暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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高評価、誤字修正などありがとうございます!

書き終わりましたので投下します。
今回もお付き合いください……。

——追記——
誤字修正ありがとうございます!


43話 決行の時間

 

「言われなくても。上映始めるぜ。殺せんせー」

 

 岡島が宣言すると同時に上映が始まる。殺せんせーを殺す俺たちの最大の作戦の序曲が。

 序曲というには実にアップテンポなメロディーが流れ出す。三村のナレーションを伴って液晶に映し出される、『3年E組が送る、とある教師の生態』というタイトルコール。この時点で三村の編集力とセンスに脱帽だ。

 殺せんせーの概要に軽く触れたナレーションと普段の授業風景。撮影は岡島らしいが、よく撮れていると思う。岡島は写真のセンスがいいよな、ほんとに。

 

「(後ろの暗がりでしきりに人が出入りしている。位置と人数を明確にしない為でしょう。ですが甘い。2人の匂いがここにないことは把握済みです)」

 

 殺せんせーが何やら思案している。ゾーンに入ると殺せんせーが動画を見ながらも何か別のことに集中しているのが手に取るように分かった。不思議だな。こんなことなかったのに。

 

「(四方が海のこの小島ですが、ホテルに続く一方向だけは近くが陸だ。そちらの方角の窓の外からE組きってのスナイパー、速水さんと千葉くんの匂いがしますねぇ)」

 

 一体、何を考えてるんだろう。

 何だか、ロヴロさんの特訓以降、人の意識の機微……視線や瞬き、呼吸、体の動きに目を向ける様にしたことでゾーン中は他人の意識の波長の様なものを感じ取れる様になったが、なにを考えてるかまでは分からない。

 

 殺せんせーは今、何を思って動画を見ているのだろう?

 

「(——しかし、この動画はよく出来ている。編集とナレーターは三村くんですか。カット割りといい、選曲といい、良いセンス。ついつい引き込まれて……)」

 

 あ、意識が動画に完全集中した。

 

『……まずはご覧頂こう。我らの担任の恥ずべき姿を』

 

「にゅっ!?」

 

 画面にはいつぞや岡島のスマホで見た、エロ本の上に鎮座するエロタコの様子がはっきりと映し出されていた。

 

『買収は、失敗した』

 

「し、失敗したぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 殺せんせーの絶叫がコテージ内に響き渡る。

 

「ちょっ、どうなっとりますのん、乃咲はん!?約束とごっつう違いますけん!?」

 

「いろんなところの訛りが渋滞してて何言ってるか分かんねーよ、殺せんせー」

 

「だぁって!ハーゲンダッツまで奢らせたくせに約束破るとかどういう了見なんですかぁ!?」

 

「ハーゲンダッツ奢ってくれたら黙ります、って言ったの俺1人ですからね。他のみんなには『みんなには内緒ですよ』って一方的にアイス配ってただけじゃないスか。俺は(・・)約束守りましたよ」

 

「にゅやぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 殺せんせーが恥ずかしさのあまり、赤面しながら発狂した。頭を全力で振り、現実から逃れようとする姿は哀愁を誘う。本当にめちゃくちゃに愉快な人だなぁ。

 

『お分かりいただけただろうか。最近のマイブームは熟女OL。全てこのエロタコが1人で集めたエロ本である』

 

「違っ!?とんでもない捏造入ってるんですけどぉ!?どうなってるんですか、乃咲くん!?」

 

「いや、そこは編集の三村に聞きましょうよ」

 

『お次はコレだ。女子限定スイーツバイキングに並ぶ巨影』

 

 場面は切り替わり、長蛇の列を作る女子限定スイーツバイキングとやらに混ざり込む身長2m越えの巨影が映し出された。

 

『誰だろう——奴である』

 

『殺子よ』

 

 女装した殺せんせー。しかし悲しいかな、その巨体で女性と言い張るのは無理がある。人間だと言い張ること自体無謀なレベルだと思うわけですよ、ええ。

 

『バレないはずがない。女性以前に人間でないとバレなかったこと自体が奇跡である』

 

 三村さんのおっしゃる通りである。

 すげーな三村。俺の言いたいこと全部ナレーションで言ってくれる。お陰でツッコミ入れる必要がなくて楽だ。

 

『ちょっと!どこ触ってるのよ!?』

 

 警備員に連行される時にさり気なくおねぇ言葉が出る辺り、殺せんせー常習犯だな、これは。

 

「クックック、エロ本に女装に恥ずかしくないの?このド変態」

 

