誤字脱字の報告、評価ありがとうございます!
なんとか捻り出せたらので投稿します!
ご愛読ありがとうございます!
——追記——
誤字修正ありがとうございます!
6月も半ばに差し掛かった今日、この頃。
E組には一つの異変が起きていた。いや、別にだからと言って何か不都合があると言うわけではない程度の異変ではあるのだが。
いかんせん、視界に入る分、気になってしまう。授業を受けていれば否応なく視界に入る。
(なんかデケェ……!)
そう、殺せんせーの顔が物理的に巨大化してしまっているのである。
まだ出したばかりのシャープペンの芯を思わず折ってしまいそうになる。それほどまでにツッコミを堪えるのに必死だった。喉までツッコミが出かけている。
ついでに言えば、なんか殺せんせーの帽子が不自然に浮いている。丸で下から突き上げる様に僅かに隙間が出来ている。
なんだか、実際に声に出してツッコんでも、ツッコミどころの多さによって疲れそうなレベルだ。
『殺せんせー、その30%ほど膨張している頭部についてご説明を』
「律、ナイス指摘」
『ありがとうございます!』
誰もが突っ込みたかった部分に一足先に触れた律を思わず褒めると殺せんせーは予想外なことを言い出した。
「水分を吸ってふやけました。湿度が高いので」
「生米みてぇだな!!?」
我らのツッコミプリンス・前原が今日も鋭いツッコミを炸裂させる中、渚の暗殺メモに殺せんせーの弱点が一つ加わった。「しける」、と。
つか、マジでどうなってんだよ、あの身体……。触手の癖に吸盤じゃなくて肉球だし、粘液出るし、その癖に海産物らしからずふやけるし。
「殺せんせー、その帽子が浮いてるのは?」
「ん? あぁ、キノコです」
「それカビてるってことじゃねぇの!?」
「あ、乃咲くんがツッコンだ」
そんな一コマがあった日の帰り。
E組を騒がせる時間が起こった。
「しまった、傘壊れてる」
中学生あるある、なぜかしょっちゅう壊れる傘に遭遇してしまった俺は、折り畳みも持っていなかったので、ビニール傘を求めてコンビニに立ち寄った。
屋根の下に入ったついでに手短に濡れた髪や身体を訓練用に持っていたタオルで拭いて入店する。
折角だし、傘以外にも何か買ってみようかな、なんて気分になり、コンビニの中を彷徨き、最終的に雑誌コーナーに辿り着いた俺は、何気なくスポーツカーが表紙になっている雑誌を手に取って見た。
コンビニの雑誌コーナーは基本的にグラビアかこう言う車物、それから世界の観光名所、みたいな本で埋められてるイメージがあるのは何故だろう?
不思議に思っていると、予想していない相手が予想外に話しかけて来た。
「乃咲じゃん。お前、そう言うのに興味あるの?」
「吉田?」
寺坂グループの1人が声をかけて来たのだ。
吉田大成。たしか実家がそういう駆動系の整備をやってるって話を聞いた方があるが、やはり、この手のマシーンが好きなのか?
普段は嫌厭されていて中々話す機会がない相手だ。律の件もあるし、もう少し周りに興味を持ってみるのもいいだろう。その一環で会話に乗っかってみる。
「いや、この雑誌はたまたま手に取っただけ。だけど、車みてかっこいいなぁ、とかは普通に思うぞ、凄い厳つい排気音が聞こえるとつい振り返ってしまう程度には。まあ、そういう場合は大体、軽トラだったりするんだけどさ」
「っ! お前、話わかるじゃねぇか!」
俺の発言の何かが吉田の琴線に触れたらしく、ばしばしと肩を叩かれる。少々痛いがどうやらコミュニケーションは成功したらしい。
「じゃぁさ! お前、バイクとか興味ある?」
「無いわけじゃないな。仮面ライダー見てた奴なら大体一度はあんなバイクに乗って見たいなぁーとかは思うだろ」
「んじゃぁ、今度ウチこいよ! 乗っけてやるからさ!」
「お、おう……」
なんだコイツ。えらく上機嫌だな。
普段の関係性が関係性なので少し怪訝な表情が出てしまったらしい。吉田が少し冷静になる。
「あいや、熱くなって悪かった。うちの学校でバイクだとか車に興味ある奴が居なくてよ、つい嬉しくなっちまってさ」
なんだ、そんなことだったのか。
「いいよ別に。たまにはそんな風に話すのも悪くないだろ」
「そ、そうか。ありがとな」
そう言うと吉田は片手をあげて挨拶するとそそくさとコンビニから出て行ってしまった。
