暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますので、お付き合いください……!


199話 ラスボスの時間

 

 超体育着に着替え、校庭に出る。

 一通り刀以外の装備を身につけて久しぶりの戦闘態勢。こうしてフル装備なのは前回の俺による単独暗殺以来か。

 

 俺が暗殺を抜けるための条件として出された課題。それは確かに乃咲圭一にとってこの教室での暗殺という舞台から降りるのに最も相応しいものだった。

 暗殺が始まったのは、殺せんせーがこの教室に来てからだ。でも、俺にとってのこの一年の始まりは、彼に憧れた瞬間だ。

 

 件の人物は既にいた。

 見覚えのある装備だけど、見覚えのない姿。

 

 そこには、俺と同型の超体育着を着た烏間先生がいた。

 

「来たか」

 

「お待たせしました」

 

 なんて言うか、着慣れてる俺よりも様になってる。

 先生とお揃いだと嬉しい反面、少し悔しくて口が動く。

 

「俺の以外にもあったんですね、そのタイプ」

 

「キミの以外にもあった、というより作ったと言うのが正しい。多少、嘘がない範囲に留めてはいるが、あの単独での暗殺は報告として上がっている。あの時に使っていた装備、戦法が技術屋連中の目に止まってな。キミの能力ありきとは言え、単独で殺し掛けた実績も評価され、もともと他の子達に配ったものとのコンペだったこともあり、正式採用は見送られるこになったが、少数生産されることになった」

 

「………なんか、俺のデータがそういう展開を作るなんて。少し現実味が薄いですね」

 

 俺の好きなSFにもそう言う展開はよくある。

 ガンダムなんかそう言う展開のオンパレードだ。実験機が実績を出したので量産されるとか、一定以上の技量が必要だが、技量さえあれば尋常ではない戦果を出せる装備やカスタムが評価されてエース向けに少数生産されるとか。

 

 だけど、面映い反面、複雑だ。

 

 もともと、俺たちの超体育着は烏間先生が俺たちのために手配してくれたとは言え、その背景にあるのは対人戦を想定した最新の軍事技術。つまり、人を殺すための運用もされるだろう。

 

「キミの使っていた装備も参考にされ、各所にマウントされている。対先生粉末や溶解液は、火薬だったりスタンガンなどの対人用の物に取り替えられているがな」

 

 俺が考え、準備し、そして用いた装備が洗練されていた。人を殺す為の装備として、何かを壊す為の道具として。

 それは、多少なりともショックだった。こうして現物が目の前にある以上、生産されたのは本当だし、その気になれば量産も出来るだろう。いつか、どこかで、俺が知らないうちに、俺の装備が人を殺すかもしれない。

 

 そんな現実を、考えていなかったことを叩きつけられた。

 

「……使い方次第だ」

 

 烏間先生が言葉を投げた。

 

「キミの今の顔を見れば、おおよそ何を考えたのは理解できる。この装備が現場に配られたら、もしかすると人殺しに使われるかもしれない。そう思ったのだろう?」

 

「……はい」

 

「否定はしない。俺とて、まだ人を殺したことはない。いつか、そんな日が来るかもしれない。だから、そんなことはないとは言わないし、言ってはいけないだろう」

 

「……………」

 

「しかし、使い方次第だ。料理を作る包丁だって元を正せば刃物であり、刃物とは何かを壊すために作られた、石器にルーツを持っている。しかし、そんな石器も生活を豊かにする道具として使われ、刃物も同じく使われている。戦闘用の装備だから、どうしてもそう言う方向に考えてしまうだろうが……この装備で救われる、助けられる命もある。俺がそうして見せる」

 

 先生がそう言いながら俺を見た。

 ゆっくりと、俺の胸を指さす。

 

「そのチカラも同じだ。キミは、その能力でこの一年を通して様々な結果を出して来た。超生物の暗殺やシロの計画の妨害、皆を守るための死神との戦闘、学園祭の時のように超スピードを活かして飛び回ったり、堀部くん、茅野さんを助ける為に使って来た。周りから危険視される力であっても、使い方次第だと乃咲くん自身、そして高い能力を持っているターゲットが何度も何度も体現してきたはずだ」

