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p.s
そろそろ当初の予定通り週1ペースでの投稿になやもしれません。
圭一と律の対話が行われた数時間後。
日中はE組の生徒と殺せんせーたちとで活気に溢れている椚ヶ丘中学校の隔離校舎。夜中は人気もなく、静かなそこにゾロゾロと白衣を着た男を先頭に無数の作業着を着た男たちが入ってくる。
しかし、夜静まり切った校舎とは言え、今は無人ではない。いや、人間ではない。正確に言えば1機。元気よく演算音を響かせていた。
草や青い小鳥、小川のせせらぎをバックグラウンドに侵入者たちをにこやかに迎え入れる1機の少女。
「こんばんは、
歌う小鳥に彼女の周りを舞う艶やかな蝶。そんな景色と律の全身を映し出す液晶モニターを見た、開発者と呼ばれた男は絶句を隠しきれずに目の前の固定砲台を見つめた。
「……何だ、これは…………」
その相貌に刻まれるのは不理解。
自分たちが設計し、組み立て、配置した時とは明らかに違うカタチに
「今すぐ
「……!?」
分解という言葉に画面内で身構える律だが、彼女には拒否するだけの力がない。
相手は開発者、危害を加えることなど一切想定してはいないのだから当然だろう。
「……ありえん。勝手に改造された上に明らかに暗殺には関係のない要素が付け足されている」
作業を進める作業者が語り出す。
自律思考固定砲台。E組の生徒たちによっても律と名付けられた彼女のルーツを。
「コイツのルーツはイージス艦の戦闘AI。人間より早く戦況を分析し、人間よりも早い総合的判断力でありとあらゆる火器を使いこなす。加えてコイツは卓越した学習能力と自分で武装を改造できる機能を持つ。その威力を実証できれば、世界のあらゆる戦争の戦況が傾く」
オーバーホールが進む中、律はたった一つの抵抗すらしない。ただ従順に殺せんせーに付け足された部品類の撤去を受け入れざるを得なかった。
律の心境など知る由もない科学者は得意げに語る。世界の戦争の情勢の変化、賞金、暗殺に成功した際について回るだろう名声を。
「賞金100億円などついでに過ぎん。この教室は最高の実験場だ。怪物殺しの結果を出せばもたらす利益は数兆円にも膨れ上がるだろう」
その笑みに隠れているのは単なる知的好奇心か、それとも将来に約束された名誉と金額への欲望か。
律を分解しながら彼は語る。
「いいか、
分解される律。とうとう全身表示の液晶パネルまで解体されたところで律がか細く返事を返した。
『はい、
昨日と同じ機械音に僅かな反抗心を抱いたままに。
翌日、教室に行くとダウングレードされたモノリスがそこにあった。何処をどう見ても何度見ても完璧に火星のモノリスみたいな建造物だな。
ダウングレードしたってことは、一昨日みたいな傍迷惑な暗殺が始まるってこと。
……どうなんだろう。
彼女のダウングレードが一体何処まで及んでいるのか、それによっては昨日行った彼女との討論や合同暗殺が泡に帰す可能性がある。
それに、昨日の夜、何が起きたのかも気になるところだ。だって、昨日は俺のスマホに電話してきて、今後の彼女を見ると約束をした筈なのだから。
律をダウングレードしたのはいつだ? 昨日晩、もしかして俺との通話を終わらせた後か?
などと思っていると烏間先生から補足が入る。
「昨日の夜、彼女の
「……まじか」
「あぁ。それからキミたちも、彼女が損傷する可能性がある行為は出来るだけ謹んでくれ。仮に砲門が展開出来ないように縛ったりして故障でもした場合は賠償を請求するそうだ」
「……ちっ」
烏間先生の言葉に舌打ちした寺坂。恐らくは昨日も傍迷惑な暗殺をしていたら烏間先生の危惧した通りに縛るつもりだったのだろう。バツが悪そうだった。
しかし、一方で烏間先生も明らかに疲れた顔をしていた。おおよそ、俺たちの学習状況と暗殺の兼ね合いを交渉してくれていたのだろう。本当に頭が下がる思いだ。
「
そんな烏間先生に殺せんせーもやりづらそうな声で答えていた。
「
触手の指先にある肉球で頬を掻く殺せんせー。そんな彼にダウングレードした律が口を開く。
『攻撃準備を始めます。どうぞ、授業に入って下さい、殺せんせー』
その声にクラスメイトたちがギョッとした。当然だ。一昨日のような傍迷惑な暗殺がまた始まる。そう考えると億劫になる気持ちも分かる。
だが、俺には少し引っかかる部分があった。
昨日、殺せんせーは彼女の根本的な部分には手を加えていないと言った。つまり、律自身が殺せんせーの改造によって俺たちとの協調を選んだのではなく、俺たちとの協調を彼女が受け入れたから殺せんせーの改造を受け入れたと言う事ではないのか?
