暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えて高評価、誤字修正等ありがとうございます!

今回も無事に書けましたので投下します。
今回もお付き合いください……。


44話 伏魔の時間

 

『治療薬も一種類のみのオリジナルでね。あいにくこちらにしか手持ちがない。渡すのが面倒だから直接取りに来てくれないか?山頂にホテルが見えるだろう?手土産はその袋の賞金首だ』

 

 "手土産はその袋の賞金首"。この情報からわかるのは二つ。

 一つ、犯人はどこかで俺たちの状況を見ていること。殺せんせーが袋に入っている現状を把握していることからから判る。

 二つ、犯人は殺せんせーのことを知っている何者かであること。でなければ賞金首なんて単語は出てこないだろうからな。

 

 何が起こってるのか理解できないままに黒幕と烏間先生の電話は進んだ。

 

『その様子じゃ、クラスの半数はウィルスに感染したようだな。フフフ、結構結構』

 

 えずく倉橋さんの背中を摩り、監視カメラを睨み付ける。黒幕の言葉的に奴は今、この状況を見ている。

 そして、見ている場所はあの監視カメラだろう。というか、それ以外に考えられない。

 

「もう一度聞く、お前は——」

 

『俺が何者なのかなどどうでも良い。賞金百億を狙っているのはガキ共だけじゃないってことさ。あぁ、それから言っておくが、治療薬はスイッチ一つで爆破できる。我々の機嫌を損ねれば感染者は助からない』

 

「……念入りだな」

 

『そのタコが動ける状態を想定しての計画だからな。動けないのならなおさらこちらの思い通りだ。山頂の"普久間島殿上ホテル"の最上階まで1時間以内にその賞金首を持って来い』

 

 1時間以内か。随分と悠長なことだ。

 

『だが先生よ。お前は腕が立つそうだから危険だな。そうだな……。動ける生徒の中で最も背の低い男女2人に持って来させろ。フロントには話を通してある。素直に来れば賞金首と薬の交換はすぐに済む。だが、外部と連絡を取ったり、1時間を少しでも遅れたりすれば治療薬は即座に破壊する』

 

 今動ける中で一番身長が低い男女と言えば渚と茅野だ。

 何故だ?なぜ、黒幕はわざわざ2人を指名する?なにか思惑があるような気がしてならない。それに、烏間先生が強いことを知っていることが更に違和感を呼ぶ。

 

『礼を言うよ、よくぞソイツを行動不能まで追い詰めてくれた。天は我々の味方のようだ』

 

 プツ、ツー、ツー、と電話が切れた。同時に動揺と果てしない憤りを隠し切れない烏間先生が完全防御形態の殺せんせーを怒りに任せて机に叩き付ける。

 机が割れんばかりの轟音が響き、一切の攻撃を通さないという完全防御形態の殺せんせーからミシミシと軋む音が響いている。

 

「……酷い。誰なんですか、こんなことする奴は!」

 

「……」

 

 無事に動けるらしい矢田さんも怒り心頭といった様子で烏間先生に問い掛けるが、彼は答えに困った様子で俯いてしまった。答えが出ない以上、下手に不安を煽るわけにもいかず、下手な答えを告げるわけにもいかないのだろう。

 

 クラスメイトたちに動揺が走る中で烏間先生の部下が彼に慌てた様子で駆け寄り、声を荒げた。

 

「烏間さん。案の定ダメです。政府としてホテルに問い合わせても『プライバシー』を繰り返すばかりで埒があきません」

 

「……やはりか」

 

「やはり……?」

 

 烏間先生の呟きを拾った殺せんせーが問いかけるように、反復すると烏間先生は静かに語り出した。

 ただのリゾート地だと思ってつい数時間前まで普通に楽しんでいたこの普久間島の闇について。

 

「警視庁の知人から聞いた話だが、この小さなリゾート島『普久間島』は『伏魔島』と呼ばれ、マークされている。ほとんどのリゾートホテルはまっとうだが、離れた山頂のホテルだけは違う」

