暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想、高評価、ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!

久しぶりに長くなりました……。


190話 圭一と渚の時間

 

「こうして2人で学校に来るのって珍しいよね」

 

「……だな」

 

 日が沈む寸前、俺たちはE組の教室に来ていた。

 誰かいたのか、教室はまだほのかに暖かい。入れ違いになってしまったのかな?なんて思いつつ、窓の底に見える殺せんせーを模した雪だるまを眺める。

 去年の今頃、俺は何をしていたっけ。この時期には喧嘩を売ってくる不良の類はいなくなり、カルマとも少し疎遠になってたっけか。冬休み中だし、部屋に引きこもってゲームしてたか。

 

 どう転んでも、来年の今頃はみんな別の道を歩いてる。

 その時、地球はあるのか、殺せんせーはいるのか、俺たちは何をしてるのだろうか。自分たちの選択は何を生むんだろう。それが漠然と不安だった。

 

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「計画は……大体形になったな」

 

 僕らの計画はおおよそ見通しが立った。

 成功するかは分からないけど、それでも作戦の全体が見えたという意味では十分すぎるほどに前進しただろう。

 穴はあるかも知れない、ツッコミどころも僕ら以外が見れば出てくるかもしれない。でも、なんのプランもない時期から見たら雲泥の差だ。僕らの意見を持つという意味では、やれることはやった。

 

「あとは……殺したい派の説得か」

 

「…………うん」

 

「なぁ、千葉。心情的には殺すって意見は変わってないんだろう?お前的に、これでみんなを説得できると思うか?」

 

「正直、何とも言えん。でも、可能性はあると思う。もう聞き飽きただろうが、先生に死んで欲しいわけじゃ無いからな。これで先生を助けられるならヨシ、助けられなくても、殺す覚悟はできる。殺せんせーを諦めるかどうか、覚悟を決める為の儀式の様な形になるだろう」

 

 千葉くんは意見を言ったあと、聞き返してくる。

 

「逆に、お前らどうだ?これで殺せんせーを助けられるに越したことはない。でも、無理だった場合のことも考えなきゃいけないんだぞ。初めから失敗する前提でやるつもりは誰もないだろうが、作戦が失敗しても、あるいは成功しても、殺せんせーを確実に助けられる保証なんてない。その時は、殺すしかなくなるぞ」

 

 彼の言葉が耳に痛い。分かってる、僕らだって全部上手くいく前提で考えてはいない。全部上手く行ったからハッピーエンド!それが理想だけど、上手くいかない可能性だって……いや、上手くいかなかい可能性の方が高い。

 

「俺は今回の作戦に全力で協力するし、殺す派のみんなだって本当に実行するならそうしてくれると思う。そこは断言する。でも、今、完成したばかりの作戦だ。あとでアイツらに見せた時、俺らが見落としてた部分に気付く奴もいるだろう。もし、それが反論できない内容だったら………どうする。それでも実行するか?」

 

 千葉くんの言葉に僕らは押し黙った。

 可能性はある。乃咲は殺せんせーを助ける方法を探す手段が無理ゲーだと言った。でも、こうして僕らは作戦を立てること自体は出来てる。彼には見ることができなかった道筋を、あとから聞いた僕らは見つけることができた。

 逆だって、きっとある。乃咲の思いつかなかったことを僕らが思いついたように、僕らが気付かなかった部分に、彼らが気付く可能性は。

 

「………乃咲と話してみたい」

 

 僕の一言に視線が集まった。みんなからは『無謀だろ』とか『まだ早くないか?』という色が伝わってくる。

 正直に言えば、僕もそう思う。彼らが居てくれれば心強い、ここを彼らに任せたい。そんな役割だって決めてある。勝算がゼロなわけじゃない。乃咲だって殺せんせーを助けたがってるし、カルマくんだって、同じだから。

 

