暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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な、なんとか1週間経つ前に投稿できた……。やっぱり土曜日は尊い。
私の座右の銘は『土曜は尊い、日曜は儚い』、です。

UA57000件、お気に入り995件突破!
誤字脱字報告と高評価ありがとうございます!

——追記——
誤字脱字、文脈修正ありがとうございます!



32話 指名の時間

 

「聞いた?乃咲の話」

 

「うん。鷹岡先生に殴られて入院したって」

 

「……乃咲くん、大丈夫かな」

 

 E組の内部ではそんな話しで持ちきりだった。

 それもそうだろう。圭一はE組だけでなく、周辺校にすら名前が轟いている不良児。喧嘩の腕に関してはカルマに引けを取らず、訓練では烏間相手にクリーンヒットを単独で取れる唯一の生徒だ。

 そんな彼が殴り倒されたとなれば心配もするし、何よりも鷹岡に恐怖する。

 

「なんだ?父ちゃんに逆らった奴の話なんかして、お前らも同じ目に遭いたいのか?」

 

「ヒッ……」

 

 鷹岡の脅しの言葉に思わず女子生徒が悲鳴を漏らすが、そんな鷹岡の背後には顔を真っ黒に染めた殺せんせーと警戒心を隠そうともしない烏間がいつでも飛び出せる様に構えていた。

 昨日の一件は教師陣を警戒させるには充分すぎたのだ。その証拠に普段は体育などチラ見する程度にしか気に留めていないイリーナですら小脇に小型リボルバーを握り締めて警戒心を露わにしていた。

 

「烏間ぁ!んなところにいて良いのかよ?お前の任務はそんなところで棒立ちすることじゃねぇだろ」

 

「俺の任務はターゲットの監視と殺し屋の手引き。そして、ターゲットはここにいるし、イリーナも虎視眈々とターゲットを狙っている。故に、俺がここにいることになんら問題はないはずだ」

 

「……ちっ」

 

 舌打ちする鷹岡は意識を切り替えたのか、数秒前までの低い声を片付けて、陽気な声を出す。

 

「さて!訓練内容の変更に伴ってE組の時間割も変更になった!これをみんなに回して欲してくれ」

 

「……?時間割?」

 

 菅谷は呟くと同時にE組の生徒たち全員が自分の目を疑うことになった。何故ならそこには10時間目、21時までの訓練が組まれていたからだ。

 

「嘘でしょ……!?」

 

「10時間目……」

 

「夜9時まで訓練……」

 

「そうだ。これくらいは当然さ!理事長からも許可は貰っている。『地球の危機ならしょうがない』だとさ。んま、このカリキュラムについてこれればお前たちの能力も飛躍的に上がるはずだ」

 

 無茶振りとしか思えない言葉にクラスメイトほぼ全員が絶句する中、前原が反発する。

 

「ちょっと待ってくれよ鷹岡先生!無理だぜ、こんなの!?」

 

「ん?」

 

「勉強の時間がこれだけじゃ成績落ちるよ!理事長も分かってて(・・・・・)承諾したんだ!遊ぶ時間もねーし!第一、身体が持たねぇよ!」

 

 そう反発した瞬間、前原が鷹岡に捕まれる。そして膝蹴りを叩き込まれる寸前、黒く染まり切った触手が伸びて来て、鷹岡の膝と前原の腹の間に割って入った。

 それにより、前原へのダメージはゼロ。キョトンとする前原を置き去りに鷹岡と殺せんせーが口を開く。

 

「『できない』じゃない。『やる』んだよ。言っただろ、俺たちは『家族』で俺は『父親』だ。世の中に父親の言うことを聞かない家族がどこにいる?」

 

「あなたの家族じゃない。私の生徒です……。乃咲くんの件と言い、これ以上、手荒な真似をするのなら……!」

 

「なんだよ、殺すか?体育の教科担任は俺に一任されている筈だ。だったら授業中の罰も俺の自由。違うか?立派に教育の範囲内だろ、今の罰も。それともなにか?まだお前に何の危害も加えてない男に手を出すのか?多少教育論が違うだけで?」

 

「っ……!」

 

 青筋を立てる殺せんせー。ひとまず下りはするが、やはりいつでも止められる位置で訓練を見守ることにしたらしい。

 

「はい、じゃあ、まずはスクワット300回な!」

 

