暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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はい、皆さん。毎度ご愛読ありがとうございます!
今回も二代目ルートを投下いたします。
エアプリールフール企画もかれこれ4ヶ月続いてるのかと思うと感慨深さと共に少しの苦笑が溢れてしまいそうになりますが、続いているのは読んで下さっている皆様のおかげです。

結局、長いシリーズになってきたので、タイトルも1話目からpart◯形式に変更しました。ご承知おきください。

今回も最後までお付き合いください……!


IFルート ハナコトバの時間 part4

 

「キミが、乃咲圭一くんの先生でしょうか?」

 

 それは、突然現れた。

 殺し屋とは違う生き方を模索する。その上でやはり、僕は花が好きだった。先生に初めて、そして唯一褒められた技術だったから。また褒めてもらえるような磨いた。そうしているうちに、気が付けば花も悪くないと思うようになっていった。

 だから、いつものワゴンで花屋の真似事をしていた。そんかある時、全身の関節が定かではなく、明らかに身長は2mを越えている巨漢がニヤニヤと効果音がつきそうな三日月の笑みを携えて現れた。音もなく気配もなく突然に。

 

「……どちらさまでしょうか(・・・・・・・・・・)?」

 

 僕は問い返す。本当は分かっていた。

 目の前のコレは、三日月が生まれたあの日に圭一達が目撃した触手生物であり、地球を破壊すると書き置きを残した本人であり、そして、僕に技と知識を叩き込んだ————。

 

「……乃咲くんの担任です」

 

「……………そうですか」

 

 いや、やめておこう。

 

 なぜだかそう思った。僕の問いかけに彼は圭一の担任だと答えた。ならば、今は追求しないでおこう。少なくとも、僕の先生として現れた訳ではなさそうだから。

 あぁ、そうだとも。僕の先生として現れるまで教え子らしい会話なんてするものか。裏切ったのは僕が悪いけど、でもやはり、思うところはある。きっとそれは向こうも同じなのだろうし。

 

「それで、僕の生徒(・・・・)が何かしましたか?わざわざ学校の担任の先生が私塾の真似事をしてる者を探し当ててまで訪ねてくるとは。尋常ではない要件でもあるのかと見受けますけど」

 

「……いえ。個人的に驚いているのです。あの子の能力は中学生どころか一般人の枠を越えるほどに高い。一見すると才能の塊のように見えて実はそうではない彼をあのレベルまで押し上げた教育者に興味がありまして」

 

 圭一のことを見抜いている。これは素直に驚きだ。

 僕はてっきり、側から見るとなんでも沙汰なくこなせるように見える一面しか見ていないと思っていたから。

 

「確かに僕もあの子を育てるのに夢中でした。情熱と僕なりの愛を持って指導して来たつもりです。でも、結局のところは実際に努力して結果を出したあの子の頑張りです」

 

「………乃咲くんは師に恵まれたようですね」

 

「いえ」

 

「……?」

 

「僕が生徒に恵まれたんです」

 

「…………」

 

「教師は道を示し、必要なら技術や知識を教えるだけ。実際にそれを修得するのに努力するのは生徒ですから。だから、本当に教師として生きるなら、『先生のおかげ』なんて考える余地を自分にも周りにも抱かせちゃいけないんだ。それは教えた生徒本人が思ってくれて初めて意味があることですから」

 

「………どうやら、あなたは私が思う以上に素晴らしい教師のようですね。どこでそのような考え方を?」

 

「経験談ですよ。そうは言っても僕だって圭一が初めての生徒ですから経験不足ですけどね。でも、教室ってのは先生だけでも生徒だけでも成り立たないものだから。生徒の期待に応える良い先生、先生の想いに応える良い生徒。そして、生徒を"良い"方向に導くことが教師の仕事です。生徒に期待されること。それが教師の第一歩だと僕は思います」

 

「良い先生と良い生徒ですか……」

 

「えぇ。何でもかんでも出来る先生であっても、生徒に興味がなければ……生徒は期待を失い、離れていく」

 

「…………………」

 

「………でも、生徒も先生の言うことをなんでもハイハイ聞いていればいい訳ではない。例えそれが合理的であっても、それが正しい最適解だと示されても納得して理解するまで聞き返すべきだったんです。そうじゃなきゃ伝わらない。何を考えているのか、何を重視してるのか。教える上で最低限の興味すら引き出すことができないから」

