暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

59 / 224
UA110000件、お気に入り1695件!
高評価や誤字修正ありがとうございます!

なんかすんごい伸びてて驚いてます……。
今日も今日とで書き終わりましたので投下します。

お付き合いください……。


42話 島の時間

 

 ロヴロさんによる暗殺作戦の監督から1週間。俺たちはエックスデーを迎えていた。不安や緊張、同じくらいの楽しみを抱えて眠れなかった夜を越え、遂に迎えた暗殺旅行当日。今回の暗殺が上手くいなかったらA組にいく事にした俺はと言うと……。

 

「うっぷ……」

 

 船酔いしていた。おかしいな。乗り物酔いとかする方ではなかったのだけど、今日に限っては中々に調子が悪い。

 定期的に吐き気がする程度には具合が悪い。本当に妙だ。小学校の修学旅行で乗った船は特に酔わずに済んだのに。

 

「圭ちゃん、大丈夫?」

 

「あはは、へーき、へーき、うっぷ……」

 

 背中を摩ってくれている倉橋さんに元気アピールしようとしたが、失敗。情けなくて思わずため息を吐きそうになった時、俺と同じく横でグロッキーになっている殺せんせーと目が合った。

 

「だ、大丈夫ですか、乃咲くん。普段乗り物酔いしない人が酔うのは体調が悪い時と相場が決まっているものですが……」

 

「た、確かに最近、目眩が多いような……」

 

 駄目だ。話していると余計に気分が悪くなる。会話を諦めて、景色だけを無心で眺めようと心に誓ったその時、地平線の彼方に何かが見えて来た。

 俺と同じものが見えたのか、徐々に大きく見えてくるそれに対して倉橋さんが可愛らしく興奮した様子ではしゃぐ。

 

「ほら見て、圭ちゃん!島だよ!」

 

「あぁ、島だぁ…………」

 

「大丈夫か、圭一。ほら、酔い止め。用務員さんが持ってたんだ」

 

「サンキュー、磯貝」

 

 磯貝のファインプレーに感謝しながら酔い止めを受け取り、一緒に差し出された水と一緒に飲み下す。しばらくすると酔いは相当マシになった。

 

「にゅゃぁ……船はやばい。船はマジでやばい……。先生、頭の中身が全部まとめて飛び出そうです……」

 

「ほ、ほら、見て!殺せんせー、島が大きくなって来たよ!」

 

 天真爛漫な倉橋さんの声が酔いを覚ましてくれる……。

 なんだかんだでやっぱり元気な人の力って偉大だと思う。こんだけ酔ってて怠いのに、倉橋さんがいると気分が和らぐ様な気がする。不思議だなぁ、人の体ってのは。

 

「東京から6時間!先生を殺す場所だぜ!」

 

「ヌルフフフフ、そう簡単に殺れるとは思いませんがねぇ」

 

「んなことは一旦、置いておこうぜ!」

 

「「「島だぁぁぁ!!」」」

 

 船で揺られること数時間。拷問の様な時間はついに終わりを告げ、楽しい楽しい暗殺と遊びの時間がやってくる。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「ようこそ、普久間島リゾートホテルへ。こちらサービスのトロピカルジュースでございます」

 

「あ、ども」

 

 ホテルのチェックインを済ませるとウエイターが俺たち全員にサービスだとトロピカルジュースをくれた。

 せっかくの好意なのでありがたくうけとり、飲み下す。うん。さっきまでの船酔いが嘘みたいに感じるくらい爽やかだ。

 

「いやー最高!!」

 

「ほんと、景色全部が鮮やかで明るいな〜」

 

 ご満悦な様子の三村と木村。彼らに同意しながらトロピカルジュースを啜る。ちびちびとジュースを飲んでいると竹林が話しかけてくる。

 

「乃咲、答えは出たのかい」

 

「……今、その話をするか」

 

「みんな南の島というシチュエーションに夢中で僕らの会話なんて気にしてないさ。それで、どうなんだい?」

 

 竹林が聞いてくる。何を、何の答えなのかは言わずとも分かっていた。俺と彼の話題といえばそれくらいしかない。

 ……A組に行くか、行かないか。

 

「俺は行くよ。今日、しっかり殺せんせーを殺してな」

 

 何度も言うがそれが俺の出した答えだ。殺せんせーを殺して、A組に行く。殺せなかったとしても行く。仮に、もしもの話だが、今日殺せなかったのなら、俺はそこまでの暗殺者だったと自分に区切りをつけるつもりだ。

