暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの高評価、感想ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!

またまた月が変わりましたので、今日もIFルート投下します!
そちらは13時には投下しますので、そっちにも足を向けてもらえると嬉しいです。


201話 バトルロワイヤルの時間

 

「………そっか。烏間先生に勝ったんだな」

 

 翌日、始業式が終わったあと。俺はみんなに向かって改めて昨日の顛末を報告していた。

 暗殺を抜けることにしたこと、その結果、烏間先生と戦うことになったこと、暗殺には参加しない代わりに、暗殺の訓練で実演が必要な時は烏間先生とペアでやることになったこと。

 

「なんていうか、うん。とうとうやったのか〜って感じ」

 

「だな……。正直、内心では思ってたんだ。乃咲と烏間先生はいつ決着を付けるのかなって。乃咲が烏間先生に勝ちたいとか、超えたいとか、目標にしてるのはわかってたけど本気の勝負とか見たことなかったから。そっか。やっとか」

 

 反応はそれぞれ違っていた。俺と先生の決着に納得する奴、安心したような奴、やっとかと心待ちにしていたような反応をする奴。ただ、口々におめでとうと言葉を掛けてくれた。

 

「今伝えた通り今後、乃咲くんは暗殺者ではなくなる。この教室での立ち位置としては俺のアシスタントや君らへのアドバイザーが近いだろう。教わる側から教える側に回ると言うことだ。無論、今後も困りごとなどがあれば俺にも声を掛けてほしいが、俺がいなかったり、"言いづらい内容"なら、彼に頼るといい」

 

 教わる側から教える側へ。白状すると、実感は薄い。実際にみんながそういう意味では頼ってくれるのか、あるいは頼られたとして俺に応えられるのか。不安は多いが、暗殺から抜ける俺が少しでも暗殺に、みんなに近い位置で接することが出来るようにという烏間先生からの配慮。

 言葉に出されたわけではないが、それでも、そんな意図はしだり伝わってくる気遣いを無碍にはできない。

 

「殺すと決めたら殺す、同じように助けると決めたら何がなんでも助けたい。その上で、2月以降は暗殺に割り振るという約束は乃咲にとって殺せんせーを殺すことが既定路線になってしまう。助けたいけど、自分がやれば確実に殺せる。出来るだけ長くみんなや殺せんせーと一緒にいたい。だけど、それを叶えるには、暗殺で手を抜くしかない。みんなが本気でやってる中で、手を抜かなきゃいけない。それは嫌だと。それなら暗殺を抜けるか。なんと言うか……乃咲らしい選択だね」

 

「これがある種の逃げなのはわかってるよ」

 

「確かにそうかもしれないけど、逃げに走るのだって難しい選択だ。今までのキミなら逃げたことで発生する問題に責任を感じて、それでいてやらなきゃいけないことを考えて身動きが取れなくなっていただろうし。背負わなきゃいけない責任の断捨離が出来るようになったのなら、大きな進歩じゃないかい?」

 

 竹林の言葉がなんだか重たく感じるとともに、なんだか肩が軽くなる。

 

 背負わなきゃいけない責任の断捨離。

 自分の能力を鑑みて勝手に背負った気になっていた、人類の未来。俺がやるべき、俺がやらなきゃならないという責任感。それを、みんなで背負って良いんだと気付いた今、俺に残ったのは、自分の行動に責任を持つという道だった。

 

 殺せんせーの暗殺は一旦、みんなに任せる。これは逃げなんだろう。だからこそ、もし、"その時"が来たら、俺の手で決着を付ける。助けたいと願い、行動し、手を差し伸べた相手を代償に地球を救う。殺せんせーに自殺させず、みんなに何と言われようとも、この手で終わらせる。それがこの選択をして殺せんせーを助けられなかった時に俺が付ける自分への落とし前。

 

 そして、そんな道を辿らなくて済むように全力を尽くすこともまた、この道を選んだ俺が果たすべき責任だ。みんなに暗殺を任せる代わりに殺せんせーを助ける術を何がなんでも見つけ出す。幸いにも何処を探すべきかは分かっている。

 探し、見つけ、追求し、可能性を手繰り寄せる。常人には時間が足らなくても、俺には時間なんていくらでもある。いや、作り出せる。何百時間、何千時間、何万時間掛けてでも、答えを見つけ出す。それが、助ける道を選んだ、手を差し伸べると決めた俺の最後まで果たすべき責任だ。