 

「…………そう、ですか」

 

「だから僕は生徒に恵まれたと言ったんです。僕は前者のハイハイ聞いているタイプでした。時に自分の意見を出しても検討すらされずに流される。そしてそれに不満を抱きながらも結局は先生の言うことが正しいと思っていた」

 

「僕の先生は万能だった。よろずを極めたと言っても過言ではない程に。だからこそ、彼の教えは非常に分かりやすく、疑問を抱く余地はなかった。だから、彼の考えに対して提案することはあっても、異見はなかった」

 

「それが良くなった。それを僕は生徒から学びました。分からないこと、納得できないことなら質問してくる圭一からね」

 

「単に、僕が僕の先生よりも教師として劣ってるだけかもしれない。1発で教えて理解させられるスキルと知識があるなら、もっと違った関係になっていたのかもしれない。それでも、分からなくても妥協するような子ではなかったから、僕は気付けたんです。教える上では生徒も大切なんだって」

 

「良い先生と良い生徒……。なるほど、確かにそうですね」

 

「えぇ。最近気付きましたよ、よろずを極めたとしても使い手が人間である以上、知識と技術だけではどうにもならない場面はある。使い熟すには経験が必要で、経験が足らないのなら、別の技術や知識で補うしかない。人を殺すならよろずで足りますが、人を生かして育てるならよろずで満足できませんから」

 

 僕の言葉を圭一の担任は黙って聞いていた。

 人間でないことなどバレバレな変装とその顔に浮かぶ貼り付けたような三日月の口は何を考えているのか判断する材料にしてはノイズすぎる。だが、彼は一度だけ深く頷いた。

 

「ありがとうございます。大変参考になりました」

 

「…………いいえ。それほどのことは」

 

「……また、話を聞きに来てもいいでしょうか?」

 

 その一言にどんな意味が込められてるのか、察することしかできない。だから、僕は一言で返した。

 

「お断りします」

 

「………………そうですか」

 

「あなたは僕の一番弟子の担任です。こう言うのもなんですが、あの子の成長の為にはあなたにもしっかりした大人、教師としていてもらいたい反面。理想の姿、追いかけたい背中を示すライバル……でもあるはずです。だから、これ以上、みすみす塩を送るようなことはしません。僕は見ています。あの子を通してあなたがどんな指導をするのか」

 

「それは……気が抜けませんねぇ」

 

 彼も気付いているだろう。僕が、その正体に気付いていることを。だったらこれ以上、僕らの間に言葉は不要だ。

 お互い、曲がりなりにもプロの殺し屋。過程ではなく結果が物を言う世界で生きて来た。

 だったら、お互いに結果で示すべきだ。それがアンタの教えなのだから。教えた者と教わった者として結果で語り、その結果からどんな過程を歩んだのかを見る。それが教師としての道を歩き出した我々が互いにやるべきことだ。

 

「………………なに、この状況」

 

 そんな時、話題の起点となった人物が現れた。

 明らかに困惑したような顔で僕と自分の担任を見つめる圭一。そして彼の腕にはコアラか何かみたいにキュッとくっつく雪村あかり———もとい、茅野カエデさんがいた。

 

「おかえり。圭一、茅野さん」

 

「おや、乃咲くんと茅野さん。こんにちは。我クラス唯一のカップルとは言え、帰りも一緒とはお熱いですねぇ」

 

「まぁ、色々ありまして。半同棲状態です」

 

「にゅやあっ!?それは初耳です!?」

 

「……ちょっと前に私の親戚に不幸があってさ。私が一人にならないようにって圭一が一緒にいてくれてるの。平日はご飯食べてお風呂入って、寝るころに帰って、金曜日で次の日が休みならそのまま泊まる感じかな」

 

「それは………すみません。茶化す内容ではありませんね」

 

「気にしないで。今はもう大丈夫だから」

 

「……そうですか。乃咲くん、茅野さんをしっかり支えてあげてください。茅野さんも何かあれば私に言うんですよ?」

 

「あはは、多分大丈夫だよ。圭一も"先生"もいてくれるから。でも、本当になんかあったら殺せんせーにも頼っちゃおうかな」

 