「前にさ、母さんが言ってくれたんだ。乃咲くんは本気でぶつかれば分かってくれない子じゃないって。今がそのタイミングなんだと思う。きっとお互いに言いたいことがあるから」

 

 乃咲はよく、『上から目線に感じるかもしれないけど』とかそんな前置きをする。本人にその自覚があるから前振りしてるんだろうし、きっと、言葉も選んでるんだと思う。だからか、乃咲はよく話すまでに間を開けてる。 

 でも、僕だって言いたいことはある。というか、できた。クリスマスの少し前、千葉くんが極力してくれる様になった日、なんであんなにタイミング良く千葉くんが現れたのか。状況証拠的に、仕向けた奴はアイツしか居ない。

 

「……俺はいいと思う」

 

「千葉………」

 

「正直、お互いに居心地悪いだろ。お互いに相手の言いたいことは分かってる、でも——!が最近多すぎるんだよ、お前ら。いっそ、本当に分かってるのか確認してくるのはいい機会だろ」

 

 その言葉に、磯貝くんが苦笑しながらも頷いた。

 

「確かにな。お互いにこのまますれ違うのは勿体無い。渚はあんだけ言われても圭一が必要だと思ってる。そんな友達を無くすのはアイツにとってかなり痛いと思う。渚にとっても同じだろ?今回は意見が違ったけど、お前の為にやりたいことをやらせてやって欲しいってあの母さんを説得して、サポートもしてくれた。嬉しかったんだろ?」

 

「………うん」

 

 母さんから乃咲とどんな話をしたのか聞いた。学年主席という立場で僕の家に遊びに来たことで、僕も知らない間に半ば巻き込む形になってしまったけど、それでも僕のためにできることをしてくれた。

 だから、乃咲が助ける方法を思いつかなくて諦めたんなら、今度は僕が示したい。それでも、彼のためだけじゃない。なにより、僕が殺せんせーに生きていて欲しいから。

 

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「んで、どうしたんだよ。みんなも居ない時間に俺とここに来て。何かあったのか」

 

「うん。実は殺せんせーを助ける方法を探す為の作戦を立ててた……っていうのは言うまでもないよね。千葉くんを僕らに差し向けたの、乃咲でしょ」

 

「…………………」

 

 単刀直入に本題へ入ると、彼も応じてきた。どうやら、お互いに長々と前置きをするつもりはないらしい。

 渚は律の前に立つと、彼女に呼び掛ける。どうやら俺をここに連れてくること自体は決まっていたのか、無機質だったモニターは待っていましたと言わんばかりに計画の要点をまとめたメモを食い気味に表示した。

 俺は、促されるより早くモニターの前に立ち、そこに書いてある内容を黙読する。結論から言えば、渚たちの立てた作戦というのは宇宙ステーションへデータを奪いにいくというもの。そして、所々に誰に何を任せるのかという記述もあった。

 そこには、俺とカルマの名前もあった。渚、俺、カルマで殴り込む役をやる計画らしい。渚は責任者として、カルマは交渉役として、俺は護衛として。必要とされていた。

 

「俺らの名前もあるんだな」

 

「乃咲たちが必要な理由がある。だから協力して欲しいっていう方が説得力というか、説得する必要性があるって。そうじゃなきゃ、『お前らで勝手にやれば』になりかねないから」

 

「流石にそこまで捻くれてない。けど、あんな言い方しておいて、こうして必要だって言ってもらえて内心では喜んでるあたり、確かに捻くれてるかもな」

 

 そうだ、内心では喜んでる。嬉しいさ、そりゃ。あんな言い方してんのに、上位者ぶった言葉選びしたのに必要だって言ってくれるのは。嬉しくないはずがない。

 正直に言えば、渚たちがこんな作戦を立てるのが意外だった。だって宇宙ステーションへの殴り込みだぞ。常識的に考えれば無理だって思うだろ。それをまさか本当にプランとしてぶち込んでくるとは。驚かずにいられるか。

