加えて高評価やしおり、ありがとうございます!
かけましたので投下します。
今回もお付き合いください……。
南の島での暗殺計画が着々と近づく中、俺は相変わらず学校に来ては殺せんせーの暗殺を試みている。
試みてはいるが、うまくはいかない。そりゃあ各国政府が手を焼くターゲットだ。そう簡単に殺せるとは思っていないが、諦めるわけにもいかない。
殺せんせーを殺して全ての真実を知り、そしてA組に行く。それが俺に取れる最善手であるのだから当然だ。
「ヌルフフフフ、殺せませんでしたねぇ。今日も」
「クソッタレめ……」
振り回していた対先生マチェットとハンドガンを地面に置いて息を整える。生徒が少なく、頭数が足らない以上、流石に合同暗殺の時の様に追い詰めることはできないか。
悪態を突き、どかっと腰を地面に下ろす。
「……乃咲くん。なにか、焦っていませんか?」
「……」
図星だ。ここで反応を顔に出さなかったのは日々のビッチ先生からの指導の賜物だと思う。俺は今、いつだったかビッチ先生に言われた、自分を演じるということができた様な気がした。
殺せんせーの問い掛けに顔色一つ変えることなく俺は『なんでもないですよ』とだけ答えて立ち上がり、暗殺を切り上げる。
今日はこれ以上、殺せんせーに暗殺を仕掛けても成功はしないだろうと踏んだから、さっさと暗殺道具を片付けているとスマホがポケットの中でバイブレーション。
『乃咲さん!寺坂さんからLINEが来てますよ!』
スマホを出すと律が差出人を教えてくれる。彼女も最近は俺のプライバシーへの配慮がだいぶ無くなって来たよなぁ。
いや、別にまずいサイトを見てたりとか、そんなことはないので見られて困るデータとかは無いから良いんだけどさ。
「寺坂はなんて?」
『えっと、「乃咲、面貸せや」だそうです』
「新手の脅迫か……?」
文言が明らかに恐喝のそれである。最近は寺坂の態度も軟化して来たのだが、ここに来て第二次寺坂の乱が開幕か?
こんな意味も分からずに面貸せとか言われたの不良時代以来だぞ。寺坂の奴俺なんかよりもよっぽど不良児やってるって。
つーか、真面目になんの様だ?あのジャイアンが俺に呼び出しとか。なにがあったよ?最近はマジでアイツと喧嘩になる様な事はしてないし、かと言ってお呼ばれするほど親しくなったと言うわけでもないと思うし。
呼び出し喰らう理由がマジで思いつかなくてリアクションに困ってしまう。ひとまず律に『どこに?』と返信を頼んでおいた。面貸せ、ではどこに行けば良いのかわからないからである。
「おや、寺坂くんとお出かけですか?」
「そうなるんですかね。お出かけってか呼び出しですけど」
「ヌルフフフフ、喧嘩もまた青春です」
「いや、喧嘩しないように頑張りますけどね?」
にしても寺坂から呼出か。なんの用だろ?
……この面子、なにかの冗談だよな?
「まさか、乃咲も来るとはね」
「竹林……」
寺坂はまさかの俺と竹林を呼びつけていた。
理事長直々にA組に移動しないか、と誘われた俺たち2人にピンポイントでだ。寺坂の奴……まさかめざとくも俺たちのE組離脱の可能性に気が付いて……!?
「まさか、君もメイド喫茶に行きたいと思っていたのか」
「……ふぁ?」
予想外な言葉に間の抜けた言葉が飛び出る。いや、言葉とすら言えない異音。竹林はなんて言った?『君もメイド喫茶に』いや、まて。キミ
「寺坂ぁ、メイド喫茶行きたかったのか」
「ち、ちげぇよ!」
「……へぇ」
うわ、なんだか恥ずかしい。寺坂を買い被りすぎた様だ。そうだよな、コイツがそんな人の感情の機微に敏感なはずないか。第一、敏感ならクラスで孤立なんてしなかっただろうしな。
しかし、それにしても謎だ。それならなお一層、俺をここに呼んだ理由が分からない。メイド喫茶なんて小っ恥ずかしいところに行くのになんで俺まで誘う?むしろ『んな所に行ってるの見られたくない!』とか思ってそうなのに。
腑に落ちずに首を傾げていると、竹林がメイド喫茶へと続く道を我が物顔で歩きだし、置いていかれまいと小走り気味に歩き出した寺坂のあとに続く。
歩くこと十数分。某駅前のメイド喫茶にたどり着いた。
たどり着いたは良いが、何をどうすれば良いのか俺と寺坂は迷ってしまう。こんなところ、来たことないし、どう入れば良いのか分からない。どうしてついて来てしまったんだ、俺?