 

 烏間先生の仰々しい言い方に思わず唾を飲み下す。

 

「南海の孤島という地理も手伝い、国内外のマフィア勢力やそれに繋がりのある財界人らが出入りしていると聞く。私兵たちの厳重な警備のもと、違法な商談やドラッグパーティーを連夜開いているらしい。政府のお偉いさんともパイプがあり、迂闊に警察も手が出せん」

 

「そんなヤクザものの舞台見たいな場所が現実にあるとは……」

 

 思わず出た感想がこれだった。

 そんなヤクザものの映画みたいな場所があるだなんて思っていなかったから正直、ビビってる。

 

「ふーん。そんなホテルがこっちに味方する訳ないよね」

 

「そりゃそうだわな」

 

 カルマの言葉に同意する。

 ホテルは個人情報すら取り扱う。だからある程度のことに関しては『プライバシーが』を免罪符に使える。そこに加えて政府のお偉いさんともパイプがあるのだから、どんな圧力に対してもある程度の抵抗力があると考えて良いだろう。

 

 交渉の席に着くにしろ、それ以外の行動を取るにしろ、情報が少なすぎる。俺たちは圧倒的に不利な状況だ。

 

 それを感じ取ったのか、吉田が憤るような、怯えるような声音で叫んだ。

 

「どーするんスか!?このままじゃ、いっぱい死んじまう!こっ、殺される為にこの島に来たんじゃねぇよ!?」

 

「吉田、気持ちは判るが少し落ち着け」

 

「乃咲っ!?お前は平気なのかよ、こんな目にあって!?」

 

「クラスメイトが死にかけてるんだ。平気な訳ないだろ。でも慌てたって仕方ないだろう?それも症状の出てないお前が。慌てて周りを不安にさせるより、どうするべきかを考えて、周りを励ませ。それが今の俺たちにできる唯一の行動だろ?」

 

「っ……。そう、だな。辛いのは俺じゃねぇ。感染してる連中だもんな……悪かった」

 

 吉田を落ち着かせると、彼は対症療法の準備をしていた竹林と奥田さんの元へゆき、彼らの手伝いを始めた。

 うん。行動力があるのは寺坂組の良いところだよな。

 などと思いつつ、俺は俺で内心、動揺しまくっている。

 だって目の前で人が倒れるし、鼻血噴き出す奴はいるし、さっきまで元気だった連中が半数近くぶっ倒れるしで、頭の処理能力が現実に追いついてない。

 しかし、俺たちの動揺を表に出して感染者たちに心配をかける方が現状では一番良くないと思った。

 

「けどよぉ、言うこと聞くのも危険すぎんぜ。1番チビの2人で来いだぁ?このチンチクリン共だぞ!?人質増やすようなもんだろ!!」

 

 言いながらドスドスと渚と茅野の頭をこずく寺坂。

 

「第一よ、こんなやり方する奴らにムカついてしょうがねぇ。人の友達(ツレ)にまで手ェだしやがって!」

 

 寺坂は本当に意外と情に熱くて良いやつだ。

 

「要求なんざ、全シカトだ!今すぐ全員都会の病院に運んで治療を受けさせれば良いだろ!?」

 

 短絡的で少し乱暴なのが玉に瑕だがな。

 そんな寺坂に正面から意見する男が1人。

 

「賛成しないな。もし本当に人工的なウィルスなら対応できる抗ウィルス薬はどんな病院にも置いてないよ。いざ皆んなを運んで無駄足にでもなれば患者のリスクを増やすだけだ」

 

 ある意味、烏間先生以上に冷静に事の対処に当たっている竹林だった。竹林はこの島に病院がないと言われた時点から既に対症療法の準備をしていたからな。こんな時、彼は頼りになる。

 きっと実家の病院に勤める家族を見返すために彼なりに勉強してきたであろう知識が今、俺たちを支えてくれている。

 

「対症療法で応急処置はしておくから早く取引に行った方が良い」

 

「竹林……」

 