 

「どうかな、乃咲から見て……見落としとかあるかな」

 

「…………そうだな」

 

 だからこそ、答えるべきか悩んでしまう。

 俺が無理だと、無謀だと諦めた作戦を実現する為に手を尽くしたことは、プランを見れば察することができた。

 でも、根本的に欠けているものがあった。大前提、想定しなければならないこと。それが抜けてる。

 

「いや、計画自体はいいと思うぞ。実行可能なレベルまで良く考えたなって驚きと賞賛と呆れが混ざるくらいに」

 

「………………本当にそれだけ?」

 

 嘘は言ってない。本当によくできた計画だと思う。皮肉でもなんでもなく、純粋にそう思ってる。これ以上の案を出せと言われても出せない。そもそも、俺は諦めたわけだし。

 だが、いや、だからこそ、と言うべきか。言葉を選んでしまった。果たして、諦めてしまった俺に口出しする権利があるのかと。俺らを使う前提で作戦を組んでくれてるのだから、少しの……というには大きいが、作戦を実行することへの障害にはならない見落としを態々指摘する必要があるのか?と。

 

 でも、渚はそれを嗅ぎ取った。

 

「今、言葉を選んだでしょ。思ったことを全部言わない程度に、それでいて嘘にならない様に」

 

「……なんでそう思う?」

 

「"計画自体は"って。計画以外のところがダメだって言ってる様に聞こえる。本音と建前を使い分ける時に良くやるよね。でも、無意識に出てるんだ。言葉を選んでる感がさ」

 

「悪い、不快にさせるつもりはなかった」

 

「別にそうは思ってないよ。でも、強いて言うなら、なんでこの期に及んで言葉を選ぶの?僕は見落としがないか聞いてるのに、乃咲の建前じゃなくて本音が聞きたいのになんで?」

 

「………それは」

 

「………僕らは、本音が言えないくらい信用できない?」

 

「そういう訳じゃ………」

 

「知ってるよ?でも、そう聞こえるんだよ」

 

 渚の言葉が容赦ない。叱責されてるのか、叱咤されてるのか。そこまで強い表現ではないのかもしれないけど、そう感じてしまうのは、これまで叱られる経験が少なかったからだろうか。

 俺と渚の考え方の違い、視点の違いからそう感じてしまうのだろうか。なんて思っていると、彼は徐に自身の机に向かい、中に手を突っ込むと、ゴムナイフを2本取り出し、片方を俺に放り投げた。かなり無造作かつぶっきらぼうに。

 

「乃咲、勝負しよう」

 

「………勝負?」

 

「そう。僕と乃咲、どっちが先に相手にナイフを当てられるのか。別に勝ったからどうこう、負けたから云々は考えてないから。純粋にそういう勝負がしたいだけ。なにしてもいいからさ」

 

 キャッチしたナイフをなんとなく眺めて、頷く。

 それと同時、特に合図もなく渚が走り出したので、ナイフを投擲した。緑色のゴムナイフは呆気なく彼の胸板に当たって変形し、床に落ちる。その様子を、渚は呆然と眺めた。

 

「何してもいいんだろ?」

 

「…………投擲はなし」

 

「なんじゃそりゃ………」

 

 どうやら仕切り直しらしい。

 さっき立っていた位置まで戻ると、渚が再びスタートを切る。小柄な体躯を活かした、コンパクトでスピードのある刺突。姿勢を低く、体当たりと刺突を両立させた攻撃。

 当たり前だけど、昔絡んできたヤンキー共なんかとは比べられない精度の攻撃だった。それでも……遅い。

 

「うぐっ……」

 

「…………俺の勝ち」

 

 俺の方が速い。攻撃が当たる直前まで渚を引き付け、足を踏み抜く。体勢が崩れた所でナイフを持った腕を捻り上げ、お返しにこっちのナイフを首筋に当てがった。

 

