それから高評価、しおりなどありがとうございます!
書き終わりましたので投下します。
今回もお付き合いください。
夏休み中から暗殺はとことん失敗し続けた。ゾーンに入って殺せんせーの動きを辛うじて見切れたとしても殺すまでいくことができないから余計に歯痒い。
そんなこんなで南の島での暗殺旅行まで1週間後に迫り、俺たち3年E組は今日はその旅行での暗殺の為の訓練と計画を詰める為にE組校舎に集まっていた。
勝負の8月。殺せんせーの暗殺期限まで7ヶ月。俺にとっての暗殺期限まで残り1ヶ月もない。まさに南の島での暗殺こそが俺にとっての勝負の舞台というわけだ。
「まぁまぁ、ガキども。汗水垂らしてご苦労なことね」
「他人事みたいに言ってる場合かよビッチ先生。射撃やナイフは俺たちと大差ないだろーにさ」
余裕たっぷりに恐らく殺せんせーが買ってきたであろう、トロピカルジュースを我が物顔で優雅に飲むビッチ先生に菅谷が言葉を投げるが相変わらずの態度でビッチ先生が口を開く。
「大人はずるいのよ?アンタ達の作戦に乗じてオイシイところだけ持っていくわ」
身も蓋もないことを言い切ったビッチ先生。しかし、そんな彼女に忍び寄る偉大なる影が一つ。
「ほほぅ。偉いもんだな、イリーナ」
「ロ、ロヴロ
「夏休みの特別講師で来てもらった。今回の作戦にプロの視点から助言をくれる」
殺し屋ロヴロ。ビッチ先生の師匠が今日は暗殺訓練と作戦会議の為に来てくれた。そんな彼を紹介した烏間先生。
同時にビッチ先生が全力で焦り出す。顔面蒼白。さっきまでの優雅な態度は何処へやら。焦って走り出す。
「一日休めば指や腕は殺しを忘れる。落第が嫌ならさっさと着替えろ!」
「へ、へい!喜んで!!」
なんとなく普段余裕たっぷりな人が勢いよく走り去ってゆくその後ろ姿は見ていて面白かった。ビッチ先生には悪いけどね。
「あはは、ビッチ先生もロヴロさんの前じゃかたなしだね」
「だな」
何気なく隣にいた倉橋さんとそんな風に笑いながら話しているとロヴロさんが俺たちの考えた暗殺プランのまとめられたファイルをペラペラと捲り始めた。ふむふむと頷きながら見ている。
まあ、時折首を傾げているが。
多分、精神攻撃とかその辺の真意を汲み取りかねているのだろう。そりゃあぱっと見では何を目的としているのかさっぱり分からないし仕方ないよな。
ちなみに殺せんせーはエベレストで避暑中である。
あのタコ。寒さにもかなりの耐性があるようだ……。つーか、別荘感覚でエベレスト行くなよ化け物め。
相変わらずツッコミどころ盛りだくさんな殺せんせーへのツッコミを禁じ得ない中で、渚と並んで訓練に参加していると、案の定、ロヴロさんから問い掛けが来た。
「この精神攻撃とはなんだ?」
「まずは動揺させて動きを落とすんです。殺気を伴わない攻撃には殺せんせー脆いところあるから」
「加えるなら、触手の扱いには精神力が重要らしいです。だから、まずは強請って殺せんせーのパフォーマンスを落とそうって作戦です」
渚の説明に補足を入れる。イトナとシロからもたらされた殺せんせーの弱点も今回は容赦なく使う。
動揺でパフォーマンスが落ちる、そして触手再生にもかなりの体力を使う。だから、触手を破壊する権利を使う前から可能な限り触手の破壊も狙っていくつもりだ。
「この前さ、殺せんせーエロ本拾い読みしてたんスよ。『クラスのみんなには内緒ですよ』ってアイス一個配られたけど……今どきアイスごときで口止め出来るわけねぇだろ!」
「「「「クラス全員で散々に弄ってやるぜ!!」」」」
前原の言葉に共鳴する寺坂組。うん、こういう時の彼らは非常に頼もしいと思う。主に狭間さんが。
「他にも強請るネタはいくつか確保してますからまずはこれを使って追い込みます」
「残酷な暗殺法だ」
殺しのプロが我々の容赦のなさに冷や汗をかいてらっしゃる。うん、残酷な暗殺方法だとは俺も思うけどね。
