高評価・誤字脱字報告ありがとうございます!
今後も妄想垂れ流しますのでよろしくお願いします!
——追記——
誤字脱字報告ありがとうございます!
『3者連続三振っ! スリーアウトチェンジです! 攻守が入れ替わり、再びE組の攻撃になります!』
攻守の入れ替わり際に何気なく理事長を見てみると、進藤に何かをひたすらに囁いていた。
「繰り返し言ってみよう。『俺は強い』」
「……俺は強い」
「『腕を大きく振って投げる』」
「腕を大きく振って投げる」
「『力で捩じ伏せる』」
「力で捩じ伏せる」
「『踏み潰す』」
「……踏み潰す……!」
何アレ怖い。顔をあんなゼロ距離すれすれまで近づけられて、囁く様に指導するとか最早洗脳だよ。
嫌な方向に甲斐甲斐しすぎるぜ、理事長。
そういえば点数落としたばっかりの頃の俺に浅野が似た様なことやって来たっけ。そう思うと親子なんだなぁ、あの2人。
などと浅野親子の恐ろしさに戦々恐々としているうちに戦局は進む。
『2回表! 野球部変わらずこの鉄壁のバントシフト!』
相変わらず邪魔なくらいに前傾姿勢な守りの態勢。そんな状況に嫌気がさしたのか、あるいは殺監督からの指示なのか、カルマが口を開く。
「ねぇー、これズルくない? 理事長。こんだけ邪魔な位置で守ってるのに審判の先生も何も言わないの。
やべぇ、カルマの奴、素で言ってるのか、あえて挑発する様に言ってるのかわからねぇぞ、これ!?
こんなカルマに外野というか観客たちから野次が飛ぶ。うるせぇぞE組風情が! とかなんとか。
カルマのそんな野次を気にせずに遠近法でボールに紛れた殺せんせーの方を見る。どうやら彼の指示だったらしい。今のところただ相手と観客を挑発した様にしか見えないが、どんな意味があるんだろう?
ちなみに2回表は俺たちに良いところはなし。魔改造された進藤に三振やアウトを取られ、攻守交代。
『そして2回裏! 絶好調の進藤くんが打撃でも火を吹く! E組はまずい守備で長打を許してしまった!』
『この回の集中打で2点を返し、いよいよ3対2! いよいよE組を追い詰めたぞ!』
そんなこんなで迎えた3回表。三村、菅谷も三振を取られ、打撃が俺に回って来た。
「乃咲、殺せんせーから司令が来たぞ」
「へ?」
バットを持って来てくれた杉野がそう言ったので殺せんせーを見ると何やら顔色を変えて何かをアピールしてた。これはあれか? 遠慮せずにかっ飛ばして良いぞって指示なのか?
なにぶん、今まで見たことないサインだし、今までよりも色の変わり方……サインの内容が複雑だ。
「えっと、『挑発して打ち返してやりなさい』だってさ」
「ピッチャー返ししろってこと?」
「やれるのか?」
「楽勝だぞ」
「……しないでやってくれ。アイツ、あんな風に言ってるけど悪い奴じゃないんだ」
「……しゃーないのぉ」
ピッチャー返しする気満々だったのだが、杉野の気遣いで命拾いしたな、進藤。
俺は杉野からバットを受け取り、ボックスに立つ。と、それと同時にバットを高らかに掲げて見せた。
『おっと乃咲ぃ、ここで予告ホームランだ!』
「踏み潰す……! 乃咲ぃ!」
野球で1番の見せ場兼挑発といえばこれだろ? 殺せんせー?