「………………降参」

 

 渚がそう言うので、手を離す。

 それと同時、彼は持っていたナイフから手を離し、両手を俺の前で打ち鳴らす姿勢に入った。

 クラップスタナー。相手の意識の波長が高い時に同じ波長をぶつけることで、標的を行動不能にする技。仮に、波長を当てるタイミングが理想的でなくても、意表を突いた猫騙しは相手をすくませるには十分だ。

 

 でも、渚。俺だって波長は見えるんだぞ。

 

「ぅ………」

 

 渚が打ち鳴らすより早く、俺が手を鳴らした。

 気絶しない程度の威力で、それでも最速で。

 

「クラップスタナー。使えることがわかってるんだから警戒はする。お前が持ってる中で特に怖い技術だからな」

 

「なんで………。降参って言ったのに」

 

「降参したら勝負は終わりとか、誰も言ってないし、ナイフを当てたら勝ちと言っても回数指定がなかった。加えて、なんでもありと言っておきながら、投擲を受けて『もう一回!』をやってるんだから、攻撃を当てただけで勝負が終わらない可能性は考慮するだろ。少なくとも、俺はする」

 

「でも完全に不意打ちだったよ」

 

「仮に、不意打ちとして成立してたとしても、だ。お前、攻撃する時に自分の意識の波長までは意識してないだろ。人間、これならいける!これは決まる!とか思った瞬間、意識が昂るもんだ。さっきのお前にはそれがあった。だから、クラップスタナーを同じくクラップスタナーでカウンターできた」

 

「………………本当に降参」

 

 渚が両手を挙げ、本当に戦意がなくなったことを見て確かめ、ナイフを床に置く。彼はそれをそそくさと回収して机にしまうと苦笑しながら振り返った。

 

「乃咲、ほんと強いや。ちっとも勝てる見込みが見えない」

 

「……………………」

 

 こんなことで勝っても意味がないと言うのは嫌味だろうか。相手を物理的にねじ伏せても、それは単なる暴力だ。

 そんなもので勝っても意味はない。本当なら、暴力に頼る前に解決するべきなのだから、暴力が強いことは誇れることではないだろう。表社会で生きていくなら。

 

 けど、俺の中で最も優れた力は間違いなく、これなんだ。

 

「ほんと………強くなったよね。乃咲と組み手って片手で数えられる程度しかしたことないけど、それでも毎回手加減してたでしょ。気付いてるんだからね、明らかにカルマくんや磯貝くんとやってる時より手を抜いてるの」

 

「侮ってるわけじゃないんだぞ、説得力ないかもだけど」

 

「知ってるよ。本当に乃咲が僕を歯牙にかけてないなら、僕は勝てると思うもん。前に言ってたもんね、ゾーンは集中した時にしか使えない、本当にやばいって思った瞬間くらいしか咄嗟に使えないって。そういう騙し討ちとか、殺し屋的な才能なら……うん、僕は誰にも負けないから」

 

 少し意外だった。渚が自分の才能を自覚していることじゃない。自覚した上でそんな風に言い切ったことがだ。

 

「最初はさ、烏間先生に指一本触れられなかったよね」

 

「………懐かしいな。ナイフで刺突を仕掛けたら投げられて、切り掛かったら転ばされた。よくその辺を転げ回ってた」

 

「うん。でもさ、いつの間にかナイフを掠められる様になって、当てられる様になって、クリーンヒットさせられる様になって………いつの間にか、烏間先生相手でも手加減する様になった。自覚はあるんじゃないかな、乃咲?」

 

 思い出話だと思った。だから、しみじみと頷いて返答した。だから、こんな風に言われることは想定してなかった。

 ドキリと心臓が跳ねた。烏間先生に勝つこと。それは俺にとっての目標だった。それなのに、いつの間にか力を加減する様になっていた。使える技をわざと使ってない訳じゃない。ただ、全力を出せなくなってしまった。それをしたら、簡単に人を簡単に殺せてしまうだろうから。

