暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想、高評価ありがとうございます!

今回も投下しますのでお付き合いください……!


200話 ラスボスの時間 2時間目

 

「……いくぞっ!」

 

 烏間先生が銃を抜いた。あれは俺たちの超体育着にも装備できる強化型対先生ハンドガンか。 

 実弾ほど殺傷力はないが、エアガンとは比較にならないほどに弾速は速い。人間の目に当たれば失明どころか物理的に目が潰れかねない代物。

 バイザーを着けているとは言え、まともに食らったら危ない。そして、そんなものを烏間先生に向けられていることが嬉しく思ってしまった。そこまでしても問題ないと信頼されているのだと理解できるから。

 

 烏間先生の銃を構えるまでの動作は流れるように綺麗で、無駄がなく、最速だった。単純に銃を構えるだけなら、ゾーンに入ってない俺では足元に及ばないかも知れない。

 とても良く訓練された動きだと思った。烏間先生がどれだけ真剣に、信念を磨いてきたのか分かる動きだった。

 

 そんな動きから構えられたハンドガンが弾を吐き出す。

 狙いは俺の心臓。凄い精度だ。抜くと同時、狙った箇所に照準が合っていて、尚且つ発砲までに淀みがない。

 

「……けどっ……!」

 

 俺は、そんな人に勝たなければならない。

 再びゾーンに突入すると右手で椀を作るような形にし、そのまま右下から左上に向かって振り抜く。

 右手の中に振り抜いた瞬間、空気が溜まり、手が進む毎に空気が圧縮され、飛んで来ていた弾丸と空気がぶつかると、弾を風圧で絡め取りながら腕が進む。俺が腕を振り抜き終わると、弾丸はピュン!と音を立てて俺の左後ろの空へと弾き飛ばされた。

 

「まさか……膂力で起こした風圧で弾道を逸らした!?」

 

「フェニックスウイングとでも名付けましょうか」

 

「……キミも魔王系だったか」

 

 先生もダイの大冒険知ってるのね。

 俺もちょっとびっくりしてる。ほんの思いつきでやってみたら出来てしまった。案外、漫画のとんでも必殺技とか真似する価値はあるかも知れない。まぁ、メイン武器が刀だから、そうそう全力は出せないだろうけど。

 

「次は俺から行きます……!」

 

 ゴムナイフを抜き、烏間先生に投擲する。

 投げる瞬間にゾーンに入って投擲の威力を強化。指先からナイフが離れたと同時に更に加速して、たった今、投擲したばかりのナイフの柄尻目掛けて拳を叩き込んだ。

 パァン!とまるで銃声の様な音が響くと同時、ゴムナイフが烏間先生目掛けて迫る。常人ならば反応すらできないであろう速度で迫るそれに、彼はやはり反応した。

 

 そうだろう。彼なら反応するだろう。ならば、それを予測してナイフにちょっとした小細工の一つや二つ、仕掛けるのも当然だと思いませんか、烏間先生?

 ナイフの柄尻を殴った拳を広げ、人差し指を左に向かって横薙ぎに振る。勢いよく指を折るかの様に。

 

「ッ………!?」

 

 ナイフが軌道を変え、彼の装備に横に向かって駆け抜ける赤い塗料の軌跡が走った。しかし、それでも致命傷にはならないだろう。彼は、これにも反応してみせた。気づいて、最速で、無駄なく半端だけ引いた。綺麗に躱すことを視野から外し、ダメージを割り切って最低限の被弾で済ませた。

 凄まじい判断速度だ。いくら模擬戦でこのナイフに殺傷力はなくとも、俺が使えば人くらいは殺せる。それなのに、彼は割り切って、被弾を受け入れ、ダメージを最小限に済ませることを選んだ。俺にはできない。

 

 出来ないけど、それを賞賛して攻撃を入れる隙を見逃すほど、俺もお人好しではない。

 

 ゾーンに入って加速し、烏間先生の正面、目と鼻の先に立って拳を引き絞る。きっと、先生の目には俺が突然目の前に現れた様に見えているだろう。これまでの周りの反応から察するに。

 烏間先生は咄嗟に防御姿勢を取ろうとした。腕がピクリと動いた瞬間を俺は見逃さない。腕を前でクロスさせて拳を受けようとしているのだろう。だから、その思考と肉体が動くまでの僅かな時間で拳を加速させた。