「えぇ。いつでも。それから2人とも。キミたちも年頃です。そんな恋人同士で泊まりがけということは色々とアレがコレなこともあるでしょうが、ハメは外しすぎてはいけませんよ?」

 

「…………ここは下ネタ親父ギャグで返した方がいい?」

 

「「返さんでいい」」

 

 圭一のボケなのか天然なのかわからない言葉に僕と茅野さんでそう突っ込むと彼女に殺せんせーと呼ばれた彼は驚いたように息を呑み、自嘲するような雰囲気を見せて、踵を返した。

 

「それでは2人とも、また学校で」

 

「ええ。また明日」

 

 圭一がひらひらを手を振ると、彼はそのまま振り返るとかなく曲がり角へと消えてゆき、その直後、消えた先から凄まじい音と風を伴って何かが空目掛けて飛び立った。

 

「………どうだった?2人とも。3年生になって2週間は経つけど。今のが雪村さんのお姉さんを手に掛けた可能性がある触手生物だよね?間近に接してみるとどう?」

 

「思った以上に普通というか、見た目といろんなインパクトの所為であれだけど、中身は割と小心者というか……」

 

「だな。小心者のように見える一面は確かにある。でも、それ以前に殺せんせーの動きには自信みたいなものがある。暗殺が始まって2週間経つが、そもそもの身体能力的に見て回避余裕だった〜とかそれ以前に、いろんな攻撃をどう対処すればいいのかって解ってる感じかも。試しに先生から教わった技もいくつか試したけど、尽く避けられる。なんだろう、先生に習い始めた頃に感覚が似てるかも。喧嘩殺法は見切られてる、ある種の体系化された技は知られてるっていうか。ありゃ相当な使い手だな。系統的に言えば先生、アンタに近いかも」

 

 雪村さんは接した人となりに関する所感。

 圭一は暗殺を仕掛けて感じた違和感。

 

 それぞれ違う視点から見ていて何処に重きを置いてるのか見て取れるようで少し面白い。

 しかし、だ。それはそれとして圭一が少し怖い。この子、あの触手生物を2週間観察しただけで彼の正体を深掘りする要素をかなりの部分言い当ててる。というか、系統的に僕に近いってそれ殆ど正解じゃん。暗殺者とは別方向に進化してるよ。

 

 教え子の思わぬ方向への進化に少し引きながら考える。

 

 触手生物は書き置きの通りに椚ヶ丘中学校の3年E組の担任になり、雪村さんは茅野カエデとしてそこに潜入した。

 そこまでは良かったが、政府は圭一と雪村さんが殺せんせーと呼称した触手生物の暗殺をE組の生徒たちに依頼したらしい。そのなりふり構わなさに驚いたのは記憶に新しかった。

 

 本来、殺せんせーと暗殺にまつわることは国家機密なのだが、2人とも僕を信頼して話してくれるし、僕自身も独自で調査して暗殺計画が立ち上がっていることは知っていたから、死神としての動線を日本政府に渡して情報を得ている。なので、国家機密を知ってる者同士の情報共有ということで機密漏洩には当たらないと屁理屈を捏ねて僕らは意見交換していた。

 

「んで、実際に暗殺はどんな感じ?」

 

「上手くはいってない」

 

「みんな奇抜なアイディアで仕掛けてるけど、躱されてるよね。今のところダメージを与えられてるのは圭一とカルマくんくらいだよね。あとは圭一が言った通り。どんな暗殺も知ってるみたいに避けられる」

 

「まぁ、そんなに上手くはいかないよね」

 

 2人の話と国からの報告を聞くに、生徒たちも中々面白い作戦を考えている。詰めの甘さは目立つけど、それでも磨けば光るような才能がゴロゴロと転がっているようにも見える。

 ただ、やはり、どんな宝石だろうと磨かないことにはその辺の石ころと変わらないわけで。そういう意味だと勿体無いと感じてしまうのは、僕の考え方が教わる弟子でなく、教える先生とか師匠に寄ってきたからかな?

