皆様、応援頂き有り難うございます!
是非本編を投稿したいのですが、まだ書き終えてないので書いたけど没にした本編裏話を番外編として投下したいと思います。
時系列的には修学旅行中、暗殺失敗した直後になります。
それでもお楽しみ頂けると幸いです……。
——追記——
誤字・文脈修正ありがとうございます!
もうちょっと繰り返し読み返した方が良さそうですね。
毎度ご報告してくださる方々、誠にありがとうございます!
出来るだけ休載にならないよう、頑張る所存であります!
時は遡り、修学旅行・1班狙撃暗殺失敗時。清水寺までの移動中にあったちょっとした一コマ。乃咲と磯貝が接点を持つ、追憶の物語である。
「ダメだったねぇ」
「だな。弾丸止めるとかマジかよ」
倉橋さんに同意しながら、俺は殺せんせーの止めた弾頭を指で弾いて遊んでいた。
この弾頭に対先生弾を詰め込む方式、ぱって見て弾丸に無駄な空気抵抗を作ると思うんだけどこれであんなに真っ直ぐ飛ぶのか?
いや、真っ直ぐ飛ばなくても狙って直撃コースを取ったのか。プロの狙撃ってとんでもない精度だな。
ちなみに殺せんせーはと言うと2班の方へ飛び立っていた。何かあったら呼んでくれ、とのことだが、修学旅行中に何が起こると言うのか。
とか思ったが、新幹線の中で不良に絡まれたことを思い出して、何が起こるか分からないと思い直す。
「はぁ……。少し早いけど清水寺行くか」
「だな、いつまでも引きずってても仕方ないし」
気落ちした空気を変えるように提案した木村に磯貝が同意しながら駅のベンチに座る俺たちを立たせる。
「よし、清水寺行こう。昼もあの辺で食べるんだろ? 腹が膨れれば気分も変わるって」
「そんなに変わるかね」
「変わるさ。腹が減ってると不安になるだろ」
「そう言うもんか」
「そう言うもんなんだよ」
「んじゃぁ、そう言うことにしておく」
「そう言うことにしておけ」
磯貝の持論に茶々を入れているといつもの爽やかな笑顔でゴリ押しされたので諦めて頷いておく。
なんか、磯貝にはこうしてゴリ押しされたり、押し流されることがやたらと多い。
「やっぱり、磯貝くんと乃咲って仲良いよね?」
「だよな」
「な、それ俺も思ってた」
片岡の呟きに木村と前原が同意する。
「磯貝、俺たちって仲良いのか?」
「良いんだよ」
「そう言うことにしておく」
「しておけ」
「ほら、そう言う所。私、正直に言ってE組に来た時に一番驚いたの乃咲と磯貝くんが仲良さ気に話してることだったもん」
磯貝と顔を合わせる。確かに言われて見るとコイツと話すようになったのは何故だったか。
正直、A組にいた頃も、順位を落とした頃も、磯貝と絡んでいた覚えがないので正直、よく分からないのが俺の本心だ。
「……ねぇ、乃咲の奴身に覚えがありません、みたいな顔してるんだけど」
片岡にすっごい鋭い指摘を入れられる。
「多分、E組全員が思ってることだと思うんだけどさ。ずっと不思議だったんだよね。札付きの不良児と学級委員の優等生が仲が良い理由」
「だよな。最近は言うほど不良っぽくないけどE組来たばっかりの頃、乃咲がいるって聞いて凄い不安だった」
「それ、少し分かるかも」
そんなことを言われても正直にいって本気で分からないのだから困る。俺は本気で磯貝に友情を感じてもらえるようなことをした覚えがないのだ。
困ったので話の着地点を求めて磯貝を見ると、呆れたような視線を返された。
「逆に圭一の不良っぽい噂ってどんなのがあるよ?」
磯貝の問い掛けに1班の面子が顎に手を当てて考え、俺の噂を列挙してゆく。
「急な成績不振」
「年上、同級生、他校の生徒関係なく喧嘩」
「先生を殴ってE組行き……」
こうして他人の口から自分の悪行を聞くと確かに俺って荒れてたんだよなぁ。
いや、でも喧嘩に関しては売られたのを買っただけで自分から喧嘩を売ったことは無かったし。先生殴ったことに関しては……アイツらが悪いし。成績不振に関してはまあ、俺の怠慢だけどさ。
「あと、同級生を喫茶店で恐喝したってのも聞いたことある」
「あ、喫茶店なんだ? 私は恐喝したって噂しかしらなかった」
と、ここで結構身に覚えのある事件が飛び出して来た。これに関しては身に覚えがある。
「あ、それで恐喝されたの俺なんだ」
「…………え、磯貝!?」
そう、その事件で俺が恐喝した相手は何を隠そう、磯貝なのだ。だから、E組に落ちた時、コイツに話しかけられた時は本気で驚いた。
