話切って掛け直してまでソレ言っちゃうとノリツッコミになるんだぜ」

 

『乗ってやるんじゃなかった………』

 

 珍しくカルマをツッコミ側に立たせてやった。いつもは容赦のない行動で周りをツッコミ側に回らせ、誰かのバカには苦笑で返し、ツッコミを入れることが少ない奴だったから、なんとなく満足。

 

「それで、どしたん。こんな時間に」

 

『いやさ、ぼちぼち年末が近づいて来たけど。乃咲クン、殺せんせーの事について考えは変わったりしてないかなぁ〜って。渚くんには……あんな風に言ったけど、でも俺たちも気持ちとしては生きててほしいじゃん?』

 

「まぁ、やっぱりそうだわな」

 

『渚くんたちが殺せんせーを助けるための計画を立て始めたことは知ってるっしょ?それに少しでも可能性があるなら、賭けて見たいって思う奴もきっといると思う。もし、乃咲クンもそうなら、殺す側に拘らずに好きな方選んで欲しいな〜ってさ。コレばっかりは、〇〇くんがこう言ってるから〜とか、自分が前にこう言っちゃったから〜とか関係なしに、選びたい方を選んで欲しいじゃん。それが1番後悔しないだろうし』

 

 なるほど、アイツなりに俺や仲間を気遣ってくれてるんだろう。というか、カルマは割とそう言う部分のフォローは抜け目ない奴だ。努力してることを知ろうとしてるし、仲間が貶されたら割って入ることもある。随分前に感じるテストの時も、アイツはそうだった。

 不良だ〜とか、イタズラ好きだ〜とか本人と外野は言うけど、良くないことをするにも、イタズラをするにも、ある種の常識は必要だ。ここは油断する、こんな場面では警戒しない、こんなことは予想しない。そんな常識があるから、相手を驚かせることが出来るのだろう。

 

 俺が思うに、カルマが殺せんせーを殺すことを主張してるのも、その常識の延長だ。頭の中にあるのは、助けられるか、助けられないか。助けられない可能性が高いなら殺す。それが殺せんせーへの感謝、俺たちに殺すことの重みを感じさせない為の努力に対する応え方だと思うのと同時に、頭の片隅には……俺と同じく責任の様なものを考えているのだろう。

 

「お前はどうなんだよ?渚が助けることを考えてるってのは」

 

『……正直に言えば、あんまり助ける側には傾かないかな。渚くんの考えてる助ける方法ってのも、確実じゃないわけだしね。なら、初めから最後まで殺すことに全力で挑みたいな、俺は』

 

 殺すことに初めから最後まで全力。それは、きっと、俺には出来ないことだろう。殺そうと思えば殺せてしまう俺にとっては。前に俺単独での暗殺はもうしないと言った。それなのに、俺は殺す方を選んでいる。その気になれば、殺せるくせに……それを実行しない。その辺が、周りには煮え切らない態度に思われてるのかもなぁ。

 普通は殺すことも、助けることも、同じくらい難しいんだ。だからこそ、殺せんせーを本当に殺すことができたのなら、それこそが自分の成長の証だと言える訳で。それを理解して、周りが頑張ってるか、努力してないかと言う部分に目を向ける様になったカルマだからこそ、殺す方を選んでいるのだろう。

 

『それに、正直に言えば……助ける方法を探したからなんだっていうのさ?』

 

「………」

 

『あの場で渚くんが言ったこと。俺らにはまるで殺せんせーを助ける気がないみたいな言い方。俺はやっぱり、アレが気に入らない。俺たちだって偉そうなことを言ったとは思う。でも、方法はあるのか?って聞いた時、彼は何も答えなかった』

 

「そうだな………」

 

『じゃあ、渚くんの方こそ何様のつもりで俺らにあんなこと言ったの?せめて何か意見とか考えを持ってるならいいさ。でも、何も考えてなかった癖に、あんな言い方をされたら大口叩くなよって思うっしょ。だから、乃咲くんも刺々しい言い方になったんじゃない?』

 

「正直、あの時に1から10までその通りのことを思ってたから、お前の言葉を否定することはできないな」

 

『だから、今回の渚くんが方法を考えてるってのも、俺は特別なことだとは思ってないよ。自分の意見って奴をやっと準備したか〜って思うだけ。渚くんが自分の意見を準備して、初めて"殺すか、殺さないか"って話し合いのテーブルに着けるんじゃないかなぁ〜って。俺は考えてるけど』

