暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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みなさん、ご愛読ありがとうございます!

——追加——
誤字報告感謝です!
毎度すみません………。
——追記——
誤字報告ありがとうございます!
どうやらルビで・・を入れたところが……みたいになっていた様です。誤記修正、ありがとうございます!



9話 ビッチの時間

 

「イリーナ・イェラビッチと申します、皆さんよろしく!!」

 

 どえらい美人がそこにいた。

 陽光を反射する様な見事なウェーブの掛かった金髪と透き通る様な白い肌、大きな瞳と高い鼻で強調された整った顔立ちの美女。

 イリーナ・イェラビッチを名乗る女教師が今日、俺たちの教室に赴任してきたのだ。

 

 ……なぜか、殺せんせーにベタ惚れした状態で。

 

 いや、ほんと、この美人とあのタコとの間に何が起きたと言うのか? 不思議な光景だ。

 けれど、この女の正体は昨日のうちから烏間先生から聞いている。実際に彼から聞いていない者たちも薄らとは気付いてる事だろう。

 あの女は殺し屋だ。

 

 俺たちには興味なんて無いんだろう。

 一応、英語を担当するALTを名乗って俺たちを見ているが、あくまで俺たちの"方"を見ているだけ。

 俺たちと目を合わせようとすらしない。

 

 直感的には分かった。分かってしまった。

 俺はこの人が嫌いだと。

 

「本格的な外国語に触れさせたいという学校(・・)からの要望だ。今日から英語の授業の半分は彼女が受け持つことになる」

 

「……そう言う事なら仕方ありませんねぇ」

 

 一応の建前を烏間先生が話しているが、聞けば聞くほどにきな臭い話だ。

 だって、ここは本校舎から見捨てられた生徒の集う特別強化学級だ。そんなところに態々、ALTを派遣するなんて普段のE組への扱いを考えればあり得ないとすぐに分かる。

 

 それに、あんな動きづらそうな服を着てる癖にこの校舎までの決して平坦ではない道のりを汗一つかかずに登り切れるものか? 

 汗は拭いた可能性はあるが、あの格好から察するに外履はヒールだろう。ヒールであの山道を踏破する奴が只者である筈がない。

 

 ……いや。まあ、殺せんせーが運んだ可能性は否定できないけど。

 

 などと考えてる間も殺せんせーと殺し屋女教師なんてとんでもない属性を持った女がイチャコラしてる。

 そういえば殺せんせーに色仕掛けって効くのかな? とか思ったりしたけど、見た感じ、バッチリ通じてるらしい。

 タコの癖に人間相手に欲情すんのかい。いつだったかに考えた渚との触手プレイも現実味を帯びて来たぞ。

 

「あぁ、見れば見るほどに素敵……! その正露丸みたいなつぶらな瞳、曖昧な関節……! 私、もう虜になってしまいそう〜!」

 

「いやぁ、照れますねぇ」

 

(((騙されないで、殺せんせー。そこがツボな女なんて絶対にいないから!!)))

 

 なんだろう。女子たちの心の叫びが聞こえた気がした。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 昼休み、俺は烏間先生に絡みに行こうと思ったのだが、なにやらただならない雰囲気の烏間先生とイリーナ先生が校庭で暗殺に興じる皆んなを見て話し合っていた。

 

「あの、烏間先生。今いいでしょうか?」

 

 念のため、一声かけると2人がこっちを向く。

 朝から昼休みまでの計4時間、俺は何度か職員室に行ったのだが、その間、このイリーナ・イェラビッチという教師とは一度たりとも目が合うことはなかった。

 その女が、今、初めて俺に興味を向けたらしい。

 

「アンタが乃咲?」

 

「そうだ。乃咲圭一くん。この教室で初めて奴の触手を破壊した人物だ」

 

「ふぅん。貰った資料には目を通したけど、アンタ。あの乃咲新一の子供なんだって?」

 

「だったらなんだよ」

 

 やっとこっちを見たと思ったら、余計な情報が飛び出して来たので思わず低い声を出してしまう。

 教師相手に不味いとは思ったが、ここは不良のレッテルに甘えるとしよう。そもそも、この人は殺し屋。言ってしまえば殺人鬼。気を許せる筈がない。

 それに、さっき殺せんせーに見せていた態度と今の態度が違い過ぎる。確実にこっちの素っ気ないというか、冷たい側面が素だろう。

 

 もっとも、女ってのは惚れた相手とその他大勢に対しては態度が変わるって言うし。この女が殺せんせーにガチ惚れしてるってんなら話は変わってくるけれど。

 

「アンタ、純粋な日本人じゃないわね?」

 

「母方の祖母が西洋系でして。自分はクォーターって奴なもんで。この髪は母方の遺伝です」

 

「そ。将来が楽しみね。そんで、話は変わるけど、あのタコの触手を破壊した時、なにか特別に気をつけていたことってあるのかしら?」

 

 本当に急に話が変わった。

 関係のない話から、触手破壊した時の話への転換は流れる様に行われた。これがコミュニケーション能力って奴なんだろうか? 