 

「そうか……。頑張ろう。お互いに」

 

「あぁ……。そうだな」

 

 同じ様な悩みを抱えた竹林と頷き合い、肩を叩き合ってお互いを鼓舞するように立ち上がる。

 彼だって思っている筈だ。この旅行中に殺せれば何の憂いもなくE組を抜けてA組に行く事ができるのだと。

 そんな俺たちの葛藤を知る由もない殺せんせーたちは楽しそうな会話をいまだに続けていた。

 

「ホテルから直行でビーチに行けるんですねぇ。様々なレジャー用品も用意してある様です」

 

「例の暗殺(アレ)は夕飯の後にやる予定だからさ。まずは遊ぼうぜ!殺せんせー。修学旅行の時みたいに班別で行動してさ」

 

「ヌルフフフフ、賛成です。よく遊び、よく殺す。それでこそ暗殺教室の夏休みです!」

 

 こうして俺たちは修学旅行の時の班で別行動し、それぞれが各々の役目を果たすことになった。

 殺せんせーと遊んでる連中は他の班のメンツに注意が行かない様、それぞれ工夫を凝らして殺せんせーを釘付けにして、それ以外のメンバーは殺せんせーと遊んでる班が彼の注意を引いている間に暗殺のための工作を行う。

 

 俺たち修学旅行一班は殺せんせーと遊ぶ(引き付ける)第一陣を担うことになったので、楽しみつつ、彼の注意を引く。

 俺たちがやるのはハンググライダーだ。

 

 妙なコスプレをした殺せんせーが俺と倉橋さんの乗るハンググライダーに張り付き、空を縦横無尽に駆け回った。

 結構激しく動き回っているけど、乗り物酔いはしなかった。恐らく開放的な空と頬を撫でる風のおかげだろう。

 

「ずりーよ、殺せんせー!」

 

「動力の性能が違いすぎ!」

 

「ヌルフフフフ、戦闘機の性能は結局のところエンジンの差です」

 

「そんで誰だよ!そのコスプレ!?」

 

「堀越二郎です」

 

「それ中身の方!?しかもご本人も飛ぶ方じゃなくて作る方!」

 

「いろいろ違和感あり過ぎ!」

 

 磯貝たちは飛びながらハンドガンを構え、暗殺を交えて遊んでいるが、彼らの攻撃は全然、殺せんせーや俺たちに当たることはなかった。これが普段、殺せんせーが見てる景色なのかと思うと少し感慨深い。攻撃に当たらないってのはこんな感じなんだな。

 

「あははは!凄く楽しいね、圭ちゃん!」

 

「うん、風が気持ち良いな」

 

 後ろから俺に捕まって天真爛漫に笑う倉橋さん。彼女に同意しながらあまりに無防備に組みついてくることに気恥ずかしさと心地よさを感じながら俺たちは殺せんせーと遊んだ。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 そして今度は俺たちが工作を施す側に回る。

 殺せんせーは今頃渚達とイルカを見に行っている筈だ。

 

「俺たちもチャチャっと終わらせちまおうぜ」

 

「あぁ」  

 

 俺達は暗殺予定地、水上チャペルに来ていた。

 俺たちの作業内容はここのセッティング。最終的にはこのチャペルを破壊して、水圧の檻で囲む作戦だから、少しでも壊しやすくする為に支柱に切れ目を入れておくのだ。

 

 そこに俺は一手間加える。

 

「乃咲くん。何持ってるの、それ?」

 

 矢田さんが俺が持っていたモノを指差して聞いて来た。

 

「ワックスだよ。対先生用のね」

 

「対先生用ワックス?」

 

 木村の怪訝そうな声に返す。

 

「そう。1学期のうちから烏間先生に聞いておいたんだ。対先生物質を混ぜ込んだワックス作れませんかって」

 

「効くかなぁ?」

 

「大丈夫だ。似たようなことを前に俺やったろ?ほら、菅谷のメヘンディアートの時にさ」

 

「っ、あぁ!砂場のリング?!」

 

「そう。砂に少し混ぜただけであの効き目だからな。間違いなく効く。それに、暗殺開始はあくまで触手破壊後って思ってるだろうから、その油断を突く」

 

「なるほどな、んで?それ全面に塗るのか?」

 

「いや、出入り口から外周を囲む様に塗る。全面に塗ったら殺せんせーがこのフィールドに入らなくなるからな。出入り口で触手破壊して驚かせる程度でいい」

 