 

 烏間先生の言葉が刺さる。

 今、俺には監視が付いている。流石に家にいる時、この山にいる時はないだろうが、街中を歩いている時などは群狼という世界最強の傭兵部隊が見ていると、他でもない烏間先生が教えてくれた。わざわざ計画までしてくれたんだから。

 もしかすると、そいつらだけでなく、2代目や柳沢も見ているかも知れない。それは何故か。俺の力が危険視されているからだ。どいつもこいつも超生物すら殺せるチカラを自分達に向けられたらどうしよう、と不安なんだ。

 

「キミには、そのチカラをコントロールして貰わねばならない。強すぎるチカラは不安を呼ぶ、しかし、使い方次第で周りを助けることもできる。俺はそう信じている」

 

 烏間先生からの信じていると言う言葉。

 それは、彼の信念としてなのか、俺に向けられた言葉なのか。きっとどちらも含んだ言葉なのだろう。

 

「俺には一つ、腑に落ちないことがある。キミが死神に負けたことだ。奴は確かに強かった。技や手数の豊富さで言えば、間違いなく俺以上だったと言える。しかし、速さや膂力では圧倒的にキミが勝る。それなのに、何故?」

 

「………俺がチカラ加減をできなかったからです。それに、場数も比較にならないし、技術や手数で言えば、俺は弱かった」

 

「事実、そうなんだろう。その後、キミがゾーンに頼らなくても勝てるようになれば良いと考えて、ますます対人訓練を頑張るようになった。そこは評価しているし、大変好ましい考え方だ。しかし、根本的に、それでは自分が使えるチカラを封印して戦っているのと同義だ。それは勿体無いし、不測の事態に対して潜在的な不安要素を抱えているに等しい」

 

 耳が痛い話だ。否定の言葉が見つからない。

 

「危険な出来事は今後もあるかも知れない。この学校に在学してる間か、卒業した後か。その時、俺たちが守ってやれる保証はない。そして、チカラがあるキミはきっと、周りを助けようとするだろう。その時、加減が出来ないからとチカラを抜き、誰かを守れなかったという場面に直面する可能性は……ゼロじゃない」

 

「………死神の時がそうでしたから」

 

 分かってはいる。分かってはいるんだ。

 あの時も、俺の力はどの程度まで人間にぶつけても平気なのかを理解していれば、負けることはなかった。技術的に差があったとしても、それを埋めて余りあるだけの身体能力が俺にはある。それでも負けてしまったのは、単に俺が弱かっただけでなく、加減を知らず、チカラを必要以上にセーブしていたからだ。

 舐めプして負けた。そう言われても文句は言えないことをしているのだと、今は思う。あの時、2代目に俺たちへの殺意があったのなら、俺の敗北が原因で全滅していた。

 

「よって、俺からの卒業課題は……本気でゾーンを使って殺す気で、それでいて殺さないように勝つことだ」

 

「それは………」

 

 良いのだろうか?

 チカラ加減を誤れば、烏間先生は死ぬ。死ななくても、後遺症が残るレベルの怪我をさせるかも知れない。

 

「………怪我をさせるかもしれない……か」

 

 そこで自分の思考の変化に気付いた。

 これまで、怪我をしないように受け身の練習をしてきた。怪我をしないように、ある程度の加減をされてきた。

 それが、今は逆転してしまっている。いや、自分の中で勝手に逆転させていたのかも知れない。

 

 思いもしなかった。烏間先生相手に怪我をさせる心配をすることになるだなんて。俺は、いつの間にか彼を下に見ていたのか?あれだけ尊敬していたのに、まだ尊敬しているのに?