遠くで朱色の丸を浮かべる担任に頷き進藤のピッチングを2回見送る。
『ああっと、予告ホームランまでしておいてバッター一度も振らずにツーストライク! なんだ? 乃咲、格好悪いぞ』
「うっせぇ、ほっとけ。ファールとか無しに次の一球で進藤の球を会場から叩き出してやるからよ」
行動での挑発も忘れない。すかさず飛んでくる観客からのブーイングも気にすることなく、俺はゾーンに入る。進藤の次に投げてくる球種がカーブかストレートか判断するために。
あの握り方、ストレートかな。杉野の練習に付き合った日々を思い出しながらそう判断した俺はバットを強く握り固めた。
投げ放たれる一投は止まって見えた。
俺はタイミングを合わせてバットを振り、ゾーンから抜ける。振り抜いたバットはボールをまっすぐ打ち抜き、弾き返されたボールは電光掲示板を軽々飛び越えて場外に飛び出した。
『おおっと!野球部、バント対策が裏目に出た!打たれたボールは勢い衰えず伸びる伸びる!は、いや、ちょっと、伸びすぎ……あっ……E組乃咲、ほ、ホームラン……』
ポカンとする面々を他所に挑発を兼ねてゆっくりと1塁、2塁、3塁を周り、ホームに戻る直前、唖然とする進藤にやはり挑発を兼ねて言い放った。
「すっごい球速だったね! ——止まって見えたよ」
出来るだけ醜悪な笑みで。
俺の笑みを見た進藤は赤っ恥をかき、顔を真っ赤にしていたが挑発は成功かな?
その後、アウトを取られた俺たちは守備に回る。3回裏。このエキシビジョンマッチにおける最終ラウンド。そんな極限状態ではあるが、今のところは4対2で勝ち越している。
だが、杉野以外は野球初心者の寄せ集めでしかない俺たちと3年間ガッチガチに野球ばかりしていた野球部ではその差も簡単に覆る事だろう。
なにがなんでも守り通す。そんな意気込みがクラスメイトたちから伝わる中、俺たちの裏では監督同士による熱い攻防が繰り広げられていた。作戦には作戦を、目には目を、歯に歯を。バントにバントを。
3回裏、野球部たちの攻撃。
彼らの姿勢は皆、バントの構えだった。
「マジかよ。野球部が初心者相手にバントなんて」
「いや、最初にバントをしたのは俺たちだ。だからアイツらには大義名分があるのさ。『手本を見せる』ってな」
ぼやく岡島に解説しながら焦る。俺たちはバントの練習しかしてない。だから、バント処理なんて出来るわけもない。
『野球部! バント地獄のお返しだ! 同じ小手先の技なら野球部の方が遥かに上! そしてE組の守備はザル以下! ランナー楽々セーフ! E組よバントとはこうやるんだ!』
まずい。荒木の実況も勢いを取り戻しつつある。それは野球部の劣勢がひっくり返りつつあるという事。
『あっと言う間にノーアウト満塁だ! 一回表のE組と全く同じ状況! 唯一違うのはこの男! ここで迎えるバッターは我が校が誇るスーパースター進藤くんだと言うこと!』
「踏み潰してやるぅ、杉野ぉ!」
だから怖いって、アイツ。
どんな洗脳したんだよ、浅野先生。
などと思っていると地面から殺せんせーの顔が生えて来た。同時にカルマがこっちに向かって来たので2人で殺せんせーの指示に耳を傾ける。
「2人とも、さっきの挑発が活きる時が来ました。あなた達2人で前衛に立ちなさい」
「あー、なるほどね」
「まじかよ」
言われるが間に俺とカルマはバッターボックスすこし手前まで出て守備に着いた。
ポカンとする進藤に向かってカルマが言い放つ。
「さっきオタクらが同じことをした時、審判はなにも言わなかった。なら、俺たちがやっても問題ないよね?」
問い掛ける先は理事長。
そんな理事長はどこ吹く風。
「ご自由に。選ばれた者は守備位置程度で心を乱されはしない。遠慮なく振りなさい、進藤くん」
「あ、そう? じゃあ遠慮なく」
理事長から許可も降りたことだから俺たちはさらに前進してバッターボックス一歩手前まで近付いた。
「……は?」
あまりに常識外れた位置での守備に後ろの杉野から乾いた笑いが聞こえるが、ここは気にしないでおこう。さっき、向こうのチームが同じことをした時、審判は何も言わなかったし、カルマの抗議を拒絶した外野がこの状況に文句を言えるはずもなく。