 

「進歩だと自分を認められるように頑張るさ」

 

「…………そっか」

 

 竹林は表情を緩めて頷いた。

 皆も言いたいことはあるのかもしれない。だが、俺の言葉を聞いて何かを感じ取ってくれたのか、暗殺を抜けることに対してそれ以上の追求はなかった。

 

 ある程度、それで場が落ち着いたのを見届けた烏間先生が手を一回叩くと空気を変えるかのように話題を変えた。

 

「さて。それではここからは、キミたちのバトルロワイヤルについての話をしよう。話は乃咲くんから聞いている。自分たちの暗殺技術が何処まで通じるのか。それを互いに試してみるというのは俺としても賛成だ」

 

「他者と直接比較することでしか理解できない分野も間違いなくある。そして、実際にぶつかることで、仲間たちの能力がどれだけ優れているのか、頼もしいのかを理解できるだろう」

 

「それに折角だ。優勝賞品も準備しよう」

 

 烏間先生から飛び出した優勝賞品という単語にクラスがどっと沸き立つ。ある意味、バトルロワイヤルという形式は生き残りを掛けたサバイバルゲームであると同時に大会とも言えるだろう。そう言う意味だと優勝賞品というワードはモチベーションを上がるのに有効な気がする。

 

「そうだな……。優勝者のこれまでのデータを使用した、専用装備なんてどうだ?」

 

「専用装備……!」

 

 ロマン溢れる言葉に男子たちが浮き足立つ。

 女子もその響きに興味深そうにする者もいる。だが、男子ほどモチベーションが上がる訳ではないらしい。

 女子のモチベーションが上がりそうなものってなんだ?スイーツとか、ファッション関係?んでも、事あるごとに烏間先生の財布からスイーツ関係の出費があるのは先生の財布が心配だ。

 

 ってなると、現実的なのはファッション関係か?

 

「烏間先生、装備のデザインとか俺らで考えられませんかね?」

 

「デザイン……?」

 

 俺の質問に首を傾げた先生は俺を見たので、盛り上がり具合が今ひとつな女子の方を目で指す。

 烏間先生は女子へと視線を向け、続いて一番後ろで『わかってないわねぇ』みたいな顔をしているビッチ先生を見ると合点がいったのか、少し考え、口を開いた。

 

「なら、こうしよう。優勝賞品は専用装備。だが、実際に何を作るのかはキミらに任せる。我々の集積したキミらのデータを基に作る装備でも、キミたちの思うこんな装備が欲しいとかでもいいし、装備だからと無骨すぎるのも花がないと言うなら、イリーナ監修でデザインと機能を指定したものでも構わない」

 

「ビッチ先生の監修か……」

 

「確かに超体育着、女子のは可愛くアレンジされてるけど、確かに無骨な感じあるよねぇ。私はさんせー!」

 

「あら、急に随分と気が利く提案をするじゃない?いいわ、プロの殺し屋が女を下げない機能美って奴を考えてあげる」

 

 ビッチ先生もノリ気になったらしい。

 まぁ、もしかするとデザインしたついでにちゃっかり試作品を貰おうとか、考えていたりするのかもしれないが。

 

「……あれ?」

 

 女子も徐々に盛り上がり始めたところでふと、中村さんが手を止めて首を傾げながら挙手をした。

 

「せんせー、乃咲はどうんの?」

 

 その質問に視線が俺に集まった。

 あっ、言われてみればそうだ。

 

 暗殺を抜けた以上、バトルロイヤルに参加する必要はない……のかな?どうなんだろ、暗殺ではないから参加して良いのか?でも烏間先生の補助役になった以上、監督する側に回るのかな?

 

「乃咲くんにも参加してもらう」

 

 烏間先生が言い放った。

 素直に参加できるのは嬉しいが、それは良いのだろうか。ある程度、自分の実力を正しく評価するなら、俺が出ちゃうと優勝待ったなしだぞ。決着に数分掛からず、いつぞやのケイドロよりも凄惨な虐殺現場になるぞ、この山が。

 

 などと心配していると、先生がルールを付け足した。

 

「乃咲くんも参加してもらうが……ルール上、乃咲くんを倒す必要はないものとする」

 

「どういうことです?」

 

「乃咲くんはチャレンジ枠というか、ボスキャラクターのようなイメージだ。キミたちの倒すべき相手はボスを除いた参加者全員。ただし、ボスを倒したものには特別報酬として優勝賞品と同じものを与えよう」