 

 カルマの考え方は分かる。俺だって同じことを思っていたし、考えている。父さんに言われて、肩の荷が軽くなった。乃咲圭一なら殺せんせーを殺せる保証があると理解した上で考えれば、渚が一緒に考えることから求める気持ちも理解できる。

 でも、それは俺が殺す前提の話し。カルマも俺が全部終わらせる前提で考えているなら、彼の考えにも一定の理解は示したことだろう。でも、根本的にそこが食い違っている。

 

 カルマは、俺に殺させる前提ではなく、みんなで、あるいは自分の手で殺そうとしている。そりゃそうだ。殺すことが成長の証明というのなら、俺1人に殺させてしまっては意味がない。

 渚にとっては、殺せんせーを殺せる方法が確立してるなら、一緒に考えて欲しかったと思うだろうけど。カルマにとって、それは確立していない。俺を戦力として考えて入るけど、俺1人に殺させるつもりはない。

 無論、最終的に間に合わなければ……俺が出張ることになる。それは考えているだろうけど、アイツにとって暗殺は確実なものではなく、可能性が1番ある方法でしかない。

 

 だから、カルマは折れないだろう。少なくとも、あの場で折れることは絶対になかった。気持ちはあります、方法は考えてません。それじゃあ話にならないよねって思った筈だ。

 

『冬は、正直に言えば殺せんせー暗殺においてはこれ以上ないチャンスだよ。雪が積もればフィールド全体が先生にとっての弱点になる水分だらけになるし、雪合戦に誘って雪玉に対先生弾を混ぜれば遊びの中に殺意を紛れさせることができる。吹雪いてくれたら最高だね。掃除は大変だろうけど、窓を開けるか割るかすれば、視界を潰した上で触手に水を吸わせられる』

 

「そこまでしなくても、教室を濡らすことが簡単になるよな。その辺の雪を固めて氷にしてしまえばいつでも殺せんせーに水を掛けられる。春夏秋ではやるには水筒が必要だけど、冬なら必要ない」

 

『寒暖差での動きの鈍り方とかも試したいよね。暖かい教室から寒い外に出た時、人間ですら縮こまるんだから、あの弱点だらけのタコがなんの反応もしないわけがない』

 

「あと冬といえば湿度が低くて乾燥しやすい。梅雨であんなにパンパンに膨れるなら、乾燥すればスルメみたいになる可能性もあるよな」

 

『タコだから、スルメってか干しダコだけどね』

 

 スマホの奥からケラケラと笑う声がする。

 そういえば、陽菜乃以外の仲間の笑い声を聞いたのは久しぶりな気がする。教室に行けば誰かしらはいる。雑談もしてるし、笑い声がないわけではない。でも、それは本心から笑ってるっていうより、いつもこうしてたからって感じの声に感じていた。

 

『……俺さ、こんな風に先生を殺せるかもしれない要素を話すのがやっぱ好きだわ』

 

「…………だな、俺もだ」

 

『バカ真面目に考えた作戦ほど空回りすることもあれば、くだらない冗談混じりで考えた作戦がバカみたいにハマることもある。ふざけて言ったことに"そんなわけないじゃん"って誰かがツッコミ入れてさ、"でもあの時はこんなリアクションしてたよな"って普段の先生が出してるボロから"あれ?これはマジであるぞ?"って空気の移り変わり方が楽しかった』

 

「……………あぁ」

 

『渚くんのメモとか凄いよね。書いてる内容とか結構くだらないものばっかりなのに、案外的確にまとめられててさ。おっぱいとか、俺らが真面目に考えて探した弱点より効くのが腹立つこと書いてんの』

 

「あのメモはある種の才能だよな。ぱっと見じゃ役に立たなそうな情報ばっかりなのに、殺せんせーのツボを押さえてる。殺せんせーのことよく見てるよ、アイツ』

 

『……うん。知ってるよ。でも、だからこそ、俺は納得できないんだ』

 

 電話の向こうでカルマの声音が変わった。

 

『乃咲クンが責任とか色々と考えて殺す方を選ぶって言ったの最初に聞いたからかもしれない。でも、やっぱり渚くんが1番、殺せんせーを殺せる可能性が高い人だって思うから。実は乃咲クンと渚くんに対して言ってる、殺せる可能性が1番高いって意味さ。俺としてはニュアンスが少し違うんだ』