 

「もう、誰も乃咲の本気は受け止められない。言い合いになって、取っ組み合いになって、相手を叩きのめして自分の意見を押し通す。それってきっと達成感があることだよね。自分の強さを証明して、強者として意見を通せるんだから。でもさ、乃咲はもう、それで達成感は感じられないよね。自分が勝って当然なんだから。少なくとも、それを自覚してるんだから」

 

「…………回りくどいな。何が言いたいんだよ?ただ負けるのをわかってて挑んできた訳じゃないだろ」

 

「……まぁね。わざわざ負けるの分かってる勝負を挑んでまで言いたかったのはさ……乃咲と本気でぶつかれるのってもう言葉しかないんだよって伝えたかったんだ」

 

「………………」

 

 彼の口から出たのは予想外の言葉だった。

 それを伝えるためだけに負けに来たのか……?

 

「あ、もちろんわざと負けるつもりはなかったよ?勝ちに行った。でもやっぱり届かなかった。それでやっぱり確信したんだ。もう青春漫画みたいに殴り合って認め合うみたいな展開は乃咲とはできないって。だって、そこには絶対に手加減があるから」

 

「そうなんだろうな……実際に」

 

「乃咲は……よく言葉を選ぶよね。言わなきゃいけないことははっきり言うけど、言わなくていいこと、あるいは言っても無駄って思ったことは言わない。そして意見を伝えるときは『上から目線に感じるかもだけど』って前置きをすることが多い」

 

「でもさ、僕にはその時点で上から目線に聞こえることがある。言葉を選ばなきゃ伝わらないって思われてる気がする」

 

 こうして渚に真斜面から言葉をぶつけられるのは初めてだったか。なんとなく似た様なことをこの前、ヒナにも言われたっけ。前置きしちゃうことで返って嫌味とか上から目線に聞こえるって。でも、言葉を選ぶのは悪じゃないだろ。

 

「乃咲にそんなつもりはないのかもだけど、僕らってそんなに信頼ないのかなって。そんな風に思って思っちゃうよ。僕だって言葉を選ぶことはあるけど、でも、言葉を選ばずに言いたいことをハッキリ言うのが信頼なんじゃないかな」

 

「……言いたいことは分かるけど、俺だって考えてることの全てを言語化できる訳じゃない。考えてることを口に出すために言葉を選ぶ。そのついでに伝えるべきか情報を選んでるってだけだ。俺の考えてることを一気に伝えても混乱するだけだ」

 

「そこにそう言う気遣いがあるのは分かってるつもりだよ。いま言っても伝わらないって判断してるのは知ってるし、間違ってるとは思わないよ。でもね、矛盾してるかもだけど、同じくらいに思うんだよ。『最初から言ってくれれば良いのに』って」

 

「………じゃあ、この前の俺の家でやった話し合いの時、俺が考えてる情報を全て伝えて、お前は納得したか?」

 

「それは……できなかったと思う。でも、少なくとも『乃咲にはこんな考えがある』って理解はできたよ。情報を後出しにして『実はこんなこと考えてた』って最近の乃咲は多いけど、それズルいよ。納得と理解は別物って前のテストで乃咲がみんなに教えてくれたことじゃん。確かに言われても納得しないかもしれないけど、言ってくれなきゃ理解もできないよ」

 

 確かに言った。殺せんせーからの無茶振り。俺たちとA組の最後の対決の時、勉強に必要なのは理解だけでなく、納得なのだと。理解してても納得してなきゃ使えないし、納得するには理解しなきゃいけない。

 自分が実際に口に出したことだ。それを持ち出されてしまったら反論なんて出来るわけがない。

 