どうせなら一緒に帰ればよかったかなぁ、と思いつつ傘を買い、コンビニを出るとそこには何やら修羅場を迎えているらしい前原と浅野の取り巻きが1人の女生徒を取り合っていた。
人の恋路を……とか言うので今日はそのままスルーしようと思ったのだが、浅野の取り巻き……瀬尾が前原を蹴り飛ばしたので割って入る事にした。
「お前ら、何してるの」
「の、乃咲……!?」
「前原立て、濡れて風邪ひくぞ」
「おう……」
蹴り飛ばされて尻餅ついた前原に手を貸して立たせると、全員がバツの悪そうな顔をする。
まあ、そりゃぁ、修羅場に割って入られたら気不味いか。と1人で納得しながら状況を確認する。
「どう言う状況よ」
尋ねると電話が鳴った。
こんな時に誰だと思ってみると律が表示されたので不審に思われない様に耳にスマホを当てて話を聞く。
『前原くんとC組の土屋さんの下校中、A組の瀬尾くんが遭遇。土屋さんが途端に瀬尾くんに鞍替えした、と言ったところです。その後、E組に対する差別が始まりました。そして前原くんが蹴られた所で……』
「なるほど、俺が現れた、と」
『そうなります。本当にE組は差別されるのですね……』
「教えてくれてありがとうな、律。それとそのストーカー紛いの情報量怖いからな。俺たちの観察も程々にする様に」
『……てへ♪』
「やれやれ……」
律との通話を終えて正面の彼らを見る。
いつも通りのE組差別って所だな。
「な、なんだよ! お前には関係ないだろ」
「前原の修羅場は俺には関係ないし、リア充爆ぜろと言う感想しかないが、コイツ。仲間なんだよ、蹴られてたらそりゃあ頭に来るだろ」
「何よ!? E組に落ちた方が悪いんじゃない! 努力不足なのよ、それを責めて何が悪いの!?」
土屋さんとやらが発狂している。どうやら本人も多少前原に気が有ったのは事実だったらしく、少しバツが悪そうに顔を歪めていた。
あいや、悪いのはバツではなく、二股する頭の方か。HAHAHAって笑った方がいいのかな、ここは。
「だから集団リンチか? 一応、親切で教えておくとここは天下の往来だ。お前らの自己中天国椚ヶ丘学園じゃないからな。側から見るとただのイジメにしか見えないって自覚ある?」
「っ、なんだよE組の癖にっ!」
浅野の腰巾着の瀬尾。思った以上に度胸というか、根性があったのか、拳を固めて殴り掛かってくる。
なので、暴力にならない程度に反撃する。いつだったか高校生にやった様に脚を踏ん付けて、拳を避けてやると、瀬尾は拳の勢いを逃すことができずにすっ転んでしまった。
「大丈夫か?」
これが喧嘩なら胸ぐら掴んで殴り続ける所だったが、それをしたら烏間先生に顔向けできないし、停学も避けられないだろうから止めておく。
それに、ラスボスの気配が背後からするのだ。
ここは平静を装う為に瀬尾を立たせる事にする。相変わらず脚を踏みながら瀬尾の拳を掴み、上に向かって引っ張り上げて腕力で立たせる。
ちょうどその時、背後から悍しい気配がした。
「やあ、乃咲くん。どうかしたのかな」
「なんでもありませんよ、大魔お……理事長先生」
振り向くと案の定、理事長が居たので一礼して瀬尾を離す。彼らも動揺しているらしく、挙動不審になっていた。
「暴力沙汰に見えたのだけどね?」
「そうですね、前原が蹴られましたから」
「っ、あんただって!?」
「俺も殴られそうだったんで避けたんです。そしたら瀬尾くんが転んでしまいましてね」
「おやおや、そうだったのかい。だけど気をつけた方がいい。実際に暴力沙汰だったのであれば停学処分になるところだったよ。キミたちが」
「お言葉ですが理事長先生。暴力を振るわれたのは俺たちです。ここがあなたの
「なるほど。でも、コンビニがただの学生の為に監視カメラなんて見せてくれるものかな」
「その時はPTAの力が火を吹きますねぇ」
「なるほど、合理的な判断だ」
俺との会話に何か満足した様な顔をすると浅野理事長は頷いて踵を返す。
「乃咲くん。勉強、頑張りなさい」
「……はい」
浅野先生が去ると同時に捨て台詞を吐きながら彼らも何処かに去って行く。
「前原くん。もう2度と話しかけないで、視線も合わせないでね」
そんな捨て台詞は何処か滑稽だった。
滑稽な捨て台詞に恥じず、滑稽な走り去り方だった、とか思っていると前原が口を開いた。
「……サンキューな、乃咲」