などと自問自答を始めようとした時、竹林は鼻を鳴らしてクールに扉を開けた。やたらと無駄のない洗練された動きで。
体から扉までの移動を最短距離で済ませると、やや大袈裟に見える様で実は扉を開けるのに必要最低限の力を持って扉を開ける竹林。こう言うのを洗練された無駄のない無駄な動きと言うのではなかろうか?
「「「おかえりなさいませ、ご主人様」」」
そんな竹林の入店と同時にご主人様コールする店員たち。彼女たちもまた洗練された無駄のない動きでお辞儀をしてくる。そんな様子に俺たちが慌てていると竹林はそんな俺たちを鼻で2度笑うとメガネを人差し指で無駄にカッコよく押し上げながら、流れる様に入店し、言った。
「ただいま」
なんだか、本当に無駄にカッコいいぜ。竹林。
とかなんとか思いつつ、躊躇いがちに入店したメイド喫茶。初めこそ竹林……否、竹林さんの影に隠れていたが、慣れてみると案外楽しくなってくる。
「はい、あーん」
「あーん」
すっげぇ、『あーん』なんてされたの久しぶりだ。子供の頃以来かな。そしてこの食べさせられるオムライスが美味いのなんの。ケチャップがやや足らない気がするが、それでも美味い。
「はい、ご主人様もご一緒に♪『おいしくなーれ、萌え萌えきゅん♪』」
「お、お、お……」
口籠る寺坂。そりゃそうだ。俺だってやるかどうかはめちゃくちゃ悩んだ。だが、折角の経験なのでやってみることにしてみた。
「ほら、どうした、寺坂。やらないのかい?」
「た、竹林しぃ……」
我らの竹林さんはと言うと無数のメイドさんに囲まれ、マッサージされながらオムライスを口に運ばれていた。
要するにとんでもないVIP待遇である。いや、実際にVIPというか常連客としてめちゃくちゃ優遇されているのだろう。メイドさんたちがものすごいフレンドリーだし、『いつもの』で注文を済ませていた。
「ほら、やれよ寺坂。『おいしくなぁーれ、萌え萌えきゅん♪』」
「お前、よくやれるな」
「一回やれると気にならなくなるぞ。ねー?」
「「「ねー!」」」
「お前、案外強かなのな……」
寺坂も最終的には『萌え萌えきゅん』を習得し、無事にオムライスをいただくことができた。『美味っ……』と溢していた。
なんだかんだ、メイド喫茶にも馴染んできた頃、寺坂がジュースをテーブルに置き、徐に俺に問いかけて来た。
「乃咲、オメェには行きつけの店とかねぇのか」
「行きつけ、はないな。なんだ?急に」
「別に。夏休み中には共同作戦張るんだ。相手の趣味趣向知ってれば連携も取りやすいだろうよってだけのことよ」
……つまり、寺坂は俺たちを知ろうとしてくれているのか。もしかして、今日、俺たちを呼び出したり、柄にもなくメイド喫茶なんかに来て『萌え萌えきゅん』なんてしたのも全部、竹林を知る為、だったのか?