 

「防衛省の烏間は?この前から彼が教官になったんだろう?君たちの目からみたらどんな人物に見える?」

 

「そうですね。堅物、実直、質実剛健の三拍子が揃った傑物ですかね。自衛隊の第一空挺団出身の精鋭ってだけあるというか、いや、初見からこの人は周りの大人と違うなんて思ったの初めてです。なにより、暗殺技術も教わってると新鮮だな。今まで先生しか知らなかったけど、あぁやって新しい人とやり合うと新しい発見がある。なんだろ、技で言えば先生が上かもだけど、力で捩じ伏せるって意味では烏間先生に軍配が上がりそうかな。なにより、模擬戦が楽しいんだコレが!先生はいつも俺と同じか少し強いくらいのレベルに落として戦ってくれる。それはそれで滅茶苦茶学びがあるけど、圧倒的格上に一方的に捻り潰されるのも悪くないよなって。そんな中で一矢報いた時の烏間先生のやるじゃないかって攻撃的な笑みは達成感がありますわ」

 

「かつてないレベルで長文を超早口で語るじゃん!?なにさ、僕と烏間、どっちがいいの!?」

 

「教わるなら先生、やりあうなら烏間先生ですかね!」

 

「くっ、師匠の二股かい!?圭一の浮気者〜っ!!!」

 

「こういうところあるんだよね、圭一って。普段は割と物静かに見守って、欲しい時に欲しい言葉を掛けてくるけど、変なところで天然っぽいというか。割とデリカシーのないことを言うっていうか。んでも、そういう完璧じゃないところを見ると、同い年の男の子なんだなって安心する一面もあるって言うか」

 

「雪村さんの言ってることも分かるんだけどね。それでもやっぱり複雑な師匠心があるんだよ」

 

「まぁまぁ、でも圭一の烏間先生に対する感想って確かに尊敬的な部分もあるけど、なんか死にゲーの高難易度ボスに対するそれと似通った部分もあるし。もともとフロム信者なだけあって手応えのある強ボスと戦えてハッスルしてるだけですよ。師匠としては先生が一番なのは変わらないですって」

 

「雪村さんも相当なこと言ってるよね。彼氏がフロム脳で現実で暗殺者の弟子で、その上国家公認の暗殺者になった上に教官として派遣された人を尊敬しながら手応えのある強ボス感覚で訓練してるって。何言ってるか分からないよ」

 

「…………………確かに」

 

「好きなロボゲーは機動戦士ガンダム クライマックスU.C.とアーマード・コアFA、超操縦メカMGです。対戦よろしくお願いします。宇宙は足元にあると思ってます」

 

「ほら、趣味っていうか好みも滅茶苦茶偏ってるし……」

 

「前半2つは聞いたことあるけど、最後のは聞いたことない……。ほんと興味がある分野に関してはとことんニッチな部分まで踏み込むよね、圭一は」

 

「いや、教官を強ボス感覚で戦うなってツッコミとフロムゲーが1つしか入ってないじゃんってツッコミはまだか?」

 

 圭一のわかりにくいボケをいちいち拾って間に受けていたら体力が持たないことを知ってる僕と雪村さんは適度に受け流しつつ、僕らは今後のことについて話題を転換し直すのだった。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「ねぇ、先生。圭一って実際どれくらい強いの?」

 

 藪から棒にそんなことを聞いてきたのは教え子の恋人。興味本位というか少々固い表情でいつものように楽しそうに1人で反復練習をする圭一を眺めながら問いかけられた。

 

「強さの基準によるかな……。どうして?」

 

「実は最近、防衛省から鷹岡って人がきたんだけど——」

 

 鷹岡明。もともと第一空挺団にいた経験と後輩たちへの指導力を買われて烏間の補佐兼教官として圭一たちのクラスに配属されたけど、その実、とんでもないパワハラ気質で過剰な暴力による指導を行っていた。といのは、圭一に彼について調べられないかと聞かれた時に調査して把握済みだ。

 

 どうやら教官時代にやっていた方法で生徒たちを教育しようとしたところ、数名に反発され、それを暴力で鎮めたとか。

 圭一は初対面時点でその胡散臭さみたいなものに気付いていたらしく、僕に調査を依頼したらしい。そして実際にクラスメイトたちが暴力を振るわれているところを見て激怒したと。

 

「それで教官を烏間先生に戻すことを掛けて圭一と鷹岡で勝負することになったんだけどさ、圭一が瞬殺してたんだよね……」

 

