皆様、応援ありがとうございます……!
先週は申し訳ありません。体調を崩しておりました……。
早速続きを投下しますのでお付き合いください……!
千葉と速水さんの背中を押して階段を上がり、やって来た伏真島殿上ホテル8F。ラスボスのいるフロアまであと2階。
常に敵がいないかを意識しながら進む。今のところ前方に敵影はなく、監視カメラを使って警戒してくれている律から何の知らせもないことから、後方にも敵は居ないと見ていいだろう。
けれど、油断は出来ない。その辺の壁に擬態していたり、天井に張り付いていたりする忍者ちっくな奴が居ないとも限らない。悲観的になる事なく、けれど常に最悪の状況を意識する。
「10階に着いたけど、実はエクストラステージで屋上が追加される的なギミックないよな……流石に」
「無い……とは言い切れん。我々の動きに気付いた黒幕が屋上に逃げる可能性を考慮すればな」
「ありがたく無いボーナスステージなこって」
ぼやきながらたどり着いたのはコンサートホール。
音を立てないように歩いているにも関わらず、微かな衣擦れの音すら反響するフロアを警戒を込めて出来るだけ無音で進む。
屋外プールにバーフロアにコンサートホール。本当になにから何まで揃っているな、このホテル。
図面を見た千葉曰く、テレビ局に似た構造で、テロリストに占拠されにくい構造になっているのだとか。
事実、ここまで凄く入り組んでいて、移動に時間が掛かってしまったが、逆に言えばこの構造は相手を追い詰めることができればその分だけ逃げ場がないってこと。それが黒幕の首を絞めてくれればいいが。
それこそ黒幕を屋上まで追い詰めることが出来ればパラシュートでもない限り、逃げられることはない筈だ。
あと少しで薬を奪取できる。それまで、この体調が保ってくれればいいのだが。
寒気と体の節々に走る痛みで震える脚を叩きながら、コンサートホールを進んでいると、何の前触れもなく、俺の胸ポケットに入れたスマホを律がバイブさせた。
その振動に俺は思わず潜入初期に彼女に依頼したことを思い出し、戦慄する。彼女がスマホを振るわせるのは敵が現れた時の合図だとあの時、俺が取り決めたのだから見過ごせる筈がない。
俺の足が止まり、近くを歩いていた千葉と速水さんが振り向く。それと同時に先頭の烏間先生も脚を止めたのだろう。みんなその場に立ち止まった。
何事かと顔を見合わせるみんなに向かって烏間先生が振り返り、手早くハンドサインで指示を出す。
『皆さん、敵です。数は1。正面から』
各自のスマホにリンクした律の言葉に皆の緊張が走る。が、瞬時に切り替え、各自椅子の裏に隠れるあたり、この4ヶ月の訓練が確実に実を結んでいるのが窺える。
皆と自分の成長を感じていると、正面から足音が聞こえて来た。カツン、カツン、と硬いヒールがステージを叩く音がこの静まり返ったホールに大きく響く。
無警戒に歩いていた足音がステージの真ん中に差し掛かった辺りで停止する。僅かな呼吸音と僅かな水音が鼓膜を叩く。
なにか、棒付きキャンディーでもしゃぶっているかのようなリップ音が不気味で、警戒を強めると、敵が声を出した。
「15……いや、16匹か?呼吸も若い。ほとんどが十代半ばってところか。驚いたな。動ける全員で乗り込んで来たのか」
……まじかよ。呼吸音だけで人数や年齢まで割り出せるのか。プロの殺し屋ってのはつくづく規格外だな。
ビッチ先生といい、ロヴロさんといい、ここまでに会った殺し屋といい。誰もが底知れない。
ますます警戒が高まり、ステージを見つめる視線が鋭くなるのを感じていると、そんな俺たちを威嚇するかのように、鈍い轟音とガラスの割れるような甲高い音がほぼ同時に響いた。
……割れたステージの照明、反響する音、目を凝らして見える微かな煙。確認するまでもなく、それが発砲音であることは明らかであった。
懸念したことが現実になってしまった。これから俺たちは本当の銃撃戦を行うことになるのだろう。
千葉と速水さんの背中を押しておいて情けないことに、少々ビビってしまった。
「言っとくが、このホールは完全防音でこの銃はホンモノだ。お前ら全員撃ち殺すまで誰も助けに来ねぇって事だ!お前ら人殺しの準備なんてしてねぇだろ!!大人しくボスに頭下げとけや!!」
指で銃を器用に回しながら降伏勧告してくる殺し屋。そんな彼の銃に狙い澄ました一射が放たれる。
バァァン!とこれまた鈍い音。しかし、発射タイミングがコンマ数秒早かった、あるいは遅かったのか、回っていた銃に撃ち放たれた弾丸が命中することはなかった。