「本音をぶつけるってそう言うことだと思う。だから、思ってることがあるなら言ってよ。本当に言いたくないことなら聞かないし、無理強いはないから。でも、言わずに抱え込まないでよ。少しでも伝えるべきだって思ったら言葉を選ばず、遠慮なく言って欲しいんだ。僕らが乃咲と本気でぶつかれるの手段はもう、言葉しかないんだからさ」

 

 そうか。渚はこれを言うためにここに俺を呼び出したのか。

 お人好しというか、先生気質というか。口をひらけば説教くさくなる俺とは対照的な意味で彼は先生っぽい。

 

 渚はいい奴だ。あんな言い方をしたのにこうして向き合おうとしてくれる。俺にとって得難い友人だろう。

 それに対して、自分が如何に小さいか見せつけられた気がする。あんだけ考えたのに、それでも無理だと思ったから諦めたのに、方法が見つかったらどうしよう。それっは俺の考えが足らなかったんじゃないのかって。そんな風に心の何処かで怖がってた。みっともなくて情けない話だ。

 

 居心地悪いから謝る。それはダサいと思う。でも、ここまで寄り添われて意地を張り続ける方がカッコ悪いかな。

 

「……ごめん。これまでの態度について謝らせて欲しい。正直に言うよ、俺は今回の件で最悪、お前らと袂を分かったとしても仕方ないと思ってた。そうしてでも、意見を押し通すべきだって考えてたんだ。浅はかだった」

 

「……そうなんだ。でも、言葉を選ばないでとは言ったけど………流石に言わなくていい部分まで言ってるような……」

 

「ケジメだ。これに関しては俺が全面的に間違ってた」

 

「素直というか、正直と言うか…………」

 

 苦笑のような、呆れのような視線を感じる。

 

「とりあえず頭下げるのやめてよ。なんかさりげなくショックなこと言われた気がするけど、頭下げたり、下げさせたりしたい訳じゃないじゃん。僕は謝られるより、乃咲の考えが聞きたいんだよ。僕は……僕らは、何を見落としてるかな」

 

 その問いに思わず逡巡してしまうのは、染み付いてしまった癖だろう。咄嗟に何をどんな風に言えばいいのかって考えてしまう。いきなり思ったことを言うのはやっぱり難しい。

 

「お前らが見落としてること。それは責任の所在だ」

 

 できるだけ言葉を選ばず、半ばフィーリングで口を動かす。

 流石にこれだけでは伝わらないだろう。渚は怪訝そうに眉を顰めて俺に視線を向けたまま問いかけてくる。

 

「一応、僕が責任者ってことになってるけど……それとは違うの?」

 

「違う」

 

「即答するじゃん…………。じゃあ、何を……」

 

「お前のいう責任者ってのは、言ってしまえば言い出しっぺって奴だ。言い出しっぺだからみんなの音頭を取る……指揮官でしかない。俺の言いたいことは、監督者は誰になるのか、考えてるのかってとこ」

 

「監督者……全体を見る人ってこと?」

 

「そうだ。基本的に俺たちのこれまでの作戦で指揮を務めてきたのは発案者だ。でも、その作戦は誰の監督下で行われてきた?」

 

「………烏間先生」

 

「じゃあ、なんで烏間先生が監督者なんだ?別にビッチ先生でも、殺せんせーでもいいだろ」

 

「それは…………ぁ、僕らに暗殺を教えた人だから……?」

 

 渚は言いながら徐々に理解し始めたようだ。俺の問いに対して答えを持って返事をし始めた。だから、こっちも頷く。

 

「3年E組という枠組みの中にいるうちは、俺たちの作戦は全て烏間先生の監督下で行われることになる。暗殺というか、暗殺に使う技術を指導してくれた人だからと言うのもそうだが、そういう役割を国から任せられてる人だからだ。つまり、俺たちがあの人から教わった技術で何かをするってのは、常に烏間先生に責任を背負って貰ってるってことになる」

 

