誤字脱字・文脈修正報告に高評価とたくさんの感想ありがとうございます!
皆さんからの感想などが私の腕を突き動かしている……!というわけで球技大会前半投下します。
みなさん、毎度、ご愛読ありがとうございます!
——追記——
誤字脱字報告ありがとうございます!
授業も終わり、烏間先生の事情で放課後訓練もなかった今日。俺は杉野、カルマ、渚と一緒に帰っていた。
「マジ? ソニックニンジャ見に行ったんだ?」
「そうなんだよ。殺せんせーにハワイまで連れて行ってもらってさ」
「ま、そのあと英語で感想文求められたけどね」
なんて雑談をしていると杉野がふと視線を練習に打ち込んでいる野球部に向けた。
E組とは言え、あるのは椚ヶ丘学園の敷地内。帰り際に本校舎の側にやってしまうことなんて幾らでもある。そんな時、ふと自分の所属していた部活が練習していたら視線を向けたくもなるだろう。
ま、俺は帰宅部だから分からないけど。
「お、杉野じゃん?」
この学校の生徒にしては侮蔑の少ない声色に思わず感嘆の声を漏らしそうになるのを堪えて、声をかけられた杉野を渚達と見守ってみる。
「おお〜杉野! たまには顔だせよな」
「ははっ、ちょっとバツが悪りぃよ」
本当に本校舎の連中にしては珍しくフレンドリーだな、コイツら。野球部、意外と良いやつかも。
「来週の球技大会、お前投げるんだろ?」
「そう言えばまだ決まってなかったけど……うん、投げたいな」
あ、そうか。来週は球技大会もあるんだったか。綺麗さっぱり忘れていたよ。
と思わず学校行事に顔を渋く歪ませていると、杉野たちの雰囲気が少し拗れだした。
「しっかし、良いよなぁ。杉野は。E組だから毎日遊んでられるだろ? 俺らは毎日へとへとでさ」
「よせ、傷付くだろ。進学校での部活との両立。選ばれた人間じゃないならしなくていいことなんだ」
前言撤回、野球部もE組を舐め腐ってる連中だったことに変わらないらしい。見る目ないな、俺。
自分の見る目のなさに打ちひしがれているとカルマがやや喧嘩腰で野球部の主将に突っかかる。
「うんッ! そうだよ」
うわっ、笑顔で自分達は選ばれた人間だとかほざいたぞ。一周回って恥ずかしくないのかね。
野球部たちの反応に置いていかれ気味な俺たちを他所に野球部主将、進藤が得意げに語り出す。
「気に入らないか? なら来週の球技大会で見せてやるよ。お前らに、人の上に立つ者とそうでない者。この歳で開いてしまった大きな差をな」
「大層なこと言ってるけど、結局野球しようぜってことだよな?」
「………………乃咲」
「んじゃあ、早速作戦会議だ。帰るぞ」
このままだとカルマが何にキレるか分からないし、俺はアイツら多分嫌いだし、渚も親友傷付けられてムッとする程度には怒ってるし、杉野のSAN値は削られるで碌なことがないと悟ったので俺は杉野の手を掴み、少々強引にその場を後にした。
という話を殺せんせーに持って行ったところ、球技大会があること自体を認知してなかったらしく、まずは球技大会について説明することから始まった。
「クラス対抗球技大会! 健やかな心身をスポーツで養う! 大いに結構! ……ですが、E組だけエントリーされてないのは何故です?」
「E組は1チーム余るって素敵な理由で参加できねぇんだ」
「なるほど、いつものやつですね」
「そ、んで、いつも通りに見せ物にされる訳よ。エキシビジョンマッチでさ」
「エキシビジョン?」
「そ、男子は男子野球部と、女子は女子バスケ部と試合させられるのよ。大会はあくまで一般生徒の為の物だから出れなかった部活連中にも活躍の機会をってさ、要するに当て馬兼見せ物ってわけ」
三村の説明が終わると寺坂組が離脱を表明する。まあ、予想できていたことなので驚かないが。
「俺ら見せ物とか勘弁だわ」
「お前たちで適当にやってくれ」
「あ、おい! 寺坂!」
磯貝も慌てて止めようとするが、その時にはすでに時遅し。寺坂たちは教室を出て行ってしまった。
その行動で悪くなりかけた空気を払拭するように前原が杉野に向かって問いかける。
「野球と言えば杉野だけどさ、なにか勝つ秘策とかねぇの? アイツらの弱点とかさ」
「……無理だよ。最低でも3年野球してた奴と殆どが野球したことのない俺ら。勝つどころか、勝負にすらならねぇよ。普通はな」
ぼやく様な杉野。しかし、その後ろ姿からは闘志のようなものが感じ取れた。
「それにさ、うちの野球部はかなり強ぇーんだ。特に進藤。豪速球で高校からも注目されてるんだぜ? 勉強もスポーツも一流とか不公平だよな。でもさ、けどさ、
杉野のやる気は俺たちに伝播し、そして殺せんせーにもやる気は伝わったらしく、杉野の言葉が言い終える前にトレーニングウェアに着替えて戻って来た。