 狭間さんの容赦ない一言が殺せんせーの心を抉った。

 こう言う時の狭間さんは文字通り輝いてる。これは褒めているのか微妙なラインだが、人の弱みを突くことに関して狭間さんの右に出る者はいないだろう。少なくともこのE組の中では。

 

『給料日前の奴の姿である』

 

 岡島、殺せんせーのストーカーでもしてるのか。なんでこんな多種多様な殺せんせーの異常行動を録画してるんだ、アイツ。

 

『分身でティッシュ配りに行列を作り、そんなに取ってどうすんのと思いきや……何と唐揚げにして食べ出したではないか』

 

「……マジかよ」

 

「乃咲くん!?そんなドン引きした声音で言わないで下さい!せ、先生だって生きるのに必死なんです!」

 

『教師……いや、生物としての尊厳はあるのだろうか』

 

「そしていちいち秀逸なナレーションですね!三村くん!?」

 

『こんな物では終わらない。この教師の恥ずかしい姿を1時間たっぷりお見せしよう』

 

「あと1時間も!!!?」

 

 殺せんせーはたっぷり1時間、辱められた。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 1時間後……。

 

「……死んだ。先生死にましたぁ……。あんなの知られてもう生きていけません」

 

 溶ける様にぐだぁっとする殺せんせー。

 無理もない。途中から殺せんせーの奇行にドン引きすることをやめ、あんなことやこんな場面まで岡島に盗撮されていた殺せんせーに同情してしまった程だ。

『うわっ、マジで?』が『うわっ、可哀想』に変わった瞬間の切なさを俺は今後一生忘れることはないだろう。

 これから殺してやるから成仏してくれ、殺せんせー。

 

『さて、秘蔵映像にお付き合い頂いたが、何かお気付きでないだろうか?殺せんせー?』

 

 完の文字が映し出されたモニターから流れる三村の戯けた声。それと同時に映像のBGMは止まり、代わりに波で海面が揺れる音がチャペル内に響き渡る。

 俺たちの足下には満潮で迫り上がってきた海面。波の音を三村の動画のBGMが掻き消してくれていたのだ。

 

 お陰様で殺せんせーの触手は海水を吸いパンパンに膨れ上がっていた。それに気づかなかったのは動画で羞恥心に押し潰されていたからだろう。この暗殺が成功したのならMVPは殺せんせーを釘付けにした動画を使った三村と素材を提供した岡島になるだろうな。間違いなく。

 

 などと思いながら俺たちは徐に立ち上がる。

 

「俺らまだ何もしてねぇぜ。誰かが小屋の支柱を短くでもしたんだろ」

 

「船に酔って、触手壊されて、恥ずかしい思いして、水吸って、だいぶ動きが鈍ってきたよねぇ?」

 

 中村さんの言葉を合図に全員でハンドガンを構える。

 

「さて、本番だ。約束だ、避けるなよ?」

 

 そこまで言った寺坂から視線を投げられる。

 その意図を感じ取った俺は号令をかけた。

 

「作戦——開始!」

 

 俺の一言で学年一位を取った全員が触手を破壊する。合計八本の触手を失った殺せんせーは渋い顔をしてジッと耐えたその直後、チャペルがミシミシと音を立てて四散した。

 天井すら四散し、頭上に広がるのは満天の星空。そんな星空を覆い隠す様に水中から無数の影が水柱を伴って飛び出す。

 

 その正体は水圧で飛ぶフライボードに乗ったクラスメイトたち。ついでに言えばチャペルが四散したのもクラスメイトたちが水上バイクでコテージの壁や柱を引っ張って壊したからだ。

 

「これは水圧の檻!?」

 

「言い得て妙ですねぇ!律!」

 

『はい、射撃を開始します。照準、殺せんせーの周囲全周1m』

 

 律に指示を出すと海中から律の本体である固定砲台が飛び出してくる。砲門を展開し、無数の射角をもって殺せんせーへの弾幕を張る彼女。それに倣って俺たちも射撃を開始する。

 

 何度も行われてきた朝のホームルームでの一斉射撃で殺せんせーは自分を狙う弾丸には敏感だが、それ以外の射線にはどうにも鈍い点があると大分前に気が付いた。だから俺たちはそこを突く。

 あえて殺せんせー本体は狙わず、殺せんせーの周囲を囲い込む弾幕を形成することで殺せんせーの感覚を惑わせ、逃げ場を無くす。

 

 そして止めの2人……!