 

「いえ、別に。ただ、潮田渚って奴が殺せんせー……あのタコの弱点をまとめたメモを作ってます。俺はその弱点メモと現場の状況を当てはめただけですよ」

 

「ふーん、潮田……潮田……あぁ、あの男か女か判り辛い奴のことね。オッケー、一応礼を言ってあげるわ」

 

 ガチもんの殺し屋とあまり関わり合いになりたくなかったので聞かれたことを全て話すと、イリーナ先生は以外に割と素直にお礼を言った。

 お礼を言ってくれたのだが、その後の行動が完全に、対処不能なほどに予想外だった。

 

「ん……」

 

「んむぅぐぅ!?」

 

 お礼を言った後、早速、渚に絡みに行こうとしたのかと思って歩き出したイリーナ先生を見送ろうとしたのだか、彼女は何故だか、俺の方に近づいて来て、何が何だか判断できないうちにキスされた。

 もう一度言う。キスされた。

 何を言ってるかわからないと思うが俺も何が起こっているのか分からない。

 

 しかもだ。なにか柔らかい物が唇に触れたなーって思った瞬間、唇の間を何かヌメッと熱くて柔らかい物がこじ開けて、口内に入って来た。

 口内に溜まった唾液を舐め取る様に口の中をイリーナ先生の舌が蹂躙してくる中、なす術なく呆然としていると、頭の中が白く染まって来た。

 

「んむふぅぁ……」    

 

 意識が遠のくと同時に唇が離される。 

 ディープなキスの所為でまともに酸素が吸えなかった肺が悲鳴を上げているのが分かる。

 

「あら、最近の若い子はこの程度でへばるのね。てっきりもっと進んでるもんだとばかり思ってたわ」

 

 そんな捨て台詞が鼓膜を叩くと同時に俺の意識はもう、どうしようもないほどに真っ白に染まっていた。

 

「乃咲くん!? 大丈夫か、乃咲くん!」

 

 烏間先生、もう少し早く助けて欲しかった……。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「殺せんせー!」

 

 みんなで暗殺していると、聞きなれない声が聞こえて来た。誰だろう? そんな問いは必要ない。

 だって、この教室で一番の新参者。明らかに堅気ではない女性教師。イリーナ・イェラビッチ先生その人だったから。

 

「烏間先生と乃咲くんから聞きましたわ! とっても足が速いんですってね!」

 

 ……乃咲? もうこの人と接触してたの? 

 

「いやぁ、それほどでもないです」

 

「お願いがあるの! 実は私、一度でいいから本場ベトナムのコーヒーを飲んでみたくってぇ。私が英語を教えている間に買って来て貰えないですか?」

 

「お安い御用です! ベトナムに良い店を知ってますから!」

 

 バビュン! と凄まじい音と風圧を残して飛び去る殺せんせー。呆気にとられる僕ら。残された僕らに始業を知らせるチャイムが鳴る。

 

「あ、あの。イリーナ先生? 教室に戻りません? チャイム鳴ったし」

 

「……はぁ」

 

 チャイムが鳴っても動く素振りのない先生に学級委員らしく磯貝くんが口を開くと今度はわざとらしい溜息を吐く。

 

「面倒だから自習でもしてなさいな」

 

「……え?」

 

「それと、気安くファーストネームで呼ばないでくれる? イェラビッチお姉様とでも呼びなさい」

 

 クラスメイトたちが絶句する。殺せんせーの前でのキャラと余りにも違いすぎているから。けど、そんな中でも平然と普段通りの口調を崩さない問題児がここに1人……。

 

「んで、どーするのビッチ姉さん」

 

「略すな!!」

 

 流石だ、カルマくん。この場でこんな返しが出来るのは彼か乃咲くらいなもんだろう。

 というか、その乃咲は何処に行ったの? 