でも仕方ないのよ、そうでもしないとあの脚を俺たちが見切れるレベルまでおとせないんだから。
「……で、肝心なのはトドメを刺す最後の射撃。正確なタイミングと精密な射撃が不可欠だが……」
思案顔をするロヴロさん。彼に烏間先生が問い掛ける。
「……不安か?このクラスの射撃能力は」
「いいや、逆だ。特にあの2人は素晴らしい」
そんな言葉を贈られたのは我らの仕事人。背中で語るタイプの2人。速水さんと千葉だった。
「そうだろう」
烏間先生も満足そうに頷き、うちらの射撃手2人組について自慢するように語り出した。
「千葉龍之介は空間計算に長けている。遠距離射撃で並ぶものはいない狙撃手だ。そして速水凛香は手先の正確さと動体視力のバランスが良く動く標的を仕留めることに優れた兵士だ。どちらも主張が強い性格ではなく、結果で語る仕事人タイプだ」
「ふーむ。俺の教え子に欲しいくらいだ」
おっと、なんだか妬ける会話してるじゃないのよさ。俺を差し置いて烏間先生に認められちゃってなんと羨まけしからん話ですか。あとで2人から狙撃のコツ教えて貰おうっと。
そんなことを思いながら2人を見ていると、ロヴロさんが不意に俺に視線を向けてきた。
「たしかキミは乃咲、と言ったかな」
「はい、よく覚えてますね」
「教え子に欲しいと思った相手のことくらい覚えている。キミも射ってみてくれないか」
「何故ですか、構いませんけど」
「なに。興味本位だ」
釈然としないが、言われた通りに射撃することにした。ゾーンに入り、狙いを付けて、左右に動く殺せんせーを模した的にBB弾を撃ち込む。3度の射撃のうち、一射目で標的の真ん中を貫き、残る2発はその穴を通り過ぎる。
ゾーンに入りながら訓練を繰り返すうちにゾーンを使っていればこんな芸当も出来るようになっていた。
「ほう。射撃の腕も確かなものだな」
「彼は動体視力、反射神経、瞬発力が極めて高い。近接でのアタッカーとしては並ぶものはいないし、射撃の腕も今見た通り。体術やナイフ術による近接も、銃による射撃も、意外性のある作戦を考案する能力もある、まさにオールラウンダーだ」
いやん。烏間先生に滅茶苦茶褒められた。
正直言って滅茶苦茶嬉しい。
「他の者も良いレベルに纏っている。短期間でよく見出し、育てたものだ。人生の大半を暗殺に費やした者としてこの作戦に合格点を与えよう。今の彼らなら充分に可能性がある」
彼はそういうと俺たちの個人指導に入った。射撃姿勢が取りづらそうな物に座り方を変えてみるようにアドバイスを与え、狙いが定まらない者には呼吸の仕方で狙う方法を授ける。
そんな様子を見ていると隣にいた渚が徐にロヴロさんを呼び止めた。なにか思いついたように興味本位で。
「ロヴロさん」
「……!」
呼び止められた時、ロヴロさんは渚に気付いていなかったのか、一瞬驚いたような顔を見せるとすぐに無表情に戻る。
そんなことに気付いていないのか、渚は言葉を続けた。
「僕の知ってるプロの殺し屋って今のところビッチ先生とあなたしかいないんですが、ロヴロさんの知ってる中で最も優れた殺し屋ってどんな人ですか?」
「……興味があるのか?殺し屋の世界に」
まあ、そんなふうに取られても仕方ない質問だよな。渚にそんな意図はないんだろうけどさ。その証拠にロヴロさんの問いかけに慌てて手をぶんぶんと振って否定している。
しかし、そんな渚を気に留めず、彼は遠くを見ながら物思いに耽るように、呟くようにソレについて語り出した。
「そうだな……。俺が斡旋できる殺し屋の中にソレはいない。最高の殺し屋。そう呼べるのはこの地球上にたった1人だ」
「文字通り、もっとも優れた殺し屋ってことですか」
「その通り。この業界にはよくあることだが……。誰も彼の本名を知らない。ただ一言。渾名で呼ばれている。——曰く、"死神"と」
飛び出してきた一言に思わず口を挟む。
「なんつーか、ありふれた渾名っすね」
俺の言葉に自嘲するように静かにロヴロさんが口許を緩めると、彼は頷き、言葉を続けた。