「もちろん、責任の在処を変えることはできる。一番現実的な例えで言えば、殺せんせーに脅された……とかな。烏間先生の機転で俺が殺せんせーを単独で殺しかけたのは、身体能力でのゴリ押しじゃなくて、戦術の賜物ってことになってるから、俺が脅されて動くことに疑問は持ち辛いだろう。そういう意味では適任だ」

 

「でも、それで良いのかって部分が俺がお前に聞きたい部分だ。もし、作戦が成功して殺せんせーを助けることができれば、俺たちには未来がある。地球が滅亡しないんだから当然だよな」

 

「けど、未来があるのは俺たちだけじゃない。死なずに済んだ殺せんせーにも未来はある。そんな時、俺たちを脅して宇宙まで行かせたって、たった一言がどれだけの業を殺せんせーに背負わせることになると思う?」

 

「助けたあと、殺せんせーがどうなるかはわからない。超生物のままなのか、人間に戻れるのか。でも、あの人は前提として1000人以上を殺めた殺し屋だ。政府に狙われ続けることに変わりはないかもしれないんだ。人間に戻れるなら尚更危ない。それでも殺せんせーに背負わせられるか?」

 

「烏間先生の場合は、ある意味でもっと悲惨だ。あの人は普通じゃないくらいのエリート街道を歩いてる。地球が存続すれば明るい未来があるだろう。それが、俺たちの殺せんせーを助けたいという作戦のために潰れるかもしれない」

 

「俺たちの身近で言うなら鷹岡だ。アイツだって普通に見ればエリート街道を歩いてた。でも、中学生に負けたから、中学生を御しきれなかったからという理由で転げ落ちた。あのクズの場合は自業自得だが、烏間先生の場合は何の非もないんだ。むしろ俺たちを守るために必死に動いてくれてる」

 

「冷静になって考えろ、自分の監督してた特殊部隊が無断でロケット打ち上げ現場に潜入、あまつさえ宇宙ステーションのハイジャックした。これだけで相当な字面だ。その上、万が一にでも作戦中に見つかった、あまつさえ途中で作戦が失敗したとかなったらどうなると思う?」

 

 問い掛けると、彼は顎に手を当てて考える。

 そして確かめるように答えた。

 

「烏間先生じゃ背負いきれなくなる……?」

 

「それも間違いじゃない。でも、それ以上にやばいのが、最悪の場合、ロケットの打ち上げ自体が中止になる可能性があるってこと。日本の企業だけで作り上げた有人宇宙往還機の打ち上げ実験、それも宇宙ステーションとドッキング前提の。一体、どれだけの人とどれだけの金が掛かってるのか……想像すら出来ない」

 

「………それが全部、水の泡になるかもしれない」

 

「そうだ。仮に烏間先生が監督役だったとしよう。こんな規模の責任を個人で取れる訳がない。実行犯である俺たちの処遇も見当がつかない。俺たちの存在自体が国家機密な以上、法で裁かれるかは分からない。いくら未成年と言っても、度合いによっては刑事責任を問われる以上は司法の場に出ることはなくとも、相応の制裁があるかもしれない」

 

「もしかして、家族に影響が出る可能性もあるのか……」

 

「あるだろうな。年金だとか、行政サービスを受けられなくなるとか、将来家を建てる時に金を借りられないとか。将来のことだって国の方針に従わなきゃいけない可能性もある。事件の重要参考人として一生飼い殺しとかな」

 

「………………」

 

「殺せんせーを助けたい気持ちはわかる。でも、殺せんせーを助けられたとしても、しなくても、地球が存続する可能性がある以上、俺たちには未来がある。殺せんせーを助けることができれば、彼にも未来がある。だからこそ、慎重に動かなきゃいけない。俺たちの行動で、俺たちだけじゃなく、家族や烏間先生の人生を壊してしまう可能性もあるんだからな」

 

「それが僕の見落としてたこと……。うん………。そう言われると確かに僕は、殺せんせーを助けることとか、乃咲とカルマくんたちをどう説得するとか、そんなことばっかり考えてたよ」