 

「……つまり、乃咲をスルーして他のみんなを倒して優勝を目指すもよし、乃咲を倒して特別報酬を狙うもよし、両方やって賞品2つ貰うのもありってこと?」

 

「そうだ。加えて、乃咲くんを倒すのにチームを組んで構わない。チームで倒したのなら、全員に報酬を与える」

 

「烏間先生、それ、俺がみんなにリンチされるやつでは?」

 

「この程度でリンチできるのか?キミを」

 

「……………無理っすね!」

 

 よくよく考えてみたら無理じゃん。

 あー、数の暴力って字面に怯えてしまった。

 

「ただし、乃咲くん周りに関しては追加ルールを設ける」

 

「ほぅ」

 

「一つ、乃咲くんは攻撃されるまで反撃してはならない」

 

「二つ、乃咲くんに挑むものは律に申告すること。チームを組んでるかはこの時に報告するものとする」

 

「三つ、チームを組んでいる場合、メンバーが1人でも乃咲くんへ攻撃を仕掛けたのなら、乃咲くんはチーム全員に反撃してもよいものとする」

 

「四つ、乃咲くんは反撃に移る際、反撃しても良い相手の情報は律から共有される」

 

「五つ、罠は攻撃に含まないが、罠に反応した瞬間を攻撃するのは反撃可能な対象とする」

 

 なんか、めちゃくちゃガチガチにルール決められてない?

 

「つまり、俺は自分からの攻撃は禁止だし、攻撃されるまで反撃も禁止。攻撃を受けたら律に情報を貰って襲撃者へ反撃しても良いし、襲撃がチームを組んだ複数名で行われたのなら、チームを殲滅してもいい。ただし、罠は攻撃に含まないから、追い込み漁をするのはアリだと」

 

「そうなる」

 

「例えば罠に攻撃力があったらどうなります?イメージ、地雷みたいなのに引っかかって俺が攻撃を受けたら」

 

「設置者を反撃可能な対象には認識しないが、キル判定はアリだ。乃咲くんを倒すなら、これくらいの条件は必要だろう?」

 

 なるほど、つまり攻撃されるまで攻撃するな、不意打ちでされる攻撃を必ず躱わすか防いでから反撃しろ。罠に触れるな、そして罠を設置した者への攻撃は直接攻撃を受けるまで禁止とする、と。罠は仕掛け得ってことよな。

 いいじゃないの。なかなかヒリつく良い塩梅だ。それに、俺を狙う奴らにとっては擬似的な対殺せんせーのシュミレーションになる。烏間先生の意図はそこにあるだろう。

 

「あとは共通のルールとして、最後まで生き残った者の勝利。被弾はどんな部位であっても1発でアウトだ。乃咲くんに挑んで反撃を受けても命中しなければセーフ、1発でも当たればアウト。そして、乃咲くんも被弾とキル判定の定義は同じだ」

 

「分かりました」

 

「なんか、乃咲に不利な条件が多すぎるような気がするが……まぁ、本人がいいって言ってるなら、俺らも別に文句ないかな。負けて吠え面かくなよ、死神ファザコン?」

 

「…………………ふふ」

 

「何その笑い方怖い」

 

 今の条件、やはり俺のゾーンの使用は禁止されなかった。

 やっぱり俺の想像する烏間先生の意図は的外れというとこはないだろう。正直、楽しみでもある。

 周りが俺をどんな風に攻略してくれるのか、どんな作戦を持って来てくれるのか。考えるだけでつい反射的にその作戦をどんな風に潰してやろうかというシュミレートが頭の中で始まる。

 

 少しだけ殺せんせーの気持ちがわかった気がする。周りが自分を倒すのにどんな工夫をしてくれるのか、どんな風に挑んでくるのか、想像すると楽しみで仕方ない。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

『………誰も来ない……ぼっちファザコン……』

 

 律から送られてくる乃咲の独り言に思わず笑いたくなるのを抑える。バトルロイヤルが始まってから10分、アイツは今か今かと襲撃を待ち構え続け、そして結局だれもこの瞬間まで攻撃を仕掛けず、ついにはいじけてしまった。

 ひらけた広場の真ん中で体育座りをしながら地面にのの字を書き続ける姿は無防備そのものだが、誰も攻撃を仕掛けないのは、弾丸を撃ち込んだ瞬間、目にも止まらない速度で肉薄されて瞬殺されるのを予想しているからだろう。

 

 ここからの距離でも、アイツは避ける。

 そんな確信があるから、俺はいまだに仕掛けずにいた。

 

 ちなみに、もう何組かは普通の参加者同士で戦って脱落している。この分だと、当分は乃咲に仕掛けるやつはいないだろう。一旦は諦めて他の連中を狙ってみるか?