「善戦じゃなくて勝ちたい。好きな野球で負けたくない。野球部追い出されて、E組に来て、むしろその思いが強くなった。
「わくわく……わくわく……!」
トレーニングウェアに着替えた殺せんせーの触手に握られているのはバット、ボール、グローブ、野球盤、竹刀が握られていた。どうやらその万能の触手で俺たちを鍛えてくれる気満々らしい。
「お、おう。殺せんせーも野球がしたいんだな……」
「先生、一度スポ根ものの熱血コーチをやってみたかったんです! 殴ったりはコンプラ的に出来ないので、ちゃぶ台返して代用します!」
やる気満々に色んなものを準備しまくっている殺せんせーに「準備よすぎだろ!」とテンポの良いツッコミ入れる杉野を気に留めることなく、殺せんせーは嬉しそうに言った。
「最近の君たちは目的意識をはっきりと口にする様になりました。勝ちたい、殺りたい。どんな困難な目標に対しても揺るがずにね。その心意気に応えて、殺監督が勝てる作戦とトレーニングを授けましょう!」
こうして来週まで続く殺せんせー……もとい、殺監督による猛特訓が始まった。
「
殺せんせーのセリフと共に投げられた一投。それをゾーンに入り、見切り、タイミングを合わせてフルスイングし、バットにヒットさせる。
「腕痛ぇ!?」
「ちょっと乃咲くん!? 無茶しないでください!? ゾーン持ちのあなたはうちのチームの打撃のエースなんですからね!?」
辛うじてヒットさせたが、腕を持っていかれそうになった。流石時速300km。恐るべし。
「
って痛がってる場合じゃない!? さっさと走らないと!? 容赦ないぞ、殺監督!
「
「ちょっ、ちがっ、ちゃうんすよ!」
予想外のネタが飛び出して来たので思わず否定を入れるが、その間に時速300kmの豪速球はキャッチャーミットに収まってしまった。
「ヌルフフフフ、その反応、満更でもなさそうですねぇ。メモメモ……。そう言えばこの前も倉橋さんが危ないと判断した時に凄い力を出してましたし」
「ほっとけ!?」
「乃咲ぃ〜! 集中集中!」
「うっせぇ、エアギター! モノマネすっぞ」
「なっ!? 聞こえてたのかよ!?」
と、まあこんな感じで猛特訓は続いた。
ちなみに殺せんせーからの精神攻撃は確実に俺のSAN値を削ってゆき……週末になる頃には。
「皆が愛してくれた殺監督は死んだ。何故だ!?」
「の、乃咲が壊れたぞ!」
「そうだ、桜なボーヤだからさ!」
「何処情報だ!?」
「ジーク・ジオン!!」
「の、乃咲!?」
「復唱! ジーク・ジオン!!」
「「「ジーク・ジオン!!」」」
壊れた俺を誰も治してくれなかった。
『それでは最後に、E組対野球部選抜のエキシビジョンマッチを行います〜!』
絶対いまのエキシビジョンマッチって余興試合にルビ振ってるよね。その証拠にというか、野球部はやる気満々。まあ、彼等としては大会に参加できず、フラストレーションが溜まっているのだろうな。
完璧に俺たちは見せ物兼、アウェイ。
なんでだろーな、アウェイ。アがなければウェイとか陽キャがキラキラしてそうな言葉なのにアがつくだけ一瞬でマイナス思考な言葉になるのは何故だろう。
……陽キャがキラキラってなんぞ? なんか、今の一瞬、すっごい頭悪いこと考えてなかったか、俺。
そうこう考えてるうちに試合前の整列の号令が鳴ったのでE組と野球部が横一列に並ぶ。
「学力の体力を兼ね備えたエリートだけが選ばれた人間として人の上に立てる。それが文武両道だ、杉野。お前はどちらもなかった、持たざる者だ。…………締まっていくぞ!」
「「「おう!!」」」
おーおー、野球部はやる気十分みたいだな。一方杉野は言いたいことだけ言われて不満気味っぽいな。よし、発破かけるか。いつかのテスト前みたいにならない程度にね。
「杉野、言われっぱなしでいいのか?」
「乃咲……」
「少なくとも俺たちのエースはお前なんだぞ、そのお前がそんなんじゃ負けるぜ? それで良いのか? 勝ちたいんじゃなかったのか? 俺たちと」
「……へっ! 言われなくてもわぁってるよ! いつも発破かけてくれてありがとな乃咲。よし! 俺たちも気張って行くぞ!」
「「「おう!!」」」
こうして試合が始まった。
始まったと言っても、俺たちがやるのは単なる野球じゃない。
「つか、殺監督どこよ?」
「あ、監督はあっち」
試合が始まるというのに姿を見せない殺せんせーを探していると、渚が指差した先に遠近法でボールに紛れた殺せんせーが体ごと埋まっていた。
「顔色で指示出すって」
「……頭いいんだが、悪いんだか……」
渚からサイン表を受け取ると殺せんせーが青緑、紫、黄土色と顔色を変えた。
「なんて?」
「えっと……殺すつもりで勝てってさ」