 

 ……いや、違うな。

 信じているのと、心配しないのは同じではない。

 そして、俺は学んだばかりじゃないか。相手を信じて走り抜くことが相手からの信頼に応える方法なんだと。

 

「……わかりました。全力で行きます……!」

 

「あぁ……。それでいい……!」

 

 頬を叩いて気合いを入れ、頷く。

 互いにハードと顔を保護するためのバイザーをつける。

 烏間先生からペイント弾入りのマガジンを受け取って、俺たちは校庭の真ん中で少しだけ距離を取って向かい合う。

 

 僅かな沈黙の後、どちらともなく動き出した。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 最初の一撃。きっとこれが重要だと、直感で理解した。

 俺が烏間先生にどう向き合うのか。彼の心構えに応えられるのか。俺が、烏間先生の弟子に相応しいかどうか。

 

 怖い。不良をやってた頃に散々人を殴って来た。

 顔を殴り、肩を殴り、腹を殴り、時には蹴り飛ばし、喧嘩を吹っ掛けてきた奴らを叩きのめし、俺よりも弱い癖にイキって殴り掛かってくる奴らを嗤った。

 この辺一体の不良は一通りノシた。そんなことを当時の俺は知らなかったが、後から俺に喧嘩を売る奴がいなくなった理由が、それなのだと聞くことになって驚いた。

 

 最初はただカルマの真似をしただけだったが、数をこなすごとに、相手をワンパンで気絶させられるようになった。何処を殴れば良いのか、どんな風に殴れば良いのか、それを理解した。

 今になって思えば、どんな技術を喧嘩で身につけてるんだ?とツッコミを禁じ得ない。なんと言うか普通じゃない。もしかすると、当時から強化人間パワーの片鱗は出ていたのかも。

 

「……………」

 

 だけど、今は状況が違う。

 あの頃と同じように全力で殴れば、烏間先生は爆散するだろう。ゾーンに入り、殺せんせーすら圧倒するスピードで繰り出される拳はソニックブームを伴い、地面を抉り、山を削るかも知れない。それだけの力が今はある。

 

 ふと、思う。俺はどの程度強いんだろうか?と。

 

 殺せんせーより速いからマッハ20以上は確定で出せる。

 身体も、ゾーンに入ってる間は耐久力が上がってるとしか思えない。そうでなければ、摩擦熱に耐えられない。

 加えて、そのスピードからして俺にまともに攻撃を当てられる奴はそうそういないだろう。常識的に考えて。

 

 そんな情報を落とし込める漫画やゲームを引っ張ると、俺の強さを評価する上である種的確なのは聖闘士星矢だろうか。

 あの作品では、パンチの速さが音速で表現されている。確か、青銅聖闘士のパンチがマッハ1程度、白銀聖闘士がマッハ2とかマッハ5、黄金聖闘士が光速でマッハに直すと88万だったか。

 

 インフレ凄まじいと言いたいところだが、そうやって考えると、俺は白銀聖闘士以上、黄金聖闘士未満ってところか。

 オリキャラを出すならちょうど良い塩梅な性能だと思うが、生憎と、俺がいるのはそんな強キャラ溢れる魔境ではない。

 

 そう、魔境ではない。烏間先生や死神など普通の物差しで測ったら規格をはみ出しているような人もいるけれど、それでも、今の例えで言うなら青銅聖闘士未満だ。俺と普通の人間の間にはそれだけの差がある。

 こうして例えると、自分がどれだけ危険な存在なのか理解できる。俺は、間違いなく一般人に混ざっていて良い生き物ではない。まして、この力で人を全力で殴るなどあってはならない。

 

 けど、俺が程度を知らないことには、意図せずにそんなあってはならない状況を作り出してしまうかも知れない。

 烏間先生は、そんな日が来ないように、身をもって俺に教えようとしている。チカラの使い方、加減を。

 

 その心に、気持ちに応えるには、全力を尽くせ。

 

 正面から振り抜かれる拳を避ける。ゾーンに入って紙一重で、頬を掠めるんじゃないかという程にギリギリで。

 烏間先生も本気だ。初手から顔を狙ってきた。避け損ねたら顔面が変形するだろう威力と打ち出される砲弾のようなスピードで、容赦なく、俺を叩き伏せようとしている。

 