 寺坂もおとなしくなり、皆が考え込む。

 竹林の言うことももっともなんだが、寺坂の心配もまた的を射ていると俺は思う。

 

 黒幕の目的は殺せんせーだ。殺せんせーを渡すこと自体は問題ではない。1番問題にするべき点は交渉のために渚と茅野を行かせた後、2人を人質に取られ、挙句に薬も渡さず犯人に逃げられてしまう可能性がゼロではない点だ。

 かと言って他に手段があるわけでもない。このまま考えることに時間を使うことが最善策ではないことも確かだ。

 

 さて、どうするべきか。

 

 頭を抱えていると、殺せんせーが口を開いた。

 

「良い方法がありますよ。病院に逃げるより、大人しく従うよりは」

 

「良い方法?」

 

「律さんに頼んだ下調べも終わったようです。元気な人は来て下さい。汚れてもいい格好でね」

 

 殺せんせー、なにをする気だ?

 何を考えているのかは分からないが、このまま足踏みしているよりはマシだろう。

 

「ごめん、倉橋さん。行ってくるね」

 

「……うん。気を付けてね」

 

 気を付けなきゃ行けないようなことにならなきゃいいが。と思いつつ、倉橋さんから離れ、汚れてもいい格好に着替える。まあ、薄い上着を羽織るだけだが。

 

「乃咲」

 

「竹林?」

 

 殺せんせーの元へ行こうとすると竹林に止められる。何事かとおもい、足を止めると彼は徐に語り出した。

 

「このウィルスはおそらく経口接種させられた可能性がある」

 

「その根拠は?」

 

「症状の強さの割に感染力が低すぎる。これだけの症状なら僕らまで感染していてもおかしくはないはずだろう?それに、犯人が交渉用に調合したものなら無関係の人間にまで危害が及ぶような感染経路を使うとは考え辛い」

 

「……確かに」

 

「恐らくは料理か何かに盛られていたと考えるのが自然だ。だからもし、どこかで見た顔が歩いていたのなら、注意した方がいい」

 

「そうか。忠告、ありがとな」

 

 経口感染……。しかし妙だ。感染しているメンバーはそれぞれ班が同じだったり、別だったりと様々だ。

 この面子に一気に毒を盛る機会があるとすれば……俺たち全員が揃って口にしたもの。それが1番可能性がある。

 この島に来る前に朝食はそれぞれの家で済ませて来た。んで船の中でお菓子を食べたりしてる奴もいたが、全員ではない。それから島について全員でトロピカルジュースを飲んだ。昼食は班別行動中にいろんな場所で食べた。そして夕食を全員で食べた……。

 

 となると、この時点で1番可能性があるのはトロピカルジュースと夕食だが……。夕食を食べずに映像編集してた岡島と三村も感染してるから夕食は除外できる。

 

 と、なるとトロピカルジュースか。感染経路として1番可能性が高いのは。

 

 問題は何処で盛られたかだ。厨房か、それとも運搬中か。それによって警戒するべき相手の数が変わってくる……!

 

 ……いや、ひとまず考察はここまでにしておこう。それよりも早く殺せんせーの元に行かないと。

 

 俺はみんなに少し遅れて駆け出した。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

「……」

 

「……高ぇ」

 

 千葉の言葉に同意する。

 

 俺たちは殺せんせーに言われるがままに移動し、普久間島殿上ホテルが聳え立つ崖の下まで来ていた。

 渚と茅野以外もここまで連れて来た時点で殺せんせーの目的は分かった。彼が俺たちにやらせたいことは。

 

『あのホテルのコンピューターに侵入して内部の図面を入手しました。警備の配置図も』

 

 なんか律がとんでもないことを言い出す。

 律も大概なんでもありになって来たよな。

 

『正面玄関と敷地一帯には大量の警備が置かれています。フロントを通らずにホテルに入るのはまず不可能。ですが、ただ一箇所、この崖を登った所に通用口が一つあります。まず侵入不可能な地形ゆえに警備も配置されていないようです』

 