……惜しい。やはり止まっている標的を狙うのと高速回転する獲物に当てるのではやはり難易度が違うか。
だが、狙いは外れていない。初めての実弾銃と撃ち慣れたエアガンの使い勝手の違いで外したと言っても過言ではない精度の射撃だったように思える。
今撃ったのは速水さんか。やはりスナイパーとして優秀だな、彼女は。今のを気に病んでいなければいいが。
しかし、この状況。前向きでいられないのも確かだ。こちらが銃で武装していることが向こうにバレたということでもあり、速水さんの位置が相手に捕捉された可能性も充分に考えられる。
「速水さん!顔を出すな、今ので捕捉された可能性がある。顔を出した瞬間、狙い撃たれるぞ!」
速水さんは割と近くにいるが、何処から声を出しているのか判断を撹乱させるためにわざと大声で注意を促す。
「はっ、頭の回る奴がいるじゃねぇか。その通りだぜ」
そんな声の後、再び轟いた発砲音。弾丸は速水さんが顔を出そうとしていた座席の間を通り抜け、壁にぶつかり、弾けた。顔を出した瞬間に殺す。そんな無言の脅し。
恐らく、不用意に顔を出したらその瞬間にゲームオーバーだろう。下手に動けない。今まで感じたことのない明確な命の危機に萎縮しそうになる。
「にしても、暗殺の訓練を受けた中学生、か。いーね。意外と美味ぇ仕事じゃねぇか!」
興が乗ったと言わんばかりになんの前触れもなく、ステージの全ての照明を点ける殺し屋。薄暗かったコンサートホールを急激に照らす過剰な光量に目が眩む。
やばい。俺たちの位置からは完全に逆光だ。ステージの様子が見辛い上に、もう一つ俺たちに不利な点が出来る。
俺は地面から伸びる影を見る。椅子の影に隠れてはいるが、これを少しでもはみ出たらその瞬間、影でバレる。
不意を突こうにも向こうは完全にもう一丁の銃を警戒して俺たちを見ているため、それは難しいだろう。
「今日も元気だ、銃が美味え!」
再びの銃声。飛来する弾丸は俺の顔の一個隣を飛び、壁にぶち当たった。
「さっきの声の坊主はそこだな?」
確認するような、それでいて確信に満ちた声。
コイツ、俺の位置まで把握してやがる。声を出したのは少々迂闊がすぎたかも知れない。
「一度気配を見せた敵の位置は忘れねぇ。もうお前らはそこから一歩も動かさねぇぜ」
声と向けられた殺気でわかる。いま、間違いなく銃口はこちらを向いている。顔を出したが最後、殺される確信がある。
確信がある……のだが、何故だろう。言い表せないのだが、この殺し屋からなんだか違和感を感じる。
「下で見張っていた2人は暗殺専門の殺し屋だが、俺は違う。軍人上がりだ。この程度の1対多数の戦いは何度もやっている。幾多の経験の中で俺は敵の位置を把握する術や銃の調子を味で確認する感覚を身につけた。中坊ごときに遅れをとるかよ」
元軍人。そのワードが俺の中の違和感を刺激する。
妙だ。戦争やら抗争やらがテーマの映画で拳銃の弾丸は玄関扉やソファー、車の扉程度なら貫通すると聞いたことがある。別にミリタリーオタクというわけでもないので詳しい訳でも専門知識がある訳でもないので確信はもてないが……。
何故、奴は撃ってこない?アレが本物の銃ならば、この座席ごと攻撃してくることも可能な筈だ。
何故、それをしてこない?貫通した弾丸では大したダメージにはならないとか?元軍人だから銃の威力を把握している。だからこそ、そういう無駄弾になることはしないとも考えられるが。
しかし、軍人。それも1対多数を何度もこなして生き残れるって奴ならばその最低限の威力で俺たちを殺す術を持っていても不思議ではない。むしろ自然だ。
奴に対する情報があまりにも少なすぎる。情報を得ようにもこうも警戒されていてはそれも難しい。
「……さぁて、その銃を俺の部下から奪ったってんなら、お前らはあともう一丁持っている筈だが」
チュパチュパと銃の感覚を味で確認しているのであろう音が聞こえる。この薄暗いコンサートホールで聞こえるリップ音は奴の放つ独特な雰囲気も相まって不気味でならなかった。
動こうにも動けない。そんな手詰まり感を覚えたその時、殺せんせーの声がリップ音しか聞こえないホールに響く。
「速水さん、乃咲くんはその場で待機!今撃たなかったのは賢明です、千葉くん!キミはまだ敵に位置を知られてはいない。先生が敵を見ながら指揮をするのでここぞと言う時まで待つのです!みんなで勝って、笑顔でここを抜けましょう」
「な、なにぃ……。何処から見て……」
