暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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なんか、すんごい伸びてる……!?
UAが6900件、お気に入りが165件を超えてました……。
加えて評価バーに赤い色が付き、感想で教えてもらったんですが、日間ランキングに掲載された時間もあったそうです……。

皆様、応援と誤字報告・高評価、ありがとうございます!
今後とも妄想をバシバシ投稿していきますのでよろしくお願いします! 

——追記——
誤字報告ありがとうございます!
どうやらルビで・・を入れたところが……みたいになっていた様です。誤記修正、ありがとうございます!


14話 支配者の時間

 

 E組校舎に我が校のラスボスが現れた。

 さて、俺はどうするべきだろう? 

 

「乃咲くん。ここにルービックキューブがある。この六面体の色を揃えたい。一度に沢山、誰にでも出来る方法で。キミはどうする?」

 

 ラスボスはパルプンテを唱えた。

 

 さて、どうしてこうなったのか。

 俺は6時間目の授業開始時に遡る。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「「「さて、始めましょうか」」」

 

 全校集会が終わった後の6時間目。

 辛うじて6時間目開始直前に全員揃った俺たちが席に着くと殺せんせーが鉢巻してクラスの人数と同数まで分散して言い放つ。

 やる気満々、頭に巻いた鉢巻きには国、数、英、理、社とNARUTOが2人。5教科の頭だけならテスト勉強だと理解できたが、NARUTOがいることで想像が難しくなった。 

 

「何をです?」

 

 磯貝が代表して聞く。

 すると、分身が一人一人声を出して答えてくれる。殺せんせー、なんか、凄い器用なことしてるよな。

 分身とか言っても、厳密に言えば高速移動の産物の残像だ。つまりは俺たちの見えている殺せんせーの分身の位置を高速移動して反復移動しているのがこの残像の原理なわけだが……。

 

「学校の中間テストが迫って来ました」

 

「そうそう」

 

「そんな訳でこの時間は」

 

「「「さぁ! 高速強化テスト勉強を行います!」」」

 

 こんな風に俺たちに聞き取れるように残像一つ一つ喋らすとなると各残像の位置で聞き取れるように言葉を一音一音繋げているのでは? 

 凄まじく器用なことをこともなげにさらりとやり遂げる殺せんせーであった。

 

「先生の分身が1人ずつマンツーマンでそれぞれの苦手科目を徹底して復習します」

 

 殺せんせーの分身がそれぞれの下やってくる。国語6人、数学8人、社会3人、理科4人、英語4人、NARUTO2人。

 そして、数秒前に俺の頭を悩ませたNARUTOが何故だか俺と寺坂の前に来た。

 

「なんで俺と乃咲だけNARUTOなんだよ!?」

 

「君達は苦手科目が複数ありますからねぇ。特別コースです。遠慮なさらずに」

 

「余計なお世話だわ!」

 

 寺坂、今日も元気だなぁ。

 今日も元気よく一丁前に殺せんせーへ反発する寺坂をいつものように微笑ましく見守りながら、俺は殺せんせーの言うように教科書を開く。

 殺せんせーは俺を乃咲圭一として見てくれる。あの父親のことを関係なく一生徒として見てくれる。

 だからやる気が出たんだ。呪いのように付けられていた『乃咲新一の息子』というレッテルを無視して接してくれたから、こんな風に期待されるのなら自分の力で出来る範囲で答えたい。

 

 そう思いながら指示された問題を解く。

 出されたのは数学の証明問題。殺せんせーが来る前に習った様な気がしない訳でもない問題だ。やり方は正直、覚えてない。

 

「殺せんせー、この証明って」

 

「うんうん。証明はまず、段階分けして考えて見ましょう。今からマーカーで色を付けるのでその部分を1つ1つ考えて見てください?」

 

 問われた部分を言われた通りに考える。ノートの端に殺せんせーがそれぞれの考え方のコツを書いてくれたのでそのメモと教科書とで睨めっこ。

 そして答えを導き出す。ノートに式と証明の内容を書き写すが、かなり時間をかけてしまった。

 かけてしまったと思ったのだが……。

 

「おや、もう終わったんですね。ふむ、答えも合っています。では、少し応用問題を出しましょう」

 