「敵の意のままになりたくないのならば手段は1つ。患者10人と看病に残した2人を除いた動ける生徒全員でここから侵入し、最上階を奇襲して薬を奪い取る!」

 

「「「……!!」」」

 

 皆が息を呑んだ。しかし、烏間先生は渋る。

 

「……危険すぎる。この手慣れた手口、敵は明らかにプロの者だぞ」

 

「ええ。しかも私は君たちの安全を守ることができない。大人しく私を渡した方が得策かも知れません」

 

 ……考える。考えるが、奪い取るのが最善な気がする。

 

 考えてみたのだ。仮に事態が最悪の状況に進んだ場合を。

 最悪なのは取り引きに行った2人を人質に取られること、そして薬を渡して貰えず、犯人に逃げられること。

 そして……2人を殺せんせーと一緒に対先生物質のプールが何かに閉じ込められること。そうなった場合、殺せんせーはなす術がない。完全防御形態が解除されると同時に彼は対先生物質のプールで溶けることになる。

 烏間先生に向かって言っていたようにエネルギーの一部を爆破させて脱出を図ろうものなら渚と茅野がタダでは済まない。脱皮前ならまだしも殺せんせーは脱皮している。爆破から2人を守る手段がないから結局、殺せんせーはなす術なく殺される。

 

 これは無数に考えた最悪のパターンの一つに過ぎない。だが、可能性としてあり得ないものではない。

 

 そんな危険性を孕んだ選択肢を選ぶくらいなら強奪を選ぶ方が遥かに安全な気がする。仮に俺たちの動きがバレたとしても犯人を無力化してしまえさえすればやりようはいくらでもあるのだから。

 

「どうしますか?全ては君たちと指揮官の烏間先生次第です」

 

「………」

 

 烏間先生が考え込む。

 

「それは……」

 

「ちょっと」

 

「……厳しいだろ」

 

 皆が口々に呟く。それにビッチ先生が同調した。

 

「そーよ!無理に決まってるわ!第一にこの崖よ!この崖!ホテルに着く前に転落死よ!」

 

 ビッチ先生の気がすることも判る。たが、俺の妄想じみた予想が現実になる可能性がある以上、危険がどうこう言ってられない。そう考えて俺は誰よりも先に崖を登る。

 数メートル進んだ所で振り向き、考え込んでる烏間先生と俺の後に続いて登って来たクラスメイトたちを見る。

 

「烏間先生。ご覧の通り、崖だけなら楽勝です。でも、俺たちは未知の敵との戦闘を想定した訓練はしてませんから、指揮を頼みます。きっと奪いに行くのが最善策です」

 

「圭一の言う通りです、烏間先生。2人だけを危ない目に遭わせるわけにはいかないし、こんな崖だけなら心配ないです。でも、未知の敵と戦う訓練はしてないから難しいけどしっかり指揮を頼みますよ」

 

「おお。こんなふざけたマネした奴らにキッチリ落とし前つけてやるぜ、なぁ!」

 

「「「おう!!」」」

 

 俺の言葉に磯貝、寺坂が続く。

 烏間先生もビッチ先生も呆気に取られる中、殺せんせーだけが不敵に笑った。

 

「見ての通り、彼らはただの学生ではない。あなたの元には15人……いえ、律さん含め16人の特殊部隊がいるんですよ、烏間先生。さて、どうします?時間はありませんよ?」

 

 殺せんせーの一言で烏間先生も覚悟を決めてくれたようだ。俺たちを静かに見据え、鋭く号令を掛けた。

 

「注目!!目標、山頂ホテル最上階!隠密潜入から奇襲への連続ミッションだ!ハンドサインや連携については訓練のものをそのまま使う!いつもと違うのは標的のみ!3分でマップを叩き込め!19時(ヒトキュー)50分(ゴーマル)作戦開始!!」

 

「「「おう!!」」」

 

 こうして俺たちの潜入作戦が始まった。

 俺たちはこの作戦で知ることになる。歪に歪んだ殺意の成れの果てを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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