 生徒に暴力を振るってるのを止めようとした圭一も殴られて吹っ飛ばされたところで通りかかった烏間が止めに入り、鷹岡が勝負を持ち掛けたとか。

 勝負の方法は鷹岡自身と烏間が推す生徒を戦わせると言うもの。しかも鷹岡は本物のナイフを取り出し、寸止めでも、擦りでもしたら生徒の勝ちで良いという条件。

 結果、迷う烏間に対して圭一が自ら名乗り出て勝負する形になった。ということがあったらしい。

 

「圭一が初手でナイフを投げつけてさ。鷹岡の頬に傷を入れて、『擦ったな。アンタの負けだ。さっさと出てけ』とか吐き捨てちゃって。あの人、すごい怒ったんだよね」

 

 うーん。我が弟子ながら合理的。別にナイフを当てるというのは手に持って切り付けることだけではない。投擲だって立派な攻撃方法だし、それが命中すればナイフが当たったという言い方になるだろう。もっとも、近接戦をやる気満々な相手に平然とそれをするあたり、容赦ないと思うが。

 

「圭一がナイフ投げたってあれでしょ?鷹岡って人は避けるとかそういう反応をするより先に頬を掠めて、手で触ったら血が出てたとか。そんな感じの展開だったんじゃない?」

 

「よく分かるね……そうだったの。『反応して顔を逸らせば当たらないように投げた。結果、アンタは避けられなかった。納得できないなら今度はアンタがナイフ使ってもいいぞ?寸止めでも、俺に擦りでもしたら負けを認めてやる』って鷹岡のセリフをそっくりそのまま言い返して煽るところまでセットで」

 

「あの子が容赦ないって言えば良いのかな………うーん」

 

「それで本当に鷹岡がナイフ持って襲い掛かったんだけど……瞬殺。ナイフ躱して顔面に肘打ち。仰け反ったところで喉に地獄突き。首を抑えて少し前のめりになった所で両手で頭を掴んで膝を顔面に叩き付けて、ナイフを奪い取って、鼻を鳴らしながら倒れたあの人に『児戯だな』とか吐き捨ててフィニッシュ」

 

「容赦なっ……」

 

 雪村さんの状況説明で僕の中のイマジナリー乃咲が一連の動作を切る事なく流れるように繰り出す様が再現した。

 うん、あまりの容赦ない動きに想像して思わずドン引きする。相手が相手なら普通に死ぬレベルの攻撃ではないか。

 

「それ、鷹岡氏は大丈夫だった?」

 

「泣いてました。実はナイフを使った勝負がフィニッシュしただけで、鷹岡が絶叫しながらもう一度立ち上がったんです。『殺してやるっ、泣きながら謝っても絶てぇ許さねぇ!!』って」

 

「そっちもそっちで大人気ないな……」

 

「圭一もため息ついてましたね。そんで『分かった、泣きながら『参った』って降参して謝るまでデスマッチな』とか言いながら既にスタート切ってて、マウントポジションを取ってタコ殴り。あの人が泣きながら降参しようとしても言い切る前に殴って『んだって?もっとはっきり喋れや』って降参をキャンセルする徹底ぶり。結局気絶するまで続きましたね」

 

 当時のことを思い出したのか、雪村さんも苦い顔をする。

 僕的にはそんな光景を見て雪村さんが圭一を怖がらないか、クラスメイトたちから浮かないかの方が鷹岡氏なんぞよりも心配だが、念の為に聞いておこう。話を聞いてる側の礼儀だ。相槌を打って言葉を返すのは。

 

「どうなったの、その後」

 

「目を覚ました後、圭一を見るとブルブル震えるようになってたね。あれは絶対にトラウマになったと思うよ」

 

「………そっか」

 

 正直、圭一にどんな言葉を投げようか迷っている。

 やりすぎだと叱るべきとも思う。だけど、あの圭一がそこまでやると言うのは相手がそこまで歪んだ相手だったからと察することも出来る。実際、鷹岡のやり口は僕も圭一に頼まれて調べた時に把握しているし、圭一も自分の嫌な予感を信じて僕に調査を依頼し、実際にクソ野郎だったから手を下したんだろう。

 

 聞いた話によれば、圭一も殴られてるし、そもそも同級生が殴られたことが腹に据えかねたと言うのも分かる。相手は自衛隊の精鋭出身なのに対して周りから見た圭一は一般人。多少過剰でも正当防衛は成立する。