パターン複雑すぎるだろ。殺監督。
「んじゃあまぁ、気張っていきますかね」
準備運動がてら身体をほぐす。
『一番、サード、木村くん』
「行って来いや、一番手」
俺たちの攻撃側から試合開始。
俺たちの先頭打者は木村だ。なので背中を押してやると『先頭打者とか勘弁してくれ』と弱気な言葉が飛んで来た。
しかし、彼はきっちり仕事をこなす。
この1週間、俺たちはマッハ20のモンスター相手に練習して来た。その成果は……。
『おっと!? バントだぁぁぁぁぁ──!! E組木村、良いところに転がしたぞ! 内野、誰が取るかで一瞬迷ったっ! その隙になんと木村は一塁へ! ファーストへボールが投げられるが……セーフ! これは意外! E組ノーアウト一塁です!』
E組男子はバントを習得した。
時速300km相手に練習してたんだ。140km
荒木の実況は試合が進む度に反応者の連中にとってはどんどん不穏な方向へ流れて行く。
『2番キャッチャー潮田、彼もまたバントだぁぁぁ! 今度は三塁線へ向けての強いバント! 前に出て来ていたサードもこれにはたまらず横を抜かれたぁぁぁぁ! これでE組ノーアウト1、2塁です!』
木村に続く渚もバント。そして彼等に続いた磯貝もまたバント。また三塁線に向けてのバントだが、今度は緩やかなソフトバント。守備も困惑し、その間に木村を先頭に走者は駆け抜けて一気に満塁になった。
『E組またもバント……! ま、満塁だ! ちょ、調子でも悪いでしょうか、進藤くん』
ポカンとした顔で俺たちを見ていた進藤。その顔が次の打者を見た途端に変わる。当然だ。次の打者は散々アレだけ煽っていた因縁の相手、杉野なのだから。
杉野はピッチャーがフォームを取る前にバントのポーズをする。その瞬間、進藤の瞳に怯えの様なものが一瞬だけ過ぎる。しかし、それを振り払ったのか、振りかぶった一球。
それを待ってましたと言わんばかりに杉野はバントの構えを解き、バットをフルスイング。
結果、豪速球が売りだったはずの進藤の球は杉野に攻略され、杉野渾身のスイングは走者一掃のスリーベースヒットを叩き出した。
と、そこで俺らの戦場にやって来た魔王が1人。向こうのベンチに降臨したらしい。
「顔色が優れませんね、寺井先生。お体の具合が優れないのでは?」
「り、理事長先生!?」
「すぐに休んだ方がいい。部員たちも心配のあまり本来の力を出せていない」
「そ、そんなことはありません! 私はこの通り元気で——」
「病気で良かった。そうでなければこんな醜態を晒す教育者が我が校に在籍しているはずがない。あぁ、やはり酷い熱だ。誰が、先生を医務室へ。その間は私が監督をやります」
ひ、酷いゴリ押しを見た。
寺井の奴、めちゃめちゃ元気だったのに理事長に肉薄されてから恐怖のあまり泡吹いて倒れたぞ。
理事長め、そこまでしてE組優位なこの状況を覆したいのか、そんなに、俺らが気に食わないのか!?
『い、今入った情報によりますと野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で野球部員たちも心配で試合どころではなかったとのこと! それを見かねた理事長先生が急遽指揮を取るそうです!』
「まじか、一回表からラスボス出やがったぞ」
「あーあ、タイム貰って全員に何か言ってるぞ」
「こっちもなんかやっておくか……よし、全員復唱、ジーク・ジオン!」
「「「ジーク・ジオン!」」」
「乃咲は壊れたままだったのか」
よし、俺たちの気合いもバッチリだ。
が、しかし、気合いでどうにもはならないこともあるもんで。浅野理事長はいくつか指示を出してベンチに下がったと思ったら野球部の守備陣もバッターボックス付近まで下がって来た。
これはアレだな、浅野理事長にこっちには殆どバントしかないことバレてるな。
「バントしかないってバレてるな」
「……ってもこんな近い距離ダメだろ!? 目に入ってバッターが集中出来ぇよ!?」
岡島もたまらず抗議するが、竹林が補足する様にメガネを押し上げながら呟く。
「ルール上ではフェアゾーン内なら何処を守っても自由だね。審判がダメだと判断すれば別だけど……審判の先生は
その後、前原がボールを打ち上げてしまい、アウト。続く岡島と千葉は三振してスリーアウト。攻守入れ替えだ。
これは勝利も絶望的……かと思われたが、杉野が良いピッチングを見せてくれる。
ヌルヌルと曲がる変化球で相手チームを尽く空振りさせていた。凄いなアイツ。
いつだった野球での暗殺に失敗した時以来、杉野に野球を教わりながら練習に付き合うことはあったが、こうやって第三者に通用しているところを見ると彼の才能がよく分かる。
友人の才能が光って見えるのはなんだか、嬉しく思えた。