 拳が彼の溝を捉える少し手前、直撃する0.02秒前。ゾーンを抜け、腕にブレーキを掛け、パンチの威力を殺す。人に当たっても大事に至らない程度の力を心がけ、今度は先生の体を壊さない様に。それでいてダメージを与えられるくらいへ。

 

「ッッッ………!!!」

 

 口から息を吐き出しながら、烏間先生が地面に跡を作りながら、数メートル吹き飛ぶ。

 苦しそうにしているが、今度は身に覚えのある感触が腕にあった。人を殴る感触だ。今にして思えば、不愉快な感覚だと思う。あまり何度も感じたい感触ではないな。

 まして、恩人を殴るということ自体、本当なら勘弁願いたいくらいだ。烏間先生にダメージを与えるたびに平謝りしたくなってしまう程に、申し訳なく感じる。

 

 だが、そんな言葉をひたすらに飲み込み続けた甲斐あってと言うべきか。さっきの様な明らかな外部からの干渉を受けることなく、烏間先生は自力で踏ん張り、ゆっくりと体を起こした。

 

「いいぞっ……その調子だ……!」

 

 けれど、今度はダメージが小さすぎたか。彼は休むことなく駆け出して、ナイフを引き抜くと最速の突きを放つ。

 

 いや、違うな。

 

 決して今のはダメージが小さいわけでない。単に、烏間先生の耐久力が高いだけだ。先生があんな地面に踏ん張りが効かずに吹き飛ぶレベルの衝撃を耐えられる奴はそうそういないだろう。というか、居てたまるか。

 烏間先生。少し難儀な相手だ。人間の耐久力を知ると言う意味では申し分ない反面、烏間先生が耐えられない攻撃を他の奴が耐えられるわけがないと言われたら、そりゃそうだと納得すると同時、普通の人間では死んでしまう様な一撃にも耐えられるだろうという信頼がある。普通の人間への力加減としては、微妙に参考になるかならないかグレーなラインだ。

 

 烏間先生の攻撃を紙一重で交わし続ける。攻撃の軌道を読んで、事前に躱したり、逆にギリギリまで引き付けて烏間先生の身体とすれ違う様に躱したり。緩急をつけてペースを掴ませない様に。そして、隙を見つけてはカウンターを入れる。

 

 やり方を考えないといけない。

 俺がカウンターを入れる時、蹴られたら蹴り返して、殴られたら殴り返してとしていたら間違いなくいつか力加減をミスって相手を殺してしまうかもしれない。無論、力を制御する術は身につけるべきだし、その練習も今回は兼ねているが、それはそれとして考えるべきだ。

 

 俺のチカラでやり返すと殺しかねないのなら、俺の力を使わなければいい。さて、その為にはどうする?

 

「(攻撃がまるで当たらない)」

 

「(躱されているというより、通り抜けられていると言うべきか。攻撃が当たる寸前や、カウンターされる直前の部分だけ彼の時間が飛んでいるような、そんな手応えだ)」

 

「(ターゲットにも何度かナイフで攻撃を仕掛けたことがあるが、感覚で言うと奴に避けられている時の感覚に近い。そして、平常時で3mはある巨体と175cm程度の乃咲くん。体格に差があるせいか、まるで当たる気もしない)」

 

「(カウンターも段々上手くなっている。自ら攻撃を当てに来るのではなく、俺の身体が当たる位置に拳や肘を置くことで彼自身の威力は出さず、俺の膂力によるダメージを反射するような物に変わりつつある)」

 

「(上手い手だ。彼自身の膂力で拳や肘は俺に当たっても微動だにしない。故に、俺の身体が付けた勢いは逃げることなく、ダイレクトに跳ね返ってくる。これなら、必要以上にダメージを与えることはないだろう)」

 

 だけど、この戦法には弱点がある。

 それは、相手の動きに合わせる性質上、相手との距離を物理的に詰めるのは必須だし、そして相手から直接攻撃を受ける様な状況に持ち込まなければならない。

 

 距離を詰めるのは容易い。拳だろうが弾丸だろうが、俺よりは遅い。遅いが、相手にこちらを攻撃する意思がないと通じないと言う意味で、相手頼みの戦法であることは違いない。