だとしたら、今、攻撃準備をすると言い放った彼女はなんだ? オーバーホールは一体どんなレベルで行われた? 全部品を取り替えたのか、それとも追加された部分に対し必要ないと判断した物を解体するレベルで止まっているのか。
ここで彼女がまた一昨日みたいな暗殺を始めた場合、俺は彼女の何を見ればいい?
『しかし、合理的な言葉を選び続けていますが、まるで駄目です。キミには彼女への敬意や隣人としての思いやりがなかった。ただ合理的な言葉を投げ続けて説き伏せているだけです』
『人を説得するのに合理的な言葉を投げるのは悪いことではありません。確かに欲しいものを与えれば、人は思い通りに動かせるでしょうが、それではいけません。乃咲くん。キミは自律思考固定砲台さんを見ていなかった。そんな大人になってはいけませんよ』
殺せんせーの言葉が思い出される。
……律を見る。それはどう言う事なんだ?
俺は何度目になるかわからない自問をする。
そんな時だった。
『乃咲さん。見ていて下さい』
ふと、そんな声が胸ポケットに入れていたスマホから聞こえて来た。それは昨日の夜に聞いた律の声そのもの。俺は思わずスマホを盗み見たが、液晶は特になにも映さない。
しかし、俺は今、確かに聞いた。
今聞こえたのが俺の空耳でないのであれば律は今も自分の意思を持って…………いや、違う。律は初めから意思を持っていたんだった。
殺せんせーが手を加えたのはあくまで協調する為に必要だと思われる機能を追加しただけのはずだ。本人もそう言っていた事だし、それは間違いないだろう。
つまり、今の声が本当に律のものであるのならば、彼女は今もなお、自分の意思を持って行動ができているということ。
暗殺に不要と判断された部品をオーバーホールされてもなお、俺たちとの協調を望んでくれているのかもしれない。
……律の本質を考える。
今の声が聞き間違えではないのなら、昨晩のオーバーホールで律は初期化されていないことを指す。そうでなければ、昨日の『律を見る』という約束が出てくるはずがないのだ。
約束を覚えていてくれている。もしもそうなら、俺は信じて見届けてみよう。そうすれば俺たちと彼女の違いが分かるかもしれない。AIと人間の違いが。
横目で律を見守る中、律の砲門を収納するカバーが開き、その音に過敏な程に反応したクラスメイトたちは各々の行動をとる。ある者は伏せ、ある者は教科書を盾に。殺せんせーは悠然と構えている。
そんな中で、律は……花を咲かせた。
攻撃用の主砲ではなく、無数の大輪の花を咲き誇らせた律は静かに、少しばかり後めたそうな声音を発する。音質は昨日までのようなクリアなものではなかったが、しっかり抑揚の伝わる声で。
『花を作る約束をしました』
その一言と咲き誇る花々に目を奪われた生徒たちは自然と律を見つめる。皆の視線を一身に受けながら、律は淡々と語ってみせた。自身の行ったある種、偉業と呼べる内容を。
『殺せんせーは私のボディに計985点の改良を施しましたが、その殆どは暗殺に不要と判断され、
律なら声音に気付いたクラスメイトたちが顔を見合わせて、現状の考察を始める。
『
私個人。そんな単語が出て来た辺りからニヤケ顔を初めていた殺せんせーが遂に口を開く。
「素晴らしい……! つまり、"律"さん。あなたは!」