 乃咲を倒すのは必須じゃないし、なんて思っていると、乃咲が動いた。顔を上げ、何かに視線を向けた。

 

「………なんだ?」

 

 じっと乃咲が視線を向ける方向に違和感がある。

 顔はまっすぐ前を向いている訳ではなく、僅かに斜め上を向いている。つまり、木々の隙間ではなく、木の上を見てる?

 続けて乃咲が視線をを動かした。首の角度はそのままに、顔だけを動かして……いま、アイツと目が合った。

 

 気付かれた。

 

 これ自体も驚くべきことだが、あの乃咲だと思えばいうほど無いのかもしれない。だけど妙だ。アイツを狙ってるやつは複数いる。それこそ距離感で言えば俺よりも近い位置で息を潜めてる奴もいるはずだ。なのに、なんで俺に2番目に気がつく?もっと気付くべき相手はいるはずだ。

 

 なんだ?この違和感は。

 

 まるで何かを追うように俺を見た感じもある。

 仮に追うとしたら何がある?視線の先から察するに、木の上にいる誰かに先に気づいたのは間違いない。なら、乃咲が気付いた何者かはどうして木の上に登っていた?

 

 考えられるのは観察と偵察だろう。高い位置の方が周りの状況がよく見える。俺だって木の上に潜んでいるのは、その方が射線を確保しやすいと思ったからだ。

 

——射線を確保しやすい?

 

 木の上からならば射線を確保しやすい理由はの大きな利点は上から下へと撃ち下ろすことができて、見上げて狙うより射角が確保できるからだろう。スナイパーとしては見逃せない利点だ。

 つまり、木の上にいるということは、さっきあげた理由の他にスナイピングしようとしてる可能性も考えられる。

 

 ……そうだ。スナイピングしやすい。

 仮にスナイパーを見つけたのなら、乃咲はどうして流れるように俺を見た?普通はそっちを警戒するだけで良いのに、まるで、何かを追うように、辿るように、アイツは俺を見た。

 

 背筋を走る悪寒と感じた猛烈な違和感。

 

「……!!!」

 

 次の瞬間、全力で身体を捻り自分が乗っていた枝に両手で抱き付いて地面に背中を向けるようにしがみついた。

 それからほんの1拍子遅れて俺がいた場所を貫くように赤い軌跡が走り、木の幹に赤いインクをぶちまけた。

 

 狙撃された。

 

 避けられたのは奇跡だった。乃咲が俺の方を見なければ気付くことすら出来なかっただろう。

 弾が飛んできた方を見る。方向的には乃咲がさっき視線を向けていた方だ。つまり、俺を狙っているのは乃咲狙いではなく、バトルロワイヤルの範疇で俺を始末しようとしてる。

 

 見事に隙を突かれてしまった。

 

 誰だ?

 

 思考を回そうとして、そして止めた。俺の視線の先には木の葉の付いた枝で遮られる視界。この常緑樹の天然の防壁の間を通す射撃精度。まさに針の穴に糸を通すような狙撃ができる奴はE組の中でもそうはいない。

 その中の1人はいま、弾を躱した俺を見て『わー!』と手をパチパチさせているし、そうなると可能性があるのは1人だけ。

 

「速水……!」

 

 この教室で同じ分野を得意としている仲間。烏間先生からは動いている的への命中精度では彼女に、遠距離からの隙を付いた狙撃なら俺に軍配があがると評価を受けたことがある。

 スナイパーとしては仲間意識があるし、尊敬もしている。それと同時、対抗意識がない訳では無い。

 

 それは、どうやら彼女も同じだったらしい。

 

 乃咲を狙う俺を狙った一撃はあとコンマ1秒でも早ければ俺を仕留めていたことだろう。

 この葉と枝で木の上からの木の上への視界は良いとは言えない中でこちらを狙えたのは、きっと、スナイパーとして俺ならどうするのか、それを考察して、推理して、整理して、俺ならここから狙うだろうというポジションを導き出したからだろう。