「ふむ。精神攻撃の一環ってわけだ。よっしゃ。んじゃあやりますか!」

 

「「「おーう!」」」

 

 このメンバーでこうしてはしゃげるのも最後か。なんて思うと少し寂しくなる。前原とは磯貝がいなくても話す様になったし、木村とも普通に話せる様になった。女子は倉橋さんとは一緒に遊びに行く様になったし、片岡とは冗談を言える様に、岡野や矢田さんとも少し話せるようになって来たところだったのにな。

 

 そんな風に後ろ髪引かれるならA組に行かなきゃ良いのに、なんて俺の心情を知ったやつなら思うかもしれないけど。でも、これが最後のチャンスかもしれないんだ。親父の期待に応えられる最後のチャンス。

 来年には地球がないかもしれないと考えても最後のチャンスかもしれないし、仮に地球が存続したとしても親父の期待に応えなかった俺に2度目の期待を親父が向けてくれるとは限らないから、こっちの意味でも最後のチャンスかもしれないのだ。

 

 これまでの人生、親父に認められる為に頑張って来た。烏間先生や殺せんせーに認められたいと思う様になったのだって、大元を正せば父親が原因なんだ。

 俺と言う人間の本懐を遂げる最後かもしれないチャンス。そう考えた時、俺は行くしかないと思った。

 

 だから決めた。A組に行くと。

 

 殺せても、殺せなくても。叶うのならこの普久間島で殺せんせーをきっちり殺してE組を堂々と抜ける。

 

 それが今の俺の最大の願いだ。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「いやぁ、遊んだ遊んだ。お陰で真っ黒に焼けました」

 

「黒過ぎだろ!?」

 

 日が暮れる頃にはすっかり作業も終えた俺達は殺せんせーの変貌ぶりにツッコミを入れていた。

 今朝までいつも通りの真っ黄色だったのに、今となっては炭の様に真っ黒になってしまった殺せんせー。もはや日焼けというレベルと概念をどっかに忘れ去っている様な気がするが、仕方ない。世の中にはツッコんでも報われないこともあるのだ。

 

「歯まで黒く焼けやがって……」

 

「もう表情が読み取れないよ……」

 

 木村と岡野に頷くクラスメイトたち。殺せんせーの日焼けによる微妙な空気を変える様に我らの委員長が声を上げた。

 

「じゃ、殺せんせー。メシの後、暗殺なんで。まずはレストラン行きましょう」

 

「はーい!」

 

 先導する磯貝について行く殺せんせー。

 その後ろ姿を見送りながら前原と寺坂が苦笑と呆れ、愚痴混じりに呟くのを聞いた。

 

「どんだけ満喫してるんだ、あのタコ」

 

「こちとら楽しむフリして準備するの大変だったのによぉ」

 

「ま、今日殺せりゃさ、明日は普通に楽しめるじゃん」

 

「まーな。今回くらい気合い入れて殺るとすっか」

 

 吉田と村松が2人に続いて歩き出す。

 

「…………」

 

「ビッチ先生、どうかしましたか?」

 

「……何でもないわよ」

 

 無言で俺たちを見ていたビッチ先生に首を傾げてみるが、何でもないと突っぱねられてしまう。

 なんか含みのある沈黙だったから絶対何かあると思ったんだけど、話す気がないらしく、ビッチ先生は閉口した。

 

「圭ちゃん?早く行こうよ?」

 

「あ、うん。今行くよ」

 

 待っててくれたらしい倉橋さんと並んでE組で貸し切った船上レストランに入店する。来た時と違い、波は穏やかなお陰か、乗ってすぐに船酔いしそうな感じはしなかった。

 空いてる席に案内され、彼女と正面で向き合う様に座る。俺たちが座ったのを確認すると磯貝がゆっくりと語り出した。

 

「夕飯はこの貸し切り船上レストランで夜の海を堪能しながら食べましょう」

 

「な、なるほどねぇ。まずはたっぷり船に酔わせて戦力を削ごうという訳ですか」

 

 ……黒い。

 

「当然です。これも暗殺の基本ですから」

 

「実に正しい。ですが、そう簡単に行くでしょうか?暗殺を前に気合いの乗った先生にとって船酔いなど恐るるに————」

 

 だから黒い。

 

「「「黒いわ!!」」」

 

 クラスほぼ全員で突っ込むレベルで殺せんせーが黒すぎる。歯まで黒く焼けてるせいで殺せんせーを見た時、どっちが正面なのかすら分からない程だ。

 