 

「俺ら全員でも殺せないタコをアンタ1人で殺せるわけ?」

 

「……ふん。ガキねぇ。大人には大人の殺し方ってのがあるのよ。あのタコには色仕掛けが通じるみたいだし、私の本分だわ」

 

 吐き捨てる様にいうビッチ姉さんが不意に視線を僕に向ける。なんだか、獲物を見つけた猛禽類の様な目に思わず身震い。

 

「アンタが潮田渚でしょう? さっき乃咲から聞いたわよ。あのタコの弱点メモってるんだって?」

 

「えっ……んむぁ!?」

 

「うそっ!?」

 

「……へぇ」

 

 急にキスされた。それもただのキスではない。口の中に舌まで入れるディープな奴。

 思わず突き飛ばそうとかそんなのすら考えられずになすがままキスされていると意識が飛びそうになった。

 

「あら? 乃咲はこれで意識が飛んでたのに。辛抱強いのね」

 

「羨ましいぞ乃咲ぃ!」

 

 岡島くんが発狂する。

 僕は初めてのキスがだいぶ衝撃展開だったので惚けてしまっていると、ビッチ姉さんは高らかに宣言する。

 

「いい? 私の暗殺に協力するって奴には相応の報酬をあげるわ。男にはこんな風に良い思いをさせてあげるし、女子には男を貸してあげる。まあ、強制的に喋らせる方法なんて、いくらでもあるけどね」

 

 そんな声と共に裏山の方から3人の男が歩いて来た。

 屈強で、明らかに堅気ではない人たち。

 

「技術も人脈もあるのがプロの殺し屋よ。協力する気のないガキどもは外で拝んでなさい。邪魔するなら……殺すわよ」

 

 男の1人から小さいリボルバーを受け取ると僕らに殺すと宣言したビッチ姉さん。

 僕らは本物の殺し屋の「殺す」って言葉の重みを感じると同時に思った。『この先生は嫌いだ』と。

 

 ただ、その後に僕らが何か出来るはずもなく、一応は教室に戻った僕らと、教卓の椅子に座って仕事のプランを見直してるらしい。

 戻る途中で職員室に呼び出されて弱点メモの中身を吐かされた僕には疑問があった。職員室に烏間先生がいなかったことと、授業が始まっても乃咲が戻って来てなかったこと。

 

 そんな僕の疑問に気付くわけもなく、なにか一人でクスクス笑ってるビッチ姉さんに岡野さんが口を開く。

 

「ねぇビッチ姉さん授業してよ」

 

「そうだよビッチ姉さん」

 

 みんながビッチビッチ言うもんだからキレたらしいビッチ姉さんが言葉を荒げる。

 

「づぁぁぁぁー! ビッチビッチうるさいわねぇ!」

 

「でも一応はここじゃあ先生なんだろ、ビッチ姉さん」

 

「うるさいわねぇ! そもそもアンタら日本人の発音がおかしいのよ! VとBの発音の違いもわからないのね!? もういい。正しいVの発音を教えてあげるわ、ほら、下唇を軽く噛んで」

 

 ようやく授業らしいことが始まったので、言われた通りにすると予想外のその後の対応に僕らはイラついた。

 

「そうそう。そうしておけば静かでいいわ」

 

(((なんなんだ、この授業……!!)))

 

 とかなんとかしてると教室の扉が開き、ふらふらした乃咲が戻って来た。

 

「あら、乃咲。アンタ遅刻よ」

 

(((授業らしい授業してない癖に!)))

 

「はぁい、すみまてぇーん」

 

「乃咲!?」

 

 変わり果てた乃咲の姿に全員が思わず叫んだ。

 教室の外には何やら心配そうに乃咲を見て頭を抱える烏間先生の姿がある。

 

「の、乃咲ぃ! ビッチ姉さんとディープなのしたんだって!? どうだったんだよ!」

 

 岡島くんのダル絡みにも何処かほわっとした乃咲は気にも留めることなく、ただ一言。

 

「……真っ白になった」

 

「羨ましいぞこのヤロー!!」

 

「止めろよ〜」

 

「べぶっ!?」

 

「岡島ぁぁぁ!!?」

 

 その後、岡島くんにガックンガックンと揺らされまくった乃咲が彼を反射的に投げ飛ばしたり、それで元に戻ったかと思えば椅子に座る時に体制崩してひっくり返った乃咲に磯貝くんが駆け寄ったりと5時間目の英語は一切、授業が進まなかった。

 

 そして迎えた6時間目の体育の時間。

 

「烏間先生。私たち、あの人嫌いです」

 

