暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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誤字修正、高評価などありがとうございます!  

書けたので投稿します。

今回もお付き合いください……,

——追記——
誤字・文脈修正ありがとうございます!


33話 指名の裏の時間

 

 烏間先生が体育教師に返り咲いたことへの祝勝会中。磯貝、前原、片岡、岡野、倉橋さんが俺のところにやってきた。

 

「なぁ、圭一。頬大丈夫か?」

 

「ああ。歯も直ぐ生えてくるだろうってさ」

 

「歯も折れたの!?」

 

「折れたんだよなぁ。お陰様で砂糖やらジュースが染みる染みる」

 

 歯が折れるなんて初めて経験したが、案外ポロッと取れるもんだな。

 

「大丈夫……じゃないよね」

 

 心配そうな倉橋さん。なんだろう、怪我して心配させてる側だから不謹慎だけど少し嬉しい。

 

「大丈夫だよ。それよりみんなは大丈夫だった?」

 

「ああ。俺とか神崎さんは殴られそうになったけど、先生方が止めてくれたから」

 

「そっか、良かった」

 

 鷹岡のヤロウ。あんな力で神崎さんまで殴ろうとしたのか。決して前原を軽く見てるわけではないが、女子に対して振るっていい力ではないだろうに。

 昨日、もっと強く殴っておけば良かったのか?

 

 などと思っていると、俺が喧嘩してケガを作る事に慣れていることを知っている磯貝は、話題を変えるべく話を振って来た。

 

「そう言えばさ、どうしてお前は理事長と一緒にいたんだ?」

 

「ああ。それな、俺が呼んだんだ」

 

「……マジかよ」

 

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⬜︎

 

⬛︎

 

 殴られ、首を痛めたこともあって気絶している間に病院で寝かされていたが、特に問題もなく夜のうちに目が覚め、診察を受けた。結果、疲労で一時的に倒れただけと診察されたのだが、時間が時間だったのでその日は病院に泊まる事に。

 

 結果、俺が入院した、という噂が立ったみたいだが、殴られ、蹴られた場所が腫れてる以外は全く問題なく、翌日……つまり今朝には退院したのだ。一応、頬の打撲に対する診断書も貰って。

 

 退院した俺がとった行動は電話だった。

 

『はい、椚ヶ丘中学校です』

 

「もしもし。乃咲圭一です」

 

『……E組生徒が何のようだ?』

 

「いえ、椚ヶ丘中学校の生徒として体罰を受けたことを公に公表しようと思うのですが」

 

『体罰?何の話だ?』

 

「浅野理事長に新任の教師の件で乃咲が、と言ってもらえれば通じると思いますが。どうします?殴られた診断書もあるんですけど」

 

『……少し待ってろ』

 

 などと言いつつ俺は周りより少し遅れて登校。

 そりゃあそうだ、昨日問題ないと診察されたとはいえ、病院に運ばれてるんだから朝、もう一度念の為、一応診断はある。

 

 祖父母にも適当な説明をして、コンビニで買ったパンをぱくつきながら待つ事数分。電話の向こうからズモモモモ、妙な気配がきたことからラスボスが電話に出るとさっしてパンをしまう。

 

『電話代わりました、浅野です』

 

「おはようございます、理事長。お話どこまで聞きました?」

 

『鷹岡先生が体罰を働いたとか』

 

「ええ。その通りです」

 

『それだけだろうか?』

 

「ええ。それだけです」

 

『キミがその程度で電話までかけてくるとは思えないな』

 

「ご考察の通りです。すこし、お話がありまして」

 

『良いだろう。理事長室まで来なさい』

 

「はい、今行きます」

 

 電話を切る。少し、やることを整理する。

 俺がわざわざ電話したのは何も体罰報告する為ではない。むしろあの人は多少の体罰も教育には必要だ、とでも言うだろう。

 そんなこと言われるまでもなく理解している。だからそのあとなんて打ち返すのかを考えないと。

 

 まあ、なるようにしかならないんだろうけどさ。

 

 俺の目的はE組体育教師の変更である。

 まあ、要するに烏間先生に戻して欲しいという嘆願兼、脅しである。

 

 俺は昨日、確かに鷹岡と勝負した。

 烏間先生との放課後訓練を賭けて。勝った。この勝負においては俺は無傷だったと言って良いだろう。

 だが、それで取り戻したのは烏間先生が放課後に追加訓練を施せるようにするって権利だけなのだ。つまり、鷹岡が授業する事に変わりはない。

 

