加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!
「と、言うことなんです。良かったら付き合ってくれませんか、殺せんせー。タイムとかは自分じゃ測れないし、折角だからきっちり記録を取りたいんです」
『ヌルフフフフ、なるほど。自分がどこまで出来るかを知る為に、まずは今年の最初に比べて自分がどのくらい成長したのかを見てみると………。いいですねぇ、それには先生も興味があります。それでは体力測定なんてどうでしょう?』
「……体力測定、ですか」
『えぇ。長年教育機関で取り入れられてるだけあって、よく研究された効率の良い手法ですからねぇ。学生であればほぼ全員が同じ種目でテストしていますら、去年の自分のみならず、日本全国のレベルとの比較も可能。自分のチカラを知る、周りとの差を知ることが目的ならば、比較するのにうってつけです』
なるほど、体力測定測定か。そう言われてみると、確かに自分と周りの力を明確に数値化できるこれ以上ない方法だ。
俺はせいぜい、ゾーンに入らず、自分がぶっ倒れるまでどのくらいの距離と時間を走れるのか、今の自分は50mを何秒で走れるのかを測定。その後は周りより少し早く動ける程度の出力のゾーンを使用するとどのくらい記録が伸びるのかを測って、能力を検証しようと思っていたから、目から鱗な発想だった。
『と、なれば善は急げです!明日は通常の体育着を持って学校に集合ということで。それに折角ですから皆さんも………いえ。なんでもありません。とりあず、校庭を使えるようにしておくので、10時に集合ということにしましょう!』
「………分かりました。じゃあそれでお願いします」
『ガッテンです!』
殺せんせー、なんでみんなを呼ぶの止めたんだろう。
首を傾げながら電話が切れたスマホを眺めていると、2件、ほぼ同時にLINEが来た。送り主は……カルマと渚。あいつら仲良しか。いや、仲良しではあるんだろうけど。
2人のメッセージを見てみると、遊びの誘いだった。
まぁ、あの2人のことだし。単に会って遊んで冬休みの思い出作りしよう!とかじゃないだろう。
しかし、行きたいのは山々だが、もう殺せんせーと約束したばっかりだしな。後日埋め合わせか、折衷案として走りながらでよければ話聞くよ〜とか、そんなもんだろうか。
少し考えてから、2人に明日、通常の体育着持参で学校集合と伝えておいた。
殺せんせーがみんなを呼ぶのを止めた理由は少し考えれば直ぐに理解できた。俺の身体能力は未知数だ。予想より大したことないってことより、想像以上に化け物だったと自覚する可能性の方が高い。それこそ、人間じゃ出せない記録も出るだろう。
そんな記録を出した時、みんながどんな反応をするのか、その反応を見て俺が何を思うのか。その辺を慮ってくれたのだろう。それ自体はとてもありがたい。
けれど、俺が自分のチカラを知りたいのは、自分にエゴを通せる力があるのかを知り、最終的に何を選ぶのかを決めるためだ。殺すか、殺さないか。この2つの派閥の実質的なリーダーの2人には知っておいて貰った方がいいだろう。
殺せんせーや、本当にやばい時、ゾーンを使って瞬間移動じみた速度で動く俺を見てるから大して驚かない可能性もあるし、ある種の覚醒後の俺の身体能力を改めて記録として見ると、化け物具合が可視化されて怖がられる可能性もある。
みんなにどんな反応をされるのか、それを2人で予め知っておくというのは、俺の精神衛生上でも良いことだ。
そこまで考えて、やっぱり2人に来てもらうことにし、殺せんせーへと渚とカルマが来ることを伝えた。
殺せんせーからは、短く了解です!のスタンプが送られて来たが、普段の返信速度と比べると少しのタイムラグがあったことから、2人が来ること、俺がそれを容認したことで色々と察してくれたのが分かった。
殺せんせーにも気苦労を掛けるなぁ……。
俺も覚悟を決めるために深呼吸した。
自分を知る。自分の力を知る。そう決めたのは良い。でも、俺は俺なりに常識の中で生きようと頑張ったつもりだった。