殺せんせーは彼女を自律思考固定砲台ではなく、"律"と呼んだ。その時点ですでに結論は出たも同然だ。
律の液晶に映し出された彼女は一昨日までの無機質な顔ではなく、昨日までの見せていた明るい笑顔へと変わっていた。
『はい、私は、自分の意思で
そんな律の笑顔にクラスメイトたちの顔から不安が消えた。引き換えに律の側面から咲いた花々に似た笑顔が皆の顔に溢れ出す。
そんな律の中、やはり後めたそうな声色で殺せんせーに短く問い掛けた。
『……けれど殺せんせー。こう言った行動を反抗期と言うのですよね? "律"は悪い子なんでしょうか?』
「とんでもない。中学3年生らしくて大いに結構です!」
大きな二重丸を浮かべた殺せんせー。
律はこうして改めて、クラスメイトの輪に受け入れられたのだった。
放課後、烏間先生との訓練を終えた俺はそのまま真っ直ぐに帰宅するのではなく、校舎に戻り、律の前に立っていた。
『こんにちは、乃咲さん。烏間先生との訓練、お疲れ様でした』
律の前に立つと同時にそんなことを言われて少し驚く。訓練について彼女に話していないのに。
困惑していると察したらしい律が先んじて口を開いて答えを教えてくれた。
『少しだけ倉橋さんと見ていたんです。ですから、訓練明けだろうな、と予測したまでのこと』
「……そんな風に言われると少しくすぐったいな」
そうか、見られていたのか。
背中がむず痒くなるのを感じながら俺は頬を叩き、律と向き直る。俺がここに来たのは、昨日した律を見る、という約束の答えを出す為だ。
正直、迷ってる。答えは出てないに等しい。彼女と俺たちの違いなんて足そうと思えばいくらでも出せることに気づいた。
身体が違う、声質が違う、彼女は俺たちに出来ないことができる、俺たちは彼女に出来ないことができる、などなどこんなことならいくらでも。
けれど、同じターゲットを狙う仲間として見た場合に生じる俺たちの違い、と言う奴に関しては朝一の出来事で分からなくなってしまった。
彼女は親に逆らった。
俺は親に逆らうことをしなかった。
彼女は俺に出来なかった方をした。なにより、律は約束を守ってくれた。
『私は皆さんから認めてもらえるまで単独での暗殺はしません。絶対に、です』
そう、彼女は昨日の口約束のたった一言を今日、しっかり守ってくれたのだ。
だから、ますます分からなくなってしまった。
俺たちと律。なにが違うのか。
律を見る。それがどういうことなのか、俺は本当にわからなくなってしまっていた。
「ヌルフフフフ、どうやらしっかり悩んでいるようですねぇ。乃咲くん」
「殺せんせー」
『こんばんは、殺せんせー』
「こんばんは、2人とも」
律に何かを伝えたくて彼女の前に立ったと言うのに、何を言えばいいのかわからない。
ジレンマにうなされていると殺せんせーが俺と律しか居ない教室に入って来た。
「乃咲くん。先生からの課題、答えは出ましたか」
「いいえ。全くダメです。律を見る。何をどう見るのが彼女を見ると言うことなのかが分からないんです」
素直に内心を吐露する。
事実、俺は律を……いや、律に限った話ではなく、誰かを、他人を見る、ということに関して思った以上に無頓着だったらしい。
見るって何を見ればいいの? と今でも心の底から本気で考えてしまっている。
そう思うと昨日の約束を守れていないのは俺の方なんじゃないだろうか?
