暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えて誤字報告・高評価ありがとうございます!

——追記——
誤字・脱字報告ありがとうございます!


25話 LRと克服の時間

 

「分かったでしょ? 日常会話で難しい単語を使うことなんてないの。日本にも良くいるじゃない? 『マジやべぇ』とか『マジすげぇ』で会話成立させる奴。その『マジ』に当たるのが『really』よ。木村、言ってみなさい」

 

「リ、リアリー」

 

「発音が全然ダメ。LとRがごちゃごちゃよ。私としては通じるけど違和感あるわ。言語同士で相性の良し悪しがあるけど、日本人は特にLとRの発音分けの相性が悪いのね。でも相性が悪くても克服すること! これから先、発音はより厳しくチェックしてるから覚悟なさい? 間違えたら公開ディープキスの刑よ」

 

 ビッチ先生の授業が終わる。

 発言や単語はともかく、実践や実体験を交えたプロの殺し屋が教える会話術は本当にタメになる。

 例えば数学の三平方の定理とか何処で使うの? と疑問に思ったりすることはあるが、ビッチ先生の授業に関してはそんな風に思う隙がない。

 

 ビッチ先生。案外、教師が天職なんじゃないだろうか。そんな風に思う今日この頃。ビッチ先生に一悶着起こるなんて誰も想像していなかった。

 

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 翌日、学校に行くと奇妙な光景が展開されていた。

 烏間先生が殺し屋に狙われているのである。しかも彼を狙う殺し屋は2人もいた。

 1人は我らのビッチ先生だが、もう1人は誰だ? などと思っていると、烏間先生から補足が入る。

 殺し屋の名前はロヴロ。ビッチ先生をここに斡旋したプロの元殺し屋であり、現在は殺し屋を育て、育てた殺し屋の斡旋をする事で金を稼いでいるらしい。

 

 なんとなく、そんな話を聞いて、「殺し屋って斡旋されるもんなのか」とか「人材派遣会社みたいなことしてるな」と思ったのはここだけの話。

 

 しかし、なぜ、ビッチ先生がそんなことになっているのかと聞いてみると、なんでも、ロヴロさんがビッチ先生に見切りを付けたらしい。

 何故? とも考えたが、まあ、確かに言われてみると最近のビッチ先生は殺し屋というよりも先生、としての面ばかり見せている気がする。

 

「彼の言う通り、イリーナの強みは正体を隠して接近する暗殺にある。だが、正体が割れてしまえば一山いくらの殺し屋。それがロヴロの判断らしい」

 

「ビッチ先生……辞めちゃうの?」  

 

 倉橋さんと矢田さんの悲しそうな声が聞こえる。

 あの2人はとくにビッチ先生に懐いていたし、一番熱心に彼女の授業を受けていたから当然か。

 かく言う俺も、ビッチ先生に居なくなられるのは寂しいと思ってしまう。初めの頃は殺人鬼だなんだとおもっていたが、最近の彼女は本当に良い先生をしているからな。本校舎の教師に比べて惜しい人材だと学生の俺ですら分かる程だ。

 

 とまあ、ビッチ先生が教師として優れているかどうかはひとまず置いておいて、何故、烏間先生がロヴロとビッチ先生に狙われているのかと言うと、烏間先生を殺せた方が優れた殺し屋である、殺せんせーを狙い続ける権利がある、とのことらしい。

 

「……あれ?」

 

 でも、俺は一つ疑問を覚えた。

 ビッチ先生は殺し屋ではあるが、そもそもこの椚ヶ丘学園では教師として雇用されている訳で。

 となると、忘れられがちだが、E組の教師の任命権は浅野理事長(ラスボス)の手にあるわけだから、最終決定をするのはロヴロでも、ビッチ先生でも、烏間先生でも、殺せんせーでもなく、理事長なのでは……? 

 

 ……ま、いいか。ビッチ先生が本当にヤバそうになったらその時に助け舟として掛ける言葉の一つとして頭の片隅にでも一旦、置いておくとしよう。

 

「……と、言う訳だ。迷惑な話だが、君たちの授業には影響は与えないので普段通りに過ごして欲しい」

 

 烏間先生、まじで苦労人だよな。 

 

「今日の授業はここまで!」

 

「「「ありがとうございました〜」」」

 

 体育が終わる。それと同時に狙い澄ましたように無駄に分厚い胸部装甲をたゆんたゆんと揺らしたビッチが水筒片手にあざとく走って来た。

 

「お疲れ様〜! 疲れたでしょう? はい! 冷たい飲み物! ぐっといっちゃって! ぐびっと!」

 