以前、烏間先生とビッチ先生の誕生日プレゼントを買いに行った時、思ったんだ。俺たちは……俺は、普通に生きられないんじゃないかって。普通に生きるというのは、表社会で常識の中で生きるということ。詳細を知らないだけで、俺は自分のスペックが他人に比べたら圧倒的に高いことを知ってる。身体能力とか顕著だ。そんは自分のチカラを活かせるのは、裏社会。それも、それこそ殺し屋として生きるくらいしか考え付かなかった。
でも、殺し屋とかそんな裏稼業になりたいとは思ってない。だから、ヒナが言ってくれた何でも屋って選択肢を割と現実的に視野に入れている。なんでもできるなら、なんでもやってみたら良いんだと。そうするうちに、自分のできないことを理解するタイミングも訪れるだろうと。
自分の力や、それによって齎される結果に責任を持つことは大切だ。それは最低限、誰もが背負うべき責任だ。
そういう意味で、今の俺は責任を果たそうとする者を強者として見ておきながら、それができていない半端者だろう。
けれど、自分の中の甘えた部分が言うんだ。
常識の中で生きようとすることの何が悪いんだ?普通でありたいと思うことはそんなに悪いことか?無責任なことか?と。
ゾーンを使った時の俺は超人だ。身体能力は殺せんせーを超えるし、そんな力に耐えられるだけの耐久力が身体に現れるし、なぜか摩擦で服が燃えたり、物体は光速に近づくとプラズマ化するというのに、そう言った現状は全く現れない。
でも、それはゾーンという切り札を使っているからだ。それを使わなければ、自分は母さんから貰った普通より強靭な身体とこの一年で磨いた様々な技術を持っただけの男子中学生なんだと思うことの何が悪いんだ?と。
俺は強化人間を自称してる。というか、父さんからもその認識で間違いないとお墨付きを貰ってる。
初めて聞いた時、確かにショックだったさ。でも、嘆いても仕方ないだろ?生まれた時から普通じゃないんだから、普通になれる訳ないだろう?なら、少しでもポジティブに考えよう。何せ、母さんがくれた大事な身体なんだから。
そう思ったから、悲観しなかった。嘆いても解決しないし、空気が重くなるだけだと理解していたから、自分の好きな物に当てはめた。ガンダムに出てくるあのキャラと同じじゃん!アーマード・コアのキャラと同じじゃん!やべー!SFの世界じゃん!俺すごいだろ!ドヤァ!そう思うようにした。
みんなに話す時、ドヤ顔をした。口調は重たいものになってしまったけど、表情はなんとか作っていた。そうでもしないと話せなかった。みんなが受け入れてくれるかを信じる信じない以前の問題だ。自分が普通じゃないと言う告白が怖くないわけがない。本気を出せば殺せんせーより早い?どんな化け物だ?それは。俺がまともだったら、そんな奴が近くにいたら怖いと思う。
特定の物質でしか殺すことのできない、地球を破壊するマッハ20で動き回る超生物という時点で常識的に考えれば怖いんだ。そんな生き物を身体能力で上回って殺せる人間なんて存在、怖くないわけがない。普通は怖い。
そして、俺は自分がそんな化け物だと実感しなければならない。俺にとってのできる、できないの基準は一般常識の範囲。つまりは普通に考えた場合、ほぼ全員が一致する、共通のレベル。
俺の基準を高くすると言うのは、自分がその普通からどれだけ乖離してるのかを認識するということだ。
俺だって自分が可愛いさ。自分に甘いのも分かってるさ。自分がどれだけ常識はずれだ化け物なのか。本心で言えば知りたくない。ゾーンを使わなければ、ゾーンさえ使わなければ、自分は普通でいられるのだと言う考えを、あまりにか細かった蜘蛛の糸を自分で切らなければならないのが恐ろしい。
暗殺なんてことに関わった時点で普通じゃないとか、そんな話じゃない。人間として、生き物として普通じゃないってレベルの話だ。他に類を見ない化け物だと自覚しなきゃならないんだ。
「…………………怖いなぁ」
ポツリと思わず呟いた。
前に漫画で読んだことがある。たしか、ドラクエだったかな。完全公式という訳ではないが、ドラクエ2、ラスボスの破壊神シドーを倒した主人公の1人は、故郷に戻り、王位を継いだものの、破壊神を膂力だけで破壊した男として恐れられ、迫害されたというやるせなくて虚しい話しだ。
世界を救った勇者様と自分を同列に語れるほど厚顔無恥ではないけど、例え、殺せんせーを殺そうが、助けようが、自分がそんな道を歩くのだと思うと、やっぱり怖い。
なんなら、今ですら俺には監視がついてる。世界最強の傭兵部隊と呼ばれる群狼が既に見張りについているのだ。