『おはよう、これからよろしくな。圭一』ってめちゃくちゃフレンドリーに屈託のない笑顔で下の名前を呼びながら挨拶してくるんだもの。正直、気味が悪かったと言っても過言では無い。
「乃咲くんが恐喝ってのも今となっては信じられないけど何があったの?」
興味深そうに磯貝に尋ねる倉橋さん。
「あ……、これって話して良いのかな?」
今更ながら聞いてくる磯貝。
だが、俺に止める選択肢はない。むしろ一方的に恐喝された相手にフレンドリーに話しかけようと思った真意を知りたいくらいだ。
「話してくれて構わないぞ。俺もなんでお前と話すようになったのか覚えてないってのが正直な感想だし」
「……分かった。じゃあ、清水寺に行きながら話すな。まず、俺と圭一が初めて話したのは————」
磯貝の昔語りが始まった。
初めて乃咲圭一と話したのは一年の頃だった。
入学式で新入生総代を務めた2人の片割れ。スピーチの内容は覚えてないが、入学試験で総代2人。浅野と圭一……乃咲が満点を取ったと言うのは当時、あまりに有名な話だった。
あの頃は同じA組ということで同じクラスだった俺だけど、アイツと初めて話したのは昼休み、自分の机で自習していた時のことだ。
次の数学の予習をしている時、たまたま通りかかった乃咲に分からなかった所を聞いたのが今思い返すと彼との初めての会話だった。
まだ習っていなかった部分だったが、彼なら知っていると思って聞いてみたのが正解だったらしく、乃咲は嫌な顔一つせずに答えてくれた。
「圭一、今日一緒に喫茶店で勉強しないか」
「喫茶店? 緊張するな、俺初めてだよ」
「ははは、慣れていけば良いさ」
「分かったよ。おぉい、浅野と喫茶店で勉強するけど一緒にくる奴いるか?」
あの頃のA組は乃咲と浅野を中心に回っていた。
浅野は勉強しているところを他人に見せることなく、涼しい顔して小テストで高得点を取りまくる天才。
乃咲は所構わず、なりふり構わず、予習復習の努力を一切欠かさない秀才。
彼らに感化された当時のA組はレベルが高かった他のクラスよりも平均点が20点ほど高いのがデフォルトで、クラスのトップ2人は分からないことがあっても聞けば絶対に答えてくれる天才と秀才。
ただ、乃咲の努力は行き過ぎていたと思う。
何をするにも勉強の片手間だった。誰かに勉強を教えるのも、誰かに誘われてカラオケに行ったとしても常に勉強道具は欠かさない。
ある意味で、その頃の彼の姿は後にE組に落ちたくないと必死に努力する大勢の生徒たちに似ていた。
いや、似ていると言うか、彼ら以上に過剰な努力だったと今なら思う。その証拠に乃咲は行き過ぎた努力の末に体調を崩した。
1学期の中間テスト直前、乃咲は熱を出して早退した。翌日のテストは辛うじて出席したけど、やはり体調が優れなかったのか彼の順位は下がった。
1位から2位に転落しただけ。
落とした点数はたかが2点。
俺たちはむしろ崩れた体調で良くその程度で済んだと思ったが、乃咲はそれ以来、少しずつ落ちていった。順位も、勉強に対するモチベーションもだ。
期末で20位、二学期の実力テストで50位、中間で80位。彼は徐々に落ちて行き、50位以下になった頃にはもう、誰も乃咲を秀才扱いすることはなく、むしろ煙たがるようになっていた。
「の、乃咲。ここなんだけど」
「……分からねぇ。つーか、もうお前らの方が成績いいだろ。俺なんかに聞くなって」
「圭一、どうしたんだ。たった一回、順位を落としたくらいで」
「別に。お前には関係ねぇよ、浅野。これはうちの親子の問題だ」
心配する浅野を冷たくあしらう乃咲。それ以降、天才と秀才が並んで歩く所を見た者はいない。
ただ、乃咲が転落していく中。俺は家庭の事情で少し、不味いことをしていた。
俺、磯貝悠馬の家は決して裕福とは言えない。父はいない。パート社員の母が頑張ってくれているが、俺は少しでも家計の足しになりたくて俺は無断バイトをするようになっていたのだ。
新聞・牛乳の配達、内職、なんでもやった。
なんでもやったことが災いした。
バイトがバレたのだ。1人の生徒……乃咲に。
朝、配達しているところで偶々、乃咲と鉢合わせたのだ。本当に偶然、曲がり角でゴッツンコ。
「の、乃咲……」
「……誰だ、お前? つか、バイトって禁止じゃ?」
この頃はまだアイツは不良認定されていなかったが、俺はひたすらに焦った。