 

「今だ、千葉、速水さん!」

 

「っ!?」

 

 殺せんせーがガバッと陸に続く橋を見つめるが、その方向に2人はいない。その方向にあるのは2人の匂いが染み込んだ服や普段使ってる銃だけ。本物の2人は……水中だ。

 俺の呼びかけに飛び出した2人。律が中継してくれていたのだろう。飛び出した2人は最後の射撃を行う。

 

 小屋の中では陸を警戒させ、フィールドを水の檻へ変える。それによってチャペルが有った状態とは全く別の狙撃点を作り出す。2人の匂いや発砲音は水が消してくれる。

 

「「(貰った……!!)」」

 

 2人の最後の射撃が殺せんせーに襲い掛かる。

 

「よくぞ……ここまで……!」

 

 2人の弾丸は殺せんせーの顔に吸い込まれる様に飛んで行き……。次の瞬間、殺せんせーの全身が閃光と共に弾け飛んだ。

 

「ぐわっ!?」

 

 俺たちはとんでもない爆風に数メートルほど吹き飛ばされて海面に落ちる。身体が浮くほどの衝撃なんて初めて受けた。思った以上に滑る様に吹き飛ばされたよな。驚いた。

 

「や、殺ったのか!?」

 

 誰かがフラグの様なことを言うが、無理もない。いまの暗殺には手応えがあった。思わず俺も叫びたくなるくらいに。

 今までの暗殺とは違う。明らかな手応え。殺せんせーが爆散して、あとには何も残っていない。

 

「油断するな!奴には再生能力がある!片岡さんが中心になって水面を見張れ!」

 

「っはい!」

 

 対先生弾と水圧の檻。この二つの監獄から逃れられるなんて考えられない。逃げ場などどこにもなかったはずだ。

 そう思いながら監視する水面。しばらくするとソレは浮いて来た。

 

「あ、あれ!」

 

 倉橋さんが声を出す。

 その指差す先にはブクブクと泡立つ水面があった。

 

 ハンドガンを水面に向ける。

 

 次の瞬間、俺たちが見たのは殺せんせーの死体……ではなく。

 

「ふぅ……」

 

 殺せんせーの顔が入ったオレンジと透明の変な球体だった。

 

「何だあれ……」

 

「よくぞ聞いてくれました、乃咲くん。これぞ先生の奥の手中の奥の手!完全防御形態!!」

 

「完全防御形態ぃ!?」

 

 また急に突飛なものが飛び出してきたものだ。

 思わず声を荒げてしまう。

 

「外側の透明な部分は高密度に凝縮されたエネルギーの結晶体です。肉体を思いっきり小さく縮こめ、その分、余分になったエネルギーで肉体の周囲をガッチリ固める。この形態になった先生は無敵!水も対先生物質もあらゆる攻撃を結晶の壁が弾き返します」

 

「チート過ぎねぇ、その形態」

 

「そうだよ。そんな形態でずっといたら殺せないじゃん」

 

 矢田さんの不安そうな顔に殺せんせーが笑いながら結晶の中で口を開く。

 

「ところがそう上手くはいきません。このエネルギー結晶は24時間ほどで自然消滅します。その瞬間に先生は肉体を膨らませ、エネルギーを吸収して元に戻るわけです。裏を返せば結晶が消滅するまでの24時間、先生は身動きが一切取れません」

 

「……!」

 

 烏間先生が息を呑むのが分かった。

 そりゃあそうだ。その24時間の間に殺せんせーを対先生物質のプールが何かに埋めてしまえば殺せんせーを殺せるかもしれない。

 

「これは様々なリスクを伴います。最も恐れるのは動けない間に高速ロケットに積み込まれ、そのまま宇宙に捨てられることですが……その点はぬかりなく調べ済みです。24時間以内にそれが出来るロケットは地球上のどこにもありはしない」

 

「……やられた」

 

 液状化くらいは視野に入れていたが、その先があるとは思いもしなかった。ここにきて奥の手を出して、ましてその弱点まで計算済みだとか完全に予想の範疇を超えていた。

 

 完敗だ。俺たちは失敗するべくして失敗したのだ。

 

「チッ、なにが無敵だよ。なんとかすりゃあ壊せるだろ、こんなもん」

 

「ヌルフフフ、無駄ですねぇ。核爆弾でも傷一つ付きませんよ」

 

 キレる寺坂が結晶をガシガシとレンチで殴りまくるが、先生の言った通り、傷一つ付きやしない。

 

「そっかぁ、無敵なら打つ手ないよねぇ」

 