 殺せんせーはこんなことを言う。

 言われて時計を見るが、時計の秒針は一周もしていなかった。最近、こんな事が多い。

 もしかすると、カルマが崖から落ちた時や、烏間先生との訓練でヤバいと感じた時に訪れるあの感覚が無自覚のうちにやって来たのかもしれない。

 

 そう思いながら問題を解く。

 これまた俺の中ではとんでもない時間が過ぎたはず、少なくとも感覚的には過ぎたはずなのに、ノートに書き写す頃には秒針が漸く一周した所だった。

 

「……どうしましたか? 乃咲くん。何か悩みでも?」

 

 慣れない感覚に首を傾げていると、殺せんせーが気にしてくれたらしく声をかけてくる。

 ちょうど良いのでこれまであったことを説明してみる。カルマが崖から落ちた時からヤバいと思った瞬間に世界が止まって見える様な感覚に襲われる事、考え事をしていると長時間過ぎた感覚があるのに実際はそんなに時間が経ってないことが頻発していること。

 

 すると、殺せんせーは訳知り顔で頷いて答えてくれた。かなり手短に、たった一言で結論から。

 

「キミはゾーンに入りやすいのでは?」

 

「ゾーン?」

 

「野球漫画やバトル漫画でよくあるでしょう? 最終決戦、次の一撃で決着が着く瞬間、主人公の見える景色が変わる。何もかもがスローモーション、あるいは止まって見えるって展開です」

 

「あー」

 

 言われてみれば漫画なんかでは良くある展開だ。野球漫画だと2アウト満塁、2ストライク。後一回の空振りやアウトでゲームセットって展開でライバルキャラのピッチャーが投げたボールがスローモーションに見えるって展開は。

 

「火事場の馬鹿力とも言いますがね。キミの集中力の高さは赴任した当初から感じていましたが、よもやゾーンに入る程とは」

 

「そのゾーンって奴は誰でもよくある事?」

 

「人によるでしょうが、誰でも入れる訳ではないでしょうね。スポーツ選手なら数回あるかどうかってところでは?」

 

 殺せんせーの言葉に驚く。

 そうか、この感覚をゾーンというのか。

 

「ヌルフフフ、やはりこのクラスの生徒は人知れない才能が多い。これだから教師の仕事は面白いのです」

 

 ヌルヌル動いている触手を関節を鳴らすようにポキポキとならすと殺せんせーが言い放つ。

 

「その自分と周囲の時間感覚のズレに関しては腕時計をつける事で解消しましょう。何か考え過ぎたと思ったら時計を見る。そんな癖を付ければ徐々に慣れて行く筈です」

 

「腕時計か……分かりました」

 

 今日の帰りにでも百均で腕時計を買って帰ろう。

 

「しかし乃咲くん? それは間違いなくキミの才能ですが、使い過ぎは身体に良くありません。人より多く考えられるということは人よりも疲れやすいと言う事ですからね。考え過ぎてないかを考え、自分にストップをかけることも大事ですよ」

 

「はい、気を付けます」

 

 とは言っても、考えてる時にそんな事を頭に留める余裕があるかどうかだけどね。

 しかし、そうか、俺の集中力はそんなレベルなのか。もしかするとこれまでも知らないうちにゾーンに入る事があったりしたのかもしれない。

 

 たが、考えようによってはこれはとんでもない長所になる。人よりも多い時間を考えられるんだから、それを勉強に回せば、それだけ他人よりも勉強を身につけられるってこと。

 今の俺は1年の問題すら危ういわけだし、いっそのこと、テストまでの間、放課後の烏間先生の訓練を殺せんせーの勉強にシフトしたほうが良いかもしれない。

 

 それと、今後は意識してゾーンに入る訓練も必要だろう。トリガーは分かってるんだから、あとは意識するだけだ。

 

 などと考えながら時計を見る。

 また、時間は進んでいなかった。

 

 なんと言うか、普段の勉強をどれだけ考えずにやっていたのかが分かるな。ちょっと考えただけでこんなに時間がゆっくり感じられるのに。

 

「さて、では勉強に戻りましょう」

 

「はい」

 