 いや、そもそも俺と戦闘になる時点で相手にはこっちに攻撃する意思があるのは確実だし、俺のカウンターの理屈を見抜いて攻撃をしてこないっていう選択肢を取れる相手がどれだけいるんだ?って話ではあるが、それでも烏間先生は少なくとも俺のカウンターの理屈を見抜いてるだろう。

 

 つまり、烏間先生レベルが相手になってくると俺から仕掛けないと勝つことはできない。

 

 しかし、こちらから仕掛けると事故率が高くなる。

 ならばどうするか。考えられる策としてはあえてスピードを落とし、俺から仕掛ける。相手にカウンターを入れたくなる様な隙をわざと作って相手からのカウンターに対して更にカウンターを入れるという展開だ。

 でも、これは俺の手の内を知ってる相手には意味がない。烏間先生は俺のスピードを知っているから、俺が普通の速さで攻撃したり、カウンターを貰いやすい動きをしていたらかえって警戒するだろう。これは間違いないはずだ。

 

 ならば、直接攻撃しかないか?

 

 "事故"を起こさないための訓練だ。もともとそうした方がいいのは確実。しかし、どうする?

 

 俺の攻撃の全てに必殺の危険性があるのは変わらず、故に辿り着いたのが相手のチカラを利用したカウンターだ。

 こちらは相手に当たる位置に拳や肘を置くだけ。縁石に突っ込んだ車が自分のチカラで大破するのと同じ理屈。

 

 これ以外で最低限のダメージで相手を倒す方法を考えるしかない。それも、できるだけ環境に依存せず、いつでもどこでも使用できる、周りを生かした戦闘IQとでも言うべき分野がお粗末でも使えるものがいい。さぁ、何がある?

 

「(何か考えている)」

 

「(間違いなく、次の一手を探っている)」

 

「(乃咲くんのカウンターは強力だが、理屈を見抜けば対策の仕様はある。もっとも、彼が殺さない前提で動く場合にのみ使えると言うだけだが。それに気付かない子ではない。だから、手を考えている。さぁ、次はどうする?)」

 

 相手の防御を抜く方法。いや、実際には防御を抜いた様に見せる技術はさっき覚えた。

 攻撃があたる寸前、スピードを落とし、相手が防御反応を取ろうとした瞬間にまた加速して相手の体をぶち抜かない程度の威力で拳を叩き付ける。これができれば、相手を混乱させられるだろう。確かに防いだと思ったのに、と。

 

 だが待てよ?俺の攻撃を相手に見せて、わざと防御反応をさせてから、それ以上のスピードで殴り付けることができるなら。相手が完全に防御姿勢をとったあとで無防備な部分を殴ることだって余裕なんじゃないのか?それも、ゾーンに入らず、普通の人間より少し早い程度の威力でも。

 

 そこまで考え付き、行動に移す。

 攻撃をするフェイントで相手の防御を誘って、無防備な部分に攻撃を入れる。覚えた技術は繋げて発展させれば威力が上がる。殺傷力という意味でも、効力という意味でも。

 

 再度、烏間先生の正面まで瞬く間に距離を詰め、拳を引き絞ってゾーンを抜ける。この時点で彼に取れる卓は2つ。避ける為に身体を捻るか、威力を殺す為に防御をするか。

 カウンターという択はない。俺に利用されることを知っているし、そも、俺の方が圧倒的に早いのだから、ダメージを最小限にする選択肢しか視野には入らないだろう。

 

 避けるにせよ、防ぐにせよ、必ず1つは動作を取る。

 その一つの動作の間に俺はたった3つやればいい。無防備な部分を見つけ、ゾーンを抜け、攻撃を当てる。

 

 余裕だ。

 

「くっ……!?」

 

 攻撃が先生の右脇腹へ突き刺さる。

 あった瞬間、腕を掴まれること、そこへのカウンターが返ってくることを想定し、拳を引いてゾーンに入る。

 肉を切らせて骨を断つ。そんな言葉が似合う動きを烏間先生は見せてきた。案の定、カウンターを刺して来たので、彼の拳が通過する位置に俺の拳を置いておくと、衝突してお互いにメリメリと嫌な音を立て、鈍い痛みが走る。

 