俺は、今の時点で普通じゃないレベルで警戒されてる。それこそ、"普通"の人生なんて諦めなければならない程に。
分かってる。自分が化け物なのは。俺がより深く自覚したからといって今更、周りの対応が変わる訳ではない。
でも、自分の気持ちの持ちようは変わってしまう。まだ後戻りできると思っているのと、思えないのでは余裕が違うだろう。
今の俺に腹を括れと言える奴がいるのなら、是非とも立場を変わってほしいものだ。自分にとっての目標、強者像を投げ捨てることになったとしても、同じ怖さを味あわせてやりたい。
「でも……………」
でも、怖がってるだけでもいられない。
いずれは知らなければならないことだった。後戻り出来なくなってから、もう戻れないと思うよりはマシだ。
ヒナは、今の状態ですら俺を受け入れてくれている。案外、周りからみたら大したことではないのかもしれない。
よし、頑張ろう!って一言で気合いを入れられる訳ではないけど、それでも今はやるしかないんだ。
自分のチカラを知らぬまま、何かの拍子に無軌道に振るって、誰かを傷付けるような本当の化け物にならない為に。
「……なんで渚くんがいんの」
「…………そっちこそ」
「乃咲クンと遊ぼうと思ったからだけど?」
「僕だってそうだよ。ついでに色んな話をしたいだけ」
「色んな話ってなに」
「カルマくんに言っても小馬鹿にされるじゃん」
「はぁ?なんなのその決めつけ」
「決めつけて来たのはそっちもじゃん」
「はぁ?」
「……なに?」
うーむ。一触即発。
ある意味では仲のいい証拠か。どれ、ここはお兄さん(現14歳、誕生日3月12日)が一肌脱ぐとしますか。
「やめてっ!私の為に争わないでー!」
「「そっちが
「ぴぇぇぇぇぇ……。お兄さんたち怖いヨォ……」
「ニュゥゥゥ………。しばらく見ない間に生徒たちがこんなにも険悪に……?」
「あんたを殺すか、助けるかで揉めてます」
「なるほど………先生のために争わないでー!」
「「先生は黙ってて!!」」
「ぴぇぇぇぇ……」
「……俺たちはなんて無力なんだろう。地球を滅ぼしたり、地球を滅ぼす超生物を殺せても、目の前の争い一つ、終息させることすらできないだなんて………」
「それこそこの世の諸行無常ですよねぇ……。チカラは所詮チカラです。いくら強大なチカラであっても、使い方次第ですから。さて、それでは今日の本題、体力測定といきましょう!」
「「この流れで体力測定!!?」」
「お前らやっぱり仲良しだろ…………」
息ぴったりな2人に思わずツッコミを入れた。
しかし、コントのような掛け合いをした甲斐あってか、2人とも冷静さを取り戻したようで、カルマが冷静に聞いて来た。
「それで?なんで体力測定?」
「んまぁ、ざっくり言うと俺の素の身体能力を測るためだな」
「素っていうと、ゾーンを使わないってこと?」
「その認識でいい。俺にとっての身体能力の基準は体力測定で測った時の記録や、訓練で測ったタイムがベースだった。でも、俺の身体能力が爆発的に上がった頃からフリーランニングを取り入れたことで、直線距離の測定の機会はほとんど無くなって、持ってる記録と言えば障害物競走の物ばかりになったじゃん」
「………確かに。なるほど、だから初心に帰るわけね」
「そういこと。障害物競走のタイムだって手を抜いてたわけじゃないけど、"自分はこの程度"みたいな認識で無意識にリミッターを掛けてた可能性は否定できない。だから、そもそも今の自分がどこまで出来るのかを把握するのが目的だ。自分が常識がどの程度、外れてるのかってな」
「…………常識」
渚は少し思い詰めたように口を開いた。
「律から聞いたよ。乃咲に色々言ってしまったって。乃咲の価値観は暗殺が始まった頃から殆ど変わってないって。批判してしまったって。もしかして、今回の測定はそれがきっかけ……?」
「否定はしない。でも、必要なことだってのは俺も感じてる」
俺らの言葉を聞いて、カルマが頭を掻きむしった。
「……っとに、なんでこんな無神経な奴が多いのかなぁ」
「カルマ?」