「何かねぇのかよ。趣味だとかよ」
「……趣味ねぇ。暗殺訓練?」
「アホ。そんなん趣味とはいわねぇよ」
「じゃあないな」
「……お前、それでつまらなくねぇの?」
「別に?」
確かに暗殺訓練は趣味とは違うが楽しいと感じてることに変わりはないし。出来ることが増えると嬉しいのは事実だ。
だから別に無趣味でつまらないと感じたことは今までなかったな、思ってみれば。
「じゃあよ、なにか趣味でも見つかったら教えろよ」
「なんでよ?」
「俺はテメェのことを知らねぇ。ただ目付きが気に食わないってだけで嫌ってた。だから、嫌うなら相手を知ってからでも遅くねぇって思ったんだよ。この前の……シロとの一件でな」
寺坂の奴、随分と立派なことを考える様になったもんだ。目が合うだけで睨まれていた頃とは大違いだ。
コイツはコイツなりに成長、したんだな。E組開始時点では見えなかった寺坂の意外な一面が見れた様な気がする。
「わかった。なにか思いついたら教えてやるよ」
「……あぁ」
その頃には俺も竹林もE組に居ないかもしれないけどな。
と心中で溢す。こうやって不器用なりに歩み寄ってくれようとしている寺坂と内心では色々と迷い続けている俺。
ついさっき、寺坂に成長したな、とか上から目線で感じた癖に本当に成長していないのは一体どっちだって話だ。
その後、俺たちは寺坂にあちこちに連れ回された。村松の実家のラーメン屋で美味くもなく、不味くもないラーメンを食ったり、吉田の家に連れてかれて、吉田の運転するバイクで2ケツしたり。ひたすらに寺坂組と絡んだ1日だった。
寺坂に思う存分連れ回された帰り、夕暮れ時になると俺はまた悩み出していた。寺坂は思った以上にいい奴だ。いや、寺坂だけでなく、E組の連中は大概がいい奴だと言える。俺がA組に行くのはそんな彼らへの裏切りなんじゃないのか?そんな悩みがやはり消えない。
例え、殺せんせーを殺して全ての謎を解き明かしても、E組はE組であることに変わりはないし、差別を受ける待遇であることもまた然りなのだ。
俺がA組に行くのは差別する側に回ると言うこと。例え俺単体が差別をしなかったとしても、差別してる側に行くことには変わりないし、彼ら彼女らから見てもそこは同じだろう。かと言って俺が差別をやめるよう呼び掛けても何も変わらないだろうし。
差別する側に回る。字面だけ見ると嫌な響きだ。
「ねえ、そこのキミ」
ふと、聞き慣れた声が聞こえた。
あ、いや、聞き慣れたと言うか、話慣れた声と言うべきか。俺の声に随分と似た声の誰かがいる様だ。
「キミだよ、そこの銀髪のキミ」
「……俺?」
「そう、キミだ」
俯いて歩いていると、その俺の声に似た誰かに呼び止められる。銀髪なんてこの辺じゃ俺と菅谷、いるか分からないが、イトナくらいだろう。そして、この場にいる銀髪は俺だけだ。
顔を上げてみると、そこには花を飾ったワゴンカーの前で柔らかく微笑む男がいた。帽子を深く被っていで目元は見えないが、彼もまた銀髪。加えて自分に似た声だということもあってなんだか妙に親近感が沸いた。
「なにかあったのかい?すごく思い詰めた様な顔をしていたけど。側から見ていて心配になるくらいにね」
他人に声をかけられるレベルで酷い顔をしていたのか?
思わず顔に手を当てて首を傾げると男はおかしそうに声を上げて気持ちよく笑った。
なんだ妙な気分だ。俯いて歩いているところに声をかけてきた見知らぬ他人。それだけで警戒するには充分なはずなのに、何故か警戒心が働かない。随分前にビッチ先生にディープキスされた時の直前に感じた気配に似ている。
この人は何者だろうか。いやこの花塗れのワゴンに耐水性能の高そうなエプロンと手袋。長靴を見るに、彼が花屋であることは容易に想像出来るのだが。問題はそこじゃない。
あれか?倉橋さんや矢田さんみたいに人のパーソナルスペースに入るのが天然で上手い人なんだろうか。
「大丈夫かい?顔色もあんまり良くないみたいだ」
不思議だ。自分と同じと言っても差し支えない声なのに、聞いていてなんだか落ち着く声音だ。いや、声だけじゃない。雰囲気そのものが柔らかくて落ち着くんだ。心底不思議なことに。
「えぇ。ご心配どうも」
「歩き方もなんだかふらついていたよ?」
「ちょっと鬱気味でして」
「……そうだ!じゃあ、花でも愛でてみたらどうかな?サービスするよ?」
「花……?」
手招きされて、花に誘われたムシのように花屋の兄ちゃんの前に出ると彼は何か適当に花を入れた筒をいくつか取り出し、俺に差し出してくる。
「選んでみなよ、好きなの」
「……俺が選ぶんスか?」
「キミが愛でる花だからね」
言われて適当に選ぶ。薄紫色のアサガオ見たいな奴と薄桜色のチューリップチックな奴、そして青い桔梗の様な花に猫じゃらしみたいなの数本。本当に適当に選んだのだが、選び終えると花屋の兄ちゃんは満足そうに笑った。
「いいね!良いセンスだよ。じゃあその子達をあげよう」
「……いや、でも悪いっすよ。そんなことしてたら商売にならないんじゃないっスか?」
そういうと兄ちゃんは困った様に苦笑すると俺が選んだ花を包装しで綺麗に包むと俺に花束を手渡してきた。
ついでに花選びのセンスも褒められたが……、暗殺者に花選びのセンスって必要なんだろうか?