 敵として相対すると怖いと思う反面、仲間としては心強く、そしてそこまで理解されていると思うと嬉しい。

 

 E組に来るまで、周りから散々な言い草をされた。

 

 自分から喋らないから、何を考えているのかわからない。

 アイツならきっと出来るだろう。なんて根拠ない信頼。

 

 速水も俺と同じタイプだ。

 そんなアイツが俺の思考を読んでくるのは、やっぱり理解されているのだと思えて嬉しかった。

 

 なら、俺も応えないと。

 

 俺が速水ならどう狙うか。スナイパーなら一度撃ったら同じ場所には止まらないだろう。外したら撃った方向がバレるし、標的も同じ場所には止まらないからだ。

 だが、待て。この枝葉の中で最高と言えるポジションを確保するのは難しい。だからこそ、確保すれば大体の位置を狙える場所を簡単に手放すだろうか?

 

 遠距離狙撃の基本は撃ったら場所を変えること。

 殺せんせーが相手だと撃つ方向を把握されたら回避を容易にされてしまうからだ。だが、対人戦なら?実弾以上に色んな条件で弾道が安定しないBB弾を使った狙撃なら?撃ち返される可能性はよっぽどじゃなければないし、そも、撃ったら移動が基本として染み付いているから、同じ場所から狙うわけがないという先入観が生まれるだろう。現に、俺も考えた。

 

 その先入観を捨てれば、移動しないことは相手の思考の裏をかける最高の一手だろう。

 

 可能性は五分。でも、ゼロじゃない。

 スコープで球が飛んできた方向と乃咲が見ていた方角から、一番有力なポジションを覗いてみるが、そこには誰もいない。でも、俺と同じく枝にしがみ付いて隠れている可能性もある。

 

 普通、こういう時はスナイパーなら距離を取るかポジションを変える。俺だって普通ならそうする。でも、相手が速水で俺の思考を理解して読もうとしてくる奴が相手なら、普段のやり方では勝てない。

 

 俺は枝から降りて腹這いになる。

 幸い、枝葉に紛れるために超体育着に迷彩は施してあるから、落ち葉と枝に紛れれば、地面でも明細の効果は期待できるだろう。このまま、俺ならここで狙うというポジションを目指す。俺の得意とする遠距離狙撃で俺を狙って来た速水がそこを選ばない訳がない。

 

 方向に目星をつけて、進路は射線を木で遮れるルートを選ぶ。

 

 ジリジリと距離を詰めて、音を立てないように銃を構えてスコープを覗くと、俺が目星を付けた木の上にこそ速水の姿はなかったが、彼女は枝の下にいた。両足で枝にしがみ付き、全く手先や身体をブレさせることなく、頭を地面に向けてぶら下りながらスコープを覗いていた。

 

 ビンゴ、と内心で呟き、僅かに身体を木陰から出して照準を定める。

 この距離なら外さない。

 

「…………千葉っ!!?」

 

 だが、気付かれた。

 息を殺していた筈なのに、音は立てていなかったはずなのに、速水はこちらの気配を察知してスッと銃を向けてくる。

 わかるよ、銃を向けられている時って気付いてない筈なのに、何か猛烈な違和感を感じるよな。

 

「貰ったぞ……!」

 

 引き金を引いたのは同時だった。

 べちゃりと俺のバイザーを赤く染めたインクが地面に滴り落ちる頃、スマホから律の声が聞こえて来た。

 

『速水さん、千葉くん、アウトー!』

 

 相討ち、か。

 

 バイザーを上げて立ち上がると速水も同じくインクを滴らせるフードを下ろして俺の方に歩いて来ていた。

 

「……よくここで狙ってるってわかったね」

 

「俺ならここから狙う。速水もきっとそうだと思った」

 

 彼女は目を見開くが、薄く笑った。

 

「見透かされた?」

 

「お互いな」

 

 言葉少なではあったが、速水の思考を読み切って肉薄し、相打ちまで持ち込めたこと。

 なんとなく、お互い相手の得意分野を使ったような戦い方だったけれど、この決着に満足感を感じていた。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「………誰も来ない……」

 

 乃咲は不貞腐れ出していた。

 




あとがき

はい、あとがきです。

速水さんvs千葉くんを書いてみたかったので書きました。
狙撃手同時の戦いって技術よりも心理戦のほうがやっぱり重要なのかなぁ……。

心理とか、一番苦手な分野です(笑)
今回もご愛読いただきありがとうございます!
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