 その後、俺は何度か意図的にゾーンに入り、またある時はたまたまゾーンに入りながら勉強を進めた。

 ただ、殺せんせーの言う通り、周りにとっての1時間が自分にとっての数十時間であると言うのは確かに身体に悪いらしい。

 ちょっとばっかし知恵熱ちっくな頭痛がする。

 にしても、まさか自分にこんな特技があるとは思ってなかった。不思議なこともあるもんだ。

 

 こうして6時間目は終わった。

 自分の謎の才能を認知した訳だが、まさか、この才能がまさかあんな事件招くことになるとは今の俺は思いもしなかった……なんてな。

 

 俺は6時間目が終わったその足で殺せんせーを捕まえ、授業中に考えた様に放課後は勉強に充てようと思ったので烏間先生にその旨を伝えようと職員室の扉を開くと…………。

 

「やあ、久しぶりだねぇ、乃咲くん。それとあなたが殺せんせーですね」

 

「ご、ご無沙汰してます。浅野先生」

 

 そこにはラスボスがいたのだった。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「乃咲くん。ここにルービックキューブがある。この六面体の色を揃えたい。一度に沢山、誰にでも出来る方法で。キミはどうする?」

 

 と冒頭に戻る。

 何故、ラスボスがこんなところにいるのか。

 この人は浅野學峯。この椚ヶ丘学園の理事長であり、浅野学秀の実の父親。

 息子がこの学校の生徒の支配者なら彼はこの学園全ての支配者といっても差し支えない存在。

 

 そんな人からルービックキューブを一つ、放り投げられた。さて、どうするべきか? 

 この人の要求は効率よく色を揃えろって事だよな? 椅子に座ってる浅野理事長先生の足下にはルービックキューブの残骸があるし、手にはマイナスドライバーが握られてるから、どうせ、分解して並べ直すのが合理的だ、みたいな事をやったんだろう、たぶん。

 だったらやることは一つだ。

 

「殺せんせー、プロッキーマーカー貸してください。色は気にしないで良いので」

 

「はい、どうぞ」

 

「どうも」

 

 俺は殺せんせーから借りたマーカーペンの太い方を出して、雑に一面を塗ったくって黒一色になった面を浅野理事長に見せつける。

 

「俺は上から色を塗り替えます。ペンキか墨汁にでもあれば漬けてやるだけで1秒と掛からず色が揃いますよ。ペンキは無理でも墨汁なら小学生でも持ってますし、ある程度の指示を理解できる歳なら誰にでも出来る、一度に沢山の面を同じ色に揃えられますよね」

 

「なるほど、面白い答えだ」

 

「ご期待に応えられた様で何よりです」

 

 どうやら満足させられたらしい。

 ラスボスは満足そうに微笑んだ。微笑んだと言うか、ほくそ笑んだと言うべきか。

 でも、満足したのは確からしく、比較的目が笑ってないこの人にしては珍しく、目が笑っていた。

 

「あの……、この方は?」

 

 さっきから話に置いてきぼりな殺せんせーが申し訳なさそうにおずおずと聞いて来たので、手短に答える。

 

「浅野學峯先生。この学校の理事長です」

 

「り、理事長!!?」

 

 俺の言葉に慌てた様に出欠簿を机に置くと椅子に足を組んで座る浅野先生の肩を揉み、靴を磨き出す殺せんせー。

 きっとこの場に渚がいたら弱点メモに追記することだろう。『上司には下手に出る』みたいな感じで。

 

「こんな山奥までお疲れ様です! モミモミ……! それはそれとして私の給料もうちょっと上がりませんかねモミモミ……!」

 

 殺せんせー、マジで給料で暮らしてんのか。んでもって、浅野先生もこの人に給料払ってたのかよ。

 いつだったか誰かがツッコミ入れてたが、本当になんで地球を滅ぼす超生物が給料で暮らしてるんだか……。

 

 そんな事を思っていると、浅野先生は立ち上がり、殺せんせーに正面から向き合うと徐に口を開く。

 

「こちらこそ初めまして、殺せんせー。あなたの事はそこの烏間さんからよく伺っています。いやはや、悲しい生物(おかた)ですね。地球を救う救世主になるつもりが、滅ぼす巨悪に成り果てるとは」