 

 なんとなく、言わんとする意味は分かる。でも、聞いておこうと思った。口に出すことで考えを整理できることもあるだろうから。普段、ヒナに俺がしてもらってるように聞き返す。

 

「……どんな意味なんだ?」

 

『乃咲クンは可能性がある人じゃなくて、殺せる人。渚くんは可能性がある人、殺せるかも知れない人ってこと』

 

「確実か、賭ける価値があるかってことか」

 

『そう言うことかな。お前はシュミレーションゲームでいう所の最強キャラ。やり込むなら育成必須で育て切れば最強。出せば勝ち確ってレベル。縛りプレイじゃ間違いなく出禁になるタイプ』

 

『渚くんは隠れた強キャラ。基礎ステータスは貧弱だけど一芸に秀でていて、縛りプレイとかTAとか好きな人には重宝されるタイプ。攻略板とか覗くとさん付けされて呼ばれてる系のキャラだよね。最強じゃないけど、刺さる場面では作中最強とかシリーズ最強とか言われるタイプ』

 

「あー……。確かにそんな感じはあるよな」

 

『そう。んで、出せば勝てるキャラと運用するには腕が試されるキャラ。どっちを違ってクリアするのがプレイヤーとしての腕を見せられるのかって話よ。ゲームで例えて悪いけどさ』

 

「言わんとすることは分かるさ。初心者だった奴がキャラの個性をどこまで把握して、どんな場面で活かせるのかってのを理解して、ラスボスを倒す。1番自分の成長を実感できるし、周りが見ても理解するだろ」

 

『ま、そういうこと。もちろん、乃咲クン単独で殺すのも成長を見せることになると思う。でも、殺せんせーが見たいのは1人の成長じゃなくて俺ら皆んなの成長だと思うわけ。だったら、渚くんを切り札として運用するのが理想でしょ』

 

 1人ではなく、皆んなの成長を殺せんせーに見せたい。

 なるほど。俺もまだまだ考え足らずだった。漠然と殺せんせーに成長を見せるなら、最初は掠りもしなかった攻撃や俺たちの作戦をしっかり当てて殺すこと。なんて考えてしかいなかったけど。カルマは、しっかり周りのことも考えてたんだ。

 

「やっぱ、めちゃくちゃ視点広く考えてるよな、お前」

 

『乃咲クンがそれ言う?』

 

「最近の俺はダメダメだからな。考えて、結論出して、周りの言葉を聞いて、考え直して。それの繰り返しだ」

 

『ま、素直に受け取っておくけどさ。んでも、だからこそ、俺は渚くんが殺しを放棄するのが納得できなかった』

 

「お前にとっては……いや、お前と同じことを考えてる奴らにとっては、渚は攻略の大きな鍵の一つだってことか」

 

『そういうこと』

 

 カルマがスマホの奥で頷いてるのが分かった。

 彼の言いたいことも、俺には分かる気がする。

 

 でも、きっと思ってることはそれだけじゃないだろう。

 だから、俺はカルマに向かって聞き返した。

 

「けど、お前なりに渚の考えに……殺せんせーを助ける方法について思うことがあったんだろう?」

 

『…………なんでそう思うわけ?』

 

「今回の電話の入り方的にそうかなって。だって、今の内容だったら渚の先生を助ける方法が〜ってくだりはいらなかっただろう?俺はこう思うって宣言だけで足りた。こっちのことも気遣った言葉もくれたけど、それが目的の電話じゃないだろ?お前なりに考えが固まってるのは今の話で理解できた。けど、本当にそれだけだったらわざわざ俺に電話なんてしないだろ、お前は。何かある、何か聞きたい。それも、たぶんだけど、俺じゃないと答えられない何が。違うか?」

 

 スマホから、息を吐く声が聞こえた。

 嘆息のような、ある種の深呼吸のような。そんな音が聞こえたあと、アイツの声が鋭くなる。より真剣味を帯びた声で、予想の範疇にある質問を投げかけて来た。

 

『……乃咲クンのことだから、親父さんにも確認したんじゃない?実際に殺せんせーを助けるか、殺さないで無力化する方法はないのかって』

 