「だってそうじゃん。この前、渚くんに似たようなこと言った手前、あんまり強く言えないけど。やれるんだからやれよって、そう言うことじゃん。なんとなく、ざっくりと大体の会話の流れは察しがついたよ。渚くんが乃咲クンになんか言って、乃咲クンはそれに対して常識的なことを言った。それを聞いてた律が、乃咲クンに自分のできるようになったことと価値観とか常識が追いついてないとか言ったんじゃないの?」
「……合ってるな」
「それ自体は悪いとは言わないよ。でもさ、自覚しててそうしないのと、自覚してないからそうしないとじゃ意味が違うじゃん。その会話って、『お前は常識外れた化け物の癖に、なに常識の範疇で考えてんの?化け物だって自覚しろよ』って、そう言ってるようにしか聞こえないんだけど」
「っ」
「僕らはそんなつもりじゃ……」
「だから質が悪いんじゃん。実際に渚くんが何言ったのかは分からないよ?こんなことになったきっかけでしかないのかもしれないけど、事実として、乃咲クンが動いてる。自分がどの程度、常識から外れてるのか知らなきゃいけないって、口にも出してた。体力測定って言えば聞こえはいいけど、自分が普通じゃないってのを自覚する為の儀式みたいに見えるよ、俺には」
「………」
「お前の化け物呼ばわりもメンタル削ってるけどな……」
「あ、それはごめん」
「まぁ、悪気ないのは分かってるから気にしてないけど」
「………んで、どうなの渚くん。この超絶不器用な死神ファザコンがこんなことをしてるってことは、少なからず自分の考えを変えようとしてるってことだし、その変えようとしてる考えってのが行き着く先は、最近の話題的には殺せんせーを助けるって物だと思うけど。お前、友達に『お前は普通じゃない、化け物なんだぞ』って突きつけてまでやりたいわけ?」
「カルマ、気持ちは嬉しいけど、そこに関しては渚も律も悪くない。俺がやりたくてやってるんだ」
「乃咲クンがやりたくてやってることなら、きっかけを作った奴は責任を感じなくていいワケ?違うでしょ、結果はどうあれ、焚き付けたんなら責任持てよって話し。そんなつもりはないのは知ってるよ、俺だって渚くんだけを悪いなんて言ってるつもりないもん。でも、お互いにそうなったじゃん」
カルマの言葉は止まらなかった。
「俺らだって殺せんせーに死んで欲しいわけないじゃん。でも、こんな空気にしない為にずっと頑張ってこれまでの教室の雰囲気を作って来たんじゃん。なら、それ乗っかって最後までやるのが俺たちの先生への恩返しじゃないの?俺らだって殺せんせーを助けるのが難しいからって理由だけで殺すのを選んだわけじゃねぇんだけど。こんな風に仲間に常識から外れろって、普通じゃないってことを内心一番気にしてた奴に正論並べて残酷な現実突きつけて、それでも殺せんせーを助けたいの?」
「殺せんせーを助けたい気持ちは分かるよ。でもさ、なんでこの前、乃咲クンが単騎で殺せんせーを殺しに行ったと思ってんの?本気で殺す準備をして、本気で殺す覚悟を決めて、みんなに見られながらトドメ刺そうとしたのか考えてんの?」
「俺らにこんな風に悩んで欲しくなかったからじゃん。俺が一番殺せる可能性が高いからってそれだけの理由で、それが自分の背負うべき責任だって言って!あんなにメンタルやられながら殺そうとしたんだろ!!?」
「そこが一番気に食わないんだよ。殺せんせーをあのまま殺してたら、みんなと溝が出来たかもしれない。それを承知で殺そうとした。それだけ覚悟を決めて殺そうとした奴に、なんで自分の才能を自覚してる癖に、この教室で2番目に殺せる可能性がある癖に、殺そうとしない奴がそんなこと言えんの?」
「俺だって渚くんと同じこと言ってるよ、才能あるんだから殺せって。けど、そっちだって自覚持つべきでしょ。自分を棚上げして、乃咲クンに同じこと言ってんだから」
「毎回そうだよ、シロの正体を察してた〜とか、茅野ちゃんの正体もそうだし、殺せんせーのことも割と初めから知ったりとか。毎回毎回、誰よりも先に考えて、知ろうとして動いて、結果として俺らの知らない情報、まだ知らせちゃいけないこと、言わないって頼まれたこと。そんな情報ばっかり集まって、話せるタイミングになったら『なんでもっと早く言わないんだよ』って空気になる」
「今回だって、どうせそうなるんじゃないの?あの空気になる度に、乃咲クンがどんな顔してんのかちゃんと見てる?」
「知らないとか、分からないじゃなくてちゃんと自分で考えて確認したから、いろんな情報を持ってるだけなのに。話さないんじゃなくて、話せないことばっかりだったのに、うっすら責めるような空気になる」