 何が目的なのか分かり易すぎる。

 これは流石に殺す殺さない以前の問題ではなかろうか。なんつーか、絶対、あの水筒の中には何かしらの毒が盛られているだろう。

 烏間先生も大方、同じ考えに至ったらしく、半目で睨みながらビッチ先生から自然に距離を取った。

 

「おおかた、筋弛緩剤だな。動けなくなったところをナイフで刺すって魂胆だろう。言っておくが、そもそもそんな距離まで近づけさせないぞ」

 

「……んじゃぁ! はい、ここに置いておくから飲んで!」

 

 分かりやすく肩をギクリと震わせたビッチはしゃがんでコップを地面に置くが、今度はドジっ子路線で攻める事にしたのか、そのまますっ転ぶとギャイギャイと騒ぎ出した。

 

「いったーい! おぶってカラスマぁぁぁ!」

 

「……はぁ。付き合い切れるか」

 

 ため息を吐いて去ってゆく烏間先生。

 無駄・隙の一切ない完璧超人、烏間先生を狙わざるを得ないビッチ先生に同情的なクラスメイトたちはビッチ先生のフォローに回る。

 そんな中でふと、声が聞こえた。

 

「バカ弟子め。恥をかかせおって……」

 

 視線を向けると初老のそれでいて只者ではない気配を纏った男がそこにいた。

 

「あなたは……? あ、っと、こんにちは」

 

「あぁ。こんにちは。俺の名前はロヴロ。事情は聞いているだろう? 烏間を狙う殺し屋の1人だ」

 

 殺し屋の口調はフランクだったが、思った以上にフランクなのか、しっかり自己紹介をしてくれた。

 名乗られたからには名乗り返さないといけないだろう。背筋を軽く伸ばし、会釈しながら名乗る。

 

「自分の名前は乃咲圭一です。ビッチ先生(お弟子さん)にはいつもお世話になってます」

 

「乃咲? あぁ。烏間の報告書に記述されていた少年か。単独で触手を破壊した数少ない人物。加えて作戦立案・指揮能力もある、と高く評価されていた」

 

「さ、さいですか」

 

 少し照れる。烏間先生ったらそんな風に評価してくれていたのか。だったらますます頑張らないとな。

 などと思っていたら、不意にロヴロさんが意味深な事を問いかけて来た。

 

「キミの意見で構わない。イリーナに烏間が殺れると思うか?」

 

「無理でしょ」

 

 思わず即答してしまった。

 

 言っておくが、決してビッチ先生を舐めている訳ではない。むしろ、俺はあの人のことも尊敬しているとさえ今は思っている。

 仕事に応じて必要な言語を習得して来た、と彼女は授業中に軽く語って聴かせてくるが、それは並大抵の努力では成し得ないだろう。

 ゾーンに入って時間を引き延ばしながら勉強している俺ですらこのテスト明けから1ヶ月が経つ今に至るまで英語の一つもマスター出来てないのだから、短期間で言語を習得する難しさは想像に難くない。

 

 ビッチ先生のいう短期間というのがどれくらいの期間か分からないが、ゾーン入ってまで勉強しているのに言語の一つもマスターできない俺からしてみればビッチ先生は努力の人だ。

 

 恐らく、どうしてそんな短期間で言語を習得できるんですか? と彼女に聞いたら必要だから習得したのよ、と返ってくることだろう。

 ただ、その必要だから習得する、という難しさを知っているつもりだからこそ俺はそれを当たり前のように答えるビッチ先生を尊敬していると言ってもいい。

 

「人には向き不向きがありますから」

 

 でも、人には向き不向きがある。

 

 狩りをする動物は大まかに2種類いる。

 牙や爪で標的を殺す者。

 毒で相手を弱らせて殺す者。

 

 ビッチ先生をその例に準えるなら、後者の毒を持って標的を殺す側だ。一見毒なんて無さそうな優美な見た目で警戒心を潜り抜けて必殺の毒を見舞う蝶。

 しかし、俺たちはおろか、烏間先生にもその優美な外見での色仕掛けは最早通じることはない。何故ならあの人が毒を持った蝶だと気付いているからだ。

 

 一方で烏間先生はどうだ? 