 

「す、救う?」

 

「おや、何も聞いていないのかい?」

 

 なんか滅ぼすのと対極的な言葉が飛び出して来たので思わず浅野先生を見るが、彼は肩をすくめると烏間先生に丸投げするように視線を彼に向けた。

 一方で烏間先生は何事もなかったかな様に静かに言葉を紡いで口を開いた。

 

「生徒たちには暗殺する上で優位になる情報を開示してますので。政府のゴタゴタにこれ以上子供達を巻き込む事は貴方としても本意ではないでしょう?」

 

「ええ。生徒たちの安全を第一にしてください。それさえ保証してもらえれば私から言うと事はありません。全てを理解する学も持ち合わせていませんし、あなた方からは充分な口止め料も貰ってますからね」

 

「……助かってます」

 

 烏間先生の牽制と浅野先生ののらりくらりした態度。この2人のやり取りから察するに殺せんせーの正体について烏間先生は意図的に伏せている部分があるってことで確定かな。

 だが、その真意に迫る事は烏間先生のセリフを借りるなら『政府のゴタゴタ』に巻き込まれるってことなんだろう。そしてそうなる事で少なくとも俺たちに不利益が出ると。

 

 それらを無視して考えるなら、浅野先生の言葉は俺の考察を進めるのにかなり重要なパーツだった。

 前に殺せんせーが人体実験の果てに今の姿になった、と考察した事があったが、もしかしたら、その実験の目的は地球を救う事だったのではないだろうか? 考えようはいくらでもある。

 

 今の地球の命運に関わる事といえば地球温暖化、つまりはエネルギー問題な訳だが……。

 以前、月を爆破したのは殺せんせーの同種が暴走して死んだから、みたいな事を考えた。あの月の形を変えてしまうほどのエネルギーや来年の3月に地球を滅ぼすという殺せんせーのエネルギーも元々はそう言うエネルギー問題を解決するための物だとしたら? 

 

 人体実験は成功、殺せんせーはエネルギーを内包することに成功したが月で殺せんせーと同様の実験を受けていた何者かが暴走して死亡し、それに伴ってエネルギーが爆発、月の形が変わったのだとしたら? 

 きっと実験の成功体である殺せんせーの抹殺が決定されるだろう。そんな展開になっても不思議じゃない。というか充分にあり得る筈だろう。

 

 そもそも地球温暖化の根本的原因のエネルギー問題を解決しようとする企業は数あれど、月での実験ができると言う事は国が関わっていると仮説しても違和感はない。

 むしろ、今の世界各国政府の首脳から暗殺を依頼されてる状況を鑑みるに、世界絡みでのプロジェクトだったと考えるのが自然だ。

 

 殺せんせーの誕生は人為的な物で、人間の実験の果てにあるものだから、理論上、彼の細胞を殺せる、対先生物質……対先生ナイフとかを作成できた、と。

 

 なるほど、確証はないけどこれまでの思考の点と点が繋がって行く様な気がする。

 まあ、本当に確証がないのが困ったところなんだけどさ。確認してもはぐらかされるだろうし。

 

「っと……」

 

 思わず長考したので時計を見る。

 どうやらまた、入っていた(・・・・・)らしい。確証の持てない考察はこの辺にしておこう。

 

「暗殺に関しては私はノータッチです。しかし、私はこの学校の長だ。そこで私が考えなければならない事は地球の命運よりも、誰かがアナタを殺せた場合のこの学園の未来です」

 

「にゅ?」

 

「率直に言えば、E組はこのままでなければ困ります」

 

「このままと言いますと、今の成績も待遇も最底辺という今の状況を?」

 

「はい、その通りです」

 

 ……時に殺せんせー、浅野理事長よ。この話は俺も聞いてて良いやつなんだよね? なんか退出タイミング逃してしまった感があるんだけどさ。

 

「乃咲くん」

 

「はい、乃咲です」

 

「キミには以前、この学校の目指す場所を教えたことがあった筈だね」

 

 話を振られたって事は、ここに居ていいって事だよな? 自問自答の末に俺は随分前にこの人から直々に教わった話を思い出しながら言葉を紡ぐ。

 