敵の言葉が止まる。その後、気まずそうな沈黙が数秒流れた後、けたたましく銃声が響いた。
「テメー!何かぶりつきでみてやがんだ!!」
「ヌルフフフ、無駄ですねぇ。これぞ無敵形態の本領発揮。熟練の銃手に中学生が挑むんです。これくらいの視覚ハンデは良いでしょう」
発砲音の数だけ、弾が殺せんせーのエネルギー結晶に弾かれる音が響く。スマホのカメラを座席の間から出し、様子を撮影してみると、何やら殺し屋が凄まじい形相で最前列のシートに向かって乱射していた。
なるほど。殺せんせーと烏間先生はあそこか。
それから少し間を置き、とうとう弾が切れたのか、憎々しげな舌打ちとリロードに入ったのだろう。6つほど空の薬莢が床に叩きつけられる甲高い音が響く。
発砲直後に薬莢が床に落ちる音がしなかったこと、そしてこのタイミングでその音が聞こえたこと、更に発砲音から割り出せる装填数から察するに敵の武器もリボルバータイプだな。
なんて考察してるうちに敵がリロードに移る。そして、そんな隙を見逃すほどうちの担任は甘くなかった。
「では木村くん、5列左へダッシュ!」
すかさず指示が飛ぶ。指示通り、木村が走る。
リロード中とは言え、本物の銃を持ってる殺し屋の前に躊躇いなく身を晒せる木村、凄い度胸だ。
「吉田くんと寺坂くんはそれぞれ左右に3列!」
「なっ……!」
「死角が出来た!この先に茅野さんは2列前進!」
殺し屋が殺せんせーの戦術に驚き、キョトンとした顔でシャッフルされる俺たちをまだ追っている。
殺せんせーの狙いは俺たちの位置を入れ替えつつ、ちょくちょく前進させることで命中率を上げると言ったところか。
的確に殺し屋の視線を追い、死角を指示するその手腕には驚かされる。流石に毎日俺たちに狙われているだけある。普段、おっちょこちょいでエロくて、バカっぽい所があるが、こう言う時の殺せんせーは誰より頼もしい。
「カルマくんと不破さんは同時に右へ8!磯貝くんは左に5!また死角が出来ました!乃咲くんは前へ6!」
指示通りに動く。殺し屋は目と鼻の先。最前列まで3。隙を見つけてさっさと距離を詰めたくなるのをぐっと抑える。
まだだ。殺せんせーなら最高のタイミングで指示をくれる筈だ。それを信じて今は身を潜めろ、乃咲圭一。
いまの僅かな距離の移動でも息が上がり、寒気で震える体ごと自分を叱り付けるように自分自身に声を掛ける。
まずい。そろそろ体が動かなくなるのも時間の問題になって来た。やはり体力を温存しておいて正解だったようだな。バーフロアで本格的な戦闘を行っていたのなら今のダッシュでダウンしていた可能性が大いにある。
上がる呼吸を整えて、深呼吸して古い空気を肺から抜く。息を吸って、吐いて、体の中の空気を入れ替える。
まだ倒れるわけにはいかない。気合いを入れ直し、殺せんせーの指示を待ちながらいつでも動けるように体を浮かす。
「出席番号12番は左に1で準備しつつそのまま待機!」
「へ?」
殺せんせーの指示が名前から出席番号に変わった。多分、そろそろ俺たちの名前を覚えられる頃合いだと踏んだのだろう。
「4番と6番は椅子の間からターゲットを撮影!律さんを通して舞台上の様子を千葉くんへ伝達!!」
出席番号から身体的特徴、最近の趣味趣向など指示を出された本人くらいしか知らない筈の情報で出される指示。
「ポニーテールは左前列へ全身!バイク好きも左前へ2列進めます。オールバックの人は右へ3!続けて最近竹林くんイチオシのメイド喫茶に興味本位で行ったらハマりそうでちょっと怖かった2人!撹乱のため大きな音を立てる!」
「うるせー!なんで行ったの知ってんだテメー!!」
「あぁ……。頭痛いからあんまり大きな音聞きたくないのにぃ……。つか、楽しかったけどハマりそうにはなっとらんし」
割と近くにいた茅野が『乃咲にそんな趣味あったんだ?』と言いた気な顔でこっちを見ている。
別にハマりそうにはなってないからな、と否定したかったが、そんな体力もないので開き直って音を立て続ける。
その後もシャッフルは幾度と繰り返され、死角を縫っては殺し屋へと徐々に距離を詰めて行く。
殺し屋はもう、目の前にいる。座席一枚挟んだ向こう側に本物の銃で武装した凄腕の殺し屋がいる。
……いるのだが、奴はこの距離でもシートごと俺たちを撃ち抜こうとはしなかった。
さっき撃たなかったのは射程の問題もあるのかと思ったが、流石にこの距離なら銃弾の威力の距離減衰なんて気にする必要もないし、シートを貫通した弾丸で俺たちを殺すことは可能なんじゃないのか?