 どうやらゾーンに入るタイミングが遅かったらしい。

 こうしてみると、俺もまだまだ自分の能力を使いこなせていない。情けないと思う反面、それはそれとして今回は確かな手応えがあった。ダメージを与え過ぎず、弱くなり過ぎない。

 

 烏間先生にも確かにダメージは入った。

 本人は痛む場所を庇ったり、押さえたりするのを堪え、油断なく俺の方をまっすぐに見据えていた。

 

「(左拳がイカれたか。だが、乃咲くんの右拳も同様だろう。難儀なものだ。力が強すぎると相手を壊し、弱くし過ぎると自分が壊れる。今回は後者だったようだな)」

 

「(不思議だ。思えば、あの瞬間移動染みた速さで動いてる時にはさしてダメージは無さそうだし、あの日の暗殺の時だって、イリーナに握っていたマチェットを銃撃されたにも関わらず、痛がる素振りを見せなかった)」

 

「(今日何度か使っているカウンターもそうだ。俺に当たっても腕が引かれる感覚はない。つまり、彼の腕は衝撃を逃していない。それなのに痛がりもせず、ダメージもなさそうだった)」

 

「(やはり、ゾーンに入ると耐久力が上がるのか?)」

 

 間違いなく、俺の体の秘密はまだあるだろう。

 ゾーンの中で動こうとすると感じる、水の中で動いているかの様な感覚。あれは、空気抵抗だろう。だが、俺はその気になればゾーンの中でも普通に動ける。

 この時、服が燃えないのは何故だ?火傷しないのは?それは単にゾーンに入ったから耐久力が上がってるというだけでは説明ができない部分があるだろう。間違いなく。

 

 けど、いまはどうでもいい。

 いつかは知りたいけど、今はいい。

 

 今は、烏間先生に勝ちたい。

 

 悔しいな。俺はゾーンがあるから強い。ゾーンは、俺が弱かったから、立ち回りが下手くそだったから目覚めたチカラだ。俺がもっとそれぞれの場面で強かったら。力加減を覚えるための戦いではなく、本気で相手を変えるための戦いが出来たのに。

 ゾーンは間違いなく俺に力をくれた。両親から貰った才能だ。俺にとっては強いであることに変わらない。

 

 でも、これはゲームで言うところのお助け機能みたいなものだ。無双出来る代わりにクリアしても最高評価は貰えない。そういう類のチカラだろう。メタギアの無限バンダナ、DMCのスーパーモードに近い。違いがあるとすれば、今の例えで出てくるのはやり込みの報酬であるのに対し、俺のは初心者救済みたいなもんであるということ。

 

 勝って当たり前、やれて当然。そんな評価を受けて妥当なチカラ。皮肉なモノだと思う。かつて、乃咲新一の息子ならやれて当然という評価が気に食わなかったというのに、今は違う意味ではあるが、やれて当然というのが妥当な評価だと自分自身、誰に言われるでもなく納得しているのだから。

 

「………やれて当然、か」

 

 そうだ。やれて当然だ。

 でも、それはそれとして、俺はやっぱり烏間先生に褒められたい。認められたい。俺の能力は反則(チート)だ。そんなことは分かっているけど、でも、褒められたいんだ。

 

 なら、やれて当然という評価に満足するな。

 どんなに上質な結果を残せたとしても、やれて当然って評価を受けるのが妥当だしても、それに甘んじるな。

 周りの評価をねじ伏せろ。この力を持っていても、この結果を出せるのは乃咲圭一だからなのだと見せつけろ。出来て当然だけど、そこまでやるか?ここまでできるか?そんな風にドン引きされてもいい。むしろ、ドン引きさせるんだ。

 

 みんなはそれでも俺と一緒に走ろうとしてくれるんだから。

 

 烏間先生にチカラで勝って当たり前なら、技術で勝て。それはそれでハードなことを言っているが、でも、それしかない。技術で出し抜き、チカラでトドメを刺す。

 俺は知っているはずだ。烏間先生と奴の戦いを見た。先生とて技術がないなんてことは絶対にない。でも、死神と烏間先生の戦いは技術の死神とフィジカルの烏間先生というマッチアップに見えた。そして、殺せんせーと烏間先生の密かな共闘で結果的に先生は2代目に勝利した。

 