「そ、そんなに黒いですか?」

 

「表情どころか前も後ろも分からないわ」

 

「ややこしいからなんとかしてよそれ」

 

「ヌルフフフフ、お忘れですか?皆さん。先生には脱皮があることを……!黒い皮を脱ぎ捨てれば……ほら、元通り」

 

 そう言って殺せんせーは脱皮した。

 月に一度だけの奥の手。もう一度言うぞ、月に一度の奥の手である。それをわざわざ皮の色を戻す為だけに使うか。

 

「あ、月一回の脱皮だ」

 

 俺と同じことを思ったらしい不破さんが指摘するとふっふっふっ、と殺せんせーは得意げに語った。

 

「こんな使い方もあるんですよ。本来は"ヤバい時の奥の手"ですが……あっ」

 

 話していて殺せんせーも気付いたらしい。頭上に巨大な『!?』を浮かべて、しまった……!みたいな表情をしていた。

 

「バッカでー。暗殺前に自分の戦力減らしてやんの」

 

「どうしてこんなドジを今だに殺せないんだろう」

 

 めちゃめちゃ同意。

 殺せんせー、こんなにドジで拍子抜けするほどアホになることが多いのになんで隙を突いて殺せないんだろうなぁ。

 などと思いながら進める食事。殺せんせーはバクバクと食い進め、俺達はゆっくりと食事を楽しむ。

 

 食事が終わり、船が桟橋に戻るまでに殺せんせーは結局強かに船酔いし、ベロンベロンになりながら船を降りた。

 

「さぁて、殺せんせー。晩飯のあとはいよいよ(・・・・)だ」

 

「会場はこちらですぜ」

 

 前原と菅谷が先導する。先導する先は俺たちが昼間に細工した水上チャペル。

 

「ここなら、逃げ場はありませんよね」

 

 ニヤリと笑う磯貝。ハッとする殺せんせー。しかし彼はすぐさま余裕顔になり、臨むところだと勇足でチャペルに入ろうとするが、チャペルの入り口に脚をつけた瞬間——。

 

「にゅやぁ!?」

 

 前足三本が弾け飛んだ。俺の小細工は成功したらしい。

 

「これは……対先生物質を混ぜん込んだワックス……!?この手法、君ですね、乃咲くん」

 

「ええ。なにも触手破壊権を使うまで攻撃しないとは一言も言ってませんから。問題ないですよね?」

 

「えぇ。結構。ですが、これではチャペルに入れませんよ?」

 

「ご心配なく。チャペルの壁際にしかワックスがけしてませんから」

 

 俺の言葉にそーっと殺せんせーは脚を伸ばし、ワックスエリアを越えた辺りで脚を着けると安心した様にそのまま移動してチャペルの中心に向かった。

 

「さ、席に着けよ、殺せんせー。楽しい暗殺」

 

「まずは映画鑑賞から始めようぜ」

 

「まずは三村が編集した動画を見て楽しんで貰い、そのあとでテストに勝った8人が触手を破壊して、それを合図に一斉に暗殺を始める。それでいいですよね?殺せんせー」

 

「ヌルフフフフ。上等です」

 

「セッティングごくろーさん。三村」

 

「頑張ったぜ。皆んなが飯食ってる間も編集さ」

 

 三村を労う菅谷。そんな彼らを尻目に殺せんせーは辺りを見回していた。

 

「(この小屋は周囲を海で囲まれている。窓や壁には対先生物質を仕込んでいる可能性もある。脱出はリスクが高い。小屋の中で避け切るしかないようですねぇ)」

 

 何かを思案している殺せんせー。そんな彼に渚が近づく。

 

「殺せんせー。まずはボディチェックを」

 

「ヌルフフフフ、入念ですねぇ」

 

「いくら周囲が水で囲まれているとは言え、あの水着を持っていたら逃げられるしね」

 

「そんな野暮はしませんよ」

 

 ペタペタと殺せんせーに触れてボディチェックする渚。

 見ていて思う。恐ろしいことにうちらの担任はあんなゼロ距離からの攻撃でも躱して見せるのだろうな、と。

 

 でも同時に思う。この作戦ならば、と。

 

 渚の入念なボディチェックのあと、殺せんせーはようやく席に着く。

 

「準備は良いですか?全力の暗殺を期待してます。君達の知恵と工夫と本気の努力。それを見るのが先生の何よりの楽しみですから。遠慮は無用!ドンと来なさい」

 

 その言葉を皮切りに俺たちの作戦は始まった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。