 これも信頼の現れなのだと理解する。

 俺なら躱せると信じているから、あるいは、まともに喰らうことはないだろうと理解してくれているから。

 

 彼の肘は伸び切っていない。すぐ様、2撃目を繰り出せるように計算されているのだろう。

 だけど、2撃目が来るより、こちらの拳を叩きつける方が速い。スピードに優れる俺なら後の先を取り放題だ。

 

「ッッ!!」

 

 狙うのは肩。

 今回の勝利条件は、相手を倒すこと。

 倒すの定義は定められていない。ペイント弾を渡されたことだし、これを急所に当てればキル判定は貰えるだろう。

 だか、これを決め手にするつもりはなかった。それが俺に出来る烏間先生からの信頼に応える方法だから。

 

 ゾーンに入ったまま拳を振り抜く。

 モノクロに変わる景色と何もかもが止まって見える中で、緩い粘液のような空気を切り裂きながら猛烈なスピードで突き進む俺の拳。それが当たる寸前にゾーンを抜ける。

 

「ァッッ!!ぐぅぅぅ………!!?」

 

 拳が当たる。俺の一撃が文字通り烏間先生の肩を砕いた。

 これまでの喧嘩で人を殴った時に感じたどの感触とも違った。バチンとか、バコッとか、メキョッとか、グキッという感触ではない。バサリ。まるで砂の城でも殴り付けたかのような感触だった。手応えがないわけではない。でも、明らかに人体を殴った感触ではない。肉を殴る感覚ではない。

 

 烏間先生が吹っ飛んだ。

 

 その異様な感覚に集中が途切れる。

 

 乾いた校庭の土が砂埃を上げる。

 

 そんな中で何が視界を過ったかと思うと、砂埃が晴れる。俺の視線の先では、あれだけの威力を受けながら、それでも立っている烏間先生の姿があった。

 

「………奴め……」

 

 そんな風に吐き捨てる声が聞こえた。

 殴った筈の箇所を見ると、特にぶらりと垂れ下がることなく、腕は繋がっており、彼自身、感触を確かめるように肩を回し、なんでもないことをアピールしてくれていた。

 

 力加減をミスった。

 そう思った。なのに、先生はピンピンしている。

 

「……………なるほど、今のは」

 

 砂埃の中で過った何か。その正体を理解する。

 でも、今は感謝をしつつ、忘れよう。

 

 烏間先生に謝ろうかと思った。

 だが、やめておいた。

 

 俺が言うべきなのは、ありがとうございました。その一言のはずだ。上手く言い表すことができないけど、伝えるべきは『ごめんなさい、大丈夫ですか?』という謝罪ではなく、烏間先生に勝ち切った後での感謝のはずだ。

 信頼とは甘さでも気遣いでもない。ここ最近で何度も頭をよぎるフレーズ。でも、実際にその通りなのだろう。

 

 思わず出そうになった謝罪の言葉を飲み込むと、烏間先生は痛みに顔を歪めながらも正解だと言わんばかりに頷いた。

 




あとがき

ラスボスの時間。
圭一にとって、一番難しいことは人間相手への力加減を覚えること。彼が今後生きる上でもっとも覚えなきゃいけないけれど、最も難しい課題を一番最初に憧れた人にぶつけて身体で覚える。倒す=殺すではなく、殺さずに倒す。 

殺せんせーを助けるより、殺す方が簡単で確実だと言っていた圭一が殺せんせーを助ける為に行うある種の禊であり、第一歩。

圭一にとって2代目は敵ではなく、柳沢は嫌いな相手で因縁もあるが、実を言うとあまり眼中にない。そんな圭一にとって、ラスボスに相応しいのはこの課題を出した、圭一のE組おける原点である烏間先生なのかなぁーと、ここにこのサブタイトルを持ってきました。

次回で決着です。
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