 きっと、それは良いことではない。だって昨日ですらよう分からん理由で殴られたんだ。今日、誰かがまた理不尽に殴られるかもしれないと思うと捨て置けない。

 

 なんとしても烏間先生に授業をして貰えるようにしないと誰かが潰れてしまうかもしれない。

 

 そんな思いが俺の脚を急がせた。

 

 本校舎に乗り込むと数名の生徒がギョッとした顔をするが、彼らに構っている暇はないので見て見ぬ振りをして、理事長室に入る。

 

「失礼します」

 

「よく来たね、乃咲くん」

 

 ラスボスが出迎えてくれたので扉を閉める。閉めた結果、俺と浅野理事長の2人きりの空間という今まで数えるほどしかなかった気まずい空間が出来上がってしまった。

 

 しかし、ここですくむ為にわざわざ理事長室まで来たわけではないので単刀直入に話題に入る。

 

「理事長先生。諸々省いてしまい、失礼だとは思いますが、単刀直入に言います。E組の体育担当教諭を烏間先生に戻して下さい」

 

「ふむ、何故かな?」

 

「鷹岡先生は危険だと思うからです」

 

「……ふむ」

 

 俺の言葉に理事長はなんだ、そんなことかと言いた気に鼻を鳴らすと、理事長用の立派な机の上で手を組んだ。

 

「乃咲くん。キミの言い分もわかる。その傷、さぞ痛かっただろう。だが、その傷も教育的指導として必要なものだったら?私は決して暴力を肯定するわけではないが、時に恐怖は必要なものだと考えている」

 

 ……だよなぁ!この傷程度でこの人を説得できるとは思ってなかったさ、微塵もな!

 

「それに、少なからずE組の面々も本校舎の教師に反感を持っているはずだ。キミの"危険"の位置付けは場合によっては本校舎の教師にも適応されるはずだ。無視される、非道な扱いを受ける。と。キミの理屈ではそんな彼らも非難し、人員を配置させねばならなくなる。違うかい?」

 

「……違いません」

 

 くそっ、この人の言うことは正論だ。

 やってることえげつない癖にやり合うと正論で上から叩きつけてくるからなぁ、この浅野親子。

 相手にするとこれ以上ないくらいに面倒臭い相手だと言えるだろう。

 

 さて、どうやって説き伏せる?

 いや、そもそも俺に出来るのか?

 

「なにより、1人の生徒だけの言葉で教師の人員を動かすことなど出来はしない。それはキミなら分かるはずだね」

 

「おっしゃる通り……」

 

 けど、何故だろう?

 浅野理事長の言葉は所々に隙があるように見える。

 例えば暴力は肯定しないが、恐怖は肯定するというところ。似て非なる響きではないだろうか?

 言ってしまえば、恐怖に暴力は必要ないと言っているようなものだ。そういう意味では暴力で恐怖を受けつけようとするかもしれない鷹岡の教育論は浅野理事長のそれと異なるという意味になる。

 

 もしかして、これは"課題"か?

 理事長()を動かしたければ相応の理屈で説き伏せて見せなさい、という課題なんだろうか。

 

 俺はそんな風に思いながら、言葉を選び直す。

 

「理事長」

 

「なんだい?」

 

 思い出せ、乃咲圭一。この学校で生活して来た日々を。この学校の仕組みを。

 

 この学校は働きアリの法則でできている。

 3割の働き者……A組

 6割の通常者……B〜D組

 1割の怠け者……E組。

 

 この法則はE組を弱者として扱う事で達成されている。

 

 怠け者のE組は学校内ではエグイ差別を受ける。校舎は本校舎から約1km離れた山の上にある旧校舎、全校集会は他のクラスよりも早く来て整列しないとペナルティーがあり、そこで配布されるべきプリントは貰えないし、教師陣もそれを良しとしてる。

 そんな扱いを受けたくないからこの学校の生徒の大半は努力する。あんな風になりたくない。あんな扱いは嫌だと。そして、なまじそんな努力をしているからこそ、E組に落ちた奴は成績をキープしてる奴らに馬鹿にされる。怠けたからだと。

 そして、落ちた者の大半は自己肯定感が薄れてゆく。努力したのに駄目だった、あんなに頑張ったのに出来なかった、と。努力し足掻いたのに周りの連中に劣ると評価された事実やE組に来てしまった劣等感、情け無さが心を脆弱にして、本校舎の連中から受ける差別を迎合することになる。

 

 これがこの学校の仕組み。E組を弱者と蔑む事で他の生徒たちが優越感とああはならないと強い意志を持つ事でこの学校は運営されているのだ。

 

 ……そこに鷹岡の教育論は必要なのか?