 片岡さんが容赦ない一言を烏間先生に言い放つ。

 

「んぁ〜、なんか意識がぼーっとする。主にビッチさんにキスされたあとくらいから」

 

「の、乃咲くん。大丈夫?」

 

「え、うん」

 

 乃咲はようやく元に戻ったらしい。

 射撃訓練に元気よく参加している。

 

「お、おい見ろよ! ビッチ姉さんが!」

 

「殺せんせーを体育倉庫に連れ込んでる!?」

 

「……なんか幻滅。殺せんせーあんな人に騙されちゃう人なんだ」

 

「烏間先生、どうにかなりませんか? 俺たち今年受験なのに、このままじゃ勉強できないですよ」

 

 磯貝くんも苦言を呈するが、烏間先生は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「すまない。殺しに関してはプロである彼女に一任しろと国からの指示が来ていてな。勉強環境に関しては最大限、改善を試みるがイリーナは上からの指示がない限りは余程のことがない限り、解任はできない」

 

「……なあ、あの人ってそんな酷い人なの?」

 

 昼休み、5時間目と居なかった乃咲が聞いて来たので昼休みまでの出来事をすべて話して聞かせる。

 

「……烏間先生。渚たちは銃を持ってるビッチに『殺す』って脅されたらしいんですけど。これって余程なことではないんですか? 本物の殺し屋が銃を持って中学生を脅してる訳ですが」

 

 話し終えると乃咲のリアクションは早かった。

 的確に起こったことを烏間先生に躊躇いなく問い掛ける。さっきまで惚けていたのにこの切り替えと思考の速さ。本当に乃咲は地頭がいい。

 これで『100点ですけど? 5教科の合計で』とか言ってるんだから本気で言ってるのか疑わしいところだ。

 

「それは把握していなかった。すまない。そこに関しては全力で改善しよう。キミらの安全を守るのはまず第一の優先事項だ」

 

「お願いします」

 

 烏間先生と乃咲の言葉のやり取りに呆気に取られていると体育倉庫からけたたましい銃声と煙が上がった。

 まさか実弾を使ったのか? 疑問に思うと同時に今度は酷く下品な音が聞こえて来た。ヌルヌルヌチョヌチョと激しい粘液の音が響いた。

 

「な、なにが起きてるんだ!?」

 

「行ってみようぜ!」

 

 岡島くんと前原くん。エロい話が好きな2人が率先して駆け寄るので、その後ろ姿を僕らも追うと、体育倉庫からブルマと運動着、鉢巻き姿にされたビッチ姉さんが出て来た。

 

「まさかうねる触手と粘液で小顔効果のあるマッサージされて、リンパを刺激されて……あんなことや、こんなことまで……」

 

 不安な一言を残して倒れたビッチ姉さん。

 遅れて体育倉庫から出て来た殺せんせーの顔の色は薄いピンク色。エロいことを考えてる時の顔だ。

 

「何したの、殺せんせー」

 

「……さぁね。大人には大人の手入れがありますから」

 

「悪い大人の顔だ!」

 

「……まじか、実写触手プレイ。見てみたかった」

 

「乃咲のそのちょいちょい出てくるアブノーマルな趣味はなんなの!?」

 

 乃咲のアブノーマルな趣向もそこそこに、その後、倒れたビッチ先生を放置して僕らは教室に戻ることにした。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 どうやらビッチ姉さんというのはカルマの命名だったらしい。ちなみに、その当のビッチ姉さんと言えば……。

 

「ブツブツ…………」

 

 昨日の暗殺失敗が尾を引いてるらしい。 

 爪を噛みながらブツブツと言っていた。

 

「ははは、必死だねぇ。ビッチ姉さん」

 

 カルマが煽るが反応はしない。

 このままでは埒が開かない。

 

 今は英語の授業中なのだが、昨日も今日も英語の授業が進んでいない所為でクラスのみんながピリついてる。

 ちなみに俺はピリついてはいない。だって学年最下位だし、今更まじめに授業受けても体育以外は追いつかないだろうから。

 

 しかし、周りは違う。

 

「あの、先生。授業してくれません? してくれないならせめて殺せんせーと変わってくれませんか? 俺たち、一応今年は受験なので」

 

 磯貝が先頭を切って頼んでみるが、それがビッチ姉さんの中の逆鱗に触れたようで、彼女はヒートアップした。

 

「はっ? 授業? アンタらお子様はお気楽で良いわねぇ」

 

「……え?」

 