「俺が父さんと会ったのは……律から聞いたか」

 

『まぁね。さっき、お前は他に何か聞きたいから電話したんだろって言ったけど、本当はその前に話してた内容も本題だった。ちょっとさ、俺なりに考えてることもあるけど、行き詰まったから、お互い、愚痴を言い合うくらいしてもいいかなって。そしたら律から、『今日は倉橋さんと乃咲さんのお父さんが面白いことになってるので、遠慮してあげてください』って』

 

「律にはあとで説教だな。………んで、父さんと会ってるなら、先生について聞いてると踏んで電話して来たと」

 

『うん、そう』

 

 なるほど、合点がいった。今日電話してきたのは、昨日は律に遠慮してあげてくれと言われたから。この時間に電話したのは、もう父さんと別れたか、あるいは話しかけてもいいと思える時間だったから。そして、俺が父さんに殺せんせーの件を確認する猶予時間みたいなのを自分なりに設定してのことだろう。

 

「………結論から言うと。確認はした。でも、返って来た答えは………『助けられるとは断言できない』って」

 

『………そうだよね。そんな都合のいい話があるわけないか』

 

「科学者として、実験できてない机上論を断言することはできないそうだ」

 

 カルマはその後、何も言わない。

 分かっていたのだろう。俺たちの中で1番賢いのがコイツだ。地球爆発が視野に入る中で地上で出来る実験は限られる。机上論では確実なんて言葉は絶対に使えないのだと。

 

「逆を言えば……実験できれば、あるいは実験したデータがあれば、確実だと言える可能性はあるってこと。そう言う意味だと、渚の殺せんせーを助ける方法を探すって作戦の内容次第では………助けるための努力が完全な徒労に終わる可能性は無くなる」

 

「入手したデータを父さんに渡せば……少なくとも、助けられるか、助けられないかって部分は分かるようになる」

 

「正直な話、俺も成長を見せるために殺すって意見は変わってないけど。でも、殺す殺さないの話は、助けられるか、助けられないかって部分が確定してからでいいんじゃないか、とは思い始めてる」

 

 考えれば考えるほどにわからなくなるし、ドツボにハマってる気がする。意見が何度も自分の中でひっくり返って、それでも譲れない部分も確かにあって。だから、また悩む。そうして、今の俺に芽生えた考え方。

 

 それを、カルマと話す中で形にしていく。

 

「俺たちの根本的な部分は一緒だろ。殺せんせーが生きられるなら、それが1番いい。殺したい側の意見としては、殺すことが成長を見せる恩返しだとは思う。でも、決して死んで欲しいわけじゃない。それが基礎の考えのはずだ」

 

『……だね』

 

「渚たちは、殺せんせーが生きられるなら、それが1番いい。だから、まずは助けたい。死んで欲しくないから助けたい。そんな考え方のはずだ。まぁ……自然な考え方だよな」

 

『そうだと思うよ。殺せんせーを助ける方法はどうやって見つけるのって所に目を瞑れば、意見としては理想でしょ』

 

「そう。問題が殺す派と助ける派の一番の論点のズレ。つーか、俺とお前と渚の論点のズレなんだと思う」

 

『論点の……ズレ?』

 

「そ。こればっかりは俺も偉そうなこと言えないけど……俺たちはお互いに意見が両極端すぎたんじゃないかなってさ」

 

「だって、お互いの言い分に少なからず共感できる部分はあるわけだろ?俺たちの場合は殺せんせーに生きてて欲しいって部分に。渚の場合は助ける方法を見つけることや可能性の低さについてさ。全く相手に共感してないわけじゃない」

 

「それでも意見を曲げなかったのは、お互いに結論しか見てないからだ。渚は助けること。俺は殺すこと。"どんな風に助ける"のか"どんな風に殺す"のか。ここで言う"どんな風に"ってのは、やり方、方法の問題じゃなくて過程の問題だよ」

 

「惨たらしく殺した、苦しまないように殺した?不味い薬で助けた、美味い薬で助けた?そんな意味じゃない。"何を、どうやって、どのくらい時間を掛けた"って。そういう部分がお互いに抜けてたからだ。それができれば……もうちょっとマシだったんだと今更ながら思うよ」

 

『……お互いに納得するためにってこと?』

 

「話が早いな。そう言うこと。お互いに相手の考えに共感できる部分があるなら、納得しあう方法だってあるはずだ」

 