 

「暴力は教育に必要ですか?」

 

「……場合によるね。力を示さなくては従わない者もいるだろう。キミはその典型だと思うのだがね」

 

 そうだ。俺が烏間先生を見て尊敬したのは力があるからだ。でも、それは決して暴力に魅せられたわけじゃない。

 

「力にも色んな力があると思います。相手を説き伏せる国語力だって言い換えてしまえば言葉の暴力だ。でも、自分の気持ちを伝える弁論力でもある」

 

「そうだね」

 

「でも、そんな暴力に頼った恐怖は教育に必要なのでしょうか?」

 

「どういうことかな?」

 

この学校にそんな仕組みはない(・・・・・・・・・・・・・・)。少なくとも、肉体的な暴力による恐怖での教育なんて指導をしている教師を俺はこの学校で見たことはありません」

 

「分からないよ、たまたま(・・・・)そうだっただけかもしれない」

 

「それはないでしょう。暴力による恐怖での指導が仮に必要なのは俺のような一部の不良に対してのみ。それでも俺はこの学校の教師に殴られた覚えはない。つまり、この学校では暴力を使った教育を推進していない。違いますか?」

 

「……ほう」

 

「勉強に恐怖が必要なのは知っているつもりです。自分は父に見放されたくない一心で勉強をしていた時期があるから分かる。期待に応えないと、そんな思いは時として恐怖になり、そんな恐怖は勉強の手を進ませる。だからこれは必要な恐怖だ」

 

「…………」

 

「でも、肉体的な暴力による恐怖は違う。いつ殴られるか分からなくてビクビクしながら握ったペンで進む勉強なんてそうはない。仮にあったとしても、うちの学校では取り入れていない。そうですよね?」

 

「そうだね。その通りだ」

 

「この学校の教育は恐怖で成り立っている。それは間違いないはずです。E組に落ちたくないから、頑張る。そんな恐怖で」

 

 そう、この学校の教育論はあくまで精神論だ。E組のようになりたくなければ頑張りなさい。それだけのことだ。

 だから、あんな大仰な暴力である必要はないのだ。この椚ヶ丘中学校の教師であるのならば。

 

「だったら、鷹岡先生の教育論はこの学校で求められる水準に達していない。暴力でしか恐怖を与えられないのであればそれは三流以下。この椚ヶ丘学園の教師として相応しくないはずだ」

 

「……なるほど。一理ある」

 

「そして、この傷は教育的指導だとしても過剰な筈です。歯が折れるレベルの指導なんて昭和でもないんだから聞いたことがない。この学校の教育論と水準に合っていない暴力教師。俺が黙っていても、PTAはどう思いますかね、ましてや地球破壊するモンスターを隠匿しているあの教室の生徒がノイローゼになりでもしたらあることないこと話すかも知れない。それは、口止め料を貰っている理事長としても不味いことでしょう?」

 

「……ふっ、乃咲くん。まだまだ甘い所があるが、及第点だ。良いだろう。確か6時間目が体育だったね。その時に視察に行くとしよう」

 

 こうして俺は辛うじて理事長から及第点を貰い、鷹岡の授業の視察を取り付け、無事に鷹岡をクビにまで追い込みましたとさ。

 

⬛︎

 

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⬛︎

 

「俺たちが心配してる間にそんなことしてたのか、お前」

 

「でも、良かったじゃん。お陰で鷹岡クビに出来たんだから」

 

 まあ、俺が動かなくてもあの理事長のことだ。自分の教育論に合うかどうか実際に自分の目で判断しに行った可能性は大いにあるけどな。

 

 その後、烏間先生のクレカでどんちゃん騒ぎした俺たちは何軒か店をハシゴして解散となった。

 

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⬜︎

 

⬛︎

 

「いや、送って貰ってすみませんね、烏間先生」

 

 俺は、烏間先生の車の助手席に乗っていた。

 あとで倉橋さんに自慢しよう。

 

 どうしてそんなポジションに座っているか?それは帰り際に烏間先生に呼び止められたからだ。

 流石に過保護じゃないかな、と思いつつ、嬉しかったのでお言葉に甘える事にした俺。そんな俺に烏間先生が口を開く。

 

「乃咲くん。キミは何処まで気付いてる?」

 

「——なんのはなしでしょうか」

 

「奴が……キミたちが殺せんせーと呼ぶあの生物が元人間だという話だ」

 