「本当にありふれた渾名だろう?だが、死を扱う我々の業界においては"死神"とは唯一絶対、奴のことを指す。神出鬼没、冷酷無比。夥しい数の屍を積み上げ"死"そのものと呼ばれるに至った男……都市伝説のような話だろう?」
神出鬼没で誰も本名を知らないのに、性別は割れてるのか。なんだか妙な話だが、都市伝説としては妙な説得力がある。
ただ、唯一確かなのはそれは都市伝説のような話、であって都市伝説ではない。本物の殺し屋であるロヴロさんが語る現実。火のないところに煙が立たないように、実際に夥しい数の犠牲者が出ているからそんな噂が立つわけだし。
「君たちが殺しあぐねているのなら……、いつか奴が姿を現すだろう。ひょっとすると、今も何処かでじっと機会を窺っているかも知らないな」
「そんな人が……」
渚が戦慄する。そんな彼の気持ちも分かる。このまま殺せんせーを殺せずにいたらその死神がやってくるかもしれない。いや、もしかすると俺たちの中には既に死神と接触している者もいるかもしれない。何気ない街中とかで。
しかし、そうなってくると南の島での暗殺はいよいよを持って外せない展開になって来た。
「……では、少年達よ。キミらには"必殺技"を授けてやろう」
「!?ひっさつ……!?」
ロヴロさんが徐にとんでもないことを言い出す。
「そうだ。プロの殺し屋が直接教える……必殺技だ」
俺と渚はそんな言葉に固唾を呑む。だが、ロヴロさんはその直後に戯けたとように口を開く。
「とは言っても、必ず殺す技ではない。必ず殺す"為の技"だ」
「殺す為の……?」
俺の言葉に頷くと、ロヴロさんは懐からゴムナイフを取り出すと、挑発する様に俺に指をクイクイっと向けて来た。
「聞くよりも実感する方が早いだろう。乃咲、かかって来るといい。キミならこの技の重要性が理解できる筈だ。烏間をして優れたアタッカーと言わしめるキミなら」
「……分かりました」
彼の言葉に頷き、俺もゴムナイフを抜く。本物のプロの殺し屋から直接、必殺技を伝授されることなんて滅多にないだろうから胸を借りるつもりでいこう。
かかって来いと挑発してくる彼にナイフを握って立ち向かう。ゾーンに入り、その動きの全てを警戒する。特にナイフや腕と足回り。もしもの奇襲がない様に。
「(流石プロ……隙がない)」
暗殺者に正面戦闘の技術は基本的に必要ない筈なのに、この人は隙がない。烏間先生と相対しているのと変わらない感覚に思わず全力で苦笑する。
しかし、こうして硬直していても仕方がないので仕掛けることにした。ナイフ片手に全力で踏み込み、肉薄する。
肉薄し、身体の距離がゼロになる直前。ロヴロさんがナイフを宙に置く様に放し、俺の目と鼻の先で手のひらを巧みに打ち付けて甲高い音を響かせた。
その瞬間、頭の中が真っ白になる。ゾーンに入り、余計な情報を頭の中から排除し、必要な情報のみを残していた脳内が真っ白に染まってしまった。
一瞬、何が起こったのかわからなくなり、そして次の瞬間に猫騙しで怯まされたのだと思い至る。
そういえば烏間先生が赴任して来たばかりの頃、模擬戦で猫騙しを使った事があった。やはり、古典的だが良い手だったのだろう。こうやって殺しのプロが使ってくる程度には。
たまらず尻餅をつく。
「乃咲!?」
驚いた渚が駆け寄ってくる。それを片手で制しながら最近増えた貧血染みた眩暈と格闘しながら立ち上がる。
「今のが必殺技ですか?」
「そうだ。と言ってもまるでピンと来ないだろう?だが、この技は実戦で使えば恐るべき威力を発揮する。実際に俺は殺し屋として最大のピンチの時、これを編み出す事で切り抜けた。名をクラップスタナー」
ロヴロさんは語る。
「この技の発動には条件がある。それは大きく分けて3つ。1つ、武器が二つある事。2つ、敵が手練であること。3つ、相手が殺される恐怖を知っている事だ」