「強化人間云々の話もそう、こいつがなりたくてなったわけじゃないじゃん。ズルイと言われても、思われても、乃咲クンに何が出来るのさ?何が悪いのさ?」
「倉橋さんに慰められながらしんどかったって溢してさ。この一年、渚くんから見た彼はどんな超人だったわけ?メンタルまで鉄壁にで見えてたの?」
「お父さんとのすれ違いで悩んで、年相応にゲームとかが好きで、カッコいい人に憧れて、怖い目にあったら相応に怖がって、トラックに引き摺られたら怖くてチビって」
おい、そんなことまで覚えんでよろしい。
「普通のクラスメイトじゃん。そんな奴が俺らの為に覚悟決めて、恩人を殺そうとしたんだよ?何も知らない奴らの為に、家族や友人の為に、みんなが来年も生きられるように、殺せんせーに地球ごとみんなを殺させない為にって」
「ならさ、それを一緒に背負うのが友達なんじゃないの?確かに周りに相談なしに勝手に背負ったって解釈もあるだろうけどさ。そんなつもりないのかもしれないよ?でも、殺せんせーを助けたい、だから力を貸してよ乃咲〜って。頼りっぱでいいわけ?渚くん、それで満足なの?」
カルマがかつてないほどに言葉を並べた。
息を切らし、冷静を欠き……俺の為に怒ってくれた。
「それでいいなんて思ってないよっ!!!だから僕らだってちゃんと考えてるんだって!乃咲1人で考えてもムリだって、考え付かなかったことだって、みんなで考えれば一つくらい策が出るんだって!それを分かってもらう為に、みんなで考えたんだ!!カルマくんの言うとおり、乃咲にはフィジカル面で頼りっぱなしだよ、僕らじゃもう、手も足も出ないくらいに乃咲は強いよ、でもっっ!だからこそっ!!僕らが本気でぶつかれるのは言葉しかないじゃないか!!」
「それが甘えだって言ってんだよっ!!本気でぶつかれない?ぶつかってないだけじゃん!俺だってもう乃咲クンに勝てないことくらい分かってるっ!でも、だからって諦めんの!?暗殺は乃咲クン1人で片付けられるかもしれない。だからこそ、俺らを頼る選択を見せる為に、みんなで乃咲クンがそうしたみたいに同じ覚悟をしなきゃいけないんじゃないの!?また1人で背負わないようにさ!!宇宙に行っても殺せんせーを助けられることが確定するわけじゃない、確定しなきゃどうするのか、きっとコイツは方法を探すよ。俺らに黙ってまた考えて、また悩んで、糸口を掴んだあたりでまた邪魔が入る。そんでいつのも『なんで言わないんだよ』って空気になるだけじゃん!」
「だからっ!そうならないために————」
「頼って貰おうって?違うだろ、そんなんで頼れるわけないじゃん。それで頼ってくれるなら、あの日、乃咲クンは1人で暗殺なんて仕掛けなかった。なんで彼が頼ってくれなかったのか、本当に理解してんの!?」
「それはっ、僕らが力不足だったから——」
「そうじゃねぇんだっての!!あの時の俺らは殺せんせーを殺すって漠然としか考えてなかった。だから、今になってみんな必死こいて考えてんだろ!?それを乃咲クンはあの時点でとっくに考えてたんだよッ!自分と同じだけの覚悟が無い奴に、本気で頼れるわけないじゃん!!!いい加減に分かれよッッッッ!!」
「っっ…………!」
カルマが声を荒げた。
ヒートアップしていった2人だったが、その咆哮に似た怒声で一旦、この場が静まり返る。
「…………あの時、俺らと乃咲クンは立ってる土俵つーか、ステージが違ったんだわ。今もそう。乃咲クンのこと、散々化け物って表現したけど、だからこそ、俺らはある意味でコイツ以上の覚悟がなきゃダメじゃん。彼の普通じゃない力を借りたいんなら、俺らは借りる以上の覚悟しなきゃフェアじゃ無いよ」
「カルマくん………」
「だから、俺は殺せんせーを殺したい。友達と同じ覚悟を背負って、一緒に背負って、頼りたいし、頼られたい。気が付いたら俺ら以上の情報を持ってるって状態の乃咲クンが攻められてるみたいな空気が嫌いだから。俺らも彼と同じだけ考えるべきなんだよ。一度は同じだけの覚悟を背負うべきなんだよ」
カルマの言葉が止まった。
意外、と思うのは失礼かもしれない。でも、正直に言えば意外に感じたし、まさかカルマがここまで考えて、持ってくれてるとは思っていなかった。