 飛び出して来た思わぬ話題。そういえば鷹岡を殴る前にそんな話をしたような気がする。

 咄嗟に惚けたが、それは無駄だったらしい。烏間先生の声音が惚けても無駄だと語っていた。

 

 その声音に根負けして俺は口を開く。

 

「……正直、考察の域を出てません。ですが、それでも良いのなら語りますが?」

 

「聞かせてくれ」  

 

「正直、殺せんせーが赴任して来た時から色々と考察してました。3月に月が爆破されたばかりで、俺が初めて触手を破壊したとか言ってるのにどうやって殺せんせーの細胞を壊せる武器を作ったんだろうって考え出したのが始まりでした」

 

 それから俺は語った。自分の考察を。

 

「だって変でしょ?俺が初めて壊したのに何を持って、殺せんせーに有効な武器だと言い張れたのか不思議でしょう?殺せんせー自ら威力テストに付き合った可能性は低い。だってあの人、基本的にチキンだから」

 

「……俺の不用意な発言からか」

 

 いや、大元を辿れば殺せんせーが来年の3月に自然死するって話を聞いた場面に遡るので、烏間先生の落ち度というわけでもないのだか、黙っておこう。

 殺せんせーにも内緒にすると約束してるし。

 

「んで、そんな考察してると今度はイトナが出てくるじゃないですか。頭に触手生やしてる奴。しかも国が手配した暗殺者として律と共同で暗殺する予定だったとかいう。そりゃ色々と想像できますよ」

 

「色々、とは?」

 

「殺せんせーも元は触手を移植された人間なんじゃないか、とか、そんな触手を生やしたイトナを国が送って来たんだから、もしかして殺せんせーの誕生には国が関わってるんじゃないか、とかです」

 

「……そこまで」

 

「ついでに言えば、堀部イトナが実在する人物であることも律に調べて貰いましたからね。殺せんせーの触手が地球外生命体みたいなオチでもないことも知ってるつもりです」

 

 赤信号で車が止まる。それと同時に俺たちの会話も止まってしまった。信号が青になる頃、烏間先生が口を開く。

 

「この事は……」

 

 その言葉の先が読めたので俺は先回りする。

 

「誰にも言いません」

 

 烏間先生が驚いたように一瞬だけ俺を見た。

 

「だって、俺はまだ確証を得ているわけじゃない。誰からも肯定を受けているわけじゃないんです。そんなあやふやな話をふれ回るつもりはありませんよ」

 

「……いいのか?いま、この場で俺を問いただす事だって出来るだろ」

 

 烏間先生の言葉に苦笑する。

 

「信じてますから。烏間先生のこと」

 

「信じてる?俺を?」

 

「ええ。俺たちが暗殺に成功したらきっと全て話してくれるって信じてますから。だから今は聞きません。前に磯貝が言ってたでしょう?『暗殺で聞く』ってそれと同じです」

 

 言っているうちに家に着いた。

 車が止まるが俺の口は止まらない。

 

「立場上、話せない事だってたくさんあるでしょう?だから聞きません。俺は全てが終わった後でもいいんです。自分が考えていたことが正しかったかどうかなんて」

 

「そうなのか」

 

「ええ。だからこの前口走った事は忘れて下さい」

 

 そう。俺は信じた以上に大事なことをこの人から教わったし、貰った。口に出すのは実行する時だけ、そんな矜持と、そして物事に真面目に取り組むやる気も。

 

 俺が烏間先生から貰うのはそれだけで良い。

 

 少なくとも今は。

 

「もう少し俺たちを信じて下さいよ、烏間先生」

 

「……そうだな、すまなかった」

 

「なにに対する謝罪っすか?まあ、いいや。それじゃ、烏間先生、また明日もよろしくお願いします」

 

「……ああ。また明日もよろしく頼む」

 

 車から降りた俺は走り去る烏間先生の車が見えなくなるまで見送るとスマホを弄る。何気なくした俺と烏間先生の隠し撮りを倉橋さんに送る。

 

『烏間先生と車ナウ』

 

 LINEに送信した俺は彼が去った道を振り返る。

 俺は今は、真実への道を自ら遠ざけたのかもしれない。だが、別に焦る必要はないと思っている。だって、あの人ならきっと、全てが終わった後にでもきっと全部話してくれると信じられるから。

 

 俺は着信元倉橋さんのブーブー鳴るスマホを片手に家の玄関に入り、靴を脱ぎ捨てた。

 

 

 

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