武器が二つ必要な理由は恐らく、一つ目の武器を捨てる事が前提だからだろう。事実、ロヴロさんはナイフを捨てた。
しかし、手練であることと殺される恐怖を知っているとはどういう事なんだろう?俺には分からない。
「そもそも、訓練を受けた暗殺者なら理想的な状況で『必ず殺す』のは当たり前だ。だが、現実はそう上手くはいかない。特に相手が隙のない手練の時はな」
渚が息を呑んだ。
「暗殺者に有利な状況を決して作らず、逆にこちらの存在を探知されてしまい、暗殺から戦闘へ引き摺り込まれる。戦闘に手こずれば増援が来る。一刻も早く殺さねば——そんな時、『必ず殺せる理想的な状況を造り出す』それがこの技だ」
「戦闘から暗殺へ引きずり戻す為の技って事ですか?」
「その通り。戦闘の常識から外れる事で場を再び暗殺に引き戻す。それがこの『必ず殺す為の技』だ。2人とも、俺が今やった動きを真似してみろ、ノーモーションで、最速で、最も遠くで、最大の音量が鳴るように、だ」
ロヴロさんの指示に従う様に渚が試してみたが、上手くいかなかったらしく、先ほどのロヴロさんのパァン!と銃声染みた音ではなく、ビチッと下手な音が鳴った。
俺も真似してみるが、一度では上手くいかず、渚と似た様な音が鳴って終わってしまった。
「意外に上手く鳴らないだろう?日常ではまずやらない動きだからな。だからこそ常識はずれの行動となる。100%鳴るように練習しておけ」
「でもロヴロさん、これって」
「そう……。相撲で言う"猫騙し"だ。相撲の技術とは無関係の筈のこの"音"はしかも大抵が不完全な鳴り方であるにも関わらず、敵の意識を一瞬だけ真っ白にして隙を作る。ましてキミらがいるのは殺し合いの場。負けたら即死の恐怖と緊張は相撲の比ではない」
なるほど。だからこその殺される恐怖なのか。
「極限になった神経を音の爆弾で破壊する」
「けど、手を叩くには武器を捨てないと」
「だからだよ」
「え?どう言う事、乃咲?」
「武器を捨てるのは戦闘に置いてあり得ない行為だ。だから相手は武器を捨てるって行為に虚を突かれる。そこもこの技の狙い目だ。そうですよね、ロヴロさん」
「その通り。手練なら相手の挙動の一つ一つを観察している。だからこそ虚を突かれるのだ」
それが相手が手練であることの必要性か。確かに理にかなってる。猫騙しも武器を捨てるって行為も、手練であるほどにあり得ない判断だと思うだろう。何せ、必殺をかまさなきゃいけない場面で攻撃を捨てた様に見える選択肢だからだ。
「手の叩き方は体の中心で片手を真っ直ぐ敵に向け、その腹にもう片方の手をピッタリと当て、音の塊を発射する感覚だ。タイミングはナイフの間合いの僅か外、接近するほど敵の意識はナイフに向かう。その意識ごとナイフを宙に置く様に捨て、手を叩き、2本目の武器で敵を仕留めるのだ。確実にな」
ロヴロさんの言った様に手を叩くと確かに音が変わった。ベチっ、でもバチっでもない。パァン!と甲高い銃声の様な音に。
「ふむ。やはり筋がいい。あとはノーモーションで最速を心がける事だ」
「……はい」
ロヴロさんから教わった必殺技。
しかし、この技、使い所はあるんだろうか?いざという時に使えた方が確かにいいんだろうけど俺たちの標的は殺せんせーだ。あのタコこの技が通じるとはあんまり考えずらいなぁ。
この日、俺たちは暗殺者から技を学んだ。
こうして俺たちは暗殺旅行を迎えることになる。
大波乱を呼ぶ南の島の暗殺旅行を。
あとがき
はい、あとがきです。
原作と違い、この段階でクラップスタナーの名前が出て来ました。折角の技なのに「猫騙し」とか「あの技」じゃちょっとかっこ悪いと思ったので名前を出させて貰いました。完全な私の趣味ですね(笑)
クラップスタナーってのは2代目の命名なのか、それともそう言う技術の相性なのか、どっちなんでしょう?有識者の方、教えて貰えるとありがたいです……!
ということで、今回はここまでで。
ご愛読ありがとうございます!