俺は事情をキョトンとする乃咲にアレだ、コレだ、と説明して、何度か口封じを試みる。
けど、肝心の乃咲は…………。
「あ、そ」
興味なさ気に踵を返して去っていく。
俺は焦ったが、仕事も途中。投げ出していくわけにも行かず、それから暫くは乃咲経由で学校に報告されると怯えて過ごすことに。
だが、待てど暮らせど学校や生徒会から注意喚起が来ることはなく、俺は思わずたまたま学校ですれ違った乃咲を問い詰めた。
「……誰」
「磯貝だよ、磯貝悠馬! 同じクラスだろう!?」
「…………ぁー、無断バイトの」
「お前、学校に報告してないのかよ!?」
「してないけど、して欲しいの?」
乃咲は一切学校に報告していなかったのだ。
俺に取っては有り難かったが、なぜ、報告しないのか分からなかった。
「いや、助かるけどさ」
「お袋さんを助ける為なんだろ、まあ、頑張れば? お前がバイトしてようがしてなかろうが俺には1ミリたりとも関係ないし」
アイツはそんなことを言って颯爽と去って行った。
少し優し気な声色だった前半部と本当に興味なさそうな声音の後半部のギャップが印象的だったからよく覚えてる。
思えばこの時からだ。教室で孤立しているアイツを何気なく視界に入れるようになったのは。
それから一年が経った頃、乃咲は学年最下位まで転落。この時点でE組に行んじゃないのかって噂が立ち始め、そんな噂を確固たるものにする事件が起こる。
——乃咲が他校の生徒と喧嘩した。
この頃には学年が変わり、アイツはクラスが変わった。違うクラスになってからは関わることが本当になくなったけど、2年の夏、乃咲が俺を恐喝する事件が起こってしまう。
いや、厳密に言えば起こしたのだ。2年の夏休みの半ば頃に俺が事件を起こしてしまった。
事件、と言っても別に派手な殴り合いがあったとか、誰かが怪我をしたとか、そんなことがあったわけじゃない。傷が付いたのは乃咲の名誉だ。
この頃、うちはまた家計が苦しくなって、俺はまたバイトをしてしまった。
そして、また乃咲と遭遇してしまう。椚ヶ丘の学区外の喫茶店でバイトしていた時のこと。
「いらっしゃいま——乃咲……!?」
「……えっと……あっと……あぁっ! ……磯牧。お前、またバイトしてるのか」
「一生懸命思い出そうとしてくれたところ悪いけど、磯牧じゃなくて磯貝な」
「そうだったか。そうか、すまん。んで、お前、また無断バイトか」
「っ! 見逃してくれ。出来るだけ急ぎで金がいるんだ。このままだと家賃払えないらしくてさ」
「…………あ、そ」
アイツはいつかみたいに興味なさそうに言うと『さっさと席に案内してくんない?』と言い放ち、無断バイトしている俺のことなど気にしてない見たいに机に教材を広げて勉強を始めた。捗っている訳ではなさそうだけど、まだ真面目に勉強しているんだな、なんて思ったのが印象的だったから良く覚えてる。
それからもアイツはうちの喫茶店に来た。
一度、見逃してくれているからか、俺は特に警戒なくアイツに接客して、横目で勉強しているのを何気なく見て、退店するのを見届ける。
そんな続いたある日のことだった。
うちの喫茶店に浅野が来た。
浅野とその取り巻き。テスト上位5位の集団、5英傑なんて言われている奴らが俺のバイト先に来てしまったのだ。
「いらっしゃいま…………」
「——磯貝?」
「あ、浅野————」
「おやおや? 磯貝くんじゃないか? うちのクラスの優等生がこんな所でバイトかい? 荒木、バイトの許可申請なんて出てたかな?」
「出ていなかった筈だねぇ? どうする、浅野くん。彼、無断バイトしているけど」
「そうだな、無断バイトはE組行き——」
そんな会話をしている時、彼が現れた。
「なんだ、これ」
明らかに困惑した乃咲の声。その声に誰よりも早く浅野が反応した。
「圭一。キミがこんな所にいるとは意外だ。ところで磯貝がバイトしている件に関して知っていたのか?」
俺がバイトしていることを一年の頃から知っている筈の乃咲。彼が浅野たちにバラしたのかと考えなかった訳では無かったが、それならもっと早く彼らが来るだろうと思い至り、考えを改める。
だか、次に頭を支配したのはこの場をどうやって切り抜けるか、という思案だ。
バイトしていることは言い逃れできない。この店の店長が親戚で〜なんて出まかせを言うわけにもいかない。どうやって切り抜ければ……?