奴が持っているのはそれなりに口径の大きいリボルバーだ。ゲームなんかだと口径が大きいとそれだけ威力が高く、また、リボルバーという武器種自体の攻撃力が高いイメージがある。
だったら何故、撃ってこない……?これだけ距離を詰められて、下手したら奇襲される可能性すらあるのに、なぜ、いまだに俺たちの1人も撃とうとしない?
シャッフルはあくまで射手の位置を入れ替える為の行為。敵が俺たちを見失うことを狙った策ではない。つまり、相手に俺たちの位置自体は捕捉されているのだ。
シートごと撃ち抜くことは難しくない筈だ。むしろ、ここらで俺らの1人でも殺せば空気は一気に変わる。仲間を殺された戦慄によって怯んだ隙に俺たち全員を殺すことだって出来るんじゃないのか?それをしようとしないのは何故……?
「夏休みの初めに倉橋さんと遊ぶか杉野くんと虫取りに行くか悩んだ結果、自分とスマホのトーク画面に言い訳しながら結局倉橋さんとのデートを選んだ人!左へ3!」
これ俺だよな、俺のことだよな。なんでそんなことまで知ってるんだ、あのタコ……!
聞こえて来た指示に考察を打ち切り、腰を持ち上げ、駆け出そうと踏み出した右足に力を入れる。
あとでさっき以上の辱めを受けさせてやる。殺せんせーに対して殺意を抱きながら立ち上がったその時。
……踏み込んだ床がぐにゃりと歪んだ様な錯覚に陥る感覚が右足から伝わってくる。
「な、に……!?」
無論、地面が歪むなんてこと、こんな建物の中で起こりえる筈がない。いつも通り地面は平たく、踏み締めた足におかしなところなんてなく、しっかりと床を捉えている。
では、何故、俺は今、体勢を崩しているのだろう?
派手にすっ転ぶ寸前、ゾーンに入り、頭が冷静な思考を回し始める。そして、原因はすぐに分かった。
俺は走り出そうと腰を持ち上げ、床を踏み締めた拍子にどうやら膝から崩れ落ちてしまったようだ。
バランスを崩し、思わず身を強張らせる。どうやら体はもう限界を迎えてしまったらしい。
プロの殺し屋の前で体勢を崩し、体を強張らせるというとんでもないスキを晒してしまった。
そして、俺たちが相手取っていた殺し屋はそんなスキをみすみす見逃してくれるほど生優しい相手でもなくて。
「へっ……、間抜けが……!」
崩れ落ちる身体、座席から露出してしまっている体。殺し屋の向ける冷たい銃口がジャキッと音を立ててこちらを捉える。
「乃咲ぃぃぃぃ!!」
千葉を始めとした皆の悲鳴混じりの叫び声が聞こえる。
死ぬかもしれない。そんな予感をすっ飛ばして俺は確信した。
————死ぬ。
直後、ホール内に響き渡る、鼓膜を激しく叩き付ける痛烈な発砲音。放たれる弾丸、登る微かな白煙。
この眉間を撃ち抜かんとする凶弾が俺を捉えた。
あとがき
はい、あとがきです。
ちょっとしたお知らせと言うか、ご報告を。
出来るだけ毎週金曜日の11〜14時くらいに投稿しようとしている当作品ですが、先週の様に体調を崩したりで投稿できない日なんかが出て来る可能性が浮上しましたので、金曜日の14時を過ぎて投稿がない場合はその週は休刊と言うことにさせて頂きます……。
活動報告に書こうかと思ったのですが、わざわざそんなところを見る人はそんなに居ないと思うので(泣)この場をお借りしてお話しさせて頂きました。
今後とも当作品をよろしくお願い致します……!