「気にすんな」
「……なぁ、乃咲」
「んだよ?」
「ヒトってみんなあぁなのかな。相手が弱い立場だとあんな風に手のひら返してさ、虐める側に回る。俺も強い立場になったら同じ様なことすんのかな。立場が強い奴が現れたらさ、『そう言えばコイツE組だったって』手のひら返してあんな風に醜いところ隠すことなく攻撃するような奴になるのかな」
「さあ、どうだろうな」
「俺さ、思ったんだ。自分がE組じゃなかったらアイツらみたいにお前らを虐める側になってたのかなってさ。E組の誰かをいいなって思って付き合っても、いざとなったら保身の為に、自己肯定の為に攻撃するような奴にさ」
「…………」
「だったらさ、俺は悲しいし……、怖ぇよ」
前原のやつ、随分と落ち込んでるな。
仕方ない。励ましてるか。
「そんな風に考えられるお前ならいじめる側にはならないだろ。少なくとも不良で浮いてる俺に磯貝と一緒にとはいえ話しかけようなんて思わないだろうさ」
「……へへ、お前、やっぱりいい奴だよな」
照れたように、鼻の下を掻く前原はそれでも顔色が優れなかった。相当堪えたのだろう。このまま放っておいたら体調を崩すかもしれないな。
「はいはい。そんなことより、風邪ひくぞ着替えろよ」
「……だな」
尻餅をついて濡れた制服を着替える様に言ってやると同時に杉野たちが来た。どうやら途中から見ていた俺とは違い、一部始終を見ていたらしく、皆、前原が受けた扱いに憤慨していた。
しかし、同時にみんな暗い顔をしていた。もしも自分からE組でなければ今のみんなにどう接していたのかを考えているのだろう。見ていればわかる。
そんなメンツの中でも一際不満を露わにする者が1人。杉野達の中に混ざっていた殺せんせーである。朝より一回り巨大化した顔で怒りを露わにしていた。
「……仕返しです。皆さん。理不尽な屈辱を仲間が受けたのです。力無き者は泣き寝入りするところですが、君達には力がある。標的に気付かれず仕留める
殺せんせーの一言に皆んなが悪い顔をする。
「……ははは、何企んでるんだよ、殺せんせー」
「屈辱には屈辱を。彼女達にはとびっきり恥ずかしい目に遭ってもらいましょう」
あーあ。前原以外、悪い顔してらぁ。
「な、なぁ。本当にやるのか」
殺せんせーの提案した仕返しという任務に消極的な前原はやはり顔色が優れない。なんというか、人間不信一歩手前みたいな顔をしている。
ここに集まったメンツは前原にこんな顔をさせる為に集まったわけじゃない。だからケツを叩いてやる。
「やるだろ。お前、あのままで良いのかよ」
「……良くねぇけどさ」
どうやら前原自身にも納得いかない部分は残っているらしい。そんな趣味もないのに男のケツを叩いてやった甲斐があった。
俺は前原に発破を掛けるようにこの仕返しのために集まってくれている面子を見渡して口を開く。
「だったらやるぞ。その為にこんだけの人数が集まったんだから。少なくとも皆んなはお前の受けた扱いに納得してないってことだろ」
「だな、流石にアレはないわ」
「うん。僕も許せないと思った」
俺の言葉に杉野と渚が同調する。
「ほらな」
俺は2人に頷きながら改めてメンバーにこの仕返しの意義を問いかける。
「今までのE組は弱者だった。でも今は違う。殺せんせーを殺すための刃を振るい、殺せた後の第二の刃も研ぎ始めた俺たちはもう黙ってやられるだけの弱者じゃない。それをアイツらに見せてやろう」
俺は自分のキャラじゃないと理解しつつそんな演説をする。確かに前原の恋愛沙汰は俺には関係ないけど、それでも昨日の光景は胸糞悪かったからだ。
渚、茅野、杉野、菅谷、千葉、速水さん、矢田さん、倉橋さん、岡野、磯貝、奥田さんに視線を向ける。彼等は皆、様子は違えど頷いていた。
それを確認した俺たちは前原と殺せんせーに頷き、ミッションを開始することにした。
ターゲットは瀬尾と土屋。奴らは喫茶店で駄弁っていた。そこを奥田さんが調合した下剤弾を使った千葉と速水の射撃成績一位コンビで襲撃する、ちょっとした恥をかいてもらうというプランだ。
「そんじゃあ、ミッション開始。渚と茅野は菅谷の変装グッズで変装してターゲットに接近」
「「了解」」
「速水さん、千葉、奥田さん。弾丸は」
「バッチリ。しっかり装填済みよ」
「あぁ。こっちも問題ない」