 あの時の光景はいまだに瞼に焼き付いている。

 あれから、俺の中には2代目の動きが記録として残り続け、その技術の一端を直感的に理解し、だからこそ全てが欲しくて、ビッチ先生にワイヤー操作を習い、殺し屋としての殺せんせーに弟子入りして、様々なことを教わっているのだから。

 

 ナイフを投げる。クラップスタナーの時の様に殺意を込めることなく、ただ無造作に。人差し指と中指で挟んだ状態から空に向かって山なりの軌道を描く様に放り投げる。

 殺意はない、殺傷力もない。ただ、目立つ動きで。ただ、自分と相手の視線の間を通り過ぎ、思わず目で追いたくなるような視線誘導。烏間先生は強い、それこそ、殺意を込めた行動はより本命を警戒される。だから、布石を打つ。

 

「(殺意がない……このナイフ、恐らくはフェイント)」

 

 今度は必殺の殺気を込めて、烏間先生に人差し指と親指を立て、鉄砲の様な形を作った手を向けた。

 あの日、見た2代目の"死神の鎌"。それを再現する様に。ナイフを投げたその流れで、アイツのような表情を作り、ゆらりと揺れる陽炎の様に、すっと半身を逸らして、上から下へ、動く腕を真っ直ぐに先生の方へ。

 

「(ッッッッ!!?)」

 

 意味のない行動だ。俺の指にはアイツのような仕込み銃がある訳ではない。だが、この局面、本当に意味のない行動をするほど馬鹿ではないし、烏間先生とてそれを知っている。だが、彼の脳裏には過っているはずだ。2代目の技術を結集させた、総合芸術と本人が語ったあの光景が。

 死に掛けた時の光景の再現。普通は身構える。烏間先生は俺の技量や強さを信じてくれているし、知ってくれている。だからこそ、無駄な動きをする筈がないと身構える。あんな意味ありげな行動をして何にも無いなんてことはない筈だ、と。

 

 心理的に烏間先生は警戒するしか無いんだ。

 殺されかけた記憶と無意味な行動をとる筈がないという信頼という名の先入観。その証拠に烏間先生は一瞬動きを止めた。ナイフと俺を同時に注視し、警戒を更に高める。

 

 計算通りだ。

 

 さっきと同様、ナイフの柄にはワイヤーが仕込んである。そして、そのワイヤーは俺の人差し指から伸びていた。

 指を折りたたみ、また一瞬で肉薄する。狙うのは鳩尾。ゾーンから抜けながらコンパクトに放った突きが突き刺さった。

 

「ッッッッぐ……!!」

 

 先生は耐える。ヘソの下にチカラを入れ、咄嗟に腰を落とし、今度は吹き飛ばされることなく、そのまま俺へと掴みかかってくる。そこで烏間先生も俺に勝つつもりなのだと理解した。

 あぁ、やっぱり俺が烏間先生に憧れたのは間違いではなかった。ここまでやってなお、勝ちの目を諦めていない。俺だったらとっくに折れてるだろうに。すごい執念だ。

 

 でも、だからこそ、俺が勝つんだ。

 

 烏間先生の腕を半歩、身をそらしながら避けると同時、俺の指から伸びるワイヤーに繋がっていたナイフが宙を駆けて鋭い風切り音とともに烏間先生へ襲い掛かる。

 

「(ッ、避けられん……!防御も間に合わん!)」

 

 烏間先生の顔面を保護していたバイザー部分にナイフが当たり、インクが飛び散る。普通ならこれで決着だ。でも、被弾と同時に敗北を悟って無防備になっているのをみすみす棒立ちして眺めるほど暇ではない。

 投げたナイフをぶち当てて、『はい勝ちました〜』は俺の望む勝利ではない。だから、ナイフが当たるのを確信しつつも既に動いていた。刃先がバイザーに当たって歪むと全くの同時に先生の側面へと回り込んで脚を払い、胸倉を掴み、押し倒しながら、空に弾かれたゴムナイフを再び掴む。

 

「俺の勝ちです。烏間先生」

 

 馬乗になり、ナイフを振り下ろすだけの姿勢になる。

 動いたら殺す、そんな殺意を向ける。

 

「……まさか、手も足も出ないとはな」

 