 圭一と前原にされた仕打ちも相待って恐怖に駆られた生徒たちは言われた通りにスクワットを開始する。そんな彼らを歯痒く見守りながら殺せんせーが烏間に口を開いた。

 

「……あれでは生徒たちが潰れてしまう」

 

 彼らの視線の先ではスクワットの仕方がなってないという理由で胸ぐらを掴まれる三村の姿があった。

 

「超生物として彼を消すのは簡単なことです。ですが、それでは生徒たちに筋が通せない。私にとっては間違っているものの、彼なりの教育論があるのも確かだ。だからね、烏間先生。あなたに同じ体育教師として彼を否定して欲しいのです」

 

「(否定……俺が奴を間違っていると言えるのだろうか?厳しさはともかくとして、プロとして一線を引くよりも、家族の様に接する。そのやり方自体は一つの教育論として間違っていないのではないのか?)」

 

 烏間は2枚の写真を持って葛藤する。

 一枚は笑顔で鷹岡と写るその教え子たち。

 二枚目はそんな教え子たちの背中に刻まれた生々しく、痛々しい傷跡。 

 

「第一!こんな時間割じゃ生徒たちと遊べないじゃないですか!」

 

「そうよ!こんな時間割じゃ私の買い物について来て荷物持ちしてくれる男子生徒もいないじゃないのよ!」

 

「とりあえず、ここの教師陣が間違いだらけなのはよく分かった」

 

 写真を胸ポケットにしまい、教育現場に向き直るとそこでは神崎と鷹岡が向き合っていた。

 

「私は嫌……です。烏間先生の授業を希望します」

 

「……っ!」

 

 その言葉が鷹岡、烏間の両名に火を付けた。

 怒りの炎が付いた鷹岡は拳を振り上げ、教師として自分に火がついた烏間はそんな拳を押さえ込む。

 

「それ以上。生徒たちに手荒な真似はするな。暴れたいのなら、俺が相手を務める」

 

「「「烏間先生!」」」

 

 烏間の登場に思わず歓喜の声を漏らす生徒たち。

 

「そろそろ横槍を投げてくる頃だと思ったぜ、烏間。だが、俺と戦うのはお前じゃない。お前とは教師として戦う。乃咲以外でお前一推しの生徒を選べよ。そいつと俺とで決闘だ!」

 

 軍の教官を勤めていた頃、鷹岡はこの手をよく使っていた。敏腕の教官として優れていると評価された反面。その教育論は絶対的強者として格の差を見せつけて相手を心の底から屈服させること。

 教官時代から鷹岡はこの手を好んでよく使っていた。

 

「お前の教え子が勝ったら俺はここの教育権を全権お前に託して出てってやるさ。男に二言はない!ただし、使うのはこんなおもちゃのナイフじゃない——本物のナイフだ」

 

「っ!よせ!彼らはそれ(・・)を人間相手に振る訓練などしていない!」

 

「おいおい、バカな事言うなよ、殺す対象はあくまで俺なんだぜ?だったら本物じゃないとな」

 

 内心、鷹岡はほくそ笑んだ。この手を使って自分に勝てた者など1人もいなかったからだ。

 

「安心しな、寸止めでも勝ちってことにしてやるし、俺は素手だ。これ以上ないハンデだろ?」

 

 軍隊でもこの手はよく効いた。本物のナイフを持ってすくみ、鷹岡に震える心配。彼はそんな教え子たちの顔が好きだったし、そんな彼らを殴って屈服させ続けて来た。

 

「さぁ、選べよ烏間。選ばないなら無条件で俺に服従だ!生徒を生贄に差し出すか、それともまた見ぬふりをするのか、どっちにしろ酷い教師だよお前はな!はははは!!」

 

 投げ渡されたナイフを片手に烏間は迷っていた。

 地球を救う暗殺者を育てるには鷹岡の様な容赦のない教育こそ必要なのではないのか、と思う自分がいることも確かだったからだ。

 

 しかし、そんな中で思い出せる言葉があった。

 

『大丈夫です、烏間先生。俺を信じてください』

 

 昨日、似た様な条件で勝利を収めた生徒を烏間は知っている。だからだろうか、迷いはあったが、烏間には躊躇いはなかった。

 

「渚くん。やる気はあるか?」

 

 その言葉に躊躇いはなかった。

 