「マグネシウムを主成分とした超強力下剤。市販薬の数倍の効果を発揮するこの下剤を【ビクトリア・フォール】と名付けました」
作戦開始前に奥田さんの闇を見た気がしたが、任務に支障はない。あとは狙撃場所の確保だな。
「倉橋さん、矢田さん。狙撃ポイントの確保は?」
「オッケーだよ、家主さんにも了承済み!」
「私達が相手しておくから皆んなは任務に集中してていいよ! 任せておいて!」
ビッチ先生に師事して交渉術を叩き込まれているこの2人はこういう時に頼りになる。
俺たちが習っている暗殺技術で将来一番役立つのは彼女たちの交渉術かもしれないな。
「岡野、前原、磯貝はポイントBで待機。俺が指示を出したら枝を切り落とせ」
「OK。でも、良く枝切り落とす許可貰えたな」
「俺だってビッチ先生に教わってるからな。おばさんとは言え、異性相手の交渉ならそれなりにな。それに、所有者たちも枝を邪魔だと思ってたらしいから一石二鳥だ」
倉橋さん達みたいに本格的な師事はしてなくてもあの人の授業を受けていればある程度、異性を口説ける様になるさ。たぶんな。
そう言いつつ、特に問題もなく暗殺の準備は進み、こっちの準備は完了した。
「杉野、タイミングを見て渚達に連絡。本格的に作戦を始動する」
「任しとけ!」
指示を出した俺はポイントCに向かう。
ポイントBで待機してる前原達の切り落とした枝を直撃させる為、斬撃指示を飛ばす為だ。
「乃咲、狙撃と下剤を飲すのに成功。あとは任す」
「了解」
杉野から第一次作戦は成功したとの連絡があったので、次は俺たちの番だ。
瀬尾と土屋は今頃、喫茶店の一つしかないトイレを取り合い(茅野潜伏済み)、渚が溢した100m先にコンビニがあるって情報を鵜呑みにしてこっちに向かってるってことだろう。
アイツらプライド高いからその辺の民家でトイレを借りるって発想がないのだろう。
ばっしゃばっしゃと足音を大袈裟な足音を立てながら腹を抑えて滑稽に走っていた。
「今だ、殺れ……!」
俺の合図に木の上で待機していた3人が同時に枝を落とす。落とされた枝は見事に2人に落下。やれずぶ濡れだ、やれ毛虫だ! などと騒いでいたが、腹痛を思い出したらしく、大慌てで駆け出す姿を見送る。
すると、上から3人が降りて来た。
傘やらプライドやらを置き忘れた2人をみて笑っている。前原も何やら複雑そうに笑っていた。
そうこうしていると、殺せんせーを含めた今回の作戦に参加した全員が俺たちの後ろに集まっていたらしく、殺せんせーはニヤリとしながら前原に語り掛ける。
「ま、少しはスッキリしましたかねぇ。汚れた姿で大慌てでトイレに駆け込む。プライドの高い彼等にとっては随分な屈辱でしょう」
と締め括った俺たちに前原が頬を掻き、今まで見たことないくらいに照れくさそうに口を開いた。
「皆んな、ありがとうな。なんつーか、俺個人の話をここまで大きくしてくれて」
「どうですか、前原くん。まだ自分も弱者を平気で虐める側に回るかもしれない、なんて思いますか?」
どうやら、殺せんせー。昨日の話も聞いていたらしい。そんな風に前原に問い掛ける。
すると、前原はどこか吹っ切れたように答えた。
「いや、そんなことしねぇと思う。なんつーかさ、お前ら個人は別にそんなに強く無さそうだけど、実際関わってみると一人一人が強みを持っててさ。そこには俺が持ってない武器も沢山あって……」
「そう。人は見かけによらない強さを持っているものです。それを今回学んだキミは今後、人を見た目で判断し、簡単に蔑み、侮ることはしないでしょう」
「……うん。そう思うよ、殺せんせー」
今回の件、俺はただ喧嘩の仲裁に入っただけのつもりだったのだが、どうやら人が成長する場面に立ち会えたらしい。少しだけ前向きになった前原は輝いて見えた。
「あ、やっば! 俺、これから他校の女子と飯食う約束あるから行かねーと。じゃあな、みんな! まじでありがとう! また明日な!」
「……やっぱ少し凹んだままの方がいいんじゃねぇのか、あのタラシ」
立ち去ってゆく前原に思わず呟いた一言。誰も否定することなく、全員が微妙な顔をしていた。
うん。なんというか、リア充爆ぜろ。そんな一言が俺の頭に強く刻まれた事件だった。
ちなみに、殺せんせーの提案だったとは言え、暗殺と関係ないところで力を使ったことに対してE組の面々にはその後、雷が落ちましたとさ。