「じゃ、この出会いに乾杯ってことで」
「……男に言われてもねぇ」
「あはは……」
互いに苦笑しながら結局、花を受け取る。
しかし、困ったことに我が家には花瓶の類を見かけたことはない。折角もらったのに何もしないで花を枯らしてしまうのは忍びないし、学校に持ってくか。殺せんせーなら花瓶の一つや二つ持ってるだろ。
「それじゃあね、身体には気をつけるんだよ。その制服、椚ヶ丘の3年生だろ?大事な時期なんだからさ」
「……うっす」
頷いて背を向けると背後から『帰り道気をつけて〜』と爽やかな声が聞こえて来た。なんだか不思議な人だったな、なんて思いながら俺は学校に向かう。花束を抱えて通学路を歩くなんて考えもしなかったな。
もしかして離任式に行く卒業生ってのはもしかしたらこんな気分なのかもしれねぇなぁ。なんて思いながら歩く通学路。
今日は倉橋さんたちと出会うことなく通学路を歩き切る。本日2度目の登校。俺は靴を履き替え、職員室に入る。
「おや、乃咲くん」
「殺せんせー、花瓶とか持ってません?」
「花瓶?おやおや、その花束は?」
「帰り道に出会った花屋の兄ちゃんが選ばしてくれたんです。サービスなんだとさ。でもうちに花瓶なんてないから殺せんせー、花瓶とかもってないかなぁって」
「ヌルフフフフ、当然持ってますとも!美しい花々を見て慈しむのもまた大人の嗜みです!」
マッハで花瓶を持って来てくれた殺せんせー。早速、その花瓶の中に水と花を入れる。目についたやつを適当に選んだだけとはいえ、花瓶で飾ってやるだけでも大分、サマになるもんだな。
それに花屋の兄ちゃんの好意を無駄にせずに済んだ。
「それにしてもキミが花束を持ってくるとは考えもしませんでした。コレはどこで?」
「寺坂たちと遊んだ帰りに花屋の店員が声をかけてくれましてね。顔色が悪いとかなんとか。それで花でも愛でてリラックスしろ、と花を選ばせてくれたんです。無料で」
「ほうほう。近年稀に見る素敵な店員さんですねぇ。それに加えてキミのセンスも実に見事だ」
「そうですか?殺しに関係ない技術って
その場合は祖父母に花瓶のおねだりでもしでもしてみるか、なんて思いながら話してみると殺せんせーは俺の目を見つめているのに、何故だか何処か遠い目をしていた。
似ている、似ていると思っていたがまさかこんな所まで似ているとは思いもしなかった。
「
「……いえ。邪魔だなんてことはないでしょう。それに花にリラックスしている相手の隙を突く発想自体は素晴らしい」
「いや、マッハ20相手に通じないんじゃない?って話し……」
「ヌルフフフフ、そこはやってみないとわからないところですねぇ。それから、キミはセンスが良い。私よりも上手いです」
「
あぁ。本当に似ている。
あの子に。本当に生き写しのようだ。
何処かで血縁関係でもあるのではないだろうか、と考えたくなるほどに彼の何気ない仕草や言葉は私の追憶を刺激する。
苦々しい、過去の過ち。私の初めての生徒。見てあげることをしなかった、私の教え子との記憶を。
だからこそ私は決意した。彼を見る度に決意を新たにするのです。今後こそ、彼らを見るのだと。
「乃咲くん乃咲くん!たまには先生と晩御飯とかどうですか!?」
「え〜、メイド喫茶でオムライス、吉田ん家でラーメンくって結構、腹一杯なんだけど」
「でしたらさっぱりとしたデザートを食べましょう!良い喫茶店をしっているんです。そこに行きましょう!」
まだ返事をしない乃咲くんを懐に入れて、飛び立つ。野を越え山を越え、海を越える。
さて、美味しいデザートを食べて彼が悩みを少しでも吐き出してくれればいいのですがねぇ。
何やら深刻な顔を度々見せるようになった彼を正しく導くと私はもう一度胸とあの日と変わらない月に誓った。
あとがき
はい、あとがきです。
圭一の声についてですが、
島﨑 信長さん(イメージキャラ:寄生獣の泉新一)で一つ、よろしくお願いします。
今回もご愛読ありがとうございました!