 そして、圭一なりに周りを守ろうとした故の行動だって言うのも理解できる。だから、本心で言えば叱りたくはない。でも、極力暴力で屈服させるようなことは控えるようにと言うべきだとも思う。だがしかし、第一空挺団と言えば自衛隊の中でもトップ中のトップ。そんな精鋭出身の相手をよく捩じ伏せたと師匠としては褒めたい気持ちもある。それが周りを守るためなら尚更だ。

 

「むー」

 

「なんか悩んでます?」

 

「いや、圭一を叱るべきか褒めるべきかをね」

 

「………結局、最初の質問に戻りますけど、圭一って実際はどれくらい強いんですか?私、先生と圭一の稽古は何度も見てるけど、逆に言えば2人の事しかしらないから実力的なものがわからなくて。弱くないし、かなり上澄みなのは見てて分かりますけど。いまいち、強さの基準がわからなくて」

 

「そうだね……。日本の自衛隊は世界で見てもかなりレベルが高い。軍事力がトップレベルの国々が自衛隊と訓練して学びを得るとか、模擬戦で負けることすらある。少し比較対処を変えると、日本の警察も優秀だ。しっかりした訓練を経て職に就いてるし、能力は維持しないといけないからね」

 

「うん」

 

「んで、そんな警察官ですら一部の特殊な所属以外は自衛隊に1対1で負ける。もちろん個人差はあるだろうけど、そもそも訓練の密度が違うからね。凄く極端に言うと自衛隊って言うのは日本で最強の武力集団とも言える」

 

「……………」

 

「そして、鷹岡氏と烏間氏が所属していた第一空挺団とは、そんな自衛隊の中で随一のエリート集団だ。もちろん、ここにも個人差はあるだろうけど、それでも一般隊員とは比較にならないくらいには強いだろうね」

 

「つまり……世界から見ても優秀な警察より強い一般の自衛隊員、そんな隊員より強いのが烏間先生たち第一空挺団と」

 

「そうそう。そして、そんな第一空挺団出身の鷹岡より強い圭一って言えばレベルの高さは分かりやすいかな?これが不意打ちアリなら少しは話も変わるけど、真正面からやり合って圭一の圧勝だと僕もフォローはできないかな」

 

 僕の苦笑混じりの言葉に彼女は圭一と僕を交互に見比べて、同じように苦笑すると頬を掻いた。

 

「それは確かに迷うかも……。いくら一つの集団の中で個人差はあるとしても、世界的に見れば超上澄みの精鋭を圧倒した。それって単純に凄いことだから褒めたくなるけど、でも、そんなに強いなら加減しろって言いたくなる気持ちも分かるかな……」

 

「分かってもらえて嬉しいよ……。これがまだ鎬を削る互角の戦いで勝ったとかなら、危ないことはするなって一言は添えるかもだけど、それで済ませてあとは純粋に褒めてあげられる。でも、あまりに一方的な勝ち方だとね」

 

「うーん……」

 

「相手にトラウマ植え付けるレベルで一方的にボコボコにした。それが同級生や自分の身を守るためだってのも理解はする。圭一はもともと不良たちに一方的にリンチされていたことがあるから、その怖さは知ってるだろうし、本質的に違うことも分かってるけどさ。でも一度は誰かが言葉にして伝えてあげなきゃいけないとも思うんだよね。『恐怖で相手を支配するのは鷹岡とやってることが同じだぞ』って。何度も言うけど、鷹岡と圭一では本質的に違うのは分かってるんだけどね」

 

「む、難しい話だなぁ……!!」

 

「そうなんだよ。それに僕が一番心配なのは、そんな戦い方をして圭一がクラスで浮かないかなんだ。E組が発足したのは3月の半ばだから、まだ同じクラスになって2ヶ月も経ってないだろ?そんな人となりを把握してると言えない状況でやらかすのは、圭一が単なる乱暴者みたいに見られないかってね」

 

 聞いた話だと、言い方は悪いがE組は劣等生の集まりだ。一人一人に違った才能はあるし、原石ではある。しかし、まだ磨かれている途中の宝石だ。そんな中で既に誰よりも磨かれた宝石が現れたらどうだろう。