 自嘲気に烏間先生がこぼした。

 彼の気持ちが分かるとは言わないし、言えないし、言ってはならないだろう。高校を卒業し、防衛大学に進学し、自衛隊で必死に鍛え、肉体や技術や心を育んだのだろう。

 そんな彼の努力を俺は踏み躙ったのだ。彼ほどの努力をしていないのに、ただ強い肉体を持っているからという理由で。

 

 理不尽な話だ。俺だったら納得できない。

 技術で勝つと言っても、そんなのは周りに伝わらない俺の心構え程度でしかない。実際、フィジカルも使っているのだから、理解もされないだろう。理不尽な強さを持ってる奴が更に搦手まで使ってくる。相手にはしたくないな、我ながら。

 

「完敗……だな」

 

「………」

 

「教えたいことはまだまだあるが………まずは……そうだな」

 

 烏間先生と目が合った。

 

「胸を張って笑え。キミは勝ったんだから」

 

 その言葉を俺なりに咀嚼して飲み込む。

 そうだ、俺は勝った。わかばパークでの償いの後、A組がテストでボロボロだったE組を煽りに来た時、俺は学秀に言われた。なんであれ、勝ったのなら強者だし、強者が自らの実力を否定するのは、自分に負けた者への侮辱だと。

 

 烏間先生に勝てたこと、これは否定しちゃいけない。

 

 親から貰った天性の肉体による理不尽な強さ。努力し、足掻いてきた奴らを踏み躙れてしまうチカラ。強くて当たり前と評されるべき才能と言える部分。

 これをいつか、天性の肉体に加えて技術があるから強くて当たり前な上に理不尽に強い、と言ってもらえるように。

 

 俺はここで満足しちゃいけない。

 

「烏間先生。ありがとうございました」

 

「………卒業おめでとう、はまだ取っておく」

 

 体全体で礼をするように、俺はナイフを烏間先生の心臓の位置に突き立て、この戦いに幕を下ろした。

 

 学ばないといけない。まだまだ学びたい。

 ゾーンがなくても烏間先生に勝てると言えるようになる為に、ゾーンがあるから勝てなかったと言われない為に。

 負けた奴が負けたことに納得できるくらい、強くなりたい。今後、そんな場面があるか分からないし、ないに越したことはないけれど、それでも、負かした奴に負けたことを納得して貰えるだけのチカラを身につけたい。

 

 戦いだけじゃない、いろんな場面に対してもだ。

 

 絵空事かも知れないし、それこそ、ある種の空想かもしれない。でも、そこを目指してこれからも多くを学ぼう。

 強さがエゴを通す為のチカラならば、これは俺なりのエゴの通し方だ。気取った言い方をするなら、美学とも言えるかも知れない。これが綺麗事、絵空事にならないように。

 

「キミが暗殺を抜けることは了承した。だが、いざという時は力を借りるぞ」

 

「はい」

 

「………それから、暗殺を抜けるとしても、暗殺に関わってはならないという契約はない。これからは、生徒たちに実演が必要な場面が訓練で出てきた時、俺とペアを組んで貰う。教わる側では見えないものを、教える側としてしっかり見るんだ」

 

「………はい」

 

「これは俺も教えられん。なにせ、まだ俺も初心者だ。だが……キミならできると俺は思う。これからも頼むぞ、乃咲くん」

 

「——はい、こちらこそ。烏間先生」

 

 どうやら、勝った=超えた ではないらしい。

 




あとがき

とうとう圭一が烏間先生と勝負して勝ったけど、内心としては複雑ですね。殺せんせーを単独で殺せる時点で相当壊れてるけど、原作でも最強格で人間代表的な烏間先生を中学生が倒すってのがどれだけぶっ飛んでるのか………。

うーん。だいぶ前から分かってはいたけど、色々と盛りすぎたオリ主って一気に扱いが難しくなるな……。挑戦してみたくてやってはいるけど、『もうコイツ1人でいいじゃん』ってなるのが良くわかる。

最近は他の2次創作を読めていないけど、実力はトップ層より劣るけど人格面で周りから好かれるキャラクターを書ける作者さんたちの技量って凄いんだなぁ、と改めて実感中です。

完結も近いけど、次にまた2次ss書くことがあったらそういう方面に向かって頑張りたいなぁ……。

ご愛読ありがとうございます!
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