 烏間先生は間違いなく前者の牙や爪で標的を殺す側だ。それも感覚も何もかも鋭敏に研ぎ澄まされた歴戦の猛者。例えるのなら彼は恐竜だ。

 

 蝶に恐竜が殺せるか? 答えはNoだろ。

 

「相性が悪すぎると思います。それともロヴロさんはビッチ先生に近接格闘術でも教えたことでも?」

 

「ない。だから、俺の答えはキミと同じだ」

 

 そう、舐めてる舐めてないの話ではない。暗殺者としてのカードを出し尽くしたビッチ先生と存在自体が最強のカードそのものである烏間先生では根本的な問題として、相性が悪すぎるのだ。

 これがまだ、ビッチ先生の正体が判明していない状態ならばチャンスもあったかもしれないが。

 

 ここがビッチ先生の言うLとRなのかもしれない。暗殺を続けられるか、続けられないかどうかの。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 昼休みを迎える頃。

 いち早く昼飯を食べ終わっていた俺は食後の運動がてら校舎裏でナイフを振っていた。

 仮想敵はやはり烏間先生だろう。

 ゾーンに入りながら烏間先生ならどんな動きをするのかをシュミレートしながらナイフを振り続ける。

 相変わらずゾーンに入っている時特有の硬い粘液の中で体を動かしてるような感覚には慣れないけどな。体を動かすのにナイフを振るのに何十分掛かっているのか、と思いたくなる感覚だ。

 

「……訓練熱心だな」

 

 ナイフを振り終えるとロヴロさんが声をかけて来た。気付かなかったが見られていたらしい。

 

「烏間先生に勝てるようになりたいですから」

 

「……ふふ」

 

 そういうとロヴロさんに笑われた。なにかと思うと酷く腫れた左手首を俺に見せつけてくる。

 

「奴を狙った結果だ。完璧に意表を突いてこのザマだぞ。それでもキミは勝ちたいと思うか? いや、思えるのかな?」

 

「思います。だって、あんな風になりたいですから」

 

 考えるまでもなく答えると殺し屋ロヴロは2度笑って、肩をすくめて言った。

 

「キミのような教え子が欲しいものだな」

 

 本気なのか、冗談なのか分かりづらい言葉に迷っていると、黒いボストンバッグを片手に殺せんせーが顔にバッテンを浮かべてロヴロさんの後ろに飛んで来た。

 

「ダメですよ、ロヴロさん。彼は私の生徒だ。ヘッドハンティングはお断りしたいところですねぇ」

 

「……ふっ、冗談だ」

 

「乃咲くんもダメですからね!? 浮気はいけません!」

 

「んなことしとらんわ」

 

 思わず敬語なしでツッコミいれる。生徒と教師の間に浮気とかあるのだろうか? だとしたら俺は烏間先生一筋な訳なのだが。

 するといつも通りの顔色に戻った殺せんせーがロヴロに向き直り、校舎の表に続く道を指差した。

 

「どうやらイリーナ先生がまた仕掛けるらしいですよ。見ていきませんか、ロヴロさん」

 

「結果の知れたことを……」

 

 肩をすくめて、それでも殺せんせーの指差した道に歩いてゆくロヴロ。なんだかんだでしっかり弟子の活動結果に興味があるって良い師弟関係だよな。

 と見送ると殺せんせーに『乃咲くんも行きましょうよ』と誘われたので俺も着いて行ってみる。

 さて、それはそれとして、そろそろその手に持ってるボストンバッグに突っ込んでも良いだろうか? 

 

 突っ込むべきか悩んでいると、ちょうど烏間先生が昼飯を食べようとマックの袋を開けているところにビッチ先生が突撃している場面だった。

 

「……奴め、正面からの暗殺は無謀だとあれほど」

 

 ロヴロさん自身、何度かビッチ先生に正面からの暗殺は無謀だと説いて来たらしい。

 呆れ混じりな声音に弟子への失望のようなものを感じ取っていると、殺せんせーがボストンバッグを開けてロヴロさんに見せつけた。

 

「これは……!」

 

 中身を見たロヴロさんは驚いたように目を開くと、ビッチ先生を見守る姿勢に入った。

 何が入っているのか、バッグの中身を見てみると、そこには使い古されたワイヤーやらボロボロになったジャージ、殺せんせーを模したであろう人形。

 バッグの内容物から察するに恐らくはワイヤートラップの練習痕だろうか。

 

「……奴にはあえて正面からの暗殺技術は教えなかった。訓練された動きというのは無意識に動きに出るし、そもそも女を武器にしたあいつの暗殺スタイルには無用の長物だったからだ」

 

 ロヴロさんがビッチ先生の教育方針について語り出す。だが、そこに俺は違和感を感じた。

 いや、殺せんせーと接して、教育されるうちに違和感を覚えるようになってしまったのだ。

 だから、聞いてみた。

 

「それだと、正面から殺せなかったとき。ビッチ先生はどうすれば良いんですか?」

 

「……ヌルフフフフ、乃咲くん。キミは完璧に第二の刃の重要性を理解したようですね。そう。殺り損ねた時の手段がない。だから、彼女は克服しようと足掻いたのですよ。これはその努力の痕跡です」

 

「……弱点を克服、か」

 