 ニヤニヤしながら殺せんせーを受け取ったカルマ。彼はそのままみんなの貴重品を預かっていた茅野からスマホを受け取るとエロ本に鎮座するエロタコの姿を表示して殺せんせーの前にスマホを置いた。

 

「にゅやぁぁぁぁぁぁぁぁ──っ!!!?」

 

 完全に弄り放題な殺せんせーをカルマが見逃すはずが無く。

 

「やめてー!手がないから顔も覆えないんです!」

 

「ごめんごめん、んじゃぁ、スマホを至近距離で固定してっと。とりあえずその辺で拾ったウミウシ引っ付けておくね」

 

「ふんにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ──っ!!?」

 

「本当に弄られたい放題だな、殺せんせー」

 

「乃咲くん!?そんな風に眺めてないで助けてください!?」

 

「あと誰か、不潔なオッサン連れて来て。これパンツの中にねじ込むから」

 

「寺坂でもいいんじゃね。尻にでも捩じ込んでおけよ」

 

「死ぬわ!」

 

「誰か助けてぇ!?」

 

 暗殺失敗した憂さ晴らしに殺せんせーを弄っていると、烏間先生が俺たちから殺せんせーを取り上げた。

 

「とりあえず解散だ。こいつの処分に関しては上層部と検討する」

 

「ヌルフフフフ、無駄ですよ、烏間先生。おおよそ、対先生物質のプールにでも閉じ込めるつもりでしょうが、その場合はさっきの様に一部のエネルギーを爆破して周りごと吹き飛ばしてしまいますから」

 

「……!!」

 

 烏間先生も俺と同じことを考えたらしいが、その作戦すら先手を打つ様に殺せんせーから無駄だと言い放たれてしまった。

 

「ですが、皆さんは誇って良い。世界中の軍隊ですらも先生をここまで追い詰めることができなかった。ひとえに皆さんの計画の素晴らしさの賜物です」

 

 殺せんせーはいつもの様に俺たちを褒めてくれたけど、渾身の刃を外した落胆はかなり大きかった。

 加えて、もう、殺せんせーをこの旅行中に殺すことが絶望的になってしまったことで俺は殺せんせーを殺すことができないままにA組に行くことが確定したようなものだ。

 

 ……ずるい。

 

 一応、失敗した時の作戦も練っていた。例えば殺せんせーに2人の狙撃が避けられた時。その時はゾーンで殺せんせーの動きを見切り、俺が殺せんせーの動きを限定させること他の面子が順繰りに止めをさす。そんな第二の刃も持っておいたのに、殺せんせーが取ったのは第二の刃も弾き返すチート形態。

 

 あんだけ第二の刃の大切さを説いていたくせにそれすら届かない形態を持っているとかそんなのズルだろ。

 

 幼子の様に地団駄を踏んで駄々を捏ねたくなる気持ちを抑えて俺たちは言われた通り、解散した。各々が渾身の刃を外した落胆を隠しきれない中でホテルへの帰路につく。俺たちの足取りは重い。

 

「律、記録は取れてるか」

 

『はい、可能な限りハイスピードカメラで今回の暗殺の一部始終を録画してます』

 

「俺さ、撃った瞬間分かっちゃったよ。『ミスった。この弾じゃ殺せない』って」

 

 千葉と速水さんが落ち込んだ様子で律と反省会している。

 

『……断定は出来ません。あの形態に移行するまでにかかる正確な時間が不明瞭なので。ですが、千葉くんの射撃があと0.5秒速いか、速水さんの位置が標的にあと30cmほど近ければ殺せていた可能性は50%ほど存在します』

 

「自信はあったんだ。あそこより不安定な足場で練習して来たし、リハーサルでも外さなかった。けど、いざ、あの瞬間は指先が硬直して視界も狭まった」

 

「……同じく」

 

「絶対に外せないという重圧と『ここしかない』って瞬間。視界が歪んだよ」

 

「……うん。まさかこんなに練習と違うとはね」

 

 トボトボと歩く2人を見送る。

 

 こうして俺たちの一夏の暗殺は幕を下ろした。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「しっかし疲れたわ〜……」

 

「自室帰って休もうか……もう何をする気力も出ない……」

 

 すっかり燃え尽き症候群気味な俺たち。なんだか気怠い。最近ずっと感じていた気怠さよりもずっと気怠い感覚。

 本当に異様に身体が重い。気怠い。なんかやる気が全然出てこない。やる気というか活力というか、生命力というか。

 

「ンだよ、テメーら。1回外したくらいでダレやがって。もー殺ること殺ったんだから明日一日遊べるだろうが」

 