そう思った時、乃咲が浅野の問いに答える。
「知ってたぞ」
まずい。彼の言い分次第で俺が以前からバイトをしていたことがバレる。これが初めての無断バイトではないことも。
だが、乃咲はずっと黙っていてくれた。俺が何度も無断バイトをしていることがバレた時、黙ってくれていた彼を巻き込むわけにはいかない。
「知ってた? 知っていて学校に報告しなかったのか? それは問題行為だぞ、圭一」
浅野が乃咲を非難する。その取り巻きも同じように彼を口々に罵りながら非難した。
「まて、浅野。俺が——」
せめて、矛先を自分に向けられれば。そんな思いで口を開いた時。俺の言葉に被せるように乃咲が平然と驚くべきことを言い放った。
「いや、俺の不利益になることをなんで俺が進んで報告してやらなきゃならないんだ?」
「不利益? 何を言っているんだ?」
乃咲が何を言っているのか、俺には分からなかった。俺だけでなく、浅野たちも分からなかったと思う。
彼の言葉に置いてきぼりを喰らっている俺たちを放置して乃咲はずかずか歩いてくると徐に俺の胸ぐらを掴む。
「おい、磯貝。何下手こいてくれてんだよ」
「乃ざ——ぐっ!?」
「黙って合わせろ」
耳元でそういうと彼は続けて口汚く俺を罵倒する。唖然としていて思考がろくに働かなかった俺は彼に言われるがままに怯えるフリをしていたと思う。
「どうするんだよ、今月の友達料払うの無理なら殴るけどさ、どうする? 長男が怪我して戻ってきたらお袋さん、心配で仕事どころじゃないんじゃないのか? えぇ? 聞いてんのか、おい?」
乃咲は……圭一は、凄く不器用なやり方で俺を庇ってくれた。不器用でどこかベタな設定で。
語気は強いのに、言葉選びは何処かたどたどしい。友達料とかリアルで言う奴を初めて見た。
ただ、その脅し文句はまだ不良呼ばわりされて間もなかった彼なりにボギャブラリーから引っ張り出した必死のセリフだったんだろう。
「……お前が磯貝を脅していた、と?」
「脅しとは人聞き悪いな」
「だが、流石に無理があるぞ」
そうだ。浅野の言う通りだ。いくらなんでも無理がある。厳しい言い訳、事実の捏造だった。
「無理もなにも、浅野。逆に聞くが俺が嘘をついてるって証明できるか? 今日、初めてこの場に来たお前に。俺が脅してることに関しては俺と磯貝に確認とれば証明できるけど?」
悪びれもせずに屁理屈をこねる圭一。
そんな彼に呆れた顔をしつつ、浅野は引き下がった。今思うとそれが浅野なりの圭一への友情表現だったのかもしれない。
「…………分かった。確かに証明はできないな。磯貝はお前に脅されて仕方なく無断でバイトをしていた。今回はそう言うことにしておいてやる」
「浅野くん、でも磯貝はどうするんだ!?」
「どうもしない。不良に脅された一般生徒がやむを得ずに無断バイトをしてた所に鉢合わせ、今度からは生徒会に相談するように厳重注意した。それだけでいい」
「でも……!」
「それに、僕らが何もしなくても、こんな所で騒いでるんだ。遅かれ早かれ椚ヶ丘の生徒が無断バイトしているって噂は立つ。そうなれば学校が動くさ」
「わ、分かったよ……」
言いたいことだけ言って喫茶店を出る浅野と彼に続く荒木たち。
取り残された俺と圭一。彼らが見えなくなってから俺の胸ぐらを離した圭一に俺は問い掛けた。
「乃咲、どうして庇ってくれたんだ?」
純粋な興味での問いかけ。俺の言葉にアイツはバツが悪そうに頬を掻いて少し間を開けてから答える。
「……うちには母親がいない。だから、母親の助けになろうって頑張ってるのが少し羨ましかった。だからその手伝いをしてやれたらなって思ったんだ。それだけだよ」