全てはこのスタジアムの後ろの方でねるねるねるねを作って食べている音速タコの策略だ。
まったく頭が下がる。
何処から何処まで考えているんだろう? あのタコは。いや、そんな殺せんせーと互角の頭脳性繰り広げてる理事長も大概だけどさ。
と、ここでも一応挑発しておくか。
「進藤、さっきのお詫びと言っちゃなんだが、思いっきりスイングしてくれて良いぞ。なんなら当てるつもりで振れって」
「そうだよ、気にせず打てよ、スーパースター。ピッチャーの球の邪魔はしないから」
バットを振れば直撃は免れない距離での守備に思わず進藤は理事長に助けを求める様に視線を向けるが帰って来た言葉は無慈悲。
「気にせず振りなさい。進藤くん。骨を砕いても打撃妨害を受けるのはE組の方だ」
その無慈悲さは本来なら俺たちに向けられている言葉なのだろうが、今は逆効果。進藤の目には怯えが見える。振って、当たってしまったら? 怪我をさせてしまったら? 最悪死ぬのでは? と。
そう、その迷いこそが俺たちの狙い。
後ろで杉野がピッチングしたのか、進藤がバットを振る。ただバッティングするには大振り。恐らく思いっきり振ればびびって俺たちが引くとでもおもったのだろう。だが、その程度であればゾーンに入ることなく躱すことができる。
「ダメだよ、そんな遅いスイングじゃぁ。次は殺すつもりで振ってごらん?」
「そうそう。理事長の言う通り、打撃妨害を取られるのは俺たちで? お前には一切非はない訳だからさ」
こんな具合で煽っていると、進藤の体が震え出した。どうやら浅野理事長の教育に自分の体がついていかなくなったらしい。
ランナーも観客も、この野球の形をした異常な光景に完全に飲まれてしまったらしい。野次はもう、飛んでこなかった。
「う、うわぁぁぁぁ!!?」
『バッター腰の引けたスイングだぁ!』
悲鳴混じりなスイング。僅かにカツン、とバットに触れて打ち上がったボールをキャッチして、渚に渡す。
『サードランナーアウト!』
「渚! そのボール三塁へ!」
「う、うん!」
磯貝からの指示でサードを守る木村にボールがパスされ、セカンドランナーもアウト。木村からファーストを守る菅谷にボールがパスされたことでバッターの進藤もアウト。
『バッターアウト……と、トリプルプレー。げ、ゲームセット! な、なんと、E組が野球部に勝ってしまったぁぁぁぁぁ!!?』
荒木の実況が少し気持ちよく感じた。
こうして俺たちE組は野球部に勝利した。
恐らく、このピッチに立った者以外は知る由もないだろう。この試合の裏で地球を滅ぼす怪物とこの学校のラスボスが熾烈な争いを繰り広げていたことなど。
「ゴメンな、進藤。はちゃめちゃならプレーしちまって」
勝った感動に皆が打ち震える中で杉野だけがヘタレこむ進藤に駆け寄っていた。
「でも分かってるよ、野球選手としてはお前の方が全然強い。これでお前に勝ったなんて思ってねーよ」
「だったら……なんでここまでして勝ちに来た? 結果を出して俺より強いと証明したかったんじゃないのか?」
「んー……」
進藤の問いに言い淀む様に俺や渚、カルマ達を見た。
「渚と乃咲は俺の変化球習得に付き合ってくれたし、カルマの反射神経とかみんなのバントの上達ぶりとか凄かったろ? でも結果出さなきゃそれが上手く伝わらないし、表現できないっていうかさ……」
杉野は鼻の下を照れくさそうに掻きながら言った。
「ようはさ、自慢したかったんだ。昔の仲間に今の仲間をさ」
聞いていても照れ臭くなるような言葉に俺まで鼻の下が痒くなってしまう。
そんな杉野の言葉に感化されたのか、進藤は清々しそうに立ち上がって笑って言った。
「覚えとけよ! 杉野、次やるときは高校だ!」
「おうよ!」
進藤の何気ない言葉につい考えさせられてしまう。彼らは来年の今頃には地球がなくなってしまう可能性なんて微塵も考えていないんだろう。しらないんだからそれが当然なのだが。
俺たちの暗殺は、そんな彼らを守る為の物でもあるのかも知れないな、とふと思った球技大会だった。