 寺坂の言葉が心強いが何だか妙だ。心底身体が怠い。

 

「け、圭ちゃん。ごめん、肩、貸してくれないかな」

 

「倉橋さん……?」

 

 正面に座っていた倉橋さんがふらつきながら立ち上がり、そしてバランスを崩した。仰向けに倒れそうになった彼女。

 思わずゾーンに入り、殆ど止まっている様に見える世界を空気が体にまとわりつくのを感じながら辛うじて移動し、倒れそうになった彼女の後頭部に腕を差し込む形で先に倒れ込み頭を打たせないように下敷きになる。

 

「っでぇ……!?大丈夫か、倉橋さん!?」

 

「うん……ありがと……」

 

 体を起こし、倉橋さんを抱え上げて、顔を見るが顔は真っ赤だ。しかし、その顔が照れによって染まっていることではないのは鈍い俺にも流石に分かった。

 

「ちょっとごめん」

 

 一言だけ断って額に手を当てると——熱い。異常な程に熱いし、倉橋さんの呼吸のリズムも一定ではない。首筋に手を当てて脈を測るが、脈も乱れてる。端的に言えばものすっごく具合が悪そうだ。

 

「大丈夫か……?」

 

 今度は別の意味で聞く。頭を打っていないか、ではなく、体調は大丈夫か?と。帰って来た答えは——。

 

「うーん……あはは、ちょっとキツイかも」

 

 弱々しい一言。天真爛漫な倉橋さんにしては珍しいはっきりした弱音。なんだ?さっきまであんなに元気そうだったのに。

 そう言えば俺も身体が怠いし……。なんて思いながら周りを見ると、周囲は死屍累々というか、倉橋さんの様な症状でクラスの半分くらい倒れていた。

 

「なんだ?どうなってる?」

 

 思わず呟くと烏間先生が慌てた様子でフロントに駆け寄っていた。

 

「フロント!!この島の病院はどこだ!?」

 

「え……いえ、なにぶん、小さな島なものですから。小さな診療所はありますが、当直医は夜になると別の島に帰ってしまう。船は明日の10時にならないと」

 

「くっ……!」

 

 烏間先生が歯噛みすると同時に烏間先生のポケットの中のスマホが震え出した。着メロが鳴る中で、少し躊躇いながら電話に出る先生。

 

 電話に出た烏間先生がみるみるうちに不審そうで同時に警戒した顔になってゆく。倉橋さんの介抱をしながら内容が気になり歯噛みしていると俺のスマホが震える。

 スマホを出すと律が映っていた。

 

『烏間先生と何者かの会話を中継しますか?』

 

「……」

 

 烏間先生にも聞こえていたらしい。目配せすると頷いてくれたので、律に頼んで中継をして貰うことにした。

 

「何者だ。まさか、これはお前の仕業なのか?」

 

『ククク、最近の先生は察しがいいな』

 

 変声機を使った明らかな加工音声。しかし、今の短い会話からコレは電話の奥の人物……。仮に黒幕と呼ぶべき者の仕業なんだろう。それははっきりと分かった。

 

『人工的に作り出したウィルスだ。感染力はやや低いが一度感染したら最後。潜伏期間や初期症状に個人差はあれ、1週間もすれば全身の細胞がグズグスになって死に至る』

 

 ……まじかよ。もし、その話が本当ならこの話は倉橋さんの近くで聞くべきでは無かった。迂闊だった。

 

『治療薬も一種類のみのオリジナルでね。あいにくこちらにしか手持ちがない。渡すのが面倒だから直接取りに来てくれないか?山頂にホテルが見えるだろう?手土産はその袋の賞金首だ』

 

 俺たちはなすすべなく烏間先生と共に山頂の方にあるホテルを見上た。

 

 

 

 

 

 

 




後書き

はい、後書きです。

 書いていてふと思ったんですが、渚や死神たちがクラップスタナー使う時に見ている意識の波長ってどんな理屈で感じ取ってるんでしょうね?
 それっぽい理屈として、圭一には視線や目の動き、呼吸や動きから相手の波長を感じ取らせて見ましたが……。
 というか、圭一はゾーンに入ってようやくそれらができる様になるのに、素で相手の意識の波長を読み取れる死神たちや渚は相当なチートなのでは……?

 渚、死神たち、烏間先生とかは主人公が強ければ強いほど勝手に株が上がっていくキャラクターな気がします(笑)

 さて、今回は以上になります。
 今回もご愛読ありがとうございます!
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