 お気楽呼ばわりされて惚けた反応する面々。

 そんなみんなの反応を気にしてないのか、気付いていないのか、ビッチ姉さんは言葉を続けた。

 

「分かってるの? あの破壊生物は来年には地球を滅ぼすのよ? それでもアイツに教わりたい訳? ガキは平和で良いわよねぇ」

 

「何が言いたいの?」

 

「地球滅亡と受験を比べられるアンタらが羨ましいなと思ったのよ。だってそうでしょ? 私も烏間も、他にもいろんな奴らがアイツを殺すのに躍起になってるのに、アンタらは勉強勉強って」

 

「それは……」

 

 このビッチ、痛いところを突く。

 言ってることはその通りだ。俺たちは殺し屋といっても彼女にとってはアマチュア。実績のない自称暗殺者に過ぎないだろう。

 彼女の言ってる通り、烏間先生もその他の俺たちに見えないところにいる連中もきっと、殺せんせーを殺すのに躍起になってるのだろう。

 

 恐らくは、この仕事を受ける過程でそう言った人らを見てるのかもしれない。もしくはそんな事態で殺せんせーを殺すと言う大任を任された自分の仕事への自負もあるのだろうか。

 烏間先生がプロ同士として俺たちに向き合ってくれていても、彼女にとっては俺たちはアマチュア。心持ちが全然違うことの現れでもあるのかもしれない。

 

 事実、俺たちの暗殺には笑顔が付きものだし、失敗を活かせる"次回"がこの一年の間に何度もある。プロたちにはない、次の機会が何度もある。

 地球を破壊するモンスターをどうこう以前に殺すという行為への覚悟の足らなさを全面的に責めているのであれば、ビッチ姉さんの言葉はそう言う意味で的確だった。

 

 だがしかし、その後の言葉は余計だった。

 

「それにアンタらE組ってこの学校の落ちこぼれなんでしょ? だったら勉強なんかよりも暗殺に力を入れた方が有意義じゃない?」

 

「っ!」

 

「アンタら全員私に協力なさいよ。そうだわ、1人につき500万円あげる。アンタらがこの先一生目にすることのない大金よ? 無駄な勉強するよりよっぽど有益——」

 

 言い終える前に、ビッチ姉さんの言葉を遮るかの如く一つの消しゴムが彼女の耳一つ程横に飛んでゆき、黒板に当たって床に落ちる。

 そう、彼女の言葉は正論だ。大人気なくはあるが、極論ではあるが、正論だ。正論だからこそ、人は反感を抱く。まして精神的に未熟な中学生がそんな言葉に素直に頷けるはずがない。

 

「出てけよ」

 

 怒りを感じさせる呟きが教室に木霊する。

 

「そうだ! 出てけぇ!」

 

「そうだそうだ! 巨乳なんていらない!」

 

「茅野だけ言ってることおかしいよ!?」

 

「俺と渚のファーストキスを返せぇ!」

 

「贅沢言ってんなよ、乃咲ぃ!」

 

 こうして無事に学級崩壊したわけだが、俺はと言うと、正直に言ってビッチ姉さんの技術には興味があった。

 最近、烏間先生との訓練で度々発生する、世界が遅れるような感覚が昨日、ビッチ姉さんに接近されてからキスされるまで起こらなかったこと。それが少し不可解だった。

 あの現象が発生する条件は今のところ、"ヤバい"と俺が極限まで緊張することなんだと思う。

 初めて発生したのはカルマの投身自殺紛いの暗殺時、2回目以降は烏間先生との訓練中に"ヤバい負ける"と思った時。

 これは俺の警戒心が極限まで高まってる時に起こっているのだろう。恐らくは、だけど。

 

「…………」

 

 つまり、それが発生しなかった昨日のキスまでの一連の流れは俺がビッチ姉さんを警戒しきれなかったことが原因なんだろう。

 しかし妙だ。昨日も思った通り、あの人はプロの殺し屋、殺し屋といえば格好いいが本質は殺人鬼。俺もそんなことは理解してたし、警戒してたはずなのに、その警戒を正面からすり抜けて来た。

 あの人の警戒心をすり抜ける技術は近接での暗殺をするのにこの上なく役に立つスキルだろう。

 

 しかし、どうするよ。あの人にどうやって近づくよ? みんな揃って学級崩壊させた訳だし、それ以前に邪魔したら殺す宣言されてるらしいし、なにが邪魔扱いされるか分からないもんな。

 

 俺は思考放棄してみんなと素直に学級崩壊した。

 

 

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