「殺せんせーを助けたいって言うなら、方法を探して試す。それがダメだったらから殺す。一旦は、それでも充分に回った話だったのかも知れない。これなら、助けたい側は少なくとも自分たちなりに手を尽くせるだろう。殺すべきと言ってる奴らも、死んで欲しいわけじゃないって部分を叶えられるかも知れない。逆も同じだ。それで助けることが出来なかったのなら、助ける側の奴らも手は尽くしたと思えるだろうし、殺すべきって側の奴らも気持ちを切り替えられる」

 

 俺の意見を聞いていたカルマが訝しむように言う。

 

『そんなに上手くいくかな……』

 

 だから、俺も言葉を返す。

 

「いかないだろうな。たらればにすぎない。あくまで、"あの場ではこういうべきだった"ってだけで、実際にこんなことを言っても、お互いに納得しなかっただろうな。俺だって納得しなかったさ。みんなで探して、でもやっぱりダメでしたって失意を味わうくらないなら、今までみたいに暗殺に力を入れた方が健全だと思ったから。そうした方が楽しいと思ったから」

 

「こういう、お互いに納得できる話の運びってのは、一回は決裂しないと意味をなさない場合がほとんどだ。当然だよな、お互いに譲れない、譲りたくないんだから。だから、あの日。俺の家でやった話し合いというか意見交換というか……。たぶん、あれで話がまとまる事は絶対になかったって今は思ってる」

 

『……まぁ、言いたい事はわかるよ。でも、なんつーか、随分と割り切ったね。乃咲クン、そういうの割り切れずに悶々とするタイプでしょ』

 

「自分なりに考えをまとめるために思ったことを口に出してるからな。考えたら雁字搦めになって何も言えなくなるのは俺が1番知ってるし。もっと考えれば変わるかもしれないし。まずはそんなもんでいいって思ったんだよ。父さんが『彼は子供が責任を負うべき問題じゃない』って言ってくれたから」

 

『そっか……。親父さんとも随分と関係が変わったんだね。そこは安心したよ』

 

 俺と父さんのことに関しては色んな人に心配を掛けた。なにせ、夏休み明けで俺たちのすれ違いに巻き込んでしまったわけだし。泣きギレを見られたし。見せちゃったし。

 ……ここで、またこんな考え方をするのは良くないかもだけど。そういう意味でも、俺たち親子でみんなの抱えている殺せんせーを助けられるかかどうかの確実性について、あるいは今回の事件の心配事を潰す。それが、仲間たちへの恩返しなのかな。

 

「俺がいうのもなんだけど……あんまり難しく考えなくてもいいんじゃないかなってさ。さっき言ってた通り、一回決裂したからこそ、お互いに納得できる進め方も出来ることもあるから」

 

『分かった。そっちもあんま考えすぎないようにね。俺は……うん、やっぱり、心情としては生きてて欲しいけど、方針は殺す側である事は変わらないと思うから』

 

 カルマはそういうと電話を切った。

 こんな時、自分の中に芯がある奴は強い。迷わないわけじゃない、悩まない訳でもない。でも、突き通せる強さがある。楽な方に流されたくなる俺とは大違いだ。

 

 カルマは本人も言った通り、殺すという意見は貫くだろう。そういう意味でも、殺す派と助ける派は何処かでやはりぶつかるしかないのだと思う。だって、助けたいと言ってる側もきっと同じだろうから。

 

 結果的に、今回はカルマの話を聞こうとしたのに、いつの間にか俺の話を聞いてもらうだけになってしまった。

 ダメだな、この説教臭くなる癖。頭が悪いから、小難しいことばかり考えたり、小難しく考えたりしがちになる。

 

 自分の直すべき悪癖に頭を抱えていると、またスマホが鳴った。カルマ、なにかまだ言いたいことでもあったのかと液晶を見ると……。

 

「………まじか」

 

 今度は潮田渚という文字があった。

 今日の俺はモテモテらしい。着信なし、なんてどっかのホラー映画の寂しい版みたいなことになってないだけありがたいか。

 

 

 

 




あとがき

次回、ちょっと時間が巻き戻って渚視点になります。
渚がどんな風に助けるための作戦を煮詰めているか描けたらいいなぁ〜と。

それでは今回もご愛読ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。