 突如として絶対的な力を見せつけたソイツに抱くのは、劣等感か恐怖か。あるいは両方だろうか。

 

 まして暗殺の訓練を始めたばかりの生徒たちに対して僕との訓練でその辺の殺し屋では太刀打ちできないレベルに鍛え上げられた圭一との差は大きすぎる。横並びで走り出したと思ったのに、実はとっくに手が届かない場所まで行っていたと知ったら、やる気が削がれないだろうか。

 

 鷹岡なんぞより、そっちの方が心配だ。

 

 しかし、そんな僕の心配を雪村さんは否定した。

 

「そこに関しては大丈夫じゃないかな。確かに鷹岡を潰した後はみんな静まり返って圭一を怖がってたけどさ、そのあとでみんなの前で圭一が殴られそうになった子、実際に殴られた子たちに対してね、こう言ったの。戦ってる時の怖い顔とは違う、凄く穏やかで優しい声と顔でさ」

 

『お前らが怖がってた男はこの程度の奴だ。自分は一方的に殴ることに躊躇いもなく、楽しむ節があった癖に、自分がやられたらこうやって怯えて、竦んで、ションベン漏らしながら情けない声を出す。助けを乞いながらな』

 

『でも、お前らは違う。前原、お前は真っ先に腹にドギツイのを食らったのに、神崎さんが殴られそうになった時、それでも動こうと反応してた。杉野、お前は前原が殴られて苦しがってるのを見たのに、神崎さんが殴られそうになったのを見て助けに入った。神崎さんも前原を見たはずなのに、しっかりと毅然と自分よりも体格の大きい相手に意見した』

 

『どれも生半可な気持ちで出来ることじゃない。お前らはこのガタイだけの木偶の坊ができなかったことをやってのけた。コイツは恐怖に負けたが、お前らは負けなかった。だから胸を張れ。鷹岡に負けなかったと。それは昔の俺ができなかったことだ』

 

「…………圭一がそんなことを?」

 

「うん。みんなの前で一人一人の顔を見ながら。ゆっくり噛まないように丁寧に、そして何より温かく。それが伝わったのかな。圭一を怖がるみたいな空気は一転して歓声に変わったよ」

 

 しみじみ言う雪村さんから相変わらず楽しそうに訓練している圭一へ視線を移し、そして僕も感慨深くなる。

 普通なら周りを怖がらせるような状況。そんな中で彼は言葉を尽くして信頼を勝ち取ったのか。暴力で敵を痛ぶり屈服させる乱暴者から、圧倒的な力で皆を守る強者へと印象を変えてみせた。上手くピンチをチャンスに変えたな。

 

「あの時の圭一にはカリスマ性みたいなものを感じたよ。『あぁ、凄い人を好きなったし、そんな人に愛されてるんだ』ってドラマの中の登場人物みたいなことを現実で思う日が来ると思わなかった。現実は小説より〜って奴だね」

 

「………そっか、それなら褒めてあげないとかな」

 

「ふふ、そうしてあげてよ。圭一って褒められ慣れてないのか分からないけど、褒めると照れるっていうか、気恥ずかしいそうな初心な反応して可愛いんだよ?」

 

「おっ、惚気かい?」

 

「惚気です。世界最高の殺し屋さんに報酬渡さないとね。圭一はあんまり堂々と惚気ないし、私がやんなきゃ」

 

「ふっ……そうかい。少し待ってなさい。お茶とお菓子を用意しないと。けーいちー!そろそろ休憩しなさい!」

 

「うぃ〜っす!」

 

 着実に一歩ずつ成長している弟子とその恋人。

 2人の惚気を聞いていると甘ったるい気分になると同時に強烈な共感性羞恥を感じることもあれば、雪村さんがドキッとした瞬間の圭一の行動を聞いて、やるじゃないか、なんて後方腕組みしてみたり、いろんな方向から楽しめる。

 

 最近の若者は進んでるなぁ〜とか年寄り臭いことを言いたくなったけど、僕自身、最近の若者らしいことは出来てない身の上なので、こんな時、どんなふうに茶化していいのか分かるなくなる。そう言うタイミングで僕はふと思うことがある。

 どうしても、そういう平和な雰囲気に対してどんな反応をしていいのか分からない時、自分はこの平和な世界に居ていいのか?と。考えずには居られないのだ。

 