 

「それだって間違いじゃない。あの時の話し合いでの本題は殺せんせーを殺したいか、殺したくないかって部分だったんだから。それで……結論から言えば、俺としては作戦自体には異論はない。渚たちが考えたのに作戦以上のものや、代替案を持ってないからな。もしも実行するなら、この作戦以外にないだろう」

 

「作戦に異論はない。でも、今乃咲が話してくれたことを踏まえて、本当に実行するべきなのか。そう言うことだね?」

 

「そうなる。そして、そういう事情があるから、俺は実行するべきじゃないと思う。父さんは言ってくれた。難しいことに挑戦しなさい、責任は子供が背負うべきではない、大人が背負うべきだと。でも、だからって、それは俺たちが自分の行動で生じる責任から目を背けて良い理由にはならない」

 

 言葉を選ばない本音だからか、自分でも話してて言い方が刺々しいように思う。それこそ、前回の俺の家での話し合いに負けず劣らずの勢いだ。

 話しててヤバいかもと思う瞬間はあったが、それでも何とか言いたいことは話し切った。本音で話すのは怖いし、難しいな。

 

 でも、俺は問いかけた。

 

「渚。それでも作戦を実行したいか?」

 

「自分と仲間と親と先生の人生を壊すかもしれない。失敗した時点で殺せんせーから隔離されるかもしれない。殺せんせーの最期に立ち会うこともできず、最悪、殺せんせーを殺さず地球が滅亡するか、彼が自殺したという話を離れた場所で、味気ない紙切れ1枚で知ることになるかも知れない」

 

 渚は得難い友人だ。こいつだけじゃなくて、殺したくない派の奴らも、殺すべき派の奴らも。

 だからこそ、彼らにとってはありがた迷惑かもしれないけど、余計なお世話かも知れないけど。不幸になるかもしれない選択をして欲しくない。成功する可能性があったとしても、もしもの時のリスクが大きすぎる。

 

「俺たちが受けた任務は、殺せんせーの暗殺であって、救済じゃない。そんな俺たちがこの作戦を実行するのは……契約不履行。しかも依頼主は国で俺たちは国家機密だ。国家反逆と取られかねない。無論、考えすぎの可能性はあるけどね」

 

「殺せんせーを助けるのは俺たちの願いでしかない。側からみた、この作戦は言葉を選ばず言えば犯罪計画に他ならない」

 

「周りからみたら、そうなってしまう。なんて説明しようと、言葉を選ぼうと、俺たちは圧倒的に少数派だからだ」

 

 やらない理由でも、やれない理由でもない。強いて言うなら、やるべきでない理由。

 

 殺せんせーはどっちを選んでも俺たちを尊重してくれるだろう。だから、一旦、彼がどう思うのは置いておく。

 

「みんなが不幸にならない為に、殺せんせーを諦める。そういう風に取られても仕方ないのかもしれない。でも、違うんだ。そうじゃないんだ。だったら、当初の目的通り、暗殺をやり切ろう。みんなで、殺せんせーにこの一年で成長したことを見せよう。それが烏間先生の監督下で、殺せんせーの生徒として俺たちに背負える最大限の責任の果たし方だと思う。これが、俺の考えだ」

 

「渚、もう一度聞くぞ。それでも殺せんせーを助けたいか?」

 

 お互いの意見を確認するための質問。

 俺の問いかけに対し、彼は俯いて、たっぷりと考え込んだあと、ゆっくりと顔を上げた。

 

「僕は、それでも助けたい」

 

「………強いな、お前は」

 

 渚は、俺なんかよりもずっと強いみたいだ。

 




あとがき

はい、あとがきです。
実はまだハサウェイ見に行けてないんですよねぇ……。
悲しい……。freedomの時みたいに結局行かない落ちになりそう(泣)

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