「働き蟻の法則に理事長の目指す数字を当てはめた例え話ですよね? たしか5%の怠け者と95%の働き者。5%の怠け者を徹底的に冷遇する事で、自分はあぁなりたくないと思わせる事で残りの95%を働き者にするって仕組み……でしたか?」

 

「正解。よく覚えてたね」

 

「友人の父親に呼び出された挙句、聞かされた話が世知辛い内容だったら誰でも覚えてますよ」

 

 確か、アレは俺が1年の頃。

 まだ浅野と成績で横並びだった時代に俺はこの人に呼び出されたことがある。

 まあ、たぶん、自慢の息子のライバル気取ってる奴がどんな奴か気になったってのがあるんだろう。

 理事長室に呼び出されてこんな感じの話をされたことが確かにあった。

 

「……なるほど、その5%がE組という訳ですか」

 

「その通り。E組のようにはなりたくない、E組にだけは行きたくないと95%の生徒が強く思う事で私の理想は実現されている」

 

「合理的です。だから、E組には今の弱くて惨めなままでいて貰わなくては困ると」

 

「そう言う事です。先ほど、D組の担任から苦情が来ましてね。『E組の生徒に殺すぞ、と脅された。すごい目で睨まれた』とね」

 

 それは紛う事なき風評被害だろう。

 たぶん、さっきの渚のことだ。まあ、あいつがしたことと言えば本当に殺そうとしたことあるの? という問いかけの様なものだった訳だから、渚だと確定した訳じゃない。

 案外カルマとか……あー、カルマなら喧嘩に売り言葉に買い言葉で確かにやりそうではあるな。

 

「暗殺をしているのだからそう言う目つきも身につくでしょう。それはそれで結構。問題は一般生徒に最底辺の生徒が逆らったということ。それは私の方針では許されない。以後、厳しく慎む様にお伝え下さい」

 

 言いたいことだけ言ってスッキリしたのか、俺の横を通りかかりながら『勉強頑張りなさい』と残すと浅野理事長は職員室を出る……かと思いきや、不意に殺せんせーに振り向いて、何かを投げた。

 

「そうだ、殺せんせー。1秒以内に解いてくださいっ!」

 

 なんだなんだと、思わず目を凝らして見る。

 止まった世界で中に浮いていたのは知恵の輪だった。

 

「い、いきなり!?」

 

 殺せんせーはその後、たっぷり1秒でジタバタと暴れ回り、知恵の輪を解くどころか、触手ごと知恵の輪に絡まってしまった。

 そんな殺せんせーをまじまじと見下ろしながら浅野理事長は何か現実を叩きつける様に言い放つ。

 

「噂通り、凄いスピードですね。これならどんな暗殺でも躱せそうだ」

 

 見下ろしていた姿勢から今度は地べたに転がる殺せんせーに目線を合わせる様に覗き込むと、言った。

 

「でもね、殺せんせー。この世の中ではスピードでは解決出来ない問題もあるんですよ」

 

 殺せんせーは緑のしましまになるでもなく、怒った赤になるでもなく、黄色のまま身じろぎ一つせず浅野理事長の言葉を受け止めた。

 彼は彼で、『私はこれで失礼します』と言い残すと颯爽と扉を開けて職員室から出て行ってしまった。

 

『やぁ! 中間テスト期待しているよ、頑張りなさい!』

 

 廊下から聞こえる激励の声。

 しかし、その声音は明らかに冷めている。興味はないが言っているだけ。ある種のリップサービスの様なものだと顔も見てないのに理解できた。

 

「……ターゲットとしてのお前は無敵に近い」

 

 烏間先生がポツリとこぼす。

 

「マッハ20の脅威的スピードであらゆる暗殺を交わし、仕掛けられる暗殺を完全にコントロールしていると言っても過言ではないだろうが、教師としては無敵ではない」

 

 視線が理事長の出て行ったドアに向く。

 

「この学校にはあの強力な支配者がいる。ここの教師でいる以上、お前であろうとも彼のルールからは逃れられない」

 

 烏間先生の言葉に反論するように、パキッと音を立てて知恵の輪が真っ二つに割れた。

 

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