 居心地は良い。手放したくはない。しかし、それはそれとして自分には相応しくないのではないのか?と。

 

 分かっている。圭一や雪村さんを最後まで見届けると決めているし、彼らを正しく導く為に、殺しを再開することはない。

 だか、もしも。この2人が何か危険な目に遭うのなら?あるいは、危険な目に遭うことを事前に察知したのなら。僕は、それを企てた相手をどうするのだろう。

 

 僕は知っている。そう言うことの大半は殺せば解決する。殺せば計画は停滞し、骸は警告の代わりとなる。それが合理的ならば、殺しから離れるだのなんだのと言いながら、僕は結局手を下すことだろう。さして悩まず、躊躇わずに。

 

 圭一は初めて会った時に比べれば、天と地の差があると言っても過言じゃないくらいに強くなった。

 彼以外、この世界のどこに第一空挺団の隊員を圧倒する中学生がいると言うのか。いや、いるはずがない。

 

 雪村さんには圭一は世界的にも上澄みレベルとその強さを説明したが、実際には上澄みどころか、上から数えて十指に入るか入らないかと言ったところだろう。

 実際、僕ですら模擬戦ではヒヤリとさせられる場面が増えてきた。彼と同じか少し強いくらいに落として指導していると言ったが、実際のところ僕の力で言えば7割くらいの力だ。

 

 7割と言うと捉え方は人によって変わるところだろう。だが、僕にとって7割とはほとんど本気に近い。8割から9割の間は本気、9割から10割の間は全力、10割になると死力を尽くすと言った具合だろう。

 本気にはいまひとつ届いていないが、それでも決して油断できないレベルまで強くなっていると言える。

 

 それこそ、僕に本気を出させる様な人間がこの世界にどれだけいるだろうか。グレイグ・ホウジョウや初代死神、そして噂に聴く圭一たちE組の指導をしてる烏間あたりくらいしか本気を出す必要を感じる相手はパッとは思い浮かばない。

 

 僕の弟子はそう言う意味では彼らに匹敵する程の猛者になりつつある。そう考えると師匠としては彼が誇らしいし、そこまで育てることが出来た自分も誇れる。

 けれど、そんな強い弟子も感性そのものは平和な国で育った一般人といっても過言ではない。

 

 敵に容赦をすることはなくとも、敵に非情になれるかは別問題。僕としては力が全てだと思って欲しくはない。可能なら周りのことも助けれやれる様な人物になって欲しい。

 けれど、それはそれとして自分の身を守る為なら非情になる冷徹さを持って欲しいと思うのも事実。見ず知らずの誰かより、丹精込めて鍛え上げた教え子であり、僕を見てくれた彼にまずは生き残って欲しい。例え、その為に周りを殺すことになったのだとしても。自分だけでも生き延びて欲しい。

 

 他人を殺すことでしか生き残れない状況なら、躊躇わずに殺せと僕は教えるだろう。それが世間一般的な倫理観として間違っているのは分かりきっているのだとしても。

 

 辛いことがあっても立ち直ろうとしてる雪村さん、それを支える圭一。2人の惚気る姿が僕は好きだ。

 僕は彼らにどう伝えるべきなんだろう。伝えても良いのだろうか。自分とパートナーを守る為ならそれ以外を躊躇わずに殺せなどと。平和な国で生まれた一般的な感性を持つこの2人に。

 

 きっとそれは命の優先順を決める上で必要なことで、それを決めるのは非常時を迎える前にはやっておくべきことで、そして極力そんなことをさせないように、ならないように動くべきなのも事実で。でもやっぱり必要だと思う。

 

 2人の惚気話しを聞きながらこんな思考が止まらない。彼らを守る為なら殺すことを躊躇わないし、彼らも殺すことを躊躇って欲しくない。そんな物騒な思考が回り続ける。

 

 根底にあるのかも知れない。一般人であった時期が短い僕が彼らを正しい方向に導くこと自体が無謀なんじゃないのか。思い上がりなんじゃないのか。そんな自分に対する疑念が。

 

 もちろん、誰に頼まれてもこのポジションを譲るつもりはないけれど。考えずにはいられなかった。きっとこの自問こそが、僕が教師でいられるのか、いて良いのかという至上命題なのだから。僕は逃げるわけにはいかなかった。

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