「選ばなくてならないのなら、おそらく君だが、返事の前に俺の考えを聞いて欲しい——俺は、地球を救う依頼をした側として君達とはプロ同士だと考えているし、そのプロとして君達に支払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保障することだと考えている」

 

 そこで一旦言葉を区切ると生徒全員を一度だけ見渡して、最後にもう一度、渚に向き直った。

 

「無理にナイフを受け取る必要はない。その時は俺が鷹岡に頼んで「報酬」を維持してもらえる様に努力する」

 

「んー?まあ、土下座でもすれば考えてやるけどね」

 

 渚は少し躊躇ったが、ナイフを受け取った。

 彼にとって烏間の目は好ましいのもだった。真っ直ぐに自分たちを見つめる温かい瞳が好きだったから。

 それは圭一が昨日、鷹岡に刃向かったのと同じ理由。そして、圭一や前原、神崎への扱いが許せなかったからだ。

 

 ナイフを咥えて、身体を解す。

 

「おやおや、よりにもよってそんなチビを選ぶとは。お前の目も曇ったなぁ、烏間よぉ?」

 

 挑発する鷹岡。気に留めない烏間。

 その両者の間に立つ渚に烏間が声を掛ける。

 

「渚くん。鷹岡は素手対ナイフの戦闘方法も熟知している。全力で振らないと当たらないぞ」

 

「はい……」

 

「だが、この勝負、奴と君の最大の違いはナイフの有無じゃない。分かるか?」

 

「……?」

 

「いいか、奴にとってコレは『戦闘』。だが、キミはいつも通り一撃当てれば勝ちな『暗殺』だ。強さを誇示する必要はない。一撃当てればキミの勝ちだ」

 

「……はい」

 

 烏間からの無数のアドバイス。渚は頷き、ナイフを構える。

 握った手のひらにじっとりと嫌な汗をかく。しかし、渚の思考は至って冷静そのもの。むしろ達観していたと言っても過言ではない。

 

「(……殺せば勝ちなんだ)」

 

 渚は笑った。

 通学路を歩く様に、普通に近づいて、普通に近づいてナイフを振った。

 

「(ナイフを大きく振ったら鷹岡先生はぎょっとしたらしい。体勢を崩したので、服をひっぱりそのまま背後に回りナイフを首筋に当てた。確実に)」

 

 烏間は驚愕していた。

 渚の才能について、あまりに予想の上をいったからだ。彼の才能はいわば暗殺の才能。咲かせていい才能なのかどうか、を。

 

「そこまで!勝負ありです。まったく、生徒にナイフを持たせるとは何を考えているのやら……」

 

 渚からナイフを取り上げるとバリバリと鋼の刃を噛み砕く殺せんせー。

 

「……ふん、怪我しそうならマッハで助けに入っただろうに」

 

「当たり前です」

 

「(それにしても、暗殺の才能か。俺たちにとってはありがたい才能だが、果たしてこの才能は彼の将来にプラスになるのか?)」

 

「今回は迷ってばかりですねぇ。烏間先生?」

 

「……悪いか」

 

「いえいえとんでもない。それよりもう一悶着ありそうですよ」

 

 烏間と殺せんせーの視線の先には立ち上がった鷹岡がいた。

 

「もう一回だ!まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか?!今度は油断しねぇ!」

 

 殺せんせーの言葉に烏間が視線を向けると負けたと認められないらしい鷹岡が暴れる寸前だったので、烏間は鷹岡を制圧するべく動く。だが、その直前、渚が毅然と言い放った。

 

「確かにもう一回やったら僕が負けます。でも、僕らの担任は殺せんせーで、教官は烏間先生だってことはハッキリしました。これは絶対に譲れません。父親を押し付ける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕は暖かく感じました。僕らを本気で強くしてくれようとしたことに関しては感謝してます。でも、ごめんなさい。出て行って下さい」

 

 そんな渚の言葉に烏間も思うところがあったのか思わず動きが止まり、そんな彼を諭す様に殺せんせーが肩を叩きながら言う。

 

「先生をしていて一番嬉しい瞬間はね、迷いながら自分が与えた教えに……生徒がはっきりと答えを出してくれた時です」

 

「黙って聞いてればガキが良い気になりやがって……!」

 

 そんな中、再び動き出す鷹岡。そんな彼を烏間は数秒かからずに制圧した。

 

「身内が迷惑をかけてすまなかった。後のことは心配するな。俺1人で君たちの教官を務められる様に上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ」