思えば、カルマは確かに悠馬と同等レベルで俺のフォローをしてくれてる。コイツは俺の動きや思考に肯定的だった。
「渚くん、今まで俺が殺したい理由を部分的にしか話してなかったから、この際だし洗いざらい話したけど……。いま、乃咲クンが殺せんせーを殺そうとした時と同じくらいの覚悟持ってる?その上で、この前のお泊まり会から今日まで話してるの?」
「っ…………」
「渚くんの気持ちは理解するけど、このままじゃ納得できないよ。俺はこのまま殺す方向で固まるなら、今後の作戦指揮は全部俺が執るし、乃咲クンを主戦力にした作戦はしない。例え、それで期限が迫って来ても、みんなで殺す方法を考えるよ。ぶっちゃけ、雪が多いこの時期が一番チャンスなんだから、今後を考えるなら、早くみんなの意思統一をしなきゃだし。証明してよ、乃咲クン以上の覚悟があるところ」
容赦のない言葉が渚に突き刺さる。
気が付けば言葉を挟む余裕がなかった。
けど、一つ言えることがあるとすれば、なんとなく救われた気がした。冬休み開始の少し前から始まった今回の論争。俺はどちらかと言えば、殺さない派と中立寄りな意見の奴とばかり話していた。渚や律の言うことも理解したし、納得もした。
でも、なんとなく俺の言ってることを分かってくれてる様な気はしなかった。理屈を分かってくれても、なんでそう言ってるのか、なんで殺そうとしてるのかという心情まで理解されてるとは思えなかった。
渚は意見が反対だった俺たちをそれでも必要だと言ってくれたし、それはそれで嬉しかった。でも、俺の意見に頷き、理屈やそれを選んだ心情と信条まで慮ってくれたこと、カルマが俺の為に怒ってくれたことも嬉しかった。
今の俺は優柔不断なんだろう。それを断つ為に自分の力を理解しようとしてるって話なわけだし。
でも、俺がこれまで言わなかったこと、言えなかったことを代わりに言ってもらえてなんとなく、胸が軽くなった。
俺の身体能力はきっと、俺が思う以上に化け物染みてるだろうけど、それでも、少なくともヒナとカルマは俺から離れていったりしないだろうと、そう思うことができた。
「では、こうしましょう」
そこに俺と同じく静観していた人の声が響く。
ポンと、手を叩いたのは殺せんせーだった。
「今回の体力測定、2人の記録は取りません。代わりに、可能な限り乃咲くんに追従なさい」
「どういうこと?」
「50メートル走であれば、乃咲くんと同等の速度で、シャトルランであれば乃咲くんが脱落するまで。ハンドボール投げは彼と同じだけの飛距離を。それだけのことです」
「……それだけのことって、殺せんせー、ただでさえ、今の俺の身体能力は未知数だ。なのに、2人が着いて来れるわけ……」
「乃咲くん、キミの問題はそこです」
「………問題?」
「キミは、前提として全力を出した時に周りが着いて来れないことを理解している。思いっきり動く時、周りに影響が出ない様に配慮と気遣いはするけれど、周りを頼ろうとしない。それこそ理解と納得ができますが、それは彼らを信頼していないのと同じです」
「いや、信じてないわけじゃないし、それは変なことじゃないだろ。実際、誰も着いて来れないわけだし……」
「着いて来れないと、着いて来ないは別です。キミは、そこを"見る"ことができていない」
殺せんせーは俺たちを見た。
「カルマくんは乃咲くんと同じ覚悟を背負いたい」
「渚くんは、自分の覚悟が負けてないことを証明したい」
「乃咲くんは、誰も自分に追従できないと思っている」
俺たちは忘れていた。
「ヌルフフフフ、さぁ、この3人で世界記録に挑みましょう」
殺せんせーは体育に関して一番容赦がない人だったことを。
あとがき
はい、あとがきです。
今回は難産でした……。なにせ、一回9000文字まで書いたのに、納得できずに消して書き直してしまいましたから。ともあれ、投稿に間に合ってよかった(笑)
今回はこれまであんまり触れて来なかったカルマの心境に触れてみました。これまで圭一周りで空気がおかしくなるとフォローを入れることが多かったカルマは内心でこんなことを考えていました。あかりのお見舞い帰りにカルマが圭一と話して殺す派表明したのも、彼が圭一のこれまでをこんな風に感じていたからこその行動でした。
さて、次回、体力測定が大荒れします。
今回もご愛読ありがとうございます!