 俺たちの視線の先では烏間先生とビッチ先生が駆け引きをしていた。いや、駆け引きなんて高尚なものではないのかもしれない。

 もう、ビッチ先生は身一つで暗殺する術しかないと油断している烏間先生と隠し球を持っているビッチ先生。そんな状況を理解して見るとビッチ先生に殺せる可能性を見出せてしまう。

 

 ビッチ先生が上着を脱ぎ、何かを囁きながら、烏間先生と彼が背中を預けている木の後ろに回って彼の左側に回り込む。あざとく、胸元を強調しながら。

 ため息を吐いた烏間先生。恐らく、所詮はこんなもんか、と区切りを付けたのだろう。遠目に目に見た烏間先生の顔には落胆の色があった。

 

 烏間先生がマックの袋を地面に置いて、投げやりにビッチ先生を見たと同時に駆け出す彼女。

 その動きに連動して、数秒前に脱いだ上着が烏間先生の脚を巻き込んで木の枝の高さまで釣り上がる。

 

 それによって烏間先生は体勢を崩した。

 

 初めて見たかも知れない。あんな風に体勢を崩した烏間先生を見たのは。

 

 体勢を崩した烏間先生の上に馬乗りになってマウントを取ったビッチ先生。

 顔に浮かんでいるのは達成感。だが、その達成感のせいで僅かに攻撃が遅れた。

 

「くっ……! 危なかったっ!」

 

 ここまで聞こえる、明確な烏間先生の静かな焦り声。振り下ろされたナイフは烏間先生の顔面直前で止まり、ビッチ先生の攻撃は失敗に終わった。

 駄目だ。あの姿勢ではビッチ先生に分があるだろうが、身体能力の差がありすぎる。あれでは彼女の攻撃は当たらない! 力勝負に持ち込まれたら流石にやりようがないだろう。

 しかし、諦めない様子のビッチ先生に烏間先生が折れたのか、最終的には攻撃が当たったようだ。

 

「すげぇ……」  

 

 思わずそんな感想が出た。

 どうやら俺もビッチ先生の言う『まじすげぇ』とか『まじやべぇ』で会話を成立させられる側の人間だったらしい。

 

「苦手な物でも一途に挑んで克服していく彼女の姿は生徒達の良い見本になるでしょう」

 

「……確かに、よく言ってますね。苦手なことでも逃げずに克服する! って昨日も言ってた」

 

「そうでしょう? 彼女は今後も同じように苦手なことがあれば逃げずに立ち向かうことでしょう。その都度克服するその姿を見て生徒達が挑戦することを学べば一人一人の暗殺者としてのレベルは向上する」

 

 確かに、殺せんせーの言う通り、指導者が自ら有言実行する姿と言うのは俺たち学ぶ側にとっては『やればできる』という実感に繋がる。口先だけの教師なんかよりもよっぽど信じられるからだ。

 

「だから、私を殺すのなら彼女はここに必要な存在なのです」

 

 にこやかな殺せんせーはロヴロさんにそう言うと、ビッチ先生がこっちに歩いて来た。

 その様子はまるで、親に褒めて欲しい子供のように見える……。

 

師匠(センセイ)……」

 

「出来の悪い弟子だ。……先生でもやっていた方がマシだな。必ず殺れよ、イリーナ」

 

「……! はい! もちろんです、師匠(センセイ)!」

 

 少し捻くれた褒め方をする師匠と愚直なまでの弟子。

 

『……父さん! 100点だったよ!』

 

『……そうか』

 

 ……いや。俺たちはこんな関係じゃない。うちの親父は俺に興味がないだけ…………。

 

『キミは自律思考固定砲台さんを見ていなかった』

 

 ……いや、違う。俺は見ようとした。見なかったのは親父だ。

 

 暗い方に向かっていた思考を切り掛かる。

 ひとまず、ビッチ先生はこの教室に残留することが確定した。クラスのみんな、倉橋さんたちも喜んでるし。今はそれで良しとしよう。

 

「やったわ! ホホホホホ!!」

 

 狂喜乱舞するビッチ先生と静かに去るロヴロさん。俺は彼らを静かに見守っていた。

 

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⬜︎

 

⬛︎

 

 ビッチ先生に負けないよう、今日も今日とで烏間先生と放課後の訓練中。それは唐突にもたらされた。

 

「乃咲くん。今度また、転校生がやってくる」

 

「まじですか?」

 

 一難去ってまた一難。

 俺たちのクラスに平穏はないのかな。

 




後書き

はい、後書きです。
もはやすると1ヶ月ほど休載するやもしれません。
少しリアルがアレな感じなってきましたので……。

ご感想などには目を通していますので、お気軽にいらして下さいね!

それでは次回もお願いします!
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