 

「烏間先生……!」

 

 生徒たちが出した答えに答えた教師(烏間)

 しかし、だれも分かっていない。

 

「交渉の必要はありません」

 

 そもそも、この教室、いや、学校において、防衛省など第三者に過ぎないことを。

 この教室の教員の任命権を持っているのは国でも世界各国政府でもないことを。

 

「り、理事長!?」

 

「と、圭一!?」

 

 そう。この学校の支配者は浅野學峯なのだから。

 浅野理事長と圭一が立っていた。

 

「ご用件は?」

 

 警戒する殺せんせーに浅野理事長は短く答える。

 

「視察です。経営者として新しい教師の手腕に興味がありましたので」

 

 言いながら圭一の背中を押してE組の生徒たちの方へと向かわせると彼は徐にポケットからA4のプリントを取り出して、鷹岡の口を鷲掴みするとそれをその口の中へ放り込んだ。

 

「でもね、鷹岡先生。あなたの教育はつまらなかった。教育に恐怖は付きものだ。一流の教師は恐怖すら巧みに利用する。だが、暴力でしか恐怖を与えられないのであれば、その教師は3流以下だ」

 

 汚れた手を拭きながら踵を返す。

 

「自分より弱い暴力に負けた時点でそれ(・・)の授業は説得力を失う。2度目と言うのなら尚更だ。それは解雇通知書です。鷹岡さん。あなたは以後、ここで、教えることはできない」

 

 去り際に圭一に向かって手を振りながら自分こそがこの学園の支配者で有る事を誇示するように言い放ち、理事長はその場を後にした。

 

椚ヶ丘中(ここ)の教師の任命権は貴方方、防衛省にはない。全て私の支配下であることをお忘れなく」

 

 言いたいことを言って去ってゆく理事長。そんな彼から口の中に投函された解雇通知書をムシャムシャと噛み、飲み込みながら鷹岡は立ち上がる。圭一と渚、E組の生徒と烏間をひと睨みしながら。

 

「くそっ、くそくそくそ!!!」

 

 吐き捨てる様にくそを連呼しながら歩き去る理事長を抜き去って鷹岡はこのE組から去って行った。

 

「鷹岡クビ……」

 

「ってことは担当は今まで通り烏間先生……」

 

「「「よっしゃぁぁぁー!」」」

 

「たまには理事長もいいことするじゃねぇか」

 

「あっちの方がよっぽど怖いけどね」

 

「つか、圭一。なんで理事長と一緒にいたんだよ?」

 

「ん……まぁ、いろいろとな」

 

 苦笑しながら隠す圭一。質問攻めにされる圭一と暗殺を褒めちぎられる渚。

 2人を見ながら烏間は殺せんせーに問いかける。

 

「……例えばお前は、彼らが『将来は殺し屋になりたい』と言ったらそれでも迷わずに育てるのか?お前相手なら分からないが、彼らは人間相手なら有能な暗殺者になれる」

 

「……迷うでしょうね。ですが、教師は迷う者です。本当に自分はベストの答えを教えているのか内心は散々迷いながら、生徒の前では毅然と迷いなく教えなければならない。毅然と、堂々とね。だからこそかっこいいんです。先生という職業は」

 

「……ふん、そうか」

 

 烏間は圭一と渚を見据えた。

 才能がダントツである様に見える圭一。

 才能が一見なさそうに見えてしまう渚。

 

 2人の教え子の将来に思いを馳せていると、不意に生徒たちから声をかけられる。

 

「ところで烏間先生さ、生徒の努力で体育教師に返り咲けたわけだし、なにか臨時報酬があってもいいんじゃない?」

 

「そーそ!鷹岡先生、そういうのだけは充実してたよねー」

 

 何かと思えば臨時報酬のおねだり。

 思わず少し呆れつつも口角を上げ、財布を取り出す。

 

「甘いものなど俺は知らん。財布なら出すから食べたいものを食べてこい」

 

「やったぁぁぁ!」

 

「ほらほら、烏間先生、早く行こ!」

 

 騒ぐ生徒に囲まれながら『これも悪くない』と思う烏間は人を育てるという事に熱中(はま)っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

はい、後書きです。

今回は鷹岡と渚に因縁が生まれる話でした。
次話、指名の裏の時間!  

ご愛読ありがとうございます!
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