「ヌルフフフフ、乃咲くん。それでは一昨日から今日までの律さんを見て思ったことを話して見てください。そんなに難しく考えず、感じたことでいいのです」
殺せんせーに言われて一昨日から思っていたことを思い出して考えてみる。
「一昨日は暗殺の仕方が傍迷惑で、磯貝や倉橋さんたちが危ないって思ったくらいです。AIだってんなら合理性を突き詰めた言葉を選べば説き伏せられる、と」
「そうですね、だからキミに言ったのです。欲しいものを与えるだけ、合理性を説くだけではいけない、とね。それでは昨日はどうでしたか?」
「昨日は……正直、調子を崩されました。殺せんせーは協調するのに必要そうなプログラム系を彼女にあげただけ。根本は何一つとして弄ってない。それなのに、話し方や表情だけで人間と話している様だと感じましたね。それが一番の驚きでした」
「ええ。だから言いましたね。彼女の本質を見る様に、と」
そう。殺せんせーに言われた。でも、その、本質を見る、と言うことが俺にとっては想像以上に難しい事だったのだ。
「キミは今日の彼女を見て、どう思いましたか?」
「……すごいと、思いました」
そう、俺は今日の彼女を見てすごいと感じた。
「それは何故?」
「親の意向に逆らうことができた彼女を見て、それは俺にはできないことだったから」
そう。俺は律を凄い奴だと思った。じゃなければ彼女の成したことに偉業なんて言葉を使ったりしない。
俺は、別に親に何をしろ、これをしろ、と言われたわけではなかった。ただ、地元で有名な私立の小学校に入って周りに言われるがままに努力して、地元から少し離れたこの場所で勝手にグレた。
親の意向という奴を感じ取るのなら、私立の小学校に入れられた時、『あぁ、勉強頑張らないと』と思ったことくらい。
それに対して成績を落とした俺は親の意向に逆らった、とも言えるのかもしれないが、それは、律のように前向きなものではなかった。
必要だと思ったから逆らった。それが俺が彼女に対して凄みを感じさせられたことなのかもしれない。
「それに、彼女は約束を守ってくれた」
「約束? どんな」
「俺たちに認めてもらえるまで、単独での暗殺を絶対にしない。昨日の夜、律が電話でそう言ったんです」
「なるほどね」
「本質を見る。それがどういうことなのか分からないけど、俺は凄いと思ったんです、殺せんせー。親の意向に逆らって、その上で俺との約束を守ってくれた律と俺たちの違いが分からなくなってしまった」
人間とAIの違い。肉体があるかどうかの差。それしかないんじゃないのか、と思えるほどに律は人間らしかった。ヒトではないけど、人間らしかったのだ。
「乃咲くん。それが人を見ると言うことです」
「……え?」
殺せんせーからの予想外の言葉に俺は首を傾げる。
「彼女が人間らしいと思えた。その結論に至れること自体が、キミが必死に彼女を見ようとしたことへの答えなのです」
「……よく、分かりません」
「ヌルフフフフ。それが人と関わるって言うことで、そのよくわからないことを知ることが楽しんですよ」
殺せんせーの言ってることは難しい。
……いや、もしかしたら俺が難しく考えすぎているのかもしれない。俺たちとの違いだとか、人間と人工知能の違いだとか。そんなことはまずは置いておくべきなんじゃないだろうか。
律は俺との約束を守ってくれた。
んで、律はクラスメイトたちから受け入れられた。
人と結んだ約束を守って貰えた時、まず言うべきことはなんだ? 俺は人としての初歩に立ち返り、律に向き直る。
「律」
『はい、なんでしょう?』
「昨日の約束、守ってくれてありがとう」
言いながら右手を差し出す。
もう、考えることが面倒くさかった。いや、いくら考えても答えが出なかったのだから、もう、強引にでも答えを、自分の力任せな答えでも出せばいいのだ。
人間と人工知能の違いが分からないのなら、どっちも同じだと思うことにしよう。だって、彼女は俺にできないことをしてのけたし、きっと、彼女に出来ないことも俺ならできるかもしれないんだから。
あるいは、初めからこうするべきだったのかも知れない。
「律、ようこそ。E組へ」
メリットだとか、デメリットだとか関係なく、初めから素直に協調の道を選んでいればこんな回りくどいことをしなくてよかったのかも知れない。
『はい、私の名前は自律思考固定砲台。律です。よろしくお願いします』
「俺は乃咲圭一。隣の席だから、なにか分からないことがあったら何でも聞いてくれ」
律の側面からアームが伸び、俺の右手を掴む。
随分と遠回りをしてしまった。きっと、初めからこうしておけばもっと早く隣人になれたのかもしれないな。
華奢な腕を握りながらそんなことを思った。
なんだかんだ、一昨日の初対面時にしていなかった自己紹介を俺たちは今、ようやくすることができたんだ。
後書き
はい!後書きです。
律編、完結です!次話から話が進みます。
お付き合いいただき、ありがとうございました!