圭一が自分のことを話しているのを聞いたのはこの時が初めてだった。周りが『乃咲新一先生のお子さん』だともてはやしているのを見たことがあったが、確かに彼の母親について触れる人は見たことがない。
だから、この時、初めて彼も片親だと知った。
この時、なんとなく、クラスで乃咲が孤立し始めた時に気になったのは何も事情は知らなかったけどシンパシーみたいなのを感じていたからだと悟ったんだ。
「浅野のいう通り、アイツらが報告しなくても、こんな所で騒いでたんだから噂は立つだろう。だけど学校側も特定するのに時間は掛かるだろうから、多少の時間は稼げる筈だ。その間にさっさと必要な金額貯めてバイトを辞めろよな」
圭一は言い残して去った。
まだ、お礼も言えてなかったのに。
それ以来、アイツは俺のバイト先も来なくなったし、夏休みが明けるまで街の中でも出会うことはなかった。
そして彼や浅野の推測の通りに椚ヶ丘の生徒が無断バイトをしている、という噂は立ち始めた。
特定される前に目標の金額を貯められた俺はバイトを止めた。
そして次に圭一にあったら絶対にお礼を言うんだと心に決めたんだ。
夏休みが明けた数日後、学校の中で圭一を探している時に偶然……。
「聞いたか? 乃咲の奴、教師殴って停学だって」
「あぁ、しかもE組行きだってよ。終わったな」
俺は乃咲がE組に落ちたことを知った。
「……俺、そんなことしたか?」
「してたって」
磯貝から聞いた過去話は何ともむず痒いものだった。聞いていて恥ずかしくなる。
磯貝を庇ったことはあったが、そんな風に庇ったっけか? 全くと言っていいほど身に覚えがない。
「んで? それから磯貝はどうしたんだよ?」
「ん? あぁ、バイトは辞めたけど、結局バイトしてたことが学校にバレてさ。校則違反でE組行き。ぶっちゃけ浅野にバレた時点で覚悟してたけどさ」
「浅野くんにバレてE組に行くか、周りにバレてE組に行くかの違いだったってこと?」
「そういうこと」
「んじゃあ、磯貝くんが乃咲にフレンドリーなのって」
「まあ、あんな風に庇われたら印象変わるって。少なくとも教師殴ったのだって何か理由があるんだろうなって思ったしさ」
「ほぇー」
磯貝がE組開始時からやけにフレンドリーだったのはそれが原因だったのか。
「もしかしてこの前、乃咲が皆んなに発破かけた時の『お前、また』って?」
「また自分が泥を被る不器用な方法を使うのかって心配になったんだよ」
磯貝にそんな風に心配をかけているとは思っても見なかったぞ。
「っと、清水寺に着いたな。んじゃ、俺たちの過去話はここまでってことで」
磯貝がポンと手を叩き、会話を終わらせる。
まあ、これ以上話を広げても特に俺から言えることは何もないので、俺は我先に、と清水寺に足を踏み入れた。
ピリリリ、と電信音が響く。
音源はポケットの中に突っ込んでいたスマホ。スマホの中央にはいつ番号を交換したのか覚えていない『不破』さんの名前があった。
「もしもし?」
『あ、もしもし乃咲くん?』
不破さんはやはりうちのクラスの不破さんだった。
いつ電話番号交換したっけ?
『ねぇ。この作品のヒロインって磯貝くんなの?』
「……なに言ってんだ…?」
意味のわからない電話を一言で切り捨てて俺は電話を切った。
後書き
はい、後書きです。
没にしようと思った回だったのですが、本編書いてる時間が無かったので次回までの繋ぎとして投稿することにしました。
本来没回なだけあって少々話の出来がアレな場面が多々ありまずが、それがいつも通りのZWAARDクオリティーということで納得していただければ幸いです……。
ベッタベタな展開で申し訳ない……!